狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第11話:舞い踊る白翼、機動六課という仲間

六課隊舎のロビーの一画、そこに肩を並べて座っているのは六課新人フォワードメンバーの4人。

それに向かい合うような形で腰を下ろしているのはなのは、ヴィータの2名。

その場にいる誰もが不安げな表情を浮かべたまま何も言わずに硬く口を閉ざしたまま。

そんな重苦しい空気もお構いなしにヴィータはパネルを操作してある1つのモニターを表示する。

 

「……そもそも10年前、なのはは魔法なんかと縁のある奴じゃなかった、戦いとは縁遠い、家族と一緒に平和に暮らしてる、そんな奴だったんだ」

 

モニター表示が次々と切り替わっていく中、ヴィータの口から語られていくのは高町なのはという魔導師の過去とこれまでの人生。

第97管理外世界、地球の日本出身であるその少女はヴィータが言っているように本当に極々普通の1人の少女でしかなかった。

それを大きく変えたのが10年前のある日、ロストロギア、ジュエルシードの発見とそれの回収を目的に現れたユーノ・スクライア。

土壇場の状況で彼から託された相棒とも言える存在のレイジングハートと、それを切っ掛けに覚醒した魔法の才。

 

「これ、どうしてフェイトさんが……?」

 

映像の途中でエリオが声を上げたのが幼少期におけるなのはとフェイトの戦い。

未だ表向きにはその全容が明かされていないPT事件とフェイト・テスタロッサの正体。

ジュエルシードを巡っての命がけの争いと介入する時空管理局、その殆どが包み隠さず語られていく。

 

「その後に続いた、あたしらやシグナムも深くかかわってた闇の書事件、そこでなのはを撃墜したのも……あたしだ」

 

少しの沈黙の後に続けて語られたのがPT事件解決後から1年もしない内に起こった闇の書事件について。

切り替わる映像に表示されるのはなのはとヴィータの初戦闘時の光景と撃墜されたなのはの様子。

新人4人も表情を深く沈ませたままのなのはも何も言わずにその映像をじっと眺め続けるのみである。

 

「そしてなのはが選んだのは当時はまだ色々と危なっかしい技術だったカートリッジシステム……自分の想いを貫きたい、誰かを救うために戦いたい、そんな一心でコイツは体の負担も顧みずにずっと戦っていたんだ」

「待って、ください……こんなに大規模の収束魔法を9歳の女の子が……?」

「た、ただでさえ大規模魔力からの砲撃やカートリッジシステムの使用は負担が大きいのに……!!」

 

悲痛な声を上げてモニターを凝視するキャロとスバルの声もまた仕方のない事。

スバルもキャロもなのはとはタイプの異なる、それぞれ近接格闘戦主体と召喚士という立場ではあるが、それでもある程度の魔法行使や実戦での戦闘経験を積んできている。

故に、大規模な魔力を扱うということやカートリッジシステムによる恩恵とリスクについても一通りの知識がある。

だからこそ、キャロから見ても更に1つ年幼い少女が映像に映っているような莫大な魔力による砲撃やカートリッジシステムを多用することがどれだけの負担になるかは容易に想像できる。

それでも、高町なのはという才能に溢れた魔導師は只管に戦いに明け暮れていたのだ。

 

「……けど、そんな無茶を続けて体に何の異常も無い筈なかったんだ……そのツケが回ってきたのがあたしやなのはが正式に管理局員になってから2年目のこと……当時は未確認だった違法兵器との単独交戦、なのはは溜まってたダメージの影響でいつも通りの戦闘ができなくて、そして……落とされた」

 

語り手であるヴィータの声にも悔しさが入り混じった物になってきているのは他の5人にもすぐにわかることだった。

ヴィータが駆け付けた時には何もかもが手遅れだった、今も決して忘れる事の出来ぬ8年前の悲劇のあの日。

消える一瞬だけ見えた黒い巨大な飛行要塞、直接的になのはを突き刺したガジェットに似た四足歩行型の無人兵器。

雪の降り積もる冷たい世界の下で、真紅に染まったその少女を抱きかかえて必死に叫び続けるヴィータ。

何とか一命は取り留めたものの、その代償はあまりにも大きく過酷な物だったのである。

 

