狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
「ほいほいほいっと……くふふ、これで調整は全部完了だね、お疲れ様っ」
アジトの一室の調整ラボ、カプセル付きベッドに横たわる戦闘機人のみんなの前で軽快にパネルの上に指を滑らせていく私。
着々と進められていた最終準備、遂に完成を見た聖王の器に私の最高傑作、その全てを暴れさせる楽しい永遠の始まりの日……それが今日。
その最後の備えとして前々からクアットロと一緒に考えていたあるプランを実行する為に、私が直々に何人かの機人の子達を呼び寄せていたのだ。
「さてさて、状態の方はどうかなディエチ?」
「……凄い、調整前よりも更に反応が向上している……カティ、いつの間にこんな技術を?」
「くふふ、兄さんのデータを参考に出来る範囲で簡単に最適化しただけさ、兄さんが時間をかければもっと上手くやれてたって」
カプセルの1つが開いてそこから身を乗り出し立ち上がったのがまずディエチ。
自分の動作を念入りに確かめる様に右の手のひらを結んで開いて……そんでもって称賛の言葉を私にくれてみたり。
何のことは無い、私が自分で言ったように行ったのは簡単な調整に過ぎないのだ。
それでも、デリケートな機械の塊で精密な技術の下で成り立っているのが兄さんの作品たるこの子たち戦闘機人。
多少の最適化であろうとその動きに明確な差が出てくるというそんな感じだったりする。
「ディエチも玉座前での防衛っていう結構な重要ポジションだからねえ……だったら万全の態勢にしておくに越したことは無いってことよ……ッ……!!」
「………………」
「んー? 何だか浮かない顔してるみたいだけど、不具合でもあったのかなディエチ?」
「……いや、そうじゃないよ。調整の方は今言ったように完璧」
どうにもいけない、前夜祭前と同じかそれ以上か、私のテンションは高まり続ける一方でそれを抑えるのが難しい。
でもディエチにはそういう私の姿を見て何か思ったらしくてどこか陰りの混じる表情をされてしまったり。
付き合いとしてはそこそこ長い子だし、私のこういう姿も何回も見てきてるはずなんだけど、気に障るようなことでもしちゃったのかな?
「カティ、ドクターの妹の君にだからこそ聞きたいんだけど……今度の作戦、率直にどう思っているの?」
「どうって……今の私を見れば一目瞭然でしょ? 今日これから始まるのは私も兄さんも熱望していた最高のお祭りで全ての始まり……あの夢の乗り物で旅立つ記念すべき日なんだからっ」
にっこり笑顔で気前良く語りかけてみても、ディエチの表情は変わらないまま。
何気にちょっとショックだぞそういう態度は、長いことずっと一緒にやって来たのに私に言えない悩みでもあるんだろうかね?
……ぶっちゃけると、大方の察しはついてたりするんだけども。
「……そう、だよね。ドクターやカティならそういう風に言うんだよね」
「もちもち、寧ろそれ以外の何を答えればいいのかなって感じなんだから。でもでも、それがどうしたっていうのディエチ?」
「いやいいんだ、ありがとう。私の勝手な思い込みだと思うから……」
口ではそんな風に返してくれてるけど、どっからどう見たって何かを隠してるっていうのは見え見え。
それでも本人がそう言ってるんだから敢えて深くは追及しないけど。
それだけ言ってディエチは調整用ラボの入り口のドアを開いてそのまま所定の位置に着く為に部屋を後にしたんだけど、
「……ハァ」
その後ろ姿を見て私から漏れ出したのは落胆から来る溜め息、ただそれだけだった。
今の会話を交わして確定してしまった、ディエチはクアットロの言っていたように"無視できない段階に至ってしまっている"ってことが。
