狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第16話:それぞれの心境、純粋に対する想い

彼女はどうして自分がそのような目に遭い続けていたのかその始まりすら思い出せなかった。

ただ、その当時にわかっていたのは自分は決して外の世界のことを何1つ知ることなく、

自分の力に興味を持つだけの目の前の人間たちに一生いいようにされ続けることだけしかわからなかった。

死ぬことすら許されず、唯一つ理解していた自分の存在意義を何一つ果たすことも出来ず、

いつか心が壊れて何も考えることが出来なくなる、自分に残された結末はそんな惨めでどうしようもないものなんだろうと。

 

――この娘もきっと、私たちと同じだから。

 

そんな彼女の世界が多数の悲鳴と爆炎に包まれて一変したのはもう2年くらい前になるだろうか。

気が付けば嫌な匂いのする薬品も休むことなく動き続けていた実験機材も、能面のように無表情だった多くの人間の姿も無く、

見えるのは炎と瓦礫に包まれた自分の居場所だった物の残骸と、一見すれば親子のようにも見えなくない1組の男女。

寂しげな表情と共に自分の小さな体を拾い上げてくれた時の温もりを、自分を救ってくれた救世主の顔を彼女は一生忘れることは無い。

だからこそその恩に報いるために共に過ごし、共に戦うことを誓ったのだから。

 

――古代ベルカの純正融合機……これはまた実に興味深いと思わないかね? カティーナ。

 

――そりゃもちろん、あんな貴重な拾い物してくるなんて死に損ないもたまには役に立つもんだねえ。

 

――……彼女は俺とルーテシアの下にある、お前たちの実験に付き合わせてやる意義も理由も無いことを忘れるな。

 

故に、彼女にはその男と少女を取り巻いている環境が心の底から気に食わなかった。

この娘は私たちと同じ、あの時言った少女の言葉をこんな形で思い知らされることになるなど考えてもいなかったのだから。

従順且つ命令に絶対逆らわないように生み出された同じよう姿形の少女達、ただ壊すことだけを目的とした数々の異形の兵器。

その作り主である2人の科学者、彼らが携えている瞳はあの白い研究施設にいた時に幾度となく見てきた者たちと同じ物だったこと。

そんなロクでも無い連中に生殺与奪を握られている、大切な人の命を人質にとられているも同然の状態、だからある程度の自由はあれど基本的には従うしかない。

彼女にとって命の恩人たちのそんな有様が何より許せなかったし、それに対して何もしてやれない自分のことも同時に歯痒かった。

 

「……ッ……!?」

 

朝靄の立ち込める人気の無いとある河のほとりでアギトは目を覚ます。

体中はびっしょりと不快な汗に塗れており、その原因が何なのかという察しも容易についていた。

 

「くぁ……くっそ……どうしてこんな時にあんな連中の顔を思い出さなくちゃいけないんだよ……」

「目が覚めたのか? 何やら随分とうなされていたようだが」

「いや……大丈夫だ旦那、よくあることさ」

 

すぐ近くの岩に腰掛けながら静かに尋ねてくるのはアギトの命の恩人の1人であるゼスト。

目をごしごし擦りながらぶっきらぼうに答えるアギトのすぐ横にはもう1人の恩人であるルーテシアが静かに寝息を立てている。

スカリエッティと協力関係にある彼女たちであるが、自分たちの目的と合致しない限りは基本的に別行動を取っている。

ルーテシアは探し物を見つけ出す為、ゼストとアギトはその手伝いをするために。

 

「なぁ旦那、あたしが今更口出しすることじゃねえのはわかってる……けどやっぱルール―のことは」

「……何度同じことを言わせる気だ? 今はこうする以外に手は無いんだ。さもなければアイツも昔のお前と同じような目に遭って捨てられるだけでしかなくなる」

「ッ……それでも言わずにはいられねーんだよ。あの変態医師とかナンバーズ連中は結局のところあたしらのこと、実験動物とか手駒程度にしか考えてねーのは旦那にだってわかるだろ?」

