狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
ミッドチルダ地上における聖王のゆりかごの出現、それを受けて管理局本局も大慌てであった。
すぐさま対策の為に戦力がかき集められ、次元航行部隊の艦隊が複数動き出している。
流石にこれだけの問題を前にしては地上側としても協力を拒むだの地上だけで事件を解決するだの言っていられる場合ではなく、
本局との協力を得ながら聖王のゆりかごとそれを駆るスカリエッティ一味に対抗する手筈となっていた。
尤も、その協力体制を円滑に進められたのが機動六課の背後に存在している後見人たちやかの三提督の力添えによるところが大きかったのだが。
『レオーネ相談役やレティたちも頑張ってくれてるけど、運用部も通信部も大騒ぎね。まさかスカリエッティにあんな隠し玉があったなんて誰も思ってもいなかったから』
「それでも出動遅延などが発生しないのはこの場面では非常に大きい、感謝します」
そして今回の迎撃において実質的な指揮を担うのが次元航行艦クラウディアの艦長を務めているクロノ。
いくつも開かれた通信の先にいる1つ、報告を行っていたのは機動六課の後見人の1人、クロノのの母親でもあり
現在は若くして管理局の重鎮の1人となっているリンディ・ハラオウン総務統括官。
機動六課が新たな本部として利用しているアースラの元艦長であり、なのはを始めとして六課メンバーの多くとも関わりが深い。
普段は温厚且つにこやかでいることが殆どのリンディでさえ、今回の事態においてはいつも以上に真剣そのものな様相で息子であるクロノと共に事に当たっていた。
リンディが語る同僚のレティ・ロウラン提督や伝説の三提督の1人であるレオーネ・フィルスといった者たちも尽力してはいるが、それでも現状はかなり厳しいと言っていい。
「ユーノ、そっちの様子はどうだ?」
『問題ないよ。情報が情報だけにかなり少ないのが残念だけど、それでも聖王のゆりかごやそれに関連するいくつかのデータは発掘を完了している』
「ありがとう、こちらから前線と艦隊全てに送信して有効に使わせてもらう」
次いでクロノが目をやる別のモニターに映し出されているのは、無数と言っても過言ではない書物が点在する空間、管理局本局の巨大データベースである無限書庫と、
そこに佇むメガネをかけた好青年が1人、無限書庫の司書長を担っているユーノ・スクライア。
防御、支援系の魔法に長けた優秀な魔導師でもあり、10年前に高町なのはの人生を大きく変えるきっかけを作った人物でもある。
現在は司書長という立場の下、情報面においてなのはやクロノたちの心強いサポートとして活躍しているのである。
『聞くまでもないことかもしれないけど、あの船の危険度はどうなのユーノ君?』
『リンディさんの思っている通りです。極めて高レベル……先史時代の古代ベルカの時点でロスト・ロギア指定を受けていた、アルハザードからの流出物とさえ言われている代物ですから』
「アルハザード、か」
『……私たちにとっては、あまり聞きたくない単語ね』
ユーノから伝えられていく情報の一端にクロノもリンディも顔を歪めるのはある意味で当然のことであった。
アルハザード……リンディとクロノの家族であるフェイトの実母、プレシア・テスタロッサが求め続けていた世界、過去の技術が眠る理想郷。
そこに懸ける狂気とも言える熱意とそれが巻き起こした悲劇の数々、彼らにとっては10年近くが経った現在でも忘れ難いことなのだから。
『その真偽は置いておくにしても、最大の危険は軌道上に到達されることにあるんだ。2つの月の魔力を得ることによる極めて高い防御能力と、地上への精密な攻撃能力。加えてこっちの調査では次元跳躍攻撃、次元空間での戦闘も可能というデータが挙がっている』
「!!……言うだけのことはあるな。それだけの性能があるのならば、単機でもこっちの艦隊と正面から渡り合えるだろう」
