狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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正直やってしまった感バリバリなので、閲覧注意。


第31話:狂気の本祭、Part4

ゆりかごの艦尾後部に位置している広大な空間。

正反対の艦首部に位置している起動の要である聖王の玉座と同等に重要区画として存在している駆動炉。

見上げてしまう程に縦に長く伸びた通路とその先で禍々しい光を放つ主要エネルギー部。

その眼前を守護するガジェット、その残骸の最中にシグナムとヴィータはいた。

 

「あれが……そうなのか?」

「だろうな……あれをぶっ潰せばゆりかごは止まるかもしんねーし、そうでなくても上昇速度を遅めるくらいにはなる筈だ」

 

自分たちの到達点を前にして改めてシグナムとヴィータは気合を入れ直す様にお互いの顔を見やりながらやり取りを行っている。

双方、ここに至るまでに戦ったガジェットの大群やフィーネといった無人兵器なども合わせてそれなりに魔力を消費してきている。

だがそれでもまだまだそれなりの時間、全力を以て戦うには十分な余力が残されていることも確かであった。

 

「つっても……こっから先はとんでもねーのが待ち構えてそうだがな……」

(はいです……リインも嫌な感じがさっきから消えません……!!)

「ゆりかごの主要機能の1つを守護する意味では当然だろうが……それを踏まえても、恐らく敵は隠そうとしてないのだろう」

(だろうな、あの変態医師やペタン子女の考えそうなこった……ぜってーこの先にはヤバいのがいるに決まってる)

 

余裕がありながらもシグナムとヴィータが気を抜けない状況下にあるのはこの先がゆりかごの機能を維持するのに必要な場所であることであるということもあるが、それ以外にもう1つ。

ユニゾン状態のリインやアギトすらもピリピリと感じ取れてしまう、何よりロングアーチが示しているモニター表示に提示されている駆動炉内部にある膨大なエネルギー反応。

隠そうともせずに眩く光を放っている、これまでの戦闘機人やリナスやフィーネといった無人兵器すらも遥かに上回るそれ。

今までの一連の事件や元はスカリエッティ達と行動していたアギトの言葉も合わせて半ば確信に近い物を感じていたのである。

この先に待ち構えている自分たちの切り札があれば誰が来ようと物の数ではない、敵はそのように思っているだろうということを。

 

「……だったらやることは最初から1つ、ソイツをぶっ壊して駆動炉もぶっ潰して、そんでとっととなのはと合流する、そんだけだッ!!」

「ああ……行くぞヴィータ、リイン、アギト!!」

(はいです!!)

(わかってらあ!!)

 

それならばその切り札であろう敵を眼前にして何もせずに引き下がるなどという選択肢をシグナムとヴィータが取る筈も無い。

自分たちは機動六課、それぞれその隊長クラスの戦力として名を連ねる誇り高きベルカの騎士。であるならばどんな敵であろうと斬り裂き、打ち砕くだけだ。

4人の中の意志は同じもの、ヴィータの掛け声に続く様に他の3人も堂々とした言葉で答え、駆動炉内部へと突撃していく。

待ち受けていたのは先程までいた通路すらも上回る広さの広大な空間と、その中心部に位置する禍々しい紅い光を周囲に放ち続けている正八面体の巨大な結晶、ゆりかごの駆動炉。

 

「!!……上だ、シグナム!!」

 

直後に2人に向かって降り注いできたのは大量のミサイル。

真っ先に反応したヴィータの声で2人はほぼ同時に高度を上げて上へと飛び上がる。

その回避行動によって2人を狙っていたミサイルはどちらにも当たることなく直前までいた地面に激突して爆発を起こす。

当然とはいえいきなりの攻撃に2人が更に警戒心を強め、ミサイルが飛んできた方向へと視線を向けたその先。

 

「手荒なご挨拶、大変失礼致しました。誇り高き夜天の書の守護騎士の皆さん」

 

駆動炉の放つ光を背に悠然と佇んでいたのは背部の大型ブースターを吹かしながら、顔面部のゴーグル状のカメラアイに翠色の光を宿して2人のことを見つめる1体の人型。

紅、白、黒のトリコロールカラーに今までの機体とは比べ物にならない流暢な口調に丁寧な物腰。

カティーナ・ベルリネッタの最高傑作、ネロ・シグノリアがそこにいた。

 

