狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
ゆりかご通路内、限定された空間の中で飛び交い火花を散らす2人と1機。
床に大量に破壊され煙を上げている初期型ガジェットの残骸が散らばる中、
シグナムとヴィータ、フィーネの戦いは激化の一途を辿る一方であった。
「合わせろ、アギト!!」
(おうともっ!!)
燃え盛る炎の羽根を纏いながら吠えるシグナムに呼応してアギトがその腕に火炎を発生させる。
レヴァンティンを構えながら突撃していく最中、巨大な炎の剣となったそれをフィーネへと叩きつける。
振り向きながらフィーネは左腕に形成したエネルギーブレードを振り上げることでそれに対抗する。
「ナカニイルノハ、レイノユニゾンデバイスカ。バカナヤツメ、ジユウノミニナッタトハイエ、マスターニハムカウヨウナマネヲスルトハナ」
(ほざきやがれカラス野郎!! あたしが忠誠を誓ってたのは最初から旦那だけだ!! あのペタンコ女とお前みたいな鉄くずのことなんてどうとも思っちゃいねえんだよッ!!)
巨大な炎の剣を細身のエネルギー刃1本で受け止めるという芸当をフィーネは容易くして見せている。
が、見下すように発した機械音にシグナムとユニゾンしているアギトが返しながら、その言葉を証明するように込める魔力を高めていく。
それはシグナムが手にするレヴァンティンへと流れ込んでいき、拮抗状態から徐々に押していく形になる。
「はあああああああ!!」
「ウケキレンカ」
押されていくフィーネは咆哮するシグナムから距離を取るようにして左腕を振り抜きつつ、一気に後退していく。
その最中で右腕のライフルを構えて複数個の弾丸を発射するも、それはシグナムの回避と切り払いによって防がれる形になる。
(貴方の相手はシグナムとアギトだけではないんですよ!!)
「ぶち抜け、アイゼンッッ!!」
『Giganthammer』
通路内の高高度に飛び上がったフィーネの更に上から襲い来るのはギガントフォームとなったグラーフアイゼンを振り上げたヴィータ。
リインの補助を受けながら爆発的な破壊力を伴った大鎚がフィーネの頭上から勢いよく振り下ろされる。
そのスピード、タイミング、共に今までの攻撃の比ではなく、回避は不可能と判断したフィーネは今度は左腕に強力なプロテクションを展開して対応。
フェイトのバルディッシュの斬撃やなのはの砲撃魔法すらにも耐えて見せた程の耐久度を誇る盾であったが、
「そんなチャチで薄っぺらい防壁で、今のあたしを止められると思うなよッッ!!」
「……ユニゾンヲカミシテモ、ハカイリョクスウチガ、ハルカウエヲイッテイル、ダト?」
機械でしかないフィーネすらも予想外となったその攻撃がもたらす結果。
今まで防いできたと同じようにその薄いプロテクションと拮抗したヴィータの大鎚は数秒間火花と電撃を散らしながら揺れた後、
爆音と共にそのシールドを見事に破壊して見せていた。
直前にその結果を導き出し、眼前に攻撃が迫る中でフィーネが再び急速後退したことにより、ダメージにまでは至らなかったのだが。
「……サキホドカラ、コチラノヨソクチヲ、コトゴトクウワマワッテクレルナ、マッタク、キョウミブカイコトダ」
「言った筈だろう? 我ら守護騎士を以前と同じに考えるとな」
「そうさ、あたしらの目的はこのバカな巨大船を止めることにあるんだ。テメエなんざにいつまでも構ってる暇はねえ!!」
距離を取りながら相対するフィーネは自分が劣勢であり、相手の2人が余裕綽々であることをわかっていても、それでも一切の焦りも弱音も見せることは無い。
フィーネに内蔵された高性能AI、優勢であればその傲慢を隠すことなく振りまき、劣勢であろうと自分の成すべきミッションを黙々とこなすだけ。
元々フィーネも同型のリナスも、当初から全力状態の六課隊長陣と互角以上に戦えるだけの性能を持った機体として完成した、ネロ・シグノリアの試作機。
現状相手にしているシグナムとヴィータ、2対1とはいえ完全に形成を逆転されるだけの大きな実力差がある筈ではなかった。
その状況が覆された理由の1つが双方共にリインとアギトという適合値の高い融合機とのユニゾン状態にあり、基礎的なデータから予想値を大幅に上回っていたということ。
そしてそれ以上に大きかったのが敵の内の1人、ヴィータの現状の心の状態にある。
「なのはを傷つけた礼は10倍にして返してやる!! 行くぞリイン!!」
(はいです!!)
