ガンダムU.C. Altered Line 作:シャノワール
書けましたので投稿します。
ルナツーでの攻防
マリアの胸の奥がざわついていた。
今回は、私がいる。
――その事実が、どんな波紋を広げるのか。
不安が喉元まで上がるが、指揮官としてそれを表に出すわけにはいかない。
「監視網に触れないよう接近。少佐が潜入したら、警戒態勢を維持して待機する」
オペレーターたちが素早く動き出す。
マリアは静かに息を整え、モニターに視線を戻した。
――どう転んでも、最悪の未来だけは避ける。
そのとき、通信が入る。
≪こちらシャア。潜入を開始する≫
短い通信。
だが声はいつも通り冷静で、迷いがない。
マリアは小さく呟いた。
「ご武運を、少佐」そして画面に集中する。
◇ ◇ ◇
ルナツー外壁の影に身を潜め、シャアは無音で進んだ。
背後には数名の工作員。
宇宙は、彼らの呼吸すら飲み込むほど静まり返っている。
外壁で作業する連邦兵を確認し、シャアは内心で呟く。
――警備が甘い。
ハンドサイン一つで、部下に射撃を命じた。
外壁の継ぎ目を滑るように移動しながら、シャアは部下を別班として散らし、各自の持ち場へ向かわせる。やがて彼はゲート前に辿り着いた。連邦の戦艦が並ぶドックの中に、木馬の姿が見える。
背後の部下が小声で問う。
「少佐、行きますか?」
シャアはサーモグラフィカメラを覗き込み、ゲート周辺に張られた赤外線を確認した。
迂闊に近づけば即座に警報が鳴る。判断は一瞬だった。
「赤外線探知機だ。
あれに気を付けつつ、機雷を仕掛ける」
部下たちは散開し、要所へ小型爆弾を設置していく。
シャアは最後の確認を終えると、外壁へ戻り短く命じた。
「起爆」
無音の宇宙に、鈍い衝撃が走る。
電気系統がやられたのか、内部は緊急電源へ切り替わり、赤い警報灯が点滅した。
ルナツー内部は瞬く間に混乱に包まれる。
走り回る連邦兵の影がゲートの隙間から見えた。
シャアは冷静に状況を観察し、通信を開く。
≪こちらシャア。
マリア中尉、ザクを出せ。
ゲートを制圧し、脱出経路を確保しろ。
私は内部を探る≫
≪了解しました≫
短く的確な応答。シャアは再び影の中へ消えた。
◇ ◇ ◇
通信が途切れると同時に、マリアは動いた。
「ザクを二機、発進。
ゲート付近で待機させて。
少佐と合流できるよう調整して
残り一機は、ファルメルの防衛にして」
マリアは次々と指示を飛ばす。
その声には一切の迷いがなかった。
(……ガンダムは出てくる。
だが、こちらにも手はある)
「それと――各機、クラッカーを携行させてください」
「クラッカーを?
中尉、それは……」
ドレンが思わず問い返す。
マリアは振り返らず、淡々と説明した。
「白いMSへの妨害用です。
決定打にはなりませんが、動きを乱せます。
センサーに当たれば視界を奪える」
ドレンは息を呑み、すぐに頷いた。
「……なるほど。確かに有効ですな。
了解しました、すぐに準備させます」
ブリッジ全体がマリアの指揮のもとで統率されていく。
(やれることはやるだけ。損害を最小限に抑えるためにも)
マリアはモニターを強い眼差しで見据えた。
「少佐が脱出するということは、作戦続行が不可能になったということです。
合図と同時にゲートを制圧し、撤退を最優先します」
その声は静かだが揺るがない。
◇ ◇ ◇
シャアは混乱を利用し、数名の部下を引き連れてドックへ戻る。
内部の警備は他区画へ回されているのか、わずかな連邦兵しかいない。
遮蔽物の影を縫うように移動し、木馬の近くまで接近する。
(……今なら木馬を押さえられる。混乱の中で破壊することも可能だ)
制圧の準備を進めるそのとき、複数の影がドックへ駆け込んでくるのが見えた。
少年、青年、女性。――その中に、妹のアルテイシアの姿があった。
「アルテイシア……なぜここに?」
シャアの動きが一瞬止まる。視線が乱れ、指先が硬直する。過去の記憶が胸を刺すように蘇るが、時間は許さない。
「誰だ! ジオン兵だと……!?」
青年が気付き、銃を構える。
銃声が飛び交う中、シャアは身を翻して遮蔽物へ飛び込み、即座に指示を出す。
「散会しろ、物陰へ!
