狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第14話:食らいつく悪意、ご・あ・い・さ・つ

「はああああああ!!」

「…………!!」

 

地下水道での機動六課とルーテシアたちとの戦いは激しさを増していく一方だ。

唸りを上げて叩きつけられるギンガの拳とガリューの放った刃の一撃が真っ向衝突して火花を散らす。

 

「んなろっ!!」

 

そこから少し離れた場所ではアギトが数個の火炎球を形成して辺り一帯に発射。

地下水道の至る所で大爆発が起き、残りの六課メンバーはそれをかわすので精一杯という感じだ。

残ったルーテシアはと言えば、元々後方支援型の召喚魔導師ということもあってか、ガリューとアギトの奮闘をじっと見つめるばかり。

 

「……どうするのティア?」

「こっちの目的は飽くまでもレリックケースの確保、あの連中が何者なのかはわからないけど、少なくともここで戦いを長引かせるのは悪手でしかないわ」

 

水路の物陰の一画に潜みながらスバルとティアナは現状の確認と次になすべきことが何かを確認し合う。

新人メンバーの中では状況把握と現場指揮も兼ねているティアナの判断としては自分で言ったように戦闘の長期化や増して相手を倒すといった発想は避けるべきということ。

人数的にはこっちが有利とはいえ、敵である3人は誰もが自分たちを上回る実力者ばかり。

しかも先の混乱に乗じて確保対象であるレリックケースも未だに少女、ルーテシアの手の内にある。

となると、如何にして相手からケースを奪還しながらこの場を離れるかということになるのだが、

 

「ヴィータ副隊長とリイン曹長が近づいてきているのも確認できてる、副隊長たちと合流する形で撤退しながら相手を引きつければ……」

「それであの娘たちも止められるかも、ってことだよね、ティア」

(……よし、いい判断だティアナにスバル、現場の状況をよく捉えられてるな)

「って、ヴィータ副隊長? もうこんな近くまで」

(私もいるですよ!!)

 

もうすぐ合流するであろうヴィータたちとの挟撃、といったことを考えている矢先に割り込んできたのはその件の本人であるヴィータと随伴してきたリインからの思念通話。

スバルやティアナが感じ取ったように、ヴィータ達の魔力反応が地下水道に向けて一気に急降下してきているのが確認できていた。

 

「……ちょっと待てルール―、何かヤベエのが近づいて来てやがる!!」

「…………」

 

それを捉えたのは機動六課のメンバーだけでなく、相対しているアギトやルーテシアもであった。

現状の敵対者を上回る自分たちすら更に超えているであろう増援の接近にアギトは慌てるも、それを聞いたルーテシアは特に反応を示さず。

そしてその魔力反応が近づいてきているだろう方向に2人が視線を上に向けたその瞬間。

 

「アイゼンッッ!!」

『Gigantform!』

 

崩落する天井を突き破りながら現れる2人の魔導師、その内の片方であるヴィータが握るのはギガントフォルムのアイゼン、普段の形態を遥かに上回る巨大な鎚。

 

「吹っ飛べええええええええ!!!!」

「!?…………」

 

その巨鎚の一振りはルーテシアを庇うようにして立っていたガリューにクリーンヒット。

咄嗟に右腕を振り上げて防御の姿勢を取るも全く意味をなさず、そのまま地下水道のカベへと勢いよく叩きつけられた。

 

「ガリュー……!!」

「捕らえよ、凍てつく足枷! フリーレンフェッセルン!!」

「あっ……!」

 

自分が最も信頼している召喚蟲の負傷に初めてルーテシアは勘定を露わにして声を漏らすもそれが大きな隙となる。

ヴィータに続いて衝突した煙の中から飛び出てきたリインは既に詠唱を完了しており、その矛先が残ったルーテシアとアギトへと向けられる。

それに気づいたアギトが反撃に転じる前に、2人はリインが放った氷獄に捕われることになった。

 

「よう、よく持ちこたえたなお前ら」

「みなさん御無事で何よりです!!」

 

アイゼンを通常形態へと戻し背を向けたまま顔だけを後方にいる新人たちに向け誇らしげにするヴィータ。

その側に浮いているリインも自身のデバイスである蒼天の書を片手に元気いっぱいといった感じだ。

外見的には六課メンバーの誰よりも幼く見える筈なのに、内に秘めた頼もしさからなのか何倍も大きな存在に見えるくらいで。

 