静止状態が解かれ、再びアイゼンを振り上げて突撃してくるヴィータの攻撃をいなすフィーネ。
それもまた、リインとのユニゾン状態のデータを更新し、十分な見積もりをした筈のそれを上回る攻撃速度であり、回避のタイミングに微妙なズレが生じている。
想いの力だとか気の持ちようだとか、安直に言ってしまえばその類なのかもしれないが、圧倒的な実力差のある敵相手ではそれくらいの一要素で形成が変わることは殆どない。
だがヴィータの持つ本来の実力は紛れも無く本物、Sランクに一歩劣るAAAランクではあるものの、豊富な魔力と実戦経験に裏打ちされた高位の魔導師の1人。
幾度の挫折を乗り越え、余計な迷いや憎しみの一切混じらない、純粋な想いと熱意でその力が振るわれているというだけで、
本来なら互角か僅かに差のある筈だった敵相手でも、それを覆せるほどの勢いを与える重要な要素となっていたのである。
「……ナルホドナ、ドウイウリクツカハシラヌガタイシタモノダ、マスターヲヨロコバセルトイウ、イミデモナ」
如何に高度な処理能力や判断能力を有しているとはいっても、フィーネの本質は飽くまでも機械であり無人兵器。
人間の感情が呼び起こす力という物を理解するには至らず、単純にスペックと数値だけで現状のヴィータの能力を判断していくだけ。
「トハイエ、ワタシモタダデヤラレテヤルツモリナド、モウトウナイ。ウケロ、『ネロ・スフェラ』」
「あの構えは……来るぞ、シグナム!!」
「わかっている!!」
だがそれでもフィーネはその行動に何ら変化を見せることなく、機械的にすぐさま後退しながら両肩のバインダーを前方へと展開する。
この戦闘の最中でも見てきたその動き、ヴィータの声に反応したシグナムもすぐさま回避の為に別の方向へとそれぞれ飛び退いていく。
集束された漆黒の大型スフィアが破裂すると同時に、ばら撒かれるのは1発1発に膨大な破壊力が込められたいくつもの小型スフィア。
通路内の至る所に散布され、床や壁へと激突して連続的な爆発を起こすそれらがシグナムとヴィータを捉えることは無い。
地上本部で得られた僅かなデータとこの交戦の間に、短時間でのチャージから放たれるその攻撃は完全に見切られていたのである。
『Schwalbefliegen』
「フム、トハイエマダアマイカ」
その爆発の爆煙を切り裂くようにしてデバイス音と共にフィーネに向かってくるのは複数の紅い魔力弾。
これらもまた通常時の速度、誘導性を遥かに上回る攻撃であったが、それでもフィーネは慌てることなく全てを回避しきって対応。
直後、斜め後ろの上空から自分に迫っていた魔力反応も見逃さずに察知し、瞬時にその方向へと向き直る。
「でりゃああああああ!!」
「オソイ、『ネロ・リネア』」
反応が間に合ったのなら防がずにカウンターで落としてしまえばいいだけのこと。
そう判断したフィーネは再びバインダーを展開、一瞬でチャージを終えたそのエネルギーを今度は集束砲撃として眼前に迫っていたヴィータに向かって放つ。
既に攻撃態勢へと入っている相手への大火力砲撃。この戦闘中に更新した予測データで見ても仕留められるかそうはいかずとも致命傷を与えられる。
そう判断しながら砲撃に飲み込まれていくヴィータの視認を終える前に残る敵への警戒へと意識を切り替えていたのだが、、
(駆けろ、隼!!)
