狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第24話:鉄槌と弾丸、闇の全て、閃光と烈火と

月下の下で相対するは2人の少女。

ヴィータが振り向いた先にいたのはティアナ、そこに浮かぶ表情に好意的な感情は含まれていない。

 

「もう一度尋ねますヴィータ副隊長、一体何をしようとしていたんですか?」

「ティアナ…………」

 

ティアナがヴィータの姿を見かけたのは率直に言えば全くの偶然である。

たまたま病室から出て廊下を歩いていた際に窓の外に見えた小さな人影。その正体がヴィータであることに気付くのにそう時間はかからなかった。

ティアナもまた今のヴィータの精神状態に関しては十分に知っていたし、そのヴィータがこんな時間に1人で外に出てどこかへ行こうとしている。

それだけでもう自然と体は動いていた、今のヴィータを放っておくのは危険であると。

そして口で言っておきながら、ティアナはヴィータが何をしようと、正確に言えば何をしたがっているかなど大方察しがついている。

 

「……あいつらを、潰しに行く、そしてヴィヴィオとギンガを取り返す……そんだけだ」

「ッ…………」

 

一言一言を噛み締める様にして漏れ出すヴィータの声にティアナの心を通り抜けるのは底知れない恐怖。

ほんの少し口を開いただけで背筋を駆け抜けるこの言いようのないゾクリとする感覚はどこから生まれてくると言うのか。

機動六課の仲間として、同じスターズ分隊として肩を並べて戦う戦友として、自分の力を認め鍛えてくれる頼もしい教官として、

そのどれとも違う異質としか言えない何かをティアナは今のヴィータから感じていた。

 

「八神部隊長やなのは隊長に、何も言わずにですか? 単なる独断専行、暴走でしかないですよ」

「知ったことか、あんだけのことをしでかした奴らは、一秒でも早く、潰さないといけねーだろうが」

「そもそも、敵の居場所はわかっているんですか? 闇雲に動いたところで……」

「関係ねーよ、虱潰しに探し出して全部壊していくだけだ」

 

その恐怖に押し潰されないよう、ティアナは平静を必死に保ちながらも管理局員としての疑問をヴィータに投げかける。

それに対するヴィータの返答もまた支離滅裂極まりない物、管理局員としての、それどころか人としての一般的な常識さえ欠ける内容でしかない。

周りの意志は無関係、敵がどこにいるかもわからない、なのに誰にも何も言わずに飛び出そうとしている。

今時、分別のつかない子供ですらこんな馬鹿げたことなどやろうとはしないだろう。

それは裏を返せば、その馬鹿の極みを躊躇なく実行しようとしている程、今のヴィータは"まともではない"ということの証。

 

「……なら、このまま黙って行かせるわけにはいきません」

 

故に、このままヴィータを先に進ませることは機動六課全体にとっても、彼女自身にとっても何の益も生み出さない無謀な行為でしかない。

足早にティアナは聖王医療院とその先の道を繋ぐ橋の前に駆け出し、両手を広げてヴィータの行く道を阻まんとする。

正直言ってしまえば、今のヴィータを真正面から見据えることでさえ、ティアナにとっては相当なプレッシャーを感じている。

でも、ここで引くことは新たな悲劇を生むだけ、故に何があっても通すわけにはいかない、その一心がティアナの心を支えていた。

 

「どけ、ティアナ。あたしは本気だ、おめーに何を言われようとあたしは先に行く」

「私も本気です。ヴィータ副隊長がやろうとしていることは……あの時の私と同じです、そんな馬鹿なことを見過ごすわけにはいきません」

「……どかねーってんなら、力尽くだぞ」

「やってみてください、私も絶対に退く気はありませんから」

 

両目に宿るのは修羅の如き憎しみの炎、その激しさを更に強めながらヴィータが纏うのは紅い騎士甲冑。

一方で、両手を広げたまま微動だにしないままのティアナは管理局の制服のまま。デバイスもバリアジャケットも展開しようとしない。

退く気は無いと自信満々に言っておきながらこの有様、それがヴィータの心を余計に揺さぶっていく。

 