「あ、あはは……相変わらず凄いですね、副隊長たち」

 

自分たち苦戦させられていた複数の敵を相手に、不意打ち気味だったとはいえこうも簡単に撃破と捕縛を完了させるその実力。

既に払拭した感情で後ろ暗い物は全く感じなかったものの、そのデタラメ振りにティアナも乾いた笑いを発するしかできない。

その様子を見ていたギンガ含む他のメンバーも概ね同じような感想を抱いているようだった。

 

 

 

*

 

 

 

「ん~……やっぱルーテシアとアギトと言えど隊長格が加わったんじゃ流石に大変だったかもだねえ」

「いやいや、そんなのんきなこと言ってる場合でも無いでしょカティ? ルーお嬢様が出てきたの私らのすぐ近くじゃん!」

「あ、お嬢様が地雷王を召喚したみたいっス」

 

地下水道を映すモニターの戦況が急変したのが六課副隊長のヴィータとユニゾンデバイスのリインが合流した直後。

巨大ハンマーでガリューを叩き飛ばすわその隙ついてルーテシアとアギトを捕縛するわホントやりたい放題だね。

尤も、セインやウェンディが肉眼で捉えているようにみんなさっさと表に脱出してから別の召喚蟲で追撃してるのが見えるけど。

 

「つってもセインの言うように頃合いとしてはそろそろかなあ……というわけで2人ともスタンバイね、タイミングはこっちから出すんで」

「待ってましたっス!!」

「はいよー、りょうかーい」

 

地雷王も出してるしアギトもいるし、そう簡単にやられるとは思わないが副隊長含めて敵は7人。

流石のルーテシアもこれを相手に保たせるのはハードだろうということでいよいよセインとウェンディに動いてもらうことに。

この2人は個人的に付き合いも多いこともあって私の言葉に素直に喜んで従ってくれるから大好きだ。

ああいや駒的な意味じゃなくて……1、2割そういう感情もあるんだろうけど、それでも大半は気の良い女友達的な意味でだからね?

ともあれセインはガトリングランチャーを抱えたままディープダイバーを使って地面の中へ。

ウェンディは事前に私のデバイスでジャミングをかけてから、固有技能、エリアルレイヴを発動してボードに乗っかり廃ビルの隙間に隠れながら空中を舞う。

後は敵の出方次第とクアットロ、ディエチ組との擦り合わせを兼ねてこっちから指示を飛ばすだけでオッケー。

いざとなれば追加でガジェットを何機か呼び寄せてもいいし、現状は十分順調に進んでいると言えるね、うん。

 

「しっかし召喚魔法ってのもすんごいもんだよねー、あんな怪物大量に従えるだけの技量と信頼があるってことなんだしさあ……うわっとと」

 

いきなりの衝撃音とともに地面が揺れてちょっとよろけてみたり。

モニターを合わせて周囲を見渡してみればルーテシアの地雷王の衝撃で地下水道のあった地面が埋没しているのが見える。

うわあい廃棄都市区画とはいえ地上本部の目と鼻の先で公共施設を余裕でぶち壊しまくり、何を今更過ぎる話でもあるんだけど。

地雷王はルーテシアが使役している召喚蟲の一種で、外見的には黒くて巨大なメスのカブトムシみたいなもの。

その巨体を活かしてのパワーだけでも凄まじく、更には生体電流からなる莫大な威力の放電すらも使用可能と戦力としては相当なレベル。

これ1体使えるだけでもかなりのもんなのに、ルーテシアはこれを複数召喚可能と来てるのだからもうね。

ガリューと違って小回りは効かないけど、物量とパワーで圧倒するなら断然こっちの方がやりやすいといった感じだろう。

力押しとかゴリ押しとか……うん、何とも素晴らしい響きではないか。

 

「といっても連中がこれくらいで死ぬとは思えないけど……ふふ、言ってる側から案の定ってね」

 

