テラを巡る旅(不本意)   作:イグノーブルガス

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第十二話

1096年 12月23日 チェルノボーグ司令塔前

 

眼の前に高くそびえる分厚い装甲板が、夕日で鈍く輝いている。

その下に並ぶ、金属製の全身鎧に包帯のような白い帯を垂らしたサルカズたちは、こちらを見て驚愕し――さっと脇に寄って跪いた。

事情をよく知らぬ下っ端たちも、上官がそうしているのを見てそれに習う。

 

「こちらにおわす御方をどなたと心得る!畏れ多くも先の魔王、テレジア殿下にあらせられるぞ」

「タルラ。あなたますます、イポニーツの影響を受けてるわね」

 

……なんとでも言えばいい。

氷原にあるなんの娯楽もないキャンプ地に、異国のドラマが詰まったカセットが持ち込まれたとして。

()()()再生しないという選択を取れるだろうか?

 

「コレは、一体どういうことだ?」

「あらドクター。唸ってる暇があったら、とっとと歩きなさいよ」

 

とにかく。

ドクターという黒フードの人物と、テレジア殿下。そしてそれに同行する私達は、まさにそのドラマのワンシーンのような目に合っていた。

 

最も、前者はこの状況にやや困惑を隠しきれない様子で。後ろを歩く”W”という名前のサルカズに銃口を向けられ、早く歩くように促されている。

 

【いや、立ち止まるべきだ】

【皆、戦闘の準備をしてくれ】

 

 

「……あらドクター、記憶はなくても勘は元のままですって?都合の良いことねぇ!」

 

両脇に控えていた兵士たちの奥から、金髪の長身のサルカズが歩み出た。

彼は絞り出すような声で号令を下す。

 

「――立ちなさい」

「彼女はもはや魔王ではない。異族に王冠を手渡したサルカズの裏切り者だ」

「どうしても殿下を害せぬものは――殿下に嘯いたあのコータスと悪霊を狙いなさい」

 

 

「ハッ、王冠がなくても殿下は殿下だということがわかってるなんて、その目はしっかりものが見えているようね」

「でも残念。あんたたちは自分から敵だと宣言してくれた。要はふっ飛ばしていいってことだもの」

 

彼女がスイッチを押した瞬間。周囲のビルで爆発が起き、割れたガラスが立ち上がりかけたサルカズらに襲いかかった。

その殆どは傷を負ったまま再び立ち上がったが、倒れ込こんだまま立ち上がらないものも少なからずいる。

 

私は、”W”という名前のサルカズが小声で呟くのを確かに聞いた――「これで言い訳つくでしょ。寝てなさいよ」と。

サルカズのように見えるキャプリニーはそれを聞いて少し笑ったような気がした。しかし、ふと塵が煌めいた途端、サルカズの大男共々姿が見えなくなる。ほう、ロドスには凄腕が多いな。

 

「リーダー、タルラ。我々はどうするんだ?」

「確かに、あのドラマでもいつもこういう展開だったな……加勢するぞ。容赦はしなくていい」

「急がないと、砲撃が降ってくる。それまでに防壁の中に潜り込まなければ、全滅だ」

 

頭上の戦艦が、ゆっくりと旋回を始めている。射角を調整しているのだろう。

私たちとロドスは、サルカズらを突破するために全火力を叩きつけた。

 

 

 

 

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20分後 チェルノボーグ中枢塔

 

頭上と足元が絶えず揺れているが、ウルサスの鋼鉄は硬い。特に、貴族を守るものは。

このチェルノボーグの設計者たちは中枢区画を軍艦として設計するような連中なので、司令塔が砲撃を受けることもしっかり想定していた。(空中から、というのは流石に考えていなかったと思うが)

 

たしかに。天にそびえるように突き出ている部分に、高速戦艦の砲弾が命中してしまうかもしれない、と心配になるのは当然のことだ。

確率論的には、四皇会戦を何度かやって、やっと数回当たるくらいだと思うが。

貴族の下働きというのは、上司になにかあると文字通り”首”になる。制度上、ミスター心配性の巣窟となってしまうのだから仕方ない。

 