「その結果が……これだ」

「ッ―――!!」

「な、なのはさん……」

「!!……う、そ……」

「こ、これは……!!」

「なんで………」

「こんな、のって……」

 

その次にヴィータの手によってうつされた映像から目を逸らすようになのはは下唇をキュッと噛みながら視線を逸らす。

スバルが、ティアナが、エリオが、キャロが、その全員が眼前に映し出されたその光景の余りの痛々しさに声を漏らすしかなかった。

全身に包帯を巻かれ呼吸器やたくさんのチューブに繋がれた11歳時のなのはの姿、まだ成人にも程遠い少女にはあまりにも残酷な現実がそこにあった。

撃墜当初はそれこそ再起は絶望的だとされ、飛ぶことはおろかまともに立つことすら許されないと申告されていた程だった。

それでも尚、なのはは諦めずに懸命にリハビリに励み自分の意志で前に進み続け、そして奇跡と呼ぶに等しい回復を遂げて今に至るのである。

 

「……自分のプライドの為に、意地を通すために命がけで無茶やんなきゃいけない時ってのは確かにある、それはあたしもなのはも経験してきたことだ。でもなティアナ」

「…………はい……」

「その為に、仲間の身を危険に晒すようなことまでするなんてのは、絶対あっちゃいけないことなんだよ。そんなことしてまで押し通す意地に意味なんてねえ……だから、あの時あたしはお前にああ言ったんだ。わかるか?」

「……………………」

 

あまりのショックにティアナはそれ以上答えることができない。

浅はかだった。今のティアナの嗜好の大半を占めているのはその一点に尽きると言っていい。

病室でのヴィータの謝罪と冷静になったと思い込んでいた自分の謝罪、それでもまだ全然足りなかったのだと。

未だにこちらに視線を合わせようとせずに俯いたままのなのはの持つ壮絶な過去の記録。

それは自分の意志を押し通すための無茶を繰り返した結果の先に起きた悲劇、そこからの復活。

もしかしたら自分も同じような道を辿っていたかも知れいないという恐怖と、アグスタでのあのミスショットは大切な相棒にそのような想いをさせていたかもしれないという絶望。

そういった感情が全て綯交ぜになってしまっている今のティアナにまともに言葉を発する余力など少しもありはしなかった。

 

「……そこに関しちゃお前も同じようなもんだスバル、さっきお前の言ったように自分なりに強くなりてえって想いや努力は誰にだってあって当たり前だ。けど、それに対するリスクをきちんと見定められねーと……こうなっちまうんだ」

「はい…………」

 

ショックの度合いで言えばスバルもまた同じような物だった。

ここに連れてこられる直前にヴィータに言われたように、自分は憧れの対象であるなのはのことを何も知らなかったのだと。

自分やティアナの想いを知って尚、自分たちを導こうとしてくれていたその裏には確かな意図があった筈なのだと。

だというのに自分もティアナもそんな思いを全く考えずに今日まで無茶を続けてきて、その結果が今日の模擬戦でのあの一幕だ。

スバルの中では今まで意地を張ってきた自分の姿があまりにもちっぽけな物に見えてきてしまう程のショックだった。

 

「だからあたしらはお前らに徹底的に基礎を叩き込んで、あんな目に遭わねーように……多少の無茶があったとしても、無事に帰ってこれる様に、そんな風になってもらいたい一心で教えてきてた……そのつもりだったんだ……」

「ヴィータ……副隊長……」

「……けど甘かった、はっきり言葉にしないでただ訓練を叩き込むだけで、お前らならわかってくれるって、そういう甘ったれた考えでいたあたしやなのはの……いや、隊長陣全員の失態だ……本当にすまなかった……」

