狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第25話:戦いの為の兵器、最高傑作の目覚め

本祭の序章の開幕は間もなく、待ち遠しいその日を前に私も兄さんも日々テンションを高めながら準備を進めていくばかり、

といっても今はお気に入りの子を何人か呼んでティータイムというのんびりまったりな時間が流れていたりするんだけど。

いやまあ、本音を言えば私の脳内はミッドでの市街地戦以来からずっとアドレナリンを放出しまくっている感じだったりするが

作業が一段落ついて手持無沙汰だったので、こういうのも悪くはないかなということで。

 

「いやあ、相変わらずカティは多趣味というか器用というか……また腕上げたんじゃないっスか?」

「ホントホント、このクッキーとかも前食べたのよりも一段と美味しくなってるし、あむっ……」

「くふふふー、正確に言えば私と言うより作ってる機械の方の問題だけどねー」

 

円卓を囲んで茶を啜りながら茶菓子を夢中でほうばるのはセインとウェンディの2人。

誕生時から私の研究の手伝いを特にしてくれて、性格も純粋で素直でこっちの命令にも基本笑顔で従ってくれるし、私の作品を見せても好印象を抱いてくれることが多い。

戦闘機人のみんなは大なり小なり分け隔てなく好いているけど、その中でも私はこの2人のことを特別視していたりするのだ。

……最終決戦に向けての、ある"候補"から外していいと思うくらいに。

 

「どうっスか? ルーお嬢様とガリューさんも」

「カティの作ってくれるお菓子とお茶はいつも美味しいよ」

「…………」

「ありがとうねルーテシア、のんびりお茶する時間なんてもう今日くらいしか取れないって思ったからさー」

 

今日の客人は2人だけではない、セインとウェンディに加えて席に着いているのはルーテシアとその忠臣であるガリュー。

カップとソーサーを持ち上げて私お手製のマシーンで淹れた紅茶を啜るその姿は何というかとっても様になっている。

こんな薄暗い洞窟の中とかじゃなくて、日の光差し込む綺麗なベランダとかだったらそれこそどこのいい生まれのお嬢様だと見まがうレベルだろうよ、うん。

そして意外なのがガリューもガリューで時折クッキーを口……口どこにあるのか構造的によくわかんないだけど、

それでも口らしき部分に運んでポリポリ音を立てていたりするから、その厳つい外見に反してなかなか可愛らしい部分があったりするのだ。

 

「これから始まるお祭りが終わればルーテシアの探し物に割ける時間もグッと増えるだろうしねえ、その為の景気づけみたいなものでもあるんだよ」

「うん、ありがとうカティ」

 

ゼストと話した時にも話題に挙げていたけど、私はセインやウェンディだけでなくルーテシアのことも気に入っている。

何だかんだ彼女との付き合いもそこそこ長いし、強力な召喚魔法を始めとして興味深いデータもいくつも取らせてもらっている。

脳みそトリオの発注で生み出した関係で精神面はあれこれ弄繰り回されているが、基本物静かで落ち着きのある女の子。

常人が見れば守ってあげたいオーラむんむんな不思議な魅力を多大に振りまいているのだ。

尤も? そんな少女を騙くらかしていいように操っているという現状が余計にそそられるんだけどね。

ルーテシア次第であるし彼女がどう答えるかはわからないが、然るべき仕事が終わりさえすれば、本気で今眠らせている彼女の母親であるメガーヌを目覚めさせてあげてもいいとさえ考えている。

まあ、その時は今のルーテシアと同じく現状に疑問を持たないよう色々調整させてもらうんだけどさ。

 

「それにしてもドクターやカティの研究も来るところまで来たって感じだよねー」

「私も見た時は驚いた、リナスもフィーネも凄い力を持っている。ガリューもそう言ってる」

「…………」

「それでもまだ最高傑作の試作段階、みたいなモンなんっスよねあの2機も?」

「そうともそうとも……あの子たちが六課の隊長陣相手に完封勝利してくれたおかげでいいデータも取れたし……そのおかげで私の最高傑作も見事な完成を見たんだもの……くふ、くふふ」

「最高傑作って言うからどんな物かと思ってたけど、見た目的には今までのアンジェロシリーズよりは大人し目って印象だったかなー?」

「いやいや、あんなドデカいブースター2つもくっつけてれば十分派手たと思うっス」

 

