狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
地上本部施設の一画、通路内にて。
機動六課新人4人と戦闘機人、ノーヴェとウェンディによる一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「クッ……ちょこまかと……!!」
「何してんだウェンディ、さっさと仕留めろ!!」
ウェンディの放つライディングボードからの射撃は、高速機動を繰り返すエリオを捉える事が出来ない。
すぐ側を魔力で作り出したロードで滑走するノーヴェはその光景に苛立ちを強めるばかり。
数での不利こそあれど自分とウェンディは戦闘能力を高めて生み出された前線専門の戦闘機人である。
たかだかランクB前後の魔導師相手に張り合われるということ自体が彼女にとっては一種の屈辱のような物だった。
「でえりゃあああ!!」
「!!―――――」
その怒りをぶつけるかのようにジェットエッジに更なる加速を込め、右腕のガンナックルをティアナの背後から叩きつける。
ティアナがそれに気付いてノーヴェの方に振り向いた時にはもう遅く、その攻撃は直撃するかと思われたのだが、
「なっ……幻影だと……!!」
「ちょっと待つっスノーヴェ、これは……」
命中と同時に掻き消えるティアナの姿とその勢いのまま突き進み途中で急停止するノーヴェ。
すぐ近くで様子を見ていたウェンディが自身に内蔵された知覚レンズによって周囲のサーチを開始。
その網膜に映し出されるのは1つや2つではない、自分たちを取り囲むようにして現れているいくつもの機動六課新人の幻影。
それも戦闘機人として各種機能を強化されたウェンディの目ですら判別不能な程高度な物。
「これだけのレベルの幻影を操れるなんて……こいつら本当に新人なんスか……?」
「しゃらくせえ……幻影だろうが本物だろうが、片っ端から潰せば済む話だろうが!!」
敵の予想外の実力に驚愕するウェンディを他所にノーヴェの判断したのは実にシンプルなこと。
右腕のガンナックルの出力を上昇、目に付く敵から順次潰していこうとしたが、
「うおおおおおお!!!」
「んなっ……ぐぅうう!!」
その隙を突くかのように真正面から突進してくるのはリボルバーナックルを振り上げたスバル。
その攻撃を回避することは敵わず、ノーヴェはガードの態勢のまま床を転がっていく。
「ノーヴェ!!」
「サンダー……!!」
相方の負傷に声を上げるウェンディもまたそれが致命的な隙を生むことになる。
その背後から迫っていたのは電撃を纏うストラーダを振りかざしたエリオ。
「レイジッッ!!」
ライディングボードによる迎撃の為にエネルギーを充填したその瞬間に叩き落とされるストラーダの一撃、
僅かばかりの拮抗と飛び散る火花の後、行き場を失ったエネルギーと共に辺り一帯が大爆発。
その衝撃に耐えきれずにウェンディもまた吹き飛ばされる形となる。
「撤退!!」
そこを狙って響き渡るのはティアナによる撤退の命令。
元よりキャロのブーストも合わせてかなり無茶な幻影を行使してようやくこの状況を生み出せたに過ぎない。
敵との実力差がそう簡単に縮まらない以上、目下の最優先事項であるなのはやフェイトとの合流を優先してのことだった。
「……の、やろぉおおおお!!」
怒り爆発、瓦礫の下からノーヴェが這い出てきた時には六課新人たちの姿は遥か遠くである。
同様に痛みに呻きながらウェンディもどうにか立ち上がっていた。
彼女たちの目的は地上本部内部戦力の殲滅とターゲットの確保にある。
その内の1人まんまと逃げられてしまった以上、すぐにでもノーヴェと共に追撃をしなくてはいけない。
『あーあー、聞こえているかなノーヴェにウェンディ……?』
「カ、カティ……申し訳ないっス……こっちの不手際で逃げられて」
『いんやいやセカンドの方はまだ大丈夫ジョブさッ……それよりちょっとチンクの方を手伝ってきてくれないかな、実は今単独でファーストの方と交戦中みたいなんだよね……!!』
「チンク姉がッスか……?」