「そ、そんな……ヴィータ副隊長……」

「ヴィータ副隊長が謝ることじゃ……」

 

唐突に立ち上がって頭を下げるヴィータの姿を前にエリオもキャロも戸惑う一方。

なのは、スバル、ティアナの3人に至っては各々で何も言えずにただじっとその場に佇んでいることしかできなかった。

模擬戦でのなのはやヴィータの豹変と今し方語られたなのはの過去、今日までの訓練の裏にあった真意、ヴィータの謝罪。

その全てが新人4人にとっては衝撃的な事実で心の整理が容易に追いつかないでいたのだ。

 

 

 

*

 

 

 

「コウゲキ、カイシ」

 

ノイズ混じりの機械音と共に正体不明の人型機の片方――――黒いラインカラーの機体がライフルを構える。

その標的の先にいるのはシグナム、彼女に向けられた銃口の先に光が収束していく。

 

「テスタロッサ、そっちは任せるぞ!!」

「了解!!」

 

黒ラインの機体から数発の光弾が発射されるのとフェイト、シグナムの両名が行動を開始したのはほぼ同一のタイミング。

後方へと下がって回避を行うシグナムに合わせる様にフェイトもバルディッシュのカートリッジロードを行う。

瞬間的に高められた魔力がバルディッシュに巨大な鎌の形状をした魔力刃を形成し、それを構える。

 

「はあああああああ!!」

 

振り上げたバルディッシュと共にフェイトが向かっていくのはもう1機の正体不明機――――赤いラインの機体。

ロングアーチの報告も合わせて最初から様子見だの温存だのを考えさせてくれる相手ではないことはわかりきっている。

しかし、だからといって相手の目的、意図が調査にある以上、これ以上の手札を切るわけにもいかない。

敵に行動を許す前に現状の手札で出来る最大限の攻撃によって一撃で決める、そう思っての行動。

それをわかっているのかいないのか、不気味なほどに反応を見せない赤ラインの機体が動いたのは今正にバルディッシュの刃が直撃する瞬間。

振り上げられた機体の左腕部とそれに付随しているシールド、そこから発生するのは薄い白色のプロテクション。

 

「くっ……!! ぅううう……!!」

「データカンソク、バルディッシュニヨルマリョクフカザンゲキ、『ハーケンスラッシュ』トダンテイ、ヨソクデータヨリモ15%ホドノ、イリョクジョウヲカクニン」

 

厚さにして1ミリにも満たないような薄いプロテクション、だがそれをバルディッシュの斬撃で破ることができない。

対魔導師戦を想定してのバリア貫通能力まで付与されているというのに、そんなことなどまるでお構いなしと言わんばかりの頑丈な盾であった。

表情を歪めるフェイトとは対照的に目の前の人型機械は反応一つ見せずに淡々と攻撃の分析を行うのみ。

激突と拮抗の衝撃でフェイトの体が揺らされているというのに、赤ラインの機体の方は全く動じることなくプロテクションを展開した左腕を上げた状態で直立不動を保っている。

埒が明かないことを察したフェイトは攻撃を中断して一旦後方へと下がるも、

 

「ハンゲキカイシ、ライフルハッシャ」

「ッ……!! 間に合わない、バルディッシュ!!」

『Defensor』

 

その瞬間を待っていたかの如く、瞬時に右腕のライフルを掲げて反撃へと転じる赤ラインの機体。

発射されるのは数発の白い光弾、誘導機能も何ら持たない極々普通の直射弾頭でしかない物。

が、その攻撃もまたフェイトの予測を大きく上回る高速且つ正確性に非情に優れた攻撃である。

回避だけでは間に合わないとすぐに判断し、片腕を掲げてフェイトも防壁を展開し敵の攻撃を受け流そうとする。

 

「!!……ゥッ!! 何て、威力だ……」

 

