ガンダムU.C. Altered Line   作:シャノワール

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ちょっと本編とは違う感じの話を書きたくなったので投稿します。
急にシイコ・スガイの話が書きたくなってしまい、本編とは一切、関わりありません。


閑話 正史IFルート―魔女と呼ばれた女 1

ペルグランデ区へ向かう車内で、シイコ・スガイは胸の奥に重たい影を抱えていた。

サイド7の空気は、どこか“平和すぎる”。

その静けさが、むしろ彼女の神経を逆撫でする。

 

地球では今もジオンとの戦闘が続き、焦げた土と火薬の匂いが日常の一部になっている。

前線で過ごした時間が長すぎたせいか、サイド7の穏やかな生活音は、彼女には現実味が薄かった。

まるで、戦場を知る者だけが取り残されているような感覚――

その“ズレ”が、胸のざわつきとなって残る。

 

シイコは、連邦が急ピッチで進めるMS開発計画の一環として、

少し前に前線基地からサイド7へと着任した。

だが、基地の静けさは、戦場帰りの身体にはまだ馴染まない。

窓の外に広がる平和な景色を眺めながら、彼女は小さく息を吐いた。

 

ルウム戦役――

圧倒的な物量を誇ったはずの連邦軍は、ジオンのMS部隊の前に為す術もなく敗れ去った。

従来の戦術も兵器体系も通用しないという現実は、連邦の軍中枢に深い危機感を植えつけることとなる。

 

その結果、レビル将軍の主導で「V作戦」が急遽立ち上げられた。

従来の戦闘機や戦車ではMSに太刀打ちできない――

ならば、連邦もMSを開発し、運用できる人材を確保するしかない。

 

だが、MSは従来の兵器とはまったく異なる操縦体系を持つ。

扱えるのは、

“反応速度が速く、空間認識能力に優れ、極限状況でも判断を誤らない者”

に限られていた。

 

そこで各地の前線から、条件に合致するパイロットが選抜された。

シイコ・スガイもその一人である。

 

彼女は戦闘機パイロットとして前線を飛び続け、

高機動戦闘での操縦精度、瞬間的な判断力、極限状態での冷静さを評価されていた。

その能力は、MSの操縦適性試験でも突出していた。

 

こうしてシイコは、MS候補生として訓練とテストを繰り返す日々へと身を投じることになった。

“新しい戦争の形”に対応するため、連邦が選び抜いた数少ない人材の一人として。

 

車がドックへ近づくと、シイコは速度を落とし、ゲート前で一時停止した。

すぐに警備兵が姿を現し、確認のために車へ歩み寄る。

シイコは首から下げていたIDカードを外し、警備兵へ手渡した。

兵は端末にカードを通し、数秒ほど指先を滑らせて確認作業を行う。

やがて端末の画面を閉じ、シイコへ向き直って敬礼した。

 

「シイコ・スガイ少尉、通ってよし。

 そのまま格納庫へに向かわれるんですか?」

 

シイコは即答する。

 

「いいえ、今日は技術開発区へ。

 まもなく到着予定なので、テム技術大尉へ報告に向かいます」

 

警備兵は納得したようにうなずき、行き先を示した。

 

「でしたら、技術開発区は第3ブロックの奥です」

 

「了解」

 

短く返事すると、ゲートが開き、車はゆっくりと基地内部へ進入した。

ドック内部の通路をしばらく走り、技術開発区の駐車スペースに車を停める。

シイコはエンジンを切り、深呼吸してから車を降りた。

 

技術開発区は、他の区画とは違い、妙に静かだった。

整備員の怒号も、工具の金属音もない。

聞こえるのは、シイコのブーツが床を叩く乾いた音だけ――

カツン、カツンと、通路に反響していく。

 

通路の奥へ進むと、「主任技術室」と刻まれたプレートが目に入る。

シイコはその前で足を止め、扉の向こうに耳を澄ませた。

中からは、コンピューターの起動音と、キーボードを叩く軽快な音が漏れている。

 