その為の対策としてわざわざこの部屋に呼んで最終調整という名の"仕込み"をさせてもらったんだし。
「残念だなあディエチ……貴方もセインやウェンディと同じでずっとお友達でいてほしいって思っていたんだけど……」
戦闘兵器に余分な感情は不要というのがクアットロの持論でもあるが、私はそれは間違っていると思う。
何にも考えず、悩まずでは与えられた命令を実行するしかできない機械と同じ。
戦闘機人は人であり機械でもある、ならば機械の様に命令に忠実で、人の様に多種多様に悩み考え最適な行動を選択する、こういうのが理想形だとそう考えている。
一見無感情に見えるセッテ、オットー、ディードの最後発組だって最低限の人らしさっていうのは残されているんだし。
でも逆を言えばあの子たちは何色にも染まる真っ新な画用紙のような物であり、故にディエチ達を呼ぶ前に同じ調整を施しちゃったりしたんだけどね。
「……考え、悩むことは絶対に悪いことじゃないんだよ。でもねディエチ、貴方は戦闘機人ではあるけど人ではない、肥大化し過ぎた余計なファイルは己を蝕む毒でしかないんだから」
ディエチとのこれまでを思い返すとちょっとセンチな気分にもなったりする。
固有技能のヘヴィバレルに長距離砲撃砲のイノーメスカノンも合わせて、あの子にも随分とお世話になった。
当然、これから始まるお祭りでも変わらないことだし、終わった後もずっと一緒に楽しくやれるのが理想形だ。
でも、他の仕込み組と違ってディエチは危険すぎる。あの悩みは彼女にとって毒でしかない。
今は大丈夫でもその毒はいずれディエチを浸食し続け、やがて明確な形で私や兄さんの害になる可能性が非常に高い。
ましてそんな状態で管理局側に捕らえられたりでもしたら、それこそ私が最も嫌う展開に至ることだってありうる。
だからきっと一番使う可能性があるのはあの子なんだろうなあ、と想わざるを得ないという感じなのだ。
「ま、そん時はそん時で切り捨ててそれでお終い、さっさと忘れるに限るんだろうけどさッ、さてさてノーヴェの方はどうかな?」
「……ああ、私の方もかなり動きが良くなってるのがわかる。こっちとしても大助かりだカティ」
とまあ、とりあえずディエチのことについては頭の隅に置いといてだ。
次に別のカプセルから姿を現したノーヴェに向かってこれまたにっこり顔で声をかけてみる。
ノーヴェは相変わらずの不機嫌顔というか仏頂面というかそんな感じの表情のままだったけど、
それでも私の最終調整に対して満足しているようでこれまた何よりだった。
「喜んでもらえたなら私も嬉しいよっ、その力があればリベンジマッチもばっちりだろうねえ?」
「当然だ……!! あの鉢巻と幻術使いはチンク姉の仇だ……だから今度は私が徹底的に叩きのめしてやる」
前夜祭が終わってからのノーヴェはずっとこんな感じ、口を開けば今みたく私の目の前であろうとその憤怒の炎を剥き出しにして拳を握るのがお約束みたいになってるんだよね。
といってもこれもまた仕方のないこと、ノーヴェにとってチンクは特に思い入れのあるお姉さんだったんだし、
その大事なお姉さんがボロボロにされたとあってはその敵に対して復讐に闘志を滾らせるのも極々自然な流れであろう。
正直言ってノーヴェの姿を見てると今回の調整から外してもよかったんじゃないかなあって思わなくもないがクアットロの進言もあって念の為というヤツだった。
「あーまあ、ボコボコにするのは構わないだけど、ゼロセカンドの方は最低限原型は留めておいてね? あれを損失するのは兄さんにも私にも惜しいことだし……」
「…………ドクターとお前の頼みなら従うだけ、だけどよ……」
「うん♪ ちゃんと言うことを聞く子は将来大成するよノーヴェ」
そんな心底苦々しいという風な表情を浮かべて言われても納得はしかねるんだけどねノーヴェ?
