狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第32話:狂気の本祭、Part5

「行くよ……ギン姉ッッ!!」

「………………」

 

廃道の上で相対するのはスバルとギンガ、共に同じ母親の形見であるリボルバーナックルを構えての臨戦態勢。

スバルはマッハキャリバーのフルドライブ、ギア・エクセリオンを発動しての一瞬のチャンスに全てを懸けている。

対するギンガはやはり人間らしさを全く感じさせない無機質な瞳の下、じっとスバルが動き出すそのタイミングを窺っている。

静かに流れる風の音だけが響く中、少しも動くことない両者が駆け出したタイミングも全くの同一。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

咆哮するスバルと沈黙を貫くギンガの拳が目にもとまらぬ速さの突撃と共に繰出され、互いに交わり辺りを揺るがす衝撃を起こす。

その勢いを落とすことなく両者はウイングロードによる魔力の道を形成、

空中を複雑な軌道で駆け回りながらお互いに何度も何度も攻撃を打ち付け合う。

ギア・エクセリオンによって魔導師としての、戦闘機人としての力の全てを十全に振るえる状態である事、

ゼストの後押しを受けて迷いを振り切り、自分の力で姉を救うと決意した今のスバルの力、

戦闘機人ナンバー13として更なるスペックの向上を果たしているギンガと互角に渡り合えるほどの物となっていた。

 

「…………敵戦闘データの更新を完了、次の一撃で確実に仕留めます」

「あれは……来るよ、マッハキャリバー!!」

 

幾度かの攻撃の後に動きを停止させたギンガが呟くと同時に、左腕のリボルバーナックルのカートリッジをロード。

それを確認したスバルも同じように拳を振り上げて、次に来るであろうギンガの一撃に備える。

 

「でりゃああああああ!!!」

「………………!!」

 

瞬間、爆発的に高まった魔力と共に向かってくるギンガに真っ向から迎撃を試みるスバル。

両者の拳はそれぞれ両者が展開した防壁でほぼ目の前でそれぞれ火花を散らしながら拮抗している。

スバルの拳を左の掌底とそこから発するプロテクションで防ぐギンガとは対照的に、

スバルを守るのは自分の顔面のすぐ前で止められているプロテクションのみ。

唸りを上げ続けるギンガの拳はやがて高い貫通力を伴う高速回転の一撃となってスバルのプロテクションを徐々に押し始める。

 

「一撃……必倒……ッッッ!!!!」

 

それでもスバルは少しも退くことなく、自分の決意を確かめ直す様に声を上げながら自身の攻撃も緩めることは無い。

やがて押され始めていたギンガの拳が遂にスバルのプロテクションを破り、その一撃が顔面へと叩き込まれる。

 

「!!!!」

「うああああああああっ!!!!」

 

そう思われた次の瞬間、僅かに顔をずらしたスバルの顔面スレスレを掠めていくギンガの拳。

直撃には至らずスバルの額を僅かに切り裂き虚しく空を切る結果に終わる。

攻撃をかわされたことによって判断が遅れたギンガに生まれた致命的な隙、その一瞬をスバルは待っていた。

更なる気合の雄叫びと共に右腕のリボルバーナックルのカートリッジを連続ロード。

拮抗していたその拳がギンガの防壁を撃ち破り、そのまま拳を上に振り上げることで掌底のガードを崩す。

 

「ディバイン…………!!!!」

 

がら空きとなったギンガの腹部に押し込まれるのは続け様に押し出されたスバルの左腕。

その拳の先には魔力によって形成された水色のスフィア。

憧れであるなのはの得意とする砲撃魔法と同じ名を冠する、スバルが独自の魔法としてアレンジした必殺の一撃。

反応が完全に出遅れてしまったギンガに、それを防ぐ術も回避する術も残されていはいない。

 

「バスタァアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」

 

悲しい今を、姉を救うために放たれたスバルの最後の一撃。

莫大な魔力を右腕の拳で叩き込み、ゼロ距離で直撃したその水色の魔力の奔流がギンガの全身を飲み込んでいく。

その想いがギンガの中の戦闘機人としての……スカリエッティやベルリネッタが植え付けた悪意だけを粉々に打ち砕いていくのであった。

 

 

 

*

 

 

