狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
全ての切り札を解禁してまで敵を落とすと誓ったフェイト。
向けられるのは自身の中の恐怖をも凌駕する圧倒的なまでの怒りと憎しみの2つだけ。
機動力に能力の全てを割り振ったと言っても過言ではない薄手のバリアジャケット。
両腕に持つのは金色の両刀、ライオットザンバー。
AMFだのここまでの消耗だの、そのような細かい理屈など最早通じない。
なのはやはやてたち戦友にも今まで見せたことは無いだろう、悪鬼の如しオーラを纏いながらフェイトはそこにいた。
「装甲が薄い……当たればこちらの勝ちだ!!」
「わかっています、トーレ姉様」
それに相対するのは4つの影、自分たちの有利は変わらぬはずなのに言い知れぬ恐怖を覚える戦闘機人の2人。
各々の武器を構え直しながらトーレの言葉にセッテが答えるも、内心の恐れが消えることは無い。
防御を捨てて機動力に特化したフェイトの切り札、されど機動力に優れているのはこちらも同じこと。
ならば敵のスピードを捉えて薄くなった本体に致命傷を叩き込めばそれで自分たちの勝利が確定する。
だというのにトーレとセッテは、未だに優勢な筈の自分たちがここまでの恐怖を感じる理由が理解しきれない。
戦闘機人という生まれによる人間の感情の変化による理解の不足……
スカリエッティとリナスが引き出していた今のフェイトの怒りの在り方がその原因だった。
「ククク……ククククククク……!! さあ、見せてくれたまえよフェイト・テスタロッサッッ!!」
「イクゾ」
残る2つに浮かぶのは歓喜と平静。
どれだけの怒りを、憎しみを込められようとスカリエッティは己の態度を崩すことは全く無い。
生命操作技術に始まる知識の探求、時に自分の身すら駒として扱うことを躊躇わない異常なまでの情熱。
そんな狂気の科学者にとってフェイトの発している今の力もまた、自らの探求心を満たす対象でしかない。
その隣に立つ紅翼の人型、リナスもまたスカリエッティとは真逆の咆哮で己を保ち続けている。
無人兵器であるリナスが遂行するのは主の命令に従うこと、ただその一点のみ。
「はあっ!!」
「がっ――――!!!!」
そして新たな戦闘の火蓋が切って落とされる。
僅かに一度の行動、一瞬の内にセッテに肉薄し振るわれたフェイトの一刀。
確実に追い込んでいたその身のどこにこれだけの力が隠されていたというのか。
そのような疑問を挟む暇すら与えられず、両断された二振りのブーメランブレードと共にセッテは床へと沈む。
「ヤクタタズメ」
「クハハハ……!! いいよ、実にいいッッ!! もっとだ、もっと楽しませてくれたまえよッッッ!!」
眼前で味方の1人が瞬時に倒されたことを受けても尚もスカリエッティとリナスはそれぞれの歓喜と平静を崩すことは無い。
フェイトの実力と味方への侮蔑、それぞれを口にしながら両者も行動を開始する。
スカリエッティが振り上げる右腕のデバイスが発するのは先程までフェイトを拘束していた多数の紅い糸。
その隣でリナスが背部の砲門を開き射出していくのは前回の戦いでフェイトが苦戦を強いられた高性能のホーミングレーザー弾。
地面から伸びる紅と眼前からあらゆる角度で迫りくる翠、それら全てをフェイトはかわしザンバーで斬り裂き突撃していく。
その視線の先にいるのはただ一点、自分を同類だと呼び、仲間すらも傷つけている憎むべき元凶、スカリエッティ唯1人。
「させんッ!!」
行く手を阻むようにして立ちはだかるのはもう1人の戦闘機人であるトーレ。彼女にとって主であるスカリエッティのことを守るのは当然のこと。
両腕から発するエネルギー刃がフェイトのザンバーを受け止めるも、数秒の拮抗の後に押され始める形となる。
トーレは確かに戦闘機人の中でも優れた戦闘能力を持ち、その中でも機動力に関しては管理局の高位魔導師すらも凌駕する。