 

アギトからすれば自分自身のことは本当にどうなろうと構わないくらいの心構えではある。

ルーテシアとアギト、この2人がいなければ今の自分は存在してないのだから、自分の命に懸けても恩返しがしたいと思っているくらいだ。

でも、アギトの目からしても今の2人は自分の果たしたいことを果たせているかと言われれば決してそのようには見えなかった。

自分たちの裏で糸を引き続けているスカリエッティとその配下たちにいいように利用されているだけでしかない。

ゼストの言うようにそうしなければルーテシアの命にも関わる事故に表立った行動が取れないのだが、アギトにはそれが悔しくて仕方がないのだ。

彼らの為になることならどんなことでもやるが、結局の所今の自分もスカリエッティ達の手駒としての行動しかとれていないのではないかと。

 

「特にあのベルリネッタとかいうペタンコ女、アイツも最近は益々ヤバくなってるしさ……」

「あの女の研究分野と俺たちの目的は基本的に無関係だ、そう警戒する程のことでも無いと俺は思っているがな」

「だといいんだけどよ……あぁ~くっそぉ、何でアイツもあの変態医師なんかに手ェ貸してんだよ!! 本当に気が知れねえぜ!!」

 

唐突に怒りを露わにするアギトの脳裏に過るのはスカリエッティの妹と称されている科学者、ベルリネッタの顔。

変態医師と称するスカリエッティよりは幾分かまともな部分もあるのだが、根っこの思考は何も変わらない。

自分の味方すら時には道具の様に扱い、自分の作品を完成させるためなら時にアギトやゼスト、ルーテシアも平気で巻き込む。

それに対して何の罪悪感も抱かない、笑顔で命を弄び蹂躙しそれを快楽としている異常性。

アギトにとってそういった考えを持つベルリネッタのこともまた寒気を感じるくらいに嫌っていた。

 

「あの女の考えていることなどお前が邪推したところでどうにもならん。それに、もしものことがあっても俺が何とかする。だから今は気にするな……」

「ぐぅ……旦那にそう言われちまうとあたしとしても従うしかねーんだけどよ……」

 

厳格な表情と声色を少しも崩すことないゼストの言葉を受けてアギトもいつも通りに渋々といった感じで従い、そのまま上空高くへと飛び上がっていく。

その後ろ姿を見やりながらゼストが思い浮かばせるのは忘れもしない8年前の苦い記憶。

段々と強行的になっていく親友の命令を押し切り突入した研究施設での激闘と部隊全滅。

そのまま死ぬことすら許されずにこうして惨めな死者として目覚めさせられ、首輪代わりとして敬愛していた部下の娘まで人質に取られている。

その現状はゼストにとって屈辱の極みであったが、同時にそんな状況を生み出してしまった自分の愚かさを何よりも恥じている。

自分は今更何かを正す資格などない敗北者、ただ愛しい者たちの命を守るために命令に従うのみの死体人形。

そんなゼストの今の自分自身の本心からの目的は1つだけ、嘗ての親友に直接全てを問うこと、それだけである。

 

(連中のこともそうだけど……今のあたしにはアイツらのことも引っかかって仕方がねえ……知らねえんだろうな、旦那やあたしらみたいに長い間何もできないことの辛さってのを)

 

一方でふわりふわりと宙を舞うアギトが思い浮かべているのは先日の市街地戦で遭遇した魔導師とそれに付き従う自分と同じ融合機の姿。

単体での技能もコンビネーションも息ピッタリ、それは決して即席の物ではなく強い絆の下で築かれた物だということはアギトにもすぐにわかったこと。

特に自分と同じ融合機がいたということ、それが自分の敵として立ち塞がっているということが気になって仕方がない。

自分の想いを真っ直ぐに貫いているだろうあの同類の瞳を見ていると、何も出来ていない今の自分がたまらなく惨めになるようで、

 

