狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第35話:夜天と星々は集い、最後の舞台が開く

ゆりかご駆動炉、戦闘による幾多の傷を刻み込みながら、その本体は何ら変わることなくその光を放ち続けている。

その駆動炉が存在する広域空間、相対しているのは駆動炉をバックに悠然と漂う人型と、その眼下の床の上で息を荒げる小さな紅。

 

「はあ……はあ……ぜえ……」

 

体中は傷だらけ、額からは多量の血が流れ顔のほとんどは真っ赤に染まっている。

内部のダメージも甚大な物であり、グラーフアイゼンを構える両手は下がり気味。

だというのにヴィータは、それでもその瞳と心に宿す闘志はそんな絶望的な状況下であろうとも全く揺らいでいない。

少し離れた上空で静止している無傷同然のネロ・シグノリア、それに対する敵意だけを只管にぶつけている。

 

「アイゼンッッ!!」

『Schwalbefliegen』

「おおおおらぁああああああ!!!!」

 

主の期待に背くことが無いのは愛デバイスであるグラーフアイゼンも同じこと。

ヴィータが瞬時に眼前へと形成した計8個の紅い魔力にコーティングされた魔力球。

傷だらけのその体のどこにそれだけの頑強な意志が宿っているのか。

空間全域に響き渡るような咆哮と共にヴィータはその弾丸を勢いよく打ち出す。

四方八方あらゆる方向から襲い掛かるのはただ一点、この駆動炉の守護者であり最後の敵であるシグノリアに対して。

 

「無駄だと言っているのです……『火龍一閃』」

 

だが正確な時間に換算すれば僅かでしかなかったシグノリアとヴィータ達の交戦。

その短い間ですらシグノリアは一度たりとも攻撃を許さず、逆に敵対する者たちの技能を着実に身に付け強化されていた。

人に限りなく近いその機械音から発せられるのは、この場にもう1人いた筈の騎士、シグナムがアギト共に繰出していた魔法。

シグノリアの両腕から膨大な量の魔力による炎が噴出され、1つの形となって定着する。

聖王ヴィヴィオから得られた高速データ収集を基に組み込まれた技能複製機能、その驚異的な力は戦闘の最中でも随時更新されていくのだ。

 

「はあっ!!」

「ぐ…………!! あがぁっ!!」

 

元の使い手と何ら変わることない、いや、もしかしたらそれ以上の魔力を伴った2対の炎の竜。

その奔流がシグノリアを狙っていたシュワルベフリーゲンの弾丸全てを余すことなく飲み込み破壊していく。

それだけに留まらずシグノリアは直後に火龍一閃を解除、持ち前の高速機動を活かして瞬時にヴィータへと肉薄。

魔法使用後の隙を突いて放たれるシグノリアの蹴りの一撃にヴィータは容赦なく吹き飛ばされ、近くのカベへと叩きつけられる。

 

「ぐ……は……がほっ!!」

「貴方にも十分におわかりでしょう鉄槌の騎士? 確かに貴方の実力はとてもとても素晴らしい物です……ですが、それでも絶対に敵わない敵も存在するのですよ」

 

衝撃と更なるダメージに呻きながら片膝を着くヴィータは、そのまま激しく咳き込み血を吐いてしまう。

そんなヴィータをまるで憐れんでいるのか本気で心配しているのか、沈んだ音声で発せられるシグノリアの言葉。

リナスやフィーネといった他の作品のAIと比較して、確かに相手を侮ったり挑発したりするような思考はインプットされていない。

だがしかし、シグノリアはマスターであるカティーナが最高の期待を込めて作り上げた最高傑作ということに何よりも誇りを抱いており、

その自負と己の実力から来る絶対の自信という一点については他の作品と同じ、あるいはそれ以上の考えも持っている。

 