が、その他の能力も高水準とはいえ機動力と比較すれば劣ってしまう。
そして今のフェイトは防御力を捨てた代償にその他の能力を圧倒的なまでに高めている。
如何にトーレ程の実力者であろうと、その斬撃を真っ向から受け止めることはできなかったのだ。
「!!……ええいっ、ライドインパルスッ!!」
無論、トーレはその事実に気付かずにむざむざ力負けして攻撃を許すような愚かな真似は許さない。
耐えきるのが無理と判断すると同時にフェイトの斬撃を跳ね除けながら後方に大きく下がり、発動するのは己の固有技能。
自身が最速であることの裏付けでもある常人の視認速度を遥かに凌駕する加速、ライドインパルス。
攻撃力で劣るならばそれを許さない機動力を以てして敵を圧倒すればいいと、トーレはそのように判断した。
「!!…………でやあああっ!!」
だが誤算だったことは敵対者であるフェイトもまた、真・ソニックフォームの存在を抜きにしても管理局の中でも優れた機動力を誇る魔導師であったこと。
切り札の解禁と怒りによる底力、全てを換算した今のフェイトのそれは本気のトーレですら振り切れない領域に達していたことだ。
狭い通路内に金と紫が幾度となく高速で刃を交えていき、双方の体に切り傷が刻まれていく。
「はあああああああッッ!!!」
「ああああああああ!!!」
その果てにフェイトがトーレの頭上を取り、両腕のザンバーを合体させて1つの大剣とする。
重攻撃専用形態、ライオットザンバー・カラミティ。
フェイトの全身を容易く超えるその巨刀の1振りが、眼科から迫っていたトーレを叩き落として地面へと激突させる。
その一撃、トーレにとっても想像以上の破壊力とダメージであり、セッテに続いてこの場の戦闘不能者となった。
「お前は……お前たちだけは私がッ……!!!」
「サガッテイロドクター、アトハワタシガヒキウケヨウ」
「でやあああああああ!!!」
「…………!!」
敵の半分を打ち倒し、尚も鎮まることない怒りにその身を任せながらフェイトが吠える。
その先にいるのはやはりスカリエッティ、その彼を唯一守れる存在となった無人兵器リナス。
最後の砦となっても何ら変化を見せずにリナスが左腕に形成するのはエネルギーブレード。
トーレの時と違い、先の宣言通りに己のスペックをフルに稼働させてフェイトの一撃を受け止めたそれは押されることなく火花を散らしながら拮抗する。
「キサマハジツニキョウミブカイジッケンタイショウデアリ、ドウジニヒジョウニキケンナテキダ、ユエニ、ココデツブレロ」
「やらせはしないッッ!!」
その状態でフェイトの背後から迫っていたのはリナスの配備していた数個の無線ユニット、発射されるのは本体と同質のホーミングレーザー。
フェイトにはその気配も問題なく察知でき、攻撃体勢を崩して背後に下がりながらザンバーを元の二振りの状態へと戻す。
少しの隙も見せずに続け様に感光されるのは眼前に魔法陣を展開しての魔力弾の形成。
『Plasma Lancer』
無線ユニットへと降り注ぐ金色の弾丸、それらが正確にリナスの展開した無線ユニットを撃ち落としていく。
攻撃の手数を主体としているリナスにとってユニットの損失はその幅を大きく狭めることに等しい。
「ヤハリナ……ヤハリ、キサマハ……」
だがそれでも機械であるリナスに焦りや恐れが生じることは無い、ただただ目の前の戦場と敵の性能分析に終始していくだけ。
敵の実力が想定を上回るのならその更に上を行く攻撃で仕留めればいいだけのこと。
リナスが再びエネルギーブレードを形成し終えて飛び上がり、宙に舞いあがりながらユニットと本体のホーミングレーザーを一斉に発射する。
「コンドハニガサン、マスタートドクターノメイノモト、キサマハココデオワラセテヤル」
「終わるものか……お前たちを私が倒すまではッッ!!!」