敵の活躍を喜ぶっていうのもおかしな話であるが、私としては貴重な実験動物が頑張ってくれるのを見るのも、その実験動物を自分の手で転がすのも大好きなのだ。

モニターに映し出されるのは桃色の鎖のバインドで捕縛される地雷王に別方向から伸びてくるファースト、セカンドの得意とする魔力のロード。

敵の健在をすぐさま察知したルーテシアとアギトも各々で迎撃に移っているが、どうも不意を突かれた形だったからかあまり状況はよろしくない様子。

何だかんだアギトもそのちっこい身なりに反してAランク相当の天然もののユニゾンデバイスというかなりの実力者。

何か数年前にゼストとルーテシアがある違法研究施設を襲撃した時に拾ってきたとかっていう話だったが、私としても兄さんとしても実験材料としてはこの上なく貴重だった故に手元に置いている。

向こうは自分の出自とこっちの立場もあって思いっきり嫌ってるけど、あれくらいならまだ可愛いもんだとか思ってたりね。

 

「っとと……あー、流石にダメだったかあ……」

 

などと話が脱線している間にルーテシアもアギトも奮戦の末に廃道の上で追い込まれて捕まってしまったみたい。

ゼストも一緒ならわからなかったかもだが、ルーテシアとアギトの2人だけで副隊長含めた六課魔導師7人を同時に相手にするのはちょっと無理あったっぽい。

セインとウェンディを動かすにしてもディエチの砲撃タイミングはもう少しかかるし、さて……どうしたものか。

 

『聞こえていますか、カティ?』

「あーダイジョブジョブ、状況は全部把握していますとも。ルーテシアとアギトがたった今捕まったっていう話でしょ?」

 

そのタイミングで新たに割り込んでくるモニター通信はウーノからだ。

基本的にこの手の作戦中はウーノも今の私と同じように現場を把握しながらその都度通信を入れることが多い。

協力者という名の実験体ではあるが、それでもこの段でルーテシアやアギトの身柄が管理局側に確保されるのは私にもウーノにもわかりきっていること。

 

『クアットロにも同様の通信を入れるところなのですが』

「ん、セインとウェンディはこっちで動かしてるし、ルーテシアの方は私で何とかしておくよ。クアットロ達にはそのことだけ通達しておいてくれれば」

『かしこまりました、よろしくお願いします』

「オッケー、ルーテシアも一応は大切な同士だからねえ」

 

自分で言っててこれ以上ないくらいに胡散臭さ全開の言葉だと自覚はしているが、それでも救出に手を掠ってのに変わりは無い。

ディエチの砲撃タイミングも間もなく、加えてこっちにはクアットロから教えてもらったとっておきの情報もある。

その矛先をこれからあの紅い小さな騎士、ヴィータに向けるわけだが、はてさてどんなリアクションを見せてくれるかな?

 

「くふふふ……さってと、あー、あー、聞こえてるかなルーテシア?」

(カティ……)

 

通信と変換を通してモニターの先で捕らわれの身になっているルーテシアの脳内へと念話を飛ばしてみる。

いつも通り平坦な口調で返事が返って……いや、流石にちょっと心細さの入り混じった声っぽいねこれは。

人造魔導師計画の素体として兄さんがあれこれ弄繰り回してはいたけど、やっぱり人間の感情についてはまだまだ操作するには不完全かな?

まあそういうことは今はどうでもいい、目下の問題はどのタイミングで誰をどう動かすかということ。

 

「いやーごめんね、助けるとか言っといてピンチにさせちゃって。それでまだ挽回可能ならそこから無事に逃げられるおまじないを教えてあげるけど、どう」

(うん……お願い)

「ほいきた、じゃあ目の前にいる紅いちびっこ騎士の目をしっかり見てから私の言葉を一語一句間違えずに繰り返してね♪」

 

味方がこんな状態なのに愉快な気分を抑えられないなんてもうホントに今の私は紛れもない悪人なんだろうね、うふふふ。

そんなこんなで先の楽しみを思いながらモニターにルーテシアとヴィータ、ディエチたちを映しながら私は言葉を紡いでいく。

計画実行まであと1分足らず……さあ、無様に慌てて見せなさいな機動六課。

 

 

 

*

 

 

 

地下水道から脱出したヴィータ率いる機動六課前線メンバーは、その見事なコンビネーションでルーテシアとアギトを捕らえるのに成功していた。

廃道の一画に2人を追い込んだ上でバインドで捕縛、メンバー全員で周囲を警戒しながら応援が来るまでの間に情報の引き出しを始めていた。

 