「ふざけてんのか? あたしの魔法を丸腰で受ける気か? ……ケガだけじゃ済ませられねえんだぞ……!!」

「言ったはずです、私は一歩も退かないと。ヴィータ副隊長がどうしようと、私は貴方を絶対に止めます」

「ッ……!! お前は悔しくないのかよティアナ!! 六課があんなにされちまって、ギンガやヴィヴィオまでアイツらに攫われちまって……!! それで、いつまでもこんな場所でウダウダ時間を潰してろってのかよッ!!」

 

グラーフアイゼンを突きつけて怒声を飛ばしても尚も動くことないティアナの意志と体。

元よりまともな思考などないに等しい状態であったとはいえ、その光景がヴィータの思考を益々ぐちゃぐちゃに掻き回していくことになる。

ティアナにしたって聖王医療院中に響き渡らんばかりのヴィータの声と放たれる強烈なプレッシャーに息が詰まりそうな思いであった。

だが、それでも全く動じることが無かったその理由。ティアナもまたヴィータと同じ悲しみを抱えているということと、ヴィータの心の奥底にある心情を心の底から信じているからこそ。

 

「例えそれが事実だったとしても、今の副隊長がやろうとしていることは無意味でしかありません」

「無意味なんかじゃねえ!! あの2人を叩き潰して奪われたもんを全部取り返すッッ!! それの何が悪いってんだよ!! こうして何もしないことの方がよっぽど無意味だろうが!!」

 

止まることなく溢れ出るヴィータの言葉が震えていること、彼女の両目には大粒の涙が溜まっていたことはティアナにもすぐにわかる。

本来ならこんな無意味な問答などしていないで、さっさとティアナをグラーフアイゼンで吹き飛ばすなりして先へ進めばいいだけのこと。

もっと言えばティアナに追いつかれない速度で飛ぶなりしてこの場を離脱してしまえばいい。

ヴィータ自身が口にした目的を行動に移すだけならこれだけの選択肢が用意されているというのに、ヴィータがしているのは目の前のティアナに怒声を飛ばすことだけ。

相対するティアナからすればその事実だけでも今のヴィータの本当の心境がわかり、自分が信じている一点に確信が持てる。

 

「それだけ言うなら来てください。私を打ち倒してそれを証明してみせてください。今の丸腰の私も倒せない副隊長に、それができるはずがない」

 

故にティアナもまた覚悟を決め、敢えてヴィータを挑発するようにそんな言葉を冷たく投げかける。

この後に自分の身がどうなろうと……いや、どうなるかなどわかりきっている。

自分の知っているヴィータという人物なら絶対に自分の思う通りのことをしてくるとティアナはそう考えていた。

 

「ッッッ!!! うわああああああああああッッッッ!!!」

 

瞬間、その言葉に弾かれるようにしてヴィータはグラーフアイゼンのカートリッジをロード。

爆発的に高まった魔力と共にそれを振り上げ、地獄の悪鬼の如く吠えながら一直線にティアナに突進していく。

それを見ても尚、ティアナは一歩も動くことも退くことすらもせず、しっかりと両目を見開いて迫りくるヴィータの姿を捉えていた。

 

 

 

ドゴォオオオオンッッ!!!!

 

 

 

聖王医療院の建物を含め、辺り一帯の大地を揺るがさんばかりの衝撃と共に振り下ろされたその一撃。

粉々に砕け散る地面と多数の破片、その衝撃と煙の先にいたのは息を荒げてグラーフアイゼンを握るヴィータと、

 

「…………何で……ッだよ……ティアナ……!!」

「……私は信じてますから、私の知っているヴィータ副隊長は、絶対に無意味に仲間を傷つけるような人じゃないって」

 

自分のほんの数ミリ横に叩き落とされたグラーフアイゼンの一撃。

それにすら回避も防御もせず、衝撃と破片で癒えてない傷の上に新しい傷を作っても尚、微動だにしなかったティアナの姿。

自分が周りを顧みず暴走した時に教えてくれたなのはの過去とヴィータの本心。

それを知っていたからこそティアナは、どんなことがあろうと決してヴィータは自分を攻撃しない、できないとそう思っていたのだ。

その確信が現実となり、ティアナの目の前で膝を着くヴィータには先程までの怒りも威圧感もどこにも無かった。

あるのは見た目相応の少女の様に涙を流して体を震わせるヴィータがいるだけ。

そんなヴィータに対してティアナは傷だらけの体でありながら、妹をあやす姉の様に優しい微笑みを向けていた。

 

