狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
ティアナに関する問題が一通り解決した後、機動六課はまたいつも通りの流れを取り戻していた。
新人全員がなのはの過去や訓練の裏にあったその意味を知ったことでますます気合を入れる様になったり、
また、新人同士でのコミュニケーションも円滑になったりと、終わってみれば全てが良い方向で纏まっていた。
互いが互いを強く信頼する中で新人たちも着実に力を付けていき、第二段階の見極めテストも無事に合格したり、
それぞれが持つデバイスのリミッターが一段階解除され、今後更に幅広い戦術を想定した訓練を行うこと伝えられたりと、
密度の濃い時間を過ごしていきながらあっという間に2週間ほどが経過していた。
「プロテクターの方は大丈夫なのか?」
「自前のオートバリアがありますから」
で、そんなある日の日常風景、六課施設の裏手にある倉庫前で1台のバイクを前にやり取りをしているのはティアナと、六課専属のヘリパイロットであるヴァイス・グランセニック。
任務の際にはその類稀なる操縦技術でなのはたち含めた前線メンバーの足となる重要な立ち位置にいる存在である。
その2人が何をしているのかと言えばティアナの依頼でヴァイスが自前のバイクを貸し出す為にその調整という感じである。
「ま、お前らも今日までずっとしごかれっぱなしだったからなあ、たまにはこういうのもいいと思うぜ……っと、調整はこんなもんだろ」
「ありがとうございます、急なお願いなのに引き受けてもらっちゃって」
「気にすんなって、これくらいならお安い御用さ」
2週間前までの絶賛スランプ中だった時にもティアナはヴァイスに何度かアドバイスを貰っていたこともあり、その関係で新人たちの中では最も親しい。
気前よく笑うヴァイスが言うように今日は午前中で訓練終了、六課新人メンバーには休暇が与えられていた。
で、ティアナもスバルと共に街に繰り出して遊ぼうという流れになり、その為の足としてヴァイスにバイクを借りに来ているとそんな感じだ。
「しかしアレだなあ、俺も時々お前らの訓練見たりするんだけどよ、最近のお前は何というか柔軟な動きができるようになったよな」
「それは、隊長たちの教えがいいからであって」
「いやいや、俺だって話は聞いてるぜ、やっぱり4人纏めて説教されたとあっちゃ何かしら響くもんがあったんだろ?」
「それはまあ……はい、恥ずかしい話ですけど、確かにその通りですね」
例の騒動についてはヴァイスもある程度聞き及んでいるからこそのこんな言葉である。
実際、あの日以来からティアナの動きは日を増すごとに目に見えて良くなっていった。
今日の午前中の第二段階見極めテストに無事に合格できたのもそういったティアナの急成長によるところが大きかったりする。
それはあまり積極的に訓練に関わることの無いヴァイスからしてもすぐにわかるほどの大きな変化だったようで、
彼の目からしても今まで画一的な動きしか見られてなかったティアナのそういった成長を純粋に喜んでいたのだ。
「……ヴァイス陸曹、答えづらいことだったら申し訳ないんですけど」
「お? どうしたいきなりそんな神妙な顔つきで」
「陸曹って魔導師経験ありますよね、だから私のことも前から色々と的確なアドバイスをしてくれて」
和やかな空気が少し変わったのはバイクに跨ったティアナが切り出したそんな話。
今でこそヘリパイロットという役柄ではあるし、ティアナ自身もその詳細を知っているわけではないが、
それでも何となく気になってしまいヴァイスに対してその過去を探るような問いかけをしていた。
