ようこそバカ派手モテ至上主義の教室へ   作:綾(あや)

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なんかもう全然本編入ってないけどいいや


君しかいない

 

 

軽井沢恵との和解から数日が経過した。

 

季節は完全に冬の底へと沈み込み、間近に迫る冬休みを前に、学内はどこか浮き足立った空気に包まれている。

 

神楽は首元に巻いた暖かなマフラーに顎を埋めながら、ケヤキモールの裏手にある、普段は人通りの少ない並木道を歩いていた。

 

神楽の端正な顔立ちに残っていた綾小路との死闘の傷跡は、その驚異的な回復力によって今では完治している。鏡を見るたびにせっかくのイケメン台無しじゃん、とボヤいていた彼だったが、今ではいつもの端正な横顔を取り戻している。

 

「…それにしても、帆波ちゃんから呼び出されるなんてね」

 

神楽は約束の場所である店に目を向けた。そこには、冬の寒さに身を縮めながらも、美しい少女が立っていた。一之瀬帆波。Bクラスを率いるリーダーであり、圧倒的なカリスマとその極端なまでの善意で、学年を問わず多くの生徒から慕われている少女だ。

 

彼女のストロベリーブロンドの髪が、寒風に吹かれてふわりと舞う。神楽の足音に気づくと、ハッとしたように顔を上げ、すぐにいつもの太陽のような笑顔を浮かべた。しかし、その笑顔の裏には、どこか無理をして張り詰めた緊張感が隠されているのを神楽は見逃さなかった。

 

「あ、神楽くん!寒い中急に呼び出しちゃってごめんね」

 

「ううん、全然。可愛い帆波ちゃんからの呼び出しなら、たとえ北極だろうと裸足で駆けつけるよ。それで、どうしたの? こんな寂しい場所に俺を呼ぶなんてさ。もしかして告白?」

 

神楽はいつものように軽口を叩いた。普段なら苦笑交じりに受け流すはずの一之瀬だったが、彼女は視線を泳がせ、自身のコートの裾をきゅっと握りしめた。

 

「あのね、神楽くん。今日は本当に、すごく身勝手で迷惑をかけちゃうかもしれないお願いがあって…」

 

その声は小さく、今にも風にかき消されてしまいそうだった。神楽はふっとおちゃらけた態度を引っ込め、その切れ長の瞳を真剣なものへと変化させた。彼は一之瀬に歩み寄り、彼女の顔を覗き込む。

 

「帆波ちゃん。何があったの?」

 

神楽の真っ直ぐな言葉に、一之瀬は一瞬だけ救われたような表情を見せた。しかし、すぐにまた躊躇うように視線を落とす。彼女の生真面目な性格が、他人に頼ることを悪だと責め立てているのだろう。

 

「実はね……他クラスの男の子から、告白をされたの」

 

「へえ、告白」

 

神楽はさほど驚かなかった。一之瀬の美貌と人望を考えれば、告白されることなど日常茶飯事だろう。むしろ今まで大きな問題になっていなかったことの方が不思議なくらいだ。

 

「うん。でもただの告白じゃなくて。断っても何度も何度も、すごく熱心にアプローチされていて。私のクラスの状況とか、そういうことも絡めて話をしてくるの。今Bクラスはすごく不安定な時期だから、私が個人的な問題で他クラスと波風を立てたくないっていうのもあって…」

 

一之瀬の言葉に、神楽は状況を即座に察した。

 

純粋な恋愛感情だけでなく、Bクラスのリーダーである一之瀬の立場や弱み、あるいはクラス間の力関係を背景に、断りにくい状況を作って外堀を埋めようとしている存在。相手を傷つけることを極端に恐れる一之瀬の優しさを人質に取り、心理的に追い詰めているのだ。

 

「それで、その男はなんて?」

 

「『本当に好きな人がいるなら諦める。でも、誰もいないなら俺と付き合ってクラスのために協力し合うべきだ』って。交渉みたいな形で迫られていて。強く突き放すこともできてないんだ…」

 

一之瀬は優しすぎる。それが彼女の最大の魅力であり、同時にこの学校においては致命的な弱点でもあった。悪意や打算を含んだ好意に対して、彼女は耐性を持たない。自分の身を削ってでもクラスの平和を守ろうとする。

