ガンダムU.C. Altered Line 作:シャノワール
今回はホワイトベースを中心となります。
次の話は戦闘回にしたいと思います。
ホワイトベースが東の都市部へ補給のため向かうと決まってから、しばらくが経った。
疲労、閉塞感、そして「降りられない」という不安。
避難民たちの心は、じわじわと怒りへと変わりつつあった。
そして――その不安は最悪の形で爆発した。
キッカ・カツ・レツの三人が、避難民の一部に人質として捕らえられたのだ。
フラウも三人を守ろうとしてその場に居合わせ、結果的に巻き込まれてしまった。
◇ ◇ ◇
「ホワイトベースの状況をちゃんと説明したのだな?」
ブライトはフラウに問いかけた。
フラウは不安げに頷く。
「はい……ホワイトベースがどれだけ危険な状況か、全部お話ししました。
でも……」
その言葉を遮るように、避難民の老人が声を上げた。
「わしらは何も乱暴しようというわけじゃない。
本当のことを知りたいだけなんじゃ」
ブライトは眉を寄せる。
「それなら、人質など取る必要はないはずです」
そう言い返した瞬間、老人たちの視線の先に気づく。
リュウとハヤトが、緊張した面持ちで銃を構えていた。
「っ……!
みんな、銃を仕舞うんだ!」
ブライトの声が鋭く響く。
しかし二人はすぐには動けなかった。
「仕舞うんだ」
「……あ、ああ」
動揺を隠せないまま、リュウとハヤトは銃を下ろした。
ブライトは深く息を吐き、再び避難民たちへ向き直る。
すると、押し殺していた不安が一気に溢れ出した。
「地球に……元気なら、わしの孫がいるはずなんじゃ」
「わしは、生まれ育った故郷を……もう一度、この目で見たいんじゃ」
「わしらは、いつになったら降ろしてくれるんじゃ?
このまま、ずっと乗っていなければならんのか」
ブライトは唇を噛みしめた。
「……申し訳ない。
だが今は、あまりにも危険な状況下にある。
着陸するわけにはいかないんです」
避難民たちの表情には、失望と恐怖が入り混じっていた。
一人の老人が前へ進み出て、ブライトに強い口調で問いただした。
「では……わしらは、このまま降りられんということなのか……!?」
その声を皮切りに、避難民たちの不安が一気に噴き出す。
「そんな……このまま空の上で死ねと言うのか……!」
「子供まで巻き込んで……それでも降ろせないなんて、あんまりじゃ!」
老人の言葉に押されるように、次々と怒りや不満が飛び交う。
その場の空気は、今にも爆発しそうなほど張りつめていた。
ずっと戦闘と警戒で疲労し、緊張の限界にあったブライトは、
思わず声を荒げてしまう。
「私たちだって……全力を尽くしているんです!」
その声は、避難民たちの怒りと、ブライト自身の焦りがぶつかり合うように響いた。
避難民たちが一瞬だけ息を呑んだ。
その張りつめた空気を破ったのは、カイの軽い声だった。
「だったらさ、降ろしたらどうよ」
ブライトが振り向く。
「カイ……!
何を言っているのか分かっているのか」
カイは肩をすくめ、いつもの調子で続ける。
「分かってるさ。
でもよ、ブライトさん……あんただって気づいてるんだろ?
俺たちだって、いつまでも避難民を抱えて動けるわけじゃねぇんだ。
艦の中でこんな騒ぎが起きるくらいなら……
降ろしてやった方が、お互いのためだろ?」
ブライトは言葉を詰まらせる。
その間に、避難民たちの間からざわめきが広がった。
「わ、わしら……降りられるのか?」
「本当に……地面に降ろしてくれるのか……?」
困惑と期待が入り混じった声が次々と上がる。
その中で、一人の老人が震える手で帽子を取り、深々と頭を下げた。
「もし……もしそうしてくれるなら……頼む!
この通りじゃ……!」
その姿を見たブライトは、胸の奥に重いものが沈むのを感じた。
彼は長く息を吐き、避難民たちを見渡す。
「……分かりました」
避難民たちが息を呑む。
「ですが――」
ブライトは厳しい声で続けた。
「安全までは保障できません。
それでも……よろしいですね?」
老人は顔を上げ、涙を浮かべながら力強く頷いた。
「構わん……!
