ようこそバカ派手モテ至上主義の教室へ   作:綾(あや)

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先に謝っておきます。ごめんなさい!!

ほんとに二年生編が楽しみすぎて色々すっ飛ばしました!!


首輪

 

 

そして休む暇もなく1年生後半の特別試験の波が押し寄せてきた。まずは年明け早々に行われた試験、混合合宿。

 

男女別に、複数学年が混ざり合ってグループを形成し協調性を試される試験。神楽は女子と関わりがなくなることにより気分はドン底に落ち込み、これ以上ないほどにやる気がなくなっていた。その姿を見た同じ班だった綾小路や石崎は「まるでセミの抜け殻のようだった」と言っていた。

 

次にクラスの存続を揺るがした異例の試験。この学校の理事長でありAクラスのリーダー、坂柳の父に代わり月城が出したものであるクラス内投票。

 

クラス内で賞賛票と批判票を投じ合い、各クラスから強制的に1人の退学者を出すという、学校側の悪意が極まった特別試験。

 

神楽が所属する龍園クラスでも、支配者である龍園を退学に追い込もうとする陰謀が渦巻いていた。クラスメイトの石崎たちがパニックに陥る中、神楽は一人、退屈そうにあくびを噛み殺していた。

 

「かけるんくんが退学に?ないない絶対ない。アイツは何できずに死ぬタマじゃない」

 

最終的に龍園の退学の危機は窮地を脱し、1年生最後の決戦、選抜種目対決が始まった。

 

クラスが指定した種目で他クラスと競い合う団体戦は、Bクラスと激突した。

 

神楽は龍園の指示により純粋なフィジカルが要求されるスポーツ種目に選抜された。

 

「テメェは適当に力を見せつけて、Bクラスの雑魚どもの心をへし折ってこい」

 

「了解了解。心臓を捧げるわドラゴン屋」

 

「神楽さん!海賊と兵長が混ざってますよ!?」

 

その言葉通り、対戦相手となったBクラスの男子生徒を神楽は文字通り子供扱いして圧倒的な大差で勝利を収めた。その野生動物をも凌駕する超人的な身体能力に、観客席からは更にどよめきが上がったが

本人は「あー疲れた。ひよりちゃんは俺の勇姿見ててくれた?」と、すぐにいつも態度に戻って周囲を脱力させたのだった。

 

こうして、激動の1年生は幕を閉じ、学校は短い春休みを経て新たな出会いと闘争の舞台である2年生へと進級することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

4月。

 

桜の花びらが舞い散る中、2年生へと進級した神楽は相変わらず学内でも一際目立つポジションにいた。

 

体育祭での超次元的な大活躍により、学年最優秀賞を獲得した運動の絶対的王者。しかし、普段の小テストでは赤点ギリギリを這いずり回る救いようのないバカ。

 

指先一つで物理法則を置き去りにする男が、英単語のスペル一つに頭を抱える姿はある種の愛嬌として女子たちの母性本能をこれでもかと刺激していた。

 

加えて、その端正な顔立ちと軽薄なトークで後輩の女子生徒に片っ端から声をかけて連絡先を交換しまくる稀代の女好き。

 

この極端すぎるギャップが後輩の女子たちにはたまらない魅力として映るらしく、彼の周囲にはいつも華やかな空気が漂っていた。

 

昼休みの2年生校舎の廊下。いつものように数人の女子生徒に囲まれてだらしない笑みを浮かべていた神楽だったが、ふと廊下の向こうから歩いてくる穏やかな人影を見つけた瞬間、その切れ長の瞳が引き攣った。

 

椎名ひより。

 

胸元に愛読書を大切そうに抱え、静かに歩いてくる。2年生になり、そのおしとやかな美しさはますます磨きがかかっていた。

 

「あ、ひよりちゃん」

 

神楽は囲んでいた女子生徒たちに「ごめん、またね!」と手を振りひよりの元へ向かった。

 

それを見た女子生徒たちは苦笑いしながら散っていく。それもそのはず、ひよりは自分の前で他の女性といちゃつこうものなら、龍園やアルベルトでさえ屈服させる程の覇気を出し鬼の形相になるのだから、無理もない。

 

「あ、移くん。お疲れ様です」

 

神楽はひよりの隣に並び、甘えるように彼女の顔を覗き込んだ。

 

「そういえばあんまり今日話してなかったからね、俺ひよりちゃんと話さないと爆発するから」

 

「そんな都合の良い症状はありません…でも、確かに最近移くんは本を読む量が減っていますね。図書室にもあまり来てくれませんし」

 