 

「なるほどね。要するに、諦めてもらうための決定的な理由が必要ってわけだ」

 

神楽は腕を組み、納得したように頷いた。

 

「うん…だから、その…本当に、本当に恥ずかしいし、神楽くんにとっては何のメリットもないのは分かっているんだけど…」

 

一之瀬は顔を耳の裏まで真っ赤に染め上げ、消え入るような声で口にした。

 

「私の偽の彼氏になってもらえないかな…?」

 

沈黙が二人の間に流れた。

 

一之瀬は神楽がどんな反応を示すか怖くて、彼の顔を見上げることができなかった。いくら軽薄な態度を取ることがあるとはいえ、神楽はCクラスのジョーカーだ。龍園との関わりや、クラス内の特異な立ち位置を考えれば、こんな面倒な役割を引き受けるメリットなど皆無に等しい。嫌がられて、断られて当然の願い。

 

だが、神楽の口から漏れたのは、呆れたようなため息でも拒絶の言葉でもなかった。

 

「あはははは!」

 

神楽は突然腹を抱えて笑い出した。

 

「え、えっ!?神楽くん!?」

 

「あはは、ごめんごめん! いや、だってさ、帆波ちゃんがそんなに深刻な顔をしてるから、どんな重大な危機かと思ったら。そんな可愛いお願いだったなんてさ」

 

神楽は笑い涙を指先で拭うと、一之瀬の目の前に一歩踏み込んだ。二人の距離がぐっと縮まる。

 

「いいよ。喜んで引き受ける」

 

「え…本当に? でも面倒なことに巻き込まれるかもしれないし、神楽くんの評判だって…」

 

「評判?そんなの俺がいつ気にしたことある?」

 

神楽はニカッと、悪戯っぽく笑った。

 

「俺の評判なんて、もともとバカとか女好きとかそんなのばかりだよ。そこに帆波ちゃんの彼氏なんて最高に格好良くて羨ましがられる肩書きが加わるなら、むしろ大歓迎さ」

 

「神楽くん…!」

 

一之瀬の瞳にじわりと涙が浮かぶ。

 

「それにさ」

 

神楽は一之瀬の目を真っ直ぐに見つめた。

 

「帆波ちゃんみたいな可愛い子が、男の身勝手な都合で困り果てて、泣きそうな顔をしてるなんて、絶対に許せない。それが誰だか知らないけど、二度と帆波ちゃんに近づけないようにしてあげるよ」

 

「ありがとう…本当にありがとう神楽くん」

 

「礼には及ばないよ。さあ、そうと決まれば、まずは作戦会議だね」

 

神楽がひらひらと、大きな右手を差し出す。

 

一之瀬は一瞬戸惑い、それから顔を真っ赤にしながらも、おずおずとその手を伸ばした。

 

冷たい風が吹く並木道で、二人の手が重なる。神楽の手は驚くほど大きくて、そして一之瀬の冷え切った指先を包み込むように握る。

 

 

 

 

 

 

――神楽くんと話すと、どうしてこんなに心臓がうるさいんだろう――

 

自分の手が彼の大きくて逞しい手のひらにすっぽりと包み込まれた瞬間、私の心臓は大きな音を立てて跳ねた。

 

「帆波ちゃん? 顔真っ赤だよ? 風邪ひいちゃった?」

 

 神楽くんが、少し心配そうに私の顔を覗き込んできた。彼の綺麗な顔がすぐ近くにあって私は慌てて視線を逸らし、繋いだ手をさらにぎゅっと握りしめてしまった。

 

「大丈夫、大丈夫だよ! ちょっとその…緊張しちゃって」

 

「あはは、可愛い。そんなに緊張しなくても平気だよ」

 

いつものように軽口を叩いて、神楽くんは私を安心させるように優しく笑う。でも、その笑顔を見るたびに、私の胸の奥はきゅっと締め付けられるような、切ない痛みに襲われるのだ。

 

 

――神楽移くん。

 

彼は、学内では少し特異な目で見られている。

 