「子供苛めてるようでいい気はしねーんだが……お前たちの目的は何だ? どうしてレリックを狙っている?」

 

ルーテシアの真正面に立ってそのように問いかけるヴィータ。

こんな小さな少女がレリックを強奪しようとしていることもそうだし、何より先の戦闘を通してわかっているのは凄腕の召喚士でもあるということ。

目の前にある情報が情報だけにこの2人が自分たちが追っているスカリエッティやベルリネッタと繋がっている可能性も否定できない。

故に、出来る限り可能な段階で少しでも多くの情報を引き出しておきたいとヴィータはそのように考えていたのだが、

 

「私達に、構うのはいいけど、ヘリの方は、放っておいて、いいの?」

『!!―――市街地にてエネルギー反応を確認!! これは……物理破壊型推定Sランク!!』

「なっ……!!」

 

どこか不自然なほどに片言な言葉でルーテシアが答えるのと、ロングアーチの緊急通信が六課メンバー全員に入ってきたのは同一のタイミング。

その場にいた六課メンバー全員が驚きに目を見開くのと同時に、すぐにその意図を察知する。

ヘリの方に意識を向けさせるかのようなルーテシアの言葉に市街地に突如現れた膨大なエネルギー反応、これが示すことはつまり。

 

「……8年前と、同じように、無様な姿を晒しなさい。何も守れない、無力な守護騎士」

「ッ!!!!」

 

続け様に放たれたルーテシアの無情の一言、それを聞いてヴィータの目が一気に見開かれる。

瞳孔が全開となり青い瞳を剥き出しにするそれは、彼女が本気で動揺しているか怒り狂っている時に見せる特有の物。

8年前と同じように、その単語がヴィータの感情の触れてはいけない部分を激しく揺さぶったその瞬間。

 

『砲撃、ヘリに向かって発射……ダメです! 回避予測間に合いません!!』

 

 

 

ドォオオオン!!!

 

 

 

瞬間、離れた位置にいた六課メンバーたちにも響き渡る爆音と爆発、爆煙。

その場所にあったのはレリックと少女を輸送中だったヴァイスとシャマルの乗ったヘリ。

ロングアーチから次いで入ってくるのは砲撃直撃を確認したという報告と膨大なジャミング。

 

「そ、そんな……」

「ヴァイス陸曹……シャマル先生……」

 

絶望的な空気が周りを支配する中でぽつりを声を漏らすエリオとスバルの視線も虚ろげであった。

他のメンバーも同じように今し方起こった出来事がまるで信じられない、夢でも見ているのではないかと思いたいくらいの心境。

だがしかしこれは夢でも何でも無い。紛れも無く目の前で起こった現実。

 

「ッ!!!! テメェエエエエ!! よくもあたしらの仲間をッッ!!」

「ヴィータ副隊長、気持ちはわかりますが落ち着いてください!! 今この子にあたった所で――!!」

「うるせえティアナ!! オイ、砲撃を撃ちやがった仲間はどこにいるんだよッ!!」

 

ティアナに背後から羽交い絞めにされても尚、ルーテシアに掴みかかろうとするヴィータは完全に我を失ってしまっている。

自分の抱える心の傷を土足で踏みにじるような発言の直後にこの惨劇。守れないというルーテシアを通して伝えられた一言。

仲間を失うことの恐ろしさを誰よりも痛感しているからこそ、ヴィータはその冷静さを容易く粉々にされてしまったいた。

 

「……!! みんな、後ろの足元に何かっ!!」

 

故にヴィータも、その怒りにたじろいでいた周りの六課メンバーも大きすぎる隙を生み出していたことに気付くには遅すぎた。

ギンガが声を張り上げた視線の先に覗いていたのは地面から生えているように飛び出していた複数の砲門。

 

 

 

ドガガガガガッ!!

