狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第28話:狂気の本祭、Part1

地上本部施設の一室、相対するのは2人の男。

8年という長い時間の末にゼストとレジアスは互いに視線を背けることなく正面から向かい合っていた。

 

「聞きたいのは1つだけだレジアス……8年前、俺と俺の部下を殺させたのは、お前の指示だったのか?」

「…………やはりそのことか」

 

懐から取り出した2枚のセピア色の写真、そこに写るのはレジアスの率いる部隊の面々ともう1つ。

共に地上の正義と平和の為にそれぞれの力を尽くそうという誓いあった、若き頃のゼストとレジアスの姿。

その写真を前にしてもレジアスは一切臆することなくレジアスに向けての視線を少しも逸らすことは無い。

 

「…………お前を例の戦闘機人事件の担当から外すことを通達したその日……お前とお前の部隊による独断専行……それを予測しきれずにあの男への通達が遅れた……ワシのミスだ……」

「やはり、ジェイル・スカリエッティと……あの男とあの時から繋がっていたのだな」

「そうだ……全てはお前と誓い合った、地上世界の平和の為……それも、今となっては虚しいものだがな」

 

まるで吐き捨てる様に呟くレジアスの言葉を受けても、ゼストは怒ることも無くただただその言葉を聞き入れていくだけ。

悪しき力に頼ってまで守ろうとした地上の正義、その力に染まっていく友人に対する疑念。そこから生じたすれ違いによる悲劇……

言ってしまえばほんの少しズレた歯車の動きが、全体の歪みとなって表れ、取り返しのつかない事態を招いてしまっただけのこと。

だが、それで自分が関与していないなどと言い訳をする気などレジアスには無い。

それだけ、目の前にいる死んだはずのこのゼストという親友が彼にとって掛け替えのない存在であったということ。

その親友と誓った地上の平和、親友の命を奪ったという現実を前にしても、もう立ち止まることは許されないと心に鞭を打ちながら進み続けてきた道。

それがもたらした結果が何であるかは、今のミッドチルダを取り巻く惨状を見ればすぐにわかることであった。

 

「…………今更お前1人を責めるつもりは無い……だが、それでも言わせてくれレジアス……」

「ああ……」

「俺は……俺1人だけなら、例えどんな道であれ、地上の平和に繋がるのなら、お前の正義に殉じる覚悟があった……だが、俺の部下たちは、何のために死んでいったというんだ……」

 

8年間ずっと溜め込んできた自身の想いの全て、ゼストの口から吐き出されるそれをレジアスもまた少しも漏らすことなく受け止めていく。

自身とその部隊が全滅する原因となった戦闘機人プラントと、そこにいた狂気の科学者スカリエッティとベルリネッタ、配下の戦闘機人と無人兵器たち。

その力に成す術も無く倒され、自分は愚か大切な仲間であった自分の部隊までもを全滅させれるという悲劇。

それだけに終わらず、自分も駒として蘇生させられた挙げ句、部下の1人の身柄を人質にされてその娘までもを利用されてしまった。

しかも、それを救うための手段も時間も今の自分には残されておらず、できることといえばこうして親友に真実を問いただし、恨み言をぶつけることだけ。

ここに辿り着くまでの全ての現実、ゼストにとってもレジアスにとっても決して望んでいた筈ではない、こんな筈じゃなかったこと。

 

「…………どうして、こんなことになってしまったんだ……俺とお前が夢見た正義や平和は……どうして、こんな姿になってしまった……」

「……今更何を言っても無駄なだけだ……だが、ワシはこの道しかない、この道が正しいのだと、ずっと自分を信じて、心を鬼にしてやってきたのだ……その果てがこのザマだ」

「レジアス……だがお前は……」

「本当はお前を失ったあの日から、取り返しがつかなくなっていたんだろうなあ……お前の命まで奪ってしまった以上、立ち止まることはもう許されないのだと……真実は真逆だった……お前という、ワシを唯一止められる男を失ったあの日から……」

 