「えっ、もしかして〜ひよりちゃん、俺がいなくて寂しかった?」

 

「…そ…それは…はい…」

 

ひよりはほんのりと白い頬を朱に染め、視線を泳がせた。

 

「可愛すぎる」

 

「えっ、ちょっと、移く」

 

ひよりが制止の声を上げる暇などなかった。

 

神楽はひよりの細い腰に迷いなく両手を回すと、羽毛のように軽い彼女の身体をひょいと持ち上げ、そのままお姫様抱っこの形にした。

 

「ひゃっ!?移くん!?何を…!」

 

「さらにさらに〜高い高い〜!」

 

神楽は廊下の中心でひよりの体を両手で高く天井近くまで持ち上げた。

 

「わ、わわわわっ!高いです!移くん、高いですっ!おろしてくださいぃ…!」

 

ひよりは顔を真っ赤に染め上げ、スカートの裾がめくれないように必死に手で押さえながら神楽の肩を小さな拳でぽかぽかと叩く。

 

普段は冷静沈着で知的な彼女が、周囲の生徒たちの注目を浴びて、パニックになりながら神楽の頭にしがみついている。その恥ずかしがりながらも嬉しそうな表情が、神楽にとっては至高だった。

 

「あはは!ひよりちゃん本当に軽いなぁ。このまま廊下をダッシュしちゃおうかな?」

 

「ダメです!絶対にダメです!下ろしてくれないと、もう一生口をきいてあげません!」

 

「あ、それは困る」

 

神楽は慌ててひよりの足を床にそっと着地させた。

 

地面に降り立ったひよりは乱れた制服のスカートを大急ぎで整え、両手で真っ赤になった顔を覆いながら、ぷうっと頬を膨らませて神楽を睨みつけた。

 

「…移くんのバカ。本当に意地悪です。ここは廊下ですよ?みんなが見ているじゃないですか……」

 

「ごめんごめん、ひよりちゃんが可愛すぎるのが悪いんだよ」

 

廊下を行き交う生徒たちはそれをいつもの微笑ましい光景として受け止めていた。

 

しかし、そんな平和な日常の裏で、廊下の曲がり角の影から、蛇のような陰湿な視線で二人を見つめる二つの瞳があった。

 

1人は1年のDクラスの生徒だ。

 

彼は新入生の中でもひときわ凶暴な宝泉和臣の配下であった。

 

「なるほどな…2年の神楽移、身体能力は化け物と聞いていたが、あいつの最大の弱点はあのCクラスの椎名ひよりって女か。これは宝泉さんに良い報告ができるぞ…」

 

男は下品な笑みを浮かべ、スマートフォンの画面に素早く指を走らせた。

 

そしてもう1人の影は…

 

「ところで移くん、一之瀬さんと付き合っていたとは本当ですか?」

 

「あっ」

 

その後顔に青筋を浮かべたひよりに首元をガクガクに揺らされ、泡を吹いていた神楽を龍園は大笑いしたとか…

 

 

そしてその日の放課後。

 

特別棟へと続く普段は人通りの少ない薄暗い連絡通路。神楽が龍園と並んで歩いていると、前方から道を塞ぐようにして三人の人影が現れた。

 

中央に立つのは制服を着崩し、筋骨隆々の胸板を露わにしながら、肩を揺らして歩く巨漢。1年Dクラスのリーダー、宝泉和臣。

 

その眼光は鋭く、単なるチンピラのそれではない。己の圧倒的な肉体とこれまでに数多の不良を屠ってきたという絶対的な自負に裏打ちされた、本物の支配者の風格を備えていた。

 

その左隣には、凛とした空気と冷徹な光を瞳に宿した美少女、七瀬翼。

 

そして右隣には、昼間に廊下で神楽とひよりの様子を盗み見ていた1年の男が立っていた。

 

「おいおいおい、誰かと思えばよぉ、龍園と…その隣にいるのは、噂の神楽じゃねえか」

 

宝泉はその極悪な顔に凶悪な笑みを貼り付け、神楽に視線を定めた。その態度は不遜極まりないが、声音には相手の実力を測りにかけるような冷徹味もある。

 

「あぁ? どこの野良犬かと思えば。相変わらず、しつけのなってねえ面してんなコラ」

 

龍園はポケットに手を突っ込んだまま鋭い眼光で宝泉を睨み返す。

 

「ハッ! 先輩風吹かせてんじゃねえよ龍園。テメェがどれだけ踏ん反り返ってたか知らねえが、ここでは強い奴がルールだ。そうだろ?」

 