「何だかんだ俺も昔は武装隊で働いてたこともあったからよ、あん時はシグナム姐さんにビシバシしごかれたこともあったぜ」
「あ、あはは、それは……大変そうですね」
「でもま、そのおかげでド新人相手に説教くれられる程度の経験はあるつもりだぜ」
言いながらティアナに視線を向けるヴァイスの表情は普段の頼れる兄貴分とはどこか違う、何となく物悲しさを感じる物。
それを見たティアナはやはり触れてはいけない部分だったと少し後悔気味に視線を逸らしてしまう。
尤も、答えたのはヴァイス本人であるし彼もそういうリアクションは望んでいないと言わんばかりにすぐに表情を元に戻して見せていたが。
「さ、相方をいつまでも待たせちゃ悪いだろ、早く行ってやんな」
「はい、ありがとうございます」
せっかくの休暇にこんなしみったれた話をしていてもしょうがないだろうと、ヴァイスのそんな意思を感じ取ったティアナも素直に礼を述べてからバイクを発信させる。
遠くなっていくティアナの後姿を見送った後、ヴァイスは倉庫内へと戻っていく。
「……お前は強い奴だよティアナ、兄貴のことや他の色んなことに向き合ってちゃんと前に進めてるんだからよ……立ち止まっちまった俺なんかと違って」
誰もいない倉庫の一画で吐き捨てるようにして呟かれたヴァイスの一言。
彼の脳裏に過る武装隊時代のある悲劇とたった1人の妹の姿。
闊達で気配り上手な表向きの顔の裏側で今も癒えることない大きな傷を抱えているのであった。
*
時間は少し流れてミッドチルダ首都、クラナガンのレールウェイ車両内。
そこで同じ席に並んで腰を下ろして外の景色を眺めているのはエリオとキャロの2人。
彼らもまた休日ということでスバルやティアナと同じように街での時間を過ごすために移動中。
出発前に上官、というか保護者のフェイトにあれこれ心配されたりロングアーチのシャーリーに変な入れ知恵をされてきたりと色々あったがそれはまた別の話。
「そういえばキャロの使役してる竜ってフリード意外にもう一騎いるんだよね?」
「うん、ヴォルテールっていう黒くてすっごく大きな竜、アルザスの土地の守り神みたいなもので、どっちかというと私の方が力を貸してもらっているって感じかな」
「うーん……そんな偉大な竜となるとわざわざ呼び出して挨拶だけ、なんて気軽な気持ちじゃ逆に申し訳ないよね」
如何にも良いムード満々な中で話題に挙がっているのはキャロの使役している召喚竜についての話。
竜召喚のレアスキルを保持する希少な魔導師としてその力を振るっているキャロとその愛竜であるフリードリヒだが、
彼女が使役するのはもう一騎、ヴォルテールという名の巨大な黒い巨竜。
キャロの出身であるアルザスの地においては「大地の守護者」とすら称される信仰の対象でもあり、その力は正に絶大。
サイズも破壊力も桁外れであり、困ったように笑うエリオが言うようにおいそれと呼び出せるような存在ではない、文字通りの切り札と言っていい。
「いつか機会があればエリオ君にも紹介してあげたいなって思ってるから。フリードもエリオ君のこと本当に友達だと思ってくれてるみたいだし」
「ホント? そんな風に言ってくれると僕も嬉しいなあ」
話題も弾んで和気あいあいと手を取り合う2人の男女、傍から見れば本当に仲睦まじいカップルの様にしか見えなかったり。
とはいえ、出自が特殊なこともあってエリオもキャロもある程度の意識はあれど、その手の感情に対する意識や知識に関してはまだまだ不足していたりもするが。
「でも、ティアナさんが立ち直ってくれて本当に良かったよ。僕もティアナさんには何度も助けられてたから」
