狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第15話:機動六課の真意、狂い笑う無限と純粋

「じゃあ、ここに映っとるのがカティーナ・ベルリネッタ本人、ちゅーことなんか?」

「ああ……正直今となっちゃあたしも信じらんねーんだけど、あんな状況でふざけたこと言える辺り、たぶん本人なんだと思う」

 

ここ最近の機動六課は何か1つ事件がある度に隊長陣の数人が深刻な顔をしながら集まるというのがお決まりになりつつあった。

といっても、今回ばかりはそうなっても仕方ない事態が起きていたこともまた覆しようのない事実である。

ロビーの椅子に座ってモニターをじっと見つめているのは部隊長のはやての他にフェイトとヴィータ、計3人。

そして3人の視線の先にいるのは先の市街地戦で新人たちを襲撃し、ティアナの策を看破してレリックを奪い取りメッセージを残していった1人の女。

つまり、此度の一連の事件の首謀者と目されているベルリネッタである。

 

「ホントにすまねえはやて……あたしがもっとしっかりしてりゃあんなことには……」

「ティアナも言っとったけどヴィータが謝ることやあらへんよ」

「そうだよ、敵の出現タイミングにジャミング濃度……何より、私達の周辺警戒が甘かったこともあるんだし」

 

しきりに頭を下げるヴィータの姿を見てフェイトもはやてもそれを宥めている。

ここ数日のヴィータと言えば何かしらきっかけがある度にずっとこんな感じなのである。

ティアナがわざわざレリックを守るための策まで練っていたというのに、自分の実力不足の所為でそれを台無しにしてしまったと言うばかりなのだ。

だが、実際のデータを見たはやてたち他の隊長陣にとってもあの時出現したベルリネッタは本当に出現直前まで何の前触れも無く、離脱もまた一瞬。

あそこまで高度な転移をこなせる上に人質まで取られていたとあっては、ヴィータ以外の誰かがその場にいたとしても切り抜けるのは難しかったと考えている。

 

「でもなんにせよ、敵の正体はこれでほぼ確定したと見て……ええんかな?」

「うん、容姿の断定はできないけど……それでもこんな大それたことをするのはそれこそ彼女と、スカリエッティくらいしかありえないと思うし」

 

六課所属前から個人的に追い続けてきたということもあって、スカリエッティとベルリネッタの情報についてはフェイトが一番よく知っている。

可能性が高いというだけで疑惑止まりだった黒幕についての情報がほぼ確定したというだけでも六課にとっては多少の前進なのかもしれないが。

 

「うーん……けど厄介事のオンパレードやな……市街地での黒幕のいきなりの出現に……それに今度は地上本部の臨時査察もあるし」

「査察って、もしかしてレジアス中将から?」

「そや、機動六課はただでさえツッコミ所満載の部隊やってのにこのタイミングで……」

「地上の査察は厳しいって有名だからな……」

 

3人揃ってうんうん唸ってしまうのは機動六課に対する部隊の査察についての話。

元々本局と地上本部はその考え方の違いや戦力バランスその他諸々でお互いの関係がかなり冷え切っていることで有名である。

そこに本局直轄の精鋭部隊とでも言うべき機動六課が現れたことは地上本部にとって非常に快くないことなのは明白であろう。

だが、六課にとってもこのタイミングで配置やシフトの変更命令が出ようものなら致命的なんてレベルの話ではなくなる。

厄介なことには変わりないが、ある種正念場でもある。

 

「……ねえはやて、査察のことにも関係しているんだけど、そろそろ教えてくれないかな、六課設立の本当の理由」

 

と、その段になって真剣な表情をしたフェイトから切り出されるのはそんな言葉。

表向きはレリック含めたロストロギアなどの危険物による未曾有の被害を事前に防ぐ目的で設立されたのが古代遺物管理部機動六課。

だが、その目的を考えてみてもその保有戦力があまりにも過剰であることはフェイトにも、その場に一緒にいるヴィータにもわかりきっていたこと。

はやてが何か別の目的の下六課を立ち上げたという思惑は長年一緒に戦ってきた親友、家族であるからこそわかることでもあった。

 

「……あたし、席外した方がいいか?」

「ええよ、どの道ここで話すことやあらへんし。フェイトちゃんの言う通りそろそろ頃合いやしな、これからなのはちゃんも連れて聖王教会のカリムとその辺のこと話そう思ってたとこや、クロノ君も来る」