Cクラスの龍園くんの近くにいて、誰よりも馴れ馴れしくしているはずなのに、独裁体制の外にいる。その運動神経と才能から影の切り札なんて噂されることもある。最近では屋上で何か大きな衝突があったらしいという噂も流れていて、彼の顔にも少し前まで痛々しい怪我の跡があった。

 

周囲の多くの生徒は、彼のことを油断できない危険な男の子だと思っているかもしれない。

でも、私にとっては全く違う。

 

本当は、分かっている。Bクラスのリーダーとして、こんな私的な問題は自分一人で解決すべきだ。男子生徒からのアプローチを偽の恋人という嘘で誤魔化すなんて、一歩間違えれば、クラス間の大きな抗争やトラブルに発展しかねない。Bクラスの信頼を失墜させるかもしれない。

 

それでも…私は、神楽くんを頼ってしまった。

 

偽の彼氏になってほしい、なんて、女の子として最低でずるいお願いだ。

 

神楽くんの優しさに甘えて、彼を巻き込んで、私の都合の良い隠れ蓑にしようとしている。でも、私の心の中には、もう一つの、誰にも言えない自分自身でも認めるのが恐しいほどの小さな本音があった。

 

嘘でもいいから

 

ほんの一時だけでもいいから

 

神楽くんの特別な存在になりたかった。彼が軽井沢さんのために怒り、彼女を守るために傷つき、そして彼女のために頭を下げたという話を、風の噂で聞いたとき。私の胸の奥に芽生えた、黒くて熱いドロドロとした感情。

 

それは私自身が最も嫌悪するはずの嫉妬という醜い感情だった。

 

私も神楽くんに守られたい。

 

彼のその大きな腕の中で、自分だけの特別な温もりを感じたい。

そんな身勝手な欲望が、私に偽の彼氏という卑怯な口実を選ばせてしまったのだ。

 

「帆波ちゃーん?やっぱりどっか体調悪い?」

 

神楽くんが心配そうに私の顔を覗き込む。私の心臓がまた激しく脈打つ。

 

「えっ? あ、ううん!なんでもないよ! ただちょっと考え事をしちゃって…」

 

「そっか。さっきの話だけど、その告白してきた男ってAクラスの和田だろ?」

 

神楽くんの口から出た名前に私は目を見開いた。

 

「どうして、分かったの…?」

 

「俺、これでも耳は良い方だし、最近よく帆波ちゃんの周りをうろついてたって聞いた。Bクラスの状況をダシにして交渉を持ちかけてるって聞いて、あいつくらいしか思い浮かばなかった」

 

神楽くんの目は、冷徹な光を帯びていた。普段の彼からは想像もつかないような、王者のような圧倒的な威圧感。

 

和田くん。Aクラスの一人で、成績優秀。彼が私にアプローチしてきたのは、単なる好意だけでなく、BクラスをAクラスの傘下に収めるために利用するという側面が強かった。

 

「和田くんは、悪い人じゃないと思うの。ただ、すごく合理的で、私が断りにくい状況を作るのが上手で…」

 

「合理的、ねえ」

 

神楽くんは鼻で笑った。

 

「恋愛を交渉事にするような男は、男として最低だ。女の子の気持ちを無視して、自分の都合の良い取引を持ちかけるなんて万死に値する」

 

その言葉には、私を傷つけようとする存在に対する容赦のない怒りが込められていた。

 

私のために、神楽くんが怒ってくれている。

 

それだけで、胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、泣きそうになってしまう。

 

「和田くんとは今日の夕方、ケヤキモールのカフェで会う約束になっているの。返事を聞かせてほしいって言われて…」

 

「よし、じゃあそこに俺が殴り込もう。熱烈な彼氏としてね」

 

神楽くんは力強く頷き、私の手を引いて歩き出した。その手の温もりが、私の不安をすべて消し去ってくれるようだった。

 

そして時間はあっという間に過ぎ、ケヤキモールの二階にある少し落ち着いた雰囲気のカフェ。

 

夕方の店内は、部活帰りの生徒や、買い物途中の生徒たちで程よく賑わっていた。奥のテーブル席に、和田くんは座っている。

 

彼は私たちが近づいてくるのに気づくと、いつものように整った笑みを浮かめて立ち上がった。

 