「……テメェ、ベルリネッタの新型か?」

「如何にもその通りです鉄槌の騎士。私の名前はネロ・シグノリア。マスター・カティーナの作りし最高傑作にして、この駆動炉の守護を任された者です」

「ふん、今までの連中に比べて随分となよなよとしてんじゃねーか」

「マスターがそのように設定しましたので。そうだとしても私自身がお2人のことを好意的に思っていることもまた事実です」

 

グラーフアイゼンを突きつけられた状態でもシグノリアは全く動じずにヴィータの言葉にも懇切丁寧に応えている。

最早機械ではない、言動だけ見れば人間のソレに近いシグノリアにヴィータもその隣にいるシグナムも少々面食らってしまったりしていたが、それでもその言葉の裏で気を緩めることは一切無い。

つい先ほどのやり取りでも確認したように、目の前にいるこの無人機械は今までの敵を上回る強敵。

予想外の態度を見せて居ようと単機であろうと数の有利が自分たちにあろうと、少しの油断も許されない相手なのだ。

 

「お2人のこれまでの戦いも拝見させて頂きました。2対1とはいえ私の直系試作機であるルチフェロ・フィーネを倒すその実力……マスターも大変お喜びでした」

「あんな女に褒められても嬉しくとも何ともねーがな、寧ろ不愉快だ」

「それは大変失礼しました……」

「そんでもってこれからテメェも同じことになるのは変わらねーんだ、いつまでもグダグダ喋ってるつもりもねえ」

「そうですか。ですが私もこの駆動炉の守護をマスターに任された身、マスターの命令は絶対でありそれに背くことは許されないこと。お2人がこの駆動炉を破壊なさるというのなら私はそれを止めなくてはなりません」

「御託はそろそろいいだろう、元より私もヴィータも最初からそのつもりだ」

 

ヴィータと同じようにシグナムも己の愛武器であるレヴァンティンをシグノリアの方へと向ける。

口調は変わらず穏やかながらもシグノリアもこの場を退く気などありはしない。

駆動炉を破壊するべく現れたシグナムとヴィータ、駆動炉を守ることを命じられたシグノリア。

両者の考えが決して交わる物でない以上、この次に起こることは必然的に1つしかない。

 

「では参りましょう……『ツインブレイズ』」

 

その開始の合図を告げる様にシグノリアは両腕をゆっくり振り上げて同時にテンプレートを展開。

シグノリアの腕の先からテンプレートに包まれ名がら2本の紅いエネルギーブレードが形成された次の瞬間。

 

 

 

ガキィン!!

 

 

 

「!!?――――」

「なっ――!? シグナムッ!!」

 

その行動に反応できたと言えるのか、もしくは起こった後に気付いただけだったのか。

驚くヴィータが声を上げて見ていたのは一瞬の内にシグナムに肉薄して作り上げた双剣を振るい、その身体を跳ね飛ばして壁へと叩きつけるシグノリア。

ヴィータも敵が攻撃の為にこちらに近づいてきたということだけはわかっていた。わかった時には全て終わっていたというだけで。

 

「グ……ガハッ……!!」

「……素晴らしい反応速度です。直前で私の剣筋を捌いてダメージを抑えましたか。流石、剣の騎士と称されるだけのことはあります」

 

叩きつけられたその先からどうにか身を起こしたシグナムであったが、予想外の一撃を被り咳き込んでしまう。

シグノリアの指摘通り、シグナムは直撃の寸前でレヴァンティンを眼前にかまえてシグノリアの一撃を受け止めようと試みていた。

だが、シグナムですら攻撃の直前に気付けたのが精一杯であり、タイミングが大きく遅れたことで僅かにその勢いを削ぐことしかできなかったのである。

 

「大丈夫か、シグナム!?」

「ッ……問題は無い……だがヴィータ、アイツは……」

「わかってる……あたしたちが想ってる以上に、アレはタダモンじゃねー……!!」

 

