狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第29話:狂気の本祭、Part2

揺りかご内部への侵入に成功したなのはたち3人。

高濃度にAMF満たされたその空間と、迫りくる大量のガジェットを撃ち破りながら前へ前へと進んでいく。

 

「うおりゃあああああああ!!!!」

『Schwalbefliegen』

 

咆哮と共に放たれるのはヴィータの得意とする射撃魔法。

リミッター解除状態の全力とリインとのユニゾンにより魔力値を始めとする基礎能力全体が大幅向上している故、

その一撃の威力も圧倒的な物。AMFなど存在してないかの如く紅い光弾はガジェットの大群を次々と貫通していく。

 

「紫電一閃!!」

 

ヴィータの隣で剣を振るうシグナムもまた同じこと。

カートリッジロード共に膨れ上がる魔力と、炎に包まれた剣によるシグナムの十八番とも言える斬撃。

跳び上がりながら振り下ろされる縦への一閃は大型ガジェットの装甲を紙屑のように容易く斬り裂いていく。

 

「……よし、これで一通り撃墜したか」

「ああ、AMFが濃いとはいえ、雑兵相手なら問題ないだろう」

 

通路内の敵を粗方片付けた後に、シグナムもヴィータも各々のデバイスを構え直しながら余裕を感じさせる一言。

それぞれ融合機とのユニゾンを果たしている今の2人は、総合的になのは以上の能力を持っていると言っていい状態にある。

 

「……待てシグナム、後ろだッッ!!」

「なっ……ヴィータ!?」

「ヴィータちゃん!?」

(急にどうしたですかヴィータちゃん!!)

 

が、そんなやり取りも束の間、突如としてヴィータががグラーフアイゼンを振り上げながら急突撃を行う。

ユニゾン状態にあったリインですら予想外の動き、その先に振り下ろされるのはシグナムの背後の何も無い空間。

いきなりのことになのはもシグナムも驚きながらも飛び退いた直後に起こったのは、衝突音と爆発。

 

「…………(ジジジジジ)」

「コイツは……!!」

「……恐らくは特殊なステルス機構を搭載した……8年前と、地上本部襲撃の際にヴィータや高町を落とした敵と同一の物……」

 

驚嘆で目を見開くヴィータの視線の先にあったのが、今の一撃によって機能停止に陥っている1機の機械。

今まではそこにいなかった筈の巨大な翼を持つ4つ脚の機械、なのはやヴィータにとっては忘れもしない初期型ガジェットがそこにいたのである。

 

「すまんなヴィータ、まさかあそこまで敵の接近を許していたとは……」

「気にすんなシグナム、あたしだって前にやられてなかったら気付けなかったかもしれねえ……」

「私やヴィータちゃん、シグナムさんもいるのに直前まで誰も気づけないなんて……」

(単に高度なだけとは言えない……相当に厄介な機構を持っているです)

(れ、連中はこんなもんまで作ってたってのかよ……)

 

ユニゾンをしているリインやアギトも含めて口々に漏れ出す目の前の敵への恐怖。

なのは達高位の魔導師にとっては単純な戦闘能力だけでなく、魔力探査を含めた敵の察知能力にも非常に優れている。

リインとアギトも入れれば総勢5人、リミッターも解除されている全力を発揮できる状態。

だというのに気づけたのは、直感的に悪寒を感じ取ったヴィータだけだったという事実。

それだけでもこの敵の隠密性、ステルス機構の性能の高さをまじまじと感じ取れてしまうのである。

 

「……まさか、他にもいるんじゃねーだろうな?」

(敵のステルス性能にもよりますが……同質の反応や違和感は今の所感じられないです)

「だが油断は出来ない、敵にあのようなタイプがいると分かった以上、この先は更に警戒しながら進まなくてはな」

 

予期せぬ新たな敵の出現、シグナムもヴィータも表情を更に硬く真剣な物にして慎重に前へと進んでいく。

その背後からなのはも同じように辺りに最大限の警戒をしながら2人に付いていくのだが、

 

「でも、シグナムさんもヴィータちゃんも少し飛ばしすぎなんじゃ……」

 

そんな中でなのは2人に対して心配そうに声をかける。

実際、内部侵入後に出てきたガジェットは全てシグナムとヴィータの2人で全て片付けており、なのはは殆ど戦っていない。

前衛2人で殆どは事足りるのも確かなことではあるのだが、それでも少々負担をかけすぎているのではないかと不安になっていたのだ。

 