「うん、私もヴィータ副隊長たちの話を聞いてからティアナさん、何だか前より明るくなったような気がする」
次いで話題の種になるのは自分たちも共通の話を聞いていたティアナについてのこと。
エリオとキャロもティアナの過去についてはスバル経由で聞き知っており、当然あの日一緒にいたのだからなのはの過去についてもしっかり覚えている。
2人とも六課に来る以前はそれこそまともに触れ合った他人は自分たちを保護してくれたフェイトくらいしかいなかったし、
同じライトニング分隊の一員として接する機会が増えて少しずつ会話も増えてきたとはいえ、スターズ分隊のメンバー相手にはギクシャクすることも少なくなかったのだ。
いや、正確に言えばスバルはその人懐っこい性格から打ち解けるのも早かったが、ティアナに対しては表面上では話し合えているつもりでも、
内ではどこか壁を感じているというか自分で壁を作ってしまっているというかそんな感じになっていたりもしたのだ。
「ティアナさんも自分の目標の為に一生懸命だし、僕たちも頑張らないとだよね、キャロ」
「うんっ、私もフェイトさんやエリオ君、六課のみんなの為に頑張るっ」
ニコッと笑って胸の前で両拳をグッと握って見せるキャロの仕草にエリオはときめいてしまっていたりもする。
ヴィータから全ての真実を告げられたその日から、エリオもキャロもティアナに無意識に感じていた何かが無くなったような気がして、本当にわかりあえるようになっていた。
兄の為に前に進んでいるティアナの姿を見て居ると自然と自分たちもそれぞれの目標に向かって頑張ろうと不思議とそんな前向きな気持ちになるのである。
エリオにもキャロにも、今の機動六課という居場所はフェイトがいることも合わせて掛け替えのない居場所でもあり、それを守ることが目標の一つだった。
『間もなく、サードアベニュー南口、サードアベニュー南口です』
と、そうこうしている間に目的の駅に到着したというアナウンスを聞き、エリオとキャロは席を立つ。
車両出入り口前は大勢の人で込み合っており、エリオの後ろをついていくキャロはどこかソワソワした様子である。
「あっ……と……」
後ろから降りてきた別の人間とぶつかってしまいキャロはよろよろと前のめりになってしまう。
慌ててエリオがキャロの手を取ったので倒れ込むことは無かったのだが。
「あらあらごめんねお嬢ちゃん、大丈夫だったかな……っと?」
「あ、はい、こちらこそどうもすいませんでした」
振り返ってぺこりと頭を下げるキャロの顔を心配そうに覗き込んでいたのはぶつかってしまった相手であろうスレンダーな女性。
ポニーテールの髪型に帽子にサングラス、ジーパンなど、如何にも都会の街並みに1人はいそうな現代的でラフな服装をしている。
その見た目とは裏腹にとても優しい声色でキャロに声をかけてきていた。
「いやー、私も街に出るのは久しぶりでついつい足下が御留守になっちゃってて本当にごめんね」
「い、いえそんな」
「まあ、せっかくのお休みっぽいし? 愛しの彼にしっかりエスコートしてもらうんだよ可愛いお嬢ちゃん♪」
まるで効果音でも鳴りそうなくらい人の好い笑顔で、サングラスの下でウインクまでしながら気の良さそうな声でそう言って、その女性はあっという間にその場から離れていってしまった。
その一種独特の雰囲気や物言いに呑まれて呆然としていたエリオとキャロはしばらく互いに手を取り合ったままぼーっと立ち尽くしていたが。
「「あ、あはははははは……」」
お互いの顔を見合いながらどこか気恥ずかしそうに頬を赤らめながら笑い、一緒に並びながら歩き始めた。