宝泉はそう言って今度は神楽に視線を向けた。その威圧感は周囲の空気を歪めるほどに重い。

 

「で、テメェは昼間は廊下でずいぶんと楽しそうに女といちゃついてたらしいじゃねえか。おいおい、勉強は赤点ギリギリのくせに、女を引っ掛けるテクニックだけは一丁前か?羨ましいもんだな、バカってのは」

 

宝泉の背後にいる取り巻きの男が下卑た笑い声を上げる。

 

一方で七瀬はその様子を不快そうに眉をひそめて見つめていたが、沈黙を守っていた。

 

「俺のことそんなに調べてくれてるの?もしかして俺のファン? 握手くらいならいつでもしてあげるよ。男のファンはあんまり嬉しくないけどさ」

 

神楽はいつもと変わらないおちゃらけた態度で、ひらひらと手を振ってみせた。

 

「ケッ、ふざけたツラしてんじゃねえよ。お前みたいな雑魚はいつでもその綺麗なツラをぐちゃぐちゃにしてやるからよ。楽しみにしとけ」

 

宝泉は一歩前に出て、その威圧的な巨体で神楽を見下ろした。

 

「俺はそっちの可愛い1年生の女の子と遊びたいな。七瀬ちゃんだっけ? 連絡先教えてくれない?」

 

神楽は七瀬に向かって、だらしなくウインクを送る。

 

「え…? あ、はい。どうぞ」

 

七瀬は一瞬だけ呆気に取られたが、すぐに冷徹な表情に戻ってスマホを出す。

 

「ハッ、つくづく反吐が出るぜ、この女好きが。行くぞ。あぁ…龍園。テメェをぶっ潰すのが楽しみだぜ」

 

宝泉は盛大に唾を吐き捨てると、神楽の肩をわざと強くぶつけるようにして通り過ぎていった。

 

「神楽先輩、龍園先輩。失礼いたします」

 

七瀬は静かに一礼すると、宝泉の背中を追って歩き去っていった。

 

「完全にテメェを舐め腐ってたな、傑作だぜ」

 

龍園が去り行く1年生の背中を見つめながら尋ねる。

 

「いいよいいよ、あんな血気盛んな1年生の相手なんて疲れるだけだし?かけるんくんこそ知り合いじゃないの?」

 

「中学の時噂に聞いただけだ。ケッ、宝泉とかいう野郎の学校も潰しときゃよかったぜ」

 

神楽はそれを聞くと、何事もなかったかのように歩き出した。

 

だがその背中を見送る龍園は、深くため息をつくと同時に携帯を取り出し、ある相手に電話をかけた。

 

「俺だ。今日中は神楽の監視をしろ…綾小路」

 

 

 

その日の夜。時計の針は23時半を回っていた。

 

ケヤキモールから学生寮へと続く街灯の少ない暗い林道。昼間は美しい並木道だが、深夜ともなれば不気味な空間へと変貌する。

 

「♪恋に落ちた 僕たちは 消えはしない思い出になる♪」

 

神楽はポケットに両手を突っ込み、お気に入りの歌を鼻歌で口ずさみながら、一人で歩いていた。

 

スマートフォンには、先ほどまでひよりと交わしていた他愛のないチャットの履歴が残っている。

 

そしてイヤホンをしまおうとした瞬間

 

ザッ、と背後の茂みが大きく揺れた。

 

「昼ぶりじゃねぇか」

 

暗闇を切り裂くようにして現れたのは、昼間のあの男、宝泉だった。

 

だが、今回は三人ではない。彼の背後にはがっしりとした体躯を持つ1年Dクラスの取り巻き数人が控えていた。彼らの手には太い鉄パイプや金属製の特殊警棒が握られている。

 

しかし神楽の視線が彼らに留まることはなかった。

 

彼らの中心、取り巻きの二人に両脇を抱えられ、地面を引き摺られるようにして連れてこられた一人の少女に、神楽の全神経が注がれた。

 

「…ひ、よりちゃん…?」

 

かすれた声が、神楽の喉から漏れた。

 

そこにいたのは、椎名ひよりだった。

いや、正確には椎名ではない。Dクラスの椎名と体型が似ている人員を選び、この暗闇でそう見せているだけだ。

 

しかしその身体は無慈悲に太い麻縄でぐるぐる巻きに縛り上げられており、自由を完全に奪われている。髪は乱れ、制服には土や枯れ葉が擦り切れんばかりに付着していた。その白い頬には、冷たい地面に引き摺られたのか、痛々しい赤い擦り傷が走っている。

 