 

廃棄都市区画、多数の廃ビルに囲まれて死角となっているとあるビルの屋上。

護衛として配置している多数のガジェットに囲まれながら、現場指揮官であるオットーはパネルを操作しつつ戦況の確認を続けている。

 

「……ナンバー13、反応ロスト……それに、さっきのヘリがガジェットの撃墜行動に出ている、か」

 

貴重な戦力の一柱であるナンバー13ことギンガが落とされたという情報もオットーはすぐに察知する。

意識を傾けたのはそこだけではなく、廃棄都市周辺を飛び交う機動六課のヘリとそこから放たれる何発もの魔力弾。

どういうわけか開いたハッチから放たれているその射撃が、周囲のガジェットを正確に撃ち貫いていっているのだ。

ヘリ1機の単独とはいえ、このままいつまでも放っておいたら少なくない数のガジェットの損失を許すことになってしまう。

 

「ノーヴェやディードもまだ戦闘中、ならここは僕が――――なっ!?」

 

自分のISならたかが移動中のヘリ1機くらいわけなく落とせる。

そう判断したオットーが行動に移ろうとしたその時、突如として発生した複数の白い魔力刃によって破壊される護衛のガジェットたち。

加えて彼女を縛り上げるのはビルの屋上に空いた穴から伸びてくるバインド。

いきなりの事態にオットーは逃げることも叶わずにあっという間にそのバインドによって全身を縛り上げられてしまう。

 

「貴方が地上戦の司令塔ね……でもどんなに上手く隠れた所で、私の……クラールヴィントのセンサーからは逃れられないわ」

「お前たちは……あの時僕が倒した……」

 

ガジェットの爆発の先から姿を現した2つの影、それはオットーも直接その目で見てきた者たち。

地上で戦う六課新人メンバーたちの応援として駆けつけたシャマルと、重傷のその身を引き摺りながらこの場に現れたザフィーラ。

シャマルの左手の指に装着された愛デバイス、クラールヴィントのサーチ能力が正確にオットーの居場所を導き出していたのである。

 

「大規模騒乱罪、先日の機動六課襲撃の容疑で……!!」

「くそっ!!」

「でええええええええいッッ!!」

「!!……ああっ!!」

「……貴方を逮捕します!!」

 

戦闘機人としての地力を無理やり引き出して、オットーは力ずくでバインドの拘束を引き破り逃走を図ろうとする。

しかし、直後のザフィーラの展開したいくつもの白い魔力刃、鋼の軛がオットーの行く手と周囲を全て取り囲んでその退路を完全に塞いでいく。

身動きの取れなくなったオットーを再び拘束するのは先程よりも更に強固なバインド。

ザフィーラの言葉を引き継ぐようにシャマルの宣告が下され、オットーは抵抗する術を完全に失っていた。

 

 

 

*

 

 

 

ティアナが計4体の敵と相対している廃ビル内、それを取り囲む結界が突如として解除される。

 

「んなっ……これは……」

「……オットーが落ちた」

 

敵の出方を窺いつつ膠着状態にあった中で起こった突然の事態。

驚愕するノーヴェとは対照的にディードがすぐさま察したのが、ここの結界を発動していた担当であるオットーの身に起きた事態。

結界の維持すら出来なくなったということはつまり、オットー自身が敵にやられたということ。

その変化に多少の動揺を見せながらも、相対するティアナもすぐに目の前の敵軍に集中し直す。

結界が解除されるという形で事態が大きく動いた、ここで退いて別のメンバーと合流するという選択肢も生まれたかもしれない。

だが、それを許さないのは敵も同じこと、そして懸けるべきチャンスが目の前に迫っているのも事実。

 

「こんのぉおおおお!!!」

「……!!」

「ギュルルァアアアアアアア!!!!」

「ピョロロォルルルァアアアア!!!!」

 

仲間の1人がやられたという事実はノーヴェの怒りを誘発するのに十分すぎる理由となった。

動き出すノーヴェの行動を皮切りにディードが、ディヴィアヴォルが、ファルツィオルが、

その場にいた敵の全てが各々ティアナを倒さんと襲い掛かってくる。

そしてティアナが今か今かと待ち続けていたのは正にその一瞬。

 

