ガンダムU.C. Altered Line   作:シャノワール

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何とか書けましたので投稿します。
今回は一気に描きたかったので少し長めです。



重力下の臨界点

ファルメルのブリッジには、張り詰めた静寂が漂っていた。

計器の微かな電子音だけが空気を震わせ、乗員たちの緊張を際立たせている。

 

ルナツーから離脱したホワイトベースは、旧式のサラミスを一隻従え、地球へ向けて航行を続けていた。

その航跡がモニターに細い光の線となって浮かび上がる。

 

シャアは腕を組み、赤い仮面の奥で視線を細めた。

 

「人手が足りないとはいえ……旧式の戦艦が護衛とはな」

 

その声音には侮りではなく、状況を冷静に見極める鋭さがあった。

彼の言葉に、ブリッジの空気がわずかに引き締まる。

 

マリアは端末を操作し、航跡データを拡大する。

指先が滑らかに動き、ホワイトベースの軌道が立体表示へと切り替わった。

 

「この軌道……地球へ降下するつもりですね。

 目的地は――ジャブローでしょう」

 

(そういえば、ホワイトベースは軌道を乱されて北米へ降下したはず……)

 

淡々とした口調とは裏腹に、マリアの胸には未来の記憶がざわついていた。

そのことを知らないドレンは、彼女の緊張を別の意味に捉え、喉を鳴らして応じる。

 

「連邦の本部ですか。

 あの木馬をこのまま行かせるわけにはいきませんな」

 

シャアは顎に手を当て、モニターに映る青い地球を見据えた。

その姿は、獲物を追う猛禽のようだった。

 

「マリア、君の言った通りだ。

 木馬は白いMSのデータを持ち帰り、量産の足掛かりにするつもりだろう」

 

マリアは頷き、地球圏の地図を指し示す。

 

「このまま大気圏突入されれば、連邦の勢力圏に入ります。

 ですが――その前に叩くべきです」

 

シャアが視線を向ける。

仮面越しでも、その眼光が鋭くなったのが分かった。

 

「ふむ……。

 だが、どうする?

 叩くにしても容易ではないぞ」

 

確かに、木馬への攻撃はこれまで以上に難しい。

白いMSに加え、護衛のサラミスもいる。

こちらの損害を無視すれば墜とせるだろうが、それは最悪の選択だ。

 

ブリッジの空気が重く沈む中、マリアは一瞬だけ息を整えた。

 

「だからこそ、逆手に取るんです。

 ――大気圏突入の瞬間を狙います」

 

その言葉に、シャアの目がわずかに細まる。

 

「つまり、木馬は突入時に姿勢制御を最優先にする。

 軌道を大きく変えられず、大幅に制限されるわけだな」

 

「はい。

 その状態なら、白いMSが出てきても重力下では宇宙ほど自由には動けません」

 

シャアは腕を組み、戦術的視点からさらに踏み込む。

その声は冷静でありながら、どこか楽しげでもあった。

 

「加えて、突入直前は艦隊全体の動きが縛られる。

 護衛のサラミスも木馬の軌道に合わせざるを得ない。

 つまり、こちらが仕掛けるには絶好の“固定目標”になる」

 

ドレンが感心したように頷く。

額には薄く汗が滲んでいた。

 

「確かに……その状況なら攻撃が通りやすいでしょうな」

 

マリアは続けた。

その声は静かだが、確かな覚悟が宿っている。

 

「木馬と白いMSを同時に墜とせるなら理想ですが……

 白いMSを重力に引きずり込み、大気圏突入させるのも一つの策かと。

 MSが耐えられる保証はありませんので」

 

シャアはしばらく沈黙し、マリアの分析を吟味するように視線を落とした。

ブリッジの空気がさらに張り詰める。

 

そして、静かに結論を下す。

 

「……中尉の判断は妥当だ。

 大気圏突入する直前に仕掛ける」

 

「了解しました、少佐」

 

シャアはわずかに笑みを浮かべた。

獲物を追い詰めた者の笑みだった。

 

マリアはふと問いかける。

 

「ところで、少佐は地球へ降りた事はありますか?」

 

「降りた事はあるな。

 色々な場所へ行ったものだ」

 

「そうなんですか?