しかし神楽が椎名ではないと疑う程の洞察力はない、と宝泉は確信していた。

 

更に揺さぶりをかけるべく、女の腹を乱暴に蹴飛ばした。

 

宝泉は縄の端を極太の左手で乱暴に掴み、まるで手に入れた戦利品を誇示するように一歩前に出た。

 

「弱点がありゃ簡単に叩き潰せる。お前のようなバカを確実にハメるには、これが一番合理的だ」

 

宝泉の声は低く、重い。

 

「コイツが大事なんだろ?なら今すぐそこに膝をつけ。俺の前に跪き、逆らわないと誓え。さもなければ…これが頭に振り下ろされることになる」

 

特殊警棒が静かに持ち上げられた。その動きには一切の躊躇がない。必要とあれば、平然と女子生徒に暴力を振るう覚悟が、その強固な双眸に宿っていた。

 

その瞬間。

 

神楽の脳内で『何か』が完璧に切断される音がした。

 

「…今、なんて言った?」

 

神楽の声から、一切の感情が消え失せていた。普段のおちゃらけたトーンも、軽薄な笑みも、全てが氷点下の絶対零度へと急降下する。

 

彼の全身から放たれたのは怒りなどという生ぬるいものではなかった。

 

周囲の空気が一瞬で凍結し、夜の生物たちの呼吸が恐怖で強制的に停止する。木々から葉がハラハラと落ちるのさえ、不自然にスローモーションに見えるほどの、圧倒的な死の気配。

 

「ッ!?」

 

宝泉の背後に控えていた取り巻きの一人が本能的な死への恐怖に襲われ、思わず鉄パイプを落としそうになりながら一歩後ずさった。

 

目の前に立つ男が、一瞬にして正真正銘の怪物へと変貌したのだ。

 

「ひよりちゃんを…引き摺り、縛り、傷つけたな?」

 

神楽はゆっくりと、一歩前に踏み出した。

 

その一歩の踏み込みだけで、足元の土とアスファルトの境界線が爆風に煽られたかのように激しく爆ぜ、四方に弾け飛ぶ。

 

「おい、怯むんじゃねえ!囲んで叩き潰せ!」

 

 宝泉は湧き上がる異様な戦慄を王としての怒号でねじ伏せ、取り巻きたちに命令を下した。

 

「死ねっ!」

 

三人の取り巻きが同時に神楽に向けて突進する。鉄パイプが空気を切り裂き、神楽の脳天と脇腹を目がけて同時に襲いかかった。

 

神楽は両手をポケットに入れたまま、ただ上体をわずかに傾けた。

 

それだけで、迫る二本の鉄パイプが神楽の体を虚しく通り過ぎる。

 

「なっ!?」

 

驚愕する男たちの目の前から、神楽の姿がかき消えた。

 

刹那

 

彼らが認識したときには、すでに神楽は彼らの死角となる場所へと沈み込んでいた。

 

ポケットから抜かれた右手が、まるでスローモーションのように滑らかに、しかし瞬きする間もなく眼前に突き出され

 

メキャッッ

 

激しい衝撃音。神楽は突進してきた一人の持つ特殊警棒をその右手で正面から鷲掴みにして完全に静止させていた。

 

神楽は無表情のまま、掴んだ警棒に指先の力を込めた。

 

超高強度のスチール製で作られたはずの特殊警棒が、神楽の指の形に沿って、まるで常温の粘土のように、ぐにゃりと歪んでいく。

 

ミシミシ、メキメキメキ…ッ!!

 

神楽が親指と人差し指を軽く噛み合わせるようにして力を加えただけで、金属の警棒が凄まじい音を立てて圧縮され、ついに耐えきれなくなった金属がバキィィンと鋭い音を立てて握り潰された。

 

「こうさせてやるよ」

 

神楽の底冷えする声。

 

「ひいっ…!!化、化け…も゛ッッ」

 

男が悲鳴を上げる前に、神楽の超高速の右拳がその顎の真下から突き上げられた。

 

ドゴォッッッ!!