「クロノが?」

 

その名前を聞いた途端に表情を僅かに綻ばせるフェイト。

クロノ・ハラオウン提督、本局所属のエリートであり今のフェイトにとっては家族でもある、なのはやはやても含めて共に戦ってきた大切な友人。

そのクロノが聖王教会の重要人物であるカリム・グラシアと合わせて六課設立の真の理由について話すということ。

はやてもはやてで自分が言ったようにその裏にある諸々の事情をそろそろ話さなければと思っていたので、フェイトの問いは正にベストタイミングだったのである。

 

「それならそれで私も大賛成だけど……そういえばなのは、もう戻ってるかな」

「そういや、この前保護したあの女の子の様子、見に行ってるんだったか?」

 

フェイトとしても特に反対する理由が無かったので即決で承諾し、そのままパネルを操作して通信を入れるのはなのはの私室。

先の事件でレリックと共に保護した例の女の子は今、聖王医療院という施設で保護を受けているのだが、今日はその様子をなのはが見にいっていたのである。

時間的にそろそろ戻ってきているだろうと踏んで通信を繋いでみたのだが。

 

『ああぁぁぁぁああん!! うわああああん!!』

『ああほら……泣かないで』

 

今までの張りつめた空気が一気にぶち壊されるかのごとく響いてきた耳を劈くような鳴き声。

あまりに予想外の事態にフェイトもヴィータもはやてもズッコケそうになってしまうも、

 

「おいおい、こりゃ何の騒ぎなんだなのは?」

『ああ、ヴィータちゃん実はその……』

『やぁだあああ!! いっちゃいやだああああ!!』

 

頭を抱えて呆れ気味に尋ねるヴィータに答えようとするなのはの声も、そのなのはに泣きついている女の子の泣き声に掻き消されるだけ。

その周りには困り果てたような顔をしている新人たちの姿。

何ともしまらない展開になってしまったが、その女の子こそが六課が保護した例の人物――ヴィヴィオであった。

 

 

 

*

 

 

 

ラボの中に響くのは機械音とタイプ音、そして1人呟く私の声だけ。

こんな状況がかれこれ何日ほど続いているのか自分でも覚えていない程。

でも仕方ないんだもの、あの日を境に私の頭は1分1秒たりとも休もうとしてくれない。

それどころか研究をどんどん先に進めろ、あいつらを叩き潰すための兵器をいますぐにでも完成させろと囁き続けている。

データを入力し、部品を組み立て、自分の作品が形を成していけばいく程、この熱はどうしようもないくらいに加速を続けていくだけ。

息抜きも気分転換も今は必要ない、こうしている今この瞬間が最高に楽しくてたまらない。

 

「食事を持ってきたぞ、カティ」

「……ん、ありがとチンク、そこに置いといてくれれば後は勝手に食べるから」

「相変わらずのようだな。かれこれ5日近くこんな感じではないか」

 

ああ、もう5日も経ってしまったのか勿体ない。呆れるようなチンクの呟きに私の頭はそのように反応を示していた。

機材と実験体と機械の山々に埋もれる様にしてあくせく動き回る私の姿を見て、両手に食事の乗ったトレーを持ったチンクはどんな表情をしているのだろうか。

それも今の私にはどうでもいいことなんだけどね、そもそも私自身1週間くらいなら飲まず食わずでもどうにか……流石に無理か。

だからこそこうやって定期的に食事を持ってきてもらってるんだし。

とはいえ、そんじょそこらの人間とは違って健康状態がそこそこ日持ちするのも事実だったりするが。

 

「先日のミッションではお前がいなかったらどうなってことやらだからな、でなければマテリアルもレリックも全部管理局の手中に落ちていた所だ」

「くふふ~、まあその辺は兄さんも私も気にしてなかったろうしねえ。マテリアルはともかくレリックは現状でもそこそこ数あるんだし、それにあんな楽しい物見せてくれたんだからさ」

「ドクターと同じことを言うのだなお前も……無論、私達が後れを取るつもりは毛頭無いがお前の作品の方はどうなのだ」

「今の私を見ればそれも愚問だと思わないチンク? 全部が全部オールオッケーバッチグー。最高傑作の到達も合わせて新しい作品はどんどん製作進行中よ」

 