*
新人たちが休暇中ということもあって、隊舎で待機中の隊長陣も基本的には休憩モードといった感じだった。
シグナムとヴィータは外回りで聖王教会やら捜査協力を申し出た陸士108部隊に出向いての打ち合わせや戦技指導などで出払っていたりもしたが、
それでも普段と比べてどこか和やかな落ち着いた空気が六課全体を取り巻いていたとそう言っていい……筈だった。
「……以上が、東部海上におけるライトニング01、02と、改良型の空戦ガジェット編隊、そして例の正体不明機の交戦の記録です」
そんな休暇モードとは程遠い、いつも以上に張りつめた空気が漂っているのが機動六課部隊長の私室とそこに集う4人の人物。
「どう見ますか、八神部隊長?」
「やっぱフェイトちゃんが言うとったように色々デタラメとしか言いようがないな……火力に防御力に機動力、どこを取っても隙が見当たらへん」
「はいです、リインも色々な魔導兵器、質量兵器、違法兵器は見てきましたがこんなに強いのは今まで見たことが無いです」
六課通信主任であるシャーリーことシャリオ・フィニーノが映し出すのはフェイト、シグナム両名が交戦した敵部隊のデータ。
部隊長の傍らに立つ補佐官のグリフィス・ロウランの言葉に続くように深刻な顔で意見を述べるのははやてとリインフォースⅡの2人。
この場にいる4人全員が以前の戦闘についてのデータに一通り目を通しており、その詳しい解析が終わったということでこうやって集まっていた。
そして満場一致の意見として挙がったのが交戦した本人であるフェイト、シグナムが感じたのと同じ、これまでの兵器の中でもトップの性能を持っているだろうということ。
「ガジェットと違って破片の回収も不可能でしたし、だいぶ憶測混じりのデータになってしまいましたが……」
「それでも十分や、グリフィスやシャーリーが頑張ってくれたおかげでコイツについての情報はしっかり纏まっとる」
改良型のガジェットⅡ型についてはフェイト、シグナムが全機撃墜し、その残骸からデータを回収して詳しい情報が既に挙がっている。
が、それが叶わなかった正体不明機2機についての情報もロングアーチの尽力によってそれなりに形にはなっていたのである。
裏を返せば、実物が無くとも異常だということ立証できるくらい、眼前の映像に映る敵の性能が飛び抜けているということの証明でもあったが。
「敵が向こうから引いてくれたからとりあえず、こっちの切り札は切らずにすんだんやけど……やっぱ煮え切らない気持ちは消えへんな」
「私も、ヴィータちゃんやシグナムとユニゾンしても……リミッター状態で上手く戦えていたかどうか、不安な気持ちです」
「リイン曹長がそのように仰る程なのですか……」
いつにも増して弱気気味なはやてとリインの言葉を聞くとグリフィスとしても不安の色を隠せなくなってくる。
実際、あの戦闘でフェイトが悩んでいたようにロングアーチもまたリミッターを解除しての戦闘を行うべきかの判断で頭を巡らせていた。
結果は知っての通り、正体不明機が突如としてその場を離脱したことによりそれを使うことは無かったのだが。
が、はやてとしては相手に「今のお前らならこれくらいで十分だ」と付きつけられたような気がして、それが内心でとても悔しかった。
機動六課を纏める部隊長として、戦力の判断と現場の状況の読み違えは命取りになる。
だというのにあの時の戦闘はまるで全部相手の掌の上だったような気がして、それがはやての心を容赦なく踏みにじる形になっていたのである。
そしてリインも、画面越しではあるがあの機体が自分や他の守護騎士の手に余る強敵だということをよく理解していた。