 

 

 

次の瞬間、けたたましい発射音と共に六課メンバーに向かったその砲門――ガトリングランチャーの砲弾が発射される。

ギンガが気付かなかったらその場にいた全員、何の成す術も無く物言わぬ肉塊に変わり果てていたことであろう。

間一髪、各々がその弾丸の嵐から逃れるようにして飛び退いていくが、

 

「副隊長ッッ!! ぐうぅっ……!!」

「!!――ティ、ティアナアアアア!!!!」

 

直前まで我を失っていたヴィータを抱えたままその身を守るようにして飛び退いたティアナの二の腕に弾丸の一発が掠めていく。

ティアナに抱えられたまま眼前で散る鮮血を見ていたヴィータはその腕の中で叫ぶことしかできない。

 

「ふふふ、揃いも揃って隙だらけっスよっと!」

「み、みんな避けて敵の攻撃はまだ――――!!」

「エリアルキャノン!!」

 

咄嗟の回避運動で散り散りになってしまったが故にまともに次の行動に移るのも難しい。

スバルが離れたビルの上で自分たちを狙っている何者かに気付いた時にももう、眼前に紅色の閃光が迫っていた。

そしてこれまたその場にいる全員を巻き込むようにして砲撃は廃道に直撃し、大爆発を起こした。

 

「よっと、弾は当たってませんかルーお嬢様?」

「大丈夫、それよりアギトは?」

「今の一瞬で逃げ出せたみたいですよ。敵は散り散り大打撃、目的の品もお嬢様も奪還完了、ナイス展開ですよ」

 

その砲撃が直撃する直前のどさくさに紛れてガトリングランチャーの発射主――セインがルーテシアとレリックケースを抱え、

地面に沈み込むようにして共々その姿を消していたことに六課メンバーが気付いたのは混乱が収まって少し経った後であった。

 

 

 

*

 

 

 

「あっははははは!! 笑いが止まらないわね!! 六課の連中のあの間抜け面!! クアットロも見てた今の!!」

『バッチリですよカティちゃん~、あのチビ騎士の我を忘れた怒り狂いの表情。とっても無様で楽しめましたわ~』

 

モニターの前で起きている光景を見て久方ぶりに笑いが止まらない。その点に関してはクアットロも同意のようだった。

クアットロの情報通りの言葉をかけてやっただけであの慌てよう、それに合わせてディエチの砲撃が向こう側のヘリに直撃。

冷静さを失ってルーテシアに掴みかかるわ、それで背後のセインやビルの屋上に待機させたウェンディに気付けずにやられるがままだわ。

いやーもうホント最高、こっちの思惑通りに敵が哀れに踊り狂う様を見るのは冗談抜きで楽しいったらありゃしない。

クアットロ譲りの考え方でもあるけどホントわかる気がするよ、これも楽しみ方の1つなんだなあと、うふふふ……!!

 

「さてさて! 後は墜落したケースとマテリアルの確保に動けばいいだけなんだけど、どうかなディエチ?」

『黙っててカティ、今状況確認中』

 

興奮冷めやまぬ状態で声をかけてもディエチは少しも動じないで返してくるだけ、あの子はこういうのはあんまり楽しめないっぽい。

ともあれこれで計画は完遂。ガラクタとクアットロで空の方を抑えて、ルーテシアたちが地下水道のレリックに当たらせて敵戦力を分散。

で、手薄になったヘリに向かってディエチの長距離砲撃をどっかーんとね。

後は混乱に乗じて残りのレリックとマテリアルを回収してさっさととんずらする。これで全てがバッチグー。

ルーテシアが捕まったりちょっと予想外のことも起きたけど、そのおかげで実に愉快な喜劇が見れたんだから寧ろ感謝したいくらいだよ。

 

『いや……待って、どうしてヘリがまだ健在……?』

「ありゃ? ってこの反応……もしかして…………もしかしてッ……!!」

 

ところがどっこい不思議そうに声を上げるディエチに、爆煙の晴れた先にいたのは何てことなく飛行を続けているヘリの姿。

それに連なるようにして私の手元のモニターが察知する莫大な魔力反応。

どうやら楽しみはまだまだ終わらない……直感的に私はそんなことを感じ取っていた。

 

 

 

*

 

 

 

「こちらスターズ01、高町なのは。どうにかヘリの防御には成功!!」

「ああ……心臓止まるかと思ったわ……ホントにギリギリや」

 

心の底からの安堵の吐息を漏らすはやての視線の先に映るのはヘリの眼前でレイジングハートを構えて立つなのはの姿。

砲撃の防御が間に合わないと判断した上でとった行動がはやてに続いてのリミッター解除。

本来の自分の力であるSランク相当の魔力と共に高速で砲撃の前に立ち、防壁を展開して見事に防ぎきって見せていた。

レイジングハートはエクシードモードという新たな形態へと変わっており、逆を言えばそれだけ本気にならなければいけない程に敵の攻撃タイミングは完璧だったのだ。

 