防壁自体にさしたる影響は無く直撃と同時に軌道を逸らされた光弾は明後日の方向へと飛んでその姿を消していく。

だがフェイトは苦痛に表情を歪めながら防壁を展開していた腕にビリビリと響く強い衝撃を感じ取っていた。

牽制程度と考えていたその光弾の威力ははっきり言ってしまえば相当な威力を内包していたということ。

フェイトの主観で言えばカートリッジロードを行ったなのはのアクセルシューターを真っ向から受け止めた時のような、もしくはそれすらも上回る程だと。

それだけの威力の魔力弾を撃てるライフルを主メインウェポンとしている、つまりは敵の脅威は自分の予想以上なのかもしれないと更に警戒度を高めていた。

 

「データシュトク、ライフルシャゲキニヨルコウゲキ、カイヒ4、ボウギョ1、ゲンジョウノリミッタージョウタイデハ、ヨソクドオリトケイソク」

 

その一方で赤ラインの機体はやはり変わることなく戦闘の最中でも敵対者であるフェイトとの戦闘データの分析を続けている。

ライフルによる射撃とそれに対するフェイトの行動もまた赤ラインの機体の予測データとほぼ重なっていたようで、機械音とともに結果を述べていくだけ。

そのああまりにも無感情で何の意志も感じさせない行動、無人機械であるとことを考慮してもどこか得体の知れなさを感じさせるものだ。

 

「パターンヘンコウ、キンセツカクトウセンヲカイシシマス」

 

その赤ラインの機体が次にとった行動が左腕のシールド先端にエネルギー刃を形成すること。

何の変哲も無い、イエローカラーで細身の1本の刃が飛び出てきただけ。

見た目だけで判断するならばフェイトの持つバルディッシュの魔力刃にとても対抗しうるような物には見えなかったのだが、

それでも赤ラインの機体は機体後方のブースター出力を上昇させ、噴射炎と共にフェイトに向かってエネルギー刃を掲げながら突進。

 

「速い……ッ……!!」

 

その一撃、真っ向から受け止めるのは危険だと直感的に感じ取ったフェイトが高度を上げての回避を行おうと判断した。

だがその時には既にもう赤ラインの機体がすぐ目の前まで迫ってきているということにフェイトはまたしても驚愕させられることになる。

 

『Sonic Move』

 

実行するのはバルディッシュによる補助魔法、空戦での高速機動による近接格闘戦を得意としている自分が幾度も使用してきた魔法だ。

それを使用するタイミングを読み違えたというだけでもフェイトにとっては久しく感じていなかった強敵へのプレッシャーでバルディッシュを持つ手に汗が滲んでいた。

機動六課においてフェイトは基本的にリミッター付きでAAランク相当の魔力での戦闘を行っているが、それでもそこらの敵相手に遅れを取るような甘い魔導師ではない。

そんな高位の魔導師相手に特に何の特別な技術や機能も無しに素の加速力だけで容易く追いついてみせるというだけでも、この正体不明機のスペックが飛び抜けているのだ。

 

「レンゲキパターン、プログラムC-2、ソウテイドオリトカンソク」

「速度だけじゃない……瞬間加速や旋回性まで……ッ……馬鹿げている、振り切れない……!」

 

フェイトが行使するソニックムーブによる瞬間加速、見る人間によっては短距離の転移魔法なんじゃないかと言われるほどの速度を誇っている。

タイミングに遅れが生じたとはいえそれを使用して一瞬で距離を取ったはずだというのに、次の瞬間には赤ラインの機体がまたすぐに次の攻撃を放つべく迫ってきていた。

上から振り下ろされる刃を横へといなし、その次に振るわれる横への一閃を高度を下げることで回避、かと思えば次の瞬間には背後からの突きの一撃が放たれるのを再びソニックムーブの発動でかわす。

 

(思った以上に敵の追撃までの速度が速すぎる……反撃に転じる隙が見当たらない)

 