「……わかって、たんだよ……ッ……!! あたしにだって、こんなことしてもなんにもなんねーって……ッ……!!」

「ヴィータ副隊長……」

「でも……なのはが泣いてんの見て……ッ!! どうしようもないくらいに、頭ん中がメチャクチャで……!! 1人でいると余計……苦しくて……ッ……!!」

 

膝を着いた格好のまま嗚咽と共にヴィータが吐き出していくのは膨大な怒りの奥底に沈められていた傷だらけの自分の本心。

あの襲撃事件の際にベルリネッタによって見せつけられた仲間の危機、それに錯乱して自分もまた不意打ちによって撃墜されたという現実。

目を覚ました時には全てが手遅れ、守るべきはずだった仲間も機動六課と言う居場所もその全てがスカリエッティとベルリネッタによって蹂躙された後。

8年前に誓った筈の自分の中での不変の決意、それを何も果たせていないということはヴィータにとって計り知れない心のダメージとなっていた。

聖王医療院での療養中も頭に浮かぶのは悲しみに暮れる仲間の姿と、この場にいないギンガやヴィヴィオのこと。

今の自分は何を言い出すかわからないからと、仲間に当たり散らさないために敢えて病室を別にして1人で必死に心を抑えようとしていた。

だがそれが却って逆効果になってしまった、1人でいればいる程、ヴィータの心の中を支配していくのはまた何も守れなかったという無力感だけ。

その感情に苦しめられていた矢先に目にしてしまったのが、ヴィヴィオを失い涙を流すなのはとそれを抱き止めるフェイトの姿。

その瞬間に自分の心に今まで以上に大きな傷が刻まれるのを感じて、後はもう感情に駆られるままに外へと出てしまっていたのだ。

 

「だってのに……ッ……!! 止めに来てくれたお前まで傷つけようとして……ッ……!! あたし……は……ッ……!!」

「……大丈夫です、大丈夫ですから。ヴィータ副隊長は、ちゃんと直前で思い留まってくれたんですから」

 

遂には守るべき仲間まで怒りのままに傷つけようとしたという情けないにも程がある愚行。

ティアナの慰めもまたヴィータにとっては自分を庇っているかのようで余計に心苦しかった。

 

「それに……何もかも終わったわけなんか、ないじゃないですか」

「だっ……て……機動六課は……アイツらは……ッ……!!」

「みんな、みんな確かに傷つきました。でも、誰1人として死んでいません、失われていません。ギンガさんやヴィヴィオだって死んだと決まったわけじゃない。まだ、みんな生きているんですから」

「…………あ……」

 

慈愛に満ちた笑みを浮かべたまま、泣きじゃくるヴィータの小さな体をティアナはそっと抱きしめる。

こんな小さな体にたくさんの想いを詰めて、苦しいことも悲しいことも全部飲み込んで、自分やスバルや他の多くの仲間を守ろうと必死に頑張ってくれていた。

ヴィータという1人の少女に対する多くの感謝の気持ちを込めながら。

 

「大事な物を守れなくて、奪われて……それが悔しいのは私も、なのは隊ちょ……なのはさんたちも、他のみんなも同じです。だから今度は絶対失敗しない……これから全部取り返せばいいんです」

「ティア……ナ……」

「奪われた物をみんな取り返して、全てを守りきる……それはヴィータさんも同じです。だって、ヴィータさんも……大切な仲間の1人なんですから」

 

ティアナは抱き止める両手を背中へと回し、震えるヴィータの頭を優しく擦っていく。

彼女が自分で言ったように、先の襲撃によって心も体も傷ついているのは皆が同じことであり、だからこそもうこれ以上何も失ってはいけない。

そしてヴィータをあのまま行かせてしまうということは、今度は本当の意味で仲間を失ってしまうということであり、そこから生まれるのは六課に対する更なる悲しみ。

それをわかっているからティアナはヴィータを何としても止めなくてはいけなかった。

ヴィータはティアナの胸の中でそれを今わかったからこそ、自分の愚かさを恥じ、自分を仲間と呼んで全力で止めてくれたティアナの優しさで心に落ち着きを取り戻していた。

 

