ガンダムU.C. Altered Line 作:シャノワール
第十四話
ガウのブリッジ内―――オペレーターが次々とガルマに報告し続けている。
「各部隊、配置を完了しつつあります」
「このまま囲みつつ狭めていく。
潜入した部隊からの連絡は?」
ガルマは都市部を包囲する形で部隊を分けて配置した。
攻撃する指示をまだ出さずに潜入した部隊からの連絡を待っている状態だ。
「まだです!」
「そうか…。
引き続き配置を急がせろ!」
ガルマはそう指示を出しつつ、少しばかりここにいない人物の事を考える。
その様子を横から見ていたシャアは、彼に声を掛ける。
「心配か?
やはり、私も参加すべきだと言ったんだがな」
そう言って、少しばかり不満を漏らす彼を見たガルマは苦笑する。
「確かに君も行ってくれた方が確実だが。
既に2回も潜入しているのだろう?
顔が割れている可能性がある以上は、リスクはおかせないさ」
「分かっている」
そう言いながらも、シャアの心は別の場所にあった。
木馬にいるであろう妹――アルティミシア。
そして、復讐すべき相手が“今まさに目の前にいる”という事実。
(今は、まだ様子を見るべきか……
潜入は……彼女の言うとおり危険が大きいな)
二度の潜入で敵と遭遇している以上、
顔が割れているのは確実。
素顔を晒せば、正体を暴かれる危険性は跳ね上がる。
それを理解しているシャアにとって、
潜入任務を辞退するのは不服でありながらも、
合理的な判断だった。
ただ――
マリアが彼を止めた理由は、
“顔が割れている”という一点だけではない。
彼女が知るシャアの姿は、
ノースリーブにサングラスという、あまりにも特徴的な格好。
あの姿で潜入などすれば、
目立ちすぎて逆に危険だと判断したのだ。
もちろん、それは“マリアだけの認識”であって、
当の本人はそんなことは知るよしもないのだが。
(……まったく。
あの娘は、よく見ている)
シャアは小さく息を吐き、
ほんのわずかに口元を歪めた。
その時、オペレーターが声を上げた。
「ガルマ様! 潜入部隊より通信です!」
ガルマの表情が一気に輝く。
「なんだと……! 内容を!」
「はい!」
オペレーターは受信した文面を確認し、
緊張を帯びた声で読み上げた。
「――潜入成功。
第一目的:木馬の位置情報、確保。
第二目的:ガンダムおよびビーム兵器に関する機密情報を入手。
第三目的:鹵獲・破壊は敵戦力により断念。
現在、脱出に成功し指定の合流地点へ移動中――以上!」
短く簡潔だが、
作戦の成否を判断するには十分すぎる内容だった。
ガルマは拳を握りしめ、喜びを隠しきれない。
「成功したのか……!
よくやってくれた!」
シャアも腕を組んだまま、わずかに目を細める。
「ほう……やるな。
警戒しているとはいえ、補給で人の出入りがある以上、
監視の目は散っていたはずだ。
そこを突いたわけか」
感心したように、しかし淡々とした口調で言葉を続ける。
「ああ、僕もこう上手くいくとは思わなかった。
提案された時は驚いたさ」
ガルマが素直に言うと、
シャアも軽く頷いた。
「奇策というものは、案外そういう時にこそ成功するものだよ。
……彼女はよくやった」
ガルマはすぐに次の指示を出す。
「よし、潜入部隊と合流する。
全軍に包囲の網を緩めずに攻撃を指示しろ」
ガルマの言葉にオペレーターは「はっ」と返し、各部隊に伝令していく。
ガルマが指示を出し、ブリッジが慌ただしく動き始める中、
シャアは静かにその様子を見つめていた。
(……さて。
このままではガルマが勝ってしまうな)
潜入部隊の成功は、
シャアにとっては“計画外の成功”だった。
(マリアめ……優秀すぎるのも困りものだ)
しかし表情には出さない。
「ガルマ、包囲網は完璧だ。
押し切れば木馬は墜とせるだろう。
だが……勝負に絶対はない。
要人は慎重であるに越したことはない」
ガルマは自信に満ちた笑みを浮かべる。
「分かっているさ。
慎重に、確実に仕留めるさ」
シャアは親友としての顔を崩さず、
あくまで“助言”として言葉を添える。
(……だが、勝利の直前こそ隙が生まれるものだ)
張り付けた笑みの裏で、
シャアの思考は冷たく研ぎ澄まされていた。
どうすれば彼を追い詰め、謀殺できるか。
(焦るな……
機は必ず訪れる)
◇ ◇ ◇
補給で混雑するホワイトベースの格納庫。
潜入班の一人が、奪った整備兵の制服を身にまとい、小型トラックの運転席へ滑り込む。
格納庫内は積み込み作業で騒然としており、
軍用車両が一台動いたところで誰も気に留めない。
トラックはゆっくりと発進し、物資搬出口へ向かう。
その途中、積み荷の確認に来た若い兵士が声を掛けてきた。
「外に出るのか?