『軌道上に上がる前に、倒さないといけないということになるわね』
そのアルハザードの技術が使われているという噂のある聖王のゆりかご、その噂に恥じない性能予測はクロノを更に驚愕させるもの。
如何に性能の高い兵器と言えども、単機で行える力には限界があると考えてしまうのが一般的。
しかし、聖王のゆりかごはそのような常識を根本から覆すだけの驚異的な力を有しているのが事実としてある。
自らを守る防御力にミッド地上全てを人質に取れると言ってもいい精密な攻撃能力、それにプラスして次元空間での戦闘にも対応。
本局の艦隊と言えど、ミッドそのものを盾に取られてしまえば満足のいく対応策など講じれる筈も無い。
リンディの語る様に、軌道上に到達されるのはそれだけで管理局側の敗北を意味すると言ってもいいくらいなのだ。
『それともう一つ、スカリエッティの協力者であるベルリネッタの使用している兵器についても情報が挙がっている』
「ベルリネッタ……彼女の使っている違法な質量兵器群にも何かがあるというのか?」
『こっちもこっちで厄介なんだけど……彼女が地上本部と機動六課襲撃の際に出してきた人型兵器や大型兵器、あれに酷似している兵器が僅かだけど古代ベルカ時代において使用されていたという記録があるんだ……それも聖王のゆりかごと同じ、アルハザード時代の技術の疑いがあるという最悪のおまけ付きでね』
『それだけの曰く付き兵器なら、確かに限定状態とはいえフェイトやなのはちゃん達を正面から倒せてもおかしくはない、か』
『といっても記録に残されているそれと比べれば性能的には大幅に劣っている。なのは達に対抗手段が無いと決まったわけじゃない』
「だが楽観視も出来ない。前回の兵器も含めて更に高性能な兵器を投入してくる可能性もあるんだからな……前線での危険度は言うに及ばずだ」
付け加える様に続けられるユーノからの新たな報告はクロノの悩みを深刻化させていく。
聖王のゆりかごに複数の戦闘機人、無数に等しい数のガジェットドローン、そしてベルリネッタの駆るいくつもの無人兵器群。
その無人兵器さえもアルハザード時代のそれを模している可能性が高いという情報。
失われた技術を掘り起し現代の世に蘇らせた2人の狂気の科学者に対する脅威を更に裏付ける物となる。
『私達が身を引いた裏で、そんなことになっているなんてねえ……』
「ミゼット議長……」
『最高評議会やレジィ坊や……レジアス中将、次の世代に託した後も世界の平和を見守ってくれて、地上の平和の為に頑張ってくれて……だからそんな彼らが今回の事件に関わってるなんて信じたくはないのだけど……』
「……私も同じ意見です。しかし、スカリエッティ自身の宣戦布告も含めて、それが実際に現実として存在する以上、認めるしかないでしょう」
また別のモニターからクロノとやり取りを行うのは表情を曇らせる老婆の姿。
機動六課の設立に深い関わりがある伝説の三提督の1人、ミゼット・クローベル本局統幕議長。
旧暦の時代、時空管理局というシステムそのものが誕生するその時期に活躍を続けていた伝説的人物。
他の2人と共に現役を退いた後も、最高評議会やレジアスに対する信頼の下で世界を見守り続けていた。
が、現状までに挙がっている情報を統合し、それが突きつけている現実はミゼットにとっても認め難い物だったのである。
「……ユーノ、ゆりかごへの対抗策の詳細については?」
『鍵となる聖王による直接の命令と本体内部の駆動炉の破壊……現状確実と言えるのはこの2つくらいだね』
『鍵の聖王……ヴィヴィオがそれを命じること、というわけね』
「だがあの状態を見るに、今のヴィヴィオはスカリエッティ、もしくはベルリネッタによって操作されている可能性が高いだろう……」
『となれば、スカリエッティとベルリネッタ両方の逮捕でも停止に繋がる可能性はあるということね』
ミゼットとのやり取りの後に更に行われるのは前線で事に当たっているメンバー達が成すべき対抗策について。