「ブレネンファルケン!!」
数秒にも満たない僅かな時間、ヴィータの行った行動が本当に攻撃であったのならその次の一撃の回避も容易に可能だった筈。
が、最初から捨て身の囮だったと気づくには遅すぎたフィーネの行動。
背後から迫り、振り向いた先にあったのはレヴァンティンの第3の姿、弓矢の形状、ボーゲンフォルムのそれを構えたシグナムの姿と、
既に発射を終え、フィーネのすぐ前に迫っていた爆炎に包まれた一発の攻撃。
速度と貫通能力に優れたその一矢はアギトとのユニゾンによって更なる破壊力を込めた正に必殺の一撃と化しており、
音速すらをも上回る炎の隼となってフィーネへと迫っていたのである。
「ギッ……!!!」
瞬間、フィーネがすぐさまその攻撃を確認して回避行動に移ろうとした時にはもう遅い。
シグナムの放ったその一撃は遂にフィーネの機体を捉えて直撃と爆発。
叩きつけられた莫大な破壊力の一撃が漆黒の機体を貫きながら尚も飛翔を続けてゆりかご通路の奥へと消えていく。
機体の中心部に風穴を開けられた上に直後の大爆発に巻き込まれる格好となったフィーネは火花を散らしながら床を転がっていった。
「いつつ……どうにか上手くいったみてえだな……」
(リ、リインはまだ心臓バクバクいってるですよ……)
「全く無茶をするなお前は、あそこまで接近しての囮とはな」
「なーに、直撃を避けれたのはリインがいてくれたおかげさ。それでシグナムの攻撃までの隙を稼げたんだからそれでいいだろ」
攻撃を終えて剣を収めるシグナムのすぐ横へと降り立ったヴィータ、その身に纏う白い騎士甲冑は右側の一部がフィーネの砲撃によって焼け焦げていた。
流石にほとんど目の前まで接近してから防壁を展開しつつ回避行動に切り替えていたので、ヴィータも無傷というわけにはいかなかった。
言ってしまえばヴィータが囮になってのシグナムのボーゲンフォルムからの必殺の一撃という極単純な作戦だったのだが、
危険を顧みずに突撃してきたヴィータの本心をフィーネが読み切れなかったことや、ボーゲンフォルムのデータが不十分だったこともあって、
この戦いにおいてはそれら全てが合わさって致命的な隙となり、結果的にそこを突いたシグナムとヴィータが勝利したという結果に終わっていた。
「ギ……ギギ、ガ……ナ、ナルホド、タシ……カニイウダ……ケノコトハアッタ……カ」
「……まだ喋れんのかよ、しぶとい野郎だ」
「ワ、ワタシ……ノデータハス……グサママス……ターノモトヘトテン……ソ……ウサレ、コウ……シンサレ……ル。コノサキノクド……ウロ……ニテマツ、ワ……レラノ……ジョウイ、シグノ……リア……ヲ……ヨ……リツヨク……スルタ……メノデ、データ……ト……」
そして既に戦闘に耐えうる状態でないフィーネへとシグナムとヴィータは近づいていく。
機体中心部にぽっかりと空いた穴と右腕や背部の翼、バインダーユニットなどの多くを欠損し、全身から電撃を発しながらも、尚も止まることなく機械音を発していく。
そのまま長々と伝えるべきことを伝え終えたかのように、ガクリと顔部分が床へと力なく倒れる。
自身が敗れた悔しさなど1欠片も無い、最期の瞬間まで敵のデータとマスターへの忠誠を崩すことなくフィーネは機能を停止していた。
「……どっちにせよ、これでリベンジの1つは果たせたわけだ。後は――」
「奴も言っていたこの先にあるだろう駆動炉と、そこで待つ新たな敵、だな」
強敵の1体を撃破したといっても、それに対してシグナムもヴィータも喜んでいる暇などなかった。
戦闘中に更新されていたロングアーチからの情報更新。
機能停止したフィーネの守護していたこの先の通路に待つのはゆりかごを停止させるのに破壊しなくてはいけない重要要素の1つである駆動炉。