「失礼します。

 シイコ・スガイ少尉、入室します」

 

扉を開けて入室し、シイコは敬礼した。

 

室内には機材が所狭しと並び、机の上には資料らしき紙束が何層にも重なっている。

その中央で、痩せた男――テム・レイ技術士官が端末に顔を寄せていた。

 

「ああ、シイコ君か。どうしたのかね?」

 

テムは端末から視線を上げ、シイコへ向き直る。

 

「はい。まもなくホワイトベースが入港します。

 担当技術士官が、搬入についてレイ大尉へ指示をお願いしたいとのことです」

 

「そうか、分かった。後で私もそちらへ向かおう」

 

「了解しました。それでは――」

 

シイコが退室しようとした瞬間、テムが呼び止める。

 

「ああ、すまない、シイコ君。少しばかり聞いても良いかね?」

 

「……はい、問題ありません」

 

一瞬だけ疑問の色を見せたが、すぐに平静な表情へ戻る。

 

「それでシイコ君。二号機の操縦はどうかね?」

 

開発中のMS試作機――二号機についての質問だった。

シイコは姿勢を正し、軍人らしい落ち着いた声で答える。

 

「……正直に申し上げますと、驚きました」

 

テムが眉を上げる。

 

「ほう。どんな点がかね?」

 

操縦桿を握った時の感覚を思い出しながら、慎重に言葉を選ぶ。

 

「戦闘機とは操縦体系こそ違いますが……反応が“素直すぎる”と感じました。

 入力に対して即座に応えてくれるので扱いやすい反面、少し違和感があります」

 

「ふむ。違和感とは?」

 

「私が操作するより、機体が“わずかに先に動く”んです。

 誤差と言えば誤差ですが……戦闘機乗りとしては気になります。

 反応が素直すぎて、逆に“過剰”に感じる場面がありました」

 

テムは数秒ほど考え、静かに頷いた。

 

「……なるほど。二号機はまだ学習装置が未成熟でね。

 一号機の基本動作データと、基礎的な戦闘データしか入っていない。

 装置の調整が追いついていない分、入力と装置側の修正に誤差が生じたのだろう」

 

シイコはわずかに目を見開く。

 

「……つまり、機体の反応のズレは学習装置のデータ不足が原因ということですね?」

 

テムは満足げに笑った。

 

「その通りだよ、シイコ君。現状ではまだまだデータが足りない。

 こればかりは学習を続けていくしかないんだ。よろしく頼むよ」

 

「分かりました」

 

シイコは敬礼し、扉を開けて静かに退室した。廊下に出ると、内放送の電子音が基地内に響き、シイコの耳へ届いた。

 

「ホワイトベース、軍港へ入港準備。

 関係者は所定の位置につき待機してください」

 

シイコは歩みを止め、わずかに息を整える。

 

――来たか。

 

再び駐車場の車へ乗り込み、軍港へ向けて走り出す。

住宅区を抜けると、避難サイレンが鳴り響き、住民たちがゆっくりと避難誘導に従っていた。

その歩調はどこか緩く、緊張感がまるで感じられない。

 

「……平和ボケってやつかな」

 

小さく息を吐きながら、シイコは胸のざわつきを押し込める。

この平和が永遠に続くはずがない――

前線を知る彼女には、その現実が痛いほど分かっていた。

 

軍港へ入ると、空気が一変する。

作業員たちが忙しなく走り回り、指示の声が飛び交い、機材の駆動音が重なり合う。

シイコはその流れに逆らわず、停泊位置へ向かって歩き出した。

 

通路の窓から外を覗くと、巨大な白い艦影がゆっくりと軍港へ滑り込んでくるのが見えた。

 

「……あれが、ホワイトベース」

 