ゆりかごの起動キーである聖王、ヴィヴィオの存在と動力源たる駆動炉がその鍵を握っているとユーノは語る。
駆動炉のことは勿論、ベルリネッタが見せつける様に広域へと広げていたヴィヴィオの現状。
それを踏まえればそのどちらを為すにしても決して容易なことではないということはすぐに想像がつくこと。
(……歯痒い物だな)
現状の情報を脳内で纏めながら、ふとクロノは心内で吐き捨てる様にそんなことを呟いてしまう。
当然、今の自分がになっている次元航行部隊の指揮という役割も重要性の高い物である。
だがそれをわかっていても、より直接的な危険度の高い戦場で自分の親友や家族が戦っている。
その場所に自分が駆けつけられないということに、クロノはやりきれない思いでいた。
*
『第1グループ降下ポイントまで残り3分!!』
アースラ内に響き渡る通信、それを聞きながら集合していたのは機動六課新人フォワード4人とその正面に立つなのはとヴィータ。
ゆりかごとそれに随伴する大量のガジェットドローンと無人兵器群、戦闘機人の出現。
その事態に対抗する為に各地で行動を開始した本局、地上双方によって編成された魔導師部隊。
もちろん、この事態を前に機動六課が黙っている筈も無く、彼女たちの出撃も間近に迫っている。
「みんなもわかっている通り、今回の出動は今まで一番ハードな物になる」
「それにあたしもなのはも、お前らがピンチでも助けに行ってやれねえ」
決戦を前に控えたなのはとヴィータによる新人たちへの確認と激励といった風な光景が今である。
機動六課は地上と空中、スカリエッティのアジトへの突入と部隊を3つに分けて作戦行動に当たることが決定。
その配分の関係上、隊長格の殆どは空へと上がり新人4人が地上で防衛ラインの死守を担うことになる。
距離的なこともあり、ヴィータが語る様に今回の作戦では隊長陣からの援護は期待できないということでもあった。
「でも、ちょっと目を瞑って今までの訓練のことを思い返してほしいの」
「痛い想いとか全身筋肉痛とか、模擬戦の度にボロボロになったりとかな」
「「「「……~~ッ!!」」」」
硬く目を閉じた状態で新人たちの表情がその時のことを思い返したかのように苦痛に歪んでいく。
実際問題、機動六課における訓練内容は基礎を中心とした非常に密度の濃い物であり、
ヴィータが笑いながら語る様に毎回のように新人たちはクタクタになるまで毎日必死に訓練に励んでいたのだ。
「私が言うのもおかしな話なのかもしれないけど、きつかったと思う」
「それでもおめーらは今日までちゃんとやってきた。一騎当千とまではいかなくても、それでもどんな状況、どんな相手でも戦えるように教えてきたつもりだ」
語られるのはキツかった訓練のことだけではない、優しい笑みを浮かべるなのはと腕組みをしながら感慨深げにヴィータが話すのはきょとんとした表情を浮かべている新人たちへの今日までの称賛。
何度も繰り返し研鑚してきた基礎スキルに、それぞれの方向性に合わせて磨き続けてきた独自のスキル。
一騎当千のエースが集う機動六課という部隊で揉まれてきた新人4人たちもまた、配属当初とは比較にならない程の成長を遂げているとそう言っているのだ。
その磨かれた力は、これから赴く決戦においても重要な力となるのだとも。
「守るべき物を守り、救いたいと思った物を救い、どんな絶望的な状況でも最後まで諦めない……それができるだけの力が今のみんなには身についている筈だから」
「だからあたしから言えることは一つ……必ず誰一人欠けることなく生きて帰ってこい。それを成し遂げられるだけの努力を、おめーらは今日までに積み重ねることが出来てんだからな。それを忘れんな」
「「「「はいっ!!」」」」
変事を返す新人たちに浮かぶのもまた自身に満ち溢れた煌めく笑顔。
強くなるために、大切な物を守り救うために、機動六課の中で各々磨き続けきた自分たちの力。