全員撤退。
残存機雷、起爆」
潜入は失敗だが、収穫はあった。シャアは撤退を決断する。ゲートへ向かう途中、連邦の戦艦がゆっくりと動き出し、進路を塞ごうとするのを見た。
(邪魔だな)
その瞬間、仕掛けていた機雷が爆発し、戦艦の船体が大きく揺れた。進路を外した戦艦はゲートの縁に引っかかり、巨大な壁となって通路を塞ぐ。爆風に身を伏せながら、シャアは状況を一瞬で読み取った。――いい位置だ。これなら追撃は出来まい。
「よし、このまま脱出する」
彼は低く呟き、影のような動きでゲートへ走った。ゲートを抜けた瞬間、通信が入る。
≪少佐、ザクを射出します!≫
ファルメルのカタパルトが閃光を放ち、一機のザクが宇宙へ滑り出す。シャアは無重力の中を矢のように飛び、コックピットへ滑り込んだ。起動音と共にモノアイが赤く光る。スラスターが噴き上がり、シャアのザクは宇宙空間へ滑り出した。
(良いタイミングだ、中尉)
周囲へ展開していた二機のザクが接近する。
≪マチュウ、護衛につきます!≫
≪フィックス、戦闘準備完了!≫
ルナツーのゲートは爆煙に包まれている。シャアはスラスター出力を上げ、機体を前傾させた。――混乱は続いている。今ならまだ間に合う。
「よし、再びドックに潜入し、一気に木馬型戦艦とモビルスーツを叩く!」
赤い残光を引きながら、小隊はルナツーへ向けて再突入していった。
◇ ◇ ◇
モニター越しに、ルナツーへ向かうシャア隊の軌道を見据えるマリア。
赤い残光を引きながら、四機のザクが隊列を組んで進む。
「中尉、レーダーに新たな反応が!」
オペレーターの声が鋭く響く。
マリアは即座に視線をレーダーへ移した。
「ルナツー内部から二機、ゲートを通過してきます!
反応パターンから……MS一、戦闘機一と思われます!」
(……来た。避けられない相手)
胸の奥が冷たく締め付けられる。
だが、表情は微動だにしない。
「シャア隊に接近中。距離、急速に縮まっています!」
「映像、回線に回して」
モニターが切り替わり、ゲートから飛び出す二つの影が映し出される。
一つは戦闘機――そしてもう一つは、白い機体。
(あれが……ガンダム)
マリアは息を整え、すぐに指示を飛ばした。
「艦砲、射撃準備。
白いMSの動きを牽制して。
味方機の射線に入らないよう、十分に注意して」
その直後、通信が割り込む。
≪……中尉、聞こえている≫
シャアの声だ。
いつもの余裕を含んだ声音だが、戦場の緊張が滲む。
マリアは迷いなく応じた。
「少佐、白いMSは装甲と出力は桁違いですが、
機動性はザクほどではありません。
ただし――接近戦は危険です。
他の機体では持ちません」
短い沈黙。
シャアが状況を見極めている気配が伝わる。
マリアは続けた。
「艦砲で動きを抑えます。
部下の二機は少佐の援護に専念させてください。
ガ…白いМSと正面から渡り合えるのは……少佐だけです」
その言葉に、通信の向こうで微かな息が漏れた。
≪……その状況判断は妥当だ、中尉。
その指示に合わせよう≫
それは従属ではない。
シャア・アズナブルという男が、
“合理的だから採用する”
と判断した声だった。
≪全機、隊形を変える。
私が白いMSを引き受ける。
マチュウ、フィックスは援護に回れ!≫
モニターの中で、シャアのザクが鋭く旋回し、
ガンダムへ向けて突進する。
二機のザクは左右に散開し、
シャアの死角を埋めるように動き始めた。
指示を飛ばし終えると、マリアはドレンへ声を向けた。
「ドレン少尉。
ルナツー側からの砲撃――可能性はありますか?」
ドレンは即座に端末を確認し、短く答える。
「ありません、中尉。
先ほどの爆発で主砲系統が沈黙しています。
砲撃能力はほぼ失われているはずです」
マリアは小さく頷き、再びモニターへ視線を戻した。
その瞳は揺らぎなく、迫り来る白い機影を捉えている。
(ここからが本番……落ち着いて)
ブリッジの空気が張り詰める中、
マリアは次の指示を出す準備を整えていた。
艦砲が火を噴き、白い機体の周囲に火花が散った。