フェイトの怒りの篭もった言葉の直後に狭い通路内を飛び交うのはリナス本体と残りの無線ユニット、それらから発射され続ける膨大な数の翠色の閃光。
上下左右前後、360°余すことなく襲い来るホーミングレーザーの弾丸の隙間を掻い潜りながらリナス本体が高速で突撃し、エネルギーブレードを振り下ろす。
真・ソニックフォーム状態のフェイトと言えど、持てる力の全てを解放してのリナスの波状攻撃を前にしては今度こそ防戦一方となる。
自分に向かって飛んでくる弾丸を止まることなくいなしながら、その間に挟まれるリナス本体の攻撃をザンバーで弾き飛ばす、この繰り返し。
リナスの放つ弾丸はその1発1発が致命傷であることは地上本部襲撃船の際にフェイトも自分の身で体感していること。
装甲を極限まで削っている今の状態で直撃することはすなわちそのまま敗北へと直結することに他ならない。
ならば、この暴力的なまでの攻撃の嵐を1発も受けることなくかわし続けなくてはいけないのだL
「イマノキサマナラバ、ソウスルホカハナイダロウ。ガ、ソンナニゲゴシガ、イツマデツヅクモノカナ?」
「ッ……!!!」
当然、相対しているリナスにとってもフェイトの状況はすぐにわかること。
それを踏まえた上でリナスはこのまま続けていればフェイトが先にが根負けすることもすぐに理解する。
怒りと憎しみで無理やり動かしているとはいえ、このアジト内の高濃度AMFやフェイトのこれまでの消耗は何ら変わらないこと。
そこに加えてライオットと真・ソニックフォームという魔力の消耗を更に速める切り札の解禁。
現にリナスの波状攻撃を避け始めてから僅かの間にフェイトは目に見えて呼吸が乱れ、その動きも段々と鈍り始めている。
このまま逃げ続ければいずれは全てが枯渇してやられてしまうだけ、だからといって下手に攻撃に移ろうとすればそれだけで敵の攻撃に当たってしまう。
「……ヤハリオマエハソレガゲンカイナノダ、ソコダッ」
「!!――――がほっ……!!」
その事実を証明するかのように上方からのホーミングレーザーを回避し終えた直後に迫るリナスの凶刃。
既に限界が迫りつつあったフェイトの速度は戦闘再開当初と比較すればかなり落ちてしまっており、その遅れたタイミングが致命的な隙となる。
眼前に迫る一撃を前にフェイトは無防備とも言える姿を晒し、リナスのエネルギーブレードの一閃が脇腹へと突き刺さる。
致命傷に等しい筈のそのダメージ、フェイトは激痛に表情を歪めながら刺された脇腹だけでなく口からも激しく血を吐き出して、
「!!……そこぉおおッッッ!!!」
「ナ、ニ、グゴッ――」
数瞬の内に両目が見開かれ、膨大な力を込めての左腕のザンバーからの縦の一閃。
仕留めたと油断してフェイトの眼前で無防備になっていたのはリナスも同じこと。
避け続ければ負ける、避けながら攻撃しようとしても負ける、ならば敢えて一撃を食らってでも攻撃が確実に通るチャンスを作り出すしかない。
云わば自分の体のことすら厭わない捨て身の一撃、フェイトの選択した行動はそれだった。
「バ、カナ…………モウシワ……ケアリ……マ……センマ…………ス………………――――」
凄まじい破壊力の下振り抜かれたザンバーの一撃、それによってリナスは頭頂部から機体全体を斜めに一刀両断されてしまう。
頭部ユニットの半分近くと共に左肩から先まで失ってしまったとあっては流石に自らの状態を保つことなどできはしない。
機体各所からスパークを発しながらも尚も潰えることない主への忠誠、それに背いた自身の不甲斐なさを呟きながらリナスもまた床へと叩きつけられる。
「はあッ……!! くふっ……!! ぁぁぁああああああアアアアッッッ!!!!」
そうしなければ勝てなかった強敵、代償として今にも意識が飛びそうなほどのダメージと激痛。
それでもフェイトはまだ倒れるわけにはいかないと残る力を一滴残らず振り絞り、最期の敵へと突撃していく。