それに対するなのはとヴィータの確かな言葉はそれだけで新人たちにとっては絶対の自信となる大きな意味を持つ物となるのである。
「それじゃあ、機動六課フォワード隊、出動!!」
「「「了解!!」」」
与えられた大きな自信を胸に、最後に下されたなのはの出動命令に敬礼を返して新人たちは駆けていく。
と、思われたのだが敬礼をしたままその場に留まっていた者が1人だけ。
右腕を下ろした後、スバルはその場で不安げな表情を浮かべてなのはとヴィータのことを見つめていた。
「……ギンガのことが心配か? それとも体のことか?」
「い、いえっ、違うんですヴィータ副隊長……その……」
その表情の裏に抱える者が何にあるかを想像した上でヴィータはスバルに声をかける。
慌てて声を上げるスバルにしてみても、ヴィータの指摘したその2点について不安に思っていたことは事実。
治療は終えているとはいえ、現在のスバルは一度もぎ取られた左腕から来るダメージが予想以上に大きく、完全状態の80%程といった感じなのである。
加えて、スカリエッティ一味に捕獲され、戦闘機人と混じって出現した姉のギンガのこともある。
モニターから確認できる戦闘機人と同じ服装と無機質な瞳を見れば、姉がどういった状態にあるのかはスバルにもわかることであり、
起こってほしくなかった最悪のパターンの1つが現実となっている。
「ただその……今は私やギン姉のことよりも、なのはさんやヴィータ副隊長、それにヴィヴィオのことも心配で……」
「私の……うん、ありがとうスバル、それだけでも嬉しいよ」
が、スバルの心の中に浮かんでいたのはその二点とは更に別のこと、目の前にいるなのはとヴィータ、ゆりかご内部に捕われているヴィヴィオのこと。
前線での危険度を考えれば地上での迎撃も決して生半可な物ではない。
それを踏まえてもゆりかごに直接侵入することになるなのはやヴィータの方がそれは遥かに上でもある。
自分が管理局員を志すきっかきとなり、命の恩人でもある憧れの対象であるなのはのこと、
ティアナと共に自分たちの認識が変わる大きなきっかけを与えてくれて、前線ではいつも率先して自分たち新人の危機に駆け付けてくれたヴィータのこと。
なのはをママと敬い、今尚ベルリネッタの快楽の玩具となって捕らわれているヴィヴィオのこと。
その全てがスバルにとって、自分や姉のこと以上に心配して止まないことだったのである。
「はんっ……いっちょ前にあたしらのことを心配できるようなタマでもないだろーが?」
「そ、その……すみませんヴィータ副隊長……」
「……と、言いてえところだけどあたしからも礼を言っておく。変われたのはおめーらだけじゃない、あたしも同じだからな」
「えっ……?」
皮肉めいた言葉から続くヴィータの言葉にスバルはまたきょとんとした表情になってしまう。
その言葉をくれたヴィータの今の顔は、今まで見たことないくらいに優しさに満ちた物だったことも含めてだ。
そんなヴィータもまた、新人たちの真っ直ぐな想いに対する想いや仲間を守りたいという自分の強い気持ちの下でここにいる。
地上本部襲撃における敗北、その憎しみを救ってくれたのがスバルの相棒であるティアナの身を挺しての説得。
新人たちに訓練を叩き込んできたのと同じように、自分もまた新人たちに教えられたことがあったとヴィータはそう思っている。
「あの時とは違って全力全開で戦えるようにはやても頑張ってくれたんだ、だから不安なんて何もねー。あたしもなのはも絶対に落ちないさ」
「ヴィータちゃんの言う通り……それにヴィヴィオのこともきっと大丈夫。必ず私が助けてみせる。だから心配しなくても大丈夫だよ、スバル」
「なのはさん……ヴィータ副隊長……」
スバルの抱えるその心配を解す様にそっとスバルの肩に手を置くなのは。
隣にいるヴィータの言葉も合わせてスバルは2人の純粋な優しさに顔を赤らめ、目には涙が溜まっていた。