「私がマスターより仰せつかっているのはこの駆動炉の守護……故に駆動炉の破壊を諦めてくだされば貴方に危害を加える理由は消滅する……だというのに、貴方はどうして尚も刃向かうのです?」

 

このまま続けていけばいずれはヴィータの命が燃え尽きるであろうことは双方にとってもわかりきっていること。

度々通信で他の戦場の現況がシグノリアにも伝えられているとはいて、依然として彼女が命令されているのは駆動炉の防衛一点のみ。

シグノリア自身にとってみても称賛に値する強者であり、ベルリネッタが興味を示している貴重な実験対象ということもあって、その命を刈り取ることを良しとしていない。

何より互いの圧倒的なまでの実力差はこれまでの戦闘でも十分に判明していること。

それら全ての事実を統合した上で、未だ抵抗を、駆動炉の破壊を止めようとしないヴィータのことが理解できずにいたのだ。

 

「……じゃあ聞いてやるけどよ……仮にあたしがここで退いてテメェらはこのゆりかごを止めてくれたりすんのか?」

「私には判断しかねる事です。ですが、マスターとドクターの目的はこのゆりかごを軌道上に到達させ、迫りくる時空管理局本局の次元航行部隊を打ち倒すことにあります。であるならば、それは論じるだけ無駄なことだと考えます」

「ハッ……だったら、わかるはずだろうが……テメェをぶっ倒して、駆動炉をぶっ壊して、それでこのゆりかごを止める……それがあたしの役目なんだ!!」

「その為ならば、目的を果たせる可能性が限りなくゼロに近くても、自分の命が燃え尽きても、貴方は諦めることは無いと?」

「諦める気もここで死ぬ気も更々ねえよ……!! あたしはもう絶対に退かねえ……!! あたしを待ってくれてる仲間の為に戦うって、そう決めてんだよッッ!!」

 

口から流れ出る血を止めようともせず、より大きく燃え上がる闘志の炎をその瞳に宿してヴィータは立ち上がる。

肉体のダメージが限界であろうとそれを凌駕する精神で無理やり体を動かしてしまえばいい。

精神で体を引き摺るなどという行為はヴィータに限らず、寧ろ機動六課の前線メンバーの殆どが大なり小なりやってきたことと言える。

だがそれが可能であれど、肉体のダメージが大きければ大きいほどそれに生じる無理も膨大な物となり、やがてはそれすら出来ない程の傷を負う危険もある。。

実際、今のヴィータの状態を考えれば例えどんな歴戦の古強者であろうと、既に限界を迎えて倒れていてもおかしくない筈なのである。

それなのに少しもヴィータは退くことなく、傷だらけの体を溢れ出る闘志で操り続けているも同然の状態なのだ。

 

「……機械である私には理解しかねます。それもまた、貴方が人と同じであるが所以なのでしょう。敬意を表しますよ、鉄槌の騎士」

「はん……これもさっきから言ってるだろうが、テメェなんかに褒められても不快なだけだってな」

 

人間に限りなく近い超高度の自律思考AI、されどその根幹に植え付けられた自身は機械であり戦いの為の兵器という思考は強大な物。

だからこそシグノリアはヴィータのその在り方に憐れみと同時に眩しさすらも感じ、それを明確な言葉として示す。

ヴィータもヴィータで限界を超えて燃え続ける精神の下、シグノリアの言葉に嘲笑の言葉を返して見せていた。

 

「くひは……くひはははははッッッ!! 貴方は本当に相変わらずなんだねえッッ!!? だったら……もっと、不愉快な気分にしてあげるとしましょうかッッ!!」

「!!……な……に……!!」

 

そんな真剣そのものな戦いの空気をドロリと濁しながらやってくる乱入者。

ヴィータの見上げた視線の先に召喚魔法陣と共に姿を現すのは、ヴィータにとっても最大の憎しみを抱いている元凶、ベルリネッタ。

そして彼女が現れた直後に姿を現す別の影が1つ、2つ……いや、3つ。

 