振り上げられたザンバーの先にいるのは味方の全てがやられても尚、その狂気の笑みを絶やさぬスカリエッティ。
自分の身に迫る金色の大剣をスカリエッティはあろうことかその両腕で正面から受け止めていた。
「素晴らしい……本当に素晴らしかったよ君の力はッッッ……!! だが、その代償として君はここで足止めだ……私が妹と共にゆりかごへ託した願いは……止まらんよッッッッ!!!!!」
「ッッッ!!!! でやあああああああああッッッッ!!!!」
狂気の笑みと共に歓喜するスカリエッティを前にフェイトはその怒りを増幅させていき、
一旦後ろへと下がった後、再びザンバーを構えて今度は全力で横へと一閃。
スカリエッティはその攻撃を防ぐこともかわすこともせず、全てを受け入れたようにされるがまま。
その一撃がスカリエッティの体を容易く宙に浮かばせ、その勢いのまま通路の壁へと叩きつけていた。
「はあッ……はあッ……グ……ハッ…………!!!!」
戦闘の終わり、自分の勝利、だがその代償に負ってしまった物はあまりにも大きい。
脇腹からドクドクと流れ続ける血を左手で抑えるように、反対の右腕のザンバーを床へと突き立ててフェイトは片膝を着いて荒く呼吸を繰り返す。
「…………ごめん……エリオ…………キャロ…………わた、しは…………」
朦朧とする意識の中でフェイトを蝕んでいたのは体の傷以上に大きく広がっている心の傷。
結果だけ見れば自分はスカリエッティに勝利した、だがそれは到底喜べるものではなく苦い勝利でしかない。
怒りと憎しみを吐き出し終えて、冷静になった思考の中で思い返されるのは今までの自分のあまりに愚かしい行動。
スカリエッティの言葉を否定できず、その恐怖に怯えて怒りで誤魔化し、相手が憎いという子供染みた理由で力を振るう。
これがエリオやキャロの憧れた、なのはやはやてが共に歩いて来てくれた管理局員としての自分の姿だというのか?
全くお笑いでしかない、今の自分は相手の言葉を否定できずに駄々をこねて拳を振り上げていただけの子供でしかない。
避けようの無いどうしようもない現実がフェイトの心を一気に支配していた。
「……ナメルナ……ヨ、デキソ…………コナイ」
「!!――ゴッ……ガ……!?」
故にフェイトは、いや、例え心のダメージが無くとも満身創痍の今の状態では気付けなかっただろう。
ボロボロとなっていたフェイトの体を更に背後から貫いていたのは翠色の弾丸。
予想外の追撃で何が起きたかもわからぬまま意識を失ったフェイトの背後で立ち上がっていたのは、機体の大部分を欠損して尚動き続けるリナス。
エネルギーの構築と維持もまともにままならない状態だというのに、背後の砲台から極少量残されたエネルギーを振り絞って発射したホーミングレーザー。
リナスですら成功するかは賭けだったその攻撃がフェイトの体の中心部分を確実に貫いていたのだ。
「キサ……マハキ……サマダ…………ケハコ………コデ」
発する機械音もノイズが多量に混じった言葉にすらならない不鮮明な物、立ち上がる機体は今にも爆発寸前で全身がガタガタと震えている。
そうだというのにリナスは1歩1歩確実に、倒れるフェイトへと歩みを進めてその眼前へと降り立ち、残された力でトドメを刺そうとする。
心身共に限界をとっくに超えて、その状態で追撃を食らい意識を完全に手放しているフェイトにそれを防ぐ術は残されていない。
「烈風一陣ッッッ!!!!」
「ゴガ――――!!!!」
そのフェイトの窮地を救ったのがその場の誰でも無い声と共に壁を破壊しながら振るわれた一撃。
自身のすぐ横の壁の先から迫るその一撃をリナスはまともに喰らってその機体を大きく吹き飛ばされながら床を何度もバウンドして今度こそその機能を完全に停止させる。
「フェイト執務官ッッ!!」
「これはまた……恐ろしいことになっている物だね」