体勢を立て直したシグナムにヴィータはすぐに駆け寄っていく。

そして2人の中で更に強まっていく敵の強さに対する警戒。

共にユニゾン状態であることも加味して相当な実力である自分たちがその初撃に殆ど反応できていなかったという事実。

それだけで目の前の敵、シグノリアの実力が想像以上の物であるということは容易く理解できてしまう。

 

「ならば私も、相応の力を以て対処に当たらねばなりません……『ランブルデトネイター』」

「「ッッ!!」」

 

そんな2人の警戒を他所に続いてシグノリアは両腕をまっすぐに伸ばしてその先端を2人の方へと真っ直ぐに向ける。

シグノリアの機械音声とそれぞれ別方向へと飛び退いていく2人の行動の僅か次に放たれるのは同じく両腕に内蔵された大型機銃。

連続的に放たれるその弾丸が地面や床へと直撃した瞬間に起こるのは……先のミサイル攻撃すらも遥かに大きい爆発。

放たれているのはただの機銃、それに付加されているある機能によって1発1発が致命傷クラスの恐怖の弾丸の嵐と化している。

 

「んなろっ……!! 合わせろ、リイン!!」

(はいですっ!!)

『Kometfliegen』

 

爆発の乱舞を掻い潜りながらシグノリアの上を取り、ヴィータが敢行するのはリインのユニゾンも合わせた高威力の射撃。

ギガントフォルムのアイゼンによって撃ち出される彗星の名を持つ巨大な紅い弾丸がシグノリアの横を狙って襲い掛かる。

その速度、威力共に最上位クラスの物であり、並の実力者相手では発射されたことにすら気づけずに直撃してしまうレベルの物。

 

「これもまた見事な誘導射撃弾です、が……『CMF、起動』」

 

すぐさまその一撃を察知したシグノリアはその方向へと振り向き、眼前に迫る紅い弾丸を真正面から見据える。

その状態でまるでバレリーナのような優雅な姿勢で両腕を交差させながら振り上げたその瞬間。

 

「な――――!?」

(そんなっ!?)

 

ヴィータとリインが呆然と見つめた先に起こった事象……

直撃コースの筈で放たれたコメートフリーゲンの魔力弾が、威力も速度も全くそのままに、鏡で反射したかの如く自分たちの方へと飛んできていた。

 

 

 

*

 

 

 

「うふふ……あはははははっ!!」

 

ゆりかご艦首部、聖王の玉座に木霊するのは玉座に固定されもがき苦しむヴィヴィオの傍らに立つクアットロの笑い声。

機体中央部に待機しているベルリネッタと同様、この部屋において周辺の戦いの一部始終を見学している。

その内の1つ、ディエチのフルチャージ砲撃を真っ向から破ってみせたなのはの放った魔法とその力の源であるブラスターシステム。

その脅威を前にして焦りも驚愕も見せず、クアットロが理解し見せたのは嘲笑であった。

 

「ブラスターシステムなんて御大層な名前が付いているからどんな切り札かと思えば……バッカらし、ねえ陛下? 貴方のママは相当なお馬鹿さんみたいですね~」

「あうぅ……!!」

 

細められたクアットロ視線の先、未だに耐え難い苦しみの中にいるヴィヴィオがその嘲笑に答えられる筈も無い。

だがクアットロの戦術眼もまた確かな物であり、今のたった一撃だけでなのはの切り札であるブラスターシステムの本質の大半を察知。

その上で、このまま単独でこちらに向かっているのなら恐れる必要などありはしないとそう判断していた。

 

 

 

ドォオオン!!