「見つけた!!」

「……!! あら嫌だ、こっちも!?」

 

その隙を突いてフェイトが行ったのは砲撃を実行した主犯の発見。

とある廃ビルの屋上に潜んでいた2人の人物――クアットロとディエチは立て続けの展開に慌てふためきながらもすぐに逃亡を敢行する。

 

「市街地での危険魔法使用、殺人未遂の現行犯で貴方たちを逮捕します!!」

「悪いですけど遠慮させていただきます~!!」

 

その背後を追うフェイトの警告にもお構いなし、あっけらかんと答えながらクアットロはISを発動。すぐさま2人の姿が掻き消える。

しかしそれもまたフェイトにとっては想定の範囲内、敵の主犯が優れた幻影の使い手であることは当の昔に見抜いている。

となればやることは一つ、ちゃちな幻影が通じないくらいの力で燻りだせばいいだけ。

 

「はやてっ!!」

「了解や……遠き地にて、闇に沈め……デアボリック・エミッション!!」

 

離れていくフェイトの姿を確認した上ではやてが実行するのは自分が得意とする魔法である広域空間攻撃。

ミッド上空に形成された黒い光球が暴発するかのように一気にその範囲を広げていき、辺り一面を飲み込んでいく。

物理的破壊力は内包していないとはいえ、その範囲、威力共にバカにならないレベルの物だ。

 

「「うわあああああああああ!!!!」」

 

そのある種無差別とも言える攻撃から逃れるようにして姿を現したのはディエチを抱えたクアットロ。

どうにかデアボリック・エミッションの攻撃範囲から逃れて空中で静止するも、

 

「!!…………しまった……」

 

クアットロが見たのは自分たちを挟み込むように各々のデバイスの切っ先を向けて砲撃体勢に入っているなのはとフェイトの姿だった。

 

 

 

*

 

 

 

「いつつっ……みんな大丈夫!?」

「う、うーん……こっちは何とか」

「ぼ、僕たちも……平気です」

 

続け様の敵の襲撃の混乱からどうにか立ち直り、痛む左腕を抑えながらティアナは周囲に呼びかけていた。

敵の攻撃でメチャクチャになっている廃道の上でその呼びかけに答えるのはスバルとエリオ。

他のメンバーたちも程度の差こそあれそこまで大きな被害を被っているというわけでもなさそうだった。

 

「不覚でした……さっきのの混乱で敵2人は逃亡……レリックも無くなっているです」

 

ギリッと悔しそうに歯噛みしながら言葉を発するリイン。

彼女の言うように混乱に乗じてルーテシアもアギトも塔の昔に離脱していた上、レリックケースの姿も見当たらない。

こちらの動揺を誘った上での不意打ち、それに乗じての逃亡、つまるところ敵の作戦にまんまと乗せられたという格好だった。

 

「ヴィータ副隊長も、ご無事で……」

「…………ッ」

「副隊長?」

「……クソッ!!」

 

が、そんな中で膝をついたまま俯いている人物が1人。

心配そうに声をかけるティアナを他所にヴィータは悔しさを滲ませながら拳を地面に思いっきり叩きつけていた。

 

「すまねえ……全部あたしのミスだ……!! 敵の言葉に乗せられて怒り狂った挙げ句に目標物は全部ロスト……その上お前にまでケガを負わせちまうなんて……」

 

悔しさで歯を噛みしめているその力はリインの比ではない物。

自分で思っているようにルーテシアの言葉に動揺して冷静さを完全に欠き、それを切っ掛けにして敵に逃げる隙を与えてしまったのは紛れも無く自分自身。

ヘリの方の無事は確認できたが、ヴィータにとってはこっち側の戦果は最悪と言っていいほどの物でしかなかない。

それ以上に許せなかったのはティアナに本来しなくてもいいケガをさせてしまったこと、この一点に尽きる。

仲間を傷つけさせること、失うかもしれないことへの恐怖、それを誰よりも知っているだけにヴィータはこの結果が許せない。

ましてやそれが何かどうしようもない事態とかならともかく、完全に自分が招いたこととあってはその感情も尚強まるばかりだ。

 