まあ血の気の多いこの子は基本任務では敵を完膚なきまでに粉砕することを信条としているんだし、これもまたしょうがないことなのかもしれない。
尤も、いくら新人とはいえゼロセカンドの性能は決して侮ってはいけない物でもある。
機動六課の教えがいいのか、戦闘回数を重ねるごとにその動きは他の新人と同様に良くなっている傾向があるし。
加えてチンクに重傷を負わせ、ノーヴェの右腕も破壊した切り札中の切り札、震動破砕もある。
あれを発動されてしまったら同じ近接戦主体のノーヴェの勝ち目はかなり少なくなってしまう。
本当ならチンクも一緒に出せたら良かったんだけど、兄さん曰く修理が間に合わないから今回の参加は見送る方向らしい。
私としてもとても残念で仕方ない。あの子もまた同じように"仕込み"の対象であるものの、最高傑作の強化にも貢献してくれたのだから。
「まあ、万一のことも考えてコレを一緒に送り込むんだし? チンクの二の舞ってことにはならないと思うけどね……ッ……!!」
「チッ……私としては鉢巻を完全に潰せないことよりもそっちの方が気に入らねえ……何でよりにもよってソイツが……」
当然、そのことに対して何の対策もしてないのかと問われれば答えは否である。
ノーヴェと一緒に視線を向けるのは残った最後の調整カプセル、その中にいる者に対して。
ゼロセカンドにぶつける相手という意味ではノーヴェ以上の適任として相応しいのはコレしかいないだろうという者。
興味津々テンション全開で調整を終えた兄さんから引き継いで、私が仕込みと一緒に少々の改造をさせてもらった子。
流石にあの震動破砕を完全に防ぎきれるような機能は用意できなかったけど、何せコレはゼロセカンド相手ならその場にいるだけでも十分な効果を発揮してくれる。
相対した時にゼロセカンドがどんな間抜け面晒してくれるのか……そして万一にもコレに対して震動破砕を使ったりしたらどれだけの後悔の涙を見せくれるか……
いやまあ、こっちもこっちで貴重な研究材料だからそれはそれでまた困りものでもあるんだけど。
ともあれ、それを踏まえても想像しただけでいつもと同じように下卑た笑いが止まらなくなってしまうのだ。
どっちかというとそれを見たいという願望の方を優先して、兄さんから改造を引き継がせてもらったような物でもあるしね。
「ねえ? 貴方もそう思うでしょう? ゼロファースト改めナンバー13?」
「………………」
実に愉快な声の下、私が発したその言葉に呼応するかのようにカプセルが開きそこから姿を現したソレ。
他の機人の子と同じボディスーツに首下のプレートに刻まれる数字は13、ゼロセカンドの姉、改造と調整の終わったゼロファーストの姿がそこにあった。
*
ミッドチルダ上空を航行する一隻の船、機動六課の新たな本部として稼働を再開した次元航行艦アースラ。
聖王医療院での治療と安静を経て機動六課のメンバーは全員が傷の殆どを治し、アースラへとその居場所を移していた。
そのアースラの一室である会議室、そこに集うのは機動六課主要メンバーの大半。
皆、真剣そのものな表情を浮かべる中で話を切り出すのは部隊長のはやてとその傍らに立つ補佐のグリフィスである。
「今回の一連の事件に関してですが、数日前に発生したアインへリアルの襲撃も含めて地上本部の対応は相変わらず後手に回っています。地上だけでの事件解決を強固に主張……本局とその直属部隊である機動六課にも情報の開示はされていません」
今日まで続く本局と地上の対立はこの異常事態を前にしてもやはり変わることはない。
わかってはいたことではあるが、会見を行う地上本部のモニターと共に行われたグリフィスからの報告を聞いて、その場のメンバーの大半は内心で落胆を隠せない。
対立だの柵だのを気にしている局面など当の昔に過ぎていることは、機動六課だけでなく多くの管理局員にもわかりきっていることなのだから。
「……そやけど、そんな対立構造に私らがとやかく言っても何も始まらん。機動六課が追うのは飽くまでもロスト・ロギアレリック、その捜査線上にスカリエッティとベルリネッタがいるっちゅーことだけや」
グリフィスの言葉を引き継ぎながら、全員を見渡す形ではやては話を続けていく。
その内容に関して間違いは何もなく、地上からの言及も避けられる形で自分たちの目的を果たすことができるというベストな内容。
情報の開示が得られないという問題はあるも、スカリエッティ一味に関する情報については"ある事情"も含めて六課側の方が優勢と言ってもいい。
総合して考えればそこまで悪い方向に事態が転がっているわけでも無いということなのだが、
