狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第22話:傷だらけの六課、地上本部の闇

新暦75年、9月16日、地上本部公開意見陳述会とそれに伴ったスカリエッティ一味による地上本部施設並びに機動六課隊舎の襲撃から数日が経過したその日。

ミッドチルダ地上における管理局を取り巻く状況は未だに混乱の極みにあると言っていい状態だった。

新暦が始まって以来類を見ない規模、それも地上本部を直接狙ってのテロ行為というだけでもマスコミやその他機関には十分すぎるくらいのビッグニュース。

レジアス指揮下の地上部隊はただでさえ事態の収拾に頭を悩ませているのに、そういった対策にも人員を割かなくてはいけないことに胃を痛めるばかり。

 

「…………あの時、カティーナ・ベルリネッタが言っとったこと……」

 

その混乱の渦中、多くの瓦礫と無人兵器の鉄くずに塗れた地上本部施設の中を歩く年若い管理局員が1人。

機動六課部隊長である八神はやてもまた、この一連の事件に対して様々な感情を浮かべている。

外面はいつも通り管理局員の1人として厳格な態度で振る舞っているものの、内心ではその整理に必死だった。

彼女が率いる機動六課への被害もまた甚大極まりない物。

隊舎はほぼ全壊、職員の多くは重軽傷を負って聖王医療院へと搬送されている。

何より、中核を成す隊長、新人含めた多くの前線メンバーへの被害が特に大きかった。

今、まともに動けるのははやてと、ヴィータとフェイトの回収に当たったシグナムくらいである。

後のメンバーは規模の違いはあれど皆傷を負っている、全員峠は越したものの回復にはもう少し時間がかかるだろうとのこと。

寧ろ、あれだけの戦力を送り込まれて1人の死者も出ていないということが一つの奇跡に等しかったりする。

 

「ッ…………あの女に、まんまと踊らされていたっちゅーことか……! 私が何もできなかったのに……!」

 

可能であればはやてもすぐにでも戦場へと赴いてその力を発揮したかった。

しかし、彼女は機動六課という一部隊を預かる身であり、あの時は陳述会の為に集まっていた局員たちへの状況説明と万一の事態への備えの為にとても動ける状態ではなかったのだ。

その結果が現在、前線メンバーで唯一無事だったシグナムでさえ周辺の警戒や他負傷メンバーの救出などで活躍していたというのに、自分はほぼ何もしていないも同然。

ここに来て自分の立場故の柵に捕われてしまい、はやてにはそれが余計に悔しかったのである。

何より、死者が1人も出ていないという結果に対しても喜びと同時に一つの疑念が過っている。

言い方は悪いが、敵の戦力を考えれば六課のメンバーにトドメを刺すくらいわけない事だった筈だ。

それが起こっていないというのはつまり、自分たちはベルリネッタにわざと生かされたという証明にもなってしまう。

それも含めてはやての中の怒りの感情が段々と大きくなっていくばかり。

 

(…………アカン、今はこんなこと考えている場合やあらへん。今確認しておくべきは……)

 

それでも逆に、無事に動けるのが自分くらいしかいないのだから自分が動けない皆の分まで頑張らないといけない。

その思いの下で怒りにしっかり蓋をしたはやては地上本部施設内でその歩みを進めていく。

そして複数の管理局員を引き連れて方々に指示を飛ばしているある局員の前で立ち止まる。

 

「……お久しぶりです八神二佐、何か御用でも?」

 

メガネの奥に光る鋭い眼光ではやてを見やりながらきちっとした態度で敬礼を行うのは、地上本部トップであるレジアスの秘書にして実娘でもあるオーリス。

その威圧に負けじとはやても厳格な表情を崩さずに敬礼を返す。

 

「オーリス三佐、後程少しお時間を頂きたいのですが、早急にお伺いしたいことがあるので……」

「……今は予定が多分に詰まっていますので、それが片付いた後でしたら。時間と場所は後ほど連絡します」

「ありがとうございます」

 

それに対する返答は一切の感情を感じさせない冷たい機械的な声での内容。

それでも一応のアポを取って貰えたことに対してはやては礼を述べる。

そのまま2人はすれ違うようにしてそれぞれ反対の方向へと再び歩き始める。

 