口々に私の作品に対する感想を言ってくれる。うんうん、こういう反応が聞けるっていうのもまた嬉しいものだよ。

戦力的には現行のアンジェロシリーズの最新機であるリナス、フィーネでも十分に機動六課隊長格とも渡り合えるだけの性能には辿り着いている。

でもそれでもまだ足りないのだ、リミッター解除状態の彼女たちを想定している数値とはいってもそれもまた予測に過ぎない。

それ以外の、私の心を更に昂らせてくれるような別の切り札を切ってきた時にはあの2機でもどうなるかはわからないんだから。

その想定外の事態も踏まえてデータの蓄積とフレームの製作を続け……そして遂に完成に至った私の最高傑作。

実動テストはまだであるがそれでもその出来は"今の"私に出来うる一切の妥協無き完全なるモノ。

今までの無人兵器の戦闘データも踏まえ、兄さんが作り上げた聖王の器から得た新たな要素も取り入れたそれ。

本気を出した最高の実験体である機動六課を再び捻じ伏せるその瞬間……考えるだけでも涎が止まらなくなりそうだよ、くふふふ。

 

「そういや最高傑作って聞いて1つ疑問に思ってたことがあるっスけど」

「ん、何かなウェンディ?」

「ルーお嬢様が連れてきてドクターが処置を施してた、あの聖王の器とかって呼ばれている娘、一体何なんスか?」

 

クッキーカスを口周りに付けたまま唐突にウェンディがそんな質問をしてきたり。

そういえば確かに戦闘機人の子達にその辺りの詳しい説明はしていなかったけ。

私の最高傑作と同じ、今の兄さんが重用している人造魔導師素体としての最高傑作、器となるあの少女、ヴィヴィオのこと。

 

「遡る事10年程前、聖王教会に高位の司祭がいたんだよ。聖遺物の管理を任せられるくらいの高潔な性格の持ち主でね」

「聖遺物……ってなんなんスか?」

「古代ベルカの聖王、それの骨とか血とか、それが付着した布とか使ってた持ち物とかのこと。宗教にはよくある信仰対象ってヤツだねー」

「うーん、よくわかんないけどそれって凄い物なの?」

「何を尊ぶかはそれこそ人の嗜好によりけりだからねセイン。聖王教会にとっては貴重品だし、私や兄さんのような科学者にとっても激レア物だったんだよ」

 

宗教の良し悪しなんぞをセインやウェンディに説いた所でどうにもならないだろう。

ぶっちゃけ私もいるかいないかわからんような神だの王だのに祈りをささげるくらいなら目に見える形の物を生み出す主義であるし。

まあ、自分で言ったようにそれもまた人の好みなんだからとやかく批判する気もこれっぽちも無いんだけどね。

それこそ自分の快楽の為に無関係の人間をいくらでも犠牲にする私や兄さんみたいな人種にとっては特に無意味な話だ。

 

「でも悲しいかなその司祭も所詮は人間。ある女性信者と恋に落ちてすったもんだのアレコレの末に、その女性への愛の為に聖遺物を表に出しちゃったんだよ、って話なのよ」

「随分と大胆な女性もいたもんだねえ……一体何者だったんだろ、その人」

 

貴方たちのお姉さんだよ、なんて盛大に暴露してやりたくなったりもしたがルーテシアもいる手前伏せておくことにした。

とはいえセインの言うように、あの人は潜入任務を主としている関係上、人心掌握術に関してもかなりの技能を持っていた。

今は脳みそトリオやヒゲオヤジの傍らで着々と最終準備を進めているらしいけど……

言ってたら何となく顔を見ておきたいなあなんて気分にもなってしまう。元気にやってるんだろうか、あの人は?