「で、その方向で事を進めていく中で、ギンガ・ナカジマ陸曹とヴィヴィオの救出も行う……そういう感じになっとるというわけや。両隊長、意見はある?」
「……理想的の形、って言えるとは思うんだけど。でも、はやてちゃん……」
「うん……なのはも同じことを考えてると思うけど、また無茶してない……?」
方針の纏めを語るはやての表情を見て心配そうになのはとフェイトは声をかけていた。
機動六課を束ね、本局のあらゆる部署に無理を頼んでいるはやての苦労についてはなのは、フェイトだけでなく他の多くの六課職員が知っていること。
今回のアースラの再稼働のことも含め、決戦に向けてはやてがまた無茶をしているのではないかと思っていたというのが1つ。
「後見人の皆さんや三提督からのフォローもしっかり固めてる、その辺については心配無用や。何より、こんな時の為に備えてきたのが機動六課、動くべき時に動けないんじゃ意味も無いからなあ」
「うん、はやてちゃんがそう言うんだったら私にも異存はないよ」
「私もなのはと同じ、異存無し」
機動六課という部隊を支える多くの権力者たち、その繋がりによる協力も変わること無し。
自信に満ちた笑顔を浮かべて語るはやての言葉に、なのはもフェイトも同じように笑顔を浮かべて言葉を返す。
(……ねえ、フェイトちゃん、やっぱり)
(うん……今のはやて、ほんのちょっとだけど、何かが……)
が、その笑顔の裏で密かになのはとフェイトは念話を交わしていた。
はやての無茶については今に始まったことではないのだが、それを抜きにしても拭いきれない小さな違和感。
10年という時間を共に戦い続けてきた大切な親友にして戦友だからこそわかるもの。
はやては何かを隠している、それも仲間である自分たちにすらも話せないような大きな何かを。
直感的になのはとフェイトはそのようなことを感じ取っていたのである。
「そしてその肝心のスカリエッティ一味のアジトについても、この段階に来て詳細な位置を掴めた。この間紹介したこの子のおかげでな」
「うん、アコース査察官が連れてきくれた……アギトの情報のおかげで、査察官とシスター・シャッハが調査に向かっているらしいから」
そんな疑念を抱く中、続いて話題に挙がるのはモニターに表示される小さな赤い少女と、その少女がもたらした情報について。
機動六課とも何度か交戦経験のあった融合機にしてスカリエッティ一味の協力者の1人でもあったアギト。
そのアギトが偶然にヴェロッサと接触、そのまま降伏、あれよあれよと話は繋がっていき、機動六課の協力者となっていたのだ。
最初に面会に立ち会ったフェイトやシグナムは勿論、紹介の際にも多くの六課職員たちが面食らったような顔をしていたが、
スカリエッティ一味に関する有力な情報を持っていたこと以上に、純粋に自分たちに協力してくれるというその心に惹かれる所があったという空気でもあった。
それによって逆にアギトがぽかんとしていたなんてこともあった程に。
「そういうわけやから操作出動は本日中の予定やから、みんなも万全の態勢を整えておいてな」
「「「了解!」」」
一通りの方針の発表を終えたはやてに対して、その場のメンバーたちは敬礼を返し、その上で会議室を後にしてそれぞれの持ち場へと戻っていく。
しかし、はやてはその場から動くことなく席に座ったままで、後に残ったのはグリフィスと2人だけ。
「八神部隊長、何か?」
「……気にせんといてな、ちょっと自分だけで考えたいことがあるだけや」
その様子を疑問に思ったグリフィスから声をかけられてもはやてはどこか素っ気ない返事を返すことしかできない。
そんなはやての脳内を占めていたのはスカリエッティに関する情報以上に、数日前にオーリスから聞いた、託されたと言ってもいい全ての真実について。
(…………地上本部が強固になるのも無理からぬ話なんやろうな……知ってる人間、知らない人間含めて、今回の一連の事件は闇が深すぎるんやから……)
スカリエッティ一味と地上本部との繋がり、その背後に潜む管理局最高評議会という巨大な闇。
その闇に縛られながらももがき続けてきた地上本部実質トップのレジアス・ゲイズの苦悩と、それを支え続けてきたオーリスの存在。
オーリスに対して堂々と啖呵を切ったとはいえ、それでも今のはやてにとってそれらの真実はあまりにも大きすぎる物で、彼女の両肩にズッシリとのしかかる物。
グリフィスが報告を行った地上本部の方針に対しても、他のメンバーとは違って心中複雑な思いを抱いている。
(……とにかく、小難しい話は後にせんと。今はなのはちゃんやフェイトちゃん、六課のみんなを守る意味でもスカリエッティ一味を全力で止める、それだけや……!!)