地に降りられるなら、それでええ……!」
◇ ◇ ◇
避難民たちの説得とブライトの決断を経て、
ホワイトベースは静かに進路を東へと修正した。
艦内にはまだ重い空気が残っていたが、
それでも先ほどまでの混乱は、少しずつ収まりつつあった。
ブリッジではミライが操舵席に座り、
前方の地形データを慎重に確認している。
「ブライト……都市部まで、あと二十数キロです。
ただ、周囲にはまだ散発的な熱源反応があります」
ブライトは頷き、モニターに映る地形を見つめた。
「都市部の中心に降りるわけにはいかない。
ジオンに見つかれば終わりだ……
ミライ、都市部から離れた地点で着陸できる場所を探してくれ」
「わかりました」
ミライの指が滑らかに操作盤を走り、
ホワイトベースはゆっくりと高度を下げていく。
やがて、都市部から数キロ離れた荒れ地が映し出された。
かつて物流拠点として使われていたらしいが、
今は建物の残骸が点在するだけの無人地帯だ。
「ここなら……ジオンの監視網にも引っかかりにくいはずです」
ミライの報告に、ブライトは短く息を吐いた。
「よし……ここに降りる。
全員、着陸態勢に入れ!」
ホワイトベースは巨大な影を地表へ落としながら、
ゆっくりと脚部を展開し、砂煙を巻き上げて着陸した。
衝撃が艦全体に伝わり、
避難民たちの間から安堵の声が漏れる。
着陸と同時に、甲板では整備班が一斉に動き出した。
「急げ! まずは燃料ラインを確保しろ!」
「食料と医療品の搬出を優先だ!」
「外部警戒、配置につけ!」
リュウが怒鳴り、ハヤトが走り、
セイラは避難民の誘導に回った。
ブライトはブリッジから外を見下ろし、
短く指示を飛ばした。
「ミライ、周囲の索敵を続けてくれ。
ジオンに見つかれば……ここで終わりだ」
「分かっています。
レーダー、最大感度で稼働させます」
艦の外では、
都市部の廃墟を背景に、ホワイトベースの補給作業が始まっていた。
しかし――
その静かな動きは、
すでにジオンの包囲網の“外縁”に触れ始めていた。
補給作業が始まり、ホワイトベースの周囲は慌ただしく動いていた。
その中で、アムロは格納庫の片隅でコア・ファイターの調整に没頭していた。
「……ホワイトベースのメインエンジンからのエネルギー供給ラインは……
ここを通して……うん、これで安定するはずだ」
汗を拭いながら、アムロはケーブルを固定する。
その時――背後から足音が近づいてきた。
「……君、アムロ・レイだね?」
振り向くと、そこには中性的な顔立ちの青年が立っていた。
年齢はアムロより少し上に見える。
軍服でも避難民の服でもない、妙に整った私服姿。
「え? あ、はい……そうですけど。
あなたは……?」
青年は柔らかく微笑んだ。
「補給の手伝いで乗せてもらった者だよ。
君がガンダムのパイロットだって聞いてね……」
アムロは少し不機嫌とも戸惑いともつかない表情で、工具を置いた。
「……偶然ですよ。
ただ、僕が一番上手く動かせるだけです」
青年はその言葉に、ほんのわずか目を細めた。
「偶然だったかもしれない。
でも、それは君の“意志”でやったことだろう?」
「………」
アムロは言葉を失う。
青年はその沈黙を見つめ、少しだけ声を柔らかくした。
「それは、すごいことだと思うよ」
「そうでしょうか……?」
「誰にでもできるものじゃないさ。
少なくとも、私はね」
青年は工具の散らばる床に視線を落とし、
まるで“自分も同じ道を通ってきた”かのように言葉を紡ぐ。
「ただ……今の君は、自分で全部抱え込もうとしているように見える」
アムロは、ぐっと手を握りしめながら震える声を出した。
「仕方がないじゃないですか……!
誰かがやらなきゃ、みんな死んでしまうんですよ?