戦闘機人の中でも結構根が真面目なチンクだからこういうやり取りになるんだろうねと。

あの市街地での六課との交戦はディエチとクアットロがピンチになったりしたけど、そこは直前でトーレが助けに入ったから問題なし。

ケースを確保したセインとウェンディも合わせてルーテシアに集団転送して先に帰って貰ってそれでミッションは終了。

尤も、セインの持ってたケースが空だったということには私以外の誰も気づいていなかったんだけどね。

元からレリックは渡しちゃっても良かったくらいの気持ちだったからその辺は別に問題なかったりもするのだけど。

 

「どの道もう少ししたら楽しい楽しいお祭りが始まるんだから、それまでにやっておくこといっぱいあるんだしねえ」

「ここに映っている兵器についてもそうなのか? 以前に出していたアンジェロ・リジネでも十分な成果は挙げていたようだが」

「いやいやいや、あれは試作の試作みたいなもんなんだから、今作ってるのはその改良型って感じの代物よ」

「……スペックを見る限りではその一歩手前でも破格の性能だとしか思えん。本当に妥協というものを知らんのだな、カティ」

「そりゃそうよ。この子たちはみーんな私が精魂込めて作っている、云わば兄さんにとっての貴方達と同じ存在なんだから。妥協なんてそれこそ私の存在意義にすら関わるってね」

 

多数のケーブルに繋がれたまま複数の専用機械で製作が進行中なのは以前にリミッター付きのテスタロッサと剣の騎士、シグナムを相手に善戦したアンジェロシリーズの2機をベースにした改良型。

元より最高級品の試作機として生み出した故に改造の幅は非常に広く、これまで蓄積したデータも合わせて更なる大幅な性能向上を目指しているのである。

カタログデータに目を通したチンクが言ったようにこれが完成すれば、それこそリミッター解除状態の六課隊長陣とも互角以上に渡り合える自身があるもの。

 

「それにリナスもフィーネも1つの到達点ではあるけど、同時に最高傑作の為の1種の前段階みたいな物でもあるんだし? そこから更に煮詰めていく予定でもあるんだからね」

「お前は更にこれの先を目指しているというのか?」

「もちよ。互角に戦えるなんてのは十全じゃない。最高傑作っていうのは何者にも負けない、文字通り最高に限りなく近い物のことを指すんだから」

 

アンジェロシリーズの原点であるリジネ、それの改良プランとして製作中のリナスとフィーネ。

それら2機の戦闘データを蓄積して、その他すべての情報を統合し、完成させるその作品こそが私の望む最高傑作。

その為の指標と貴重な実戦データを提供してくれているのがあの機動六課という破格で最強の魔導師部隊。

連中との交戦を繰り返しながら、彼女たちすらも容易に駆逐できる兵器が完成させること、それが私の研究の1つの到達点でもある。

S級魔導師部隊を相手に勝利を収める、絶対的な力の持ち主たちをより強い力で叩き伏せる……ああ、何という甘美な響きだろうか。

 

「ん? こっちはまた新しいタイプの作品のようだが……また例の火力偏重機の開発も再開したのか?」

「ご名答、幸いこの間の市街地戦でもいいデータがいっぱい取れたからね。更に上の段階へ行けるメドが立ったって感じ」

 

アンジェロシリーズの改良機とは別のデータを目にしてチンクが興味深そうに尋ねてくる。

タルーガやリノチェキロン、チェロクアと火力偏重タイプの大型無人兵器はこれまで様々な形で作ってきてたけど、チンクが見たそれはその上を行く代物。

外見的には純白カラーの翼を広げた鳥みたいな外観だが、内包している総合火力は今までの比ではないんだなこれが。

何より前に取れたなのはちゃんのエクシードモードの記録や、六課部隊長が使用した広範囲空間攻撃魔法の記録。

それらもまたコイツの改良に役立つ実に素晴らしいデータだったのだからこっちとしても笑いが止まらないという物だよ、くふふ。

特に広域空間攻撃魔法の方に関してはそれを転用した新型の兵装を追加できるという形になったから大助かり。

 