「……うがぁあああ!! やっぱムカつくぜあのバッテンチビめ!! 今度会ったら絶対ギッタンギッタンにして燃やしてやる!!」

 

東から眩く光る太陽が昇り始める中、それをバックにアギトは自分の中のもやもやを霧散させるかのように自分の怒りを吐き散らしていた。

 

 

 

*

 

 

 

「はい、ここまでは終わりっと」

「うわっ、相変わらず整理早いねティア!」

「アンタがこういうのに慣れてないだけよ、ほら半分貸しなさい、手伝ってあげるから」

「うぅ~ごめんね……」

 

機動六課隊舎のとある一室、複数のタイプ音が響き渡るその部屋のデスクに並ぶように座っているスバルとティアナ。

フォワードメンバーとはいえその仕事は単に前線で体を張ることばかりではなく、デスクワークも当然含まれている。

六課配属前からそういう関係だったのだが、基本的にこういう仕事をそつなくこなせるティアナがスバルの分を受け持つというのもまたいつものことであった。

 

「っとと……これは……」

「うん、この間の事件に出てきた……」

 

その途中でスバルとティアナの目に留まったデータがロングアーチが簡易的に纏めた市街地戦にて現れた敵群の情報について。

ガジェットドローンや違法兵器ともまた違う、謎めいた力を使用してレリックやヘリを狙っていた複数の女性――つまり戦闘機人の姿。

 

「魔力とは違う力であれだけのことを仕出かして……それってやっぱりこいつらは……」

 

作業の手が止まり、スバルは胸の前で拳をキュッと握りしめる仕草を取る。

同じような服装、同じように1つの目的の為に混乱を振りまき、同じように魔力とは違う別系統のエネルギーを操り自分たちを苦戦させたその姿。

スバルにとってそれは姉のギンガと同じように自分が抱えているある秘密を思い起こさせる要因でもあった。

しかもその彼女たちの裏に控えているのがスカリエッティという生体操作技術のスペシャリストとなればその予感も確信めいた物に変わっている。

 

「それにあの時アイツが……ベルリネッタが言ってた言葉だって……」

 

呟きながらもスバルの顔には怒りとも悲しみとも取れる歪みが生じ始めていた。

去り際の直前突如としてその姿を表に現したベルリネッタと、その時投げかけたそれぞれの言葉。

スバルは今でも覚えている、あの時姉と共に自分のことを原初の機人と呼んでいたことを。

それは正に本当に一握りの人間しか知らない自分と姉の持つ秘密について全てを知っていることの証明でしかない。

云わばそれは人を人と思わないような狂気的な人間にしかできない所業であり、それに対して何ら心を痛めていることが無いということでもある。

あの時に現れた自分と同じであろう存在達のことも合わせて、未だにそのような悲劇が平然と振りまかれているというその事実にスバルはやるせない気持ちを抱いていた。

 

「ねえティア――――」

 

 

 

ペッチーンッ!!

 

 

 

「うぎょ!?」

 

そこまで言いかけたスバルがティアナの方に顔を向けようとしたその瞬間に走ったのは額への衝撃と激痛。

あまりに突然のことにスバルは成す術無く、座っていた椅子からずっこけて尻餅をついてしまっていた。

 

「ティア……? いきなり何を?」

「そんなこと、私らが気にする必要ないでしょうが」

 

涙目になりながら額を抑えているスバルに対して容赦なく放たれるティアナの言葉。

でこぴんを放った右手をパタパタ振るわせながら心底くだらないとでも言わんばかりの一言であった。

 

「こいつらについて判断するのは隊長たちやロングアーチスタッフの仕事であって、私らの仕事はその為の報告書作りよ、わかったらさっさと作業に戻る」

「うぅ~……はい……」

 