「そこぉッッッ!!!」

 

そのタイミングを狙ってティアナは周囲に展開していたいくつかの魔力弾をそれぞれ別方向にいる敵へと射出する。

何の変哲も無い直線的な軌道の一撃、ノーヴェもディードも当たることなく回避しながら目の前にいるディードへと攻撃を与えようとする。

構うことなくティアナは振り向きながら上空からガトリングを放とうとしていたファルツィオルに向けてカートリッジロードを行いながらクロスミラージュから更なる魔力弾を発射。

これもまた直線そのものな軌道であり、攻撃を中断して回避をしても防御をしても何ら問題ないタイミング。

 

「ピョロロルルル……(キュイイイイン)」

 

ファルツィオルが選択したのは防御、ディヴィアヴォルと同一の強力な防御フィールドをシールドバインダーの発生装置から形成してティアナの魔力弾の直撃に備える。

しかしティアナはそれを待っていたとばかりに口元に笑みを浮かべる、防御だろうと回避だろうとここまではこの戦闘で確認し予測を立ててきたデータ通り。

 

「ピョルルロロッッ!!?!?」

 

眼前に迫っていた魔力弾が防御フィールドに阻まれ霧散するかと思われたその瞬間、魔力弾は2つに分かれて軌道を急速に変更。

単なる直射弾としてカモフラージュされていたその本質は、ありったけの魔力を込めて貫通力を高めた2発の誘導制御弾。

それぞれ挟み込む軌道を描きながらその2発はファルツィオルの防御フィールドの発生装置2つにクリーンヒットし、フィールドを消失させながらそのまま機体本体を貫通していく。

 

「うああっ!!」

 

その爆発による衝撃で攻撃のタイミングを潰されたノーヴェの進攻が止まる。

だが、反対側から迫っていたディードは臆することなくそのまま突撃していき、ティアナの背後から双剣を振り下ろす。

 

「なっ……ぐぅ……!!?」

「ッッ……!!これもタイミング通り……!! あとは……!!」

 

残り少ないカートリッジを一気に消費しながらティアナは振り向くことなくクロスミラージュのダガーを自分の背後へと振り上げる。

ディードの双剣が背を向けたままのティアナのダガーに阻まれたその直後、ディードの背後から迫るのはティアナが最初に放った誘導制御弾。

後頭部にその直撃を食らったディードはそのショックに耐えきれず、一瞬にして意識を刈り取られて床へと倒れ込む。

それでもティアナは油断することなく残ったカートリッジを全て使用して前方の爆煙へと意識を向け直す。

 

「ギュリリリリルルララアアアアアアア!!!!」

「くっ……ぅぅぅぁぁああああ!!!!」

 

数秒もしない内に爆煙を切り裂きながら突撃してくるのは今まで以上の悍ましい怪音を発するディヴィアヴォル。

その機動力と共に威力を増した突進は、ダガーを前方に構えつつ防壁も展開したティアナを数秒の拮抗の後、その身体ごと壁へと叩きつける。

だがそれでも、事前にその行動を予測しきっていたティアナの行動で致命的なダメージを与えるには至らない。

突進を止められ、傷だらけのティアナの眼前でその動きを僅かに止めてしまったディヴィアヴォルの背後から迫るのはまたしても数発の魔力弾。

 

「ギュリリルルッッッ!!?」

 

ファルツィオルと同様、機動力を高めた代償として防御フィールドを展開していないその機体の装甲は非常に薄い。

その薄い鋼の機体に直撃させることを想定して威力と貫通力を高められたティアナの弾丸は、その機体を容易く砕き、

ティアナの眼前で無惨にも爆発を起こして動かなくなる。

 

「ディード!! ディヴィアヴォル!! ファルツィオル!!」

「貴方たちを……保護します……!! 今すぐ武装の解除を!!」

「チィ……!!」

 

体勢を立て直したノーヴェが駆け寄った時には全てが終わっていた。

20%しかない低い勝機を現実にし、形勢逆転したティアナが息を荒げながらクロスミラージュの銃口をノーヴェに向けて立っていた。

 