事態が事態なだけあり、今回の出動では六課隊長格もはやて含めてその全員がリミッターを完全開放、文字通り全力で戦える状態になる。
その力があれば前回の様なことには絶対にならないと強い自身の下でなのはもヴィータもスバルにそう言っているのだ。
「スバルが憧れてくれた私は……誰にも負けないエースなんだからね?」
「それにおめーも起動六課自慢のフロントアタッカーだ。それに相応しい十分な力も付いている筈だ。だからあたしらのことはいいから、他の新人連中にケガさせねーように頑張ってこい。もちろん、お前自身も含めてな」
「ッ……はいっ!! ありがとうございますっ!!」
自分たちを支えてくれている人々の大きさを改めて感じ取ったスバルは、その心遣いに感謝しながらも力強く返事を返す。
そして、お互いの自信を確かめ合うようになのはとヴィータと拳を突き合わせるのであった。
*
遂にその唸りを上げ大空へと舞い上がった私と兄さんが多くの作品と共に永遠の楽園へと旅立つ舞台となる夢の乗り物、聖王のゆりかご。
そのほぼ中心部に位置することになる総司令室、全周囲に戦況を写し出すモニターが配置されているその場所に私はいた。
「くひはは……!! 地上の様子を見ただけでもてんやわんやの大騒ぎだよねえ……ッ……!! それだけでも楽しいってもんだよ、うん」
『まだまださ……祭りの序章はまだ始まったばかり、私の娘たちや君の作品を含めもっと楽しくなるのはこれからなんだ……!!』
通信の先、アジトで待機している兄さんが私と同じように興奮が抑えきれないのは無理からぬこと。
浮上開始とともに地上各地へと散らばせたガジェットドローンの大群に私の作品のいくつか。
前夜祭の時なんて比べるべくもない、ミッド地上全土を焼き払い地獄へと変えていくその光景。
それをこのゆりかごの中、高いところで見下ろす快感といったらそれはもうたまらない……!!
「しかもそれだけじゃない……このゆりかごが無事に軌道上へと到達すればその時は……ッ……!!」
『ミッドチルダ地上全てが攻撃対象、現在展開中の管理局本局の艦隊にも渡り合える切り札となり得ます』
『文字通りミッドチルダという世界そのものが人質というわけさ……楽しいねえ、実に楽しいではないか、カティーナ?』
「くふふふ……くふふふふ……!! もちろんだよ兄さん……!! こんなに楽しいことは今までになかったこと、その為にこのゆりかごがあることを思えば……ね……ッッ!!」
自分で言うのもなんかおかしいけど下卑た笑いが止まることなく溢れ出てきてしょうがない。
でもウーノが言うようにこのゆりかごは軌道上に到達し、2つの月の魔力を得た時に初めてその全力を発揮することができる。
データベースに記録されているその詳細スペック……これが本当に人間の作り出せる物なのかと私ですら疑ったほどなのだから。
こんな化け物染みた物を作り出したアルハザード時代の人間、それを実際に運用していた古代ベルカ時代の人間、
そしてそれを現代の世に蘇らせた兄さん、それと同質の存在である私。全てが全て、言いようのないくらいに狂気的でしかないというね。
世界を丸ごと人質に、管理局というシステムそのものを崩壊させて始まる私達の永遠の夢の始まり。
生体技術と機械技術、果て無く続く永遠の探求が目の前に迫っていることを思うと今まで以上に脳内の興奮が昂る一方なんだから。
「そのためにも? 戦闘機人のみんなには一層頑張って貰わなくちゃだしねえ……?」
『はい、ナンバーズ各機、トーレからディード、その全員が配置を完了しています』
『こっちの方はトーレとセッテ……リナスも含めたカティーナの兵器で十分に対処可能だからね……こちらに赴くのが誰かはわからないが、丁重におもてなしさせて貰うとするさ』
ゆりかごに地上侵攻、兄さんの待機しているアジト内部、その全てに戦力は分散している。
前夜祭に引き続いて地上の戦力を抑え、ゆりかごの完全稼働開始と共に安全を確認、然るべき時を見計らって地上の兄さんと戦闘機人たちを回収、それでこっちの完全勝利。