そこで待つであろう次なる強敵のことも考えながら、気合を入れ直しながらシグナムとヴィータは飛び上がり奥へと飛んでいく。
*
結界に丸ごと捕われた廃ビル内、その中で行われている激闘。
「幻術馬鹿の一つ覚えが!! そんなチャチなもんなんて通用しねえんだよ!!」
怒号と共に右腕のガンナックルから連続的に弾丸を射出していくノーヴェ。
その対象は自分を取り囲む複数のティアナの幻影であり、その全てを一撃の下掻き消していく。
「ギュルルルゥアアアアアア!!」
「ピョロロロォォオオオオオ!!」
別のポイントではその怪音を発しながら別の幻影を薙ぎ払っていくディヴィアヴォルとファルツィオルの姿がある。
爆発的なまでの機動力による突撃でディヴィアヴォルがビル内の瓦礫を粉砕しながら突撃を繰り返し、
その横でファルツィオルが全身の重火器の一斉射で手当たり次第にビル内を破壊していく。
「とはいえなかなかしぶとい、応援が来るまで逃げ切られても面倒になる」
他1人と2機の攻撃の隙間をディードが駆け抜けていく。
戦闘開始直後からずっとこのようにティアナは多数の幻影で敵の目をごまかしながら移動し、散発的な射撃を織り交ぜている。
そのどれもがノーヴェ達には僅かなダメージにもならず、時間稼ぎが精一杯である。
しかし、ディードが言うように自分たちが倒されずともこのまま耐えきられる内に別の戦力に駆け付けられてしまう可能性もある。
結界を張ってまで作り出した4対1という圧倒的優位なこの状況。それが崩される前に厄介な幻術使いであるティアナを倒してしまわなくてはいけない。
「はあ……ぜえ……ぜえ……!!」
そのティアナはといえば敵4体からやや離れた位置の死角で魔法陣を展開しながら幻影の形成と維持に集中していた。
1秒たりとも気を抜けない張りつめた空気、敵の猛攻を掻い潜りながらの移動と潜伏、多量の魔力を消費しての幻影。
それらの要因でティアナは大幅に消耗しており息も絶え絶え、カートリッジも魔力も僅かというところまで追いつめられていた。
運の悪いことに直後にクロスミラージュが告げるのが今の潜伏場所を敵に特定されたという報告。
簡易モニターに目をやれば敵の1人がこちらに向かってきているのが見える。
「…………現状で纏められたデータを加味しても、チャンスに懸けられる可能性は2割前後か……」
片膝を着いた状態からティアナは立ち上がり、これまでの交戦データを基に自分に可能な行動を模索していく。
ティアナは逃げ回る中でも敵の攻撃速度や威力、パターンや癖などを徹底的に分析しながら纏めていき、自分1人での逆転の可能性があるかどうかを判断していた。
その上で叩き出された、奇襲による敵の撃墜確率は甘めに見積もっても20%というかなり低い確率。
実戦という場においてこんな僅かな確率に懸けて行動をするのは自殺行為に等しいと言える。
「…………ホントはさ、自分でもわかってたんだ。私はどんなに頑張ってもなのはさんやヴィータさんみたいな超一流になんてなれっこない……」
追い詰められたから出てきてしまうことなのか、ティアナの口から漏れだすのは弱音。
自分が尊敬し、その背を追い続けてきたエースたちならこんな状況すらも簡単に覆して勝利を手に出来るかもしれない。
でも自分はそんなエースではない、射撃と幻術が得意なちょっと優秀な魔導師レベル。
莫大な魔力からの砲撃や目にも止まらぬ速さでの近接戦などできるわけない、自嘲も込められた独白。
「……だけど、そんな人たちでも私と同じだった……悩んだり悔しい思いをしたり……それで、こんなちっぽけな私さえ頼ってくれてる……だから、私は……」