が、その段になってモニターが開かれ、その先にいた人物であるベルリネッタからウェンディたちに新しい指令が下されていた。
*
地上本部を目前にしての空域、そこでぶつかり合う2つの閃光。
リインとユニゾンをしたヴィータと、同じくアギトとのユニゾンをしたゼスト。
両者共に一歩も引くことなく、その戦いはほぼ互角と見て良かった。
「ゼストとか言ったな!! どうしてベルリネッタみたいな連中に手を貸してるのか理由を言え!! ちゃんとワケがあるなら管理局は話を聞く!!」
互いの武器を打ち付けあい、火花の散る中でヴィータが必死に問いかける。
相対しているゼストという魔導師は戦闘機人でも無ければ機械兵器でも無い。
つまりはスカリエッティやベルリネッタが直接関与している敵とは言い難い相手。
しかも、長年戦い続けた騎士としての直感とでも言うべき物だろうか。
僅かばかりの交戦で感じ取ったゼストの纏う空気は今までのそれとはどうも違っているような気がしたのだ。
だからこそ、この混乱に乗じているということはつまりスカリエッティ一味の協力者ということの裏付けでもあり、
どうしてこの男があの連中に手を貸しているのかが理解できなかったからこそでもあった。
「……若いな」
「ッ!!」
その問いに答えることなくゼストはアギトの協力で形成した火炎弾をヴィータに打ち付けて距離を取る。
直前にヴィータが防壁を展開したことによりそれはダメージとならない。
「だが洗練されている、実にいい騎士だ」
(褒めてる場合じゃねーろ旦那ぁ!!)
こんな状況でもゼストは相手の力量を素直に賞賛するような言葉を投げかけ、アギトはゼストの中で呆れるように声を上げる。
構わず次なる攻防へと移り、それにヴィータも応戦してまた高速機動での武器の打ち合いが始まる。
(……気付いたか、リイン)
(……はいです。向こうのユニゾンアタック、僅かにですがタイミングにズレがあります、恐らく融合相性の問題かと)
その状態でもヴィータとリインは敵の分析を怠らず、その中で気付いた一つの違和感。
現状の実力的にはほぼ互角、もっと正確に言えば僅かに自分たちが押されていると見ていい。
だが、ヴィータはゼストの攻撃を何度も受ける中で、その僅かなタイミングのズレを感じ取っていた。
ヴィータとリインの予測通り、ゼストの肉体とアギトの相性のレベルは高い物とは言い難く、
ユニゾンによる基礎能力の向上はあれど、その為に必要なコンビネーション、反応速度の面での遅れが生じてしまうのである。
(アイツら……あたしらと違って相性もいいんだろうが練度もたけえ……)
(俺たちの攻撃にも合わせることができる……本当に大した力量だ)
ゼストとアギトもまたヴィータ達と同じように敵の分析を怠らない。
今は僅かばかりとはいえこちら側が押してはいるも、時間の限られているゼストにとってそれは圧倒的優位には繋がらない。
アギトの言うようにリインは元よりヴィータ達守護騎士との融合を前提に生み出されたユニゾンデバイスである以上、その相性は最高クラス。
しかもそれだけでなく、ヴィータ自身の実力もユニゾン状態での能力に驕らない確かなコンビネーションが築かれていた。
地力においてはゼストが上回っているものの、そうした要因もあって両者の実力差はそれほど開いてはいない。
「融合を解除しろアギト、俺がフルドライブを使って一撃で落とす」
(んなっ……!! 馬鹿言うんじゃねえ!! フルドライブなんて使ったら旦那の体はまた!!)
このままではら埒が明かないと判断したゼストが言い放ったのは切り札の使用。
それの意味するところを知っているアギトからすれば驚愕以外の反応を取れない。
ゼストの持つフルドライブを使えば確かにヴィータ達を圧倒できるであろうが、
人造魔導師として改造され肉体に多大な傷を抱えているゼストにとって、その代償となる負担は尋常な物ではない。
「終わらんさ、成すべきことを果たすまではな!!」
(強情もいい加減にしろ! 旦那はあたしにとっての命の恩人!! その旦那の命を無駄に削らせる真似をさせるか!! だったらあたしが旦那の道を切り開くだけだ!!)