目頭を押さえながら涙と共に語られるレジアスの想いにゼストもまた瞳を震わせている。

レジアスはスカリエッティの様な人間と手を組むことも含めて、自分の正義を疑ったことは無かった。

だが、地上本部への襲撃から始まり、今も尚止まることなく続いている彼らが振りまく狂気、今日までの己の在り方を問う死んだはずの親友。

全てを失い、自分と肩を並べ自分を止めることのできる男を前にして、レジアスはようやく自分の過ちに気付くことができたのである。

ただ、そこに至るまでの時間が致命的なまでに遅すぎたのだ。

 

「……ならば俺もまた、この原因を生み出してしまった男の1人として、責任を果たさなくてはいけない」

「…………ああ、お前に委ねられるのならワシも何も言わん……お前の好きにするがいい、ゼスト」

 

ならば残された僅かな時間で少しでも自分と親友の望んだ世界を取り戻す為に命を燃やす。

その為の最初の責任を果たさなくてはいけないと、ゼストは手にしていた槍を構え直す。

それを前にしてもレジアスは一切逃げることなく、両目を瞑ってゼストの行う采配に全てを任せるのであった。

 

 

 

ドゴォオオオン!!

 

 

 

そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで跳び上がったゼストによって振り下ろされた一撃が部屋の内部に衝撃を起こしていた。

 

 

 

*

 

 

 

止まることなく軌道上を目指して浮上を続ける聖王のゆりかご、その周辺空域。

ゆりかごを止める為に出撃した何人もの空戦魔導師に、それを遥かに上回る数のガジェットドローン達。

その数、言葉通り撃てば当たるという表現がピタリと当て嵌まってしまう様な壮絶な光景となっている。

蓄積されたデータの下、ガジェット程度の性能の相手に落とされるようなヤワな魔導師は1人としていないものの、

途切れることなく敵が次から次へと出続けるというこの状況を打破しない限りは、いずれ根負けするというのもまた事実であった。

 

「陣形展開!! 敵兵器の発着点を叩いて!! まずはそこを潰してからや!!」

 

その魔導師部隊の中で指揮を取るのが起動六課部隊長の八神はやて。

対ゆりかご戦力の実質的なリーダーである彼女は休むことなく指示を飛ばしながら、自身の攻撃の手も緩めることは無い。

これだけの大事である以上、はやてのリミッターも完全に解除されており、本来の彼女の実力がフルに発揮されている。

1発魔法を放つ度に数十機のガジェットが撃墜されていくという凄まじさ。

が、その本気のはやてが前線にいるというのに、それでも敵の出現が途絶えることが無いというのが更に異常であることも示している。

スカリエッティとベルリネッタはこの日に備えてそれだけの数を用意していたということである。

 

(ヴィータちゃん!!)

「おうよっ!!」

 

揺りかご周辺の空域を担当している機動六課メンバーははやてだけではない。

リインとのユニゾン状態でギガントフォルムのアイゼンを振るい、一撃で大型ガジェットを叩き潰すヴィータもいる。

 

「やれるなアギト?」

(当たり前だ!! 猛れ炎熱、烈火刃!!)

「剣閃烈火……火竜一閃!!」

 

同じようにアギトとのユニゾン状態で、その姿を一段と様変わりさせているシグナムもいる。

アギトの力で炎を纏ったシュランゲフォルムのレヴァンティンは、火炎を纏った連結刃として唸りを上げ、

その名に違わない火炎の竜の如くに大量のガジェットを一撃の下薙ぎ払っていく。

 

「レイジングハート!!」

『Straight Buster』

 

リミッター解除状態のより高レベルの射撃と大火力砲撃に特化した形態、エクシードモードとなったレイジングハートを握るなのはもいる。

高速で飛び交いながらほとんどの隙を見せずに瞬間的に放たれる桜色の閃光。

その一閃は僅か数秒の間にガジェットの大群の中を直接貫いていき、たった一発でその殆どを撃ち貫いていく。

 

「第7密集点撃破完了、次行くよ!」

『りょ、了解!!』

 