単独ではもちろん、ユニゾンデバイスとしての己の真価を発揮し他の守護騎士と共に戦ったとしても、力を抑えられている状態で勝利を収めることができたのだろうかと。
「何にせよ、敵があれだけの戦力の兵器を有しているとわかっている以上、こっちもこっちでますます気が抜けんいうことやな。シャーリー、新人たちのデバイスの調整は?」
「はい、リミッター解除含めた4機全ての諸々の調整はもうすぐ完了します」
「レイジングハートにバルディッシュ、それに私や蒼天の書のフルチェックも行う予定なのですよ」
「うん、ええ感じやな。私のシュベルトクロイツと夜天の書も後でお願いせなあかんな」
であるならば、はやてが自分で言ったように機動六課としても今後の戦いの激化に備えてできることをしていくのは当然の流れであろう。
見極めの模擬戦に合格し、新人たちのデバイスは1段階上の性能が付加され、隊長陣全体のデバイスについての調整やメンテナンスも行なわれる。
前線メンバーが全力で力を発揮できるよう、ロングアーチを始めとする後衛メンバーもそれぞれが全力で職務に臨まなければいけないのだ。
「みんなもごめんな、せっかくのお休みやってのにこんな薄暗い部屋で辛気臭い話せなあかんなんて」
「そんなことありませんよ八神部隊長、フォワードの皆さんが頑張れるようにいつ如何なる時でも気を抜かずに努めるのは当然の役目ですから」
「それに私は元からデバイス弄りするのは好きでやってますし、これも立派な休暇の一時になってますよ」
「リインもシャーリーと同じ気持ちです!!」
グリフィスも、シャーリーも、リインも、誰一人として本心からはやてに対して不満を抱いていることなど少しもありはしない。
立場の細かな違いはあれど、みな同じ志の下、はやてと共に機動六課という場所での役割を果たしているだけなのである。
「……うん、ほんなら私もごめんなんて言うのはかえって失礼やったな、ありがとう」
3人の言葉を受けて自分は本当に頼りになる仲間たちに恵まれているのだなと感じ。
はやては胸がいっぱいになる気持ちで笑顔と共に礼を述べていた。
*
「むぐむぐっ……いんやーまあ、シャバでの食事はやっぱり薄暗いアジトよりも一段と美味しく感じるものよねえ」
右手のホットドッグにかぶりついてその味を堪能、因みに反対の左手には食べかけのハンバーガーが握られていたり。
別にどこぞの名店とかのでもなく極々普通のチェーン店で買っただけのファーストフードでしかないのだけど
こういうのはやっぱりその場で買ってその場で開いて食べ歩き、なんてした方が情緒があるよねという勝手な思い込み。
「にしても驚きだったよー、まさか六課の新人たちがドンピシャで街に来てるなんてさ、こっちとしても思わぬ儲けだったというか」
表向きの装いを着てまで何で街中に出ているのかと言えば、何てことない、単純に気分転換したかったというだけだ。
ここのところアンジェロシリーズの開発やら調整やら収拾した戦闘データの纏めやら、はたまたガジェットの追加作成やらでラボに篭もりっぱなしだったので外の空気を吸いたい気分だったのである。
ぶっちゃけちゃうとこういうのは初めてじゃないし、2ヵ月に1回くらいの頻度で表に出てきて遊んでたりもするのだ。
超インドア派の兄さんは年単位でアジトに篭もりっぱなしでも全く気にしてない風だったがその辺の嗜好にもやはり私と差があるらしいことがよくわかる。
で、久々のシャバというか表の街並みで鼻歌交じりに楽しんでたらその矢先、サードアベニュー南口の駅でばったり会ったのが確か六課新人のエリオとキャロだったかな?