「コイツを一回動かすだけでそれはまあ、ミッド一帯を火の海に変えるくらいの自信はあるからねえ。それこそ兄さんが開発を進めてるナンバー8の能力辺りと合わせたらそりゃもう愉快なことになると思うなっ」

「全く、お前のそういう考え方、つくづくドクターを思い起こさせるな」

 

それは褒め言葉なのか貶しているのか問い詰めたくなる微妙な感じだけど、まあたぶん褒め言葉なんだろうね。

何だかんだチンクもチンクで私の作品には色々興味関心を持ってくれているし、こういうリアクションを取ってくれるのは結構嬉しかったりする。

兵器開発とそれの使用が至上の喜びではあるけど、それ以外にも色んなことを貪欲に楽しみたいと考えているのが私なんだから。

純粋な欲望、イノセント・デザイアのコードネームに恥じないようにね。

故に、兄さんの作品である戦闘機人と私の作品である独自兵器、それが肩を並べて地上に、次元世界にその力を振りまく姿。

そんな絶景をこれから先も見られることを思うと、また笑いが止まらなくなりそうで。

 

「いずれにせよウーノや妹たちもお前の兵器には期待しているからな、あまり無理をしすぎない程度に頑張ってくれ。私から言えるのはそれくらいだ」

「サンキューだよチンク、その気持ちだけでもメッチャ嬉しいんだから。その可愛らしい体型みたいに謙虚で慎まやかで実にグーよグー」

「…………貴様……ぁ……!」

 

……なんて感じに言ってみたら頬を赤くしてプルプル小刻みに震えながらプイッとそっぽを向いたりするその姿がこれまたたまらなくイイ。

いやもうホントに、つるぺたすとーんの同志としてこの思いを理解してくれるのは貴方だけよチンク。

因みに前に同じように体型のことについてトーレに言ったら「体型の違いなど我々には何の意味もなさないだろう」とかバッサリ斬り捨てやがったけど。

長身ボインのアンタだからそんなこと言えるんだよ、ちくしょう。

 

 

 

*

 

 

 

聖王教会本部、そこに顔を会わせるのは六課隊長陣であるはやて、なのは、フェイトの3人。

加えて本局のクロノ・ハラオウン提督と、聖王教会所属のカリム・グラシア少将。

クロノと共に機動六課の設立の裏でも力になってくれたはやてにとっては姉のような人物でもある。

 

「クロノ君も久しぶりだねえ」

「元気にしてた、お兄ちゃん?」

「ッ……だからそれはもうよせと言っているだろう、お互いいい年なんだから」

「兄弟関係に年齢は関係ないよ、クロノ」

 

なのはにとってもフェイトにとってもクロノとの再会は喜ばしいことであり、満面の笑みで挨拶を交わす

いきなりのお兄ちゃん発言に普段真面目なクロノも流石に照れくさそうにしていたようだが。

ともあれ久方ぶりの再会やらなんやらで和やかな空気になっていた。

 

「さて、それじゃ話させてもらうとしよか、機動六課設立の裏表と、今後の話についてや」

 

ともあれいつまでもそういうわけにもいかず、挨拶もそこそこにはやては本題を切り出す。

部屋の中のカーテンがしまり暗闇に支配される中、表示されるのは複数のモニター、機動六課の詳細について。

 

「知っての通り機動六課はレリックの対策と、独立性の高い少数精鋭部隊の実験運用目的で建てられたものだ」

 

最初にクロノが語っていくのはなのはやフェイトも既に熟知している表の理由から。

そもそも機動六課の後見人となっているのがクロノとカリム、更にクロノの母親であるリンディ・ハラオウン総務統括官の3人。

それに公表はされていないが管理局内で伝説の三提督として名高い、レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベルの3人もまた協力関係にある。

地上本部の御膝元でこれだけの部隊の設立を通せたのも納得の布陣というところだ。

 

「では何故そこまでの協力を求めてまで機動六課という部隊を作らなければならなかったのか……それは、私の能力に理由があります」

 

立ち上がりながらカリムは懐からある一つの札束を取り出して次なる理由、つまり裏についての説明を始める。

カリムの持つ希少技能、その名を預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)という。

2つの月の魔力が上手く揃った時にのみ発動可能な年1周期での予言のような物。

解読が難解なことや百発百中ではないことなどもあって実用性はよく当たる占い程度というのが本人の弁なのだが

それでも大規模災害や大事件などに際しては的中率も高く、本局内での信頼は高かったりもする。

逆にそういった曖昧な希少技能頼みな考え方を嫌うレジアスはじめとする地上本部では忌み嫌われているくらいでもあったりするが。

 