人工光を反射しながら、白い艦体が静かに接岸する。

逆噴射によるスラスターの減速音が低く響き、艦底のランディングギアがレールに噛み合う。

わずかな振動が床を伝い、艦が完全に停止したことを知らせた。

 

すぐに作業員たちが艦首へタラップを運び込み、手際よく固定していく。

その動きは訓練された軍港の職人技で、無駄が一切なかった。

 

シイコは列の前方に立ち、制服の襟を整え、姿勢を正す。

タラップが固定され、艦のハッチがゆっくりと開いていく。

白い艦影の内部から、戦場へ向かう者たちの気配が滲み出るようだった。

 

その瞬間、シイコは自然と背筋を伸ばし、敬礼の姿勢を取った。

 

艦のハッチが完全に開くと、白い艦内から一人の士官が姿を現す。

まだ若いが、凛とした気配を纏った男――ブライト・ノア少尉。

士官学校出のエリートらしい、張り詰めた空気をまとってタラップを降りてくる。

 

シイコは列の前方に立ち、軍人らしい動作で敬礼した。

 

「シイコ・スガイ少尉、MS候補生としてサイド7に着任しております。

 ホワイトベースの入港、心より歓迎いたします」

 

ブライトは一瞬だけ視線を鋭くし、短く返す。

 

「……ご苦労。ホワイトベース隊のブライト・ノア中尉だ」

 

敬語ではあるが、

どこか“現場上がりの兵士と自分は違う”と線引きするような、

士官学校出の者特有の気負いが滲んでいた。

 

「MS候補生……なるほど。

 上層部が言っていた“前線から引き抜かれた優秀なパイロット”というのは貴官のことか」

 

ブライトはシイコを値踏みするように見つめる。

その目には、エリートとしての自負と、未知の戦力への警戒が混じっていた。

 

「失礼だが、戦闘機からモビルスーツへの転換訓練に不安はないか?」

 

シイコは落ち着いた声で答える。

 

「ご心配なく、中尉。

 既に二号機の調整とデータ収集に参加しています。

 ホワイトベースへの搭載後、正式に二号機のパイロットとして乗る予定です」

 

ブライトの目がわずかに見開かれた。

 

「……!

 貴官が、あのRX-78の……」

 

その声には、

“連邦の未来を左右する機体を任される者”への驚きと、

自艦に乗り込む戦力への期待が入り混じっていた。

 

ブライトはシイコの目をまっすぐに見つめ、

真剣な表情で深く頷く。

 

「なるほど……ならば話は早い。

 我が艦はここへ来る途中、ジオンの艦に捕捉され、執拗な追跡を受けていてな」

 

その言葉に、シイコは眉を寄せる。

 

「……振り切れていない可能性があると?」

 

ブライトは一度周囲を見回し、軍港の静けさを確かめるように息を整えた。

その仕草には、若い士官らしい慎重さと、背負わされた任務の重さが滲んでいる。

 

「……正直に言えば、我々は余裕のある状況ではない」

 

言葉を選ぶように、少しだけ間を置く。

 

「ホワイトベースは新造艦だ。乗員も訓練途上、戦力も十分とは言えない。

 そんな状態でジオンの追跡を受け続けている。

 艦長も、私も……一瞬の判断が艦の命運を左右する場面が続いている」

 

若い顔に似合わぬ苦渋が浮かび、しかしすぐに引き締まった表情へ戻る。

 

「だからこそ、貴官のような実戦経験者が合流してくれるのは大きい。

 新兵器の受領だけではなく、戦力としても――我々は心底、助かる」

 

ブライトはそう言い切ると、緊張を押し隠すように背筋を伸ばした。

 

シイコはその言葉を聞きながら、無意識に背筋を正す。

胸の奥で、久しく感じていなかった“戦場の匂い”が微かにざわついた。

 

「……なるほど。状況は思った以上に逼迫しているわけですね」

 

