踏み台転生者は死にたくない   作:富竹14号

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 何話目投稿だこれは?


言葉選びと衝動と

 

 

 対峙する三つの影…有坂悟と間宮楓…そして、八坂徹。

 

 降りしきる雨天の中で対峙した両者一同、ある程度の距離を保った状態で欠片も動かない三人の様子は、傍から見れば非常に奇妙なものに思えたことだろう。

 

「…遅かったな、来るのが」

 

 笑みを浮かべながらそう言葉を口にしたのは徹からだった…当の本人が引き攣ったと言ったその笑みは、しかし傍から見ればまるで引き攣っているようには見えない、至って自然な形で浮かべられたものに思える…ただし、皮肉げなものになっているという但し書きが付くのだが。 

 

 

「…あぁ、急だったからな」

 

 そんな徹の言葉に有坂悟の眉がピクリっと動く、皮肉げに歪められた笑みに加えてのその言葉だ、挑発されているとでも思ったのかもしれない…刀の柄に手を掛けながら、悟は徹の言葉に口を開いた。

 

 

 

───なんでそこで刀に手を掛けるんだよそこでっ!?

 

 

 そんな悟の一連の行動に徹本人は混乱していた、なるべく言葉を選んだはずなのにどう言うわけか不機嫌そうに刀に手を掛けられたのだ、その内心も当然のものと言えよう。

 

 しかし、その程度のことでは八坂徹は狼狽えない、前提条件として八坂徹が何をして来たのかを知っているからだ、どういう人間であったのかを客観的に知っているからだ…その認識が、『八坂徹』なんだから仕方がないという思考を徹本人に抱かせていた。

 

 今のところの徹の目的は二つ…一つは死の運命を切り抜けること、もう一つは自分が八坂徹本人ではないことを隠し通すことだ。

 

 前者はまだしも後者はどういうことだと思うかもしれないが、それは至極簡単な話で八坂徹本人ではない=妖魔かそれに与する犯罪者、或いは八坂家を内側から崩さんとする他家の異能使いという構図が出てきてしまうのだ、というか原作からしてそういう展開があったのである。

 

 つまり、八坂徹本人ではないとバレる=死なのである…例え八坂徹本人がクズであり、それと入れ替わった徹自身がマトモであったんだとしても、恐らくそれは変わらない。

 

 故にバレる訳にはいかない、生き残る為ならば可能な限り八坂徹を演じ切るしか無いのである…その現実に内心でキチィっと悲鳴を上げながら、しかしそれを一切表には出さずに徹は悟の返答にくつくつと笑い声を上げた。

 

 

「そうか、それは悪いことをしたなぁ…まぁ、別に良いだろ? どうせ暇だったんだから」

 

 可能な限り…とは言うが、それでも徹本人がやりたくないことはある…例え『八坂徹』ならやるのだとしても徹本人が絶対にやりたくない、言いたくないと思うことはあってしまうわけで。

 

 故に徹は可能な限り、こんな感じの言葉ならギリギリ許されるだろうという綱渡りに近い言葉選びを行っていた…ソースは、自分が前世で培った『イノチガミ』という作品への理解と記憶。

 

 今回の場合は有坂悟達に連絡が届いた状況からの言葉だ、原作に於いて悟達が連絡を受け取ったのは任務が一段落し、寮に帰ろうとする丁度のタイミングだった…そこを徹は狙ったのである。

 

 

「…まぁ、暇だったよ確かに…お前が呼び出さけりゃ、今頃部屋で飯でも食ってたさ」

 

 悟の言葉にそうかいそうかいと言葉を返す徹…絶妙に苛立つような口調を意識しつつ、それでも一線は踏み越えない…一つ間違えればそこから連鎖的に終わってしまうかもしれない言葉選びの中で徹は内心で舌を打った。

 

 

 

───少し言葉選びをミスったな…飯時を邪魔されたら誰だって苛つく、それが嫌いな相手からの呼び出しなら尚更だ。

 

 

 誰だって腹が減れば苛立ちを浮かべる…それは当たり前のこと、仕事でもなんでない嫌い奴からの呼び出しと飯時ならば徹自身も飯を優先する…それを有坂悟や間宮楓が行えなかったのは、単に八坂徹が何をしでかすのかが把握出来ないからだ。

 

 目を離せば何かをとんでもないことをやらかしかねない…そんな印象を抱かれている八坂徹という人物に本当に碌な奴じゃないなと徹は苛立ちを吐き捨てた、事実『八坂徹』という人間の前評判のせいで迷惑を蒙っている徹からすれば当たり前の反応だった。

 

 

「飯か…そう言えば俺も腹が減ったな、後で何か食べますかねぇ───」

 

 そう口にした徹の真横を、銃声と共に銃弾が通過する。

 

 掠めていない、しかし耳先に届くか届かないかのギリギリに位置を通過していった弾丸…視線を銃声のした方向はと向けてみれば、そこにあるのは拳銃を自分へと向ける間宮楓の姿。

 

 

 

───…………いきなり撃ってきおったぞこいつぅっ!!?