一所の弱音を吐きだした上で思い浮かべるのは憧れるエースの弱い部分。
嘗て無茶な魔法の使い方をしその身に大きな傷を負ったなのはや、仲間を守れない悔しさを自分に伝えそれに再び飲み込まれそうになって自分の胸の中で泣いていたヴィータの姿。
エースと呼ばれる者たちでさえ絶対無敵などでは決して無く、時には大ケガをしたり悲しみを胸に叫ぶことだってあることをティアナは直接見てきている。
その弱さを知った上でなのはもヴィータも、それだけじゃなく他の新人メンバーや六課職員たちも自分のことを頼りにしてくれている。
ならば、その自分がこんな場所で諦めて何もせずにやられることなどあってはいけない。
成功確率は20%という低さだが、やらないと決めた瞬間にそれは0%になるのだから。
嘗てヴィータに言われた命がけで無茶をしなくてはいけない場面、それは今なのだと。
「でやああああああ!!!」
「ッ……!!」
その決意の直後に天井を破壊しながらノーヴェとディードが突撃してくる。
すぐさま思考を切り替えたティアナはクロスミラージュをダガーモードへと移行。
ディードの放った双剣の一撃を受け止めるも、続け様に背後からノーヴェの蹴りが迫る。
ノーヴェのけりの一撃によって周囲に爆発が巻き起こり、その姿が見えなくなる。
「ピョロロロロォオオオオオ!!!」
その爆煙から伸びる一筋の代々の魔力、天井にアンカーをくっ付けて飛び出てくるティアナの姿をファルツィオルは逃さない。
両腕のシールドバインダー内のガトリングを向けて、上昇中のティアナにそれを容赦なく発射するが、
「な!?――アイツも幻影!?」
「本物は……」
ガトリングの弾丸が当たった瞬間に掻き消えるティアナの姿、すなわちそれも幻影だということ。
すぐさまノーヴェとディードが本物のティアナの位置を探ってすぐに見つけ出したのは自分たちの目の前。
ノーヴェの一撃を真っ向から受け止めダメージを負っているティアナの姿が爆煙の中から現れる。
(戦闘機人が前後に2人……無人兵器が少し離れた上空に待機中……条件はそろった、後はタイミング……!!)
あまりに無防備なその状態を逆に警戒してノーヴェとディードはじっと静止している。
その最中でティアナは改めて戦況を確認し直し、その瞬間が来るのをジッと待ち構えていた。
*
廃道の上で行われている戦い、それは片方がもう片方を一方的に追い込んでいる形となっている。
「あっ……ぐ……が……」
「………………」
何の感情も込められていない機械そのものな表情のギンガが見つめる先にいるのはスバル。
全身傷だらけでギンガに首を絞められて苦しげに抵抗するもその拘束から逃れることができない。
その状態を作り出していたのはギンガとの実力差やスバルの状態が万全ではないということ、
何よりも、覚悟したはずなのにやはり心のどこかで愛する姉に拳を向けるということに対する迷いを捨て切れていれず、
スバルの攻撃の一切は通じず、逆にギンガからの無慈悲な攻撃を受け続けた末にこうして追い込まれてしまっている。
「抵抗を辞めて動作の停止を、貴方はドクターが定めた捕獲対象、こちらの勧告に応じれば悪いようにはしない」
「くうっ……!!」
最早ギンガ・ナカジマとしての意志などなく、スカリエッティによって改造された戦闘機人ナンバー13としての淡々とした言葉。
それを跳ね除けつつ、スバルは残された力を振り絞って拘束から逃れるも、直後にギンガに腕を取られてしまう。
「……作業内容変更、戦闘停止までダメージを与えた後、回収します」
「ギン姉―――!! あぐっ!!」
姉の無残な姿に涙するスバルの叫びも届くことは無い。
ギンガは何の躊躇いも無く掴んだ腕からスバルを投げ飛ばし、直後に左腕の一撃を顎に直撃させて叩き飛ばす。