そのような回避一辺倒の戦闘を強いられているフェイトは眼前の正体不明機への得体の知れなさ、不気味さといった感情を益々強めていく一方だ。

そもそも高速戦闘というのはただ単にトップスピードを極めればそれでどうにかなるという単純な物ではないということは、それを主としているフェイト自身がよくわかっていることだ。

単純な速度のみならず、それに至るまでの加速力や空中での行動の隙を縮める為の旋回力や制御力、咄嗟の判断による急停止など体得すべき技能は多岐に渡る。

その大半、というより全てと言ってもいいくらいに正体不明機の総合的な機動力は今まで戦ってきた相手の比ではない程に完成されたものだった。

少なくとも機動六課での職務を始めて以来、フェイトがこんなにまで追い込まれることになったことなど一度たりと無かった。

 

「タイショウホソク、ヒットカクリツ82%」

「しまっ――――!!」

 

その強敵である赤ラインの機体の刃が遂にフェイトの回避を上回る。

後方からの攻撃をかわした直後、瞬時にフェイトの眼下へと移動していた赤ラインの機体の抉り上げるような一撃がフェイトへと向けられる。

回避は不可能と判断し、すぐにフェイトは防壁を展開するのだが、

 

 

 

パリィイイン!!

 

 

 

「なっ……こんな、一瞬で!!?」

「ディフェンサーノカンツウカクニン、ツイゲキコウドウ」

「くああっ!!!」

 

2、3秒もしない内に赤ラインの機体の魔力刃がフェイトの展開した防壁を粉々に粉砕していた。

元より直接的な防御よりも受け流すことに特化しているフェイトの防壁ではあるがそんな行動の暇など与えない程に赤ラインの機体の魔力刃の攻撃は凄まじい物だった。

驚き呆けているフェイトは成す術無く、追撃として放たれた赤ラインの機体の左脚部の回し蹴りを横っ腹にまともに喰らう形となってしまう。

機械の足による冷たく頑強な衝撃がバリアジャケット越しにミシリと伝わるのを感じながら一気に落下していく。

海面に叩きつけられる直前に何とか体勢を立て直して踏みとどまり、衝撃によって揺れる海面と共に敵に向き直る。

赤ラインの機体はフェイトに蹴りを放った後は特に追撃を行う様子が無く、海上で停止したフェイトの姿を確認してから背部の翼を大きく広げながら急降下。

フェイトの真正面に位置するやや離れた距離で同じように海面を揺らしながら急停止した。

 

(ッ……敵のスピード、射撃、格闘、シールド硬度、どれを取っても全然隙が見えてこない……思った以上に厳しい)

 

戦闘開始時と同じように行動を見せずに静止状態となっている赤ラインの機体と向き合う形のフェイトであるが、正直言って戦況はかなり不利な状態にあると判断していた。

背中には嫌な汗が滲んでいたし、バルディッシュを握るのに手に篭められる力も普段以上に強い物へと変わっている。

フェイトが内心で呟いているようにこの赤ラインの人型機体は今まで戦ってきたガジェットや無人兵器とは全く比較にならないかなりの強敵。

初撃の時点でシールド硬度は相当な物であるとわかっているし、その後の敵の攻撃とその速度を考えても攻撃性能でも現時点の自分の上を行っている。

回避を続けようにも一度完全に追いつかれてしまっている上に、こちらの防壁など容易く突破してしまう。

このまま単独で交戦を続けてみたところでいずれはこちらが追い込まれるのは目に見えて言えることだろう。

 

(どうする……ロングアーチも恐らくこのままじゃ危険と判断している筈……だからといってリミッター解除を行うにしても……)

 

フェイトが考えるのは、このままでは危険である以上、自分に課せられている魔力リミッターを解除するか否かという判断。

現状では苦戦を強いられているも、敵の能力的に考えてこちらが全力を発揮できれば一気に形勢逆転が可能であると踏んでいる。

が、だからといってレリックも関わらない敵のテスト同然の戦闘でこちらの切り札を切っていいものかという躊躇いも生じてしまう。

例えそれで撃破に成功したとしてもこちらの力の底を晒してしまうという意味では相手の思うツボでしかない。

敵の目的予測も合わせて考えなくてはいけないと、フェイトは慎重に判断を下すべく頭を回転させていた。

 