少しの油断も余裕も見せることなく只管に敵を倒し続けるなのはのその姿に周りの空戦魔導師たちも慌てながらも付いていく。

はやてと同様になのはたち隊長陣たちも同様に今までかけられていたリミッターを完全に解除されている。

周囲の空戦魔導師が一瞬動きを止めてしまう程に、隊長であるはやてだけでなく他の3人の実力も群を抜いていた。

 

『に、24番射出口より新たな敵影を確認!!』

『南側からも同じく!! 機影94、これは市街地降下ルートです!!』

「……次から次へと沸いて出てきやがる、ベルリネッタの奴はどんだけこいつらを作ってやがったんだ」

「だが我々が退くことはすなわち奴らにミッド地上の蹂躙を許すことに等しい、だからこそ―――」

(あたしらがここで引き下がる道理なんてあるわけねえ!! 旦那の守りたかった地上をアイツらの好きにさせてたまるかよッ!!)

 

それでも尚、まるで嘲笑うかのように周囲に響くのは別動隊からのガジェット増援の報。

シグナムとその中にいるアギトも、悪態を吐いているヴィータも心の底では同じ思いでいる。

自分たちの手で、ゆりかごも含めたこのバカげた兵器たちもベルリネッタも全部止めてみせるのだと。

 

「みんな落ち着いて、拡散しないように一点集中で叩ける内に空で叩くんや、散らばられたらそれこそジリ貧になる。ミッド地上の航空魔導師隊、その力と勇気の見せ所や!!」

「「「はいっ!!」」」

 

その想いはシグナムとヴィータの主であり家族でもあるはやてもまた同じこと。

敵増援の報に一切慌てることもなく周囲に指示を飛ばしながら空戦魔導師部隊と共に攻撃陣形を組み直す。

SSランクという管理局全体で見ても最高クラスの実力者、一騎当千のエース達が集結した部隊である機動六課を束ねる長、

八神はやて二等空佐がその全力を以てして自分たちと共に戦ってくれているという事実は、それだけで多くの魔導師たちの士気向上に繋がる物でもあった。

 

(とはいえ……敵の数もゆりかご自体の大きさも含めてこのままじゃアカン……やっぱりクロノ君からの情報通り、中を叩かんと)

 

はやての指揮下で他の六課隊長陣も合わせて今の所は戦線の維持には十分な戦力と勢いが揃っている。

が、例えゆりかごの砲門を全て潰しガジェットの発着点をも使用不能にしたところでゆりかご本体の動きが止まるわけではない。

如何にはやてが誰にも劣らぬ膨大な魔力量と絶大な破壊力のある広域殲滅の魔法を持っているとしても、

外部からの攻撃だけでゆりかごを停止させるなどという芸当は流石に不可能である。

となれば、この状態を保っていられる状態の内に一刻も早く内部への突入を敢行しないといけない。

 

『八神二佐、奥へと進行可能と思われる突入口を発見!! 現在、20名が先行部隊として向かっています!!』

「ええタイミングや……なのはちゃん、ヴィータ、シグナム、外周警戒はこのまま私と部隊で引き受ける!! 3人は中へ!!」

「了解!!」

「おうっ!!」

「御武運を、主はやて!!」

 

その段になって正に朗報と言える報告が別動隊の魔導師部隊からもたらされる。

ガジェットの大群を潜り抜けて発見されたゆりかご内部へと続いているその入り口。

すぐさまはやてはなのは達3人にその旨を伝え、なのは達もまた一切の躊躇なくそれに答えて突入口へと向かっていく。

機動六課の誇るエース3人が戦線から離脱するというだけでも戦力的にはかなり厳しくなるのも確かなことではあるが、

下手に投入戦力を渋って内部で倒されてしまっては元も子もなく、そちらの方のリスクの方が大きいという判断。

ならば、その下がった戦力の分だけ自分が頑張ればいいとはやてはそう考えていた。

 

『!!……南東方向に異なる敵影を確認!! これは……例のベルリネッタの巨大兵器です!!』

 

