あの後のことを話そう…俺は……俺は間宮楓を病院に連れて行った。
救急車じゃ間に合わないかもしれない…そんな焦りに追われた俺は人目も憚らずに病院へと全速力で駆けた、他人の視線なんて全く気にせず、有坂悟の呼び止めるか声すら振り切って俺は彼女を病院へと運んだ。
処置は直ぐに進んだ…見た目からしてどう考えても重傷だったからだろう、緊急という言葉が聞こえてきた辺りで俺の頭の中はもうパンク寸前だった。
病院から家族に連絡が入って直ぐの事だ、間宮楓の家族がその場にやってきた…唐突にやってきた娘の危機だ、きっと何もかもを振り払ってやってきたのだろう…その顔は、娘に対する心配ともしもに対する不安で一杯だった。
その後のことは、何とも言えない……俺は何があったと言ってくる彼女の家族に何も言えなかったし、そんな俺にそれ以上何かを聞いてくる…という人も居なかった。
彼女の家族は妖魔の存在を知っている…だから、気を利かせてその場では聞いてこなかったのかもしれない…それは、今の俺にとってはどうしようもない程に有難かった。
何があったのか、何が起きたのか…俺はその全てを知り得なかった、どうしてあんなことになっていたのかなんて全く分からなかったのだ。
なんとなく…なんとなく俺がやったんだということは分かっていた…だってあの場で無傷だったのは俺だけだ、他の二人が大なり小なり怪我をしていた中で俺だけがそれ以上の傷を負っていなかったたのだ…だったらもう、俺しかいないじゃないか。
頭を抱える…死の運命を乗り越えれるかもしれないと思った矢先にコレだ、何れ間宮楓の家族は有坂悟に事の次第を問い質すはずだ…そしてその原因に位置するのが八坂徹…つまりは俺であることにも直ぐに行き着く。
そうなってしまえばもうおしまいだ、ただでさえ嫌われ者でクズだのなんだののレッテルを貼られている俺の情報は直ぐに教育機関内部…そして実家にも繋がることだろう。
そうなったらもう誰も俺を助けない、処罰の対象にされるだろうし逃げようものなら追い回される…流石に殺害にまで踏み切られないかもしれないがそれは法が動いたらの話だ…ひょっとしたら名家の恥として家族直々に殺しに来るかもしれない。
八方塞がり、逃げ道無し…そんな状況に近かった。
「───八坂」
そんな時だった、その声が聞こえてきたのは。
ずぶ濡れになった身体、髪の毛から服からズボンから…様々な箇所から水滴を垂れ流したその男は、その手に刀を携えて鋭い目つきで俺を見据えていた。
「───……有坂……悟」
消え入りそうな声で呟かれたのは目の前に佇む男の名前、この世界の於ける唯一無二の主人公の名前…そうして呟いた俺の声に反応したのか、それともそうでもないのか…一体何方なのやら。
「…八坂……少し、話そう」
そう言った有坂悟は、ついて来いと言わんばかりに歩き出した…電灯も付いていない闇の中へと足を踏み入れていく有坂悟…その後を、俺は戸惑いがちに追いかけるのだった。
「八坂…お前、なんであんなことした?」
暗闇の支配するその空間…電灯も灯っておらず、明かりを放っているのは立ち並ぶ二つの自販機だけ…そんな、灯りと言うには少し頼りない場所で両者は佇んでいた。
「…あんなこと…って言うのは?」
「楓のことに決まってるだろ」
徹の言葉に悟は即座に言葉を返した…そこには苛立ちなど含まれておらず、あるのは水辺が如き平静さだけだった。
そんな悟の言葉に徹は吹き出すように笑った…そんなことは自分が知りたい、それを最も知りたがっているのは他ならぬ自分自身なのだと、徹は内心でそう吐き捨てた…しかし、その言葉を現実に持ってくることを彼は許されていなかった。
「さぁ…なんでだろうね?」
惚けるように、馬鹿にするように、お前の質問に答えてやる義理が何処にあると言わんばかりに徹はそう言ってのける…その言葉に歯を噛み締めた悟は何かを抑え込むかのように言葉を紡ぎ出す。
「なんで彼処までやった……あの時のお前なら、彼処までやらなくても良かったはずだ」
「それでお前達が止まってくれるならな」
悟の言葉に徹は直ぐ様言葉を返す、例えお前の言う通りにしたとして、それでお前達はその動きを止めたのか、それでお前達は俺に向けていた刃と銃口を下ろしたのか…そんな意味を込めた言葉であることは、悟からしても直ぐに分かった。
「…止まったさ」
「いいや、お前達は止まらなかったね…何でかなんて言うなよ、俺とお前達の関係性は他ならない、俺達自身が良く知ってる」