「……副隊長が今そのことを気にしても仕方ありません。幸い掠り傷で済みましたし」

「ティアナ、けどあたしは……!!」

「それに副隊長たちと合流できなければあの召喚士の一団を捕らえることもできなかったんです。それを思えば全部がヴィータ副隊長の責任な筈ありません。それよりも大事なのは今後のことです」

「ティ、アナ……お前……」

 

応急手当てすら終わっていない傷口から血が流れ続ける中でも、ヴィータに対してティアナは笑顔を向けてみせる。

自分がどうしようもない袋小路に迷い、なのはも交えてお互いの本心を語り合ったからこそティアナにも今のヴィータの心境がわかる。

だからこそ、その感情を汲んだ上でヴィータだけの責任では無いとし、管理局員としてやるべきことをやらなくてはいけないと諭していたのだ。

ぽかんとするヴィータが周囲を見渡せば、他のメンバーたちも同じように笑顔を浮かべているではないか。

 

「……へっ、数日前までのピヨピヨ振りが嘘みてーだな、ティアナ」

「優秀な隊長たちにビシバシ鍛えられてますから」

「ああ……確かにお前の言う通りいつまでもウジウジしたってしょうがねえ……とりあえず現場の後処理と確認から――――」

 

照れ臭そうに鼻をすするヴィータは部下の成長に純粋に喜びながらも、とりあえずの冷静さを取り戻して今後のことを考え始める。

どの道まだこの事件に関してやることは多くあるのだから、反省会など後でいくらでもすればいいと気持ちを前向きに切り替えていたのだが、

 

「和やかムードのところ悪いんだけど? もうちょっとだけお付き合い頂けるかなー?」

「えっ……きゃあっ!!」

「なっ……キャロ!!」

「な……にっ……!?」

 

しかし事態はまたしても急変。いきなり場の空気を一変させるように響き渡ったのはその場にいた六課の誰のものでも無い声。

その方向に振り向いた先にいるのは小さな悲鳴を上げて捕らわれの身になり、青い紐状のバインドが体に巻きつき、首下に鋭いツメを突き立てられているキャロの姿。

そしてその更に背後でキャロの体をガッシリ捕まえているのは帽子とグラサン、ジーンズという身なりの長身の女性。

 

「あ、貴方は昼間の!?」

「はあい美少年君。大事な彼女なんだからちゃんと見ててあげないと」

「エ、エリオ君……!!」

 

左腕でガッチリとホールドされ凶器を突きつけられているキャロはその恐怖も相俟ってもがくことすら叶わない。

驚きに声を上げるエリオが思い出していたのは昼過ぎ、サードアベニューの駅前でキャロとぶつかった女性の姿。

その女性が何故今になって姿を現しキャロを捕らえているのか全くわけがわからずに混乱していた。

 

「て、テメエ何者だ!!」

「怒らない怒らない、可愛い顔が台無しだよ鉄槌の騎士? ま、こう言えばみんなわかるかな? 私はカティーナ・ベルリネッタ。貴方たちの敵」

「「「!!!??」」」

 

仲間を人質に捕らえられた怒りでまたしても冷静さを失いつつあったヴィータの怒鳴り声に答えた女性の――ベルリネッタの返答にその場の全員に衝撃が走る。

聞き間違えでなければ自分たち六課がスカリエッティと共に追っている筈の次元犯罪者。

よりにもよってその本人が眼前に姿を現して名乗りを上げているとあっては動揺するなという方が無理があろう。

 

「い、今すぐキャロを離せ!! さもないと……」

「ヤダ。こうでもしないと取り囲まれてフルボッコだもの。私、痛いの嫌いだし。それに、用があるのはこの娘の頭に、なんだからさっ」

「あうっ……!!」

 

あまりの事態に動揺を隠せないままの中、一応の警告を発するスバルの声もまるで意に介せず。

ベルリネッタは捕らえているキャロの帽子の下をごそごそと探りながらある物を取り出す。

 

「発想自体は悪くないんだけどエネルギー反応でバレバレなんだよねー、私の目を誤魔化したいならもっと工夫しなきゃ」

「しまった……!!」

 