「やあ、一之瀬さん、時間通りだね…っと、そちらの彼は?」

 

和田くんの視線が、私の隣に立つ神楽くんに向いた。彼の目に、微かな警戒とそれから侮蔑のような色が混ざる。神楽くんの噂や、その粗暴なイメージは、Aクラスの和田くんにとっても好ましいものではないのだろう。

私は緊張で喉がカラカラに乾いていた。

 

でも、神楽くんが私の手をしっかりと握り直してくれた。その手の熱が、私に勇気をくれる。

 

「こんにちは。急に彼を連れてきちゃってごめん」

 

私は一呼吸置き、神楽くんの顔を見上げた。彼は私を安心させるように優しく微笑み、それから和田くんに向かって堂々とした態度で言い放った。

 

「初めまして、俺はCクラスの神楽移。帆波ちゃんの彼氏だよ」

 

店内の喧騒が、一瞬だけ遠ざかったように感じられた。和田くんは信じられないものを見るかのように目を見開きそれからすぐに、張り付いたような笑顔に戻った。

 

「…これはどういう冗談かな?君が神楽くんと付き合っているなんて聞いたことがない」

 

「俺たちは周りに余計な心配をかけたくなかったから、付き合っていることを秘密にしてたんだよ」

 

神楽くんは私の肩をその大きな腕で抱き寄せた。

 

私の身体が、神楽くんの逞しい胸板にぴったりと押し付けられる。彼の体温と男らしい香りが鼻腔をくすぐり、頭がどうにかなってしまいそうだった。

 

なんとか私は必死に自分を保ち、和田くんの目を真っ直ぐに見つめた。

 

「ごめんなさい。私、神楽くんのことが大好きなの。だから、和田くんの気持ちには応えられない」

 

私の口から出た言葉。それは納得させるためのセリフのはずだった。

 

でも、私の心はその言葉を口にした瞬間、まるで真実を叫んだかのように激しく震えていた。これは嘘じゃない。私の本当の、心の底からの叫びだ。

 

和田くんは私の表情の中に嘘を見つけようとするかのように、じっと私の目を見つめた。

 

しかし、私の目には神楽くんへの本物の恋心が溢れてしまっていたのだろう。わずかに眉をひそめた。

 

「一之瀬さん。君はBクラスのリーダーだ。クラスの存続や、今後の特別試験での協力を考えれば、僕と手を組む方が遥かに合理的だ。Cクラスの、それも龍園と関わりのある彼と付き合うことに、どんなメリットがあるというんだい?」

 

和田くんの言葉は現実的だった。Bクラスの他の生徒たちがこのことを知れば、少なからず混乱が生じるだろう。和田くんはそこを突いてきているのだ。

 

私が言い返そうとした瞬間、私の肩を抱く神楽くんの手に力がこもった。彼は一歩前に出て、和田くんを見下ろすように冷たい視線を向けた。

 

「メリット、ねえ。君は本当に頭が良いだけで女の子の気持ちが何も分からないバカなんだね」

 

「何だと?」

 

「帆波ちゃんはBクラスのリーダーである前に、一人の女の子だ。その子が誰を好きになり、誰と付き合うかはクラスの利益だの合理的だの、そんなくだらない理由で決められるものじゃない。君が一之瀬帆波という女の子を、単なるクラス交渉の道具としてしか見ていない証拠だよ」

 

神楽くんの声は、静かだったが、計り知れない怒りと絶対的な威厳に満ちていた。周囲のテーブルに座っていた他の生徒たちも、そのただならぬ雰囲気に気づき、静かにこちらの様子を窺い始めている。

 

「俺は、帆波ちゃんの全部を知ってる。例えこれから何が起ころうとも、俺がそのすべてを叩き潰して、帆波ちゃんの笑顔を守り抜く。君にそれだけの覚悟があるのか?」

 

和田くんはその凄まじい威圧感に思わず一歩、後ろに退いた。額から冷たい汗が流れるのが見える。

 

「僕は合理的で、互いに利益のある関係を提案しただけだ。君のような暴力的な男に、一之瀬さんがふさわしいとは思えない」

 