「……すま……ね、え……ッ……ティアナ……もう少し……このま、ま……ッ……」

「泣きたい時は、いつだって泣いてもいいんです……今まで必死に我慢してきたんですから……私の胸くらいでよければ、いつでもお貸ししますから……」

「ッ……うあっ……う……うああ……うああああああああああ……!!」

 

ティアナに抱かれる形のままヴィータは溢れ出る涙を悲しみと共に全部吐き出していく。

傷つけられてどうしようもないくらいにボロボロになった心、それを癒してくれたティアナの中で、ただ只管に。

ティアナは子供の様に泣き続けるヴィータのことを離すことなくずっと抱きしめ続けていた。

 

 

 

*

 

 

 

「これ……は……」

 

眼前へと付きつけられた全ての真実、それが全て本当のことなのかはわからないが、それでも嘘は混じっていないのだろう。

地上本部の極秘情報書庫、部屋全体を埋め尽くさんばかりのモニターに囲まれる中で、はやては完全に硬直してしまっていた。

機動六課の隊長として毅然とした態度で振る舞い、管理局本局と地上本部の対立を憂い、自分に出来ることをしていこうと奔走してきた日々。

しかし、はやての知ったオーリスとラルヴァの見せた情報の全ては、そんな彼女の中の何かを粉々に打ち砕くようで……

 

「ご理解頂けましたか八神二佐? 我々は何も地上の意志だけで動いて……いや、動かされていたわけではないということを。これは本局の中枢でさえ望んでいたことだといことを」

 

狼狽えるはやてをその鋭い眼光で突き刺しながらオーリスは容赦のない言葉を浴びせていく。

その心の奥底にはこんな状況下だというのに、一種の、どこか勝利したという感じの想いさえあるほどだったりする。

だが今のオーリスにとってそんな個人的感情はどうでもいいこと。

重要なのは父親に反逆してまでこの秘密の全てを明かし、その上で憎むべき相手を利用するためにその真意を問うこと。

 

「中将が地上の平和の為にその身を捧げてきた40年……優秀な戦力はその大半が本局へと引き抜かれ続け、時には失態さえも擦り付けられ……それでも尚その現状を変えるべく力を蓄え続けてきたのです……親友である、ゼスト・グランガイツ空尉と共に」

 

本局と地上の対立構造、その概要と深い情報ははやてにだってわかっていたこと。

だがそれでも、より高い地位にいたということや、30年という長すぎる時間差ではその情報量には圧倒的に差が出てくる。

少ない戦力の中で思考を凝らし、時には責任を押し付けられ、幾度となく過剰戦力であるという罵倒に耐え続け、それでも前に進み続けていたレジアスの全て。

表も裏も含めてその歩んできた道は、はやてにとってさえ今までの強硬派の危険人物という認識を覆されるだけの内容であった。

 

「その功績が認められ……それでも尚、本局との戦力差が埋まらず、それどころか成果を挙げているにも拘らず中将を……父さんを危険視する本局の声が強まっていく中で手を差し伸べてきたのは……」

「管理局最高評議会と……彼らの下にいたスカリエッティとベルリネッタ……」

 

オーリスの言葉を引き継ぎながら続けるはやてにとって最大級の衝撃だったのが、モニターの1つに映し出される2人の科学者の姿とそのバックの存在。

はやてにとっても地上本部と最高評議会に太いパイプがあることはヴェロッサ経由で知っていたし、今回の事件で地上本部とスカリエッティ一味に関わりがあるという疑惑も持っていた。

だが、よりにもよってその三者を繋いでいた更なる関係……スカリエッティ一味は管理局最高評議会の意志の下で地上本部に協力していたということ。

 

「慢性的な戦力不足に悩まされ続けていた我々地上本部にとって……ベルリネッタの供給する防衛兵器群はこの上ないくらいの戦果を挙げていたのです……そして先に貴方が言ったように、本来ならばスカリエッティの開発していた戦闘機人も取り込める筈だった」