(このタイミングで私に話を、となれば間違いなくあの件だろう……)

 

その最中でオーリスの頭に浮かぶのは、この一連の事件を引き起こした元凶である2人の科学者のこと。

レジアスの片腕としてこの一件の深い部分まで知っているオーリスもまた、表向きは冷静であれど内心では混乱のし通しであった。

自室であんなにも怒り狂ったレジアスの姿を目にするのは娘である彼女ですら初めてのことだったのである。

地上の平和に繋がるのならと敢えて黙認してきた闇の住人達とそこからもたらされる恩恵。

だが今回の事件が証明しているのは、それらを繋ぎ止めていた筈の鎖はとっくの昔に解かれてしまっていたということ。

そしてその鎖を握っているのが誰であったか、今し方話をしたはやてが感づいているだろうこともオーリスはわかっていた。

 

(……覚悟を、決めるべきなのかもしれないわね)

 

オーリス・ゲイズという管理局員もまた苦悩するレジアスの姿を誰よりも間近で見ており、地上世界の平和を強く願うその心は間違いなく本物である。

だからこそ、この事態を引き起こしてしまったという現実に何の感傷も抱いていないわけがない。ならば動くとするのなら今なのかもしれないと。

そんなことを考えながらオーリスは初めて父親のことを裏切ることになる、これからの自分の行動に対する罪悪感にキュッと胸が締め付けられるような感覚を覚えていた。

 

 

 

*

 

 

 

聖王医療院はその殆どの病室が埋まっている状態だった。

運び込まれているのはその全てが先日の襲撃によって被害を受けた機動六課のメンバーたち。

 

「ごめんなさっ……!! ごめん……な……さ……! 留守を預かって、たのに……!! それに……! ヴィヴィオのことまで……!」

「シャーリーの所為なんかじゃないよ……それに、あれだけの襲撃で誰1人死なせないで、よく頑張ってくれた」

「フェイトさんっ……! フェイトさん……うわああああああああ……!!」

 

嗚咽混じりでまともに声を発することもできないロングアーチスタッフのシャーリー。

機動六課隊舎という皆の帰る場所を守れなかったばかりか、ヴィヴィオまで攫われてしまったという現実。

その罪悪感にシャーリーは苦しめられていた。

それを抱き止めるフェイトもまた体中に包帯を巻いており、3日前までは意識不明の重傷だった。

たまたま近辺を警戒していたシグナムによって海中から引き上げられていなかったら大変なことになっていただろう。

 

「謝らなきゃいけないのは私たちの方だよ……みんなが必死で守ろうとしてくれていたのに、駆けつけることが出来なくて……」

「あんな化け物みたいな兵器……それにフェイトさんが戦っていたのだって前に出てきた機体の改良機……ベルリネッタはどこからあんな物を……」

「うん……私達の見積もりが甘かったのは否定できない。あの女の持っている兵器はこっちの想像を遥かに超えている」

 

同じくベッドから上半身を起こした状態でその時の恐怖を思い返すように話しているのはシャーリーと同じロングアーチスタッフのアルト・クラエッタ。

それに答える様にフェイトはモニターを展開し、先の事件で送り込まれたスカリエッティの戦闘機人とベルリネッタの新型兵器によるデータを表示していく。

特に目を引いたのが機動六課隊舎を直接的に壊滅させた要因となった白い怪鳥――アレスタルヴォーネと、フェイトを単独で完膚なきまでに叩きのめした紅翼の機体――アンジェロ・リナス。

 

「火力も装甲も今までのと比べ物にならない……あれだけの性能でみんなが生きていてくれたっていうのは本当に奇跡だよ」

「シャマル先生やザフィーラも頑張ってくれたのに……初撃の時点で完全に圧倒されてしまって……」

 

実際問題アルトが語るように、アレスタルヴォーネとオットーの一斉射による初撃を受けた段階で、六課隊舎の内部状態はほぼガタガタだったのだ。

それでもどうにか死者を出さずに持ち堪えることができたのは、今のフェイト達には認めたくないことだがベルリネッタの意志が介在していたこともあるが、

前線に出て防御に徹していたシャマルとザフィーラ、内部で救出作業に奔走していたヴァイスを始めとする武装局員たちによる活躍が大きかったのである。

 