 

 内心で騒ぎ立てる徹、それに反して外側の表情は崩れない辺り流石と言うべきなのか……否である、実際はあまりに突然のこと過ぎて表情が固まってしまっているだけである。

 

 そんな徹の内心なぞつゆ知らず、間宮楓は口を開く。

 

 

「…いい加減にして…私達は貴方のお喋りに付き合いに来たんじゃないの……答えて、貴方今度は何する気なの?」

 

 険悪、お前と関わり合いになんてなりたくないのだと、その翡翠の瞳でそう語る楓はその銃口を真っ直ぐと徹へと向けた。

 

 

「十秒以内に答えなさい…次は当てる」

 

 本気だ…そう認識するのに時間はいらなかった、目を見ればそれだけで彼女が本気であると分かってしまう…彼女は、本気で撃つと。

 

 物騒だ、あまりに物騒だ…しかし、されても仕方がないと思えてしまうのはやはり八坂徹という人間の悪行故だろうか…それはそれとして銃弾噛ますというのはやり過ぎだと思わなくもないが。

 

 銃口を逸らさない間宮楓にそれを止めようともしない有坂悟、二人揃って自身を睨みつけている現状に生きた心地のしない徹は、どうすりゃ良いんだと内心で頭を抱え込んだ…しかし、答えねば間宮楓は撃ってしまう。

 

 仕方がない、流石に無理があるかもしれないけど今の所これが一番穏当だ…そんな言葉を自分に言い聞かせながら、徹は意を決したようにその言葉を口から吐き出した。

 

 

「───何も無いけど?」

 

「───は?」

 

 

 徹の頬を、銃弾が掠めた。

 

 熱を帯びる自分の頬、流れ出す血液が頬を伝って地面に落ちる、何処か不思議そうに…感じた熱を在り処へと手をやり、それが何なのかを徹は確かめた。

 

 それは赤、原初の赤…別に見るのは始めてではない、こんな頬に熱が奔る感覚も初めてではない、その色を見るのが初めてというわけでもない。

 

 これより痛いことなんて幾らでもあった…前世でも、今世でも、これよりもずっとずっと痛いことなんて幾らでもあったのだ。

 

 八坂徹としての記憶で言うなら実家での訓練、兄に叩き込まれた一撃に姉に顔面蹴飛ばされた時のこと、弟や妹に腹を殴られて嘔吐した時のこと。

 

 徹としての記憶で言うなら車に跳ね飛ばされた時のこと、事故で片腕一本失った時のこと…それに比べれば今回のことなぞ…頬を銃弾が掠めた程度のことなぞ考慮にすら値しないような…その程度の痛みでしかなかった。

 

 …しかし、そんな徹の内心を塗り潰すかのように奥から湧き出てくる何か、徹自身ですら知り得ない未知なる衝動。

 

 

 

 

───あっ…これヤバい。

 

 

 そう認識したその直後……徹の中で、何かがキレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───それは…悪寒だった。

 

 

 銃弾を撃ち放った楓、放たれた弾丸が八坂徹の頬を掠め、そこからダクダクと血を垂れ流される…そこへと手をやり不思議そうに…呆然としたように自身から流れ出すその赤を見つめていた八坂徹。

 

 何時もならきっと喚き散らしている…何考えてんだテメェ、本気で撃つとか何考えてんだ頭おかしいのか…そんな、自分に棚上げしたような言葉の羅列を自分達にぶつけていたはずだと、有坂悟はそう考えていた。

 

 しかしそうはならなかった…何処か不思議そうにその色へと触れた徹は、次いでその視線を悟と楓へと向けた…何をされたのかを理解していないその瞳を、真っ直ぐ二人へと。

 

 たったそれだけ、たったそれだけのこと…しかし、その瞬間…有坂悟と間宮楓両名の背筋に悪寒が奔り、それと同時に八坂徹は駆け出していた。

 

 楓が引き金を引く…それよりも速く自身の間合いへと到達していた徹は踏み込みと同時に蹴りを放つ。

 

 鋭い蹴り、鞭を連想させるその一撃が楓目掛けて振り抜かれる…その一撃を間に割り込んだ有坂悟が納刀させたままの刀で受け止める…が───

 

 

───重たっ!?

