ガンダムU.C. Altered Line 作:シャノワール
原稿を間違って削除したりして一から書き直してしまいました。
少しばかり変わっているかもしれません。
ガルマが司令室を出ると、
ガウ艦内は先ほどまでの戦闘の余韻を残したまま、
どこか張り詰めた静けさに包まれていた。
通路の照明は戦闘モードのまま薄暗く、
壁面には微かな振動が残っている。
乗員たちは声を潜め、ガルマの姿を見れば自然と道を開けた。
若い指揮官への敬意というより、
“ザビ家の名を背負う者”への緊張が漂っていた。
廊下を進むガルマの足取りは重い。
だが、その表情には迷いはない。
若い士官としての不安ではなく、
ザビ家の一員として背負わされた“責務”が、
彼の背筋を自然と伸ばしていた。
通信室の扉が開くと、
待機していた通信士たちが一斉に姿勢を正す。
「ガルマ様、ドズル中将との回線、確保できています」
ガルマは短く頷き、
深く息を整えて端末の前へ歩み寄る。
その仕草には、若さよりも“覚悟”が滲んでいた。
端末の画面が点灯し、
荒々しい息遣いと共に、
ドズル・ザビの巨躯が映し出される。
画面越しでも伝わる圧。
戦場の空気をまとった男の存在感に、
通信室の空気がさらに重く沈んだ。
「……ガルマか。
包囲戦の報告は受けた。
――何があった?」
ドズルの声は怒号ではない。
しかし、画面越しでも“失敗を許さない軍人としての圧”が肌を刺すように伝わってくる。
ガルマは背筋を伸ばし、静かに口を開いた。
「兄さん。
木馬の戦力について、至急報告があります。
これは……ザビ家として判断を仰ぐべき事態です」
その言葉に、ドズルの表情がわずかに険しくなる。
「……続けろ」
ガルマは資料を手に取り、
画面の向こうの兄へ向けて、静かに、しかし確かな声で言った。
「今回、木馬の包囲網を敷くにあたり、同時に潜入を行いました」
ドズルはゆっくり頷き、言葉を促す。
「その潜入で、木馬に関する情報を入手しました。
例の白いMSについても、詳細が手に入りました」
その瞬間、ドズルの表情が一変した。
画面越しにも分かるほど、瞳が鋭く見開かれる。
「……それは本当か!」
画面越しの迫力に、ガルマは思わず一歩後ろへ下がる。
弟の反応に気づいたドズルは、荒い息を整えるように軽く息を吐き、声を落とした。
「……すまん。少し取り乱した。
続けてくれ、ガルマ」
ガルマはわずかに頷き、再び資料へ視線を落とす。
その表情には、ザビ家の一員としての責務と、若い指揮官としての覚悟が滲んでいた。
「まず、あの新造艦についてですが――
MS運用を前提とした艦であることは間違いありません」
ドズルは低く唸る。
「やはりか……。
連邦も本格的にMS戦を視野に入れてきたか」
ガルマは次のページを示し、淡々と続ける。
「他にも、ミノフスキー粒子を利用した航行システムを搭載しています」
ドズルの眉がわずかに動く。
「……ミノフスキークラフトか。
確かサハリン家の嫡男が同じ研究をしていたな」
「ギニアス・サハリン少佐です。
アジア方面で研究を進めているはずです」
ガルマは頷き、その名を口にする。
ドズルは腕を組み、画面越しに低く唸った。
「そうか……ふむ。
それほど影響があるとは思わぬが」
ガルマは首を横に振り、資料を示しながら静かに説明を続けた。
「兄さん。
連邦も、わが軍も、従来の航空能力を持った艦はありません。
海上輸送艦や陸上戦艦ギャロップ、ガウのような大型輸送機で運ぶしかない。
それ以外は宇宙専用艦です。
つまり、地上で自由に航行できる戦艦など、本来存在しないのです」
ドズルは腕を組み、わずかに眉をひそめる。
「……つまり、地上で自由に航行できる戦艦など、本来あり得んということか」
ガルマは深く頷いた。
「はい。
地形の制約を受けずに高速で移動できます。
本来、そんなものは存在しないはずなのです。
しかし木馬は、それを可能にしている。
ミノフスキークラフトによって」
ドズルは息を呑み、画面越しに身を乗り出した。
「……なるほど。
それは確かに脅威だな」
ガルマはさらに資料をめくり、次の脅威へ話題を移す。
「そして、兄さん。
木馬以上に重要視すべきものがあります」
ドズルの目が細くなる。
「白いMSのことだな?」
「はい。
こちらは、木馬以上に戦局を変えかねません」
ドズルは低く唸る。
「理由を言え」
ガルマは資料を指で軽く叩き、静かに言葉を紡いだ。
「MSの性能。
