ようこそバカ派手モテ至上主義の教室へ   作:綾(あや)

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今回はあんまり神楽君の出番はないです…


新たな兆し

 

 

豪華客船での夢のようなバカンスの時間はあっという間に終わった。ひよりちゃんは翌朝まで全く口を聞いてもらえなかったから、かけるんくんにダル絡みをしていたりアルベルトやいしざっきーたちとトランプをやったりしていた。俺は一回も勝てなかった、ちくしょう。

 

そして放送により全クラスが甲板に集められ、Aクラスの担任の真嶋が説明を始めた。

 

「これより、一週間にわたる『無人島特別試験』を開始する」

 

真嶋の宣言に甲板は一瞬で静まり返った後、地鳴りのような悲鳴に包まれた。支給されたのは、たった300ポイント。このポイントは試験終了後にそのままクラスポイントとして加算される。つまり一滴の水や一口のパンを惜しめば惜しむほど、クラスポイントが上がるという仕組みだ。混乱するCクラスの生徒たちを尻目に、龍園は不敵な笑みを浮かべた。

 

ルールとして、支給されたポイントはカタログでの物資を購入可能。体調不良等によるリタイアは-30ポイント、環境汚染等の行為が発覚した場合は-20ポイント、毎朝の点呼に遅れた場合は-5ポイント、他クラスへの暴力、略奪行為等は即失格とする、というものだ。

 

「えめんどくせ、俺リタイアしよっかな」

 

「ダメですよ移くん、ルールとしてリタイアした生徒につき-30ポイントされると仰っていました」

 

「え〜?てか今名前で呼んだ?」

 

「はい。何か問題がありましたか??」

 

「…別になんも」

 

無人島に到着した神楽が背伸びをすると同時に、龍園が口を開いた。

 

「いいか、野郎ども。よく聞け。この試験、俺たちの方針はただ一つだ」

 

クラスメイトたちが固唾を呑んで見守る中、龍園は有無を言わせぬ圧力を以て告げる。

 

「今から、この300ポイント…すべて使い切る」

 

「「えぇーーーー!!!!????」」

 

石崎や小宮が驚いたような声を漏らし、他の面々も互いの顔を見合わせた。

 

「使い切るって…龍園さん?それじゃあ試験が終わった後のクラスポイントが…」

 

「黙ってろ石崎。ポイントなんざ後でいくらでも回収できる。俺が言いたいのはな、この一週間、俺たちはこのクソ暑い森の中を歩き回る必要も、泥水を啜る必要もねえってことだ。バカンスを謳歌する。それが俺の戦略だ。異論は認めねえ」

 

龍園の冷徹な説明。それが終わるか終わらないかのうちに、待ってましたと言わんばかりに神楽が拳を突き上げた。

 

「うっひょおおお! さすがかけるんくん! 話がわかるじゃねえか! つまりなんだろ? 使い放題ってことだよな!? よし、まずはコーラ! それから肉! あとふかふかのベッド! 遊ぶぞ遊ぶぞーー!! いやっほー!!」

 

神楽が歓喜しながら海に向かって、今にも飛び出さんばかりの勢いで叫んだその時だった。

 

「ぐえっ!?」

 

後ろ首に強烈な衝撃。龍園が神楽の襟首を掴み、そのまま力任せに引き戻した。

 

「首、首が締まる!」

 

「うるせぇ。お前は少し黙ってろバカ。遊ぶと言ったがただの遊びとはわけが違う。俺がこの試験を最短で終わらせるための布石だ」

 

「ぐぇ……。わかってるよ、でも肉は食えるんだろ? だったら最高じゃねえか。もっと肩の力抜けよな。せっかくのバカンスだぜ?」

 

神楽がジタバタと暴れると、龍園は鬱陶しそうに手を離した。龍園を王としての扱いをする石崎たちとは違い、神楽だけは対等、あるいはそれ以上に馴れ馴れしい態度で接している。

 

「ククッ…ああ、存分に食え。そしてバカ面晒して他クラスを油断させろ。それがお前の役目だ」

 