そんな事を考えていると、突然揺れが収まった。

 

「……弾切れか?」

「いや違う。窓の外を見てみろ」

 

理由は言うまでもない――天災雲が手の届く距離に来ているからだ。あの飛行戦艦の舵を持つ人間は、「仕方ない、一度離脱しろ」という上官の命令を待ちに待っていたことだろう。

一方でこちらでは。移動都市全体を動かす舵を、すでにドクターは受け取っていた。

 

「……右に3度。速力は今より12%引き上げてくれ」

「1分25秒ほどしたら、その勢いを利用して左に転舵する」

 

ロドスのドクターらが危険を冒している間(もちろん、私達も一蓮托生だが)、私達は真新しいコンソールを占拠した。

中枢のコンソールはそれぞれの区画を担当している。一番新しいコンソールは、当然一番新しい区画――レヴィ博士の研究所の担当だ。

 

「ハッキングできたわ。これで廊下と研究所の監視カメラのログにアクセスできる」

 

Frost(うさぎのほうではない)という名を持つニット帽を被った兵士は、手慣れた様子で黒背景の中に白文字を淀みなく打ち込んだ。

 

「すごいな、脳みそからコピー・アンド・ペーストでもしているかのような早業だ」

「ある意味、そうね。訓練の繰り返しでテンプレートを覚えさせるの。銃の構え方、部屋への侵入と同じように――さて、何が映っていることやら」

 

 

 

 

 

 

 

『悪いけど、お顔を拝見……』

 

「……」

 

モニターを見た私とアリーナは呆然とした。

イポニーツはドラコにふらふらと近寄っていき、見事に捕虜になったと思えば。

その後倒れたドラコに救護活動をして、肩を貸しながら研究所に入っていく。

 

「……あいつ、角と尻尾があれば誰でもいいのか?」

 

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1096年 12月23日 チェルノボーグ最下層 研究所

 

気がつくと。服が着替えられていた。

 

ふむ。

 

この研究所にはSF映画やテック系企業のCMに出てくるような、お世話をしてくれるロボットアームはない。

 

つまり。誰かが僕の服を脱がせて、また着せたということだが。

 

 

「あのう。まさかと思うけれど――」

「それ以上追求するなら、また噛み跡が増えますわよ」

 

桃色の髪をしたループス、アヴドーチャは即答し、僕の口に剥きかけのりんごを放り込んだ。

僕は腹が減っていたので、気にせずガリガリと噛み砕いて飲み込んだ。彼女の服のように真っ赤な皮は取り残され、口の中にへばりつく。

 

「……なるほど」

 

皮をなんとか歯で裁断しながら、右肩を撫でる。

鋭い犬歯で作られたと思わしき凹みが4つある。わざわざ8つにはしたくないので、僕は追求することをやめた。

 

「そんなことより、電話で呼ばれてますわよ」

「電話?」

 

アヴドーチャは壁にかかっている受話器を取って、僕に手渡す。

 

「はい、もしもし?」

『元気そうで何よりだ。イポニーツ。リンゴはよく噛め』

 

電話口からは、聞き慣れたタルラの声がよく聞こえた。

 

「おーい、何も言う前から僕が元気だと――いや待ってください。なんでリンゴのことを知ってるんです?」

 

『その部屋と廊下には、こちらからアクセスできる盗聴器と隠しカメラが山程ある。セルゲイもボリスも、レヴィを腹の中では信用などしていなかったということだ』

 

「秘密結社が僕を監視?アルミホイル帽子が欲しくなってきました」

 

『言っておくが、知ってるからな。お前が廊下でドラコを拾い上げたところから、全部!』

 

タルラは何故かすごく怒っている。特に心当たりは――待てよ。あの女性は、独立主義者のテロリストだった。(でもきみもゲリラのリーダーなのだから、とやかく言える身分ではあるまい?)

 

『とにかく、ここの制御盤にはたくさんボタンやレバーがあってな。【分離】というボタンもあるぞ――プラスチックのカバーに入った真っ赤なやつだ。押したくなる形状をしている』

 

「いいですね。僕も押してみたいので、僕がそこに行くまでカバーを取らないでくださいよ」

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