「な……あれ……は……」

「くふふふふ……!! 面影があるからわかると思うけどねえ……!! そうッッ!! 貴方の相方が救いたがってた聖王の現身だよッッッ!!」

「!!……やっぱり、あれは……ヴィヴィオだってのかよ……!!」

 

感情の高揚など当の昔に振りきれているベルリネッタの狂気の笑みと共に、駆動炉の最長部やや上空に姿を現したソレ。

駆動炉の光とは正反対の、しかし禍々しさは変わらない青い光を不気味に発している正八面体の障壁。

それに捕われる様にして苦しげに両目を閉じ、指一本動かすことも敵わないヴィヴィオがそこにいた。

 

「じゃあ、なのははッ……!!」

「ご心配なく、まだ生きていると思うよ!? それこそ急ピッチでこっち向かってんじゃないかなあ? 尤も、切り札の使い過ぎで今の貴方と同じで死に体だろうけどねえッッッ!!」

「……あのバカ……ブラスターシステム……使いやがったのかよ……!!」

 

想像したくない最悪の状況を否定する言葉を敵から聞けたということに複雑な心境を浮かべながらも、

次いでの言葉にヴィータはその表情を歪めてしまう。

切り札の使用……今のなのはのその身を削る切り札たるブラスターシステムの詳細についてはヴィータも聞き及んでいること。

今の自分を見ればそれを否定する資格なんて無いのかもしれないが、それでもそれを使ったであろうなのはの状態のことを考えるとヴィータはそう思わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

ドォオオオン!!!!

 

 

 

「ベルリネッタッッッ!!!」

「おっとと、言ってる側から主賓その2がご到着だねえッッ!!?」

「うわっとと……これまた凄いバカ魔力……あの魔導師、底無しなの?」

「かもしれないっスねえ……そうでもなきゃ、クア姉のいる最深部を玉座の間から一発で撃ち抜くなんて芸当、普通できないっスから」

 

ベルリネッタ自身とその両サイドを固めるセインとウェンディの言葉の最中で響き渡る爆音と破壊。

崩落する天井、その先の爆煙を切り裂いて飛んできたのは玉座から一気にここまでやってきたなのは。

クアットロを倒した際に破壊した通路を近道代わりに一気に最下層へと降り立ち、一直線にこの駆動炉へと向かってきていたのである。

ブラスターシステムはリミット3のまま継続、そこから放たれる莫大な砲撃は尚もなのはの命を削り続けている。

 

「!!……ヴィヴィ、オ……!! !?……ヴィ、ヴィータちゃん!!!」

「よう……とりあえずは生きてるみてーで安心だ……なのは……」

「そ、そんなことよりその傷は……!!」

「人のこと言ってられる場合か? おめーだってボロボロの癖によ……」

 

ベルリネッタの招く駆動炉へと到達したなのはの前に待っていたその光景も彼女の思考をぐちゃぐちゃに掻き乱すのに十分すぎる物。

直前の横槍で再びつれされれていったヴィヴィオが未だベルリネッタの手の内にあり、苦しめられているということ。

それ以上に、この駆動炉へと向かっていたヴィータの今の惨状、その有様になのはは胸を痛めている。

だというのにヴィータはその傷を全く感じさせない軽い口調で、なのはの現状を皮肉ってすらいたが。

 

「なのはちゃん!! ヴィータ!! シグナム!!」

「なのは隊長、ヴィータ副隊長、ご無事ですか!!」

 

続け様に駆動炉の正面入り口から姿を現すのははやてと、バイクに跨ったスバルとティアナ。

それぞれ違うルートでゆりかご内部侵入を果たしていた両者はその途中で合流し、目的地である駆動炉へとやってきていた。

そこにいたなのはとヴィータ、そしてそれ以上の地獄絵図に真っ先に気付いたのは、

 