和田くんは震える声を必死に抑えながら、それだけを言い捨てて、カバンを掴むと、逃げるようにカフェを立ち去っていった。

 

「…ふぅ。ちょっと怒らせちゃったか」

 

神楽くんは和田くんが去ったのを確認すると、それまでの恐ろしい雰囲気を一瞬で消し去り、いつもの照れくさそうな子供のような笑顔に戻った。

 

そして私の肩からゆっくりと手を離した。その温もりが離れていくのがどうしようもなく寂しくて、私は思わず、彼のコートの袖をきゅっと掴んでしまった。

 

「…神楽くん」

 

「ん?もしかしてまだ怖かった?」

 

神楽くんは、私の顔を覗き込む。私の瞳からは、いつの間にか大粒の涙がポロポロと溢れ落ちていた。

 

「え、えっ!?帆波ちゃん!?どうしたの!?俺何か変なこと言っちゃった!?それともさっきのヤツに何かされた!?」

 

神楽くんが見たこともないくらい慌てて、私の両肩を掴んで揺さぶる。その不器用な優しさがどうしようもなく愛おしくて、私は涙を流しながらも、クスッと笑ってしまった。

 

「ううん、違うの…違うの、神楽くん」

 

私は自分の頬を伝う涙を、神楽くんがポケットから取り出してくれたハンカチで拭いながら小さく首を振った。

 

「嬉しかったの。神楽くんが、私のために、あんなに怒ってくれて…私を一人の女の子として、守るって言ってくれたのが…本当に、本当に嬉しくて…」

 

「当たり前だよ。帆波ちゃんは世界で一番優しくて、可愛い女の子なんだから。誰が何と言おうと、俺が帆波ちゃんを守るよ…たとえこれが偽の彼氏としての約束だとしてもね」

 

嘘の彼氏として

 

その言葉が、私の胸にチクリと刺さる。やっぱり神楽くんにとって、これは私を助けるための演技であるのだ。

 

彼の心の中には、軽井沢さんや椎名さんの存在があるのかもしれない。あるいは、もっと別の誰かが。

 

私は、彼のその優しさに甘えているだけの、ずるい女の子だ。

 

でも……それでもいい

 

今の私には、この嘘が必要だった。この嘘がある限り、私は神楽くんの隣にいることができる。

 

彼の温もりを感じ、彼に守られ、彼の特別な存在として振る舞うことができる。

 

「神楽くん」

 

「何?」

 

私は、神楽くんの目を真っ直ぐに見つめた。涙で少し潤んだ視界の中で、神楽くんの顔が、これまでに出会った誰よりも眩しく、そして愛おしく輝いている。

 

「この嘘…もう少しだけ、続けてもいいかな?」

 

「え?」

 

「和田くんだけじゃなくて、他の人たちにも…私には神楽くんっていう、大切な人がいるって、ちゃんと示したいの。だから冬休みが終わるまで、私だけの彼氏でいてほしいな」

 

私の一生に一度の精一杯のわがまま。

 

神楽くんは私の言葉を聞いて、少しだけ驚いたように目を見開いた。

そしてすぐにいたずらっぽく、この上なく優しい笑顔を浮かべた。

 

「いいよ。帆波ちゃんが望むなら、冬休みが終わるまででも、それから卒業するまででも、一生でも、俺は帆波ちゃんの彼氏でいるよ」

 

それが彼のいつもの冗談なのか、それとも私の心を見透かした上での言葉なのか、私には分からなかった。でも、私の繋いだ手の中に残る彼の圧倒的な温もりは、本物だった。

 

「……ありがとう、神楽くん」

 

私は彼の胸にそっと頭を預けた。トクン、トクンと、彼の力強い心臓の鼓動が私の耳に直接伝わってくる。

 

その音を聞きながら、私はこの温もりを絶対に離さないと、心の中で静かに誓うのだった。

 

例えこれが、偽りの関係だとしても。

 

私のこの心は、もう、どうしようもないくらいに神楽くんで満たされているのだから。

 

私は今日、生まれて初めての本当の恋を知った。普段仲良くしている椎名さんは勿論、軽井沢さんも彼のことを好いているに決まってる。

 

でも、絶対に渡さない。神楽くんは私の物なのだから





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