そのタイミングを待っていたとばかりに別方向から莫大な破壊を撒き散らしながら姿を見せるのは、ガジェットとは違うその巨体。

黒い要塞チェロクアに白い円盤チェロクア・ピューマ、嘗てなのはすら撃ち落として見せた火力偏重型兵器とその直系。

それも1機だけでなく数機の編隊としての登場という、並の魔導師からすれば悪夢にも等しい光景が広がっていた。

 

「みんな下がって!! あの大型連中は私がやる、みんなは陣形を保ったままガジェットの殲滅を!!」

『りょ、了解しました!!』

 

であるなら、並ではない自分がその敵軍を引き受ければいいだけのこと。

一瞬にして判断を終えたはやては周りの魔導師たちを下がらせたうえでシュベルトクロイツを振りかざし魔法陣を展開。

次いでもう1つのデバイスである夜天の書のページが勢いよく捲られていく、停止するページに記されているのは嘗て闇の書の悪意を止めた攻撃の1つ。

神々の黄昏の名を冠する圧倒的なまで威力を持つの白き閃光。

 

「響け、終焉の笛……ラグナロクッ!!」

 

ロングアーチからのサポートも受けつつ、はやての眼前に展開された魔法陣から巨大な白い閃光が放たれる。

その一撃は砲撃体勢に入っていた複数のチェロクアとチェロクア・ピューマを高濃度のAMFの上から一撃で捻じ伏せる程の破壊力を見せつけていた。

 

 

 

*

 

 

 

ミッドチルダの森林地帯、その奥深くに隠される様にぽっかりと穴を空けている洞窟の入り口。

周囲には破壊されたいくつものガジェットの残骸、すなわちスカリエッティのアジトである。

 

「はああああああああ!!!」

 

その奥地に進行を続けながら、フェイトはザンバーフォームのバルディッシュを咆哮と共に勢いよく振り下ろす。

通路の天井を破壊しながら叩きつけらえるその一撃は、警備の為に配備されていた多型ガジェットの複数を斬り裂いていく。

 

「烈風一陣!!」

 

そのフェイトの傍らで同じように敵群に臆することなく突撃していくのは聖王教会のシスターの1人、カリムの補佐官的立ち位置にあるシャッハ・ヌエラ。

幼少時からカリムやヴェロッサとは親しい仲で、その護衛として磨かれてきた魔導師としての実力も申し分ない物。

愛デバイスであるトンファー型の形状の武装、ヴィンデルシャフトのカートリッジロードと共に行われる魔力付与攻撃。

ガジェット程度では到底捉えきることのできない速度と共に振るわれる一閃、その一撃一撃が確実にガジェットの装甲を斬り裂いて爆散させていく。

 

「ご協力感謝しますシスター・シャッハ。お2人の調査のおかげで迷うことなく進むことができます」

「探査はロッサの専門です、この子たちのおかげでもありますし今回はアギトがもたらしてくれた情報によるところが大きいですから」

 

一所の敵を殲滅し終え、一段落といった感じでフェイトとシャッハは笑顔を向け合う。

その周囲にいるのは数匹の黒い幻影の大型犬、ヴェロッサの持つレアスキル、「無限の猟犬」によるもの。

アギトが六課に投降した際に得た情報を下にヴェロッサとシャッハがこのスカリエッティのアジトのあるポイントに先行していたのだが、

それを確定付けることができたのは単にこの猟犬たちの活躍があってのこと。

魔力探査も含めた超高度なステルス性の下、ヴェロッサの目となり耳となり情報をかき集めることの可能なレアスキル。

ヴェロッサの査察官としての優秀性を裏付ける物でもあり、その猟犬の隠密性すら逃すことなく捉えてきたこの洞窟の内部機構。

直後に浮上を開始したゆりかごの存在も合わせて完全ビンゴといった感じだった。

そして、駆けつけてきたフェイトとシャッハが先行隊として突入、残りの部隊はヴェロッサの調査による安全なルートから順次進んでいく手筈となっている。

 

「このまま奥へと……」

「はい、スカリエッティの居場所まで」

 