 私は一度も降りた事がありませんので……。

 どういった感じなんですか?」

 

「そうだな、天候の変化が激しい。

 場所によっては気候もまるで違う。

 ……地球は、何かと“重い”星だよ」

 

「なるほど……。

 そういえば、地球にご友人がいらっしゃるとか?」

 

一瞬だけ沈黙が落ちる。

だがシャアはすぐに笑みを作った。

 

「ああ、ガルマの事か。

 彼とは士官学校からの同期でね。

 友人として仲良くしてもらっている」

 

(……その“友人”を手にかけた後、あなたは何も得られず、

 ただ深い虚しさだけを抱えることになるのに)

 

胸の奥が痛む。

しかし表情には出さない。

 

その時、オペレーターの声が鋭く響いた。

 

「少佐、補給艦より通信!」

 

「通信回線を繋げろ」

 

「はっ!」

 

通信回線が開かれると、モニターに補給艦パプアの艦長が映し出された。

年配の軍人で、表情には疲労と緊張が滲んでいる。

 

≪こちらパプア補給艦。

 ドズル中将の命により、貴隊へザク三機を回すよう指示を受けております。

 受領を願います≫

 

ドレンが驚きに目を見開いた。

 

「ドズル中将が……!」

 

シャアは腕を組んだまま、わずかに口元を緩める。

 

「ガルマル艦長、ご苦労。

 こちらは追撃作戦中だ。

 ザクの移送を急いでくれ」

 

≪了解しました、少佐。

 では、ただちに移送作業へ入ります≫

 

通信が切れると同時に、ドレンが大きく息を吐いた。

その顔には安堵と緊張が入り混じっている。

 

「これで戦力は整いますな。

 中尉の作戦も、より確実性が増すでしょう」

 

シャアはマリアへ視線を向ける。

 

「中尉。

 補給が済み次第、すぐに追撃に移る。

 木馬を逃がすわけにはいかん」

 

マリアは迷いなく頷いた。

 

「はい。

 補給完了後、即座に作戦行動へ移行できるよう準備します」

 

ブリッジにはシャアの横にマリアが立ち、

その前にはデニム、クランク、コムの三人が整列していた。

緊張と期待が入り混じった空気が漂う。

 

シャアは一歩前に出て、部下たちを見渡す。

 

「新たに三機のザクが間に合ったのは幸いだ。

 あと数分で木馬は大気圏に突入する。

 このタイミングで戦闘を仕掛けた例はこれまでない。

 地球の引力に引かれれば、ザクとて燃え尽きるからだ」

 

一度言葉を切り、呼吸を整える。

仮面の奥の視線が鋭く光った。

 

「だが――大気圏突入に全神経を集中している“今”こそが好機だ。

 第一目標は木馬、第二に白いMS。

 戦闘時間は四分とないだろうが、諸君ならば成し遂げられる」

 

三人のパイロットの表情に、緊張の中にも闘志が宿る。

 

「君の判断は的確だ、中尉。

 作戦の立案者である君も同行してもらう」

 

「木馬が大気圏突入シークエンスへ入りました」

 

オペレーターの声がブリッジに響く。

シャアは全員へ鋭い視線を向けた。

 

「……君たちの活躍に期待する!」

 

その言葉を合図に、パイロットたちは一斉に敬礼し、出撃準備へ散っていく。

 

――そして。

 

ザクのコクピット内で、マリアは静かに息を整えていた。

胸の奥で鼓動が速まる。

 

(大気圏内での戦闘……時間との勝負。

 でも、上手く立ち回れば大丈夫。

 落ち着いて、やれることをやるだけ)

 

外部スピーカーからドレンの声が入る。

 

≪中尉、ハッチを開きます。

 出撃をどうぞ≫

 

マリアは操縦桿を握り直し、短く答えた。

 

「了解……出ます!」

 

ハッチが開き、眩い光と宇宙の闇が視界に広がる。

マリアのザクは滑るように射出され、戦場へと飛び出した。

 

◇ ◇ ◇

 

モニターに木馬の姿が捉えられた瞬間、

白い機影が閃光のように飛び出し、こちらへ向かってくる。

 

≪敵もMSを発進させたようだ。

 ドレン、援護しろ!