なら、三番の物資の方へ向かってくれ」
「わかった」
短い会話を交わすと、若者はすぐに別の作業へ走り去った。
潜入班の兵士はそのまま自然な動きでトラックを出口へ進め、
外へ出ると、別行動していた仲間と合流する。
「申し訳ありません、中尉。
このような形でお乗せすることになって」
荷台に乗り込んだマリアは、深く被っていた帽子を外し、
申し訳なさそうにする部下へ穏やかに返す。
「大丈夫です。
潜入した者たちは……全員、脱出できましたか?」
「はっ、問題ありません。全員無事です」
マリアは胸の奥で小さく息を吐いた。
――これでようやく、脱出は半ば成功だ。
その表情には安堵と、わずかな緊張の残滓が浮かんでいた。
「そうですか、司令部との手筈は?」
「既に送信済みです。
このまま、合流地点へ向かいます」
「わかりました」
そう言うと、荷台の上で揺られながらホワイトベースの方へ見る。
マリアは荷台の揺れに身を任せながら、
遠ざかっていくホワイトベースの方向へ静かに視線を向けた。
その瞬間――
地平線の向こうで、光が瞬いた。
続いて、低く腹に響くような重い轟音が遅れて届く。
(……始まった)
ガルマ隊の砲撃だ。
距離はかなり離れているはずなのに、
空気が震えるほどの火力。
ガルマは、ホワイトベースとガンダムの性能を理解している。
だからこそ、
決して近づかず、遠距離からの集中砲撃で削る戦法を選んだのだ。
(慎重……いえ、これは“確実”を選んだということ)
マリアの胸に、安堵とも不安ともつかない感情が揺れる。
自分が持ち帰った情報が、
今まさに戦場で使われている。
そして――
その先には、あの白いモビルスーツがいる。
(……アムロ・レイ)
ほんの一瞬、あの少年の顔が脳裏をよぎった。
だがマリアはすぐに視線を前へ戻し、
感情を押し込めるように小さく息を吐いた。
「中尉、速度を上げます。
合流地点まであと少しです」
「……お願いします」
トラックはエンジン音を高め、
砲撃の光が瞬く空の下を北東へと走り抜けていった。
◇ ◇ ◇
砲撃の衝撃が船体を震わせ、
ブリッジの照明が一瞬だけ明滅した。
「また着弾です!」
「距離はまだありますが、包囲が狭まっています!」
ブライトは手すりを掴み、鋭い声で指示を飛ばす。
「補給班の回収はどうなっている!」
「あと数分で完了します!」
「避難民の降下は!」
「ほぼ終わっています! 残りわずかです!」
ブライトが息を吸い、決断を下そうとしたその瞬間――
横からリード中尉が口を挟んだ。
「ブライト君、待ちたまえ。
この状況で突破など……危険が大きすぎる。
まずは被害を最小限に抑えるため、
遮蔽物の多い区域へ退避すべきだろう」
ブライトは振り返り、強い声で言い切る。
「退避しても砲撃は止まりません!
ここに留まれば削り殺されるだけです!
突破します!」
リードは一瞬だけ言葉を失い、
しかし反論はしなかった。
「……分かった。
君の判断に従おう」
ブライトは短く頷き、ブリッジ全体に向けて叫ぶ。
「補給班の回収が完了次第、ホワイトベース発進!
包囲網が閉じる前に突破する!」
ホワイトベースが発進した瞬間、
都市部のビル群に砲撃が当たり、艦内は激しい揺れる。
セイラがレーダーを見つめながら報告する。
「ブライトさん、南の方……敵影が薄いようです!」
確かに南側だけ、包囲がわずかに開いている。
ブライトは眉をひそめた。
「南か……不自然だな。
罠の可能性もある」
一瞬だけ迷いが走る。
だが、正面はすでに砲撃で封鎖されつつある。
「……いや、罠でも構わん。
正面突破よりは望みがある。
進路を南へ変更!
包囲網が閉じる前に突破する!」
「了解、進路南へ!」
ホワイトベースは低空へと降下し、
ビルの影を縫うようにして南部へ向かう。
ブライトは続けて指示を飛ばす。
「ミライ、建物を盾にして進む!