「それで、ヴァイス陸曹は……」

「集中治療室で絶対安静状態です、峠は越したそうですが当分は……」

 

悲痛な面持ちのまま顔を俯かせるアルトから語られる内容は、フェイトの表情にも陰りを見せる物。

あの襲撃の際、率先して非戦闘員の護衛や避難誘導を行っていたのがヴァイスであった。

ヴァイスが真っ先に動いてくれたからこそ、自分たちは生きているような物なのだとアルトを始めとする多くの六課職員が思っている

だが、前に出て動いていたからこそそのヴァイスもまた、アレスタルヴォーネの無慈悲な爆撃に飲み込まれて重傷を負ってしまったのだ。

 

「……キャロにも感謝しないといけないね」

「はい……キャロが最後に呼び出してくれたヴォルテールの力添えが無かったら、今頃本当に……」

 

そしてそのアレスタルヴォーネを直接撃退できたのは、土壇場でキャロが召喚した召喚竜、ヴォルテールの力があったからこそ。

しかし、裏を返せばその切り札を切っても撃破には至らず海中に沈めて撃退させるところまでしかいかなかった。

調査員の結果報告でわかったことだが、沈んだ筈の海中からはアレスタルヴォーネの本体は愚か、破片の一つすらも見つかっていない。

あれだけの巨体が見つからないわけも無く、それが意味するのはつまりベルリネッタが既に回収を終えているということ。

回収された以上は、また敵として姿を現す可能性が高いということでもある。

 

「あの白い怪物もそうですけど……この人型機もですよ」

「……実際に戦ったからこそわかる。恐らくはリミッター解除状態でもそう簡単に倒されてくれるような相手じゃなかった」

「フ、フェイトさんがですか?」

 

そんなフェイトの自信なさげな言葉に驚くアルトであったが、同時にその顔に浮かぶ悔しさを見ればそれが事実なのだろうということも理解できてしまう

モニターに映るその紅翼の機体の放つ多量の閃光を前に何もできなかったということはフェイト自身が痛いほどにわかっているのだから。

敵の実力を見誤ったことから純粋な力不足までも含めて何もかもが自分の失態であると、フェイトは内心での自分に対する怒りを抑えることができない。

 

「……次は絶対に負けない。もうこれ以上、みんなをこんな目に遭わせるなんてごめんだから」

「フェイトさん……」

 

であるからこそフェイトはその怒りを強い意志の下で飲み込み、自分を打ち負かしたベルリネッタへのリベンジに闘志を燃やす。

あの女も、そしてそのすぐ側にいるスカリエッティも、これ以上野放しにしておけばまた自分たちの様な悲劇を生み出し続ける。

それだけはもうさせてはいけないのだという思いも込めて。

 

 

 

*

 

 

 

「……あまり無理はするなよ、お前も重傷だったのだからな」

「大丈夫よシグナム、ザフィーラのケガに比べたら私なんか全然……」

 

別の病室でそのようにやり取りをしていたのはシグナムとシャマルの2人。

ベッドから状態を起こした状態のシャマルにシグナムは気遣うようにして声をかけている。

シグナムの言うようにシャマルもまた他のメンバーと比べたら軽いと言うだけでかなりのダメージを負っていたのだから。

 

「あの時、ザフィーラが身を挺して乗り出したのは……」

「敵に対して一矢報いんが為、か……それでも、今回に限っては相手が相手だった」

 

シグナムとシャマルの視線の先にいるのは、体中に包帯を巻かれて管を通された未だに意識の戻らないザフィーラだ。

アレスタルヴォーネに向かっての決死の特攻とその失敗、捕縛された状態での戦闘機人、ディードによる凶刃に体を斬り裂かれたばかりか

その後のアレスタルヴォーネの更なる追撃によるダメージを食らい、総合して負った傷は今回のメンバーの中でも特に深刻な物だと言える。

 