 

 

 

「あ~らあら随分と乱暴なノックですね~、ようこそ玉座の間へ」

「ッ……!!」

 

次いで起こったのが玉座の間の入り口に当たる防壁に起こった2度、3度の衝撃と直後の爆発、貫いたのは桜色の魔力砲撃。

爆煙の先から姿を現したなのはを前にしてもクアットロはその小馬鹿にするようないつもの態度を全く崩すことは無い。

愛する娘であるヴィヴィオをようやく前にして、そのヴィヴィオを苦しめている敵への怒りに冷静さを見失いそうになるも、

すぐさまなのははその気持ちをどうにか抑え込んでレイジングハートの先端をクアットロへと向ける。

 

「大規模騒乱罪の現行犯で貴方を逮捕します……!! 早急な騒乱停止、武装解除と人質の解放を……」

「あ~ららぁ? 自分の大切な子供を前にしても表情1つ変えずにそんなことが言えますか~、羨ましいくらいですね~? その悪魔染みた正義感……」

「!! ヴィヴィオに触れないで!!」

『Short Buster』

 

だが強い自制の下で放った管理局員としての警告も全く構うことなくクアットロは小馬鹿にした口調で苦しむヴィヴィオの頬を艶めかしく撫で上げる。

その光景を前にしただけでなのはの我慢は瞬時に振り切れ、半ば暴走同然の形でクアットロに向けて簡易砲撃が放たれる。

それをクアットロは避けないどころか、瞬時にその姿が掻き消え、すぐ直後になのはの背後に浮かび上がるのがモニターに映し出されたクアットロの姿。

 

『で~もぉ? お楽しみはまだまだこれからですよ~?』

「ああっ……!! うああっ…………!!」

「ヴィヴィオ!!!」

 

モニターの先から告げられるクアットロの宣言に呼応するように、ヴィヴィオを拘束している各種機械がより激しい電撃を放っていく。

その苦しみを目に見える形で強めているヴィヴィオの姿に耐えきれずにすぐさまなのはは駆け寄ろうとするが。

 

「くうぅ……!! うううっ…………!!」

「あああああああッ……!! いやアアアアアッッ!!!」

 

その進行を止める程に撒き散らされるのはヴィヴィオを中心にして周囲に放たれる膨大なエネルギー。

古代聖王の生まれ変わり、王たる者の象徴とも言える虹色の魔力光、ガイゼル・ファルベの力が漏れ出している結果だった。

 

『うっふふのふ~、せっかくですしいいこと教えてあげましょう~。あの日ケースの中で眠ったまま、輸送トラックとガジェットを破壊していたのはこの子なの~』

「助けてッ!! ママッ!! ママッッ!!」

「ヴィヴィオッ!!」

『あっははは~!! 貴方がそんなに心配せずともその子の中に眠る古代ベルカ王族が持つ希少技能……聖王の鎧による絶対防御があれば何てことなかったんですよ~? そしてその力はレリックとの融合を経て、究極の生体兵器として新生する!!』

 

泣き叫ぶヴィヴィオにそれを前に近づけず叫ぶしかないなのは。

両者を引き裂いている元凶たるクアットロはその光景を前にして楽しそうに笑い声をあげるばかり。

その最中に明かされるヴィヴィオの持つ力の正体、聖王の鎧と今のヴィヴィオの状態について。

クアットロのコントロールの下、その力の全てを無理やりに引き出され行くヴィヴィオは、尚も自身の意志の届かぬまま、周囲にその力を振りまくことしかできない。

 

『貴方にも味わってもらいましょ~。カティちゃんの最高傑作ネロ・シグノリア……それと唯一比肩し得るドクターの最高傑作、聖王の力を!!』

「ママァアアアアアッッッ!!」

「ヴィヴィオーーーーーッッッ!!」

 

もう互いに名前を呼ぶことしかできないなのはとヴィヴィオ、その壮絶な構図を尚も嘲笑するクアットロの声も響く中、

展開する虹色の光が一層眩い光を放って解放され、周囲を揺るがす衝撃を放つ。

その光と衝撃になのはが身構えて視線を逸らしてしまい、すぐにそれを戻した先にあったのはヴィヴィオの更なる変容。

 

『ほら陛下? 陛下の本当のママを攫っていったこわーい悪魔がそこにいますよ~? 頑張ってソイツをやっつけないと……本当のママに会えません』

「ママ……? 私の、ホントの……ママ、は……?」

『陛下にはそれを成せる素晴らしい力があるんですから~。さあ、その力を思いのままに解放し……邪魔する全てをぶっ潰してまかり通すのです』

「!!……くあっ……ああっ……ああああああアアアアアアアッッッ!!!!」

 