雰囲気的に如何にもデート中という感じだったし、照れくさそうに笑う可愛い子供2人なんて見れた時点でもうご馳走様って感じだったね、うん。
「ま、コイツがある以上バレるなんてことも無いだろうしねえ……はむっ」
大勢の人間が行き交う街並みを歩きながらハンバーガーを一口パクリ、うん、ジューシーなパティの旨味がたまらない。
広域指名手配の次元犯罪者である私がこんな人だらけの場所を堂々と歩いていて大丈夫なのかという問題があるが、
そもそも大半の一般市民が常日頃から指名手配犯に目を光らせてるなんて馬鹿げた話がある筈も無く、服装と髪型変更とグラサンくらいの簡単な装備でたいていの人間は欺けるのだよ。
それに加えて今は左腕に仕込んでいる私用のデバイスの機能も発動させているし、私に対する印象はかなり薄まっていると言っていい。
そんなわけで犯罪者である私が堂々と大手を振って歩き回りながら街で色々とエンジョイできたりしちゃうのだ。
せっかくだしセインやウェンディ辺りにお土産でも買っていこうかなあ? なんて考えも出てくるくらいだしね。
「それにしてもアンジェロ・リジネの実動テストは本当に楽しかったなあ……リミッター状態とはいえあれで大体の底は知れたような物だったし……くふ、くふふふ」
残ったホットドッグとハンバーガーを一辺に口に放り込んでから服の裾で汚れを拭い、以前のテストのことを思い出してニヤケ笑い。
自分の持てる技術の粋を結集して作った最高クラスの新型機であったアンジェロ・リジネは私の予想以上の結果を残してくれていたのだ。
直前に行ったトーレとのテストのデータを反映したこともあって、機動力に関してはテスタロッサとシグナム相手に完全に上手に出ていたし、
その他の性能についてもリミッター状態の隊長陣相手にほぼ圧倒という最高の記録を叩き出していたのだから。
1号機がテスタロッサのなけなしの防壁を一瞬で破壊して蹴りを入れたシーンなんか興奮のし過ぎで笑いが止まらなかったよ。
そのシーンだけ何度も巻き戻して繰り返し再生したくなるくらいに、というか実際何回かやっちゃった。
ともあれ、満足いくデータも取れた時点でそこそこに切り上げてデータの纏めとリジネの調整やらも行ってとそんな感じだったのである。
アンジェロシリーズは私の最高傑作到達に向けての大事な一歩であり、それが残した結果次第で今後の進め方も変わっていた。
そして現状で言えることは、リジネの改良プランを現行通り進め、その先にある最高傑作の完成まで漕ぎ着けられれば、
リミッター解除状態の六課隊長陣が束になろうがこっちが圧倒できるであろうという確かな確信。
その時の光景を想像するだけでもう……みっともない話だが涎も垂れてきそうなくらいに楽しみだったりもする。
『やあ休暇は楽しんでいるかい? カティーナ』
「んふふふー……っておっと、このタイミングでまさかの通信だね、どったの兄さん?」
などと色々考えながら街並みを歩いて楽しんでいるところに脳内に響いてくる通信音声は意外なことに兄さんから。
別に外部に漏れたりはしないのだけど怪しまれないように一応、建物の間の影に潜んでそれに答えることにした。
「そりゃまあ久々のシャバだし思いっきりエンジョイしていますとも。で、そんな今の私にわざわざ兄さんから通信なんて今度はどんな面白そうなことが起きたのさ?」
『クククク……相変わらずの理解の早さで助かるよ、君にとっても何より私にとってとても重要で愉快なことが起きているのさ』
『ええ、それについては私から説明いたします』
響いてくる兄さんの興奮気味な声色を聞けばまたすぐに察しもつく。
わざわざ単独でお楽しみ中だった私にわざわざ自分から通信を入れてきたことも合わせて何かまた凄いことを発見したに違いない。
それを引き継ぐように入ってきたウーノの声に傾ける私も自然と興味が湧きまくりという感じ。
『ミッド某所のトンネル内でレリック反応を追っていたガジェットⅠ型の反応がすべて焼失しています』
「んー……? まあそれくらいなら普通に迎撃されたか、もしくはトラックが慌てて事故ったとかそんな感じじゃないのー?」
『ええ、ですがその際の反応と現場の状況……参照したデータ数値を見るに確定は出来ませんが、恐らく例のマテリアルの可能性が高いのです』
「……へえ、マテリアルねえ……?」