それを知っているからこそアギトはそれを全力で否定する。
ゼストに負担をかけるくらいなら自分がより力を発揮すればいいだけのこと。
アギトのその決意を感じとったゼストも敢えて何も答えずにそれを受け入れる。
(猛れ、炎熱!! 烈火刃!!)
ゼストの体内で込められるアギトの魔力。
表に表出したそれはゼストの持つ槍の先端を業火で包み込んでいた。
*
「お待たせしました、お届けです!!」
「ありがとうみんな、ナイスタイミングだよ!」
新人4人が合流地点へと辿り着いたその時点でなのはとフェイトの2人が既にそこにいた。
機人2人を振り切って息を切らせながらもスバルとエリオがそれぞれ預かっていたデバイスをなのはとフェイトに手渡す。
これで準備は整った、ここから反撃開始とばかりにその場にいる誰もが気合の篭もった表情を浮かべていた。
「うん、じゃあここからは――――」
「えっ……ギン姉……? ギン姉ッ!!」
「スバル……どうしたの?」
「そ、それが通信が繋がらないんです、ギン姉との!!」
しかし安心も束の間、慌てるような素振りでデバイスに呼びかけるスバルに一同が注目する形に。
ギンガもまた同じように内部へと侵入し、敵戦力との交戦状態にあってもおかしくはないのだが、
通信に答えられない状況下というだけでそれはつまりかなり切迫しているという証明になる。
「さっきの戦闘機人だけでも2人……それにまだ、ガジェット以外の機械兵器も目にしていない……」
「まさか……ギン姉の方に……!!」
脳裏に敵戦力の内情を思い浮かべながら呟くティアナの声を聞いてスバルが連想するのは苦戦する姉の姿。
ティアナにしたって地上本部を襲撃するという大それたことをする以上、そこに送り込まれる戦力が今までとは比較にならない規模であろうことは簡単に予想できる。
現に、内部に突入するまでの僅かの間でも三桁を軽く超えるガジェットやベルリネッタの違法兵器の数々を目にしてきた。
加えて先程まで交戦していた戦闘機人のこともあるし、他にも新型の敵兵器が送り込まれていても不思議ではない。
となれば、自分たちとは違う別のポイントでギンガがそれらの戦力と交戦している可能性は飛躍的に高まると言っていい。
「!!――ロングアーチ……グリフィス、どうしたの!?」
『……ちらは今……戦闘……人と未……兵器の襲……を受……て……皆さ…が…ちこたえて…すが……う……』
更に事態を急変させるのはロングアーチと連絡を入れたフェイトの方へと帰ってきたグリフィスの声。
ノイズ混じりのその通信内容を聞けば機動六課がどういう状況に置かれているかすぐに察しが付く。
しかも単語の中にあった戦闘機人ともう1つ、未確認兵器という言葉。
「まさか……六課の方にベルリネッタの新型が……!!」
グッと悔しげに歯噛みするフェイト。
前線メンバーの大半が出払っているが、それでもシャマルやザフィーラ、その他の武装局員の実力からすればそう簡単に落ちる筈は無い。
にも関わらずグリフィスからの通信を聞けば向こうは相当に追い込まれているということ。
となれば、シャマル達すらも容易く退けられるだけのナニカが向こうに出現しているということの証明。
「スターズ分隊はギンガの安否確認と襲撃戦力の排除に向かう!!」
「ライトニングは急ぎ六課に帰還、敵の排除を行う!!」
「「「「了解!!」」」」
一秒たりとも時間を無駄にできない緊急事態であることはその場の全員がすぐに理解した。
なのはとフェイトの指示に返答を返した後、6人は各々の目的地へと向かっていく。
*
機動六課隊舎は正に地獄とでも呼ぶに相応しい壮絶な光景へと変わってしまっている。
施設のあちこちから火の手と黒煙が上がり、至る所に瓦礫と鉄くずが散らばっている。