「……テストカンリョウ、フェイト・テスタロッサ、リミッタージョウタイデノ、セントウデータ、カンソクカンリョウ、コレヨリキカンヲカイシシマス」

「な……にっ……!?」

 

ところが次の瞬間、フェイトを眼前に捉えたまま静止していた赤ラインの機体が突如としてそんなことを言ったかと思えば、

出現時と同じ召喚魔法陣が機体の足元に展開され、数秒の間を置いてフェイトの眼前からすぐに姿を消してしまったのだ。

後に残されたフェイトはと言えば何が何だかわからずに、ただただ黙ってその場に立ち尽くすのみ。

 

「……無事だったか、テスタロッサ」

「シグナ……ッ、ど、どうしたのそんなにやられて!?」

「ああ……敵の性能、私の思っていた以上の物でな……」

 

その静寂を解いたのは同じようにあの正体不明機と戦っていた筈のシグナムがフェイトの側へと来ていたこと。

シグナムの方でも同じように戦闘を行っていた黒いラインの人型兵器が唐突に転移魔法陣と共に消失し、その後にフェイトの方へとやってきていた。

そして驚くフェイトが見たのはバリアジャケットのあちこちに傷や汚れが目立ち、呼吸も少々乱れ気味なシグナムの姿を見たことによるもの。

少なくともフェイトの中ではこんなにまで疲弊しているシグナムの姿は、ここ最近ではそれこそ自分やなのはと全力で模擬戦をした時くらいしか見たことが無い。

それの意味するところはシグナムもまた、フェイトが戦っていたのと同じ正体不明機に苦戦を強いられていたということだ。

 

「あのまま戦闘を続けるとしたら、恐らくはリミッター解除申請をしなければならなかった……」

「シグナムにも、やっぱりそれだけ厳しい相手だったの……?」

「スピードだけ見ても、以前にアグスタに現れた正体不明機をも凌駕していた、何よりそれ以外の全体的な性能で見てもかなりの物だ……あれほどの兵器を作り出す技術がカティーナ・ベルリネッタにあったということか」

「……私たちは、あの女の思惑にまんまと乗せられていた……」

「忌々しいがそう言う他あるまい、リミッター付きの私たちに十分対抗できると踏んで、あの兵器2機を送り込んできたのだろう……」

 

自分たち2人の実力を推し量るように現れて消えた正体不明の人型兵器。

リミッター付きとはいえ防戦一方という結果に終わったこと、その背後で糸を引いているカティーナ・ベルリネッタ。

今回のことも合わせてこの先の戦いの激化と迫る脅威に対する不安を覚えながらも、フェイトとシグナムは一先ずヘリの待機ポイントへと向かうのであった。

 

 

 

*

 

 

 

一通りの話が終わって解散宣言が出された後も、ロビーには3人程の人影が残されていた。

向き合う形で互いに顔を俯かせたままのなのはとティアナと、なのはのすぐ横に座って腕を組んでいるヴィータ。

誰もが口を開かずに黙ったままその場にいるだけの状態だったのだが、

 

「……ごめんね、ティアナ」

「え、なのは、さん……?」

「ヴィータちゃんの言ってた通り。ちゃんと私が訓練の意味を説明しなかったから、こんなことになっちゃって……本当にごめんなさい」

「そ、そんな……!! 私がいけなかったんです。なのはさんやヴィータ副隊長の気持ちも知らないで、勝手なことばかりして……」

 

その静寂を最初に切り裂いたのは唐突に口を開いたなのはの謝罪の言葉だった。

自分の過去、ヴィータの言葉、言葉にしなければ伝わらないこともある、それを知らずに不必要な追撃をティアナにしようとしていたこと。

その全てを恥じ、深く反省した上でなのはは自分の失態をティアナに対して詫びていた。

ティアナもティアナでまた心の奥底にあった黒い感情がようやく全て取り払われ純粋な気持ちで全てを見れるようになっていた。

その上で自分の今までの無茶な行動や相棒すらも巻き込んでしまって迷惑をかけ続けていたことを謝罪していた。

 