「!!! シグナムッッ!! リイン!! アギトッッ!! し、しっかりしぃ!!? どうして……どうしてこんなッッ!!」

 

真っ先にはやてが駆け寄ったのが血の海の中で折り重なるようにして倒れていたシグナム、リイン、アギトの3人。

唯一の生き残りであるヴィータの手で最低限の応急処置こそ施されていた物の、それでも3人全員が意識を失い命の境を彷徨っているも同然の状態だった。

ユニゾン状態の高位の騎士2人を相手に圧倒的な力の下でそれを捻じ伏せて見せたシグノリア。

その力の前にシグナムが、アギトが倒れ、ヴィータの中でダメージが蓄積されていったリインも限界を迎えていたのだ。

 

「くひゃはははははは!! 予想通りのリアクションありがとうね部隊長さんッッッ!! 大切な家族が、仲間がボロ雑巾みたいになってるのを見るのってどんな気持ちなのかなあッッッ!!?」

「!!! あんたはぁああああ!!!!」

「ま、待てはやてッ!! お前の魔法は撃っちゃダメだッッ!!」

 

泣き叫ぶはやての姿もベルリネッタが期待していた通りの物であり、彼女の快楽を満たしていく。

その姿を前に怒りの振りきれたはやては反射的にシュベルトクロイツを構え、ベルリネッタに向けて莫大な魔力の砲撃を放つ。

詠唱もコントロールも何も無い、怒りで放たれた直射的な攻撃、それでもSSランクという魔力の持ち主であるはやての撃ったそれは一撃必殺級。

だ目の前の敵に対してそういった砲撃が悪手でしかないことを誰よりも知っていたヴィータが叫ぶも、はやての魔法は止まらない。

 

「くひは……!! シグノリア?」

『マスターを傷つけることは許しません、『CMF起動』』

「なっ……!?」

「危ねえッ!! みんな避けるんだ!!」

 

余裕の姿勢を一切崩すことないベルリネッタの前に立ちはだかるシグノリア。

優雅さすら感じさせる独特のポーズの下で向かってきた白色の砲撃が何の抵抗もタイムラグも無しに進行方向だけを真逆にしていく。

あまりの事態に目を見開くはやてとヴィータの怒声が木霊し、迫りくる砲撃を避けるべくそこにいた全員が各々の砲口へと飛び退いていく。

ヴィータ達5人が離れたすぐ後、反射されたはやての砲撃が床へと直撃し更なる破壊を引き起こした。

 

「ど、どうなっとるんや……私の砲撃をああも簡単に……」

「アイツはこっちの魔法をカウンターする力を持ってるんだ……どんだけ強力でもさっきみてーな何の工夫もねー攻撃じゃ全く通用しねえ……」

「あ……ご、ごめんヴィータ……私がしっかりせなあかんのに……」

 

飛び退いた後に交わされるヴィータとはやての会話。

敵の性能、技能もわからずに迂闊に攻撃をしてしまったこと、その所為で仲間を巻き込んでしまったということ。

その事実にはやては瞬時に思考が落ち着いていくと同時に仲間たちへの申し訳なさが膨れ上がり、謝罪の言葉を口にする。

ヴィータ自身、口にしておいて信じたくは無いことではあるのだが、それでも自分のコメートフリーゲンや、

今し方放たれたはやての魔法すらもカウンターして見せたシグノリアのその力への警戒能力は高まっていく一方であった。

 

「くひゃはは……!! 私の最高傑作の力の一端も見せれたところで……ようこそだよ、機動六課の生き残りの皆さんッッ!! 最高の舞台であるこの駆動炉へッッ!!!」

 

青白いテンプレートを足場にその絶笑を響かせ続け、大げさな身振り手振りで右腕を前に出しながら深々とお辞儀をするシグノリア。

その両隣にいるのは同じように楽しげに笑う戦闘機人、セインとウェンディ。

3人の前方を固めるのは表情のうかがい知れないシグノリア、3人と1機の少し上空には捕らわれの身のヴィヴィオ。

生き残った敵の殆どを前にして、駆動炉に集った機動六課の生き残りメンバーもその表情を引き締め直している。

 