止むことなく響き渡る残忍な表情と声の下でのクアットロのコントロールと無慈悲な言葉。

ヴィヴィオが大好きなママ、苦しい思いをしている自分を助けてくれるはずのママ、それをどこかに連れ去った憎い敵がそこにいる、それを倒せる力が今のヴィヴィオにはある……

巧みな話術の下でその幼い精神が掌握されていき、膨れ上がった黒い感情の爆発とともに起こるのは、ヴィヴィオの中に眠る聖王としての力の覚醒。

神々しさすらある虹色の光に混じる漆黒の光に全身が包まれたその瞬間、宙を舞うヴィヴィオの肉体が急成長を遂げ、その身に紺色の魔導師服が着用される。

 

「ヴィヴィ……オ……!!」

 

自分に救いを求め続け、ようやくその手が届くはずだった小さな命のあまりにも大きすぎるその変化。

なのはの心はその動揺が隠し切れず、聖王として覚醒したヴィヴィオの前でただただ震える事しかできない。

やがてその覚醒を完全に終えたヴィヴィオがゆっくりと降り立ち、尚もその虹色の魔力を表出させながら閉じられていた瞳を開く。

 

「貴方は私のママを……本当のママをどこへやったの?」

「ヴィヴィオ……違うよ、私のことがわからないの!? なのはママだよ!?」

「……違う……貴方はヴィヴィオのママなんかじゃないッッ!!」

「!!…………」

 

残酷な現実は止まることなく続いていく。

その心をクアットロによって完全に掌握されているヴィヴィオになのはの必死の訴えが届くことは無い。

貴方はママじゃない、そのたった一言でなのはの心は今までになかった程の大きな傷として刻まれる。

涙と共に鋭い視線で睨み付けて自分のことを否定するヴィヴィオを前に、なのははその両目を見開いて呆然と立ち尽くすことしかできない。

 

「ヴィヴィオのママを……私の本当のママを返して……返してッッッ!!」

「……レイジングハート、ブラスターシステムリミット2、リリース!!」

 

ヴィヴィオの足元に展開されるのは古代ベルカの王族の証明の一つである、シグナムやヴィータと同じ三角形の魔法陣。

そこからより勢いを増して放出される魔力を前にしてなのはも同じように桜色の魔法陣を展開。

苦しむ自分の娘をすぐにでも止めるべく、自分の身を厭わずにその身を大きく傷つける切り札、ブラスターシステムのリミットの更なる解除を決行する。

 

『さあ……楽しませて頂戴……親子で楽しい殺し合いを……』

 

常人を遥かに凌駕する、玉座の間全体を揺るがさんばかりの魔力を2人が放つ中、

その光景をモニターの先でクアットロは全てを見下しているかのような視線で見つめていた。

 

 

 

*

 

 

 

スカリエッティのアジト、その通路の一画で捕らわれたフェイトを取り囲むのは3人と1機。

スカリエッティの放ったバインドを脱しなければいけないが、今のままではそれは叶わない。

ならば躊躇っている時間などありはしない、そう決意したフェイトが行う切り札の1つの解禁。

 

「ライオット!!」

『Riot Blade』

 

2回のカートリッジロードに続くバルディッシュの次なる形態変化。

両刃の大剣、ザンバーフォームから片刃の剣へと姿を変えるフルドライブモード、ライオットブレード。

高密度に圧縮された魔力刃による切断力はザンバーフォームの遥か上を行き、たった1振りの動作で自分を取り囲んでいた紅い糸を斬り裂いてみせていた。

 

「はあ……はあ……!!」

「成る程、それが君の切り札というわけか。尤も、それ相応に消耗も激しそうだがね」

 

拘束を解かれてもスカリエッティはその余裕の態度を保ったままだ。

現に、スカリエッティが指摘するようにライオットを片手に持つフェイトの呼吸は更に荒れていて、両肩も下がり気味だった。

アジト侵入から続く高濃度AMFにトーレ、セッテとの激闘によって消耗していた魔力。

その状態からより魔力を大きく消費するライオットの使用に踏み切った以上はそれもまた必然の結果だった。

 