「さっきマリーさんから連絡を受けたの、リインちゃんの方は今日中には目を覚ますだろうって」

「そうか……ヴィータが無事だったのもアイツがいてくれたところが大きいからな。そのことにも感謝せねば」

 

次いで話題に挙がるのはこの場にいない守護騎士メンバーであるリインとヴィータのこと。

ヴィータとユニゾンした状態で敵の直撃をモロに受けてしまったリインもまた数日前まで生死の境を彷徨っていた。

フェイトと同様、シグナムの発見が早かったから最悪の事態には至らなかったのだが。

そのリインの治療の為に尽力してくれているマリーに対しても、シグナムとシャマルは感謝してもしきれなかった。

 

「ただ、ヴィータちゃんの方は…………」

「状況が状況だったからな……あの女、よりにもよってヴィータを狙ってきていたとは……」

 

沈んだ表情を浮かべるシャマルとは対照的にシグナムの顔にはっきりと浮かんでいるのは怒りの感情。

リインがダメージのいくらかを肩代わりしてくれたとはいえ、ヴィータも同じように危険な状態にあったのだ。

幸いにも傷の方は半分以上回復を終えており、今は別の個室で治療を受けている状態である。

では何故ヴィータだけ別室なのかと言えば、シグナムの怒りの矛先となっているベルリネッタの行動によるところが大きい。

 

「あんな思い詰めた顔してるヴィータちゃん、本当に久しぶりだったから……それこそ、前になのはちゃんが落とされた時以来かも……」

「私が行った時も、しばらく1人にしてくれの一点張りだったからな……無理も無い、あんなことがあった後では」

 

肉体のダメージについては大丈夫だったのだが、問題となっていたのは精神面の方なのだ。

救出の為に駆け付けたシグナムを通じて、あの時ヴィータの身に何があったのかはシャマルも知っている。

戦場全体をわざと見せびらかし、六課隊員達の惨状を映し出しての挑発からの不意打ち。

管理局員という括りで見れば冷静さを欠いた失態とも言える行動という厳しい評価が下されるかもしれないが、

それでもシグナムとシャマルからすれば同じ騎士として、はやてと共に過ごしてきた家族として今のヴィータの苦しさが痛いほどわかる。

8年前の時もそうだった、自分がなのはのことを、大切な仲間を守ることができなかったという己の無力さを誰よりも悔いていたのだから。

その後の管理局での活躍も、六課に配属されてからもそう、ティアナとの騒動の際にも語っていたこと。

仲間を守るということとそれに駆ける重いと熱意は六課の誰よりも大きいと言っていいのがヴィータだ。

そのヴィータに仲間を守れないということをまるで楽しむように見せつけていたベルリネッタの行動……

ヴィータがどれだけの屈辱と悔しさを味わったか、シグナムとシャマルは想像するだけでも苦々しい思いになる。

 

「ヴィータちゃん……大丈夫かしら……」

「今のアイツに中途半端な慰めは逆効果にしかならん……寧ろ恥じるべきは私の方だ、仲間の危機を前に私だけがこうしてのうのうと……」

「そ、そんなこと言わないでよシグナム。貴方がいてくれたからフェイトちゃんもヴィータちゃんも無事だったようなものなんだから」

「……そうだとしても、私は自分で自分が許せんのだ」

 

同じ守護騎士たちがボロボロになりながら必死で戦っていた、だというのにその将たる自分だけがその渦中にいなかった。

シャマルの慰めの言葉に素直に感謝しながらも、シグナムの中にはそれ以上の悔しさが渦巻いていたのだった。

 

 

 

*

 

 

 

更に別の病室、そこに集っていたのは4人、機動六課新人フォワードメンバー。

 

「差し入れ、買ってきたわ。といってもまだ満足に物も食べれないだろうけど……」

「い、いえ……そんな……」

「ありがとティア」

 

やはり他の多くの六課メンバーと同じように体中に包帯やら絆創膏やらを貼り付けて部屋へと戻ってきたのは

缶ジュースやら軽食やらの入ったビニール袋を片手に現れたティアナである。

そのティアナに対する反応も様々で、キャロは遠慮しがちな態度でそれを受け取り、スバルは覇気の無い表情で俯きながら答えるのみ。

 