「…………そしてその計画を実行に移す前に、彼らは反逆してきた……オーリス三佐やレジアス中将の、評議会の意志を裏切ってまで」

 

先日の会合でのはやての指摘は何も間違ってはいなかった、故にオーリスも今度はそれを隠すことも否定することも無く全てを明かしていく。

人員も戦力も何もかもが足りない中、もたらされたのが少ない整備と予算で優秀な力を発揮するベルリネッタの無人兵器。

地上本部に与えられたそれらが本来の彼女の作品を遥かに下回る劣化コピーであったとはいえ、それでも現行の技術を遥かに凌駕する優秀な物。

それらがもたらす地上防衛という確かな結果は、地上本部にとって最早なくてはならない程の価値を持つようにさえなっていたのだ。

そんな裏の力にさえ頼って尚、解決することない戦力不足を更に解消する手段として進めていたプランがスカリエッティの持つ戦闘機人の接収。

倫理とコストを解決し、人命を失うことない確実な技術が熟したそのタイミングを狙って地上本部の力としてしまえば、それだけで一気に地上の平和のための戦力は潤うことになる。

だが結果ははやてもオーリスも知っての通り、それを実行に移す遥か前に、2人の科学者は反旗を翻したのである。

 

「我々が悪しき力に手を染め、裏で多くの犠牲を強いていた事実を否定するつもりはありません。ですが八神二佐、貴方に分かりますか? そのような力に頼らなくては……頼ってさえ尚、地上の平和を守るために力は足りないのだというどうしようもない現実を」

「それを……本局の最高位である、評議会も満場一致で認めていた……その事実を含めて、ですか……?」

「その通りです。彼らを制御できていたのも評議会が見出し、鎖を付けていたからこそ。ですが彼らは評議会の思惑すら超え、過剰な力を付けて反逆を開始した……私たちにとってもこれは予想外の事態でしか無いのです」

「…………衝突の裏で進められていた計画、私のやろうとしていたこと……」

「機動六課という存在は確かに、地上の平和を最優先で守るという意味ではこの上ないほどの物です……ですが、父さんには耐えられなかったのでしょう。自分たちが裏の力に手を染めてまでそれでも尚成し遂げられない苦痛の中、同じ闇を抱える貴方が権力の下で堂々と力を振るっているその様を」

 

ピッと指を指して指摘するオーリスの言葉にはやては何も返すことができない。

カリムの予言があったからこそでもあるが、その予言を嫌うと同時に過剰な介入を嫌う地上の強固な態度の所為で小回りが利かなくなってしまう地上で自由に動ける部隊が欲しかったから。

当然、地上本部と元凶であるスカリエッティ一味と手を組んでいたという確かな事実を許すつもりは無い。

が、そこに至るまでの背景、本局と地上の闇、その全てを知った後では単に頭ごなしにそんなことを言って済む問題ではないということをはやてはわかってしまった。

それこそ、レジアスやオーリスが管理局に勤める以前から広がり続けていた巨大な闇、それに対する認識が甘すぎだったということ。

巨大な権力を振りかざしての部隊の設立という、はやてが自身が嫌い、いずれ変えていかなくてはという裏技を使ってまで対処に当たろうとした一連の事件。

その裏にいたのが自分たちの組織のトップに近い存在とあっては流石のはやても頭が痛い。

 

「この事件は……管理局自身のツケが呼び起こしたもの……」

「暴論で行けばそうなるのでしょうね。私達地上本部は被害者であると同時に加害者、単に白黒つけられるような単純な構造ではないということです」

 

地上も本局も巻き込んだ壮大な内ゲバ。最高評議会という高位の存在が用意したスカリエッティとベルリネッタ。

地上を介在して操ってきて、裏切られ、地上もまた彼らを利用しようとして最高評議会に踊らされて……

目の前に突き付けられた全てのその現実は、はやての心を大きく揺さぶっていく。

 

