ガンダムU.C. Altered Line 作:シャノワール
上手く纏めようとするとどうしても長文になってしまう…。
赤と白が交わる場所で(後編)
撤退しファルメルへ戻ったデニムは、シャアの前に立ち報告を始めた。
「弾を通さない装甲と、MSの装甲を容易く切り裂く武器……。
君の言う通りの性能とは、信じがたいが」
シャアは低く唸り、眉をわずかに寄せる。
デニムは狼狽を隠し切れない表情ながらも、声だけは震えさせなかった。
「お言葉ですが、私は確かに見ました。
目の前で……ジーン軍曹がやられるところを!」
シャアは静かに目を閉じ、短く息を吐いた。
「軍曹。君は私の命令を守った。
責任を感じる必要はない。
もし責任があるとすれば――読み違えた私にある」
「……っ!」
デニムは言葉を詰まらせ、唇を噛む。
「今は休め、曹長。
今後の作戦に、君の冷静さが必要になる」
「了解です」
敬礼したデニムは、重たい足取りでブリッジを後にした。
シャアはその背を見送り、静かに呟く。
「……しばらく曹長は待機だ。
場合によっては、私が出ることになる。
その時は指揮を任せる、少尉」
その時、通信機の受信ランプが点滅した。
「少尉」
突然の呼びかけにドレンは一瞬戸惑うが、すぐに姿勢を正す。
「ドズル中将からの呼び出しだ。レーダー通信回路を開け」
「わかりました」
◇ ◇ ◇
「シャア! なぜ戻らなかった!?
昨夜はな、貴様の作戦終了を祝うつもりだったんだぞ!
貴様がもたもたしてくれたおかげで、晩餐の支度は全部無駄になった!」
モニター越しに、ドズルの怒号が艦橋に響き渡る。
「申し訳ありません。
帰還途中で、連邦軍のV作戦をキャッチしましたので。ドズル中将」
シャアは悪びれた様子もなく淡々と返す。
「……V作戦だと?」
怒りが一瞬で消え、ドズルの表情が鋭くなる。
「はっ。連邦の新造艦と遭遇し、追跡の結果――
連邦のMSらしき存在を確認しました」
V作戦。
連邦内部のスパイから断片的に伝わっていたMS開発計画。
その実態は霧の中だった。
シャアの報告は、ドズルにとって喉から手が出るほど欲しい情報だった。
「部下を潜入させ偵察したところ、開発はほぼ成功している模様。
さらに、敵MSは我々の弾を弾き、装甲を容易く切り裂くとのことです」
ドズルの目が大きく見開かれる。
「それは本当か!?」
「はい。部下が命を賭して得た情報です。間違いありません」
ドズルは唸り声を漏らす。
「つきましては、作戦終了後の追跡だったため……
ミサイル、弾薬が底をつきまして」
「補給が欲しいのだな? わかった。
だが、人員は回せん。どこも足りておらん」
「幸いであります。
それと、ザクの補給を二機」
「ザクを二機も失くしたのか?」
「はっ、中将。連邦軍の“たった一機”のMSのために」
ドズルは短く考え、すぐに決断した。
「……よし、ザクも送る。
V作戦のデータを一つでも多く手に入れろ。
できれば、そのMSを奪え!」
「やってみせます」
「うむ」
シャアは一拍置き、静かに口を開いた。
「最後に、もう一つ報告がございます。
オーエンス家の令嬢を救助しました」
ドズルは思わずモニターへ身を乗り出す。
「なーにー!?
作戦宙域で生死不明と聞いていたが!」
「はい。航行中に緊急信号を受信し、向かったところ……
大破したザクを発見。コクピットは無事でした」
「そうか……オーエンス家はジオン軍需の要だ。
娘が死んでいたら大問題になっていた。よくやった!」
「それで、彼女の処遇は?」
「兄貴に報告し判断を仰ぐ。
オーエンス家は重要だ。恩義を感じるだろう。
――シャア、決定が下るまで、しばらく中尉を預かれ」
「了解しました、中将」
敬礼を行い、通信が切れると、シャアは静かにドレンへ向き直った。
「少尉。突撃隊員を三名招集したまえ」
ドレンは思わず眉をひそめる。
「……は?
いえ、補給艦の到着を待つのでは?」
シャアはわずかに口角を上げ、淡々と告げた。
「戦いとは、常に二手三手先を読むものだ。
デニムたちが脱出できたということは――逆も可能だろう?