「でも本当に良かったです……スバルさんやティアナさんが無事ていてくれて」

「その点に関してはアンタたちも同じよ……尤も、私の方は素直には喜べないんだけどね」

 

エリオの言葉に返答するティアナの表情もまたどこか陰りを帯びている。

4人の中では比較的マシな状態にあるティアナが助かったのも、やはりベルリネッタの気まぐれによるものだということをティアナ自身もわかっている。

あの時振るわれた漆黒の機体、ルチフェロ・フィーネの刃の一撃はティアナの体を軽々と吹き飛ばして壁へと激突。

しかし、攻撃はそれで終わり、容易に追撃して命を奪える状態だったのに敵は敢えてそれをしなかった。

生きているに越した以上のことは無いが、それでもティアナはその屈辱的とも言える状況を思い返しては複雑な気持ちになっている。

エリオとキャロもまたアレスタルヴォーネとの激闘によって身体各所にダメージを負っていたし、エリオの右腕には未だにギプスが装着されている。

 

「……左腕の方、まだ完全じゃないみたいね」

「千切れた腕が回収できたから接合に関しては問題なかったけど……それでもケーブルごといっちゃってたからまだ……」

 

そして4人の中で最も傷が大きかったのがスバルである。

怒りに駆られるままの暴走によるダメージの蓄積に、最後のセインの攻撃による左腕の欠損。

如何に医療技術の発達しているミッドチルダと言えど常人ならかなりの危険状態だったのだが、

スバルの場合は彼女自身が戦闘機人ということもあり、治療と言うよりは最早修理と呼ぶに近い状態だった。

左腕はギプスで固定され絶対安静を厳命されていたものの、それでも回復の見込みは確実であるとのこと。

 

「エリオとキャロにはどこまで?」

「私とギン姉の生まれから、一通りの部分は……」

「そう……今まで隠していて、ごめんね。こんな話題なもんだから私から伏せておくように言っておいたの」

「そ、そんな、僕たちは別に……それくらいのこと、本当に全然気にしていませんから」

「スバルさんの体がどうであろうと、スバルさんはスバルさんです」

「……うん、エリオもキャロもありがとう」

 

六課内でも極々一部の者しか知らず、同じフォワードメンバーにすら伏せられていたこと。

即ちスバルは普通の人間ではない。スカリエッティの保有する戦力である戦闘機人であるということ。

意図せぬ形とはいえそれが露呈したことに対してティアナが謝罪を述べていたが、エリオもキャロも全く気にした様子は無い。

元より、2人の方も人に話せない複雑な過去を色々と抱えているというのもあったが、

キャロが自分で言ったように抱える内情がどうであれ、スバルは自分たちと共に暮らし戦ってきた仲間であることに何ら変わりは無いのだと。

それはもう一つ、スカリエッティの下にいる戦闘機人とスバルは違うのだという確かな言葉でもある。

そんなエリオとキャロの温かな気持ちに触れ、スバルもようやく笑顔を取り戻していた。

 

「そういえばティア、なのはさんは……」

「傷の方は問題ないけど、それでもまだ現場に復帰できるような状態でも無いって……それになのは隊長は」

「ヴィヴィオのこと、ですか……」

「ごめんなさい……私とエリオ君で、助けてあげられれば、良かったのに……」

 

そして4人の話題に挙がったのがなのはのこととヴィヴィオのこと。

特にヴィヴィオについてはギンガと同様に今回の事件でスカリエッティ一味にその身柄を確保された人物の1人。

そのことに直前で気付きながら救出が間に合わなかったエリオとキャロもそのことを強く悔いている。

何より、機動六課内におけるヴィヴィオとなのはの仲の良さを知っているだけにそれが余計に4人を心苦しい思いにさせる。

ティアナが見てきた限り、なのはもまた表面上はいつも通りに振る舞って見せていたが、

それでもヴィヴィオが攫われたことに対する悲しみを隠しきれないような不安定な状態だったことは一目でわかるほどだったのだから。

 