「けどそれをこんな場所で使ってしまっていいのかい? 仮にここにいる私達を倒せたとしても、君はここで確実にゲームオーバーなばかりか、それすらも意味を成さないかもしれないというのに」

「何が言いたい……!!」

「言葉通りさ。あのゆりかごには私の愛しい妹であるカティーナと、その彼女が作り上げた最高の作品たちもいる。ここにいる私を止めた所でカティーナの指示の下、ゆりかごはその歩みを止めることなく続けるだろうね」

「……関係ない、ゆりかごはなのはたちが必ず止めてくれる……お前の思い通りになんかなりはしない……!!」

 

自分と同質たるスカリエッティのベルリネッタへの信頼、自分を救ってくれて共に今まで戦ってきたフェイトのなのはたち戦友への信頼。

方向性は違えど根幹にある感情はほぼ同一の物であり、双方全くその信頼に絶対の物を抱いている。

この場にいない自分の仲間が、相手の仲間を必ずや打ち倒すであろうことを。

 

「ククク……それだけじゃないさ。今いる私が止まった所でプロジェクトFを応用した仕込みでいくらでもどうとでもなるのだから」

「F……何を……言って……」

「アレは使い方次第ではなかなか便利な物でね。私のコピーは既に私が作り出した12人の戦闘機人、その殆どの胎内に植え付けられている。そのどれか1つでも残っていれば1月もしない内に私の記憶を全て受け継いで蘇るという寸法さ」

 

呼吸の乱れで受け答えすらもままならないフェイトにスカリエッティが告げたのは更なる悪魔的な事実。

スカリエッティ自らが生み出し育てた戦闘機人、その大半に埋め込まれているスカリエッティのクローンの種。

本体の生命活動停止と共にその内のどれかが芽吹き、その体を喰らって新たなスカリエッティとして目覚めるだろうということ。

 

「…………馬鹿げているッ……!!」

「旧暦の時代、アルハザードの統治者にとっては至極常識的な技術さ」

 

吐き気を催すような理解し難い対象とはこのことか、フェイトは侮蔑の感情すらも込めてスカリエッティに対して吐き捨てる。

それを受けてもスカリエッティは全く動じることなくそれを常識とすら言いきって見せる。

フェイトですら知り得ていない情報、アルハザードの知識を受け継いで誕生した無限の欲望、アンリミデット・デザイア。

そのような誕生経緯を持つスカリエッティだからこそ平然と手を染めることのできる技術なのだと。

 

「つまり君はここにいる私や妹たちだけでなく、私のコピーを埋め込んだ全ての戦闘機人をも倒さなければ、この事件は何の解決もしないのだよ!!」

「あぐぅ……!!」

 

感情の昂りを隠そうともせずに会話に応じるスカリエッティが唐突に振り上げたデバイス。

そこから形成される新たな紅い糸が今度はフェイトの体を直接縛り付けて拘束する形となる。

 

「絶望したかい? 何せ君と私と……我が愛しの妹であるカティーナはよく似ているんだからね」

「似ている……何を馬鹿な……!!」

 

邪悪な、粘りつくような笑みの下で続けられるスカリエッティの言葉。その1つにフェイトは強い言葉で返しながらも内心で明らかな動揺を浮かべていた。

君と私はよく似ている、それはフェイトが心の奥底に隠しながらも決して消しきれなかった1つの恐れ。

 

「私は自分で生み出した生体兵器たち、妹はその手で作り上げた機械兵器、そして君は自分で見つけだし育て上げている、自分に反抗しない子供たち……それを自分の思うように作り上げ、自分の為に戦わせているだろう?」

「ッ!! 黙れッッ……!!」

 

その言葉の動揺と憎しみを隠すという考えすら思い浮かばない、それほどまでにフェイトの心は激しく揺さぶられ、拘束された状態でありながら怨嗟の声と共に複数の魔力弾を発射する。

が、そんな直線的な攻撃が通じる筈も無く、スカリエッティの前へと立ったリナスの展開するプロテクションで防がれる。

 

「ソノコウドウハコウテイトミナスゾ? フェイト・テスタロッサ? ダイイチ、ソレノナニガワルイトイウノダ?」

「ククク……それもまた仕方のないことさ。私や妹と違って彼女たちの様な人間は、人の愛情というものに過敏に反応するものだからね……」

 