こうして島へと上陸したCクラスは、他のクラスが拠点の選定に四苦八苦しているのを尻目に、真っ先に大量の物資を注文した。

 

「こっちにテント五つと、大型のバーベキューコンロ、あとこの最高級のビーチチェアも頼むよ!」

 

神楽は鼻歌交じりに準備を進めていた。他クラスが必死に森を探索し、サバイバル生活を強行している中、Cクラスだけは砂浜に巨大なテントを並べ、冷えたコーラを飲み、肉を焼き始めた。

 

「信じられない。正気なの?」

 

その宴の最中、一人の女子生徒が龍園に近づいてきた。伊吹澪だ。

 

「黙って見てろ、伊吹。お前も肉を食え。神楽が焼きすぎたやつが余ってる」

 

「アタシはあんたの下僕じゃない。こんなの見せしめにもならないわ」

 

「おーい、いぶいぶ?こっちの特製焼きそばもおいしーよ! ほら、スタミナつけてもっと可愛くなりなよ」

 

神楽がトングを片手に笑いかけると、伊吹は露骨に嫌そうな顔をしながらも歩み寄る。

 

「相変わらずバカね。こんな状況でよく楽しめるね」

 

「バカって言う方がバカでーす、ほら、あーん」

 

「死ね。それと、食べさせようとしないで」

 

 伊吹は神楽の差し出した皿をひったくるように受け取ると、乱暴に麺を口に運んだ。

 

「いぶいぶって結構ワイルドよね、なんかひよりちゃんとは違ってクール系って感じ」

 

「は?悪い?」

 

「ん?ぜーんぜん。みんながみんな同じような性格とか見た目なわけないし、俺はいぶいぶみたいな子も好きよ?」

 

神楽は何が?と言わんばかりの表情で笑顔を浮かべる。今まで自分の性格や男らしさを認めてくれる人物がいなかったからか、照れ隠しのように蹴りを放つ。

 

「うるさいッ!!」

 

「ちょっ!?いきなり蹴らないで、肉が落ちちゃう!」

 

蹴りをひょいと躱すも、咥えていた肉が落ち、それを空中で器用に手元に戻す。その時の伊吹の顔が少し赤らめていたのは、夏の暑さのせいだろうか。

 

 

 

--

 

 

 

……最悪だ。

 

何が楽しくてこんな蒸し暑い無人島でバーベキューなんてふざけた真似に付き合わなきゃいけないの?龍園の考えは理解できないし、何より、目の前でヘラヘラしている神楽という男の存在が、私の神経を逆撫でする。

 

入学当初、こいつの印象は『ただの顔が良いだけのバカ』だった。喧嘩の腕が立つとは聞いていたけど、龍園に牙を剥くわけでもなく、かといって媚びるわけでもない。常にどこか、この殺伐とした学校の空気を無視して生きているような、そんな異物感があった。

 

「いぶいぶ?そんな怖い顔して食ってると美味いもんも不味くなるよ?ほら、女の子は肌が命だよ」

 

「勝手に決めつけないでよ。あたしは別に、そんなの気にしてない」

 

「またまた。そんなこと言って、昨日の船のプールでも日焼け気にしてたんじゃないのー?」

 

神楽は無防備に笑いながら、私の皿にバランスよく野菜を乗せてきた。

 

……やっぱりムカつく。

 

私は昔から、自分を女として扱う連中が嫌いだった。両親からは女の子らしく育ってと言われたが、生憎私はそうは育たなかった。そこからは両親も諦めたのか、私が武術を鍛えることに反対しなかった。女の子らしいと言われるとしても揶揄ってくる男子だけ。でも、こいつの態度はそのどちらでもない。

 

まるで、喉が渇けば水を飲むのが当然であるかのように、当たり前に私を『一人の女の子』として気遣ってくる。そこには下心も、見下すような意図も感じられない。

 

「……ねえ。アンタはなんであたしに構うわけ?椎名とよく話してるじゃん」

 

「え? そりゃ美人が不機嫌そうにしてたら放っておけないだろ。俺、モテたいし」

 

「バカ。あたしのどこが美人よ。喧嘩の傷だってあるし、可愛げもないのに」

 