使われている素材。
戦艦並みの火力を携帯できる武器。
そして――成長する学習装置です」
ドズルの表情が険しくなる。
「……どういうことか、詳しく説明しろガルマ」
ガルマは深く息を吸い、
白いMSが持つ“常識破壊”を語り始めた。
「白いMSは、単に高性能なだけではありません。
戦闘を重ねるごとに、OSが最適化されていく。
操縦者の癖や反応速度を学習し、次の戦闘ではより正確に動く。
つまり――“戦えば戦うほど強くなる”MSです」
ドズルの眉がさらに深く寄る。
「……そんなものが存在していいはずがない」
ガルマはページをめくりながら続ける。
「素材も異常です。
通常の装甲ではなく、戦艦級の火力に耐えられる新素材。
携行武器も、MSの規格を超えた出力を持っています」
資料のページをめくるたび、
ガルマが語る“白いMS”の異常な性能と、
木馬の常識外れの航行能力が明らかになっていく。
ドズルは画面越しに息を呑み、
その巨躯がわずかに前へ傾いた。
「……なるほど。
木馬と白いMSが揃えば、確かに戦局をひっくり返しかねん」
聞き終える頃には、
ドズルの顔は完全に軍人としての厳しい表情へと変わっていた。
ザビ家の一員としての責務と、戦場を知る者の直感が、
その表情に重く刻まれていた。
「……まさか、連邦がそこまでのモノを作っていたとはな。
確かに、この案件はすぐにでも兄貴たちに報告する必要があるな」
そう言ったあと、
ドズルはしばらく沈黙した。
画面越しでも分かるほど、重い思考がその巨躯を包んでいる。
そして――ふっと笑った。
「よくやった。
ここまで調べるのは難しかっただろう。
流石は俺の弟だ」
その声は、軍人としての厳しさではなく、
家族に向ける柔らかい響きを帯びていた。
ガルマは思わず視線を落とし、
わずかに肩をすくめる。
「い……いえ。
僕はただ、任務を……」
ドズルは軽く息を吐き、
画面越しに優しい声を向けた。
「ガルマ。
謙遜するな。
お前が“任務だ”と思ってやったことが、
今、ジオンの戦局を左右する情報になっているんだ」
ガルマは驚いたように目を見開き、
次の瞬間、静かに頷いた。
「これだけの実績なら本国へ戻しても問題ない。
誰も文句は言うまい」
「はい」
ドズルは資料を取り出し、
次の話題へと移った。
「それから、もう一つ。
保留していた中尉への処遇が決まった」
ガルマはわずかに目を見開く。
ドズルは資料をめくりながら続けた。
「本来なら、箔付けのために所属していた部隊は壊滅。
その後、シャアの部隊に救出され、臨時配属されていた……そこまでは知っているな?」
ガルマは静かに頷く。
「はい。詳しくは聞かされていませんが」
ドズルは少し言いづらそうに息を吐いた。
「まぁ、なんだ……上の“政治的な事情”もあってな。
色々と揉めて、処遇をどうするか保留していた」
「政治的な事情ですか」
ガルマは眉をひそめ、真っすぐに兄を見つめる。
「そうだ。
だが――シャア隊に配属されてから、お前のところへ来るまでに、いくつも功績を挙げている」
その言葉は、マリアへの評価そのものだった。
ガルマは嬉しさと、
自分にはまだ大きな功績がないという不甲斐なさが入り混じり、
複雑な思いで兄を見つめた。
ドズルは短く息を吐き、
画面越しに弟へ視線を向ける。
「ガルマ。
分かっていると思うが――今回の件は“お前の功績”として扱う。
たとえ部下が潜入し、情報を手に入れたとしてもだ」
「兄さん……!」
「異論は認めん。
お前はザビ家の人間だ。
上に立つ者としての立場がある」
その言葉は、軍人としての厳しさではなく、
ザビ家の兄としての“覚悟の確認”だった。
ドズルは資料を閉じ、
声の調子を少しだけ柔らかくした。
「マリア中尉は正式に昇進させる。
その後、正式にお前の部下として配属させる」
ガルマは息を呑む。
「それは、つまり……?」
ドズルはニヤリと笑い、言葉を続けた。
「ああ、副官として任命させる。誰にも異論は言わせん。
中尉ならお前を上手く補佐してくれるだろう。
一度、本国に戻ってもらわねばならんが……
その間の繋ぎはこちらで送る」
ガルマは深く頷き、敬礼した。
「……兄さん。
ありがとうございます。
必ず、役立てます」
「ああ。
お前の今後の活躍を期待している」
通信が切れ、
モニターはノイズを映し出した。
静かな通信室に、
ガルマの深い息だけが残った。
次の投稿は早くても一週間以内にしたいと思います。