「あんた達の事情がどうなのか私にはよくわからない……だけど、罪を認めて保護を受ければ、生き直すことだってきっとできる……!!」

「ズタボロの癖して戯言抜かすな……私らは戦闘機人、戦いの為の兵器だ……戦って勝ち残る以外の手段なんざねーんだよッッ!!!」

「……ゥ……ルルゥゥ……!! ギュルララアアアアアアッッッッ!!!!!」

「!!――――しまった……!!」

 

が、その勝機が一瞬にして霧散することになるのは激昂しながら迫るノーヴェとは別の方向から襲い来る怪物。

ホテル・アグスタの時と同様、機体の大半を欠損しながらも尚も動きだしティアナを刺し殺さんとするディヴィアヴォル。

既に千載一遇の勝機を見出すために魔力も体力もほぼ使い切っていたティアナにその不意の一撃をかわすことはできない。

 

 

 

『Snipe Shot』

 

 

 

「ギッッ……!!」

「あ…………」

「ッ………!!」

 

だがこれもまた運命のイタズラなのか、偶然が呼び起こした奇跡なのか。

突如として廃ビルの外から聞こえてきたデバイス音声と、ティアナの右頬ギリギリを掠めながら飛来した一発の魔力弾。

その一撃はティアナに襲い掛からんとしていた満身創痍のディヴィアヴォルの機体中心部を正確無比に捕らえており、今度こそ完全に機能停止していた。

立て続けに起こった事態の急変から先に立ち直ったのはティアナ。

ボロボロの体を無理やり動かし、ダガーの切っ先をノーヴェの首下に突きつけてその動きを止める。

 

「……戦うための兵器として生まれたとしても、それ以外の生き方を選ぶことだってできるわよ……戦闘機人に生まれたけど、誰よりも人間らしくて馬鹿みたいに明るく笑うことが出来てる奴を……私は知ってるんだから」

 

呆然と立ち尽くすノーヴェにティアナは落ち着いた口調でそんな言葉を投げかける。

兄の仇と最愛の相棒と同一の存在たち、その全てを自分の力で止めて見せたティアナは最後にスバルにより近い存在であるノーヴェのことを優しく諭していた。

 

 

 

*

 

 

 

廃棄都市区画を飛び交ういくつもの巨大な影。

何体も召喚された地雷王を単独で抑えるフリードリヒ。

廃ビルの屋上で敵対しながらそれぞれ攻撃をぶつけ合っているエリオとガリュー、キャロとルーテシアの4人。

その戦場を高い位置で見下ろす様に支配し、散発的に背部コンテナからミサイルやガトリング、実弾キャノン砲を降り注がせる白い怪鳥アレスタルヴォーネ。

それぞれの敵を抑えながらも、絶え間なく続けられる地雷王やアレスタルヴォーネの攻撃を防がなければいけないこともあって、

エリオもキャロもフリードも確実に追い込まれつつあった。

 

「ルーちゃん!! お願いだからもうやめてっ!! 私達がこんなところで戦う理由なんて何も無いよっ!!」

「ガリュー!! 君もルーを守る戦士ならルーを止めてくれ!! ルーはアイツらに……あの白い怪物に操られているだけじゃないか!!」

「ムダナコトヲイツマデツヅケルキダ? ルーテシアノセイシンハワタシノシハイカ、イクラヨビカケヨウトムダダ」

「!!……ぐああっ!!」

 

植え付けられた敵への憎しみで表情を酷く歪ませるルーテシアにエリオとキャロは尚も呼びかけ続ける。

その必死の訴えを嘲笑うかのようにアレスタルヴォーネが降り注がせる弾丸の嵐。

エリオとキャロ、それどころかルーテシアとガリューすらをも巻き込みかねないその攻撃を防ぎながらエリオがその痛みで呻く。

 

「……貴方達にはわかりっこない……優しくしてくれる人も友達もいっぱいいる貴方たちには……」

「………………」

 

止むことなく続く攻撃の嵐の中、ルーテシアは支配されたその精神の下で、己の中の黒い感情を吐き出していく。

憎しみの下で吐き出されるルーテシア自身の寂しさ、孤独への恐れと辛さ、その全てを。

反対側に立ちエリオと相対するガリューも沈黙を貫きながらその独白を聞いていくのみ。

 