反撃すらも予想の範疇と言わんばかりに一歩も動かないスカリエッティと、その会話に混ざってくるリナスの機械音。

主たるベルリネッタの命令に忠実に従うだけの機械人形ですら、フェイトの言葉に反論していたのだ。

 

「私も妹も君も、君の母親だって同じさ。周りの全ての生命は、その極々一部を除いて、自分の為の道具に過ぎない……私が、妹のことを特別に思っているようにね?」

「ソシテトクベツデアロウトナカロウト、ジブンニシタガワナイコトヲワカッテ、ナオモテヲサシノベツヅケルヨウナモノナド、コノセカイニイハシナイダロウ?」

「そう……ここにいる戦闘機人を私が寵愛するように……カティーナが自分の兵器に期待を寄せる様に……君が自分の見出した子供たちに愛情を注ぐように……その全ては、それに見合う対価を相手から貰えるからだ」

「ち、違う……黙れ……!! わ、私は……!!」

「向けられる愛情の種類が違うだけで、根幹にある思いは私や君……それどころか大半の人間は同じことなんだよ。ただ、それに気づいているかいないかだけで」

 

スカリエッティとリナスが淡々と述べていく自分たちの考え。

生命倫理を度外視したくだらない暴論だと一蹴すればいいだけの物の筈なのに、今のフェイトにはそれができないばかりか、それに対する恐れを隠すこともままならない。

自分と同じようにその出生で苦しみ、助けてあげたいと手を差し伸べ、同じ部隊で戦っているエリオとキャロ。

その2人に対する愛情が自分の1人善がりではないのか、過度な愛情を注ぎ自分に信頼を向けるその瞳は自分がそうしてしまった結果なのではないか。

云わばそれは無意識下で行われていたスカリエッティの指摘通りの行動……そういった恐怖がフェイトの心を支配していたのである。

 

「ワタシモマスターノシンライニコタエルタメ、マスターノメイヲチュウジツニジッコウシ、マスターノオホメノコトバヲイタダクコトガシジョウノヨロコビ……ソウケッテイヅケラレテイルコトト、キサマノブカデアルアノコゾウドモガ、キサマニムケテイルシンライ、ソコニナンノサガアル?」

「どんなに愛情を注いでも自分の思うように靡かない命など……最初から育てようとは思わないだろう? 言ってしまえば君は、あの2人が自分を信頼してくれるという確信がどこかにあったからこそ、手を差し伸べたに過ぎない」

「違う、違う……私は、私はただッ……!!」

「ソシテイニソグワナイイノチナド、ソノバデスグニキリステテ、ツギヘトイシキヲキリカエレバイイダケノコト……ソレヲオコナッテイルノハマスターダケデハナク、スベテノセイメイタイガオナジダ。ダトイウノニフェイト・テスタロッサ、キサマハソコニヒドクオビエテイルト、マスターモイッテイタノダ」

「そう……手塩にかけて育ててきた自分の子供たちに反抗される事……たったそれだけのことを割り切れないから君はそんなにも動揺してしまう……それを間違いだとして犯すことに怯え、いくらでも作り出せる薄い絆に縋り続けて震えるしかない……そんなちっぽけな自尊心など、無意味だと思わんのかね?」

「黙れ……黙れッッ……!!!!」

 

立て続けに繰り返される生命に対する狂気の科学者からの指摘。

全ての人間は大なり小なり損得勘定の下で他人と接し、その結果を見定めながら取捨選択をしているだけだという暴論。

道具しての愛情や身内に対する愛情、違うのは種類だけでそこに大きな差など存在しないのだという裏付けも何もない暴論。

それに明確な反論の答えを示せないフェイトは、ただ自分の今までの行動を思い返しながら恐怖するしかできずにその感情を膨らませていき……

 

「黙れぇええええエエエエッッッッ!!!!」

 