「ヴィヴィオ、無事だといいんだけど……」

「連中がヴィヴィオだけ拉致していったということは何か意味があるんだから、命まで奪わない……そう願うしかないわ」

 

そのように呟くスバルとティアナに、エリオとキャロもまたヴィヴィオが無事であることを祈るばかりであった。

 

 

 

*

 

 

 

時間は流れて夕暮れ時、オレンジ色の光が差し込む地上本部施設の一室で相対するのははやてとオーリス。

互いに座って向かい合い、浮かべる表情は一切の隙も見せることない極めて硬い物。

それだけ互いにこの場で行われる話が真剣な内容であることを理解しているのである。

 

「戦闘機人、人造魔導師、そのどちらもが嘗てレジアス中将が本格運用を目指して開発を進めていた物です」

「また随分と昔の話を持ち出すのですね、貴方は」

 

口では一切の余裕を崩さないが、オーリスの内心ではやはりかと呟いていた。

スカリエッティが先の地上本部襲撃において送り込んできた戦力である戦闘機人。

独自調査を進めていたヴェロッサからのデータも合わせて、それと同じ物を嘗て地上本部でも運用しようと計画されていたことへの言及。

 

「倫理問題とコストを解決すれば安定した戦力を確保できる代物として理想的な計画……レジアス中将はそれをどこかで極秘裏に再開していませんでしたか?」

 

その計画とスカリエッティとに何の繋がりも無いと言い切ってしまうのは容易い事ではある。

だが、はやてが言ったように戦闘機人は倫理やコストも含めて多くの問題を抱えて頓挫した計画。

それをわざわざ使用とするのはよほど頭の吹っ飛んだ、それこそスカリエッティのような人物でもない限りありえないこと。

そのスカリエッティの裏にあるであろう存在……稀代の次元犯罪者がどうしてあれだけの数の戦闘機人を生み出し、実戦投入できるだけの時間、環境、資金を揃えられたのか。

となれば、その全てを満たすことのできる組織とそれを動かせる権力者ともなれば数は限られてくる。

そこまで至れば子供でもわかってくる両者のつながりに対する疑惑……それをはやてはオーリスに問い詰めていた。

 

「その依頼先としてスカリエッティは打ってつけの存在……タイミングを見計らって地上本部で摘発、試験運用の形に持っていけば、戦闘機人も人造魔導師も将来的に公的な戦力として運用できる土壌を作るキッカケになるし、その間に知られたくない情報を知ってしまった管理局員を闇に葬ることもできた筈……」

「…………」

「それだけじゃありません。地上本部で開発、運用が進められているチギャーレやアインへリアルといった防衛兵器……それとベルリネッタの用いている違法兵器との共通性も見られます」

 

一切の言葉を発することないオーリスに対するはやての追及は止まらない。

スカリエッティだけではない。ベルリネッタもまた違う形で地上本部と繋がりがあり、レジアスに手を貸していたのではないかということ。

スカリエッティと戦闘機人のこと以上に憶測混じりの情報でしかないが、それでもはやてはそれを問わずにはいられなかった。

元より黒い噂が絶えず、地上世界の防衛の為に形振り構わない手段を取り続けていたのがレジアス・ゲイズという管理局員。

ヴェロッサから送られてきた最新式の地上防衛兵器とベルリネッタの違法兵器群の僅かな共通性。

2人の科学者が協力関係にあるということがはっきりと露呈した現段階だからこそ、レジアスとの繋がりに対する疑惑もより大きな物となる。

機動六課の部隊長としてはやては、自分に出来る形のアプローチで少しでも情報を引き出そうとしていた。

 

「スカリエッティとベルリネッタ……彼らは違法研究者でなければ間違いなく歴史に名を残せる天才です。であるなら、その彼らの持つ力を地上防衛の為の力として接収しようと画策して――――」

「根拠の全く無い戯言はそれくらいにしてほしいものです」

 

が、ヒートアップしていくはやての言葉を切り捨てるかのようにオーリスは冷暖な言葉を投げかける。

例えそれらの疑惑が事実だとして、それをはいそうですなどと馬鹿正直に話す人間などどこにもおるまい。

現に、はやての行った指摘はどれもが物的証拠の存在しないただの推論と切り捨てることのできるのものでしかない。

それをまともに受け取って返答することなどオーリスはしない。

 