いきなりのでこぴんにそのような物言い、スバルとしては理不尽な物を感じていたがそれでも間違ったことは言っていない。

まだ痛む額を擦りながらティアナに続くようにして席に戻り作業を再開する。

 

「……それにこいつらの内情がアンタの思ってた通りだとしても、アンタが責任感じる事じゃないわ、その点に関してはあのベルリネッタっていう女の言葉も同じよ」

「……だけどティア……ティアだってアイツにお兄さんのこと……」

「つくづく馬鹿ねアンタは……そんなこと、あの日ヴィータ副隊長にこってり絞られたんだからどうってことないわよ。あの女がどう思っていようが私は私の目的の為に六課の一員として戦うだけ」

 

互いにデスクに視線を向けたまま、心配そうに尋ねるスバルに対するティアナの言葉も曇りの無い真っ直ぐな物。

ベルリネッタ個人の因縁で言えば寧ろティアナの方がずっと大きいと言っても過言では無い。

自分の敬愛していた兄を殺した兵器の開発者、あの市街地での相対時もそれをわかってるような口振りでティアナをランスターの妹と呼んだこと。

その辺りの諸々含めてのスバルの心配だったのだが、ティアナからしてみればそんなことは今更な話でしかない。

自分は1人で突っ走るだけの馬鹿じゃない、多くの大事な仲間に恵まれているんだということをヴィータから教えられている。

故にティアナはあの程度の安っぽい挑発で心を揺さぶられるほど弱くは無かったということ。

 

「だからシャンとしてなさい……アンタだって私にとっても六課にとっても大事な仲間の一員なんだから……自分1人で問題を抱えててもしょうがないわよ」

「ティア…………うん、ありがと。少し楽になった」

「……それならいいわ」

 

そしてティアナはすぐ横にいるスバルの抱える秘密について知っている一握りの人間の1人でもある。

だからこそそのスバルが抱えている悩みについて真摯な想いで励ましの言葉をかけることができる。

それをわかっているからこそスバルもティアナの励ましが本当に嬉しくて、ニッコリと笑ってお礼を言った。

 

 

 

*

 

 

 

ミッドチルダ上空を飛行する機動六課のヘリ、それに搭乗しているのはライトニング分隊のフェイト、エリオ、キャロの3人。

今日はまた別の事件で現場調査を行うために移動中であった。

 

「地上本部に……ですか?」

「そういう可能性があるっていう予測の話、って感じではあるんだけどね」

 

その渦中でエリオとキャロにフェイトから伝えられるのは以前の聖王教会で聞き知った機動六課設立の裏事情についての話。

とはいえ流石にその全てを話すわけにもいかず、大規模なテロが発生する可能性が高いという触り程度の話であったが。

 

「確かに本来ならそんなバカげたことを考えるなんてよほど名の知れた犯罪者でもまずありえない……でも、ガジェットみたいな兵器なら」

「そう、質量兵器保有を禁止している管理局にとってみれば、AMFを持ったガジェットドローンは天敵みたいなものだから」

 

エリオの言葉に続くようにして彼の考えていることをずばり言い当てて見せるフェイト。

管理局の保有戦力は基本的に表向きはクリーンなエネルギーと称されている魔法技術とそれを駆る魔導師が中心となっている。

地上本部も基本的にそれは変わらずで、特に本部施設の周辺は超高レベルの魔力防壁が展開されており並大抵の火力では突破することは不可能だ。

が、今現在の六課が敵として戦っている相手であるガジェットドローンはその魔力エネルギーを根本から消滅させるAMFを持つ。

単体では無理であろうと、それが一度に大量投入されたとあっては鉄壁を誇る地上本部の守りも破られないとは言い切れいないというのが3人の共通の見解だった。

 