その中で息を荒げながら膝を着いているのはシャマルとザフィーラの2人。
敵の初撃を防げなかったばかりか、その後も容赦なく降り注ぐ攻撃の雨霰に防戦一方となっていた。
機動六課メンバーの中でも特に防御能力に特化した2人でさえ、今の状態を保つのに精一杯。
だというのに敵は少しも消耗している気配は見せず、逆にシャマルとザフィーラの魔力は枯渇寸前。
文字通り、絶体絶命と言っていい状態にあった。
「タッタフタリデ、ヨクモココマデタエタモノダ、ゼイジャクナマドウシドモ」
その地獄を生み出した元凶である白い怪物―――アレスタルヴォーネから発せられる低く唸る機械音。
主砲のプラズマキャノンを始めとして全身に内蔵されている高火力、多種多様の武装の数々。
それらによる攻撃はシャマルとザフィーラ2人の力を合わせても全く歯が立たない程の物だったのである。
「でももう終わり、カティのアレスタルヴォーネと、僕のIS、レイストームの前では、抵抗は無意味」
しかも敵はそれだけではない、アレスタルヴォーネに負けず劣らずの無機質な声でオットーから下される無慈悲な宣告。
右腕を掲げたオットーの眼前に浮かび上がるのは翠色のスフィアとそこから放たれるいくつもの閃光。
アレスタルヴォーネの攻撃だけでも手一杯だというのにオットーのこの能力が2人を益々追い込んでいた。
「防いでっ! クラールヴィント!!」
当然、シャマルも何もしないでこのまま蹂躙されるわけにはいかなかった。
残った魔力を振り絞ってシャマルはクラールヴィントを翳して複数の防壁を展開、オットーのレイストームの攻撃を防ぐ。
「うおおおおおおお!!!」
その間に敵の攻撃を掻い潜りながら咆哮と共にザフィーラが飛び上がっていく。
狙いは一点、アレスタルヴォーネの上部ユニットである人型部分そこ1つ。
せめて少しでも敵戦力を殺がなくてという決意の下でのザフィーラの捨て身の特攻。
「オロカナ……アタマノナカミマデ、ケモノトイウコトカ、タテノシュゴジュウヨ」
「!!――――ぐああああっ!!」
「ザフィーラ!!」
しかしその牙はアレスタルヴォーネに届くことは無く、人型ユニットの右腕の有線式クローによってザフィーラの体は空中に固定される。
叫ぶシャマルの声を他所に動きの止まったザフィーラの背後から迫るのはもう一つの人影――――ディード。
「シトメロ、ナンバー12」
「了解、IS発動、ツインブレイズ」
ザシュウ!!
ディードの両腕によって振り下ろされた2振りの赤いブレードがザフィーラの肉体に巨大な十字傷を作り、辺り一帯に膨大な量の鮮血を撒き散らす。
それを確認した上でアレスタルヴォーネはズタボロになったザフィーラを有線クロ―で挟んだまま勢いよく振り上げる。
「きゃああああああ!!」
振り下ろされた勢いと落下の加速と共にザフィーラはそのまま下にいたシャマルに叩きつけられる。
その衝撃でシャマルは倒れ込んでしまい、レイストームの閃光を防いでいた防壁も消滅、六課に更なる被害を生み出してしまう。
それでも尚、オットーもディードもアレスタルヴォーネも追撃の手を緩めようとはしない。
「トドメダ……キサマラノケイアイスル、アルジノチカラデ、ツブレロ」
火災と衝撃で崩落を続ける六課隊舎に向けてのアレスタルヴォーネの取った行動。
プラズマキャノンを放つ主砲部分の眼前に禍々しい漆黒のスフィアが形成される。
今にも爆発せんばかりのそれは数秒の後その場にとどまった後、六課隊舎の中心部分へと投下される。
「シネ」
次の瞬間、直撃したスフィアは急速にその大きさを肥大化させていき、その膨大な圧力によって六課施設を更に崩壊させていった。
*
六課本社を目指して急行するフェイトと、フリードに跨るエリオとキャロ。