「は? 鏡見たことないのか? いぶいぶは凛としててカッコいいよ。その辺の着飾ってるだけの人より、ずっと輝いてるぜ」

 

返ってきたのは真っ直ぐな瞳で、一点の曇りもない称賛だった。……なんなのよ、こいつ。

 

今まで出会ってきた男たちとは、決定的に何かが違う。乱暴に焼きそばを口に詰め込み、誤魔化すように視線を海へと向けた。

わずかに熱を持った頬は、きっとこの猛暑のせいだと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

--

 

 

 

試験開始から数日が経過した。

Cクラスのキャンプは、他クラスから見れば自暴自棄になった脱落者の集まりにしか見えなかっただろう。

 

だが、夜。神楽が眠りにつき、キャンプの火が小さくなった頃、龍園は音もなく拠点を抜け出していた。向かった先は、Aクラスの拠点。そこには、Aクラスの実質的なリーダーの一人、葛城康平が立っていた。

 

「約束の時間は守るようだな、葛城よぉ」

 

「貴様のやり方は反吐が出るが…利害が一致している以上、無視はできん」

 

龍園は、懐から一枚の契約書を取り出した。

 

その内容として、第一にCクラスはAクラスに対し、200ポイント相当分の物資を購入して譲渡する。購入する物品はAクラスが自由に指定できる。

 

第二に、Cクラスは、BクラスとDクラスのリーダーが誰であるかを探り、得た情報を全てAクラスに伝える。という契約だ。

 

最後にCクラスが上記1と2を遂行した後、Aクラス生徒全員が龍園に毎月2万プライベートポイントを譲渡する。本契約は本校の卒業まで継続する。

 

「悪い話じゃねえだろ?」

 

「貴様は正気か? 自分のクラスを売って、ポイントを得るというのか」

 

「クラスポイントなんていう不確かなもんより、こっちの方が信用できるんでね」

 

「…わかった。契約しよう」

 

「ククッ、今後とも協力しようぜ?」

 

そう言い放つ龍園の目は、目の前の獲物を狩る獰猛な目をしていた。

 

翌朝、神楽は龍園に蹴飛ばされて目を覚ました。

 

「起きろ神楽。お前はもう船に帰れ。椎名も連れて行け」

 

「えっ、もう終わり? まだ遊び足りねえよ! アルベルトともう一回ビーチフラッグやる約束したんだぞ!」

 

神楽は手に持っていた浮き輪を放り投げ飛び起きた。昨日の宴の熱がまだ残っているのか、その表情には緊張感の欠片もない。視線の先ではアルベルトが静かに焚き火を眺めていた。

 

「いいから行け。お前の仕事は、船でバカ騒ぎして『Cクラスは完全に終わった』と他クラスの連中に思わせることだ」

 

「嫌だね! 俺はまだ遊――」

 

言いかけた神楽の言葉が、背後から漂ってきた声によって凍りついた。

 

「移くん? 何か言いかけましたか?」

 

いつの間にそこにいたのか、ひよりが聖母のような笑みを湛えながら神楽の背後に立っていた。その瞳は笑っているが、周囲の空気は確実に数度下がっている。

 

「おっけ、じゃーなかけるんくん! 俺は一足先に帰らせてもらうぜ! ひよりちゃん、行こうか! いますぐ行こうか!」

 

「ええ、そうしましょう。船には美味しいハーブティーがあるそうですから」

 

神楽は手のひらを返したように、そそくさと荷物をまとめ始めた。

 

(……随分と尻に敷かれてるな、このバカ)

 

龍園は心の中で毒づいたが、以前の勉強会の際に見せたあの静かなる圧力を思い出し、従うのも無理はないかと結論づける。駄々を捏ねようとした神楽だったが、ひよりの不可視の圧力により半強制的に連行され、共にリタイアの手続きを取るべくボートへと向かった。

 

ボートに乗る間際、ひよりはどこか安心したような顔で、神楽の袖を強く掴んでいた。一方で伊吹は、その様子を離れた場所から黙って見つめていた。神楽と目が合うと、不器用に顔を背ける。