「うん……そのことも踏まえた上でお話ししたいんだけど、ティアナは他の子たちとは違う、凡人だなんて言ってるけど、私もヴィータちゃんもそんなこと少しも思ってないからね」

「え、そんな……私なんかが……」

「世辞でもなんでもねーよ。お前の射撃精度や幻影魔法の性能、何より冷静な判断力や指揮能力はお前にしか無い才能だよ」

 

まだまだ凸凹だらけの危なっかしー原石みてーなもんだけどな。などと付け加えて二カッと笑うヴィータの顔を見るとティアナも自然と照れくさくて頬を赤らめてしまう。

そもそもの事の一端がティアナの中に燻っていた才能ある六課のメンバーたちに対する嫉妬心によるもの。

だが、なのはとヴィータが言ったようにティアナは決して周りと比べて劣っていることなどない、十分に才能あふれた魔導師だと睨んでいる。だからこそ六課のメンバーとして選出したのだ。

クロスレンジでの爆発力を発揮するスバル、スピードと突進力に長けたエリオ、支援と召喚魔法を主とするキャロ。

その誰とも違う判断力、射撃能力、幻影魔法などの才能を持つのがティアナであり、比べること自体がそもそもおかしいのだと。

 

「そうやってみんなのいい部分をきちんと磨いていって、お互いがお互いを支え合っていく理想のチームに育て上げていく。それで一番良い所を蔑ろにして慌ててあれもこれもって他のことに手を出すとかえって危なっかしくなっちゃう……これをきちんと伝えてあげなくちゃいけなかったんだよね」

「ああ……それをやってこなかったからお前があんなに焦って無茶をしちまったわけだからな」

「で、ですからそれは私の勝手な意地でしかなくて……」

 

度々このようになのはとヴィータの言葉に謝罪の意が挟まってくるものだからティアナとしても返答に困ってしまう。

目の前の2人はきちんと自分が確実に、それでいて少ないリスクで強くなるための方法を確かに考えていてくれていたのにそれを踏みにじっていたのは自分自身。

なのにこのような態度を取られてしまう元来生真面目なティアナは戸惑うばかりになってしまうのである。

 

「でもね、もっと言っておくとティアナの考えてたことは確かに早急だったけど、間違ってもいなかったんだよ……システムリミッター、テストモードリリース。命令してみて、モード2って」

「え、あの……モード……2」

『Yes.Set up. Dagger Mode.』

 

いきなりクロスミラージュを手に取りそのように命令した上で更に手渡してくるなのは。

その上で支持されたとおりにモード2の宣告をするティアナ。

するとクロスミラージュの形状が変化、グリップと銃口の双方から繋がるように形成される複数の魔力刃。

それは、今日の模擬戦でティアナが形成していたダガーでの攻撃形態の単純な発展系と見ていい物だった。

 

「六課を出てから執務官志望となると、個人戦の機会だって多くなる、だからそれを踏まえて準備もしてたんだ……ちゃんとそれを言ってあげれば良かったって、今も反省してる……」

「あっ……!!」

「今の段階は使いこなせてる武器をもっと確実な物にしてあげたかったんだ。でも、私の教導って地味だからそれで成果が上がらなくて……それで余計に苦しめちゃって、本当にごめんね」

 

穏やかな笑みを向けてくるなのはの表情と言葉にティアナは両目に涙を浮かべる程に心を揺さぶられていた。

六課での訓練だけでなく、いずれ自分が夢の為に1人で戦うことになった時のことさえ考えていてくれていた。それを証明するのが目の前のモード2状態のクロスミラージュ。

自分は本当にこの人に深く信頼され、自分のことを考えていてくれたんだという事実が本当に嬉しかったし、そしてそれに気付けなかった自分が悲しかった。

 