「まずはありがとうだよッッ!! ここまで生き残ってくれてね? 鉄槌の騎士もよくぞここまで持ち堪えてくれましたとも、そっちにいる無様な剣の騎士とは大違いッッッ!! 褒めてあげますッッ!!」

「……テメェの与太話も挑発も、もうあたしらには通用しねー。やるならさっさとやるぞ……こっちにはもう時間が無いんだ」

「ありゃ? 前と違って随分冷静なんだねえッッ? つまーんなーいのッッッ!!」

 

耐え難い激痛を携えて、それでも少しも下がることなく真っ直ぐにグラーフアイゼンを突きつけるヴィータを前にベルリネッタはおちょくるような言葉をかけるのみ。

人数的な戦力差は六課に分があるが、個々のコンディションとゆりかごの現状を見れば六課に圧倒的不利であることは何ら変わらない。

ゆりかご軌道上到達まで30分を切っており、救うべきヴィヴィオも破壊すべき駆動炉も、それを守るベルリネッタの最高傑作であるシグノリアも全て健在。

残りの時間でそれらをどうにかしなければ六課と、時空管理局の敗北となるも同然なのだから。

 

「でもでもでもぉ? 始める前にすこーしだけお話しさせてね♪ 貴方たちみたいな化け物がこうして相対してるってだけでも楽しくて愉快で……滑稽なんだからさあ?」

「化け物……ッッ……!! ギン姉やみんなを傷つけて、ヴィータ副隊長たちでも敵わないような凄い兵器を作ってる、このゆりかごを飛ばして大勢の人たちを悲しませているお前たちが言うな!!」

 

見開かれたままぐりぐりと動き回るベルリネッタの視線とそこから紡がれていく化け物という呼称。それに真っ先に反応し怒りを返したのはスバル。

自分の姉を、まだ生き残っている2人の戦闘機人もそう、何よりこれまでに作り続けてきた多くの無人兵器など。

それらがもたらしてきた多くの悲劇と不幸、自分の大好きな母や姉を苦しめ傷つけ、それ以外のたくさんの人々を泣かせてきた。

言ってしまえば数多の悲劇を振りまく化け物を作り続けているのはお前たちの報だという、そんな思いの込められたスバルの怒声だった。

 

「だってだってだってねえ? 地上の戦況と今ここに立っている貴方達が何よりの証だと思うんだけどぉ?」

「……何が言いたいのよ、あんたは?」

 

最愛の相棒を愚弄する言葉を耳に、同じように怒りを見せながらもどうにか冷静さを保ってティアナが問いただす。

相手の感情など蚊帳の外、己の在り方を変えることなく続いてくのはベルリネッタの独白。

 

「性能差がどうあれ、地上にいた私の兵器たちも兄さんの作った戦闘機人たちも十分すぎるくらいに優秀な戦力、並の魔導師なら相手にならない驚異的な力を持っていたのは事実なんだよ? だというのに貴方たちは明確な戦死者も無しにここまでたどり着いている……それこそが何よりの証じゃないッッ!!!」

「私達の……管理局の魔法は貴方達なんかに負けたりしない!! ただ悪戯に人を苦しめて悲しませるだけの貴方達の力になんて!! その不幸を打ち砕く為の力がみんなにはある!!」

「不幸を打ち砕くねえ……さっすが、クリーンで安全な魔法エネルギーをお使いのなのはちゃんッッ!! 言ってることも高貴さに満ち溢れていますともってねッッッ!!!」

 