敵の主力が現れている可能性がある以上、少しでも早く辿り着かなくてはいけない。
「ッ……バルディッシュ!!」
が、そんな3人を目掛けて明後日の方向から飛来する複数の閃光。
瞬時に反応したフェイトが防壁を展開してその攻撃を防御。
歩みを止めた3人が閃光の飛んできた方向に目を向ければその先にいるのは2つの人影……戦闘機人のトーレとセッテ。
「……エリオ、キャロ、ここは私が食い止めるから2人は先に!!」
「で、でもフェイトさん!!」
先の攻撃速度を見れば敵の実力が相当な物であることをフェイトはすぐさま判断。
だからこそ、この場は自分1人で抑えなくてはいけないという考えに辿り着く。
いきなりの発言に戸惑いを隠せないキャロであったが、それを振り切るようにして叫ぶのはエリオ。
「フリード!!」
「エ、エリオ君!?」
その一声と共にフリードは翼を翻し、フェイト、トーレ、セッテから離れる様にして再び六課へと向かって飛んでいく。
空戦で、しかもアウトレンジからの攻撃を可能としている以上、空戦主体のフェイトはともかくフリード頼みの自分たちでは圧倒的に不利。
それどころか自分たちを庇ってフェイトが全力を出せない可能性もある、エリオはそう判断したのだ。
「成る程……あの少年もなかなか頭の回る個体のようですね」
その意図をセッテも察し、敵の力量に素直に感心を浮かべてそのような言葉を発する。
しかし、今のフェイトにとってはそれもまた自分の中の怒りを逆撫でするものでしかない。
目の前にいる敵は戦闘機人、自分が長年追い続けている因縁の相手の生み出した―――過去の自分と同じ悲劇の象徴。
「行くよ、バルディッシュ!! サードフォーム!!」
「……来るぞ、セッテ!!」
「了解」
カートリッジロード共に変形するのはバルディッシュの剣形態、ザンバーフォーム。
それを前にしてトーレとセッテもそれぞれの持つ武器を構え直して臨戦態勢へと入った。
*
地上本部内部施設の通路を進むのはなのはとティアナの2人。
高速での移動手段に乏しいティアナはなのはに抱えられた状態での移動となっていた。
「スバルが少し先走り気味ですが……」
「問題ないよ、こういうパターンだとスバルの方が速くなって当たり前だから。その分こっちが急げばいい」
共に行動していたスバルはマッハキャリバーの速度を挙げ続け、瞬く間に2人から遠く離れた位置へと行ってしまっている。
敬愛する姉の危険ということもあり、どうしても焦りを抑えきれなかったのだ。
それもなのはは良しとして、スバルに追いつくために自分も速度を上げていく。
そして2人はその途中で狭い通路から開けた空間へと辿り着く。
「!!――なのは隊長、あれは!!」
その空間の反対側にある先へと続く通路、そこにいた1つの影を捉えてティアナが叫ぶ。
咄嗟に飛行を急停止するなのはに飛び上がるようにしてなのはの横へと着地するティアナ。
不気味なほどの静寂が支配するその空間の中、2人の姿を睨むようにしていたのは黒い機体。
「キドウロッカスターズブンタイ、タカマチナノハ、ティアナ・ランスター、ダナ?」
「アイツは……フェイトちゃんとシグナムさんが交戦していた……」
「イカニモオマエノソウゾウドオリダ、ケド、アノトキトオナジトオモウナ、チクセキサレタデータヲモトニ、マスターニカイゾウサレタ、イマノワタシハ、キサマラナドモノノカズデハナイ」
レイジングハートを構えるなのはの言葉に答えるように機械音声を発するその機体。
全体のフォルムは嘗てフェイトやシグナムが会場で交戦した白い人型兵器と全く同一の物。
大きく違うのは機体のカラーが漆黒と紅色のラインに変わっていたことと、細長い筒状となっている両肩のバインダー。