「問題ない。砲撃型のセンターのお前の魔力を温存する意味でも、前衛で力を振るうことが私やヴィータの仕事のような物だしな」

「それに大丈夫だなのは。あたしらにはリインやアギトがいるし……それに何というか、今は誰にも負ける気がしねえんだ」

「ヴィータちゃん……?」

「今度こそ絶対に、全部守って全部取り返して……その為ならいくらでも本気を出せるって、上手く言えねーけど、そんな感じだ」

 

フッと余裕の笑みを見せるシグナムは勿論のこと、ヴィータに浮かぶ笑顔も無理をしているだとか作り笑いだとかそういう類を一切感じさせない純粋な物。

何度も守ると誓い、何度も挫折を味わい、その果てに今のヴィータはここに立っている。

ヴィータの心はもう絶対に負けることは無い、負けられないという強い決意と自信で溢れているのだ。

 

「だからあたしらのことは心配すんな、なのは。とっとと先進んでヴィヴィオを助けて、そんでこいつもぶっ壊して全部止めるぞ」

「う、うん……」

 

グラーフアイゼンを肩に担ぎながら話すヴィータの背中を見つめるなのは。

不安が完全に拭いきれたわけではない、だがそれ以上になのはが感じたのはヴィータに対する頼もしさ。

管理局に入ったばかりの頃から共に多くの戦いを経て、自分が撃墜された時にもたくさん心配してくれて、

同じ機動六課のスターズ分隊の中でもなのははヴィータに何度も助けられてきたと感じている。

 

(どうしてだろう……今のヴィータちゃん、何て言うか……)

 

その小さな背中に抱える大きな決意、なのはも何度も目にしてきた物の筈なのに、

自信満々に語るヴィータの言葉も合わせて、いつも以上にどこか頼もしさを感じさせるものに見えていたのである。

 

 

 

キュウウン……

 

 

 

「なっ……これは!!」

 

しかし安心も束の間、突如として3人が進む通路に出現したのは薄い緑色の魔力障壁。

それを境にしてなのはだけがシグナムとヴィータの2人と分かれてしまう形になってしまっていた。

 

「いきなりこんなモン使ってこっちの戦力を分断してくるとは……!!」

「言ってる側からこのザマとは情けないな……しかもこの障壁、並大抵の攻撃では貫けそうもない」

 

レヴァンティンの切っ先を障壁に押し当てながらシグナムはそれの頑強さをすぐに理解する。

事実、シグナムの理解は当たっており、その障壁はゆりかごの内部防衛機構の1つとして発動したもの。

完全に破壊するにはそれこそなのはのスターライトブレイカー並の魔力が必要となる。

 

「!!――シグナムさん、ヴィータちゃん、後ろに!!」

 

突然の事態に対策を練る暇すら与えられない。

魔力障壁を境にしてなのはが叫んだシグナムとヴィータの背後から姿を現した大勢の敵。

ガシャガシャとやかましいくらいに機械音を発しながら群れを成してやってくる初期型ガジェットたちと、

まるでそれを率いているかのようにゆっくりと歩いてくる漆黒の人型。

 

「カカッタノハシュゴキシフタリノホウカ、マア、ドノミチワタシノシゴトハ、ナニモカワランガナ」

「アイツは……地上本部で高町とランスターを倒したという例の機体か」

「ソシテカツテキサマトモタタカッタコトガアル、ツルギノキシヨ。チョウドヨイ、テッツイノキシトモドモ、アノトキトオナジヨウニ、マタミジメナオモイヲ、サセテヤルトシヨウ」

 

それぞれの武器を構えて臨戦態勢を取る2人の眼前へとやってきたのは、黒翼を持つ機体フィーネ。

思わぬ強敵の出現に障壁の向こう側にいるなのはも慌ててどうにか戦闘に参加できない物かと策を練るが、

 

「なのはっ!! こいつらはあたしとシグナムで引き受ける、お前は先に進んでくれ!!」

「ヴィータちゃん!? でも私1人だけで……」

「センターのお前を単独で行かせちまうことになるのは忍びねえが、この障壁を破るのに無駄な魔力を使っちまう方が本末転倒だ。ならお前だけでもヴィヴィオか駆動炉のどっちかに辿り着いてくれ!」