抵抗も出来ずにその一撃がクリーンヒットしたスバルは朦朧とする意識の中で宙を舞い、やがて落下していく。
(……やっぱり、無理だった……私にギン姉は止められない……昔みたいに、弱くて情けないままで……)
光を失う瞳に映るぼやけた視界の中、スバルの心を支配していくのは諦めの感情。
幼い頃から泣いてばかり、強い母親や姉に頼ってばかりだった頃の自分の姿。
なのはにその命を救われて彼女の様な強い魔導師になりたいと誓って訓練や任務に励んできた今日までの時間。
それら全て、今相対している姉に何も出来ずにやられているという現実が、自分は何も変わっていなかったという後ろ向きな思考が肥大化していた。
抗おうとする意志など残されておらず、続け様に左腕のリボルバーナックルを唸らせながら突撃してくるギンガの一撃が落下してくるスバルへと迫る。
ガキィン!!
「……もう諦めたのか、クイントの娘……確か、スバルといったか」
「えっ……?」
が、その一撃を阻んだのはその場にいた誰でも無い乱入者によるもの。
廃道へと叩きつけられながら、上体を起こしたスバルが見たのは槍を構えた屈強な男性の後ろ姿。
「お前の母親は、どんなに絶望的な状況下にあっても、決して最後まで諦めない強い女だった……お前はそうではないのか?」
「あ、貴方は……?」
「騎士ゼスト……我らに刃向かおうというのですか?」
「……俺の大切な部下の娘をこんな姿にしてしまった……その責任くらいは負ってからでないと、死んでも死にきれんからな」
今度は両目に光が戻り、しっかりとスバルが見据えたのはギンガからの一撃を槍で弾き飛ばし、それを構え直す騎士ゼストの姿。
レジアスとの会合を終えた後、残されたわずかな時間を使ってゼストは最も近くであったこの戦場へと降り立っていた。
自分の無茶によって巻き込み死なせてしまった大切な部下、その1人である忘れ形見を襲っている悲劇を振り払うため。
(そうだ……この人はお母さんの……)
絶対的な危機に遭った自分を救ってくれたその男の姿にスバルは確かに覚えがあった。
幼い頃に僅かな時間会っただけだったが、それでも自分の大好きだった母親の所属してい部隊の隊長で、その母も尊敬していた程の凄腕の騎士。
機動六課にやってきたアギトがもたらした情報と、嘗ては局の魔導師であったことしか知り得ていなかった中、
直接の相対を果たしたことによってスバルはゼストのことを完全に思い出していたのである。
「もう戦えないというなら安全な場所まで下がっていろ。せめてもの償いだ……アイツの……クイントの娘であるお前が苦しんでいるというのなら、俺がそれを救ってやる」
「…………あ……」
自分の代わりにギンガと対峙するゼスト、その後ろ姿から感じ取れる温かさと頼もしさを前にしてスバルの中の諦めが拭われ浮かぶのは自分の中の決意。
些細なことで泣いてばかりだった自分に、お母さんの娘だから貴方も強い子だと笑顔で言ってくれた母親の姿。
強い魔導師になった先で何をしたいのかと問いを投げかけてきたなのはの姿。
それに答えたその時の自分の言葉……どうしようもない災害や争いに巻き込まれて、助けを求められている人たちを自分の力で助けてあげられるようになりたい。
同じようになのはに命を救われたスバルはその時から確かにそう誓っていたのだ。
「…………すみませんでした、ゼストさん……けど、もう大丈夫、です……!!」
「……いいのか、相手はお前の――」
「思い出しましたから、今の貴方のことを見て……さっきまでのどうしようもなくて情けない私を救ってくれたように、今度は私が誰かを救う番だって!!」