そしてそれ以上に機体そのものが言っているように、六課で計測したデータを遥かに上回るであろう敵の機体からジリジリと感じられる重たい空気。
「キサマラノオナカマハサキニイカセタ、ワタシノシメイハココデキサマラフタリヲウチタオスコト、サア……イクゾ」
「……ティアナ!!」
「わかっています!!」
振り切れる相手ではないしそう簡単に倒れるような相手でも無い、だからといって尻尾を巻いて逃げるなど以ての外。
レイジングハートを前に掲げるなのはに合わせる様にしてティアナもクロスミラージュを敵へと向ける。
それに応えるかのように黒い機体は両肩のバインダーを前方へと展開、円形のサークルを形成してエネルギーを収束。
「スベテヲ、ウチクダイテクレル、コノワタシ、フィーネガナ」
サークルから放たれるのは漆黒閃光の奔流と夥しい数の黒いスフィア。
黒翼をたなびかせるその機体――――アンジェロシリーズ最新作の1つ、ルチフェロ・フィーネの放ったその攻撃は
なのはとティアナのそれぞれが放った桜色の砲撃と橙色の魔力弾の雨を真っ向から掻き消していった。
*
背後でなのはとティアナが激闘を繰り広げている最中、スバルは只管に前へ前へと進み続ける。
目指すのは通信が途絶えた自分の姉、ギンガのいる筈であろうポイント。
「ギン姉……ギン姉……!!」
マッハキャリバーが唸りを上げる中でもスバルは姉の名前を呟き続ける。
幼い頃に優しい母に拾われ、同じ父親の下で育てられた自分と同じ宿命を背負うたった一人の大切な姉。
口から漏れ続けるその名前は姉にどうか無事でい欲しいという祈りにも等しい物。
スバルにとってギンガ・ナカジマという人物はそれだけ大きな存在。
「ギン姉!!」
その姉にもしものことがあったのなら……ネガティブな思考を必死に振り払うようにスバルは進んでいく。
その果てに辿り着いたのはこれまた狭い通路とは違う1つの開けた空間。
そこにいたのは無事を願い続けた姉の他にいた3人程の人影。
「…………あ……」
そこに映った光景に声を漏らすスバル、眼前にいるのは頭から血を流し全身傷だらけでピクリとも動かないギンガの姿。
そのギンガの髪を乱雑に掴んで持ち上げているのは戦闘機人の1人であるチンク。
更にその周囲にはつい少し前に交戦したノーヴェとウェンディの姿も見える。
「ああ…………ああっ…………!!」
自分が思い描いていた、いや、そうであってほしくなかった最悪の光景が広がっている。
スバルの感情は呆然から一気に反対へと振り切れ、膨大な怒りへと支配されていく。
そんなスバルの姿を捉え、今の彼女の感情を知ってか知らずか、チンクはまるで見せつけるかの如くギンガの体を持ち上げる。
「ああああああああああああッッッッ!!!!!!」
瞬間、自身の中のナニカが全てキレたスバルの叫びが空間の中に木霊した。
*
地上本部と六課隊舎のほぼ中間地点での海上。
幾度も閃光がぶつかり合い火花を散らすのはフェイトとトーレ、セッテの2人の戦闘機人。
ザンバーフォームを用いての攻撃力が増した状態のフェイトを相手に、トーレとセッテの2人はほぼ互角の戦いを繰り広げていた。
尤も、リミッター付きのフェイトは正確には全力と言い難いし、トーレとセッテもまた意図的に力をセーブしていたのだが。
「ッ……!! スカリエッティとベルリネッタはどこにいる!! どうしてこんな事件を平気で起こす!!」
その途中、フェイトが叫ぶように相手の戦闘機人2人へと問いかけたのはその背後にいるであろう2人の狂気の科学者についてのこと。
地上本部の壊滅という大事件、しかもその目的は自身の戦力の威力証明という極めて独善的な物。
そんな常人からすれば馬鹿の極みとしか言えないことに平然と手を貸している目の前のトーレとセッテものこともフェイトには理解し難かったのだ。