「私の大切な人たちはみんな私を置いて行っちゃう……カティだって私が言うことをちゃんと聞かなきゃ私を置いて行く……寂しいのは……1人ぼっちは……嫌だああああアアアアアアアッッッ!!!」

 

感情を最大限に爆発させて吠えるルーテシアの心に連動するように、彼女の背後に現出する巨大な召喚魔法陣。

その中から地響きと共に姿を現す巨体、ルーテシアの駆る召喚蟲、その最強の個体、白い怪蟲、白天王。

 

「キャロッッ!!」

「うん……!! 天地貫く業火の咆哮……遥けき大地の永遠の護り手……我が元に来こよ……黒き炎の大地の守護者……」

 

新たな切り札の出現に臆することなくキャロが実行するのはその巨大な敵に対抗しうる自身の切り札を呼び込むこと。

白天王の眼前に現れるのは同じくらいに巨大な召喚魔法陣と、そこから噴き出る圧倒的な魔力による火柱。

詠唱が進む中で徐々にその姿を現すのは、嘗て機動六課を襲った怪鳥を一撃の下撃退した黒き巨竜。

 

「ソウダ、ソレデイイ。ソノコクリュウヲヨビコムコトハ、マスターニトッテモサラナルデータトカテニナルノダ」

「竜騎招来……天地轟鳴……!! 来よ、ヴォルテール!」

 

白天王の出現に対抗する敵の切り札の出現、それを前にしてもアレスタルヴォーネはその余裕を崩すことは全く無い。

主であるベルリネッタの糧になること、例え出現したとしてもそれに対抗する力は既にこちら側にあるという判断。

アレスタルヴォーネの機械音が響く中で、火柱を割りながらその姿を再び見せるのはキャロの駆る切り札、黒い巨竜のヴォルテール。

数秒の沈黙を挟んだ後、巨竜と怪蟲が真っ向から激突し合い、そのたった一度の激突だけで辺りを揺るがすほどの衝撃を発生させる。

 

「貴方のお母さんも、貴方のことも私達がきっと助けてみせる、絶対に約束するから……!! だから、こんなことはもうやめてッ!!」

「嘘だ……!!」

「嘘じゃないッッ!!」

「嘘だッッ……!! ウソダァアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

互いの切り札がぶつかり合う中、涙を浮かべて尚、ルーテシアの憎しみを打ち払わんが為にキャロは言葉を投げかけ続ける。

目の前で苦しむ孤独な少女を助けてあげたい、嘗ての自分たちと同じで周りの全てを憎むことしかできない少女に救いの手を差し伸べてあげたい。

ただただ純粋で無垢なキャロの想いすら、精神を支配されたルーテシアが吐き出す憎しみがそれを阻み届かせない。

憎しみと悲しみで悲痛な叫びを上げ続ける主の感情に呼応するように、白天王もガリューもその身を震わせて力を振るうしかできない。

 

「殺して……!! 白天王、ガリュー……!! 私の邪魔をする奴らを……!! 私の心を惑わす奴らを!!」

「ガリューッッ!!!」

「…………!!!!」

 

双眼から血の涙を流してまで主の命に従おうとする、あまりにもやりきれない光景にエリオも声を上げる。

それでも尚、ガリューは主たるルーテシアの命を忠実に実行する為、両腕から大量のスピアを形成。

今のルーテシアに対する感情が現れているかのように、そのスピアもまた血に濡れていた。

 

「ハハハハハ、ソウダ、ソレデイイ。ニクシミノモトデ、アマイリソウヲブツケルオロカモノドモヲネジフセル、コノコウケイヲミテイルマスターモ、ジツニタノシイオモイデイルコトダロウナ」

「お前は……ッッ!!!」

 

ルーテシアを意のままに操り、その苦しみの最中に落としているアレスタルヴォーネの機械音。

単に主の為の見せ物だとでも言わんばかりに全く罪悪感を見せないその物言いに、エリオの怒りが膨れ上がっていく。

そんなエリオを前にしてもまるで気にすることなくアレスタルヴォーネは再びその銃口を眼下のエリオへと向ける。

 

「ニクイカ? クヤシイカ? ソノヒョウジョウガマスターノタノシミトナルノダカラナ、ソレトオナジク、ワタシノマエデブザマナチリザマヲミセルガイイ」

「このっ!!」

 

鈍い回頭音を発しながら傾いていくガトリングの銃口、その先端が示しているのはストラーダを構えるエリオ。

その攻撃を掻い潜りながらエリオは、元凶であるアレスタルヴォーネを破壊するために行動しようとする。

 

 

 

ガキィン!!!