「ま、待ってヴィータちゃん!! そういうことじゃなくて……!!」

 

過去に自分の集束攻撃すら正面から打ち破ったほどの強敵。

そんな相手を前に自分だけが仲間を置いて先に進むことが許されるのかと、なのはは悲痛な声でヴィータに言葉を投げかける。

 

「心配すんな! 今のあたしにはシグナムもリインもアギトもいる! 全力も出せる! あたしとアイゼンであんなポンコツとっとと叩き潰してすぐに合流してやるさ!」

「ヴィータちゃん……」

「……イッテクレルナコムスメメ、マスター・カティーナニウミダサレシコノワタシガ、ソウカンタンニウチトレルトオモウナヨ?」

「そっくりそのまま返してやろう、我ら守護騎士もまた、前とは違うということを教えてやる」

 

だがなのはの心配を受けてもヴィータはその自信を崩すことは無い。

迫るフィーネと大量のガジェット、隣にいるシグナムも合わせて激戦の開始は秒読み段階にある。

そうなってしまってはなのはは障壁の向こうにいるヴィータと言葉を交わすことさえできなくなるだろう。

障壁の耐久性はシグナムが言った通りの高レベルな物、それを破るとなれば相応の攻撃が必要な上、

眼前で戦っているシグナムやヴィータを巻き込んでしまう可能性だってある。

 

「ッ……気をつけて!! ヴィータちゃんもシグナムさんも、必ずすぐに合流を!!」

「ったりめーだ!!」

「ここは任せろ、高町」

 

ならば自分も出来ることを行うために今は前に進むしかない。

なのははまだ振り切れない想いを抱えながらも、ヴィータとシグナムの勝利を信じて飛び去っていった。

 

 

 

*

 

 

 

スカリエッティのアジト、内部通路の一画。

狭い空間の中を目にもとまらぬ速さで飛び交いながら刃を交えるのはフェイトとトーレとセッテの3人。

 

「はあああああああ!!!!」

 

ザンバーフォームのバルディッシュ、金色の大剣がトーレに向かって振り下ろされるも、

トーレはその直前に高度を上げて飛び上がることでその斬撃を難なく回避して見せる。

 

「でやあっ!!」

 

その隙を突くようにフェイトの背後から迫るのは、もう1人の敵であるセッテの投擲した2つの曲刀、ブーメランブレード。

高速回転しながら迫りくるそれらをフェイトもまた空中で右へ左へと縦横無尽に交わしながら急降下。

足下にテンプレートを展開しながら次の攻撃準備を行っているセッテに向かって攻撃を行う。

 

「くっ……ぅう……!!」

「IS……スローターアームズ」

 

だがその一撃もまたセッテが発動した防壁によって止められ、拮抗した境目から激しく火花が飛び散っていく。

攻撃を立て続けに防がれて悔しさに表情を歪めるフェイトとは対照的に、一切の動揺を見せずにセッテは自身のISを発動。

セッテのコントロールにより初撃のブーメランブレードがその名称通りに軌道を急速に曲げて再びフェイトの背後からその身を切り裂かんと襲い来る。

すかさずフェイトはセッテから距離を取り、ブーメランブレードの片方を回避、もう片方をバルディッシュで直接叩き返す。

 

「だああああっ!!」

 

しかし休む間もなく次に襲い来るのは四肢にエネルギー刃を形成したトーレ。

自身のIS、ライドインパルスによる急加速も乗せたその一撃は今度こそフェイトを捉えたかに思われた。

 

『Thunder Arm』

「!!――これも防ぐかっ!!」

 

咄嗟に振り上げられたフェイトの左腕の篭手に込められた魔力。

近接戦闘主体の敵に対する緊急の防御として使用された魔力による電撃を一点集中することによるも魔法。

トーレの振り下ろしたエネルギー刃はその防御によって阻まれこれもまた決定打とならない。

 

「それならばっ!!」

「トーレ姉様!!」

「ッ!!!」

 

直後にトーレは空いているもう片方の手にエネルギーを集中してテンプレートを展開、形成したエネルギーをそのままフェイトの眼前で爆発させる。

それに続くようにしてセッテはスローターアームズによって今度は3振りのブーメランブレードをフェイトに向かって飛ばす。

両者からの同時攻撃、交差する脅威と爆発からフェイトは逃れる様にして飛び退き一旦地面へと着地する。

それに続くようにしてトーレとセッテも双方向からフェイトを挟み込むような形で同じように降り立つ。

 

(……AMFの影響が予想以上に強い……何よりこの2人、前と戦った時とは比べ物にならないくらいに強い……!!)