 

「でまあ、その流出した聖遺物に付着していた聖王のDNA、それを解析した末に生み出されたのがあのヴィヴィオ、聖王の生まれ変わりってわけさ」

「じゃああの女の子は、そうやって生まれて、カティやドクターの役に立つために、生まれてきたの?」

「うんうんそうだよルーテシア。本当ならどこぞの能無しどもに玩具にされてポイされるだけっていう悲しいことになってたろうからね。だからあの子の力を十分に発揮して、私たちの王様になってもらうために助けてきて貰ったってことよ」

 

何だろうね、自分でもビックリするくらいに嘘八百が次々と溢れ出ているという。

聖王だの最高の研究素材だのご大層なことを言ってはいるが、別に私たちはあのヴィヴィオに優しくしてあげようとかそんな気は更々無かったりする。

ゼストやルーテシアのデータを基にレリックを移植し新生した人造魔導師の最先端にして、夢の乗り物を動かすための起動キー。

そこに求める役割が最重要クラスであることに嘘偽りはないが、裏を返せばそこまでの存在というだけでもあるのだ。

あの少女は器で鍵で、私の最高傑作に比肩する最強の力を持った聖王の生まれ変わり、存在価値はそれだけなんだから。

ああでも、この前の移植手術の時みたいに私の個人的快楽を満たす最高の玩具になってくれるって意味でも貴重かもしれないけど、うふふ。

 

「まあそういう話も込み込みで、もうすぐ前夜祭よりもっと楽しいお祭りが始まるってわけだから、セインもウェンディもルーテシアも頑張ってねってこと」

「だねー、レジアスのおっちゃんや評議会の連中のこともあるけど。そんなどうでもいいこと考えるよりはドクターやカティの研究をもっといっぱい見てみたい、たくさん色んな物を壊してみたいって思ってるし」

「私もセインと同意見っス、元より夢や希望があったわけでも無し、生みの親の言いなりで戦うだけ……なんて思ってたっスけど、やっぱりやるなら自分の意志で楽しまないと損っスからねー」

「私は、ドクターやカティのお手伝いをして、それでお母さんが目を覚ましてくれれば、それでいいから」

「くふふー……そういう決意表明を聞けるだけでも期待が高まるってもんだよ、うん」

 

何だかんだみんなもいい感じに染まってきてるなーなんて年寄りみたいにしみじみ感じちゃったりする。

クアットロはセインやウェンディみたいな素直組をつまんない子なんて評していたりするけど、

この発言を見る限りなら別にそれほど問題ないって感じもするんだよねー。

個人的にこの子たちが好きっていう私の色眼鏡も含まれてるから確実なことは言えないけど。

それでもまあ、ルーテシアや他の候補たちみたいな、余計な仕込みはしなくてもいいかな、と確信が持てる。

 

(逆を言えば他の子達の現状がどうなのかっていうことでもあるんだよねー……特にチンクやディエチ辺りは要警戒対象だろうから……)

 

和気藹々としたお茶会の中、私の内心に浮かぶのはセインやウェンディとは違うその候補に入っている戦闘機人のこと。

私の作品がそうであるように、兄さんの作った戦闘機人もまた素晴らしい技術であり、表の連中なんぞに使わせるのは死んでもごめんな代物だ。

であるならそのような最悪の事態に備えての万一の為の仕込みは必要と、そういうことなのだ。

率直に言うとチンクやディエチみたいな面倒見いい子たちも結構お気に入りなんだけど、無垢と優しさはまた別物だからね……

勿論、彼女たちがきちんと仕事をこなしてくれさえすればそんな残念なことを実行せずに済むというだけの話なんだけど。

 

 

 

*

 

 

 

スカリエッティのアジト、その通路の一画に集うのは3つの人影。

パネルを操作しながら黙々と作業を進めるクアットロとディエチ、そのすぐ側で視線を上に上げているノーヴェ。

ノーヴェの見上げる先にあるのは1つの生体ポッド、培養液に満たされたその中で静かに佇んでいるのは同じ戦闘機人の1人であるチンク。

先の地上本部襲撃の際、最も多大なダメージを負ったチンクは未だに修繕が完了していない状態にあったのだ。

 

「ディエチ、チンク姉の容態は」

「前にも言ったように基礎フレームの部分からかなりのダメージを受けている……恐らく回復にはまだ時間がかかると思う」

「ノーヴェちゃんの右腕もつい最近治ったばかりだものね~」

 

ディエチとクアットロの説明を受けて苦々しい顔を浮かべるノーヴェ。

ノーヴェにとってチンクは教育係でもあり、姉の中でも特に強い思い入れのある対象。

その姉の現状を思っての辛さと、こんな事態を引き起こした相手に対する強い怒り、その2つの感情が今のノーヴェの大半を占めている。

 