「そんな騎士カリムの予言に……数年前から少しずつ、ある事件が書き出されているんだ」

能力によって光を放つ札に囲まれながら、クロノの言葉を受けてカリムがその予言を読み上げていく。

 

 

――旧い結晶、無限と純粋、その3つが集い交わる地

 

――死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

 

――使者と傀儡が踊り狂い、黒翼を持ちし白き怪鳥が何もかもを焼き尽くし

 

――中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち

 

――それを先駆けに、数多の海を守る法の船は砕け落ちる

 

 

「それって……」

「まさか……」

 

事前に説明されたとおりにその予言は抽象的な解釈をせざるをえない内容が殆どであったが

それでもそこから読み取れる情報だけでも何を意味しているかを察したなのはとフェイトの表情に驚愕が浮かぶ。

 

「ロストロギア事件を先駆けに始まる管理局地上本部の崩壊と……管理局というシステムそのものの終焉……この予言が指しているのはそれです」

 

答え合わせをするかのように真剣そのものな表情でカリムは語る。

新暦の時代から続いてきた数多の次元世界を見守り管理していく時空管理局という巨大な組織。

その存在が終わりを迎えるということをこの予言は記しているということ。

 

「この予言が何をどういう風に指しているか私もカリムもその全てがわかるわけやあらへん、けどこの前出てきたあの……」

「カティーナ・ベルリネッタ……彼女もそうだけど更にその背後にいるであろうジェイル・スカリエッティも……」

「そのような異常事態も嬉々として起こしかねないと、はやてもフェイトも睨んでいるわけだな」

 

クロノの言葉は正にその通りでありはやてもフェイトもコクリと頷いて見せる。

機動六課設立以前から数多の違法兵器を作りだして次元世界に厄災を振りまき、遂に自らその姿を晒すという異常行動までとって見せたカティーナ・ベルリネッタ。

生体技術に関して異常な知識と情熱を持ち、その彼の作品であろう魔力とは違うエネルギー反応を持った少女たちを送り込んできたとされるジェイル・スカリエッティ。

その両者が協力関係にあってレリックを求め、更には管理局の主戦力である優秀な魔導師をすら凌駕する物を生み出し続けているという事実。

この2人の底が知れない以上、管理局そのものを相手に出来るような切り札としてのナニカを持っているという可能性もゼロとは言い切れないのが現状なのだ。

 

「何も起きなければそれで良し……もし予言の通りに管理局という組織そのものを覆すほどの何かが出てくるようなら、例え法スレスレの裏ワザ染みた方法やったとしても、それに全力で立ち向かえるだけの力を用意しておく……それが、六課設立の本当の理由や」

「本局はともかくこの手の希少技能を嫌っている地上本部はこれといった対策はこうじないと断固として意見を曲げない姿勢だからな……政治的な話に巻き込んでいるようで申し訳ないが」

 

はやての言うように予言がそのまま外れてくれればそれが一番幸いではあるが、今回に限ってはそんな楽観視をして済ませるレベルを遥かに超えている。

寧ろ、管理局そのものを相手取ってそれを崩壊させるような出来事が起こるというのなら機動六課の戦力だけでも足りないくらいなのだから。

それを頭から信用せず、場合によっては強制介入や内政干渉扱いもしかねないのが現状の管理局地上本部という組織。

それは本局と地上本部同士での諍いの根の深さを知らない聖王教会のカリムだからこそ憂うことのできることでもあるのかもしれないが、

ともかく、今までも予言という形で貢献してきたカリムにとっては単なる組織間の争いだけで済ますには決して無視できない問題だったということだ。

 

「改めて、聖王教会教会騎士団騎士、カリム・グラシアがお願いいたします。華々しくもなく……危険も伴う任務ですが……協力をしていただけますか?」

「非才の身ですが、全力にて」

「承ります」

 

次元世界と管理局の行く先と安寧を心から思う、カリムの願い。

全てを知ったなのはとフェイトはそれに応えるためにそれぞれの言葉で協力の意志を改めて示すのであった。

 