 

迎撃の為に周囲に魔力弾を展開しながらも、バルディッシュを両手で握るフェイトは肩で息をする程に消耗し始めていた。

揺りかご内部と同様にアジト内にも高濃度のAMFが展開されており、フェイトのような高ランクの魔導師でさえ大きな影響が出てしまう。

敵対するのは戦闘機人、魔導師であるフェイトとは違ってISはその影響を受けずに十全に力を振るってくる。

その相手であるトーレとセッテも戦闘能力面ではスカリエッティの戦闘機人の中でも共にトップレベルの強敵。

しかも以前の交戦とは違って両者とも最初から全力であったことに加え、地上本部襲撃から今日までに行われたデータ更新によって更に実力を高めていたのである。

総合的に見て今のフェイトとトーレ、セッテとの戦力差には小さくない開きがあった。

 

(だけど、ソニックもライオットもここで使うわけには……他のみんなの援護にだって行かないといけないし、何よりスカリエッティに辿り着く前に倒れたりでもしたらアウトだ……)

 

当然、この現状を打破する手段がフェイトには何も残されていないというわけではない。

だが、それは文字通りの切り札でもあり相応の魔力消費やその他のリスクも含んでいる能力。

AMFの影響かが強いこの場所で使うとなれば長時間の使用には耐えられず、一気に勝負を決める必要が出てくる。

トーレとセッテはそれを簡単に許してくれるような相手ではないだろうということはフェイトにもすぐにわかる。

まして、ここでこの2人を倒せたとしても自分はここでリタイアとなる可能性が大きいばかりか、肝心のスカリエッティの捕縛すらできなくなってしまう恐れもある。

追い詰められたこの状況下、どのような選択を行うべきかフェイトは岐路に立たされていた。

 

『御機嫌よう、楽しんでもらえているかな? フェイト・テスタロッサ執務官』

「なっ……スカリ、エッティ……!?」

 

しかし、その段になってフェイトだけでなくトーレとセッテにも予想外の出来事が起こる。

驚愕で目を見開くフェイトの視線の先に浮かび上がったモニターに映る1人の男。

一連の事件の元凶の1人であるジェイル・スカリエッティがいつもと変わらぬ笑みのままモニター越しにフェイトと相対していた。

 

『我々の楽しい祭りの序章はまだまだ始まったばかり……君や他の機動六課や管理局員の諸君にもまだまだ楽しんでもらいたいものだね……』

「何が……何が楽しい祭りだ!! 今も地上を混乱させ、多くの人々を巻き込んでいるだけの重犯罪者が!!」

 

遂に直接言葉を交わすこととなった怨敵を前に、またフェイトは自身の中の怒りが一気に膨れ上がってスカリエッティに言葉を返す。

罪も無い人々を大勢巻き込み、ゆりかごというミッド地上全てすらをも破壊可能な危険な兵器を使ってまでこの言い草。

常人には理解の外であるスカリエッティの思考がわかる筈も無く、フェイトは怒りのままに言葉を発するしかできない。

 

『重犯罪? それは戦闘機人計画などに始まる生命操作技術のことかい? それとも私が基礎を構築したプロジェクトFのことかい? もしくは私の愛しい妹が見事に作り上げた機械技術の――』

「全部だ……!! お前もベルリネッタも、無関係の人々を不幸にさせているだけでしかない……!!」

 

先程までの消耗すら忘れて消えてしまいそうな程、フェイトは怒りに打ち震え、バルディッシュを握る両手にも凄まじい力が込められている。

シャッハと共にこのアジト内だけでも多く確認できた戦闘機人や人造魔導師の素体として確保された者たち。

それだけでなく自分やエリオの出生に関わり、母親も含めた多くの悲劇の呼び水となったプロジェクトFの存在。

更にはスカリエッティと同質であり、親友であるなのはも含めて多数の人間を傷つけてきたベルリネッタの生み出す違法兵器群。

そのどれもがフェイトにとって絶対に許すことなど出来はしない。

 