「あの子……ゼロセカンドのIS、震動破砕は物凄い機能だったからね~」

「四肢末端部から発する特殊エネルギーの放出または接触、それによる振動で外装、装甲を貫いての内部、骨格への多大なダメージを与えることを可能とした、一撃必殺の驚異的な機能……」

「……そんなもんを、チンク姉は何発も受けてたってのかよ」

 

詳細データを表示しながらディエチの語るゼロセカンド、つまりスバルの持っていた固有技能について。

旧式の技術であるそれは攻撃という観点から見ればその内包した破壊力は脅威そのものであり、

特にチンクやノーヴェ、その他全員を含めた戦闘機人のような機械と人体構造を併せ持つ対象にとっては一発一発が致命傷となりうる。

ノーヴェの言うようにそんな攻撃を多数喰らってしまったチンクが今どのような状態にあるかは押して知るべしというやつだ。

 

「私達とは違う生まれをした私たちのオリジナル……この前捕らえたファーストと同じで、ドクターも強い興味を寄せていた子」

「そんなもんは興味もないし関係もねえ……!! チンク姉をこんなにしたあの鉢巻女は私が絶対にぶっ潰してやる!!」

「壊しちゃダメよ~ノーヴェちゃん? ファーストと同じであの子もドクターの貴重な実験材料なんだから~」

「もう1人の幻術使いだって同じ目に遭わせてやる!! アイツに手こずらされた所為でチンク姉との合流が遅れたんだ!!」

 

ディエチの呟く情報も、クアットロからの言葉もまるでお構いなしにノーヴェは心の中の怒りをグツグツと煮えたぎらせていく。

その怒りの矛先となっているのは敬愛する姉を傷つける最大の原因となったスバルとティアナの2人。

如何に彼女たちが戦いの為の兵器として生み出された存在といっても、それぞれに考え方の違いがあり、抱く感情も様々である。

普段はぶっきらぼうな戦闘好きであるノーヴェだが、大切な姉を傷つけられたことに対するその怒りの感情は人間と何ら変わりの無い物だ。

 

「……ズイブント、ナサケナイザレゴトガキコエタキガスルガ、ソレハジョウダンデイッテイルノカ、ナンバー9?」

「なんだとっ……!!」

「あら~? こんな所でお会いするなんて奇遇ねフィーネちゃん?」

「マスターノシゴトガ、オオカタカタヅイタノダ、ナンバー4。ソレデタマタマコノバヲトオリカケタラ、ドウニモクダランハナシガキコエテナ」

 

が、そのノーヴェの燃え上がる憤怒に冷水をかけるかのような無機質な機械音が響き渡る。

怒りにかられるままにノーヴェが振り向いた先にいたのは、通路の奥からその姿を現した漆黒の無人兵器、フィーネ。

人型フォルムであるが、戦闘機人とは根本から違う完全な機械であるその顔に宿る光は、ノーヴェの姿を真っ直ぐに捉えている。

 

「くだらないってのはどういうことだ……!!」

「コトバドオリノイミダナンバー9、キサマヤナンバー5ガ、ヤブレタノハ、タンニキサマラガヨワイカラ、ソレダケノコトダロウ?」

「んだと……!! 喧嘩売ってんのかテメエ!!」

「ソウキコエルナラソウオモエ。ダガ、コウホウシエンノシゴトヲカンペキニコナシタナンバー4トチガイ、ゼンセンデノタタカイヲシュトシタ、キサマガアノテイタラクデハ、キタイヲスルダケムダカモシレン、トイイタイダケダ」

「このっ……!!」

「はいは~い、ノーヴェちゃんもフィーネちゃんも抑えて抑えて、こんな所で喧嘩しても何にもならないでしょ~?」

 

挑発に等しいフィーネの物言いに我慢の限界があっという間に訪れたノーヴェはそのまま殴りかからんとする勢いでフィーネに向かっていこうとするも、間に入ったクアットロの仲裁でそれは止められる。

戦うために生み出された存在という意味ではノーヴェもフィーネもその存在意義は同一と言えるかもしれないが、

今し方のやり取りの中にあった温度差が、両者の決定的な差を証明しているような物だった。

 

「イズレニセヨマスターハ、ナンバー4、ナンバー6、ナンバー11ナドトオナジダケノキタイヲ、オマエニハシテイナイ。ブザマニホエルヒマガアルナラ、タタカイデソレヲトリカエシテミセルンダナ」

「テメエに言われるまでもねえ……!! 鉢巻と幻術使いは私の手で倒すって決めてんだからなッ!!」

 

フィーネに対する怒りを抑えながらも、ノーヴェはスバルとティアナに対する怒りは全く鎮めていない。

それを聞いても尚、フィーネは少しも反応することなく無機質で冷たい機械としての雰囲気を放ったままだ。

 

(……クアットロ、フィーネは少し言いすぎなんじゃ?)