その破壊の先から現れたのはフェイト程ではないにせよ、ベルリネッタの兵器を単独で破壊しきり、大きなダメージを負いながらもこの場へと駆けつけたシャッハと、
別動隊として内部に侵入し、捕獲した戦闘機人の1体であるウーノを抱えながらシャッハに随行してきたヴェロッサ。
フェイトと共に屍累々というその場の有様を見ればヴェロッサでなくとも顔をしかめていたことだろう。
「ロッサ、すぐに脱出と、それから救護の手配を!」
「わかってる……いつまでもここにいたんじゃ危険なのは目に見えているからね」
リナスを除く残りの対象をバインドで捕縛しながら、慌てふためくシャッハの声にヴェロッサは冷静に答えていた。
「…………クククク……そうか……私はまだ――――」
「な……にっ……!?」
「しまった……転送魔法陣……!!」
だがその直前、バインドに縛られた状態で突っ伏しながら尚もスカリエッティは笑いを絶やさない。
直後、やられたとばかりに声を上げるヴェロッサとシャッハの目の前で、スカリエッティはその周囲に突如出現した魔法陣とそこから発する光に包まれてその姿を完全に消していた。
*
幾多に飛び交う地雷王、それを単独で迎撃するフリード、真っ向からその身をぶつけ合うヴォルテールと白天王。
翼を片方もがれた怪鳥、予想だにしない人物の出現に驚きを見せるエリオとキャロ。
「嘘……だって、あの時、カティは……ゼストはアギトと一緒にいなくなったって……」
「……確かにあの時はそうだった。だが、成すべきことを終えて時間も残り少なくなった今……これが俺の本当にやるべきことだったんだ」
混沌と激化する戦場の真っただ中、その場の誰よりも驚愕と困惑を隠せないでいるルーテシア。
そんな彼女の正面に立ち、ゼストは己の想いを吐露していく。
敬愛し、道を誤った自分と共の失態によって死なせてしまった部下、その忘れ形見の1つであるルーテシアを救わんが為。
「違う……ゼストは、私を置いていなくなった……!! 貴方は……貴方はゼストじゃないッッ!!」
「……お前の言うことに何も言い訳をするつもりは無い……お前の言うように、俺はお前を置いて逃げた情けない死に損ないだ……だが、それでも、今のお前を置いたまま死にゆくことなどできはしない」
「違う、違う違う違う……!! ゼストは……ゼストは……ッッ……!!」
アレスタルヴォーネの支配が弱まりながらも、憎しみに支配されたルーテシアの心は目の前の光景を必死に否定しようとする。
自分と一緒に居てくれた大きな背中のゼスト、自分の身の安全をたくさん考えてくれてその大きな優しい手で撫でてくれたゼスト、
それでも自分とどこか距離を置き、それを示すかのように最後には1人で行ってしまいまた自分を孤独の淵へと落としたゼスト。
会えて嬉しい、自分を見捨てたことが憎い、相反する感情でルーテシアの心は揺れ動きその精神は酷く不安定になり震える声を発しながら両手で頭を抱え込んでしまう。
「聞けルーテシア、スカリエッティやあの女に従わなくとも、お前の母を目覚めさせることはできる。いや、逆にアイツらの下にいればお前は二度と母と会えなくなる」
「違う違う……!! ドクターは、カティは……11番があればお母さんを生き返らせることができるってずっと!!」
「今更お前に言ったままの言葉をそのまま信じてくれとは言わん……だが、それは奴らがお前を利用するためにでっち上げた虚実だ。俺とお前の母、メガーヌを殺し、今のお前を人造魔導師として作り変えたのはたのは紛れもないアイツらなのだからな……!!」
「え…………そ、んな…………」
「ルーちゃん……」
困惑に打ち震えるルーテシアを救う為に明かしていくゼストの真実は、すぐ側でその光景を固唾を飲み込んで見守っているキャロですら胸を痛めるもの。
管理局最高評議会や地上本部、スカリエッティ自身の枷として決して明かすことのできなかった全ての真実。