『やれやれだよ、いつの世も革新的な人間は虐げられてしまうものなのだ……』

『くふふふ……全くだよねえ兄さん? 最初から悪しき物と決めつけて、蓋をしただけで満足してる馬鹿な連中には丁度良い薬にもなってたろうにねえ……ッッ……!!』

「ッ……カティーナ・ベルリネッタ……!!」

 

罪悪感など1ミリも感じさせないような小馬鹿にする口調と共にスカリエッティは肩を竦めてみせる。

その言葉に続くように新しいモニターが開かれ、映し出されるのはゆりかごの総司令室から通信を飛ばしているベルリネッタの姿。

スカリエッティと同様、彼女もフェイトの怒りの言葉などどこ吹く風であり、普段通りの態度と空気を全く崩さないでいる。

 

「そんな傲慢でお前たちは……!! 人の命や運命を弄んで……!!」

『無関係の人間を何人利用しようが知ったこっちゃないっての、人間誰だって何かの犠牲の上に革新を成し遂げてきたんだからさあ?』

『そうとも、私たちは何も無益な殺戮をしたいわけではないさ……貴重な実験材料として有効活用しているだけだよ、何の価値も無い無意味な命をね!!』

「ッ!! このぉおおおおおお!!」

 

人を人とも思わない、傲慢なまでのその言い方にフェイトの怒りが瞬時に限界まで振り切れる。

それの呼応するかのように振り上げられたバルディッシュが唸りを上げて多量の電撃を撒き散らしていく。

その光景を前にして待機状態にあったトーレとセッテもそれぞれ体勢を立て直してその攻撃に備える。

 

『くふははは……!! 本当に滑稽だよねえ? 事実を言われてそうやって怒り狂って誤魔化すしかできない……ッッ……!! その時点で同類だって認めてるような物じゃん?』

「なっ―――!!」

 

フェイトが行動に移る前に突如として彼女の立つ床から伸びてきた複数の紅い糸。

咄嗟に回避を行おうとするも間に合わず、複数の糸によってフェイトはバルディッシュ諸共空中でその身を完全に捕らえられてしまう。

 

「……アイカワラズ、ワタシヲシツボウサセルノガ、トクイナヨウダナ、フェイト・テスタロッサ?」

「クククク……仕方のないことさリナス。普段は温厚で冷静、されども怒りと悲しみですぐに我を忘れてしまう……彼女はそういう人間なのだから」

 

いつの間にか消失していたベルリネッタのモニター、直後に通路内に響き渡る2つの足音。

直前のそれをも更に上回る驚愕にフェイトが視線を釘づけにされたその先から現れたのは、

ついさっきまでモニターを通して会話を行っていたスカリエッティ本人と、以前にフェイトが完全敗北を喫した紅翼の機体、リナス。

 

「だからこそ、この私ですら相応の準備を以てして軽く感情を逆撫でしてやれば、容易く捉えることができる」

「アアソウダナ、マッタクモッテ、ソノトオリダ、ドクターヨ」

「しまっ――!!」

 

紅い糸の発生源である、スカリエッティの右腕に装着された紅いラインの走るカギ爪型のデバイス。

それを力強く握りしめるのに連動するように糸の拘束は一気に強まり、耐えきれなくなったバルディッシュの魔力刃が砕け散る。

声を上げた時にはもう遅い、続け様に放たれたリナスのホーミングレーザーがフェイトに直撃し、そのまま床へと叩きつけられる。

 

「……っ……ぅぅ……!!」

「ククク……正に母親譲りの性格だと言わざるを得ないね?」

「マスターノイッテイタ、プレシア・テスタロッサ……タシカニ、コノオンナモソイツトドウルイナノダロウナ」

 

痛みに呻くフェイトの周囲に容赦なく紅い糸が展開され、そのままフェイトは完全に逃げ場を失ってしまう。

スカリエッティも含めて4対1、フェイトを取り巻く状況は更に絶望的な物となっていた。

 

 

 

*

 

 

 

ミッドチルダ地上、廃棄都市区画を飛び交う大小様々な複数の影。

エリオ、キャロのライトニングの2人が戦うのは召喚士ルーテシアと彼女の駆る召喚蟲、それに加えて巨大兵器アレスタルヴォーネ。

エリオたちの成長やデバイスの機能向上、修理が完全ではない今のアレスタルヴォーネの状態も含め、

ややルーテシアたちが押し気味ではあれど、それでもエリオとキャロは戦線の維持を何とかこなしていた。

しかし、それ以上にこの戦いを拮抗状態にさせている要因がルーテシア自身の心にあった。

 