休憩もそこそこに、猟犬と別れた後にフェイトとシャッハはそのまま歩みを進めていく。

一連の事件の首謀者の1人にして、今正にミッド全域に混乱を振りまいているジェイル・スカリエッティはすぐそこにいる。

ならばここで自分たちがいつまでも立ち止まっているわけにはいかないという強い決意は2人に共通している物だ。

敵の出現も警戒しながら、先へ先へと進んでいくフェイトとシャッハ。

 

「……これは」

 

その先の通路の一端、薄暗いぼんやりとした光に照らされるその場所の両端並ぶのはいくつもの生体ポッド。

唖然としながら周りを見渡すシャッハの視線の先にいるのは、まるで死んだようにポッド内に揺蕩う何人もの人間の姿。

生体操作技術に異常な情熱を注ぐ狂気の科学者の居城、そこにあるそれらが何を意味するのかはシャッハにもすぐにわかること。

 

「人体実験の素体……人を人と思わずに命を弄び、ただの実験材料として扱う……あの男はそういう人間なんです」

 

少し前の前向きな空気も瞬時に霧散してしまう程、フェイトに浮かぶのはスカリエッティに対するやりきれない怒り。

自分自身の生まれ、本当の子供の様に愛情を注いできた1人であるエリオのことも含め、その全ての元凶とも言えるのがスカリエッティ。

立ち並ぶ生体ポッドとそこに収められている実験材料として捕らえられている人々の姿を見るだけでもその残虐性、狂気の一端を垣間見ることができる。

無論ここにいる人々だけでない、各地に散っている戦闘機人も含めてその裏で何人の人間が犠牲になったのかなど、想像するだけでも悍ましいこと。

それを間近で見たとあってはフェイトも心の中での怒りが膨れ上がり、抑えきれなくなっていたのである。

 

「……なら、1秒でも早く、止めなくてはなりませんね」

「その通りです……!!」

 

そのフェイトのやりきれない思いを感じ取ったからこそ、シャッハもまた強い決意に満ちた表情でフェイトに言葉をかける。

スカリエッティという科学者を野放しにしておくということはつまり、この眼前の吐き気すら催すような悪夢の光景を生み出し続けることでしかない。

そのような凶行を少しでも早く止めなくてはいけないと、フェイトとシャッハの想いが重なる。

 

 

 

ドォオオオン!!!

 

 

 

「シスター・シャッハ!!」

「な―――――!!?」

 

が、次の瞬間に起きたのは突如としての爆発と衝撃、崩落する通路の床。

何の前触れも無く起きたソレにフェイトの言葉もむなしく、巻き込まれたシャッハが一気にアジトの下層へと墜落していってしまう。

罠にしろ何にしろ、このような事態が起きたといことは敵が自分たちがここに居ることに気付いている可能性があるといこと。

すぐさまフェイトは臨戦態勢を取りながら、墜落していったシャッハの安否を確かめるために通信を行う。

 

「御無事ですか、シスター!!」

『……こちらは何とか無事ですフェイト執務官……尤も、かなり下層まで落とされたと思われます……それに……』

 

崩落の残骸を避けながら着地したその先、広大な空間でフェイトからの通信を受け取りながら表情を硬くしシャッハが見た物。

まるで待ち構えていたかの如く大量に展開していたのが複数の大型ガジェットにタルーガやリノチェキロンといったベルリネッタの兵器群。

空間内の高濃度AMFも合わせて、敵群を振り切ってフェイトの元に戻るのはかなり厳しい状態にあった。

だとするなら、応援が来るまで持ち堪えるか単独でこの大量の敵を殲滅するかの2択となる。

 

『……問題ありません、こちらは私で押さえます!! フェイト執務官は先に!!』

「…………了解、それに私の方にも……」

 

腹を括ったシャッハの言葉を受けてもフェイトは迷うことなく答えるのみ。

シャッハの魔導師としての実力を十分に知っているからこその信頼でもあったが通信を終えた直後、フェイトの目の前に姿を現したのは2つの人影。

バルディッシュを構え直すフェイトと相対するは戦闘機人のトーレとセッテ。

 