「最初に他言無用と言いましたが、それは貴方自身の立場を守るための物でもあるのですよ。この情報が少しでも表に出れば、最高評議会の息のかかった者に消されるだけなのですから。いくら貴方が優秀な資質を持つ二佐であろうと、それを消す手段などいくらでもあります」

「………………」

「その上で貴方に問いましょう八神二佐、これだけの事実を知って尚、貴方はご自分の正義とやらを貫くおつもりですか?」

 

最終勧告にも等しいオーリスの宣言、たかだが10年務めた程度の小娘1人にすぐにどうこうできる物ではないということ。

提示された全ての情報とそこから導かれる現実ははやてにとってもわかりきっていたことではある。

 

「……自分の認識が甘かったこと、地上本部の苦悩……その全てが私の理解が不足していたことは確かです……それについては謝るしかありません」

「…………そうですか……」

「ですが、それでも私は管理局員です。数多の次元世界だけでなく、地上だって守っていこうという誓いは変わりません。その為に今はスカリエッティ一味の捜索と……いずれはオーリス三佐の示してくれた闇にだって、止まることなく立ち向かっていく所存です」

 

青臭さが全く抜けきっていない、子供の語る夢にも等しいはやての言葉。

だがそれでもはやては、目の前の現実がどうであろうと自分の歩みを止めるつもりは少しも無かった。

例え変えることができないとしても、何もしないことと変えようともがくこと、その間には決定的な違いがある。

権力を振りかざし、地上の抱える闇も知らずに云わば子供のわがままみたく力を振るっていたのが今までの愚かな自分だと知ってしまった。

しかし、知ったからこそそこから変えられることも出てくるのだから、この苦しみを乗り越えて新たな糧として前に進むしかない。

何より今は評議会も地上本部も想定外だった、スカリエッティとベルリネッタという二者を繋ぐ鎖が断ち切られ、その脅威が目の前に迫っている。

それを止める為ならどれだけ憎まれようと、自分は立ち止まるわけにはいかないのだと、はやては決意を新たにしていた。

 

「……そこまで言い切るのならいいでしょう。ならば貴方が変えて見せてください、この地上と本局、その全てが抱える闇を」

「この命に代えても、必ず」

「……話は以上です。私とブジーア一尉は後の始末があります。先にここからお出になられるよう」

「はい……貴重な情報、本当にありがとうございました」

 

闇を知って尚、変わることない強い意志とその背に感じる大きな決意。

書庫を後にするはやての姿を見やるオーリスの心に浮かぶのは数多の感情。

父親を裏切ったこともそうであるし、立ち向かうことを諦めてしまった自分への情けなさ、

そんな自分とは違うはやてへの義望、嫉妬、尊敬……

 

「……これで良かったのかしら、ブジーア一尉」

 

整理のつかない心のまま、オーリスから漏れるのは弱々しさに満ちた一言。

なりふり構わず手段を選ばず、その為に確かめた憎むべき相手の覚悟。

その少しも変わることない強い意志に当てられたことによる心境の変化。

それを、同じ闇を知る者として今まで一言も言葉を発することなく黙ってその場にいたラルヴァに問いかけていた。

 

「……何が正しくて何が間違っているかなど、後にならないとわからないことです、オーリス三佐……ですが」

 

 

 

ズブリッ

 

 

 

「な――――が……」

「あの少女にはまだ利用価値があり、貴方の役目は既に終わっている……それだけは確かなことです」

 

自身の胸を貫く何かと舞い散る赤い水、いきなりのことにオーリスは何が起きたかを理解することさえできない。

ただ、激痛と朦朧とする意識の最中で背後へと振り向いたオーリスが目にしたもの。

それは管理局の制服を纏った桃髪の女性局員ラルヴァ・ブジーアの姿ではなく、

右腕に装着されたカギ爪で自身の胸を貫く、戦闘機人と同じボディスーツを着用し、邪悪な笑みを浮かべたくすんだ金髪の女性であった。

 

 

 

*

 

 

 

それから明けて翌日、管理局本局の通路を並んで歩く3つの人影があった。

 