「……焦って無茶して、兄貴の為に頑張りたいって、それで違法兵器相手に意地張っちまう、その気持ちはあたしも……知った風な物言いかもしんねーけどわかるつもりなんだ、あたしも同じだからな……」

「ヴィータ、副隊長も……さっき言ってた8年前の……」

 

違法な質量兵器に自分の大切な仲間を、あるいは家族を、そんな存在を傷つけられる、その時に何もできなかったという歯痒さと悔しさ。

ヴィータにとってはなのはが、ティアナにとっては兄であるティーダがそうだったようにその想いは共通の物。

加えて、その共通の想いの先にいるのが今も尚、自分たち機動六課に牙をむき続けているカティーナ・ベルリネッタと彼女の有する数々の違法兵器。

大切な人を二度と傷つけさせたくないという強い思い、その為に強くなりたいと思った意思。

その何もかもが目の前にいるこの新人と同じなんだとヴィータは深く感じ入っていたのだ。

 

「だからあたしとなのはが保証する、お前のこと、あんなムカつくポンコツなんかにぜってー負けねーように徹底的に強くしてやるって、それまでの間はあたしらが守ってやるってな」

「うん、私もヴィータちゃんと同じ気持ちだよ。だって、私たちは同じ機動六課の……仲間なんだから」

「!!…………あっ……! うあっ……うわあああん……!!」

 

にっこりと優しく微笑むなのはとヴィータの顔を見てティアナの両目から溜まっていた大粒の涙が一気に流れ落ちその場に蹲ってしまう。

兄を失い、スバルと共に管理局での任務や訓練に没頭してきたこの数年間。

張りつめた空気の中でこんなにも純粋に自分のことを思ってくれる上官に、仲間に恵まれたことが本当に嬉しくてたまらなかったのだ。

 

「ごめんなさいっ……!! ごめんなさい……」

「うん……私もごめんねティアナ……こんなに苦しい思いをするまで、気付いてあげられなくて……」

「一緒に戦う以上、あたしらはみんな大切な仲間だ……それだけは忘れるなよな」

 

泣き崩れながら謝罪の言葉を吐き続けるだけのティアナの肩を、なのはとヴィータがそれぞれ両端に座ってそっとさすってあげていた。

自分たちの想いと過去、本当の気持ち、その全てを伝えることでティアナとなのは、ヴィータはようやく本当の意味でわかりあえることができたのだった。

 

 

 

……その様子をロビーの離れた位置で隠れるようにして見守っていた新人3人達の姿があったのはまた別の話である。




◆アンジェロ・リジネ

火力偏重型、高機動特化型に続く新たなコンセプトの下で開発された総合性能重視の人型無人兵器、アンジェロシリーズの試作機。
白を基調とした機体にラインのペイント、両肩側部の大型バインダーに背部には巨大な白い両翼とかなり奇抜な外見をしている。
現行では2機が製造されているが違いはライン部分のカラーが赤か黒かの差だけで性能に差は無い。
武装は右腕の連射式ライフルと左腕のシールドに内蔵されたエネルギーブレードとかなりシンプルな物。
この機体は新暦75年時点で各次元世界からかき集められた最高品質の材質で全体が構成されており、その基礎スペックは非常に高い。
ディヴィアヴォルの交戦データとトーレとのテスト戦闘の結果を反映して、実戦投入直前で火力や機動力の数値をかなり向上させてもいるのだが、
最高品質の材質によるフレームの信頼性が非常に高く、現時点でも限界出力の倍以上の改造や武装追加に耐えうるだけのポテンシャルを秘めている。
それ故に代えを効かせるのが非常に惜しい最高級機でもあり、テスト終了と同時にさっさと回収したのもその為である。
因みに、特徴的な外観の一つである背部の翼に特に意味は無いらしく、インパクトを持たせるための趣味でしかない。
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