その闇の全てをすぐにどうにかできるわけではない、ならばその一端となる目の前に迫っている脅威を取り除くために今は自分の力を振るおう。
心の中での迷いを振り切るようにしてはやては決意を新たにし、グリフィスを伴って会議室を後にするのだった。
*
アースラ医療室、医療スタッフのリーダーであるシャマルが診察を行っているのは同じ守護騎士の仲間であるシグナムとヴィータ。
前回の襲撃において大ダメージを負ったヴィータは勿論のこと、シグナムも前線メンバーの主格を担う関係で念入りに検査を行っていた。
「傷の方はもう大丈夫、これならリミッター解除状態の全力で戦っても問題ないと思うわ」
「だから言ったろ? あたしの傷はもう治ってるってよ。シグナムやリインだって同じだ」
「はいです!! マリーやシャーリーのおかげで完全回復ですよ!!」
コンソールを動かしながら深刻そうな顔をするシャマルに対し、ヴィータは普段通りの自信満々な態度で答えて見せていた。
その傍らに浮かぶリインもまた回復と調整を終えて機動六課に復帰しており元気いっぱいという様相だ。
そしてその場にいたのはザフィーラを除く守護騎士メンバー4人だけでなくもう1人。
「へんっ、威勢だけは良くてもな。今度の戦いはこのアギト様が手を貸してやるんだ。変にヘマ踏んだら承知しねえぞ」
「もうっ! 貴方の方から協力させてほしいって言ったのにちょっと失礼じゃないですかっ、情報の提供も含めて感謝はしていますがもっとそれなりの態度というものを―――」
「うるせえバッテンチビ!! あたしが協力してんのはゼストの旦那に託されたからだ! 旦那の期待を裏切るようなことしたら―――」
蒼天と烈火の言い争いはアギトが機動六課にやってきてからというもの、日常茶飯事みたくなっていた。
呆れながらもシグナムとヴィータがそれぞれアギトとリインを引き剥がすのもまたお決まりのパターンである。
「前にも言っただろう、アギト。地上世界の平和の為に戦うという目的はお前が話した騎士……ゼスト・グランガイツと同じだ。だからもしその期待に背くようなことをした時は、お前が私達を焼き殺せばいい」
「……言われるまでもねえ。今までずっと縛られ続けてた旦那が初めてあたしの為に頼んだことなんだ。だったらあたしだってそれに応えるために全力を尽くすだけだ」
威風堂々、何の混じり気も無い純粋なまでのシグナムの宣言は、ゼストという同じ騎士と共にいたアギトだからこそ心の底から信じてもいいと思える物だ。
ベルリネッタから用済み同然に放逐された後、ゼストがアギトに言った言葉、機動六課と共に自分の守りたかった空を守ってくれということ。
あまりに突拍子もないその恩人からの宣告に最初はアギトも猛反発していた。
だが、時間の少ない自分ではアギトの役には立ってやれない、自分は最後に成すべきことが残っている。
その為にお前にも明確な役割と自由な居場所を与えてやりたいと真剣な表情で語ったゼスト。
1人の騎士としての彼の本気を受け取ったからこそ、アギトも最後には折れてその言葉通りに機動六課へとやってきていたのである。
「ユニゾンに関してはシグナムと相性抜群……リインちゃんが1人しかいないことを考えるとそういった意味でもアギトは助けになるもの」
「ああ……お前と融合した時、どこか落ち着いた気持ちにもなれたしな。無論、あの男のように至るにはまだ時間がかかるかもしれないが……」
「そんなの一々口にすんじゃねえよ。あたしが認めた騎士はゼストの旦那1人だけだ。お前はまだそうじゃねえんだからな」
表向きはそんなことを言いながらも、アギトの内心は非常に複雑な状態にあった。
穏やかな口調で優しく語りかけてくるシャマルとシグナムの言葉に、提示された融合状態での性能データについて。
それは守護騎士との融合を前提に生み出されたリインすらも上回るシグナムと非常に高い相性値を示していた。
実際に融合を果たしたシグナムとアギトにもそれについては十分に理解していたことでもある。
アギトは長きに渡る時間を実験動物として過ごし、融合機としての本質を果たせなかった孤独を知っている。
自分を十全に活かしてくれる騎士に巡り合えたこと、その相手が命の恩人であるゼストではなかったということ。
2つの現実で板挟みとなり、喜びと悲しみで感情が激しく揺さぶられていたのである。