「お久しぶりです、またお会いできたことを光栄に思います、フェイトお嬢様」

「ッ……!!」

 

地上本部襲撃の際と同じくトーレから向けられるのは一切の裏心の無い下で放たれるそんな言葉。

それもフェイトにとってはやはり前回と同じく自分の感情を逆撫でする物でしかない。

 

「お聞かせくださいフェイト様、こちらにいらしたのは帰還ですか、反逆ですか」

 

口調は無機質ながらも、トーレと同じようにフェイトのことを思ってのセッテからの進言。

帰還か反逆か、トーレ達戦闘機人から見ればそのような表現になるのかもしれないが、

フェイトからしてみればそのどちらも一蹴するだけでしかない愚かな問いである。

 

「そのどちらでもない……管理局員として行う犯罪者の逮捕……それだけだ……!!」

 

静かな怒りの下でフェイトから発せられる宣告。

一縷の望みもあったとはいえ、やはり想像通りの展開になったとトーレとセッテも怯むことなくそれぞれの武器を構え直した。

 

 

 

*

 

 

 

ミッド地上の廃棄都市群、その上空を高速で飛来する1機のヘリから降下するのは4人と1匹。

機動六課新人フォワード部隊も自分たちの任務を遂行するために目的地へと到達していた。

目的はミッド中央に向かっている敵勢力を抑える迎撃ラインへの参加。

部隊の協力と共に敵の中でも特に危険視される戦力である戦闘機人や召喚士を先行して止めるのが主目的となる。

AMF下や戦闘機人との交戦経験の多い六課のメンバーであるからこそ任せられたこの任務。

自分たちが倒しきるまではいかなくても、迎撃ラインで対処可能になるまでその戦力を削る必要がある。

彼女たちがいる廃棄都市区画から迎撃ラインを越えた先からは多くの一般市民が未だに避難を続けている中央都市区画までほぼ一本道。

市民の安全と平和を守る管理局員として、絶対に負けることの許されない重要度の高い任務である。

既にいくつもの敵影が確認されている中で、スバルとティアナが地上を駆け、そのすぐ横をフリードに跨ったエリオとキャロが進む。

 

「!!……あの機体……それにあの娘は……」

 

降下ポイントから数分もしない先でキャロが目視したのは廃ビルの一つ、その上空に浮かぶ忘れもしない白い巨影。

機動六課隊舎を焼き払い、ヴォルテールの一撃で海中へと消えた怪鳥、アレスタルヴォーネの姿。

すぐ下のビルの屋上に佇むのはスカリエッティの協力者の1人、召喚士ルーテシア・アルピーのとその召喚蟲の一体であるガリュー。

キャロが更に見たのはそのルーテシアが指差す方向にあったもの、自分たちをここまで運んできてくれた新たなヘリパイロットであるアルトが操縦するヘリの機影。

 

「フリード、お願いっ!!」

「キャロッ!!」

 

ティアナの静止も構うことなく、キャロの一声によってフリードは高度を上げてその敵の一群へと向かっていく。

とはいえ、その一連の行動はティアナにも見えていた物であり、放っておくわけにもいかないのは確かなこと。

 

「予定変更よスバル、先にあっちを何とかする、いいわね!!」

「了解!! ウイング――――」

 

ティアナの指示をすぐ様理解したスバルは急停止、次なる行動を開始する。

足下に魔法陣が展開され、リボルバーナックルの装着された右腕が振り下ろされ、そのまま魔力による道が形成され、

 

「――――キヅイテナイトデモ、オモッテイタノカ?」

「!!――ティアッ!!」

「くぅっ……!!」

 

その直前、上空のアレスタルヴォーネの背部のコンテナから放たれる複数のミサイルがスバルとティアナのいるポイントに向かって降り注ぐ。

反応が少々出遅れながらも2人ともそれぞれ別方向に飛び退くことによってそれの直撃と爆発からの回避には成功していた。

 

「見つけた……」

「は――クロスミラージュ!!」

「遅い――ツインブレイズ」

「きゃああああ!!」

 