 中尉、我々は二手に分かれて攻撃を開始する≫

 

≪了解≫

 

後方のファルメルからコムサイが発進し、

続けてミサイルが木馬へ向けて次々と放たれる。

その隙を突くように、五機のザクが一斉に木馬へ接近していく。

 

≪白いMSにかまわず木馬を狙え。

 銃撃に当たらぬよう注意して行け≫

 

その瞬間、白いMSのバズーカが火を噴いた。

シャアのザクへ向けて弾が一直線に飛ぶ。

 

だがシャアは寸前で機体をひねり、弾道を外す。

すぐさまロケットランチャーで反撃。

白いMSはシールドを構えるが、弾は貫通し、

シールド裏で爆ぜて衝撃を与えた。

 

しかし――白いMSは怯まない。

 

(やっぱり……ガンダムは化け物じみてる)

 

再び放たれるバズーカ弾。

シャアは軽やかに回避し、白いMSは進路を変えて木馬へ向かい始める。

 

≪やはり、落とせなかったか……!≫

 

シャアの声には、わずかな苛立ちが滲んでいた。

どれだけ攻撃しても傷一つ付かない“白い悪魔”への焦り。

 

その頃、デニムを中心とした三機のザクが木馬へ接近し、

船体へ向けて銃撃を浴びせ続けていた。

 

だが――。

 

白いMSが背後からバズーカを放つ。

弾はコムのザクの右肩に命中し、装甲を吹き飛ばした。

 

≪ええい、肩に命中した!≫

 

デニムがすぐに声を飛ばす。

 

≪コム! 大丈夫か!≫

 

≪はっ、曹長! 大丈夫であります!

 右腕が使えないだけで、左手は生きています!≫

 

≪無理はするな。

 危険と思ったらすぐに撤退しろ!≫

 

短い指示を飛ばすと、デニムは再び木馬へ向けて攻撃を再開した。

 

白いMS――ガンダムが木馬へ向かって加速する。

バズーカを構え、木馬を狙うザクへ照準を合わせていた。

 

その軌道を見た瞬間、シャアが鋭く声を飛ばす。

 

≪中尉、白いMSを分断する!

 私が正面から引きつける。

 君は右から回り込んで援護しろ≫

 

≪了解、少佐!≫

 

マリアはザクを旋回させ、ガンダムの右側面へ回り込む。

シャアはロケットランチャーを白いMSへ向けて放ち、注意を引きつけた。

 

その一瞬の隙を突き、マリアは照準を合わせてロケットランチャーを発射する。

弾はガンダムの脚部へ向かって飛ぶ――が。

 

ガンダムは一瞬で姿勢を変え、推進剤を噴かして回避した。

 

(避けた!?

 やっぱり反応速度が桁違い……!)

 

その直後、ガンダムがマリアへ向けてバズーカを向ける。

だがシャアが割り込み、ロケットランチャーを撃ち込んだ。

 

ガンダムはそれを察知し、マリアへの照準を外して回避に移る。

 

(そう容易く当てさせてくれない……なら――)

 

シャアへ気を向けている隙に、マリアのザクは白いMSへ飛び込む。

ガンダムは気づき、頭部バルカンで迎撃しようとした――その瞬間。

 

マリアはバルカンが放たれる寸前にクラッカーを投げつけ、

同時にザクを横へ急旋回させた。

 

クラッカーにバルカン弾が命中し、爆発が閃光を生む。

 

≪いいぞ、中尉!≫

シャアの声に、マリアは息を整えながら追撃に移ろうとする。

 

だが――。

 

≪少佐!

 大気圏突入まで1分です。

 戻ってください≫

 

ドレンの声が緊迫した空気を切り裂く。

シャアは舌打ちを飲み込み、短く命じた。

 

≪……時間だ。

 中尉、カプセルへ戻れ≫

 

「了解、帰還します!」

 

≪デニム、撤退だ!≫

 

≪了解であります!≫

 

シャアとマリアは機体を反転させ、

白いMSの影を振り切りながらドレンのコムサイへ向かう。

 

だがその背後で――。

 

白いMSは爆煙を抜け、木馬へ向かって再加速していた。

その動きに気づいたデニム隊は、急速に反転しコムサイへ向かう。

 

≪デニム曹長!

 クラウンのやつが!≫

 

コムの声が震えていた。

 

≪クラウン!?