敵の照準を狂わせろ!」
「了解!」
「MS隊、配置につけ!
ガンダムは先行して遊撃・攪乱!
ガンキャノンはホワイトベースの護衛を優先!
ガンタンクは艦の上で砲撃で退路を確保しろ!」
インカム越しに三人の声が返る。
「了解、ガンキャノン行くぜ!」
「ガンタンク、出ます!」
「……アムロ、ガンダム行きます!」
ホワイトベースはビルの谷間を滑るように進み、
その前後左右をMS隊が固める。
ホワイトベースが南部へ向けて加速した瞬間、
ビルの影からマゼラ砲の砲撃が飛来した。
「来るぞ! 全機、迎撃開始!」
ブライトの声と同時に、
都市部突破戦が幕を開けた。
ガンキャノンはビルの屋上に着地し、
両肩のキャノン砲を上空へ向けて撃ち放った。
「撃てるもんなら撃ってみろよ、ジオンめ!」
二発のうち一発は外れたが、
もう一発がドップの腹部に命中し、爆炎が夜空を照らす。
しかし――
撃ち漏らした一機が、ビルの影から急接近してきた。
「この――!」
カイはガンキャノンの頭部を素早く向け、
バルカン砲を連射する。
火花が散り、ドップは機首から崩れ落ちて爆散した。
「ちっ……数が多いな!」
悪態をつきながらも、
カイは次の目標へ照準を合わせる。
◇ ◇ ◇
マゼラ砲の弾がビルを貫き、
破片が雨のように降り注ぐ。
ホワイトベースの上でガンタンクは、
120mm低反動キャノン砲を連続で撃ち続けていた。
砲撃の反動で車体がわずかに揺れ、
爆風が甲板を叩く。
「ハヤト、右だ!
右の方からも来るぞ!」
「分かってます!
でも……数が多い!」
ハヤトは必死に操縦桿を握りしめ、
迫るマゼラ砲の砲撃を避けるように車体を動かす。
リュウが叫ぶ。
「怯むな! ホワイトベースを通すぞ!」
ガンタンクの砲撃が、
南部の敵陣にわずかな突破口を開け始めていた。
その突破口へ向けて、
ホワイトベースは低空のまま加速していく。
◇ ◇ ◇
ビルの谷間を吹き抜ける風が、
ガンダムの装甲を叩くように鳴っていた。
アムロは息を荒げながら、
迫りくるドップの影を追う。
(……来る!)
上空から急降下してきたドップが、
機体腹部を開き、対艦ミサイルを構える。
「させるかぁっ!!」
ガンダムは前方へ飛び出し、ビームライフルを構える。
アムロが引き金を引くと、
青白い光がドップへ一直線に走り。
命中したドップは爆炎を上げながらビルの壁面に激突して爆発する。
だが、上空から更なる影が迫る。
「ドップ……!」
複数のドップが急降下し、
対艦ミサイルをホワイトベースへ向けて発射しようとする。
アムロは咄嗟にバルカン砲を撃ちだし、
迫る一機をドップの機首を叩き落とす。
(あの人は……ジオンの人だった?
それなら……どうして、あんなことを僕に……)
胸の奥のざわつきが消えない。
敵であるはずの自分にあんなことを言ったのか?
理由が分からない。
ただ、混乱と戸惑いが渦巻く。
思考が揺れた瞬間、
ビルの影から別のドップが飛び出す。
「しまっ――!」
ドップが旋回しながら対艦ミサイルを発射する。
「くっ……!」
アムロは反射的にスラスターを吹かし、
ガンダムをビルの壁面すれすれに滑らせた。
ミサイルが通り過ぎ、
ビルの角で爆発。
衝撃波がガンダムの背を押しつける。
アムロは歯を食いしばり、
操縦桿を引き倒した。
「邪魔だっ!!」
ビームライフルを構え、
急旋回してきたもう一機のドップを撃ち抜いて撃墜していく。
(敵……なのに。
どうして……)
胸が締め付けられる。
だが、戦場は待ってくれない。
「アムロ! 南側に突破口が開きつつある!」
ブライトの声が飛ぶ。
「……分かりました!」
アムロは操縦桿を握り直し、
ガンダムを前へ押し出した。
ビルの谷間を跳ねるように進み、
迫るドップの編隊へ突っ込む。
「ホワイトベースを通す……!
僕がやらなきゃ……!」
ビームライフルが火を噴き、
ドップの編隊を切り裂いていく。
都市部突破戦は、
アムロの決意とともにさらに激しさを増していった。
全体の流れをそのままに戦闘描写を少し修正しました。
上手く描ければ良いなと思ったんですが難しいですね。