(それは確かにそうだけど~、ノーヴェちゃんが負けちゃったことについては事実なんだから言っても仕方ないでしょ~?)

(でも……カティの作品なんだから云わば私たちの仲間なのに、あんな言い方するのは……)

 

そのやり取りを目の当たりにしながらクアットロとディエチは念話でやり取りを行う。

いつもの不敵な笑みを全く崩さないクアットロに対し、対照的にディエチは言い知れぬ不安を覚えている。

ノーヴェの前に立つフィーネという漆黒の無人兵器の性能についてはディエチも十分に熟知している。

だが、それを踏まえても同じ仲間である筈のノーヴェに対する態度は行き過ぎているのではないかと。

 

(どの道ノーヴェちゃんとフィーネちゃんが共闘するってことも無いでしょうし……ノーヴェちゃんがちゃんとリベンジを果たせばそれで済むことなんだから気にしない気にしない~)

(……そうだといいんだけど)

 

ディエチからしても長い付き合いであるクアットロがそういう反応を返してくるのはわかっていたこと。

でも、そうであってもディエチは心の奥底に生まれたほんの小さな疑念を消せずにいた。

 

(…………お馬鹿な子ねディエチちゃんは……やっぱり、このままだとチンクやノーヴェと同じでカティちゃんにあの"仕込み"をお願いしないとダメなのかしら……)

 

が、それを聞いてクアットロがそのメガネの下で目を細め、同じ存在である妹すらも見下していたということをディエチが知ることは無かった。

 

 

 

*

 

 

 

地上本部がその開発を進めている新型の防衛兵器、アインへリアルの建設現場。

その1つ、とある海岸線の一画にある2号機の周辺は多数の火の手が上がり、多くの武装局員が倒れ伏している。

それを取り囲むのは数十機のガジェットに戦闘機人のトーレとセッテ。

 

「魔法がロクに通らない……AMS濃度が高すぎる!」

「対フィールド弾を撃てる奴は残ってないのか!?」

「指令隊、どうしたんだ応答しろ!!」

 

生き残りの局員たちが必死に抵抗を試みてはいるがその戦力差は歴然。

襲撃を察知した直後にAMSによって一方的に対抗手段を奪われてからのガジェットの包囲攻撃。

そこに加えて近接戦最強格の戦闘機人であるトーレとセッテまで加わり、その制圧は瞬く間に完了していた。

 

「無駄なことを……IS、スローターアームズ」

「「「うわああああああ!!!!」」」

 

そして残りの武装局員を死角から斬り刻むのは飛来する2振りの曲刀。

セッテの固有武装ブーメランブレードと、それを操作する固有技能、スローターアームズによる物。

変則的且つ高速で迫るその刃に倒れ、そのまま建設中のアインへリアルに直撃し更なる爆発を起こす。

 

「よくやったセッテ。これで制圧は完了だ」

「お褒めに預かり感謝します、トーレ姉様もなかなかの働きでした」

「ああ、お前やオットー、ディードといった後発組のデータは私にもフィードバックされているからな。以前と比べてだいぶ動きやすい」

 

そこから少し離れた空域に浮かびながらセッテの功績を労うのはトーレ。

彼女もまた同じように戦場を縦横無尽に飛び回りながら多くの武装局員を撃破し、アインへリアル本体にダメージを与えていた。

その動きと攻撃のキレは地上本部周辺空域でのフェイトとの戦いのときより更に増している。

彼女自身が言ったように、初期型の戦闘機人は定期的に新型の戦闘機人のデータが活かされ、スカリエッティの調整によって随時内部情報が更新される。

特に初期型の傑作にして近接戦闘において相当に高い実力を持っていたトーレは、その情報更新により益々手の付けられない強さになっていたのである。

 