情報は、早く手に入れるほど価値がある」
その声音には、確信と余裕が同時に宿っていた。
◇ ◇ ◇
サイド7「グリーン・ノア」デブリ宙域
「そろそろ少佐も位置についた頃合いだ。
機関始動、推力3%。主砲スタンバイ」
「少佐からの合図です」
「よし。狙うはサイドスペースゲート。
ただし、ドッキングベイへの直撃は避けろ」
「了解」
ファルメルはデブリの陰からゆっくりと姿を現し、
主砲をコロニーへ向けて放つ。
赤い光が一直線に走り、
サイドゲートの一角を正確に撃ち抜いた。
ファルメルの主砲が赤い光を放ち、サイドゲートの一角を撃ち抜く。
その光を見上げ、シャアはわずかに口元を綻ばせた。
「ふふ……少尉もなかなかやる」
スレンダーが工事用ハッチを指し示す。
「はっ。この出入り口なら内部へ繋がっています。潜入は可能かと」
「よし。行け」
影が影へ溶け込むように、四人はコロニー内部へ消えていった。
◇ ◇ ◇
ファルメル内 ブリッジ
ドレンは虚空に浮かぶコロニーを見つめていた。
その時、ブリッジの扉が開き、マリアが姿を見せる。
「オーエンス中尉? 自室で休んでいたのでは?」
マリアは軽く敬礼し、息を整える。
「砲撃が聞こえたので……。状況は?」
ドレンは一瞬だけ迷い、しかし軍人らしく簡潔に答えた。
「少佐はデニム曹長らの報告を受けた後、中将と通信を行いました。
内容は少佐のみが把握しております。
その直後、ほとんど間を置かずに潜入へ移行されました」
「そんなに早く?」
「はい。敵が動く前に情報を掴むべきだと判断されたのでしょう」
「……そうでしたか」
説明を聞きながら、マリアの胸に小さな違和感が灯る。
(中将と……何を話したのだろう)
ドレンは続けた。
「少佐は突撃隊員三名を率いて内部へ。我々は外から支援に回っています」
「……了解しました」
ドレンは少し声を落とす。
「中尉。少佐はあなたの判断を高く評価していました。
いずれ、直接説明があるでしょう」
マリアは小さく頷いた。
(……原作通りだ。でも、細かいところは曖昧。
確か、この後――)
記憶の奥に沈んでいた“次の出来事”が浮かび上がる。
その瞬間、通信が割り込んだ。
≪ファルメル、受信できるか? 私だ≫
「こちらファルメル。少佐の識別、確認できます」
≪敵が出てくる。
レーザーラインに乗せて、私とスレンダーのザクを第一種装備で射出しろ≫
「了解」
「ザク、射出用意。
少佐の援護を行う。145型ミサイル、発射準備」
「ミサイル装填完了」
「目標は――ゲートから出てくる木馬」
ミサイルが発射され、真っすぐに木馬へ吸い込まれるように飛んでいく。
数秒後、二つの爆発が外壁に淡く広がった。
「どうだ。当たったか」
「……いえ。撃墜されたようです」
艦橋の空気がさらに張り詰める。
マリアは艦橋後方で、モニターに映る戦況を静かに追っていた。
赤いザクは圧倒的な機動で優位を取るが、火力が足りない。
ガンダムはシャアを捉えきれずに苦戦しているが、装甲は異常なほど硬い。
どちらも決め手を欠き、戦況は膠着しつつあった。
(……やはりザクでは勝てない。
いずれ量産されるジムも同じ武装を使う。
そうなれば、数で勝る連邦に押し潰される)
攻撃は通らず、逆にこちらを一撃で葬る白いMS。
ジオンにとっては、まさに悪魔のような存在。
(もし私が対峙することになったら……どうやって勝つ?
無理だ。ニュータイプでもない私が、覚醒したアムロ君に勝てるわけがない)
思考の深みに沈んでいたその時――
「スレンダー軍曹のザクが消失しました!」
艦橋の空気が一瞬で凍りつく。
「速度を維持しつつ後退!
少佐の位置は!」
「……後退行動に移っています!
敵の追撃はありません!」
モニターには、背を向けたままこちらへ後退するシャアのザクが映る。
「少佐の帰投後、全速で退避する!」
マリアは原作通りの展開に安堵しつつも、
胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
(……ここまでは同じ。でも、この先は?
私がいることで、何かが変わる可能性だってある)
「少佐、帰投コースに入りました!」
「よし。ハッチを開け! 誘導を急げ!」
傷だらけの赤いザクがゆっくりと滑り込んでいく。
数分後、シャアが艦橋へ姿を現した。
ヘルメットを脇に抱えたその表情は冷静。
だが、わずかに疲労の色が滲んでいた。
「少佐、お怪我は……」
「問題ない。
……木馬は?」
「発進しました。現在、コロニー外へ離脱中です」
シャアはモニターを見つめ、静かに息を吐いた。
「連邦の白いMS……報告以上だ」
悔しさと興奮が入り混じった声だった。
「それほどなのですか?」
「ああ。とんでもないものを作ったな、連邦は」
シャアはふと視線を横へ向け、マリアを見つけた。
「中尉。伝えるのが遅くなってすまない。
一刻を争う状況だったため、後回しになってしまった」
「いえ、問題ありません」
「君のことだが……中将より、しばらくこの艦で預かるよう命じられた。
上の決定が下るまでは、ここにいてもらう」
マリアは静かに頷いた。
「了解しました」