 

 

 

「えっ……!?」

「あ……ガリュー!!」

「ガリュー……?」

「……アルジノメイレイニサカラウトハ、ショウカンチュウノ、カザカミニモオケンオロカモノヨ」

 

アレスタルヴォーネとエリオ、両者が動き出す直前に響き渡る金属音と、真っ二つに割かれるアレスタルヴォーネのガトリング砲。

エリオが、キャロが、ルーテシアすらも驚愕したその先にいたのは両腕のスピアでアレスタルヴォーネに突撃し、すれ違い様に武装を破壊して着地したガリューの姿。

 

「ガリュー……」

「ルーテシアハメイジタハズダゾガリュー? ジブンノジャマヲスルモノヲコロセ、トナ」

「…………」

 

漸く自分の声が届いたのかと内心で喜びを浮かべるエリオにも、反逆された事実を問いただすアレスタルヴォーネにもガリューは答えることは無い。

が、アレスタルヴォーネの指摘はガリューにとっては大きな間違いであった。

主であるルーテシアから下されたのは、確かに『自分の邪魔をする者、自分の心を惑わす者を殺せ』ということ。

ルーテシアの忠臣として、彼女のことを常に優先して考えるガリューが見出した敵。

今のルーテシアを惑わし、その邪魔をしているのは紛れも無くアレスタルヴォーネだという答えを導き出していたのである。

 

「イイダロウ、オロカキワマルハンギャクシャヨ、ナラバキサマノアルジモロトモ、スベテヲハカイシツクシテクレル」

「キャロ!! ガリュー!! ルーテシアを!!」

「わかってるエリオ君!! ルーちゃん!!」

「ガリュー……どうして……」

 

例えそれが事実だとしてもアレスタルヴォーネのAIは何一つ慌てることなく次に取るべき行動をすぐに判断。

敵の切り札はルーテシアの白天王が抑えている、それ以外に残っているのは修理が完全ではない今の自分でも十分に落としきれる者たち。

ガトリング砲を不意打ちで失ったとはいえ、内蔵火器はまだまだ豊富にあり、手負いの敵を掃射で仕留めることなど訳は無い。

ならば自嘲は止めだ。ここから先は味方諸共全てを殲滅してしまえばいい。

残った砲門が一斉にその牙を向けていることを察知したエリオはガリューと共にそこから逃れるべく行動を開始しようとする。

同じようにそれに気づいたキャロが未だ状況を飲み込めずに呆然と立ち尽くすルーテシアに手を差し伸べて一緒に逃げようと試みる。

その一連の行動の最中でもアレスタルヴォーネは一切の躊躇も後悔も無く、その砲門を一斉に開いていき、そこから大量の業火が降り注ぎ……

 

 

 

ガコォンッッ!!

 

 

 

そう思われた次の瞬間、ガリューが放った一撃よりも更に重々しい金属音が響き渡る。

その直後に起こった光景は、機体の右半分、大きく広げた翼の片側をもぎ取られて火花と電撃を散らすアレスタルヴォーネの姿。

墜落した片翼が廃棄都市区画の地面へと落下し、周囲を巻き込みながら砕け落ちる。

 

「グ……ゴ……ガ、ガリューニツ……ヅイテ、キサ……マモカ……」

「あの人は……」

「あ、貴方は……」

「……どうして…………?」

 

機体の半分近くを失う形になり、ノイズ混じりの音声で自分をこんな目に遭わせた相手にアレスタルヴォーネは機械音を発する。

行動を直前で止められたエリオとキャロも見覚えがあるその姿、だが誰よりも驚愕に目を見開いていたのはルーテシア。

アレスタルヴォーネの機体を大きく削いだその影は、自分を置いて去ってしまった筈の大切な存在。

 

「……遅くなってすまない、ルーテシア」

 

そのルーテシアの前に立っていた男……両腕に槍を携え息を荒げるゼストは、静かに、優しげな声を発しながらルーテシアへと視線を向けていた。

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