「でもそれ以外にも、ガジェットとは比較にならない規模の兵器を作り出している存在がいて……それが今の私たちの敵として立ち塞がっている」

「カティーナ・ベルリネッタ……なのは隊長やティアナさんのお兄さんのことにも関係している違法な質量兵器の開発者……」

「…………うう、あの時は本当にごめんなさい、私がもっとしっかりしてれば」

「ああいや、そういうことを言おうと思ったわけじゃなくて……」

「大丈夫だよキャロ。私としてはキャロが特に大きなケガとかしてなかったことの方がよっぽど安心なんだから」

 

口では穏やかなままキャロを慰めてはいるも、その前後の話を聞いた時にフェイトもまた気が気ではない想いだったのである。

新暦以前のミッドやベルカではその気になれば小さな子供がボタン一つ押すだけで国家を一瞬で壊滅させる、そんな質量兵器が大量に作り出されていた物騒極まりない時代だった。

そういった痛みを抱えているからこそ、現在の時空管理局は過敏とも言えるくらいに質量兵器の取り扱いには慎重な立場であり、その代替として利用されているのが魔法技術。

しかし、そのような危険極まりない力を蘇らせ、嬉々として投入してきているのがベルリネッタという人間なのである。

ガジェットのみならず、六課でも度々相対してきたその兵器はそのどれもが質量兵器から離れて長い年月が経っている管理局には頭の痛くなる物ばかり。

現にその兵器によってフェイトにとっても忘れえぬ親友であるなのはが落とされ、今の六課の大切な仲間の1人であるティアナも兄を失うことになった。

 

「あの女が何を思ってあのタイミングで姿を現したかはわからないけど……でも、彼女がああいう風に言った以上、今後はもっと危険な敵が出てくる可能性も無視できない」

「危険な……リニアレールやアグスタで倒した時よりももっと強力な兵器が出てくるってことですね」

「それに対抗するには私もエリオ君もフリードも、もっともっと頑張らないといけない……」

「うん。私や他の隊長たちも危険と判断したらすぐにでも駆けつけるけど、それでも今後はガジェット含めてそういった兵器が出てきた時はレリック関連の事件以外でも出動することになると思うから、それを覚えておいてね」

「「はい!!」」

 

今後は更に任務の危険度は増していくことになる、そんな内容の言葉であってもエリオとキャロは少しも臆することなくしっかりとした返事で答えていた。

2人が幼い頃からずっと一緒に過ごしてきたフェイトにとってその姿は頼もしい物であり、同時に少し後ろめたさを感じさせるものでもある。

 

(……本当は、2人にはもっと平和で穏やかに暮らしてほしいと思ってたけど……でもやっぱり、あの2人がいる以上、どちらにしろいずれは難しくなっていた……)

 

待機状態のバルディッシュを握る手の力も自然と強い物に変わっていく。

エリオもキャロもその出自故に周りから疎まれ、人の愛を知らずに生きてきた子供たち。

そんな彼らを救い、少しでも愛情を知ってもらいたいと接してきた結果、今ではこうやって立派に育ってくれているとフェイトは心から思っている。

だが、その平穏を脅かさんとする者たち――フェイトがずっと追い続けてきたスカリエッティとベルリネッタという犯罪者がいるのも事実。

特にフェイトが許せなかったのが、市街地戦においてベルリネッタがエリオに向けて言い放った言葉……Fの遺産。

それはフェイトとエリオにとっては決して触れられたくない過去の禁忌であり最大のタブー。

あの女はそれを何の躊躇も無く楽しさすら浮かべて踏みにじったのだとフェイトは怒りに打ち震えていた程だ。

自分のような悲劇の存在を二度と生み出させないために、大切に思っているエリオやキャロ、なのはやはやても含めた大勢の人たちを守るために、

その為にフェイトは機動六課という今の居場所で全力を尽くすと常に心に決めている。

 

(全部を守ろうとするのは大変なことだけど……私がしっかりしないといけないから……だから、力を貸してねバルディッシュ)

 

何かを決意するように硬く目を閉じ、フェイトは長い間共に戦い続けてきた相棒にそっと言葉を贈っていた。

 

 

 

*

 

 

 