 

 

 想定外の重さが有坂悟の身体へと伸し掛かる、振り抜かれた蹴りを受け止め捌き、そこから一撃に転じようとしていた悟の想定をその一撃の重さが打ち止めた。

 

 蹴り抜かれる…重さに耐えきれず刀ごと吹き飛ばされた悟の身体、レンガの壁へと激突した悟の後ろで壁に罅が入った。

 

 ガハッと激突の衝撃で無理矢理吐き出させられる空気、その一連の流れから追撃を警戒したのだろう、楓がその銃口を徹へと向けて躊躇なく引き金を引こうとする…が、それよりも速く楓の腹部へと徹の拳が突き刺さる。

 

 ズドンッと響くその音、人を打った音かと疑いたくなるようなその音が楓を打つ…無理矢理吐き出させられた吐息とその奥から濁流のようにやってくる嘔吐感、今にも吐き出しそうになるソレをしかし、徹はそれすら許さない。

 

 くの字に折れた楓の身体、他のことに意識を集中させられないだけの衝撃を叩き込まれた楓の顔面へと徹は膝蹴りを叩き込む。

 

 ブッと吹き出す鼻血と生々しく響く打撃の音、恐らく鼻も折れているだろうソレに徹は一切の容赦も躊躇も無く、再び膝蹴りを叩きつけた。

 

 

「───…ガッ…」

 

 うめき声が響く、少女の小さく僅かなうめき声、涙を流しているその少女の顔面へと再び徹は膝蹴りを打ち込もうと足を動かそうとし───

 

 

「───やめろぉぉっ!!!」

 

 

 そこに、有坂悟が飛来する。

 

 鞘から刀を抜き放ち、そのまま徹目掛けて霊力によって強化された斬撃を放つ。

 

 凄まじい速度だ、少なくとも先程の徹ならばそう認識した、追いつくのは至難の技、そもそもやってくる一撃を防げるかどうかも不明…きっと、徹はそう分析した。

 

 しかし…今の徹は、そうは思わなかったらしい。

 

 

「───『炎羅』」

 

 呟かれるのは自らに宿った力の名、霊力を駆動させ目覚めさせるのは炎を操る自らの異能…片腕のみに集約させたその炎を、徹は放たれた斬撃目掛けて振り抜いた。

 

 激突する悟の刀と徹の炎、火花を散らして激突した両者の一撃はしかし、僅かな拮抗の後に無慈悲な結果を突き付ける。

 

 パキンッ…そんな音を立てて、有坂悟の刀は圧し折れた。

 

 振り抜かれる八坂徹の右腕、宙を舞う熱を帯びた刀身の一部…それを何処か呆然と見ていた有坂悟へと徹は握り締めた拳による追撃を突き入れる───

 

 

 

「───………えっ…」

 

 

 瞬間…徹の腕が止まった。

 

 ドサリッ尻から落ちる有坂悟、呆然としていた意識はその際の痛みにより現実へと引き戻され、即座に追撃を警戒して距離を取り、その視線を徹へと引き戻す…そんな悟の視線の先で、徹は戸惑ったように自身の手を見つめていた。

 

 異能を発動した自身の腕、視線の先に居るのは距離を取った先で圧し折られた刀を構える有坂悟…戸惑い、理解出来ない現状に困惑しているような徹の姿に、悟もまた戸惑いの感情を浮かべた。

 

「…何が……何が、起きて」

 

 呆然とそう呟いた徹の足元に、何かが当たる…視線を思わず下へと動かした徹は…見てしまった……倒れ伏す、顔面血だらけとなった間宮楓の姿を。

 

 鼻が圧し折れ目も開けない、鼻血に額からの出血に加えて膨れ上がった唇と頬…一目見るだけでそこまで分かってしまう程の現状、紛うことのない重傷を負っていた楓の姿に徹の表情が恐怖に歪む。

 

「…俺が……俺が…やったのか……これを…?」

 

 戸惑いながら、信じたくないという感情の荒波の中、絞り出すように吐き出されたその言葉に答える人間は、その場には誰も居なかった。

 

 

 

 

 




 結局戦闘描いてるのが一番楽しい。
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