「でもそのこと以上に……シグナムやヴィータちゃんもそうだけど……再生機能含めた守護騎士システムに色々不安な面が出てきていることが気になるの……」
「その点については数年前から徐々に判明していることだ、私達が各々意識していれば十分にカバーできる範囲でしかない」
「それもそうかもしれないけど、でもシグナム……」
と、アギトの決意も他所に不安げな表情を浮かべてシャマルが切り出した内容。
主であるはやてと共に強固な繋がりを持つ自分たち夜天の書の守護騎士。
はやてと共に管理局で働き始めてからゆっくりとではあるが、そのシステム面で様々な性能低下が見られるようになってきているのである。
シグナムはそれを何てことないように言っているが、それでもシャマルの中の不安は消えることが無い。
「……あたしは思うんだよシャマル、それはシステムの不具合なんかじゃねえ、あたしらが本当に普通の人間らしくなってきてる証なんじゃねーかってな」
「ヴィータちゃん……?」
そのシャマルの不安を拭うように言葉を発したのがヴィータ。
そこに浮かぶ表情も一切の不安も恐れも無い、純粋なまでに自身に満ち溢れた物だ。
「主の命令で戦うしかできず、死ぬことすら許されない……ただのシステムだったあたしらに初代リインが託してくれた贈り物、そう考えたって悪くねーだろ?」
「やっぱりヴィータちゃんも同じように言うのね。でも、確かにその通りなのかもしれない。はやてちゃんの下で家族として、人間として限りある命を精一杯生きる……それが私たちの望むこと」
「だろ? いいじゃねーか、あたしらは人間なんだ、ただのシステムなんかじゃねー。それはあたしらだけじゃなくてリインも、アギトも同じさ」
「もちろんです!!」
「お、おう……」
自分たちは人間であるというヴィータの言葉、それを受けてシャマルは涙さえ浮かべている。
リインはいつも通りの態度を崩さずに満面の笑顔を浮かべているし、自分まで含まれたことは完全な不意打ちだったのか、アギトは顔を真っ赤にして言葉を詰まらせていた。
幾多の悲劇を乗り越えたくさんの仲間に囲まれ真っ直ぐに進み続けてきた、今のヴィータだからこそ言えるそんな言葉だった。
「数日前までの消沈が嘘のようだなヴィータ?」
「ああ、あたしは教えられたからな。守るべき、そして守ってくれるたくさんの大切な仲間に囲まれてるってことを」
フッと笑みを浮かべるシグナムにもまた堂々とヴィータは答えるのみ。
大切な物を守れない悔しさと悲しさ、その原因となった相手に対する憎しみと怒りに捕われた自分を止めてくれたティアナの言葉。
仲間の絆を再認識し、傷を再び乗り越えたヴィータの心は今まで以上に強く硬い、誰にも侵すことのできない物へとなっていたのである。
「だから人間であるあたしたちが、人の命を弄ぶアイツラを……スカリエッティとベルリネッタを止めなきゃいけねー、そして最後は全員生きて帰って笑ってハッピーエンドだ」
「ああ、今度こそ全てを守りきり全てを取り返す、その為に戦い主はやての下へと帰る、それは私もヴィータも、ここにいないザフィーラも同じだろう」
「うん……なら、私も私でみんなの為に頑張らないといけないわね、シグナム、ヴィータちゃん」
「もちろん、リインもヴィータちゃんをお守りするためにいっぱい頑張るですよ!!」
「ええっと……その、あ、あれだ……あたしだって旦那に託されてんだ、守りたいって気持ちは同じだかんな!!」
ヴィータの言葉の下でそれぞれの想いを語っていくシグナム、シャマル、リイン、アギト。
未だに傷が完全に癒えず、ここにはいない同じ守護騎士であるザフィーラも一緒の想いを抱えているだろうこともわかっている。
最後の戦いを前にして、皆の心は一つとなっていた。
『緊急連絡!! アコース査察官がスカリエッティのアジトを発見したとのことです!!』
『でもちょっと待って、このエネルギー反応は一体……!!』
「!!……シグナム!!」
「わかっている……!!」
そして次の瞬間、それぞれが決意を固めたヴィータ達も含めた船内の全員に告げられるのは、その目下の最大の敵が動き出したという情報だった。
*
「あれって……あの子の……」
アラートが響き続けるアースラの通路の一画、その場でモニターを見つめるキャロが声を漏らしている。