「オーリス三佐個人のご意見を伺いたいだけです」

「それが仮に事実として、私が答えることに何の意味が? それに貴方がそのようなことを言える立場にあると? 自らの命惜しさに騎士たちに犯罪行為を犯させ数多の命を弄んだ、ロストロギア、闇の書の主である貴方が」

 

まるではぐらかすかのようにはやてを言葉のナイフで斬り刻もうとするオーリス。

管理局内でも一握りの人間だけが知る、一般的には秘匿されている闇の書事件の真実。

それを知る管理局員の多くははやてやその家族である守護騎士たちのことを快く思っていない。

10年という短い年月で二佐という地位にまで登り詰めたことができたのは、当然ながらはやて自身の懸命な努力によるところが大きい。

だがそれでも、その源となっている闇の書のもたらす莫大な魔力があればこそという事実もまた否定できない。

故に、何のお咎めも無く管理局の高位に座り甘い汁を啜っている元犯罪者の小娘と、レジアスを始めとしてはやてのことをそのように罵倒する人間も未だに少なくない。

オーリスもオーリスでレジアスの側にいることが多いという影響から、はやて個人にあまり良い感情を抱いていなかった。

 

「……自分と闇の書の罪、それを否定するつもりも逃げるつもりもありません。どのような声であろうと受け止める覚悟があったから私はここにいるんです」

「口ではどうとでも言えます、地位にしがみ付きあらぬ妄想で地上の正義を罵倒する、今の貴方にそのような覚悟があると?」

「多くの命を奪ってきたからこそ、それ以上の命を守るために隠された真実を明るみにしたいんです」

「………………」

「スカリエッティやベルリネッタの様な危険人物が相手なら尚のことです。彼らがどのような被害をもたらすかは、オーリス三佐にもよくわかっていることでしょう? そしてそれが地上世界の平和にどう影響するかも」

「ッ…………」

 

地上世界の平和、その単語はオーリスにとって最も重要な意味を持つ物で、はやてのような人間には決して口にしてもらいたくない物。

だが、はやてもまた地上だけでなく多くの次元世界の安定の為に力を尽くしている。

それが自分と守護騎士たちが今まで積み重ねてきた罪に対する贖罪であるという強い決意があるから。

 

「……隠された真実を明るみに出すことが、必ずしも正しい事とは限らないのですよ?」

「……都合の悪い事実を闇に葬ってうやむやにする、そんなこと私の管理局員としての信条が許せません」

「…………いいでしょう、貴方がそこまで言うのなら」

 

その決意が本物であるということを薄々とではあるが感じ取っていたからこそ、オーリスもその行動に踏み切ることができたのかもしれない。

元より裏切られて手酷いダメージを負った以上、手段を選んでいる段階ではないということもあってのことだが。

ならば、自分や父親の嫌う本局の小娘の力であろうと大いに利用してやろうではないか。

その前にはやての持つ決意を確実に見極めるための前段階として、オーリスは懐からペンと紙を取り出して手早く文字を書いていく。

 

「中将が地上の平和を守るために身を砕いてきた40年……その為に積み重ねてきた全て、地上と本局が持つ闇の全て……それを知り、それでも尚立ち止まることなく前に進む覚悟があるというのなら、その紙に指定された時刻と場所に来てください……そこで全てをお話しします」

「…………はい、ありがとうございます」

 

それで話はすべて終わりだと言わんばかりにオーリスは立ち上がり、儀礼的に敬礼を行ってからさっさと部屋を出て行ってしまう。

表向きは最後まで表情を崩さなかったはやてではあるが、それでもオーリスのその行動は完全な想定外であり内心かなり動揺もしていた。

 

(…………虎穴に入らずんば虎児を得ずやな……ここで退くわけにはあかん)

 

オーリスの意図が何であれ、自分にあのような言葉まで言ってこの紙を渡してきた以上、レジアスとスカリエッティについての重要な情報が語られる可能性は非常に高い。

その為に敢えて身を危険に晒す覚悟など、今のはやてには何てことないことであった。

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