自分がアギトと共に用済みとされ、同じように道具同然に縛り付けられているルーテシア。
枷の全てを解き放ったからこそ告げなくてはいけない、あまりにも遅すぎた真実の全てをゼストは語っていくのみ。
「だからお前が……お前がそいつらと戦う理由などもうどこにもありはしない。だから武器を収めてくれ……お前が望みさえすれば、管理局が絶対にお前と母を救い出してくれるはずだ」
「そ、そうだよルーちゃん!! 私達は絶対に約束するからッ!!」
「ゼ……スト…………」
信じ難い真実の数々と自分を見捨てた筈の相手、だというのにどうしてこんなにも温かで優しさに溢れているのだろう。
凍りついたルーテシアの心は見捨てられたという悲しみよりも、ずっと共に居てくれたゼストが戻ってきてくれているという事実から来る嬉しさの方が勝り始めていた。
そのゼストと、その隣で同じように自分に優しい言葉をかけてくれるキャロの存在。
スカリエッティにより改竄されていた全てが、ルーテシアの人造魔導師としての枷が解かれようとしていた。
「…………本当に、信じていいの……? その子たちについていけば、私はもう……1人じゃ……不幸じゃなくなるの……?」
「絶対だよ、ルーちゃん!! 私達はずっと一緒にいてあげるから、ルーちゃんやお母さんと一緒にッッ!!」
「ああ……もう大丈夫だ……信じても、いいんだ……」
見開かれた両目から絶え間なく流れ続けるのは涙、それが悲しみなのか喜びなのかはルーテシアにもわからない。
ただ、自分の目の前で優しい瞳をしている人たち、自分のことを助けたいと言ってくれる人たち。
スカリエッティやベルリネッタとは違う、ただ従うだけじゃなくて本当に自分の、本当の心で信じてもいい――
「…………私は――――」
「………クダラヌヨタバナシニツキウアナトイッタハズダルーテシアッッッ!!!!」
「!!…………まだ動けたのか……!!」
だが、その光景すらも真っ黒に塗り潰さんとする悪意が未だに健在であったことを直後に知ることになる。
機体の右半分を失いながらも尚も宙へと舞い上がるアレスタルヴォーネ。
僅かに残された武装の全ては眼下にいるゼストたち全員へと向けられている。
「ヤクタダズノゴミニンギョウガ、コウナレバウラギリモノドモモロトモスベテヲミチヅレニシテチルダケダッッ!!」
「させん!! あの女の悪意になど……ごふっ!!」
「!!――ゼストッッ!!」
「ゼストさん!!」
再び槍を構え直してアレスタルヴォーネと向かい合ったすぐ後、突如としてゼストは激しく咳き込みながら膝を着いてしまう。
突然の事態に駆け寄ったルーテシアとキャロが見た物、咳き込むたびにゼストから吐き出されビルの屋上へと付着する夥しい量の赤い液体。
「限界、か…………!! こんな時に……!!」
ゼストは歯を食いしばりながら必死に体を奮い起こそうとするも、精神に肉体が全く追いついていかない。
ベルリネッタから宣告されたタイムリミット、平時を保っても僅かしか残されていなかった時間。
レジアスと相対し、クイントの娘であるスバルを救い、アレスタルヴォーネの半身を切り取りながらルーテシアの下へと駆けつけた。
その一連の行動がゼストの命の残り容量を確実にすり減らしていたのである。
「シネシネシネッッッ!! マスターニハムカウオロカモノドモハスベテハカイスルノミッッ!!!」
「ぐうっ……ルーテシ……アッッッ!!」
「きゃあっ!!」
「ケリュケイオン!!!」
左半分の期待の背部に備えられたありったけの弾薬、ガトリングの弾丸や実弾キャノン、多数のミサイル。
その全てが容赦なくゼストたちのいるビルの屋上へと降り注いでいく。
咄嗟にキャロが防壁を展開するもその場全体を守るには時間が足りなすぎる。
それを察知したゼストが取った行動が立ちすくんだまま動けなかったルーテシアに飛びつき覆い被さること。
ドゴォオオオンッッ!!!!