折れることない不屈の意志をその胸にこの線上に立っているのはなのはも同じ。

理不尽な痛み、抗えない悲しみ、どうしようもない運命、そういった物を振り払い、自分の想いを貫き通し、大切な人たちを守りたくてなのはは魔導師という道を選んだ。

その為に振るい続けてきた魔法という力、同じように想いを真っ直ぐに貫いてほしいと後輩に教えて伝えてきた力。

その力は単に自己快楽の為に無関係の人を傷つけるだけの力から人々を守るための物でもあると、なのはは堂々と言ったのだ。

 

「それこそが矛盾だっていう事に何で気付けないのかなあ? 特になのはちゃん? 貴方がさっきまで使ってきた魔力、あれが個人に委ねられてその意思で操作されていいと思ってるの?」

「……ッ……なのはちゃんの言うように、私たちの魔法は何かを守るためのもんや、あんた達みたいな理不尽な暴力とは違う……!!」

「ふふーん? なのはちゃん以上のバカ魔力をお持ちの部隊長さんが言えるセリフなのかなぁ? 結局の所、都合の悪い現実を正視できずに逃げ続けてるだけなのにねえ?」

「逃げ続けてる……やって……?」

「そ、質量兵器も戦闘機人も使い方次第。魔法だって同じよ? 使い手の意思一つでクリーンにも暴力にもなる。だというのに、頭から私達の力を悪しき物と決めつけて、単独であんな暴力的な破壊を行使できる力はクリーンと呼称する……これを滑稽と言わずして何と言えって感じじゃないのッッッ!!!」

「!!!!…………」

「それでしかも本局も地上も万年人手不足、些細なイザコザと力の運用で揉めっぱなし……挙げ句に私達みたいな最低の人種を頼らないといけなくなるっていうねえッッッ!!! くふははははははッッッ!! 現実の見えてない暴力使い続けてるのはどっちなのやらだよッッッ!!!」

 

他者を傷つけるだけでしかない狂気の科学者の暴論、そこに対する感情は当然理解でも肯定でも無く怒りだけ。

その筈だった中で1人だけ、はやてだけはベルリネッタの独白に明確な困惑を浮かべている。

ボタン1つ押すだけで世界を破壊しつくしたとさえ言われている質量兵器、倫理や道徳など弁えていないよほどどうかしてる人間でなければ手を出さないと割れている人造魔導師や戦闘機人。

それらの技術を禁忌の物として封印し、魔法技術だけに頼り続けてきたツケの代償。

それが生み出してしまった地上と本局の闇、スカリエッティとベルリネッタという存在、その裏で糸を引いていた管理局の中枢たち。

オーリスから託された情報で、闇の全てを知り得ている、知ってしまったはやてだからこそ、ベルリネッタの言葉を一蹴できない。

現に、闇の書という強大なロストロギアの最後の主として莫大な魔力を行使する自分にだってその持論は当て嵌まるのだから。

もし同じだけの力が発揮できる質量兵器や戦闘機人などが存在していれば、真っ先に封印されていたことが予想できてしまう。

本来ならロストロギアとして同じように処理されていた筈の所を見逃して貰っているのも、結局は管理局に合致する魔力エネルギーの持ち主だったからに過ぎないという現実。

信じてきた力と組織への疑念、自分たちの本当の在り方、地上本部の極秘情報書庫で目にしてきた物を前にして以来、

この激戦の最中でもはやての不安は膨れ上がり続ける一方で、消すことのできない一つの大きな疑問だったのである。

 

「…………おめーの言うようにあたしらには力があるし、その力で誰も傷つけたことが無いなんて言うつもりはねえ……」

「ヴィータ……?」

「くふふふふ……!! さっすが元呪われた守護騎士だねえッッ!!! 理解が早くて何よりだよッッッ!!!!」

 

周りの者たちの怒りとはやての困惑、その最中で真っ先に反論の為にヴィータは口を開いていた。

大切な家族であり戦友でもあるヴィータの言葉に我に返りながら、ベルリネッタの狂笑も止まぬ中でヴィータは続けていく。

 