そんな悟の言葉に徹は否を突き付ける、そんなわけが無い、それはお前も良く知っているだろうとそう言葉を突き付ける…これは原作という一つの世界を知っているが故の言葉だった。
徹は知っている…有坂悟の一番嫌いな人間がどういう類の人間であるのかを…そして、その特徴に合致する人物こそが八坂徹なのだと言うことを…ならば、止まることなぞあり得る訳が無い。
自分より弱かったから言うことを聞かなかった訳じゃない、八坂徹という人間の性根が気に入らないから言うことを無視した、八坂徹のような人間が嫌いだからだその刃を向けた…別に、そこに対して徹がどうこう言うことは無い、ただ荒事にしない為の言葉を選びとしてそれを言っているに過ぎないのだから。
そもそもやってきたことがやってきた事だ、きっと誰もが彼等の味方をする…例え、先に撃ってきたのが間宮楓の方だったのだとしても、周囲の人間はあの手この手で有坂悟等の味方をすることだろう…それを徹自身も分かっているから、そこに関して徹がどうこう思うことはない。
徹の言葉に悟は歯を噛み締める…恐らく徹の言葉に覚えがあるのだろう、その手を千切れんばかりに握り締めて必死の形相で何かを我慢している…そんな悟の姿に、徹はため息を吐き出した。
出来ることなら直ぐに謝りたかった、理屈も理由もかなぐり捨てて地面に頭を擦り付けたかった、そうすれば少なくともこれ以上は酷くならないのだから…けど、それが出来ない。
何故なら八坂徹は謝らないからだ…例え相手に何が起ころうとお構いなしにゲラゲラと笑って生きていく、自分のせいで不幸になった誰かがいようと知ったことじゃないと捨ておける人間…それが八坂徹なのだ。
ならばそう在らねばならない…少なくとも、八坂徹を知るであろう人間の前ではそう在らねばならないのだ……特に、有坂悟の前では。
「…俺には、あの時のお前が戸惑っているように見えた」
静かに、有坂悟が言葉を紡ぎ出す。
「あの時、俺に打ち込むはずだった拳を止めたあの時…俺にはお前が戸惑ってるように見えた…なんで自分はこんなことしてるんだろうって、なんで自分は拳を握りしめているんだろうって、なんで俺達は傷ついているんだろうって」
抑えきれない感情を何とか押し殺すように、それでも抑えきれない感情を所々から滲ませたような声色で言葉を紡ぐ悟は、ゆっくりと刀へと手を掛けた。
思い出すのはほんの一時間と少し前の記憶…自分が起こした惨状が信じられない…そういうような表情を浮かべていた徹の顔、呟かれた言葉はその表情に信憑性を持たせ、もしかしたてという可能性を悟の中に生み出していた。
「何かの間違いだったんじゃないかって思ったんだ…今まではそうでも、あの時だけはお前は何も悪くなかったんじゃないかって、悪かったのは俺達の方なんじゃないかって…そう思ったんだ、そう思ったんだよッ……!」
震える声に連動するようにその手が震える、カタカタと震える手が刀の柄を握り掴み取る…ひょっとして、もしかして…そんなもしもを思い浮かべた自分を恥じ入るように。
「けど…違った」
震えが止まる…そして、その刀は引き抜かれる。
「お前は何も変わってない、何一つとして変わってない…お前は、俺の知ってる八坂徹と何ら変わりない…安心したよ、お前は俺の嫌いなお前のままだッ…!!」
据わった瞳が徹を射抜く、自販機から放たれる光が刀に反射し銀光を放つ、ゆらりと持ち上げた刀を徹へと突きつけながら悟は静かにその言葉を紡ぐ。
「お前があの時あの場で何をしようとしていたかなんて知らない、そんなのどうでもいい…どうせ碌なことじゃないんだ、聞いたって仕方がない」
そう吐き捨てた悟は刀を両手で構えた、真っ直ぐ構えられた刀身とその瞳が打ち倒すべき対象を真っ直ぐと映し出す。
「俺はお前を許さない…何があろうが、絶対に」
そう言ってのけた悟に徹は小さく口の端を吊り上げる…ぶつけられた嫌悪と怒り、今回に限って言うなら完全に無実であるはずのその男はしかし、愉快と言わんばかりに笑っていた。
それもそうだろう…何故なら悟から向けられた数々の否定の言葉は、八坂徹の中に入ってしまった彼からしてみれば合格通知のようなものだったのだから。
その浮かべられた笑みの意味に有坂悟が気がつくことは無い、きっとずっと勘違いしたままなんだろうな…そんなことを内心で考えた徹はその顔の歪みを一切隠すことなく───
「ハッ…あぁそうっ!!」
その顔に、笑みを貼り付けた。
こうして書いてて思うこと…これ内容ぐちゃぐちゃなのでは?