 どうした、返答しろ!≫

 

しかしクラウンからの返答はない。

彼のザクはまだ木馬の銃撃圏から離れられず、

爆炎の中で姿勢を崩していた。

 

≪くっ……仕方がない。

 真っすぐにカプセルへ向かう!≫

 

デニムは苦渋に満ちた声で決断し、

スラスターを全開にしてコムサイへ向かう。

 

≪全員いるな?

 よし、ハッチを開け≫

 

コムサイのハッチが開き、

デニムとコムのザクが次々と滑り込む。

全員が収納されると、ハッチが閉じられた。

 

だが――。

クラウンのザクだけが、そこにはいなかった。

 

コクピットへ戻ると、シャアはすぐにドレンへ問いかけた。

 

「――クラウンは?」

 

「駄目です。

 残念ながら回収不可能です」

 

ドレンの声は淡々としていたが、

その奥には諦めと悔しさが滲んでいた。

 

その時、通信が割り込む。

 

≪しょ、少佐!

 助けてください、減速が出来ません!≫

 

クラウンの声は恐怖に震えていた。

 

シャアは目を閉じ、短く息を吐く。

 

「すまん、クラウン……。

 ザクには大気圏を突破する性能はない。

 気の毒だが――」

 

その声には震えが混じっていた。

部下を失う痛みを押し殺しながら、それでも指揮官として言葉を紡ぐ。

 

「だが、おまえの死は無駄ではない。

 敵のMSを引きつけてくれたおかげで、木馬を撃破できるからな」

 

≪い、嫌だ……!

 死にたくない!

 う、うわあぁぁ――!≫

 

その悲鳴が途切れた瞬間、

モニターに映るクラウンのザクが赤く染まり始めた。

 

大気圏の摩擦熱が装甲を焼き、

表面が溶け、歪み、膨張し――。

 

次の瞬間、機体は押し潰されるように変形し、

内部から破裂するように分解していく。

 

赤い尾を引きながら、

ザクは光の粒となって燃え尽きた。

 

ブリッジに沈黙が落ちる。

 

シャアは燃え尽きる残骸をじっと見つめていた。

その横顔には、怒りとも悲しみともつかない影が差している。

 

デニムは拳を握りしめ、

再び部下を失った苦しみに顔を歪めた。

 

コムは俯き、唇を噛みしめていた。

 

マリアもまた、燃え尽きた光を見つめながら胸が締め付けられる。

 

(……確かに、少佐の言った通りになった。

 クラウンさんの犠牲で、ガンダムを引きつけられた。

 でも――それでもガンダムは……)

 

未来を知る者としての確信が、

胸の奥で重く沈んでいく。

 

(……あれは、まだ落ちない)

 

「大気圏に突入します。

 全てのシャッターを閉じます!」

 

ドレンの声と同時に、ブリッジの外部観測窓が重々しい音を立てて閉じられた。

外の光は完全に遮断され、艦内は計器の光だけが揺らめく薄暗い空間へと変わる。

 

シャアは静かに問いかけた。

 

「ドレン、MSの位置はどうなっている?」

 

「はっ……。

 どうやら白いMSは木馬の方へ移動したようです。

 しかし、反応からして収納はされておりません」

 

シャアは腕を組み、低く呟く。

 

「依然と変わらんな……。

 燃え尽きたりもしない」

 

ドレンが驚いたように振り返る。

 

「どういう事でしょう?

 あのまま大気圏を突入可能という事ですか?」

 

シャアは首を横に振った。

 

「まさか、それはないだろう。

 あの木馬も船ごと突入している。

 となると考えられるのは――」

 

一拍置き、仮面の奥で目を細める。

 

「白いMSは木馬を“盾”にしているという事だ」

 

ドレンは息を呑む。

 

「木馬の大気圏突入を利用して……ですか」

 

「そうだ。

 あれほどの熱と衝撃だ。

 白いMSも無事では済むまい」

 

その言葉を聞きながら、マリアの胸がざわついた。

 

(……やっぱり。

 それでも“歴史”は変わらない)

 

シャアは続けて命じる。

 

「無線が回復したら、ニューヤークの基地のガルマ大佐を呼び出せ」

 

マリアはその横顔を見つめながら、

胸の奥に重い確信が沈んでいく。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
いよいよ、次回から地球へ降り立ちます。
この先にどうなるか楽しみにしてください。
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