「力の使い方だの管理局のいざこざだの、小難しいことはわかんねえよ……けどな、テメェらの言ってる力であたしの大切な仲間たちが傷つけられて、それに対抗できる力があたしらの魔法だけなんだ……だったら……!!」

「だったら? どうするのかなぁ?」

「今はあたしたちが守りたいもんの為に……!! ただそれだけの為に全力で戦ってテメェらをぶっ潰す!! そんだけだろうがッッ!!!」

 

一切の迷いも憂いも無く放たれるヴィータの宣言。

守りたいものの為に今は戦うだけ、ヴィータだけではない。なのはも、スバルも、ティアナもそれぞれ差はあれど心の底に抱いているのは皆同じこと。

 

「……そうやった……何も迷う必要なんてあらへんかった……!! 今私達が諦めるのはミッド地上を見捨てるのと同じこと……だったら、それをどうにかするために戦うだけや!!」

「もちろんだよはやてちゃん……!! あの人たちを止めて、そしてヴィヴィオも絶対に救い出してみせる!!」

「ギン姉を……みんなを傷つけたお前たちを私は許さない……!! これ以上の不幸なんて絶対に起こさせしない!!」

「同感よスバル……!! なのはさんやヴィータさん、八神部隊長まで頑張っているっていうのに、ここでおめおめ逃げ帰るだけなんてできないもの……!!」

 

ヴィータの言葉ではやても己を完全に取戻し、それに続くようになのは、スバル、ティアナも続いていく。

自分たちの双肩にミッドチルダの、時空管理局の未来がかかっているに等しいこの戦い、絶対に負けるわけにはいかないと。

 

「くふ……!!! くふははははははははははははッッッッッ!!!! ブラボーだよッッ!! 実にブラボーね機動六課ぁああッッッ!!! そうよ!! 小難しい理屈なんて必要ないッッッ!!! 貴方たちはただその力を存分に見せつけて、そして死んでいけばそれでいいのよッッッッ!!!!!」

「まあ、ここで何もかも台無しにされるのはドクターやカティだけじゃなくて私達も望まないところだからね、その為なら私達も頑張るだけってね!」

「ッスねー、ようやっと私たちの出番ともなればテンションも上がるってもんっスよ!!」

 

ヴィータの下でその結束を益々強めて機動六課の純粋で真っ直ぐな意志。

それを前にベルリネッタは今まで以上の、生み出されてからの数十年の中でも最大とも言える歓喜の笑みを浮かべていた。

傍らに立ちそれぞれの得物を弄り始めたセインやウェンディも同じこと。

結局の所、双方に小難しい理屈など意味を成さず、最後に立っていた側の陣営に未来は委ねられるのだと。

 

「さあシグノリアッッッ!! 敵もその気になってるみたいだから貴方にも新たな命令を与えるわッッッ!!! 私達の敵を、目の前にいる機動六課の魔導師たちを全力で殺すのよッッッッ!!!」

「了解しました、マスター」

「来やがれポンコツども……!! あたしらは絶対に……勝ってみせる!! アイゼンッッッッ!!!!」

『Zerstörungsform!!』

 

最高潮の歓喜の下されるベルリネッタの命令と、それを受け取るシグノリア。

それを前にヴィータが行うのは自身の残された全力の開放、グラーフアイゼンの更なる力の発揮。

連続カートリッジロードと共に姿を変えるのは、ギガントフォルムすらも上回る大きさで、巨大なドリルと推力を併せ持つツェアシュテールングスフォルム。

ヴィータの掛け声と共にその場にいた全員が一斉に動きだし、最後の戦いが幕を開けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あぅ……!! ぁああっ…………!!」

「クククククク…………」

 

その水面下で確実に進んでいたヴィヴィオを蝕むもう1つの狂気、

それに機動六課の誰もがまだ気づかない中で……

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