が、体勢を立て直す暇も与えられないまま、ティアナに襲い掛かるのは戦闘機人の1体であるディード。

固有武装である双剣を振りかざしながら襲い掛かるディードに対してティアナもクロスミラージュのダガーモードで対抗。

しかし、近接戦闘に特化しているディードの方に分があり、幾度かの武器の打ち合いを経てティアナは近くの廃ビル内へと吹き飛ばされてしまう。

 

「ティア!!―――」

「余所見なんかしてる場合かよッ!! 鉢巻!!」

 

パートナーの危機にスバルが声を上げるも、彼女の目の前にはノーヴェの拳が迫っていた。

後方に下がりながらスバルは回避に専念するも、ティアナと同様に体勢が不完全だったこともあって徐々に押されていく。

 

「うりゃああああああ!!!」

「うわあああああああ!!!」

 

ノーヴェはその隙を見逃すことなく、怒りのままにジェットエッジの噴出口から発した加速と共に蹴りの一撃を放つ。

両腕でクロスしながらもスバルはそれをまともに喰らって悲鳴を上げながら近くの道路の外壁へと叩きつけられてしまう。

 

「スバルさんとティアさんが……!!」

「急いで合流しないと……」

 

ヘリに対する一撃をとりあえず防いだものの、眼下で繰り広げられている戦いはフリードの上からでもエリオとキャロにもすぐにわかったこと。

このまま戦力を分断されると厳しいことになると判断した2人は一旦下がって合流を試みようとする。

 

「…………!!」

「あれは……ケリュケイオン!!」

『Wheel Protection』

 

それを容易く許すほど敵も甘くは無い、それを証明するように2人に突撃してくるのはガリューの姿。

すぐさまキャロは両腕のデバイス、ケリュケイオンに魔力を込めて防壁を展開。

一直線に向かってきたガリューのその一撃を防ぐことに成功する。

 

「イキテイタノカコゾウドモ、ワタシトシテモシッタイデアッタ。マサカキサマラニ、アノヨウナカクシダマガアッタトハナ」

「お前は……!!」

「ワタシガニクイカコゾウ? マアイイ、ブソウガフカンゼントハイエ、キサマラフタリテイド、ヒネリツブスコトナドゾウサモナイ、タトエマタアノコクリュウヲダソウトモ、コチラニモコンドハ、ドウシツノチカラノモチヌシガイルコトダシナ」

「…………」

 

直後に姿を現すのは自分たちの居場所を焼き尽くした怨敵たるアレスタルヴォーネと、後方へと下がったガリューにその主であるルーテシア。

アレスタルヴォーネへの怒りをにじませるエリオとは対照的に、ルーテシアの姿を見つめるキャロの瞳はどこか悲しげな物であった。

 

「くぅ……!! このまま分断されたままじゃティアもライトニングの2人も……ここはひとまず……!!」

 

そのすぐ側の廃道、ノーヴェに吹き飛ばされた衝撃の瓦礫の下から何とかスバルは立ち上がる。

上空のアレスタルヴォーネや召喚士、複数の戦闘機人と敵の戦力はかなりの物である。

自分たちの実力が向上しているといっても、その強敵たちをここで相手にするのはリスクが高い。

すぐさまスバルも同じ考えにいたり、合流を果たすべきマッハキャリバーに魔力を込めて駆け出すのだが、

 

「あっ…………!!」

「…………」

 

その眼前にいたのは今までとは更に違う異なる戦闘機人の姿。

まるでその時を待ち構えていたかのように腕を組み堂々と絶ちながらも感情を一切感じさせない無機質な瞳。

その姿を見てスバルはすぐさま足を止めてしまう。

可能性が無いわけではない、寧ろそうなる可能性の方が高い、でも出来る事ならそうなってほしくないと願っていた相手、その相手が自分の目の前に立っている。

 

「ギン……姉……」

「……目標確認、機動六課スターズ分隊03、スバル・ナカジマ」

 