ミッドチルダ地上本部、陸士108部隊の隊舎。

はやての依頼もあって機動六課とは現在協力態勢にある部隊の宿舎の一室。

 

「……機動六課から頂いたデータも合わせて、解析はほぼ完了しています」

「この魔法陣に似たテンプレート……算出されたデータはどれも桁違いですが、やはりその全員が最新技術で作られた戦闘機人です」

 

機動六課が持っているのと同じ市街地戦での戦闘データと出現した敵の記録。

それについての意見を述べるのはあの事件で共に戦っていたギンガと、本局第四技術部主任を務めるマリー……マリエル・アテンザという女性。

なのはやフェイトの幼い頃からデバイスの改良などで付き合いがあり、今回議題に挙がっている戦闘機人についても個人的事情があって詳しい立場にある。

 

「俺の目で見てもすぐにわかる、どうやら間違いはないと見て無さそうだな」

 

その報告を聞いて顔をしかめるのは108部隊を率いる初老の男性、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。

スバルとギンガの実父であり、六課部隊長のはやては嘗て彼の下で研修をしていたこともあって個人的な繋がりも強い。

そういった関係が功を奏して機動六課との協力が円滑に進んだということもある。

 

「それに最後に現れたベルリネッタの言葉から考えても……」

「原初の機人、か……ちっ……人の知られたくねえこと土足で穿り返す嫌な女だぜそいつはよ」

 

あの時、ヴィータやリイン、他の六課新人メンバーと共にその場にいたギンガもまたそのメッセージをしっかりと聞き取っている。

楽しげな笑みと共に行われた挨拶と、スバルと同じように自分へと向けられたその言葉。

彼女と共にいるであろうスカリエッティの存在も合わせてゲンヤの心の奥底では長い間抑え込んでいたある事件への怒りがふつふつとこみ上げ始めていた。

 

「どっちにしたって通信で済ませられる話じゃあねえ、俺が直接出向くとするわ」

「私もご一緒します、スバルの顔も最近見ていませんでしたし」

「そいつは助かる、時間までのんびりしてってくれや。ギンガ、案内頼む」

 

とりあえずの一通りの方針を纏めた上でゲンヤははやてが部隊宿舎に戻ってくるのと合わせて詳しい話をしていくという方針を決定。

ギンガの案内でマリーが部隊長室を後にしたのを見送ってから、ゲンヤは椅子に深くもたれかかる。

 

(……終わってねえんだな、あの頃から、何も)

 

視線の先にあるのは自分の妻であり、8年前に部隊諸共殉職したクイント・ナカジマの写真。

戦闘機人プラントと思われる研究施設に赴いた先での悲劇、残された2人の愛娘も元々は彼女が育てると誓ったこと。

自分にとって戦闘機人という存在はゲンヤにとって言葉では言い現せない複雑な感情を抱く存在なのである。

 

 

 

*

 

 

 

「いやあごめんな、すっかり話が長引いてしもうて」

「気にしないでください主はやて、このくらいなら何てことはありません」

「本局は本局で色々忙しいってのは今に始まったことでもねーしな」

 

時空管理局本局施設、はやては個人的な案件の為にこの場を訪れており、その付き添いでシグナムとヴィータもやってきていた。

若くして二佐という地位にまで登り詰めたエリートとはいっても、本局内では未だに新人の小娘扱いというのが自然だったりもする。

そういった感じで本局のお偉方との話が長引いてしまうのははやてたちにとっては慣れたことなのである。

 

「先程108部隊から連絡がありました。先の敵対象についてのデータについての割り出しが完了したから急ぎ話がしたいと」

「直接会って……ちゅーことはやっぱりそういうことなんやろうな、ほんなら急がないかん」

 

傍らで共に歩くシグナムの言葉を聞くと自然と歩幅も広がってくる。

108部隊からのその報告ははやてにとってもほぼ予想通りのこと、つまり戦闘機人についての情報は少しでも多く欲しいと思っている。

そもそもはやてが108部隊と協力を取り付けたことやスバルのことなどはそういった裏の思惑もあってのことだったりもする。

 