声は落ち着いていたが、その眼差しは鋭い。

すでに戦闘を想定した思考へ切り替わっている。

 

「追跡を受けているなら、艦の入港も安全とは言えません。

 ジオンがこのコロニーの外縁まで来ている可能性もある」

 

ブライトはわずかに目を見開いた。

叩き上げの兵士特有の“勘”を持つ者の言葉は、若い士官の胸に重く響く。

 

「……そうだ。だからこそ急がねばならない。

 ホワイトベースは新兵器を受領し、すぐにでも出港できる体制を整えたい」

 

シイコは短く頷く。

 

「了解しました。艦長への挨拶の後、二号機の最終チェックに入ります」

 

その返答は、任務に向かう兵士のものだった。

ブライトはその確かな声に、わずかに緊張を解かれたように息をつく。

 

ブライトは短く頷き、シイコへ向き直った。

 

「私はこれから開発責任者のテム・レイ大尉を迎えに行く。

 少尉、まずは我が艦のパオロ艦長へ挨拶を。

 ブリッジへ案内しよう。ついてきてくれ」

 

「了解しました、中尉」

 

シイコは落ち着いた声で返答し、ブライトの後に続いた。

歩く姿勢は自然に背筋が伸び、前線で鍛えられた軍人らしい重心の低さがある。

若いブライトの背中を追いながら、彼女はこの艦の“若さ”を感じていた。

 

ホワイトベース内部は新造艦特有の金属の匂いが漂い、

まだ使い慣れていない機器の起動音が微かに響いている。

シイコはその音を聞きながら、

――この艦はまだ未熟だ。だが、伸びしろはある

と静かに判断していた。

 

やがてブリッジ前へ到着する。

ブライトが扉を開くと、内部ではクルーたちが慌ただしく計器を操作していた。

その中央に、白髪の初老の男――パオロ・カシアス艦長が立っていた。

 

長年の軍務で鍛えられた重心の低い立ち姿。

疲労の色は隠せないが、指揮官としての威厳は揺るぎない。

シイコはその姿を見て、

――この人は“戦場を知る指揮官”だ

と直感した。

 

ブライトは姿勢を正し、声を張る。

 

「艦長。MS候補生のシイコ・スガイ少尉をお連れしました」

 

パオロはゆっくりと振り向き、シイコを見据える。

その視線は厳しいが、経験者を評価する者の温度があった。

 

シイコは軍人らしい動作で敬礼する。

 

「シイコ・スガイ少尉です」

 

パオロは穏やかに頷いた。

 

「うむ、ご苦労。

 君がMS候補生か……目が良い。

 前線帰りの者は、状況を読む勘が違う」

 

その言葉に、シイコは静かに胸の奥が熱くなるのを感じた。

年齢に見合った“経験者への評価”だった。

 

ブライトは艦長へ一礼し、短く告げる。

 

「艦長、私はテム・レイ大尉を迎えに行きます。

 ガンダム搬入の指示を受ける必要がありますので」

 

パオロは頷く。

 

「頼んだぞ、ブライト」

 

ブライトはシイコへ視線を向ける。

 

「少尉、艦長との挨拶が済んだら、二号機の最終チェックを。

 我々は長く停泊できない」

 

「了解しました、中尉」

 

ブライトは短く頷き、ブリッジを後にした。

その背中には、若い士官ながら艦を守る責任を背負う者の緊張が滲んでいた。

 

残されたシイコは、パオロ艦長へ向き直る。

パオロはその姿を見て、静かに言った。

 

「……スガイ少尉。

 君のような者が来てくれたのは心強い。

 この艦はまだ未熟だ。だが、経験者がいれば戦える」

 

その言葉は、指揮官としての信頼と覚悟が込められていた。

 

「微力ながら、尽力いたします」

 

シイコは力強く敬礼しながらそう口にした。




少し長めになってしまいました。
彼女やそれぞれのキャラクターの口調の書き方が難しいですね。
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