その様はまるで過去の自分を、何の疑問も持たずに母親の命令で戦い続けていた幼い頃の自分を見ているようで……
「お望みでしたらご案内しましょう、無論貴方が我々に協力してくれることが前提ですが」
「彼らは最悪の犯罪者だ!! 何をそんな馬鹿なことを!!」
怒りを抑えられないフェイトに対してセッテから発せられるのは本心からの言葉。
目の前にいるその少女はセッテ達戦闘機人にとってみれば云わば最初の成功作品、自分たちの先祖とでも言うべき存在に等しい。
普段は他人のことなどまるで気にかけないセッテが珍しく、感情を露わにしてフェイトに協力を申し出ていたのだ。
同一の存在であり、尊敬すべきでもある貴方と戦うのは望むところではない、そういう感情を込めて。
そしてその点に関してはすぐ隣にいるトーレもまた同様であったのだ。
「悲しいことを言わないでください、ドクターは貴方とあの少年にとって、生みの親のようなものではないですか」
「貴方方が存在するのも、ドクターがプロジェクトFの基礎を作り上げたからこそ。それを引き継いだ貴方の母君、プレシア・テスタロッサの研究があればこそ」
「セッテの言うように科学の発展で優れた技術を作り出しているのはカティも同じです、あの2人は貴女も含めて我々に必要な――」
「黙れッッ!!」
これ以上聞きたくない、聞く価値すらもありはしない、2人の言葉を遮るようにフェイトはあらん限りの声を込めて叫ぶ。
まるでそうであるように刷り込まれた、洗脳にも等しいその言葉を何の躊躇いも無く言い続けるトーレとセッテの姿はフェイトにとって苦痛以外の何物でもない。
その反応もトーレとセッテにとっては好ましい物ではなかったようで、普段滅多に見せないような落胆の表情を浮かべていた。
「仕方ありませんね……今日はここまでです、またいずれお会いできることを願っています」
「尤も、カティの作ったこれを、貴方が退けることが出来れば、ですが」
「なにっ…………!!」
が、トーレがその言葉を言い終わると同時に辺りに眩い光が生じる。
それに対して咄嗟に目を逸らしてしまったフェイトが気付いた時には2人の姿はどこにもなく、代わりに在ったのは1つの召喚魔法陣。
その色と形状をフェイトはよく知っている。
「これは……!!」
声を漏らすフェイトに呼応するかのように魔法陣から飛び上がるようにしてその姿を現したのは1つの機体。
巨大な紅翼を翻しながら優雅に空を舞う、フェイトが嘗て戦ったことのある白い人型兵器と同一のフォルムの機体。
見た目こそ大きな違いは無いが、より有機的な物へと変わっている巨大な翼と以前とは比較にならない程の重圧。
フェイトの周囲を回る様にして飛行したその紅い人型機はフェイトと同じ高度の正面へと静かに降り立つ。
「ヒサシイナ、フェイト・テスタロッサ。コウシテマタアイマミエルコトニナルトハ」
「その音……あの海上で私と戦った……」
「イカニモ、アノトキヨリモ、サラニパワーアップシタ、ワタシノチカラ、イマノオマエゴトキニ、トメルコトハデキナイ」
挑発するかのように淡々と述べていく人型機を前にして、フェイトもバルディッシュを構え直す。
どの道この機体を倒さないことには六課に向かうことは出来ないであろうと判断。
敵が以前より更に強大であろうと、前と同じようにやられるわけにはいかないとフェイトは決意を新たにしていた。
「止める……あの女の……ベルリネッタの馬鹿げた研究は、私が全部止めてみせる!!」
「ヤレルモノナラヤッテミロ、アンジェロ・リジネ、イチゴウキ、カイ、アンジェロ・リナスガ、アイテヲシテヤル」
両腕と両翼を大袈裟に広げながら紅い機体――――もう1機のアンジェロシリーズ最新機、アンジェロ・リナスはそう宣言した。