大樹の下で、君と   作:燻製@

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第一話

私の住む町の総合公園には、大樹がある。

 

樹齢は、300年ほどでこの町ができる前からずっとこの土地を見守っている。

 

そんな大樹は、幹が交わり、まるで編み込まれたようになっている連理木で、昔から「縁結び」のご縁があるといわれていた。

 

そのため木の生えている公園は、恋愛のパワースポットとして知られ、告白の定番の場所やデートスポットとして町の人たちに親しまれていた。

 

その木の目の前に私は、立ち寄った。

 

私がその木に用があり学校帰りに寄ったのだ。

 

大樹は、太く大きい。生命力にあふれているせいか公園の空気も何だか澄んでいるような気がする。

 

私は、一年ほど使い黒い色が少し剥げた学生鞄の中をあさる。

 

表紙の端が、折れた参考書や、汚れたノートなどをかき分けた先に入っていたきれいな白い封筒を取り出す。

 

封には、夢見スイの名前が書いてあるだけで、差出人はなし。開けた封の中に入っていた手紙を見る。

 

中の手紙は丸みを帯びたかわいらしい文字で書かれていた。

 

「今日の17:00時、総合公園の大樹の前で待っています。」

 

そこには、この場所で待ち合わせをする旨の内容だった。

 

私をここに呼び出した人はまだ来ていない。

 

見知らぬ人物からの恋愛スポットへの待ち合わせの手紙。それが意味することは。

 

「...告白なのかな」

 

思ったことを声で呟く。

 

漏れ出た声が、空気に溶ける。

 

もしそうだとしたら、何故だろうか。

 

私は、学校では、いつも一人だし友人と呼べる人が、せいぜい一人いるくらい人間関係が希薄で、用があってかかわるときも、愛想が悪い自負がある。

 

そんな自分に、いったい誰が好意を持つというのだろうか。

 

そこまで考えて、ふといたずらの可能性が頭をよぎった。

 

呼び出した本人はまだ来ていないし。

 

思いつくとなんとなく腑に落ちる気がした。

 

愛想が悪く小生意気な私を、馬鹿にするための悪意ある行動。

 

もしそうだったら、明日あいつとの会話のネタにでもしようか。

 

でも、もし、この手紙がいたずらではなく本物ならば──

 

どきんと心臓が大きく脈打つ。

 

夕風が吹く。手紙が揺れ髪が流れる。

 

風が吹きやみ気配を感じて、背後に視線を向けるとそこには、私と同じ制服を着た見覚えのある少女が立っていた。

 

腰ほどまで伸びた小麦色の髪に、真ん丸とした瞳。小さな背に真ん丸の輪郭で実年齢よりも幼く見える。

 

彼女の名前は、「甘空日向」。

 

優しくて、誰にでも分け隔てて手を差し伸べる彼女は、友達の多いクラスの人気者で私と同じクラスだった。

 

甘空は、頬を上気させて膝に手をついている。息も上がっていて制服も乱れているどうやら急いで走ってこの場所まで来た様子。

 

「ご、ごめんなさい。道に迷っているおばあちゃんの道案内をしていたら遅れちゃった。」

 

「私も、ここに来たの数分前だし、まだ、待ち合わせの時間にはなっていないし、かまわないよ。」

 

持っている手紙を封にしまい振り向く。そして彼女が、息を整えているのを眺めていると、ぽーん、とチャイムが鳴り始めた。

 

時刻17:00を知らせるあいさつであり、手紙に書いてあった待ち合わせの時間だった。

 

公園で遊んでいる小学生たちが、私の視界の横を通って行く。彼らの声がどんどんと小さくなっていく。

 

「それで、話しかけても大丈夫かな?」

 

私は、甘空の息が整ったタイミングで話しかけることにした。

 

確認したいことがあったから。

 

「...はい。大丈夫です」

 

まだ少し肩が上下しているが、彼女が問題ないと言うので、話を進めることにする。

 

私は、手に持っていた手紙を彼女の視野に入るように晒す。

 

「改めて確認させてほしいのだけれど、この手紙は、あなたが出したと言うことでいい?」

 