「このアインへリアルもカティ様の兵器であるリノチェキロンのデータを基に生み出されたというのに、呆気ない物でしたね」

「アイツの言っているように所詮は劣化コピーの粗製品だ。例え万全の状態だったとしても私とセッテだけでも何ら問題は無かっただろうがな」

 

見下すように呆れながら、何の想いも無く無機質に、纏う雰囲気に差はあれどトーレもセッテも眼下のアインへリアルに対して同じような感想を抱いている。

カティの初期の火力偏重型兵器、リノチェキロンの長距離狙撃主砲のデータを基礎として建設されていた地上防衛用の回転式の大型魔力砲撃兵器。

完成していれば確かに、地上の防衛の要として通常の犯罪者相手になら多大な戦果を発揮していたことだろう。

だがしかし、トーレやセッテといった高性能の戦闘機人、カティのアンジェロシリーズのような無人兵器相手では、

それこそカティの初期型の作品に対する機動六課隊長陣の如く、単なる巨大な的にしかならなかった。

 

『トーレ姉、3号機の制圧は僕とディードでほぼ完了させたよ』

『イイタイミングダッタナナンバー8、タッタイマ、イチゴウキノホウモ、ワタシガハカイヲカンリョウシタトコロダ』

「そうか、オットーにディード、それにリナスもご苦労だった」

 

それを更に裏付ける様にトーレの前に映し出されるのは2つのモニター。

森林地帯に建設中の3号機と、同じく荒野地帯にあった1号機。

その双方もまた、オットーとディードの戦闘機人最後発コンビと、ベルリネッタの現状の最新型であるリナスによって破壊が完了していた。

 

「ガジェットの支援もあるとはいえ私達とは違い単独で制圧を成し遂げるとは、流石はカティ様の作り出した兵器です」

『トウゼンダ、ワタシハマスターノサイコウケッサクノ、アシガカリトシテウミダサレタ、ソノキタイニソムクコトハユルサレナイ、ソレニナンバー3、ナンバー7、オマエタチノノウリョクモ、ジュウブンニキタイニソウスバラシイモノダト、マスターモイゼンカライッテイル』

「それはまた、私としても喜ばしいことです」

 

無機質な機械音ながらも、素直にリナスはトーレとセッテの実力を認めており、それに対してセッテも無感情な声であったが礼を述べていた。

最新式であるものの、人間らしい多種多様な感情を積んでいるわけではないリナス、そしてフィーネのAIが判断するのは単純にその実力や能力、結果だけ。

現状ではそのリナスの中の評価基準でトーレやセッテは合格であるということを示していたのである。

 

「何にせよこれで我々の担った最終準備は完了だ。帰還するぞ」

『了解』

『コレヨリキカンヲカイシスル』

 

称賛もそこそこに、トーレの言った一言で各地の戦場にいた各々が高度を一気にあげて飛び去っていく。

それを追うだけの余力は、今の地上本部の部隊には残されていなかった。

 

 

 

*

 

 

 

地上とも本局とも違う、どことも知れない闇の奥深く。

そこにいるのは一連の事件の全ての元凶とも言える3人、最高評議会のメンバー達。

 

「な、何故……ッ……!! 何故だぁああああああ!!??!?」

 

しかし、そこで木霊するのは最高評議会議長の……もっと正確に言えばそうだった者の成れの果て。

培養液に満たされたポッドの中で接続されているのは人ですらない、1つの小さな脳みそ。

旧暦の時代からこのような姿にまで落ち、それでも尚地位と権力、自分たちの思い通りの世界を夢見て生にしがみ付いてきた存在達。

だが、その内の2人は今、見るも無残な姿へと変えられてしまっている。

3つ並んだ生体ポッドの内2つが破壊され、培養液に塗れた脳みそ、最高評議会の一員だったモノが無惨に床へと打ち捨てられている。

 

「御老体に無理をさせるのはよくありませんからね……本来ならばもう少し先の予定だったのですが、早めのお休みをと判断されたので」

「貴様ぁ……! まさかジェイルの……!?」

 