崩落していくビルの屋上、それでも止むことない膨大な悪意、主への忠誠という唯一つのプログラムの下での攻撃。
残された弾丸を履き散らし終えたアレスタルヴォーネの眼下に広がるのは今までの比ではない程の巨大な爆煙。
「…………!!!!」
「グ、ガ、キサマラアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
それを吹き飛ばしながらアレスタルヴォーネに向かってきたのは2つの影。
モテる攻撃手段の殆どを失い、それでも悍ましく叫び続ける怪鳥。
その上部部分、根幹となる人型ユニットを切り裂いたのは体中の装甲にヒビが入り、ボロボロに割れたスピアを振りかざしてその半分をもぎ取るガリューと、
「許さない……!! ルーを、キャロを、ガリューを……僕たちの機動六課を……!! 多くの人たちを泣かせたお前だけはッッ!!」
「フ、フリョウヒンノジンゾウニンゲンメエエエエッッッ!!!!」
バリアジャケットの右袖を焼け焦がしながらも、左腕に持ったストラーダの推力でガリューと同じように真っ直ぐに向かってくるエリオ。
残された右腕に魔力を込め、電撃を纏いながら振り上げるその拳は、同じライトニング分隊の一員にして自身が模擬戦の中で盗み取った同じ名を冠する必殺の一撃。
「紫電……ッッ!! ぐ―――!!」
「クタバレエエエエエエッッッッ!!!!」
「ッッッ!!! 一閃―――!!!」
「ェェェェェァァァァァアアアアアアアッッッッ!!!!!」
機械である筈のアレスタルヴォーネがまるで人間の様な膨大な怨嗟の声と共に突き出す、残された最後の攻撃手段である有線クロ―。
その一撃がエリオの右胸を貫いて重傷を負わせるも、その痛みに屈することなくエリオは止まらずに遂にその悪意の眼前へと迫る。
電撃と共に振り上げられた右腕の一撃は、既に大半の機能を欠損して装甲も大きく摩耗していたアレスタルヴォーネを撃ち抜くには十分すぎる破壊力であった。
頭部に撃ち付けられ、そのまま抉るように人型部分を拳で下へと貫かれたアレスタルヴォーネは遂に停止し、エリオとガリューを巻き込みながら空中で大爆発を起こす。
「あ…………くっ……ぁ……」
「エリオ君ッッ!!!!」
爆発にその身を吹き飛ばされ、右胸から血を流して落ちていくエリオと、同じように全身にダメージを負って墜落していくガリュー。
既に意識の無い両者の姿を捉えたキャロはフリードを呼び寄せてすぐさま2人を受け止めるべく、崩落したビルから飛び上がっていく。
「…………大丈……夫か、ルーテシ……ア」
「ゼス……ト……? !! ゼストッッ!!」
そして崩落したビルの中に残されていたのは呆然としたまま動けなかったルーテシアと、そのルーテシアを庇うようにして倒れ込んでいたゼスト。
ルーテシアを安心させるために浮かべられた柔らかな笑みとは対照的に、その全身にはルーテシアを攻撃から庇った際に負った多くの傷があった。
それと同じように口元からも血が流れ続けておりそれが止まることは無い。
「……本当に……すまなかった……今まで俺…………自身の不甲斐…………なさの所為で……こんなにも……お前を……お前の母を…………苦しめ続けてしまった」
「嫌ッ!! ゼストッ!! 血が!! 血がああっっ!!」
「フフ……こんな情けない俺でも……心配してくれるのだな…………それだけでも……恥を晒して……戻ってきた……意味が…………あった……」
呼吸も不規則、息も絶え絶え、掠れた声を発するしかできない今のゼストが既に手遅れだったのは誰の目から見ても明らかなこと。
ただ、己を蝕む精神操作から完全に解放され、自分を取り戻していたルーテシアはその事実がわからない、いや、認めたくないと言わんばかりに泣き叫び続ける。
「…………本当に……守りたいものを……守る……それだけの…………ことを為すのに…………こんなにも……遠回りをしてしまうとはな……」
「喋らないでッ!! お願いだからッッ!! ゼストッッ!! ゼストッッッ!!!!」
「…………だからお前は……どうか…………これから先は……道を違えることなく…………幸せに……生き……て…………く……れ…………」