ガンダムは装甲で受け止めるように進路を変え、最小限の動きで弾道を外していく。
(……やはり、機動性はそれほどではない。
だけど、あの装甲と反応速度……正面から撃ち合えば押し負ける)
マリアは歯を噛みしめ、次の指示を飛ばした。
「牽制で十分。射線を維持して」
砲撃から発射される。
白いMSは再び避けようとした瞬間――
赤い残光が画面を横切った。
シャアのザクがマシンガンを構え、連射が閃光となってガンダムへ降り注ぐ。
ガンダムはシールドをわずかに傾けただけで弾丸を弾き返した。
白い腕が持ち上がり、巨大なバズーカがシャアへ向けられる。
砲口が光を帯びた瞬間、
シャアのザクが急加速し、ガンダムの懐へ滑り込んだ。
≪甘い!≫
ヒートホークが赤熱し、
ガンダムのバズーカを横から叩き斬る。
切断されたバズーカは宙へ漂い、遅れて爆発した。
(……やっぱり、少佐だけだ。
あの距離で反撃に出られるのは)
しかしガンダムも黙ってはいない。
頭部のバルカンが火を噴き、シャアのザクへ向けて弾幕を撒き散らす。
シャアのザクがスラスターを吹かし、
バルカンの弾道を紙一重でかわす。
そのたびに火花が散り、
モニター越しのマリアの心臓が跳ね上がる。
(……これが、ガンダム。
そして――少佐の技量)
二機のザクが左右から援護射撃を加え、
ガンダムの動きを縛ろうとするが、
連邦の戦闘機が割り込み、上手くいっていない。
(牽制は効いている……!
今は少佐が主導権を握っている。
でも、あと一歩足りない)
マリアは息を整え、短く指示を飛ばした。
「クラッカー投下を!
それで隙を作ってください!」
次の瞬間、複数の閃光が白い機体の周囲で炸裂した。
ガンダムが一瞬だけ動きを止める。
(……今!)
シャアのザクがヒートホークを構え、
赤い残光を引きながら一気に距離を詰める――
だがその瞬間、ゲートで巨大な爆発が起きた。
「っ……!」
爆風が宇宙空間へ吹き出し、
シャアとガンダムは同時に回避行動を取る。
しかし、回避が遅れた一機のザクが爆風に巻き込まれ、
機体ごと弾き飛ばされていった。
≪うわあああっ!!≫
通信が途切れ、モニターから機影が消える。
マリアは息を呑み、即座に判断した。
「少佐、撤退してください。
これ以上は危険です。
ルナツーから援軍が来ます」
爆風が収まり、戦場に一瞬の静寂が訪れた。
≪……中尉の言う通りだ≫
シャアの声が通信に戻る。
その声音には焦りはなく、冷静な戦術判断が宿っていた。
≪この状況での継戦は得策ではない。
残存一機は俺の後ろにつけ。撤退する≫
≪了解しました、少佐≫
シャアのザクと残った一機が反転し、ファルメルの方角へ向かう。
だが、白い機体はすぐに追撃を開始した。
(来る……!)
「艦砲で追撃を牽制してください!」
ファルメルの艦砲が火を噴き、
ガンダムの横を通り過ぎていく。
白い機体は追撃を中断して距離を取る。
二機のザクはスラスターを全開にして離脱した。
ガンダムは追おうとしたが、艦砲の牽制が続き、
ついに追撃を断念する。
やがて、シャアのザクがファルメルのカタパルトデッキに滑り込んだ。
マリアはブリッジからその姿を見届け、
深く息を吐いた。
◇ ◇ ◇
マリアはすぐに姿勢を正した。
「少佐。
ご無事で何よりです」
シャアはヘルメットを脇に抱え、
わずかに口元を緩めた。
「中尉の判断が早かったおかげだ。
あのまま続けていれば、全滅していたかもしれん」
「……いえ。私はただ、状況を見ていただけです」
「それができる者は少ない」
シャアの声は静かだが、確かな重みがあった。
「奴は厄介だ。
だが、今日の戦いで得た情報は大きい」
マリアはその言葉に小さく頷いた。
胸の奥のざわつきはまだ消えない。
だが――少佐が生きて戻った。それだけで十分だった。
「次こそは捉えてみせる」
シャアは一瞬だけマリアを見つめ、モニターへ視線を戻した。
マリアはその背中を見て静かな決意を固めた。
読んでいただきありがとうございます。
ここまで読んでくれた人には感謝しかありません。
続きが書けるように頑張りたいと思います。