 

「おい。今から言うヤツは残れ。伊吹、アルベルト、金田、石崎」

 

龍園の声が、残った面々に向けられる。

 

「…チッ」

 

軽く舌打ちをする伊吹だったが、反抗することなく呼びかけに応じる。彼女の視線は、遠ざかるボートの波紋を、ほんの一瞬だけ追っていた。

 

神楽と椎名、クラスの大半が去った後のキャンプ地は、急速にその色彩を失っていった。

 

「いいか。これからBクラス、そしてDクラスに揺さぶりをかける。金田と伊吹は予定通りスパイとして潜入しろ。伊吹はDクラスの連中の動向を監視、特にあの堀北という女だ」

 

龍園の指示は緻密で、一切の無駄がない。石崎たちが緊張感に顔を強張らせる中、伊吹は自分の拳を強く握りしめた。神楽がいなくなっただけで、島の空気は元の殺伐とした雰囲気へと戻ってしまった。

 

「伊吹、聞いてるのか」

 

龍園の鋭い視線が飛ぶ。

 

「…わかってる。Dクラスのリーダーを暴けばいいんでしょ。さっさと終わらせる」

 

「ククッ。神楽が恋しいか? 安心しろ、あのバカは今頃船で、椎名にたっぷりとお説教でも食らっているはずだ」

 

龍園の揶揄に、伊吹の頬がわずかに赤らむ。

 

「誰があんなバカのことなんて! あたしはただ、ここの空気が息苦しいって言ってるだけよ」

 

伊吹は吐き捨てるように言うと、支給された最低限の荷物を背負い、Dクラスの拠点がある森へと足を踏み入れた。

 

 

 

--

 

 

 

その頃、そんな伊吹の葛藤も知らず、豪華客船のラウンジには神楽とひよりの姿があった。

 

「やっぱりエアコンはさいっこう〜… ひよりちゃん、もう俺はこのソファと合体して一生動かないから」

 

神楽はラウンジのソファに深く沈み込み、冷えたコーラを一気に飲み干した。無人島での数日間が嘘のように、彼はリラックスしきっている。

 

「移くん、あまり行儀を悪くしてはいけませんよ。…でも、ようやく二人きりになれましたね」

 

ひよりは神楽の隣にそっと腰を下ろした。彼女の手には、珍しくミステリーではなく、中世の騎士物語の文庫本がある。

 

「え? 二人きりって、他にもリタイアしたみんながいっぱいいるじゃん。あそこの奴なんて、楽しそうに泳いでるし」

 

神楽が指差す先には、同じくクラスでリタイアしていた数人の生徒たちが、バカンスを楽しんでいた。

 

「私の視界には、移くんしか入っていませんから」

 

「ひよりちゃん、最近ちょっと怖くない?威圧感あるんだけど。俺、何か悪いことした?」

 

「いいえ。移くんは何も悪くありません。ただ、無人島でのあなたは、少し、誰にでも優しすぎました」

 

ひよりの指が、本の表紙をなぞる。

 

「伊吹さんや石崎くんたちと楽しそうに遊び、誰とでもすぐ仲良くなれることが移くんの良さだとは分かっています。でも、それをずっと見守っているのは、私には少しだけ…困難だったようです」

 

「あー、つまり、この試験中はもっと遊びたいと?」

 

普段は自分を見透すような態度だが、見当違いの神楽のズレた返答にひよりは小さく溜息をついた後、くすりと笑った。

 

「ええ。この試験中は私と過ごしてください」

 

「ん、ひよりちゃんみたいな可愛い子といれるなんて願ったり叶ったりだよ」

 

そう言って神楽は無邪気に笑い、ひよりは神楽の肩にもたれかかった。

 

ひよりはその温もりに身を委ねながら、心の中で静かに誓う。この人は、この学園に染まるには明るすぎる。だからこそ、私がずっと隣にいて、その光が消えないように守らなければならないのだ、と。





当初の案として神楽君をDクラスのスパイとして送り込む予定だったのですが、よく考えて神楽君がスパイなんかできるわけないよな…という結論に至りました。

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