 

 

*

 

 

 

「今回の報告は以上です、評議会の皆様にも実にご満足頂けるデータだと思っていますが?」

『ご苦労、研究の進行は順調なようでこちらとしても安心の限りだ、ジェイルよ』

『戦闘機人計画もその数を着実に増やしておる。レジアスの奴めも喜ぶだろうな』

『公開陳述会も近い、あやつも地上の平和を維持していくための重要な人材として働いてもらわねばならぬからな』

 

スカリエッティを取り囲むようにして表示されている三方向のモニターから響き渡る老人たちの声。

時空管理局の実質的なトップにして世界を裏からコントロールする者たち、管理局最高評議会のメンバーの3人。

長きに渡り次元世界を見続けてきたその3人は地上本部のトップであるレジアスに加え、自分たちの手駒であるジェイルともこうして定期的に連絡を取り合っている。

戦闘機人計画を始めとする生体操作技術の研究も彼らが求めているもの、つまりは一連の事件の真の黒幕とも言うべき存在でもある。

 

『しかし、肝心の人造魔導師計画についてはあまり進展が見られぬようだが……』

『左様、ゼスト・グランガイツは勿論、ルーテシアも我らが求める成功体とは言い難い』

「戦闘機人計画と比較するとどうしても安定性が確立し辛い技術ですので……とはいえ、彼らの失敗と結果はいずれ皆様の望む成功へと繋がる貴重な一歩でもあります」

『そうであれば良いがな、我らに残された時間もそう多くない。いずれにせよ早急に完成させてほしいものだ』

「それはもちろんですとも、貴方方は私の貴重なスポンサーであり、生みの親のような物なのですから」

 

普段通りの狂気の笑みを浮かべたまま嬉々としてスカリエッティは報告を続けていくのみ。

最早人と呼ぶことすらおこがましい姿へと成り果てている最高評議会の3人、その自分たちの延命の為に求めている技術が人造魔導師技術。

それらを応用させ、恒久的に次元世界の平和を見守る番人として君臨し続けるための礎として生み出したのがスカリエッティという旧暦時代の科学者でもある。

素直に従う様な人種ではないことは承知の上で、彼のような男に評議会は自分たちの未来を託しているのだから。

 

『して、お前のサポートとして提供したあの女、カティーナはどうしている?』

「それはもう……私の妹と呼ぶに相応しい成果を挙げ続けていますよ。私の計画が順調に進んでいるのも彼女の力添えによるところが大きいのですから」

『それは結構、お前と同じアルハザード時代の科学者のデータを基に生み出した最高の素材の一つなのだからな。役に立ってもらわなくてはこちらも困る』

『尤も、本命がお前であることに変わりは無いがなジェイル。所詮あの娘は先の未来には役に立たぬ寂れた機械技術の使い手よ、目的が終われば用済みとなろうな』

 

スカリエッティに比べてもう1人の科学者である少女――ベルリネッタへの評議会の評価は実に冷ややかなものであった。

結局のところ、スカリエッティとベルリネッタ双方を生み出した彼らの考えていることは自分たちが生き延びる事とその先にある世界支配の一点だけ。

それを達する手段として用いているのがスカリエッティが主としている人造魔導師計画をはじめとした生体操作技術というだけのこと。

故に、自分たちに直接的な益をもたらさないベルリネッタの研究内容については興味が無いということだった。

 

『それと、先日の混乱で聖王の器を発見したと聞いたが?』

『何でも例の機動六課の手に落ちたという報告も挙がっている』

「彼女たちは人道的であることに加えて彼女の本来の価値を何も知りません。故に丁重な保護を施すでしょう、いずれは我らの手に落ちる以上寧ろ喜ばしい事です。何も問題はありませんよ」

『……お前がそう言うのならそれで良しとしよう。だが忘れるでないぞ、あれの覚醒と聖王のゆりかごの起動、それが我らの最終目的の1つでもあるということを』

『如何にも、安定した戦力と聖王のゆりかご、それを軸にした我らの選出した指導者による盤石な平和の維持、それこそが次元世界と管理局に安寧をもたらす方法なのだから』

 