その先に見えるのはヴェロッサが見つけ出したスカリエッティのアジトの周辺に点在しているいくつもの巨大な漆黒の蟲。
召喚士ルーテシア・アルピーノが駆る僕の1つ、地雷王の姿である。
その地雷王が複数でエネルギーを発し、周囲の地面を揺るがすほどの巨大な地響きを起こし続けているのである。
『さあいよいよお披露目だ……平和を謳いながらも我らの力を忌むべき物と忌避し続けてきた管理局の諸君……聖王教会の諸君……見えるかい?』
「ジェイル・スカリエッティ……!!」
通路内に表示されるモニターと高らかに響き渡るスカリエッティからの広域通信。
それを見つめる1人であるフェイトは特に強く表情を歪ませている。
ベルリネッタと共に個人的に追い続けてきた銃犯罪者の1人であり、その相手がこの期に及んでまだ何かをしようとしているということ。
それを前にして内心での怒りが抑えきれなくなっていたのである。
『これこそが……君たちが求め続け、この私が遂に起動させた絶対の力……ッッ!!』
以前の地上本部襲撃の際以上の興奮状態で両腕を掲げて高らかに宣言するスカリエッティ。
その彼の声に連動するかのようにモニターに映るのは地響きを起こし続ける地雷王の群れの下で蠢く物。
巨大な地割れが発生し、地面を持ち上げながら姿を現す1つの巨体。
「何なの、アレ……」
「あ、あんなのがミッドの地下に眠っていたって言うの……?」
驚愕で視線が釘づけにされ動かすことすらままらないスバルとティアナ。
他の機動六課メンバーも大半が同じようなリアクションを取っている。
地面を割り、姿を現したその巨体の正体――金と紫で彩られた鋭角的なフォルムのその機体。
古代ベルカ時代において世界を席巻し破壊した悪魔の叡智、統治者たる聖王の持つ絶対的な力の象徴、超大型質量兵器、巨大戦艦、聖王のゆりかご。
それが遂に表世界に姿を現した瞬間であった。
『くひゃはは……!! くひはははは!!! 見えるかなッ、地上の局員に六課の皆さんッッ? 兄さんが見出し作り上げた、私達を永遠の楽園へと導く夢の乗り物ッッ!! その船出の瞬間と、そして……ッッ!!』
「あれは……!!」
続け様に映し出され響くのはゆりかご内部の玉座の間、そこにいるベルリネッタともう1人。
真っ先に気付いたエリオが声を上げると同時に六課のメンバーたちが見たのはあまりにも悲痛な光景。
『その起動の鍵となった兄さんの最高傑作ッッ!! 聖王の生まれ変わりの姿をねえッッ!!?』
『痛いよ……!! 怖いよ……!! 助けてぇえっ!! ママぁあ!! ママぁあああああああっっ!!!』
『くひゃははははは!!!! 泣きなさいッ!! 喚きなさいッッ!! ヴィヴィオッッッ!!!! それこそが私の快楽を満たす最高の刺激となるのだからッッッ!!!』
「な、なんて酷いことを……!!」
『見ているかなあ!? 聞こえているかなあッ!? ヴィヴィオのママさんッ!? 本当に滑稽極まりないよねえッッ!! 貴方がまやかしの希望を与えた所為でッ!! 貴方の娘もどきはこんなにも苦しんでいるのだからッッ!!! くひはッ!! くひはははははははッッッ!!!』
「ヴィヴィオ……ッ……!!」
聖王を据える玉座、その名称とは程遠いまるで囚人の様に縛り付けられているヴィヴィオの姿。
ゆりかごを起動させるための道具として、無理やりにエネルギーを毟り取られるその苦痛、幼いヴィヴィオに到底耐えられる物ではない。
只管に助けを求めるヴィヴィオの無垢な叫びがモニターを通してアースラ内の六課メンバーにも響き渡る。
それに連なる様に聞こえてくるのはすぐ側でスカリエッティと同じように昂揚感に満ち切った声で高らかに笑いながら両手を天高く掲げ、邪悪な笑みを浮かべるベルリネッタ。
倫理も常識も遥か彼方、人の命を笑いながら弄ぶその光景、外道の所業に怒りに打ち震える機動六課のメンバー達。
ヴィヴィオの母親であるなのはに至ってはレイジングハートを持つ右手が白く変色する程に強く握りしめられており、目の前の悲劇に耐えられず顔面は蒼白となっていた。
『さあッッッ!!! ここから私とカティーナによる永遠の夢の始まりだッッッ!!!』
『その盛大なる開幕セレモニー……貴方達にたっぷりと見せてあげるわあッッッ!!!』
感情の昂りが最高潮に達した2人の狂気の科学者による宣戦布告。
ミッド地上と、数多の次元世界の平和をかけた最後の戦いが始まろうとしていた。