「貴方はどうして!? なんでこんなことを!?」

「………………」

 

飛行型ガジェットに乗るルーテシアを追跡しながら、フリードに跨るキャロは必死に言葉をかける。

市街地戦や六課襲撃の際にもその姿を確認していた敵の召喚士であるルーテシア・アルピーノ。

しかし、今日初めてすぐ近くで彼女の瞳とそこに宿る意志を見たキャロはその奥にある感情を僅かに感じ取っていた。

あの少女はスカリエッティや戦闘機人たちとは違う、望んでこの戦いを起こしているのではないのだと。

だとするなら、自分たちがその理由を知り、説得することが出来ればこの戦いを止められるかもしれない。

管理局員としての責務と、純粋に目の前の少女を救ってあげたい、双方の想いの下でキャロはルーテシアに呼びかけ続ける。

 

「こんなところで、こんな戦いをする理由はなんだって言うんだ!」

「…………!!」

「グダグダト、ウルサイコトダ……」

 

その想いは少し離れた場所で戦いを繰り広げているエリオも同様である。

アレスタルヴォーネから降り注ぐ多数の弾丸やミサイルの雨を掻い潜りながら、

ルーテシアの忠臣であるガリューと刃を交えつつ言葉をぶつけていた。

 

「何のために戦っているのか、その目的だけでも教えて!! 悪いことじゃないなら、私達にも手伝えることがあるかもしれない!!」

「…………ドクターと、カティのお願いだから」

 

空中での追跡が続く中、目を細めながらルーテシアは静かに口を開く。

そのまま周囲に浮かばせたインゼクトを弾丸としてキャロに放つも、対抗するように放たれたキャロのウイングシュートの弾丸によってそれは防がれる。

直後、キャロとルーテシアはそれぞれフリード、ガジェットから飛び降りて近くの廃ビルの屋上へと着地し正面から向かい合う形になる。

 

「ドクターとカティは私の探し物を探す手伝いをしてくれる。だから私はドクターとカティの手伝いをしてあげる。ただ、それだけ」

「そんな……! そんなことのだめだけに……」

「そんなこと……?」

 

とても自分自身の言葉で語られているとは思えない単調な口調から漏れ出すルーテシアの行動意志。

目的に対する事件の大きさにはあまりにも不釣り合いな現実を前にキャロは反論を行おうとするも、

その一言はルーテシアの怒りに触れるモノであり、インゼクトの弾丸を放つことでその意思を示す。

 

「貴方にとってはそんなことでも、私には何よりも優先しなくちゃいけないこと……」

「違うよ……探し物のことじゃない……!!」

 

防壁を展開しても防ぎきれないその攻撃、ダメージを負いながらもそれでもキャロは説得を続ける。

何者か別の人間によって塗り固められたその先にあるルーテシアの本当の心を引き出すために。

 

「ゼストもアギトももういない……ドクターだって私といつも一緒にいてくれるわけじゃない……私に優しくしてくれるのは、今はもうカティしかいない……だから私はカティのお祭りの手伝いをするの」

「違う……!! ベルリネッタは貴方のこと……!!」

「そしてこのお祭りが終われば、カティは11番を一緒に探す約束をしてくれている。それでお母さんを目覚めさせることが出来れば、私は不幸じゃなくなるかもしれない」

「違う……それ違うよっ!!」

「……貴方と話しているとイライラする……貴方と話すの、嫌い」

 

眠り続けている母親に会いたいというその一心、静かに語られていくルーテシアのその目的。

だが、その為に今起こしていること、裏で糸を引いている者たちのことも合わせてキャロはそれに肯定を示すことなどできない。

 

「…………!!」

「でやああああああ!!」

 

キャロの背後から迫るのはスピアを振りかざすガリュー、それを追って降下してくるエリオの姿。

キャロを狙うその凶刃を弾き飛ばし、エリオはキャロと背中合わせの状態でガリューと対峙する形に。

 

「……自分が幸せになりたいなら、どんなに不幸で悲しくても他の人を傷つけたりしちゃいけない……!! そんなことを繰り返していたら、本当に欲しい物は見つからなくなっちゃうよ……!!」

「………………」

 