その爆発は自分の心を壊さないための自己防衛にも等しいと言っていい突然の爆発。

自分の中の恐怖を凌駕する勢いでフェイトの中から溢れ出るのはスカリエッティに対する膨大な怒り。

この先の任務だとか魔力の温存だとか、そういった理屈など当の昔に吹き飛んでしまっている。

 

「オーバードライブッッ!! 真・ソニックフォームッッッ!!!」

 

そのフェイトが感情のままに決行するのは切り札の完全解禁。今までの消耗すら感じさせない莫大な金色の閃光がフェイトの全身を包み込んでいく。

自分の持てる力全てを出し切り、自分の心を惑わし続ける憎い相手を倒すというその一心のみが今のフェイトを動かしている。

閃光が消えた後、怒りに震え涙すら浮かぶ細められたフェイトの身を包んでいたのは装甲を犠牲に機動力に全てを賭けたオーバードライブ、真・ソニックフォーム。

スカリエッティの拘束を再び撃ち破り、その両手に携えるのはバルディッシュのリミットブレイク、最後の形態であるライオットザンバー。

 

「何が正しくて、何が間違っているかなんて……それに対する絶対の答えなんて……私にはわかりっこない……!! でも今はそんなことなんてどうでもいい……!! 私が愛する大切な仲間を……なのはやエリオ、キャロのことを馬鹿にして、傷つけて、苦しめるお前たちを……そして何よりも私自身が……!! フェイト・テスタロッサ・ハラオウンという私個人が憎むお前たちを倒す……!! ただそれだけだッッ!!」

「恐怖を凌駕する怒り……それによって生み出される底力、か……クククク……いいよ、本当に素晴らしいよフェイト・テスタロッサッッ!!」

「ソウダ、モトヨリワレラハテキタイスルミ、ナラバオノレノチカラデスベテヲオシトオシ、タチノコッテイルモノガタダシイ、タダソレダケダ……ソレヲショウメイスルタメニ、ワタシモゼンリョクデアイテヲシテヤル」

 

怒りを爆発させて吠えるフェイト、それを前にしても新たな力の現出に恐怖どころか歓喜を見せるスカリエッティ、相手の言葉に何ら意味を持たず自分にインプットされた思考と命令の下で平坦と呟くだけのリナス。

フェイトの変容に動揺するトーレとセッテも合わせて、フェイトの最後の戦いが幕を開けようとしていた。




◆ネロ・シグノリア
今までの兵器群と膨大な数のガジェットドローン、聖王ヴィヴィオのデータなどを総結集して生み出された最高傑作。
紅、白、黒のトリコロールカラーに、背部に大型のブースターを2つ背負った人型機。
今までの後期作品とは違って抽出タイプではなく、レリック本体がそのまま動力源として使用されている。
アンジェロシリーズと同様に使用材質が最高クラスなことも合わせて、基礎スペックの時点で今までのそれらすらを凌駕している。
搭載されているAIもリナスやフィーネ、アレスタルヴォーネのそれを更に改良・発展させたものであり、
性格設定も合わせてほぼ人間と同じ思考、感情、判断能力などを有している。
基本武装は両椀部内蔵の大型機銃とエネルギーブレード、ブースター内蔵のミサイルと大型エネルギーキャノン。
基礎スペックも合わせたそれら武装だけでも大半の高ランク魔導師を圧倒できるだけの力があるが、
更に特筆すべきはこの機体独自の2つの機能、複製能力とCMFにある。
聖王として目覚めたヴィヴィオの持つ高速データ収集能力を応用して組み込んだ複製能力によって、
敵対対象の技能、魔法等を解析、記録し、レリックのもたらす無尽蔵に近いエネルギーを変換した上で、それらを自身で使用することが可能となる。
実際に駆動炉防衛時点で事前に収集した戦闘機人の固有技能を既にいくつか取り込んでいる。
膨大な数のガジェットドローンの戦闘データを参考に、AMF機能の改良を施したことによって完成したCMF=Counter-Magilink-Fieldも搭載。
魔力結合を超高速で独自に組み替え、敵の魔力攻撃のカウンターを可能としており、一部を除いた大半の魔法攻撃を反射することで無効化する。
そして単純な戦闘能力だけでなく、その他にも色々と仕込まれているらしいのだが……
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