呆然とするスバルを他所に、ギンガは生気を感じさせないその声で拳を構える。

その身を捕われ、救うと誓った大好きな姉との戦い、迷いを断ち切れないままながらもそれに呼応するようにスバルも同じように拳を突きだしていた。

 

「ッ……!! この状況で分散は不味い……合流を―――!!?」

 

一方でディードの一撃によって廃ビル内へと吹き飛ばされていたティアナ。

新人たちの指揮を担う立場でもある彼女が戦力分散のリスクに気付かない筈も無い。

すぐさま合流の為に動こうとした次の瞬間、光を遮断し薄暗苦なると共にティアナのいた廃ビルが丸ごと結界に取り囲まれてしまう。

 

『ノーヴェ、ディード、幻術使いは捕縛を完了した、後は手筈通りに』

「了解……」

 

その状況を作り出したのが更なる戦闘機人であるオットーのIS、レイストームの能力の1つによるもの。

ティアナと同じく地上侵攻部隊の実質的な指揮を担当するオットーの指示に答えて、ティアナのいる廃ビル内にディードが姿を現す。

 

「テメエは捕獲対象じゃねえからな……!! 鉢巻の前にお前を徹底的に潰させてもらうぜ!!」

「それにオットーを通じてカティからも情報を貰っている。幻術使い、この子たちは貴方にとって因縁の相手だって」

「!!――アイツらは……」

 

ティアナを狙って廃ビル内へとディードに続くように姿を現したのがノーヴェと、ディードが引き連れてきた複数の機影。

廃ビル内の遮蔽物に身を潜めながらティアナがそれを見た瞬間、彼女の両目が驚愕によって見開かれる。

 

「ギュルルルゥウウウウ…………ゥゥゥウウウウウ……」

「ピョロロロロロォオオオオ…………」

 

ディードの両端を守る様に対照的な低音と高音、唸るような機械音を発する異形の機体が1機ずつ。

その内の1機である右側に座するのは嘗てティアナが辛酸を舐めさせられた相手でもある近接戦闘式の機動力特化兵器――ディヴィアヴォル。

そして反対の左側にいるのは、ディヴィアヴォルとほぼ同一ながらもカラーリングや武装が異なる、甲高い機械音を発する別の機影――ファルツィオル。

どっちにしろ、形が異なるにせよその2つの異形はディードの言うようにティアナにとっては決して忘れることの無い相手。

 

(……このタイミングで、これだけの敵を送り込んでくるなんてね……光栄というか絶望的というか……)

 

クロスミラージュを両手で持ちながら自嘲するかのようにティアナは心内で呟く。

結界内に閉じ込められた状況下での4対1というこの状況、しかも敵のどれもが自分の実力を上回るであろう強敵ばかり。

スバルやライトニング達も各々で敵の攻撃を受けており、応援が来るまで持ち堪えるにしてもかなりの時間を要するであろう。

 

(…………少しでも気を抜いたら、やられるわね)

 

だが、ティアナに諦めるという選択肢は一切浮かぶことは無い。

管理局員としてこの混乱を鎮めるために全力を尽くすのみ。

絶望的な戦力差と状況下の中、ティアナは覚悟を決めるのであった。




◆ファルツィオル
機動性特化型兵器であるディヴィアヴォルのマイナーチェンジ版。
全体的なフォルムはディヴィアヴォルと同一であり、
シールドバインダー内蔵のフィールド発生装置や、鋭利なカギ爪などによる刺突機能などはそのまま。
大きく異なるのは近接戦闘特化のディヴィアヴォルの対極として、射撃兵装が充実しており、
シールドバインダー先端のエネルギーブレードをガトリングランチャーに換装している他、
肩部にマシンキャノン、機体先端部両端にバルカン砲なども搭載しており、
それの一斉射による激しい弾幕を展開することも可能な程、大量の弾薬を積み込んでいる。
ただ、基礎性能自体は変わらない中で大量の追加武装を組み込んだ影響により
肝心要の機動力に関してはディヴィアヴォルよりも劣ってしまっている。
それでもまだ並の魔導師には捉える事すら困難なレベルではあるのだが。
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