「敵が予想通りに戦闘機人やとしたら……今後のことについて益々真剣に考えていかなあかんからな」

「はい、ガジェットドローンや違法兵器のことのみならず、その上彼女たちのような敵すらも相手にしなくては行けなくなるのですから」

「全く、新人連中を鍛えるのだって大変だってのに、アイツらは次から次へと……」

「それは心配いらへんと思うけど? 何せ六課には立派な指導教官がおるんやしな」

「なっ……こんな場所でまで茶化すようなこと言うんじゃねーよっ!!」

 

顔を真っ赤にして怒鳴ってくるヴィータの姿が可愛らしくて、はやてはつい笑顔になってしまう。

敵の存在が今後更に強大化していくということは六課を取り纏めるはやてにとっても由々しき事態。

例の予言も合わせて油断ならない状況が今後も続いていくということの証明のような物である。

だが、同時にはやては自分の仲間たちのことを心から信頼している。

家族であるシグナムやヴィータ達守護騎士やなのはやフェイトのような新湯たちもそう、

彼女たちの下でメキメキとちからを伸ばしている新人たちやその他多くの六課職員、それ以外の場所で支えてくれている多くの人たち。

その全てに支えられて自分はここに立っているのだとはやては実感している。

 

「……この前の戦いだってティアナの作戦を台無しにしちまって失態だらけだったからな。だからあたしも今度は絶対失敗なんかしねー、もうあんなことを繰り返すのはごめんだからな」

「その想いは私も同じだ。主はやてと守るべき者たちの為に、全身全霊を以てしてこの剣を振るうのみ」

「ふふ、2人ともホントにおおきにな」

「気にすんなって、あたしは副隊長で指導教官だからな。はやての方こそあんま魂詰めすぎるなよ?」

「我ら守護騎士、いつでも主はやてと共にあります。そしてその気持ちは高町やテスタロッサ、他の多くの人々も決して変わらない筈です」

 

その支えの1つであるヴィータやシグナムもまた、それぞれの想いの下ではやてたちと戦い抜くことを誓っている。

予言のこともそうであるし、何より多くの仲間に囲まれて生きているということははやてだけでなく、その家族である守護騎士も同じこと。

その自分の居場所を守り、はやての望む管理局と次元世界の平和を守るためならいくらでもその身を惜しまない覚悟をしているのはヴィータもシグナムも、

その場にいないシャマルやザフィーラも同様である。

特にヴィータはティアナとのことや市街地戦でのことも合わせ、仲間を守るということについては一際強い想いを見せているのである。

 

(……そうや、機動六課を立ち上げられたのもみんなと一緒に戦えるのも、グレアムおじさんやみんなや……そしてあの子が残してくれた命があるからこそや)

 

そしてシグナムとヴィータが共にいながらはやてが更に想うこと、自分の命を繋ぎ止めてくれた人々の顔。

闇の書事件で深く関係していた管理局員であるギル・グレアムもそうであるし、

何より、闇の書の最後の主として、自分という存在を残すためにたった1人でその身を犠牲にして消えていった初代リインフォース。

自分1人を救うために大勢の人たちに辛い思いをさせたという実感から、今度は自分が多くの辛さを抱え込んででも前に進み続けるという確固とした決意。

周囲の人間からは生き急いでいると称されることもあるはやての原動力がそれなのである。

 

(あんな悲しみも後悔も……もう誰にも味わってほしくない……だから私の命は、それを防ぐために使うんや……!!)

 

それは、スカリエッティやベルリネッタのような異質の犯罪者相手であろうと決して変わることは無い。

多くの命を弄び多数の悲劇を生み出し続けている2人の科学者を止めるため、はやては心内で改めて自分の決意を確かめるのであった。

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