アジト内部はトーレ、セッテの戦闘能力最強コンビにアンジェロシリーズ傑作機の1つリナス、加えて大量のガジェットや残りの私の作品も待機している。
相手が誰であれ迎撃は十分に可能、ましてそんじょそこらの有象無象なら犬死で終わるも同然。
六課の誰かが来るにしたって現在の戦況を考えればまさか隊長格が3人も4人も大挙して押し寄せてくるなんてことはまずありえないしね。
『地上での行動部隊はオットー、ノーヴェ、ディード、例のナンバー13、それにカティのアレスタルヴォーネと各種兵器が担当……』
『ルーテシアにもお願いしたよ……上手く動いてくれることを期待しているよ』
「だねぇ、アレスタルヴォーネの修理が完全じゃない以上、他の子達のフォローにも色々期待しなきゃだし」
最後の最後で海中に沈んだ火力偏重型兵器の傑作、私のアレスタルヴォーネ。
あの後すぐに私のデバイスの長距離転送で本体丸々回収したから大きな損失には至らなかったんだけど
チンクと同じで内部ダメージが思ったよりも酷くて主武装の大半にガタが来てた感じ。
本当ならアレ1機でもミッドに大きな損害を出せる筈が、今回積んでる武装は大半が間に合わせなんだよね。
それでも、侵攻を担当する戦力の一角としてはまだまだ十分すぎるくらいの力があることも確かだし、
それに機動六課の召喚士が前と同じようにアレスタルヴォーネを撃ち落としたあの黒い巨竜を呼び出すのならそれもそれでまた面白いことになる。
まして切り札を持っているのはあの召喚士だけじゃない、こっちのルーテシアも同じことなんだしね。
彼女の持つ最大級戦力……白い怪蟲、白天王、その姿をまた見れるかもしれないという期待もまた、私の感情を震えさせる1つの要因。
「そしてそして、肝心要のこのゆりかごっ! クアットロ、ディエチ、セイン、ウェンディの4人に全機投入した初期ガジェット、加えてフィーネに……極めつけが駆動炉担当予定の、シグノリアってね」
『玉座の間の聖王と同様、駆動炉の防衛は最優先となります。その担当にカティの最高傑作たるシグノリアが配備されるということは、とても心強いことです』
「くふふふ……!! 駆動炉に向かってくる連中には最大級の地獄を味あわせてやりますともッッ!! 兄さんも残念だよ、せっかくの私の最高の子供の勇姿を間近で見られないなんてさっ」
『なに、落ち込むことではないさ……時間はこの祭りが終わった後にもたっぷりある……君のシグノリアの活躍を見るのはそれからでも遅くはないさ』
そして最も戦力を割いていると言えるのが、私も今いるこのゆりかご。
備え付けの射撃兵器各種や外周警備担当の大量のガジェットドローンだけでも十分すぎるくらいなんだけど、内部に入ればもっと地獄。
聖王たるヴィヴィオがいる玉座にはクアットロとディエチが担当。
特に玉座前の通路は一本道、長距離砲撃担当のディエチがその眼前で守りを固めてしまえば大抵の敵はそこでゲームオーバーだ。
運よく中に入れたとしても待つのは後方支援と掌握術において最強を誇るクアットロにそれその物が最強の戦力の一翼となりうる聖王。
クアットロの操作の下で操られるあの聖王を打ち破るなんて……それこそ戦闘機人以上に人間辞めてる化け物でもないと不可能なのだから。
更に駆動炉に続くまでの道のりには表に出してるのとは性能がダンチの最初期型、このゆりかご内部で初めて発見した最初のガジェットの大群。
通路内を巡回しているアンジェロシリーズの傑作機のもう1つ、フィーネの力を合わせればそれだけでも突破は相当に困難。
しかもしかも、駆動炉に侵入できたところで待ち受けるのは大量の防衛システムに……私の最高傑作、ネロ・シグノリア。
覚醒した聖王と同様に如何に優秀な魔導師が何人束になろうと絶対に勝てる相手ではない、故にこその最高傑作なのだから。
あの子が全力を出した機動六課やその他の優秀な魔導師を完全完璧に捻じ伏せるその姿……ああ、考えただけでまた涎が出そう……くふふふ。