 

顎を砕かれた男が垂直に浮き上がった。その身体が地面に落ちる前に、神楽は驚異的なフットワークで残りの二人の背後に回り込む。

 

「邪魔だ」

 

二人の頭部を鷲掴みにすると、まるで粘土の塊をぶつけるように正面から衝突させた。

 

ゴツンという鈍い破壊音とともに、二人は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。一瞬にして三人が戦闘不能に陥る。

 

「なるほどな。口だけのバカじゃねぇってことか」

 

宝泉は気絶した部下たちを一瞥し、縛る縄の端を静かに手放した。彼の目から油断は完全に消え去った。

 

「俺がテメェを手始めにぶっ潰して、龍園諸共ぶっ壊してやるよ!!」

 

宝泉は持っていた特殊警棒を投げ捨て、自慢の巨躯から繰り出される右拳を神楽の顔面に向けて放った。その一撃は空気を爆裂させるほどの風圧を伴う、本物のプロをも沈めかねない破壊力を秘めている。

 

「遅い」

 

宝泉の右ストレート。それを神楽は首をわずかに傾けることで紙一重で回避した。

 

それと同時に、神楽の身体が沈み込む。

 

宝泉の右脇の下を潜り抜けるような高速のスライディング機動。その滑り込む刹那、神楽の拳が宝泉の無防備な腹の真下から突き上げられた。

 

ドゴォッッッ!!!

 

爆発的な衝撃が宝泉の腕を激しく揺さぶる。それもそのはず、宝泉に今の一撃は読めていなかった。しかしこれまでの幾度とない喧嘩の経験により、山感で防御した位置に偶々来ただけだ。

 

しかし防御越しでさえも宝泉の80キロ近い巨体がまるでピンボールの球のように、浮き上がった。

 

「あがッ…!!」

 

腕への凄まじい衝撃と追撃のパンチがヒットし、意識が飛びかける宝泉。

 

しかし彼はその強靭な精神力と肉体で無理やり体勢を立て直そうとする。

 

だが、神楽は彼に倒れる時間すら、息を整える隙すら与えるつもりはなかった。宝泉の身体が体制を立て直す前に、神楽は床を踏み抜いた。

 

地面のアスファルトがバキバキと陥没し、その反発力で神楽の身体がロケットのように跳躍する。

 

「潰す」

 

神楽は宝泉の顔面の横に回り込むと膝を折り畳み、その鋭い膝を宝泉の側頭部へ叩き込んだ。

 

バキィッ!!!

 

鼓膜が破裂しそうな打撃音。

 

頭部を激しく弾かれた宝泉の身体が、今度は猛スピードで横に吹き飛ばされる。

 

そして神楽は空中で自らの身体を捻り、蹴りを空中で回転しながら叩きつけた。

 

ドシャァァァァッ!!!

 

宝泉の身体が地面の土とコンクリートに凄まじい勢いで叩きつけられる。

 

肺からすべての空気が強制的に吐き出され、体内の臓器が位置をズラしたような激痛。

 

地面への衝突の瞬間、地面が吹き飛び、クレーターのようなひび割れが走る。

 

しかし、これほどの大ダメージを受けても宝泉の意識は強制的に繋ぎ止められていた。

神楽が関節や打撃の衝撃を精密にコントロールし、脳震盪で気絶することを意図的に防いでいたからだ。

 

「まだ終わってねぇよ」

 

神楽は倒れ込む宝泉の襟元を右手一本で鷲掴みにし、乱暴に引きずり起こした。

 

宝泉の身体はまるで軽いぬいぐるみのように立ち上がらせられる。

 

「…あ、が……っ」

 

血に濡れた宝泉の視界に映ったのは、まるで感情がない冷徹な死神を想像させるような神楽だった。

 

そしてノーモーションから放たれる、左右の超高速連打。

 

ドカドカドカドカドカドカドカドカッ!!!

 

人間の限界を超えたような、フレーム単位の超高速機動。

 

宝泉の顔面が右へ左へと、まるで強風に揺れる木の葉のように激しく振動する。

 

パンチの一発一発が岩を砕くほどの破壊力を持っている。それが数秒の間に何十発と叩き込まれる。

 

顔面から血飛沫が霧のように舞い、宝泉の意識は苦痛と恐怖に完全に閉じ込められた。

 

倒れ込もうとしても、神楽の超高速の拳が宝泉の顔を左右から弾くため、身体が倒れられない。

 

「お前はひよりちゃんに触れることさえできない」

 

仕上げとばかりに、神楽は宝泉の腹部に自身の右拳を引いた。

 

そして今まで以上に振り抜かれた本気の拳

 

ズゴォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…容赦がないな」

 

拳は宝泉に当たった…かと思われた

 

それを受け止めていたのは、両腕から血を流しいつもの無表情を浮かべる男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾小路清隆だった。





後書きです。速攻噛ませになる宝泉でした。正直宝泉が一番インパクトがあったので仕方ない。うん。

ここで呆気なく終わり?と思った方。安心してください。彼にはいずれとんでもない強化イベントが来るはずです



でも綾小路くんいるじゃん。オワタ
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