「ゼストォオオオッッッッ!!!!」
嗚咽と涙が混じる中、まともに言葉も発せずにルーテシアは只管に叫ぶことしかできない。
しかし現実は非情。その叫びも虚しく時間はとっくに尽き果てていたゼストは最後に自分が守ろうとした少女の、
ルーテシアの真の幸せを願う言葉を残し、その優しげな笑みを浮かべたまま目を閉じ散った。
「嫌ァ!! 嫌ァアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!」
本当に自分の側で自分を守ろうとしてくれていた大切な人。漸くそのことに気付けたはずのその人が逝ってしまったという絶望。
ルーテシアの悲しみの叫びが廃棄都市一帯に響き渡っていた。
*
「ククク……まさか……あのタイミングで手を差し伸べてもらえるとは思ってもいなかったよ……カティーナ」
「しょうがないよ兄さん。クアットロは見捨てる気満々だったみたいだけど、流石に私は割り切れなかったみたいだったしさ」
「ド、ドクター!? 大丈夫ッスか!?」
「言ってる場合じゃないよウェンディ!! すぐに応急処置を!!」
総司令室のモニターで一緒に観戦してたセインとウェンディが慌てふためくのは無理もないことなんだろうね。
こんなところで自分のデバイスの長距離転送能力が役立つとは自分でもビックリだったりするし。
実際問題、あのまま兄さんを見捨てて施設ごとどっかーんしても全然問題なかったんだけど、
私にとって特別である"今の"兄さんを見捨てるという選択肢は私には取れなかったみたいだ。
やれやれ、クアットロにまた笑われちゃうね。ここまでやってきたのに私はまだ常人的な甘さが抜け切れていなかったみたい。
「さーて……地上の方はほぼ全滅って感じだよねえ……こっちもこっちでフィーネやディエチもやられちゃってるし」
モニターで一緒にセインやウェンディと高みの見物と洒落込んで楽しんでいたけど、戦況的には色々ヤバいんだろうね普通に考えれば。
何せ地上侵攻部隊のノーヴェ、オットー、ディード、ナンバー13にその他兵器群は壊滅状態。
手傷を負わせたとはいえアレスタルヴォーネとルーテシアもまさかのゼストの横槍で敗北。
アジトの方も今の兄さんの惨状通り、トーレ、セッテ、リナス、その他兵器群の全部がオシャカ。
実質的に残っているのは役に立つかわからんガジェットとこのゆりかご内の戦力だけ。
「くふ……くふははははははは!!!! やっぱり素晴らしいわねえ機動六課はッッ!! まさかここまで私たちの予想の上を行ってくれるなんてッッッ!!!」
それでも尚、私の中に浮かんでいたのは兄さんと同じ歓喜の感情とそこから来る大笑いだった。
私や兄さんの自慢の兵器で地上の全てを焼き尽くすという快楽、その為の膨大な戦力を撃ち破って見せた機動六課と管理局。
その底知れない力、それに対する歓喜の方が私の中で勝っていたのだから。
そしてそして……それだけの力がありながらも、絶対に揺るぐことない自信のある最高の切り札はこのゆりかご内で健在。
その力を以てして今の優勢を盛り返した時、より強い快楽を得ることができるだろうという期待に満ちていたんだから。
「さーてさてさてッッ!! 役者も舞台もクライマックスを迎えつつある……後は、それが完全に出揃うまでの準備を進めるとしましょうかッッ!! そうでしょう? クアットロ、シグノリアッッ!!」
『もちろんよカティちゃん……言われなくても、向こうの切り札はもうじき潰れるでしょうしねえ?』
『マスターの命であるならば、私はその全てに従うだけです』
感極まって高笑いを上げる私に答えるのはこことは別のコントロールルーム、メガネを外して髪の結いを解き、一層邪悪な笑みを浮かべているクアットロ。
防衛を担当している駆動炉から一切の傷を負うことなく綺麗なボディを見せたまま答えてくれる私の最高傑作。
そして更に別のモニターに映っているそれぞれの切り札と相対する機動六課の隊長たち……ズタボロになっているその姿がより一層私の心を昂らせてくれていた。