そんなつもりはなかったが私の声は、これから訪れる冬の寒さのように、温度を感じさせない冷えた音だった。

 

まるで詰問みたいだ。思考の隅で、そんなことを思った。

 

手紙を見たせいか私の声のせいか甘空の表情が硬くなる。

 

「はい。そうです」

 

その瞳は、不安げに揺れていて眉は八の字に曲がっていた。

 

クラスでいつも見る快活とした彼女とは、ずいぶんと雰囲気が違っていた。

 

「そう。それじゃあ何のようで私を呼び出したのか教えてもらってもいいかな」

 

ここは、告白のスポット。もし彼女の目的がそれならば、私の返答はすでに決まっていた。

 

甘空が目を瞑り深呼吸をする。

 

静まり返った公園の空気は、沈みゆく夕日の温かさが届かないほどに、冷え始めていた。

 

数秒か、それとも数分経ったのか。

 

甘空の淡いピンク色のきゅっと絞められた小さな唇が開く。

 

そうしてぎゅっと目を閉じ意を決したのか彼女は、言葉を紡ぐ。

 

「夢見スイさん。私と友達になってください」

 

「...はい?」

 

私の惚けた声が、夕焼けの空に溶けて消えていった。

 

──友達?

 

恋人ではなく?

 

彼女の発言に、困惑した脳がその言葉を処理し解析する。

 

「──っ」

 

自分の勘違い思い違いに、体の体温が上がる。

 

体は汗ばんで、頬は、赤くなっているだろうか。

 

この場所に呼び出された時点で、告白されるものだろうと決めつけていた。

 

いや、確かに、用件は書かれていなかったから。

 

これは、勘違いしてしまってもしょうがないだろう。

 

だから、私は悪くない。

 

「あの?スイさん?」

 

こてっと彼女は首をかしげる。

 

「っえ、ふえ!?」

 

ぐるぐると脱輪し暴走していた思考が、彼女の声で元の車線に戻る。

 

「とっ友達?っ友達ね。うん」

 

彼女と友達になる?クラスカーストの上位の彼女と?

 

そもそも彼女と私は、昨日初めてまともな会話をするほど希薄な関係だ。

 

恋の告白ではないことは、よかったが。これはこれで、返答に困る。

 

彼女と友達になったとして、明日からの日常をシミュレーションしてみる。

 

クラスに入り彼女と親しげに挨拶をかわし、コミュニケーションをとる。

 

周りのクラスメイトは、驚くだろう。前日まで関わりがなかった二人が、急に距離が近づいているのだから。

 

そもそも彼女がいつもつるんでいるグループに関わり合いにならないといけないのだろうか。

 

頭を冷やして考えてみると何だか非常にめんどくさそうだな。

 

そもそもとして──

 

「どうして、私と友達になりたいの?」

 

理由がやっぱり気になった。

 

「りっ理由ですか?」

 

友だちに、なりたいという思いに、理由はつけづらいけれど彼女は、こんな遠回しな方法で告白をしてきたのだ。

 

ならば、それなりに理由があるはずそう思って問いかけたのだけれど。

 

「そっそれはですね。…」

 

私の問いかけに、甘空は、目をきょときょと動かして動揺していた。

 

「あ...あのえーと、スイちゃんは、クラスでいつも一人で、過ごしていてそれがえーと...」

 

問いに対する答えは、薄っぺらく要領を得ないものであった。

 

それを見ていたら聞いたこちらが申し訳なくなってくるほどであった。

 

本人は、どれほどの覚悟で言ってきたのかは知らないけれど、罪悪感で胸も痛いけれどここは断ろうと声をかけようとして──

 

「だめですか?」

 

瞳を揺らし顔を俯かせる甘空。それは、まるで親に叱られてしまった子供のようで。

 

その姿が、いつかの私を思い出させて。

 

つい

 

「あー、いや、いいよ」

 

「へっ?」

 

「友達、なろっか」

 

私の決定を覆させてしまった。

 

そんな経緯で、ほぼボッチの夢見スイとクラスの人気者の甘空日向は、友人になったのであった。

 

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