『問題は……騎士ゼストがどう動かれるかによりますが』
「今更あの人1人で動いたところでどうってことはないよウーノ。S級と言っても死に損ない……1人でどう奮闘したところでこっちの大成を覆せるだけの戦果は挙げられないんだしさ」
『本来ならドゥーエを対処に回しておきたいところだったが……まあ、ゼストとレジアスが何を話したところで全て手遅れさ』
自由の身にしてあげたゼストに関するお話。ウーノの心配を他所に私と兄さんは結構楽観視してたりする。
あの人の最終目的があのヒゲオヤジ、すなわちレジアスに会いに行くことってのは知っての通りなんだけど要はそれだけ。
タイムリミットを宣告したあの日からそれなりに日も過ぎているし、今のゼストが戦いに参加したところで長くは保たないのは明白。
どう足掻いたところで弱った所をこっちの兵器が蹂躙してそれでおしまいってことよ。
兄さんが言っているドゥーエには万一中の万一に備えて別の仕事の為に待機してもらっている。
死に損ない1人をどうにかするためにわざわざあの人を動かすのも今となってはもったいなさすぎることでしかないんだから。
「くっふふのふふー……そのレジアスとも結構な付き合いだったけど、今となっては笑い話でしかないよねえ兄さん?」
『今は亡き最高評議会も合わせて、彼らの希望は一緒さ……地上と次元世界の平和と安全、それを守りたいために私やカティーナに協力を仰いでいたのだからね』
「本末転倒もいいところだよねえホント、私らみたいな最悪の人種に頼んでまで守りたい平和とか……無関係の人間が何人死んでも平和が守れりゃそれでいいって言ってるようなもんだし」
『自らの正義を守るためなら犠牲もやむなし……なかなか傲慢な矛盾を抱えておいでなのだからね』
嘲笑と共に肩を竦める私と兄さんの中の認識は同一の物だということが実はちょっぴり嬉しかったりもする。
ともかくとしても、あのヒゲオヤジが今の状況を前に間抜け面晒してることを思うとそれだけでも笑えてくるんだからね。
私や兄さんを生み出して縛り付けていた気になっていた評議会の連中も含めて、ねえどんな気持ちかな? って言ってやりたい気分。
あ、あの脳みそトリオはもう死んでたか。
と言っても、私達を利用しようとしてたとかそんなことはどうでもいい。元より私も兄さんもそういった復讐だなんだなんてことに興味は無い。
今も昔も変わらず己の欲望のままに全てを利用し全てを作り出し全てを破壊し尽くす、ただそれだけなんだから。
「マスター、ゆりかご内部の最終調整と改良、すべて完了いたしました。その報告に」
「おっとと、ナイスタイミングだねえシグノリア、感謝感謝だよ~。セインとウェンディも手伝いお疲れ様」
「いやまあそれはいいんだけど、何というか本当に凄いよねこの子……戦闘だけでなくてあんな細かい作業もテキパキこなせるんだもの」
「流石はカティが最高傑作と言うだけあるっスよー」
「お褒めの言葉感謝します。セイン、ウェンディ。同じ戦闘兵器の先駆者でありマスターのご友人でもある貴方達からそのように言って頂けるとは」
「……加えてこの口調にこの態度、カティ、一体どんなAI積んだのさ?」
「リナスやフィーネはメッチャ口悪かったし、ノーヴェもそれでカンカンだったッスもんねー」
と、その段階でブースターを吹かせながら指令室にやってきたのはその件の最高傑作であるシグノリアにセインとウェンディ。
この子がこなせるのは単なる戦闘だけでない、それ以外の作業についても大抵のことは一流レベルの技能を持つ、だからこその最高傑作なんだから。
そのシグノリアのおかげで、ゆりかご内部の機構についてあれこれ弄れたし、ピンチの時の備えも万全になっている。
口調についてはその時の私の気分の問題でしかなかったけどね。
流石にリナスやフィーネ、アレスタルヴォーネと真逆の性格にしたのはちょっとやり過ぎだったかな?