『そうとも、アレの存在が我々にとってどれほど重要かは君にも重々わかっていることだろう、カティーナ?』
成る程成る程、兄さんが興奮していたのも納得だ。というか今現在の私も同じように興奮で声が上ずってきたし。
ウーノからの報告にあったマテリアルという単語、つまりは兄さんがずっと探し求めていた夢の為の大事な大事な器。
成熟期間を考えるにそろそろ時期だとは思っていたけどまさかそれが今日見つかるとは、これを喜ばずにはいられまい。
兄さんにとっても私にとっても、アレの存在はいずれ必ず手にしなければならない最優先確保対象なのだから。
「となると、のんびり休暇をエンジョイってわけにもいかないだろうしね……そっちの戦力は?」
『対象が対象ですから、こちらも妹たちの何人かを送り込む予定です』
『それと、愛しいルーテシアもそう遠くない位置にいる、できれば合流して協力してくれると助かるよ』
「オーライ、オーライ、それだけ聞ければ万事オッケー、じゃあ私もやれるだけやってみますとも」
『くれぐれもお気をつけて……特に六課の魔導師と遭遇した際には』
「引き際わきまえてるからそれも問題ないよウーノ、私のデバイスに合わせてルーテシアの長距離転送もあれば逃げるくらい余裕でこなせるんだから」
稼働中の左腕のデバイスにマテリアルの位置情報と待機中のルーテシアの位置ポイントのデータが……
ってうわお、今目の前にある高層ビルの屋上にいたとはこれまた何たる偶然、動き回る手間が省けて助かったよ。
「ほいじゃ機能開始……これくらいなら転送じゃなくても飛んでいけるよね…………すぅー……そりゃっ」
左腕に仕込んだデバイスを臨戦モードに変更、私の左手を包み込むのはカギ爪のついた青いラインの走る手袋型のデバイスだ。
足下にテンプレートを展開して足に力を込める、それを軸にぴょーんと垂直に一跳びすればあっという間に屋上である。
うん? 科学者だからって戦闘能力皆無ってわけでもないのだよ。
流石に機人のみんなには劣るけどそれでも万が一の為にある程度常人離れした身体能力は備わっているし。
とはいえそれは本当におまけ程度でしかなく、私のデバイスの機能は認識阻害を含めた補助的な部分に趣が置かれているんだけどね。
「おー、ホントにいたいた。おっすルーテシア久しぶり」
「ん、ごきげんようカティ」
高層ビルの屋上に佇むように立って髪をなびかせていたルーテシア。
一般人から見れば奇妙極まりない光景なんだろうけどお互いわかってる私たちはそんなの全く気にしない。
「話は兄さんから聞いてるよね? ルーテシアのお目当ての品は地下にあるみたいだけど……1人で大丈夫?」
「1人じゃない、今はガリューが一緒にいてくれている」
「おっとこれは失礼、じゃあ私の方でもナンバーズのみんなが来るまでガラクタ使って色々やっておくから任せていいかな?」
「うん、お願い」
ルーテシアのアスクレピオスにも必要な情報は入っているだろうし、忠臣であるガリューも共にいるなら万一の場合でも大丈夫だろう。
それを向こうもわかっているのか、ルーテシアはそれだけやり取りした後、自身の転送魔法ですぐに地下水道へと消えていった。
戦闘機人のみんなが来るにはまだ少し時間があるし、街中となると下手に作品を動かすのもアレだろうし……
となれば、いつも通りガラクタを大量に動かして気を引きながら本隊の到着を待っておけばいいかな。
「そんじゃま、表立ってのドンパチは久しぶりだけど……やらせてもらうとしますか!!」
パンパンと手を叩いたりなんかして気合十分、私は左腕のデバイスを作動させてアジトの保管庫とリンクを開始。
ミッド海上や下水道に大量のガジェット同時転送させるべく行動を開始していた。
◆カティーナのデバイス
左腕に装着されている青いラインの走ったカギ爪型のデバイスで、スカリエッティが使用している物と外観はほぼ同一。
使用されているのはどちらかといえばスカリエッティの物と同じく戦闘機人のISのそれに近い。
直射弾や防壁の形成、身体能力向上、認識阻害といった機能などもあるが、最大の特徴は転送能力。
長距離、大規模、多量の転送を全く違うポイントで一度に発動させることが可能というかなりの高性能を持っている。
これを使って緊急時に追加戦力を送り込んだり、逆に兵器を撤退させたりしている。