それを実行したのは同じように培養液に濡れた右腕に装着したカギ爪を妖艶な笑みの下でペロリと舐め上げる1人の女性。

地上本部の極秘情報書庫においてオーリスをその凶刃に手がけたラルヴァ・ブジーア……

否、その真の姿であるボディスーツを纏ったくすんだ金髪の女性、戦闘機人のナンバー2、ドゥーエである。

彼女はその固有技能、ライアーズマスクによる擬態能力によって各地に潜入し、外部での潜入捜査を主としていた個体。

その変装の1つである最高評議会の側近女性局員という仮面を脱ぎ捨て、その獰猛な本性を剥き出しにしていたのである。

スカリエッティとベルリネッタによって下された祭りの開始の前の最終準備、その1つを実行するために。

 

「貴方が見つけ出し、そしてこの世界に蘇らせた、失われたアルハザードの技術を持つ異能の天才たち……開発コードネーム、、unlimited desire(アンリミテッド・デザイア)innocent desire(イノセント・デザイア)……ジェイル・スカリエッティ、カティーナ・ベルリネッタ」

「ぬぅうう……!!!」

「あのお2人を生み出し、力を与えてしまった時点で、貴方方がこうなる運命は確定していたのですよ。どんな首輪も檻も、全てを喰らって前に進み続ける者には何ら意味の無い物なのです」

 

その右腕のカギ爪―――固有武装であるピアッシングネイルを振りかざしながらドゥーエは淡々と語っていく。

全ての元凶たる狂気の科学者たちを作り出した存在である最高評議会、自分たちの生と望む世界の為の手駒として制御していた筈のそれらによる明確な反逆。

評議会のメンバーたちはそれに対する手段を模索いたのだが、反逆を許してしまった時点で、あるいはドゥーエの言うようにもっと前から、その存在が世に放たれた時点で全ては手遅れだったのである。

 

「それにカティは意外と根に持つタイプなんですよ? 死ぬ前に伝えてくれてって言ってましたから。私の作品を寂れた時代遅れなんて言いやがったあのバカ脳みそどもにはキッツイお仕置きしてあげてね、と」

「そ、そんな……!!」

 

そして早いか遅いかの差でしかなかったが、想像もしていなかった最高評議会に訪れる最期。

そのスケジュールが早まる原因になってしまったのは、所詮は補佐でしかないと侮っていたベルリネッタに対する態度。

自らの作品に絶対の愛着を持ち、邪魔する者は全部壊すだけの彼女の感情を逆撫でしたことによる物だったのだ。

 

「馬鹿な……馬鹿なぁあああああああ!!!!」

「お休みなさい。カティにはいい悲鳴を上げていたと伝えておいてあげますから」

 

抵抗する術など脳みそ一つと化した身ではある筈も無く、ただ醜く激情を吐き出すことしかできない。

そんな怨嗟の声を耳にしながらドゥーエは何の躊躇いも無くその右腕を振りおろし、最後の最高評議会メンバーを破壊するのだった。

 

 

 

*

 

 

 

アジトの最深部を目指して私は兄さんとウーノと共に歩みを進めていく。

その先にあるのは兄さんが見つけ出し、その起動をずっと夢見てきた私たちの新しいお家、夢の乗り物――――聖王のゆりかごだ。

 

「妹たちとカティのリナスが、アインへリアルの制圧を完了したそうです」

「素晴らしいね……ああそれと、ドゥーエからも報告が入っていたよカティーナ。最高評議会はいい悲鳴を上げながら死んでいったそうだ」

「そう……くふふふー、最後まで馬鹿な連中だったよねえアイツらも……私や兄さんを飼い馴らすなんてそんな馬鹿な妄想抱いてるなんてさー」

 

資金や物資の面でこれまでずっとお世話になってきたスポンサーである脳みそトリオこと最高評議会。

でもでも、これから始まるお祭りに聖王のゆりかごの起動のことも考えれば、アイツらももう用済みでしかない。

何より、私の作品を馬鹿にした以上、どんだけ恩があろうと潰すことは決定してたしね、ザマア見ろってのよ。

 

「妹たちの蓄積データも良好……行動に反映できていますし安定性もある……カティの無人兵器と同様に、トラブルが少ないですしね」

「元々管理局の連中も運用寸前までは持っていてたんだっけ? まあ、倫理だ何だのくだらない理由でお釈迦になったらしいけどさ」

「ククク……それを私が引き継ぎ、大幅な改良を施して生み出したのがウーノ達なのだからね、カティーナ」

「であるならば、良質で無い筈がありません」

 