「お待たせしてしまってすみません、アコース査察官」

「いいよこれくらいは。それに君たちの傷だってまだ完全には回復していないんだ、あまり無理をしてはいけないよ」

「大丈夫です、私の傷はヴァイス陸曹やヴィータに比べたら、全然軽いですから」

「私やテスタロッサの様に、少しでも動ける人間で進められるべきことを進めておくのは当然のことです」

 

心配そうに声をかけるヴェロッサの隣を同じ歩幅で歩いていたのはフェイトとシグナムの2人。

その歩みの先にあったのは、ドッグで整備を受けている1隻のある次元航行艦。

それはフェイトやシグナムにとって思い出の居場所でもあり、本来ならもう休ませてあげることが決まっていた筈の所を引っ張り出してきた物。

 

「はやてやクロノ君の頼みだからどうにか漕ぎ着けたけど、本当に良かったのかい?」

「六課施設が全壊してしまった以上、隊員たちの為の新しい本部や住居は必要となります。何より、今後の動向を考えれば移動できるという利点もある」

「それに、この船は私やシグナム……母さんにとってもよく知ってる、馴染みのある居場所ですから」

 

感慨深げな視線を向けるフェイトの先にあるのは、嘗ての自分の居場所であった次元航行艦アースラ。

なのはという親友やクロノやリンディという家族と出会うきっかけとなったプレシア・テスタロッサ事件。

はやてやシグナム、その他多くの守護騎士という新しい仲間と巡り合うことになった闇の書事件。

その2つの事件も含めて、管理局員となってから多くの事件をこの船と共にしてきた。

10年以上前から使用し続け、今では経年劣化によって長期任務には耐えられない判断され、廃船となることが決定していたところを、

はやてからの要望で機動六課の新しい本部として再利用することが決まり、フェイト達はその確認の為にここへとやってきていたのだ。

 

「アースラ……もう少しだけ、私達と一緒に、戦ってね……」

 

母親が館長を務めていた自分にとって六課の仲間たち同じくらいに大切でたくさんの思い出の詰まったアースラ。

フェイトは整備の続いているアースラに対して優しく声をかけていた。

 

「さて、アースラの件については後々正式な手続きをしてもらうとしてだ、申し訳ないけどもう一つ付き合ってもらわなくちゃいけない」

「事前連絡でも仰っていましたが、一体何者なのですか」

「それは会ってもらえばすぐにわかるよ。君たち機動六課にとっても因縁浅からぬ相手らしいからね。彼女が言うには」

 

懐かしさに浸るのもそこそこに、ヴェロッサはフェイトとシグナムを連れてまた別の場所を目指して移動を始める。

シグナムが疑問を投げかけるのはアースラの現状確認をしたいと依頼した際にヴェロッサから言われたことについて。

会ってもらいたい人物がいる。そのたった一言だけのシンプル極まる内容。

相手の素性も全く教えてもらえず、このタイミングでそのような申し出をしてくる不明人物。

皆目見当がつかないということもあってシグナムもフェイトもそれに対する疑問が浮かぶばかりだったのだ。

 

「地上での活動中にたまたま出くわしてね……最初は僕も驚いたさ、機動六課の誰かに会わせてほしいってね。第一発見者が僕っていうのは運が良かった、こうして秘密裏に会合を設けることができたんだから」

 

それでも尚、相手の情報を少しも教えようとしないヴェロッサの表情も普段と違うどこか硬い物。

それだけの相手がこの先にいるのだろうかと想像を膨らませながら、2人はヴェロッサの案内で廊下の突き当たりにある小さな部屋へと案内される。

 

「やあ、連れてきたよ。君の希望通り、機動六課のメンバーをね」

「……お前は確か」

「そんな、どうして貴方がここに?」

 

そして部屋の中で待っていたのは2人が予想もしていなかった意外すぎる人物。

しかしそんなフェイトとシグナムの驚愕も置かない無しに、宙を舞う小さな少女は真剣そのものな雰囲気の下で言葉を発する。

 

「……あたしが頼みたいのは1つだけだ……こっちの知ってる情報は何でも教えてやる……だから旦那を……ゼストの旦那の守りたかった地上を、あいつらから守ってくれ……!!」

 

必死さの混じる声で少女――アギトは目の前の機動六課の2人に頭を下げて懇願していた。

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