やられたとばかりに声を上げるティアナの眼前に映るのは、ベルリネッタの右腕にある一本の花。

それはポンッという音と共に弾け、後に残されるのは1つの赤い宝石、レリックである。

地下水道を脱出する直前にティアナとキャロがあらかじめ仕込んでおいたのは。

敵が狙うのはレリックが入っていると思い込んでいるケースの方だということを逆手に取り、

予めレリック本体の封印を済ませた上で、敵との直接接触が最も少ないキャロに持たせて敵の目を欺くという作戦。

ベルリネッタはそれをいとも簡単に見破って残りのレリックをその手中に収めていた。

 

「ま、ホントの所言うと今日は面白い物いっぱい見せてもらったし、そのお駄賃としてレリックもマテリアルも一応は預けちゃっても良かったんだけどさ。私もこれだけ頑張った貴方達に挨拶くらいしておきたかったしそのついでにね?」

「挨拶……それは、どういう意味なのですか」

「隊長格2人のリミッター解除に新人たちの大奮闘、そんでもってこっちの策略にまんまとはまっての滑稽な踊りっぷり。どれもこれも私には最高のショーだったとも! ならそのお礼に挨拶の一つでもしておかなくちゃ失礼でしょ?」

「何を……言ってやがる……!!」

 

リインの問いかけに楽しそうに、本当に何の含みも無い笑みを向けながらの返答にキャロを除いた誰もが怒りを露わにしている、ヴィータに至っては今にも飛びかからんくらいの重圧を発している。

管理局員として全力で取り組んでいる自分たちの任務と戦い、その全てを見せ物だと断言する目の前の女科学者。

常識の範疇など遥か彼方のその返答内容を理解できない以上に、言いようのない怒りを覚えてしまっている。

 

「原初の機人に無様に戦死したランスターの妹、Fの遺児に貴重な竜召喚士、極めつけは呪われた魔導書の末裔たち、貴方達はみんなみーんな素晴らしい実験素材なんだからそう簡単には潰したくないのさ」

「ッ…………!!」

 

それでもその場にいる六課局員たちの怒りなどどこ吹く風でベルリネッタは言いたい放題言っていくだけ。

怒りと共に動揺を隠せなくなってくるのはその凶器の女科学者が触れる六課メンバーたちの抱える秘密を全てズバリ言い当てているから。

今すぐにでも全員で一斉攻撃をしてやりたいくらいだが、彼女の手の中でもがくキャロを前にしては迂闊な行動は取る事ができない。

六課メンバーの間にこれ以上ないくらいの緊張が走っていた。

 

「特にそこのセカンドにファースト? 今日のこの日は私や兄さん、何よりあの娘たちにとっては宣戦布告みたいなものでもあるんだから」

「宣戦布告……どういうこと?」

「何となくわかってるんじゃないの? 貴方達に不意打ちかましたのも長距離砲撃ぶちかましたのも、直前で離脱させたのも貴方達姉妹の同類ってこと」

「な……!!」

 

その言葉に更に心を激しく揺さぶれるのはスバルとギンガの2人。

他の六課メンバー……いや、約1名だけを除いてその言葉の意味することが何なのかを読み取ることはできないが、

スバルとギンガにとってはとてつもなく重要な意味を持つこと……大好きだった自分たちの母の死にすら関わるワードだったのだから。

 

「ふう、まあ言いたいことはこのくらいかな。今日は本当に挨拶とお礼に来たくらいだから手荒な真似はあんまり(●●●●)したくないしね……っと!」

「きゃあああっ!!」

「キャロッ!! ……ぐあああっ!!」

 

言葉の途中で唐突に弾き飛ばされるキャロの体に背後から容赦なく光球が発射される。

それを受け止めようとしたエリオ諸共2人は廃道を転がりながら跳ね飛ばされてしまう。

 

「覚悟しておきなよ機動六課? これから先、もっと本気になった私や兄さんの最高傑作で貴方達全員、いずれは完膚なきまでに絶望させてやるんだから……!! それまでしっかり生き延びておくんだよ? くふ、くふふふふふ……!!!」

 

弾き飛ばされたエリオとキャロに駆け寄る他の六課メンバーたちを他所にベルリネッタは足下にサークルを展開。

勝ち誇ったような不気味な笑みとキャロから奪い取ったレリックと共に瞬時に転送を発動し、ロングアーチのサーチ網の外へとあっという間に逃げおおせるのであった。

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