傷だらけの体に鞭を撃ちながらスバルは決意の篭もった言葉と共にゼストの前へと乗り出しギンガと再び相対する。
また誰かに救われた自分の様に、今度は目の前で苦しんでいる姉を、敵に捕らわれて無理やり戦わされている状態のギンガを今度は自分の手で救いだしてみせる。
もう誰かに頼るだけの弱い自分ではないのだと、スバルはゼストに真っ直ぐその想いをぶつけていた。
「……俺に残されている時間はもうほとんど僅かだ。出来る事ならもう1人、救ってやりたい奴がいる……ここを任せて、いいか?」
「もちろんです!! それに、今の一撃だけでも私やギン姉を助けてくれました。だから私がギン姉も、お母さんの上司である貴方だって、私が助けてみせますから!!」
「……そうか……その真っ直ぐな気持ち、確かにお前はクイントの娘のようだ…………それを忘れるなよ……」
死に場所を求めるだけだったゼストに笑顔でぶつけられたその言葉。
自分が死なせてしまった部下の娘のその言葉に僅かに笑みを漏らしながらも、その決意と覚悟を信じてゼストはその場を離れていく。
残されたのは再びスバルとギンガの2人だけ。
先のやり取りを前にしてもやはり人間らしい反応など何1つ見せないギンガは再び身構えて拳を前に突き出している。
「行くよ、マッハキャリバー……こんな悲しい今を終わらせるために……今度こそ、ギン姉を助ける為に!!」
『All right buddy』
「ギア……エクセリオンッッ!!」
『A.C.S. Standby』
それに相対する今のスバルの中にもう迷いも諦めも無く、胸の内に込められているのは純粋なまでの強い想い。
相棒であるマッハキャリバーに命じるのは最後の切り札であるフルドライブモード。
爆発的に高まった魔力と共に形成されるのは尊敬するなのはと同じ両足に形成された翼。
大好きな姉を救うため、目標としている自分の姿に近づく為、スバルは最後の一撃と決意を姉へとぶつける。
*
魔力障壁に阻まれた後、反対方向を爆進していたなのは。
その行く手を阻んでいたのは今までと同じ大量のガジェットドローン。
「一々相手をしている暇は無い……! レイジングハート!!」
『All right, Strike Flame』
一直線に飛行を続けるなのはが実行したのはレイジングハートの更なる形態変更。
リミッター解除状態でのエクシードモードからストライクフレームを展開したエクシードモードA.C.S。
機動力上昇のアクセルフィンに加えて、杖の先端にも同じように桜色の翼と槍状の魔力を携えて臆することなくなのはは前へ前へと進んでいく。
そこに内包されている魔力も莫大な物であり、ゆりかご内と複数のガジェットが放つAMFがあるにも関わらず、
それすらも跳ね除けてガジェットの大群の僅かな隙間を縫うようにしてなのはは進んでいく。
突撃形態という名の通り、ガジェットたちはすれ違うだけでなのはの魔力に当てられて爆散していく。
「……あの小さな女の子の、お母さん……か……」
その少し先で待ち受けるは戦闘機人の1体、長距離砲撃に特化したディエチ。
通路の曲がり角に照準を合わせたイノーメスカノンを構えている中でも、ディエチは心の中の迷いが膨れ上がる一方。
アジト内でのノーヴェとリナスのやり取り、作戦開始直前のメンテナンスの際に問いただしたベルリネッタの本心。
この場所での迎撃の前に見てしまった、ゆりかごを動かす為だけに力を毟り取られ苦しみ呻くヴィヴィオの姿。
今までスカリエッティの作品の1人として、戦いの為の兵器として何の疑問も持たずにやってきたはずなのに、どうして今になってこんなことを考えてしまうのか。
「……恨みは無いけど、これが、私の仕事だから……!!」