僕だって、好きでやってるわけじゃない」
青年は静かに頷いた。
「これは……経験者からのアドバイスだと思ってほしい」
アムロが顔を上げる。
「私も昔はそうだった。
何もかも抱え込んで……倒れたことがある。
そのせいで、みんなに迷惑をかけたよ。
同僚や先輩たちから“もっと頼れ”って叱られた」
アムロはじっと青年を見つめる。
青年の声には優しさと、どこか遠い影があった。
「だから、君も誰かに頼るんだ。
できることを相談して、役割を分担すればいい。
全部を背負う必要なんて、どこにもない」
青年はふっと微笑んだ。
「それを……忘れないでほしい」
そして、少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「すまないね。時間を取ってしまって」
「いえ……」
「それじゃあ、私はもう行くよ。
まだ、やることがあるからね」
そう言うと、青年は静かに踵を返し、通路へと歩き出した。
青年は静かに通路を歩いていた。
補給作業で慌ただしい艦内とは対照的に、
この区画は一時的に人の気配が薄い。
しかし――角を曲がった瞬間、
フラウ、ハヤト、リュウの三人と鉢合わせた。
フラウが驚いたように目を瞬かせる。
「あなた……誰?」
青年は微笑みを崩さず、軽く会釈した。
「補給の手伝いで乗せてもらった者だよ。
少し、艦内を見て回っていてね」
その言葉に、リュウの表情がわずかに険しくなる。
「補給の手伝い?
だが、そんな奴が乗ったって話は聞いてないがな」
ハヤトも青年の服装に目を向ける。
「その服……避難民のものじゃないですよね。
どこから来たんです?」
青年は微笑んだまま沈黙した。
その沈黙が、逆に不自然だった。
フラウが一歩前に出る。
「あなた……ホワイトベースの乗組員じゃないわよね?」
その瞬間、リュウとハヤトの手が腰のホルスターへ伸びた。
「待て、動くな!」
「お前……まさかジオンの――」
銃が抜かれようとした、その刹那。
青年の姿がふっと揺れた。
次の瞬間には――
フラウの腕を掴んで引き寄せていた。
「きゃっ……!」
青年はフラウを盾にし、
そのこめかみに冷たい銃口を押し当てる。
「銃を抜かないで。
彼女に怪我をさせたくないならね」
リュウが歯を食いしばる。
「てめぇ……!」
ハヤトも銃を構えようとするが、
フラウを盾にされているため、動けない。
青年は冷静な声で続けた。
「そのままで。
一歩でも動いたら……この娘がどうなるか、分かるよね?」
二人は悔しそうに睨みつけるだけで、身動きが取れなかった。
青年は表情を変えぬまま、
フラウを抱えたまま後退し、非常口へ向かう。
角を曲がったところで、
リュウとハヤトはすぐにブリッジへ連絡を入れた。
「こちらリュウ! ジオン兵が艦内に潜入!
フラウが人質に取られた!」
「繰り返す、フラウが人質だ!」
艦内に緊張が走った。
ホワイトベースの外、廃墟の陰にはジオン兵が数名待機していた。
青年がフラウを連れて姿を現すと、兵たちは一斉に姿勢を正し、敬礼する。
「お疲れ様です!
ご指示どおり、撤退の準備は整えてあります!」
青年はフラウを前へ押し出すようにして離した。
その動きは乱暴ではなく、むしろ“そっと”という表現が似合うほどだった。
「ここまでだよ。
君を傷つけるつもりはない」
フラウは驚いたように青年を見つめる。
その瞳には、恐怖だけでなく、どこか戸惑いも混じっていた。
「どうして……?
あなた、ジオンの……なのに……」
青年は一瞬だけフラウの目を見た。
その瞳には、戦場の兵士とは思えないほどの静かな影が宿っていた。
しかし――答えは返さない。
青年は視線をそらし、
まるで“言えば何かが壊れてしまう”かのように口を閉ざしたまま、
ジオン兵たちへ短く指示を出す。
「撤退する。急げ」
「はっ!」
兵たちは素早く散開し、廃墟の影へと消えていく。
青年もその後に続き、振り返ることなく走り去った。
残されたフラウは、
胸に手を当てながら震える息を吐いた。
「……あの人……いったい……」
その声は、誰にも届かないほど小さかった。
フラウが連れ去られた直後、
ハヤトは顔を真っ青にしながら通路を駆け出そうとしていた。
「フラウを追わないと……!