まだ10歳という幼い年齢である以上、説得の為にどのような言葉を使えば有効なのかはキャロにはわからない。

ただそれでも、会話を重ねるうちに薄々と感じ取ってきているのは目の前の少女、ルーテシアの取り巻く境遇。

自分やエリオも嘗て己の境遇を呪い、ただ他人に言われるがままに力を振るい、その結果として他人を不幸に巻き込んでしまったことも数多くある。

だからこそ、そんな自分たちの失敗と同じ過ちを、この悲しい目をした少女に味わってほしくないのだと、キャロは只管にその想いを真っ直ぐにぶつけるだけ。

 

「私の名前はキャロ・ル・ルシエ!! アルザスの竜召喚士で管理局機動六課の魔導師!!」

「僕はエリオ・モンディアル、同じく機動六課の魔導師!! そしてこっちが飛竜フリードリヒ!!」

「貴方の名前を教えて!! こんなことをしなくても、機動六課のみんなで貴方のお母さん探しやレリック探しを手伝えるかもしれないから!!」

「ッ……………」

 

キャロの名乗りに続くエリオと、それに応えるフリードの咆哮。

心の底からルーテシアのことを救いたいと思っての、お互いに全てを知り合いたいという強い想いがあるからこそ、2人は自分たちの名と立場を明かした上で問いを投げかける。

自分の行動を否定しながらも、その境遇に理解を示し、そして自分の本当の目的に手を貸したいと言うその言葉。

2人のどこまでも純粋で真っ直ぐな想いに、いくつもの蓋をされたルーテシアの凍てついた本心が徐々に表に現れ始めていたのだが、

 

「ザレゴトニツキアウノモ、ホドホドニシテオクノダナ、ルーテシア」

「アレス……」

 

その対話に割り込むようにして言葉を放ってきたのは、ルーテシアの上空へと姿を現していた巨大兵器アレスタルヴォーネ。

人の細かな感情など理解する気など毛頭ない無機質な機械音にルーテシア、エリオ、キャロの3人の間に生まれ始めていた物が塗りつぶされていく。

 

「マスターモイッテイタヨウニ、オマエニハマダマダハタライテモラワネバナラナイ、テキノクダランヨタバナシニミミヲカタムケルクライナラ、マズハクダサレタメイレイヲジッコウスルコトニ、シュウウチュウシロ」

「でもアレス……私は……あの子たちは……」

「……ヨソウイジョウニ、ドクサレテイタヨウダナ、ショウショウツカウニハハヤイガ、シカタアルマイ」

「え―――が……ああっ……!!」

 

心を開き始めていたルーテシアの迷い、それを掻き消す為に下されたアレスタルヴォーネの無慈悲な宣告。

直後、ルーテシアが纏う空気が急変、彼女の足元に謎のテンプレートが浮かび上がるのと同時に、複数展開される召喚魔法陣。

そこから這い出てくるのは何体ものインゼクトや地雷王。

 

「貴方……あの子に、ルーちゃんに何をしたの!?」

「カンタンナコトダ、ドクタートナンバー4ガ、アラカジメシコンデオイタ、コンシデレーションコンソール、ソレヲハツドウシ、ルーテシアノセイシンヲ、カキカエテヤッタダケノコト」

「……!! そこまでして……そこまでしてお前たちはッッ!!」

「イクラデモワメイテロ、ワレワレニトッテキサマラハテキデシカナイ……サア、ルーテシア、ショウカンシトシテノ、キサマノチカラヲジュウゼンニフルイ、メノマエノジャマナテキヲ……ケセ」

 

豹変したルーテシアに対する悲しみを吐露するキャロにも、あまりに無慈悲なその仕打ちに怒りをぶつけるエリオにも何ら興味を示すことは無い。

スカリエッティとクアットロ、ベルリネッタらによって事前にルーテシアに行われていた仕込み。

その発動権を譲渡されていたアレスタルヴォーネは自らの判断の下、何の躊躇も無くそれを発動させていた。

 

「インゼクト……ガリュー……地雷王……こいつらを……私の邪魔をする敵を……殺して……!! 殺してええええええええええッッ!!!」

「ルーちゃん……!!」

 

両目に宿るのはあらん限りの憎しみの込められた紅、そこから流れ出す一滴。

精神を無理やり操られ吠えるルーテシアの姿にキャロは胸が張り裂けそうな思いだった。

 

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