私がゼロから手掛けている以上、根元に植え付けられている思考については何ら変わってないんだけど。
「でも私としてはちょっぴり残念ッス。ノーヴェやディード達と一緒に地上で暴れたかったんっスけど」
「まあまあウェンディ。せっかくカティが私達を直々に指名しれくれたんだからそこら辺はね?」
「あ、いや、もちろんセインの言うようにそこについてはカティに感謝もしてるっスよ?」
「くふふふ……やっぱり貴方たちは素直でいい子だよセイン、ウェンディ。貴方たちだからこそ私の護衛兼最高のショーの特等席を渡してあげたいって思えたんだしね」
「マスターの仰る通りです。貴方達2人は私やフィーネに万一のことがあった際における最後の要なのですから、私もご健闘をお祈りしています」
シグノリアが何か喋る度に面食らったような顔になるセインとウェンディを見るのも面白いなあ。
この2人をゆりかごに呼んだのも私の守護担当以上に、一緒に楽しみたいからという理由が大きい。
特に玉座の聖王や駆動炉担当となるシグノリアの活躍は最高に楽しい一時になるに違いない。
その楽しみを共に分かち合える子が側にいるってだけで、何倍も楽しいんだからね。
「何にせよ準備は完璧……後は敵さんが来るのを待つだけだかねえ……私の最高傑作として恥じない最高の戦いぶりを期待しているよ、シグノリア?」
「全てはマスターの仰せのままに」
にっこり笑顔で応援してあげれば機械音を唸らせながらゆっくり頭を下げるシグノリア。
準備は完璧、サイも振られた、後は転がりぶつかるのを待つのみ。
いよいよ始まる最高のお祭り……前夜祭以上に私を楽しませなさい、時空管理局。
*
地上本部施設、その内部は現在置かれている異常事態にそぐわない程不気味なまでに静まり返っていた。
非戦闘員はおろか、警護の為の武装局員ですら最低限の人数しか配備されていない。
大半が防衛ラインの戦力として駆り出されているということもあるが、それを踏まえても内部人員が少なすぎている。
「………………」
そんな現状を命令し作り出したのが自室のデスクに両肘を付いて沈黙を貫いている地上本部のトップ、レジアスである。
周りの部下の進言も聞かず、今彼は部屋の中でたった1人で佇んでいる。
その心の内は普段目にする怒りや激情の姿とはかけ離れた、落ち着きと後悔に満ちた静かな物。
「…………」
レジアスが言葉を発することは無い、ただ只管に待つのはやがて訪れるであろうその瞬間。
悪しき力に手を染めてまで守ろうと誓った地上世界の平和と安全、それが今どうなっているかは現在の混乱が物語っている。
そして数日前に入ってきた報告……副官であり娘でもあるオーリスが何者かに刺され、瀕死の重体にあるということ。
全てを失い抜け殻同然となりながらもレジアスはそんな中でも1つの確信があってこの場所に残っている。
あるいは、地上本部襲撃の際に捉えたある1人の男の姿、それこそが今日起こることの前触れだったのかもしれない。
ドォオオオン!!!
「……手荒い来訪ですまんな、レジアス」
「構わんよ、元よりそんなことを気にしている余裕も無いのでな……ゼスト」
その確信が現実になる瞬間、突如として轟音と共に破壊されるレジアスの自室の入り口の扉。
その先から現れたのがレジアスが自らの失態によって死なせてしまったとずっと思い込んでいた親友、ゼストの姿。
8年の歳月と幾度のすれ違いを経て、2人は遂に直接の相対を果たしていた。