決まり文句と化している節すらある評議会メンバーの最終目的が語られた上で、一方的に通信は遮断される。

自分たちの目指す世界こそが完全なる理想形であり、その為の手段がジェイル・スカリエッティの進めている研究。

長きに渡る時代を生き続けてきた評議会のメンバーにとってそれは何者にも侵すことのできない、唯一絶対の手段であることを少しも疑ってはいない。

 

「よろしいのですかドクター? 今の話を聞いている限りではご老人の皆様もだいぶ焦り始めている様子ですが」

「彼らスポンサー諸氏があのように言ってくるのは初めてのことではないだろうウーノ? 私達はいつも通りにこなすだけさ、彼らの求める素晴らしき研究……生体操作技術をね」

 

傍らでそのやり取りを聞いていたウーノからの問いかけにもスカリエッティは全く余裕を崩さずに答えるのみ。

抑えることのできない無尽蔵の欲望も、生体操作技術に全てを捧げていると言ってもいい程の情熱も全ては作られたものでしかない。

が、それでもスカリエッティはそんなことなど全く気にすることなく自分の心の赴くままに研究を続けている。

倫理も道徳も自分の出自も何もかもその大半が彼にとってはどうでもいい瑣末なこと、自分の研究に役立つか、自分の感情を振るわせる興味深い物か否か。

彼の中にある思考はそれのみに絞られているのだから。

 

「いざとなればドゥーエもいる、彼らへの牽制などどうとでもなるさ。私にとってはこの先の研究と、何より愛しい妹の生み出す作品とその成果が楽しみで仕方ないのだからね」

「妹……思えばカティが生まれてから随分と経ちましたね。彼女の生み出す作品は私にとっても興味深い物ばかりです、ドクターの同志として誕生しただけのことはあります」

「ククク……カティーナは本心から私のことを理解し、私と同じ考えを持って行動しているのだからね。あんな頭の固いスポンサーなどよりも私にとっては遥かに大切なのさ」

 

くつくつと笑いが止められないスカリエッティの姿を前にしてもウーノは普段通りの穏やかな表情で佇むのみ。

生体操作技術の進行やFの残滓も含めた機動六課という最高に興味深い研究対象も含め、スカリエッティは妹であるベルリネッタの研究にも大いに関心を寄せている。

自分とはまた違った観点から作り出される機械技術の数々に、それがもたらす確かな成果。

特に、少し前に試作機として完成に漕ぎ着けたアンジェロシリーズと機動六課隊長陣を圧倒したというデータを見た時は感極まったように高笑いをしていた。

自分ですらトーレのような一部の者しか成しえないだろうS級魔導師を超える直接戦闘能力を持った存在の生産。

それを自分よりも早い時間で達成したという事実に、スカリエッティは益々興奮を高めていく一方だった。

自分と同じ研究の為に全てを捧げるその姿勢と情熱はスカリエッティにとっても素晴らしく見える物で、ベルリネッタもまた兄のことを十分に理解している。

周りの人間など全て自分の研究材料でしかないと思っているスカリエッティにとって、云わば一種の例外とも言うべき存在がベルリネッタなのである。

無論、スカリエッティも自分の作品である戦闘機人たちのことは寵愛しているし、言葉で言っている程簡単に切り捨てようとも思ってはいない。

ただ、ベルリネッタはスカリエッティの中では自分が精魂込めて作り上げてきた戦闘機人よりも上に位置する存在なのだということ。

 

「決行の日はもう間もなくです、その時にはカティの新しい作品も完成していることでしょう……待ち遠しいですね、ドクター」

「そうとも……そうだろうともウーノ……!! 私の大切な娘たちとカティーナの作り上げた作品たちが織り成す二重奏、それを間近で見れるというのだからね……クハハッ、ハハハハハ!!」

 

自分たちの研究成果が生み出すその光景に思いを馳せながら、

スカリエッティは天を見上げていつまでもその高笑いをアジト内に響き渡らせていた。




◆火力偏重型新型機
◆リナス
◆フィーネ

全て詳細不明。
前者は今までの旧型タイプ(タルーガ、リノチェキロン、チェロクアなど)を遥かに凌駕する性能であり、その気になれば単機でミッド中を破壊可能とのこと。
後者2つはアンジェロシリーズに分類され、Sランク魔導師すらも上回る総合性能になる予定。

3つとも完成を間近に控えている。
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