戦闘機人計画を進めている兄さん、機械技術の発展を進めている私。

方向性は違えどそこに懸ける科学者としての熱意と想いは何ら変わらない物。

無限に溢れ出る欲望と澄み渡った純粋な欲望、その下で研究を進め、そしてその全てが実る瞬間が目の前へと迫っているのだ。

その最大のカギとなるのが、右隣を歩くウーノが抱える布にくるまれた1人の少女。

 

「未だ失敗の目立つ人造魔導師も、ゼストやルーテシアの長期稼働によって十分なデータが取れている……」

「そだねー、そのデータがあったからこそこの聖王の器の移植手術も円滑に進んだような物だったんだし」

 

夢の実現を前にしていつも以上にテンションの高い兄さんの語る内容。

脳みそトリオが求めていた人造魔導師、ゼストやルーテシアは高い性能を持つとはいえ、戦闘機人たちに比べると安定性に劣る。

でも、あの2人がいてくれたからこそ、現状の兄さんの最高傑作である聖王の器、ヴィヴィオが完成したと言ってもいいのだ。

失敗を糧に次なる成功に結び付けるのは、私の作ってきた兵器たちとこれまた何ら変わらない物なのだから。

 

「この聖王のゆりかごを発見し、触れることができて以来、その起動は貴方の夢でした……それが叶う瞬間なのですね」

「ノンノン、甘いよウーノ。私や兄さんの終着点はこんな所じゃないの。生体操作技術も機械技術も、生きている限りまだまだ先が存在する果てない道なんだからさっ」

「そうとだも……我が愛しの妹、カティーナ……これは始まりに過ぎないんだ……!! 古代ベルカの叡智の結晶……ゆりかごを舞台にした、楽しい夢のね……!!」

 

歓喜が抑えきれなくなっていく兄さんを見ていると私もその興奮を吐き出してしまいたくなる。

でもまだもう少し、この先にある全てを始めてからだ。

兄さんの最高傑作である聖王ヴィヴィオ、それと並ぶ私の最高傑作……その起動の瞬間もまた目の前に迫っているんだから。

 

「くふふ……! そしてゆりかごの起動に必要な聖王は完成し……今、それと同じ私の最高傑作も目覚める」

「これが、カティの……」

「そうともウーノ……この機体こそがカティーナの持てる知識を余すことなく詰め込んで作り出した……聖王の器に並びうる最強の存在さ」

 

兄さんの先導で辿り着いたのは広大な空間、聖王のゆりかご、その最も重要な場所である玉座の間。

その最奥に備えられているのは王の帰還を今か今かと待ちわびるかのような聖王の台座となる起動装置。

そしてその玉座の間にわざわざ移動させてきたのが、玉座の背後に増設したスペース、いくつものケーブルに繋がれた1体の人型兵器……

紅、白、黒のトリコロールカラーに大型のブースターを背部に2つ備えたそれは、何かを求める様にぽっかりと穴を空けている。

そのすぐ側の台座に置かれているのはレリックケース、ナンバーは12。

長きに渡る研究とデータ解析の末に、私の最高傑作に最も合致する個体として見出したソレ。

聖王を聖王足らしめる王の印と同じ物体をその身に組み込んで、私の最高傑作は遂にその産声を上げるのだ……!!

 

「私自身が作り続けた兵器群……何千体ものガジェットから蓄積し、改良を施した魔力粒子操作技術……そして、聖王の一片を組み込んで搭載した最高位の学習技術……その全ての力を搭載し、そして私の期待に応える最高の作品として目覚めなさい……!!」

 

歓喜に満ちた震える声で私はケースからそのナンバー12のレリックを取り出し、その機体の中央部の空間に嵌め込む。

次の瞬間、レリックを組み込んだその中央部分が装甲に覆われ、顔面部のカメラに鈍い光を灯しながらゆっくりとその機体を動かす。

背後では兄さんもウーノも感慨深そうにその瞬間を見つめている。さあ……!! これが私の最後にして始まり、最高傑作の目覚めの瞬間だ!!

 

「さあ名乗りなさい……!! 私の最高傑作、最強にして最高の子!!」

「…………ワタシノ……私の名はネロ・シグノリア。マスター・カティーナの作りし最高傑作にして、全てを打ち倒し、焼き払う者……」




原作19話のあるシーンを見る度に思う。
スカリエッティは踏んじゃいけない核地雷を全力で踏み抜き過ぎだと。
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