その迷いを振り切るようにしてディエチは首を横に振るい、エネルギーチャージを開始。
自分がここでしくじればこの後ろに控えるクアットロや、他の終いに面倒をかけることになる。
それを理由にするようにディエチは眼前に迫る敵へと意識を集中し始めた。
「……標的確認、発射!!」
「!!……エクシード・バスターッッッ!!!」
数秒の後に通路の曲がり角から姿を現すのなのはに向けてディエチは容赦なくその一撃を発射する。
そのエネルギー反応に気付いたなのはもすぐさまレイジングハートを前方へと構えて魔力を集中、同じように大火力の砲撃を放つ。
桜と橙、共に並の魔導師などには決して真似できない莫大なエネルギー同士が通路内でぶつかり合い激しく火花を散らしていく。
その威力はほぼ互角であり、拮抗状態を保ったまま双方少しも前後することは無い。
「……ブラスターシステムッ!! リミット1、リリースッッ!!」
その状態を察知してなのはが敢行するのは、決して使ってはいけないと念を押されていた切り札の解禁。
ブラスターシステムと称された限界を超えた強化、その内の1つを解放しての魔力向上。
「ブラスト……シュートッッ!!」
「そんなっ……!?」
爆発的に高まった魔力がエクシードバスターの魔力の本流をより大きく、より太くしていき、ディエチの放った一撃すらをも容易く飲み込む砲と化す。
目の前の光景に驚く暇も無くディエチは桜色の魔力に飲み込まれていく。
「はあっ……はっ……じっとして、突入隊が貴方を発見次第、安全な場所まで護送します……この船は、私たちが止めるから……!!」
砲撃を終えて息を荒げながらも、なのはは歩きながら倒れるディエチにゆっくりと近づき、イノーメスカノン諸共バインドをかける。
エクシードバスターによって抉り取られた地面に仰向けに倒れ伏しているディエチは満身創痍であり、
眼部に埋め込まれた機械レンズにノイズが走る中、飛び去っていくなのはの姿を見ていることしかできない。
「このAMFの中、抜き撃ちでイノーメスカノンのフルチャージを上回る威力……本当に人間なのか……?」
指一本動かすことも敵わない中でディエチの脳裏に過るのは自分を撃破していったなのはへの恐れ。
長距離砲撃一点に能力を強化されているディエチの持つその力は言うに及ばず。
全力で発射すれば魔導師ランクで換算してSランクすらも上回る絶対的な威力を持っていることは自他共に認めていたこと。
その一撃を、自分が圧倒的に優位な条件下で放った筈なのに真正面から撃ち破って見せるという芸当。
最早SだのSSだの単純なランク付けで推し量れる次元をとうに超えている、正に人間離れも甚だしい所業。
戦うための兵器である戦闘機人の持つ専門分野を超えていく高町なのはという魔導師のあり得ない力はディエチにとって恐怖でしかなかった。
『……ナンバー10、戦闘不能を確認、精神汚染度レベルAを突破、退避の為の残余エネルギー、未確認』
「!?……何、これは……?」
が、その恐怖を他所にディエチの脳内に響き渡るのは謎の機械音声。
自分が知らない謎の機能、その声にディエチはそちらに意識を向けられることになるが、
バチィ!!
「はっ―――!! ご…………」
『……機密保持の為、ナンバー10の強制停止を行います。全てはマスター・カティーナのために』
次の瞬間、脳内に走った今までに感じたことも無いような凄まじい激痛と衝撃。
それに対してまともに声を上げることすら出来ず、ディエチは戦闘機人としての……いや、生命体としての機能すら完全に停止させられていた。
マッハキャリバー「私の見せ場、丸々カットですか?」
実を言うとゼストの乱入タイミングについてかなり難航していたり。