俺が行きます!」
リュウが咄嗟に腕を掴む。
「待て、ハヤト! 一人で行ってどうするつもりだ!」
「止めないでください!
フラウが危ないんですよ!」
ハヤトは振りほどこうと必死だ。
その目には焦りと恐怖が混ざっていた。
リュウは歯を食いしばり、怒鳴る。
「気持ちは分かる! だが突っ込んだらお前までやられるだけだ!
あいつは訓練された兵士だぞ!」
「でも……でも……!」
二人の間に緊張が走ったその時――
「……ハヤト……リュウさん……」
震える声が背後から聞こえた。
二人が振り返る。
「フラウ! 無事だったのか!」
ハヤトは目を見開き、思わず駆け寄って肩を掴んだ。
フラウはまだ震えが残る足で立ちながら、小さく頷く。
「うん……なんとか……」
リュウは安堵の息を吐き、拳を握りしめたまま悔しそうに言う。
「くそ……俺がもっとしっかりしてりゃ、あんな奴に好き勝手させなかったのによ……」
ハヤトは首を振る。
「リュウさんのせいじゃないです。
あいつ……素人の動きじゃありませんよ」
フラウは二人を見上げ、震える声で言った。
「でも……あの人……私を傷つけなかった……
どうしてかは分からないけど……」
リュウは眉をひそめ、険しい声で返す。
「甘い顔してる場合じゃねぇ。
ジオンの兵だ。
次はどうなるか分からん」
三人の間に、安堵と緊張が入り混じった空気が流れた。
ブリッジでは、すでに緊急態勢が敷かれていた。
ブライトは険しい表情で各員に指示を飛ばす。
「艦内の被害状況を確認しろ!
爆薬や仕掛けが残されていないか、全区画を再点検だ!」
「了解!」
「外部警戒も強化しろ。
ジオンがこの位置を把握している可能性が高い。
ミライ、レーダーの感度を最大に」
ミライが頷き、操作盤に手を走らせる。
「分かりました。周囲の熱源反応を再スキャンします」
その横で、リード中尉が腕を組みながら口を開いた。
「ジオン兵が艦内に入り込んでいたんだぞ。
他にも潜んでいる可能性はないのか?」
ブライトは鋭い目でリードを見る。
「だからこそ、全区画の再点検をしているんです。
今は警戒を緩めるわけにはいきません」
リードは不安げに眉を寄せる。
「……まったく、こんな状況で補給とは……
本当に大丈夫なのか、ホワイトベースは」
ブライトは短く息を吐き、しかしその目は揺らがなかった。
「大丈夫なわけがありません。
――それでも、生き残るためにやるべきことをやるだけです」
その時、レーダーが急に警告音を鳴らした。
「レーダー反応! 高速で接近する熱源多数!」
ミライが顔を上げる。
「ジオンです! 攻撃隊がこちらへ!」
直後、ホワイトベースの外側で爆発が起きた。
しかし、艦体には命中せず、少し外れた地面に着弾する。
ドォンッ!!
砂煙が上がり、艦体がわずかに揺れた。
「砲撃です! 着弾、艦のすぐ近く!」
ブライトは即座に指示を飛ばす。
「全員、戦闘配置につけ! 外部警戒を最大に!」
オペレーターが叫ぶ。
「避難民、ほとんどが降り終えています!」
別のオペレーターが続ける。
「補給は……まだ完了していません!」
再び砲撃が地面を抉り、衝撃が艦内に響く。
ドガァンッ!!
ブライトは歯を食いしばり、しかし迷いのない声で叫んだ。
「攻撃を受けているんだぞ!
補給より発進を優先させろ!」
ミライが操舵席で頷く。
「了解! ホワイトベース、発進準備に入ります!」
その横で、リード中尉が不安げに呟いた。
「……こんな状況で飛び立つのか……?」
ブライトは振り返らず、鋭い声で言い放つ。
「ここに留まれば撃沈されるだけです!
――発進を急がせろ!」
ブリッジの空気が一気に引き締まった。
次回は戦闘回予定です。
上手く書けると良いんですか……。
一応、青年の正体も書く予定です。
すみません、ご指摘がありまして少し修正を入れました。