狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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※残酷な描写に注意です。


第36話:全てを打ち砕くシグノリア

ゆりかご駆動炉内部の空間で始まった事実上の最終決戦。

正八面体の青いケージに捕われたヴィヴィオとその傍らで高みの見物に洒落込んでいるベルリネッタ。

その眼下でいくつもの影が舞い、魔力弾や砲撃が飛び交い、攻撃が交わる度に火花が散り電撃が巻き起こる大激戦。

文字通り次元の違う戦い、凡百の魔導師が介入したところであっという間に飲み込まれて散っていくだけであろう。

 

「うりゃあああああ!!!!」

「うわっと……!! この前、右腕を取ってやったってのに何ていう気迫だよ……」

 

いくつもの魔力の道、形成されたウイングロードを駆けるスバルと気合と共に放たれる拳の数々。

対抗するのは両腕の巨大クロ―、ダイバードラゴンを有する戦闘機人の生き残りの1人、セイン。

駆動炉本体を中心として広域な空間であり、遮蔽物の少ないこの場所ではセインの固有技能であるディープダイバーの能力を十全に活かせるとは言い難い。

複雑な軌道を描きながら絶え間なく突撃してくるスバルの攻撃をダイバードラゴンの表面部分でガードするのに精一杯。

右腕だけでなく姉のギンガから託された母の形見の片割れであるもう一つのリボルバーナックルも装備している今のスバルの攻撃は単純に倍以上となっている。

連続して叩きつけられる右と左、双方からの拳の連撃、一先ずの状況としてはスバルが押していると言っていい感じである。

 

「でもね……一直線に向かってくるだけじゃ無駄なんだよ! ディープダイバー!!」

「……!! 沈んだ……――――!! くっ!!」

 

尤も、ディープダイバーを使うための物体が何一つ存在しないのかと言われればそれもまた否となる。

攻撃の隙を掻い潜り、クローで防いだスバルの攻撃をそのまま弾き飛ばしてセインが飛び上がり、空間内の壁の一部へとダイブ。

そのまま全身を沈み込ませて姿を消し、殆どの時間の差を与えずに飛び出してくるのは壁の中から勢いよく飛び出してくる2対のクロー。

名称通りの竜の如く唸りを上げて伸びてくるそれは一直線にスバルへと向かっていくも、それを察知したスバルの展開した防壁によって弾かれる。

すぐさま2つのクローは急速後退して先程のセインと同じように壁の中へと戻っていく。

 

『ふふん、私のIS、ディープダイバーとカティの作ってくれた武器、ダイバードラゴンとの合わせ技、貴方に裁ききれるかなゼロセカンド?』

「ッ………………」

 

得意げなセインの声と共に全く違う壁から飛び出してくるクロー。

今の自分と敵を取り巻く状況に歯を噛み締めながらもスバルはそれらの攻撃を正確に一つ一つかわしていく。

寧ろ、さっきまでのように表に堂々と姿を現して戦闘を挑んでいた時点でスバルは仕留めておくべきだったと言える。

無機物の中に身を潜めて自由自在に移動し、その中からでも攻撃可能とあってはその厄介さは推して知るべし。

戦闘機人の反応については六課側でデータを解析し終えており、スバルでも追えないことは無かったが、

それでも壁の中を自由自在に動き回る敵をピンポイントで攻めるとなると相当な技量を要することになる。

時間をかければスバル単独でも成し得ないことではないだろうが、激戦が続いているその最中でそれを行うとなるとそれは不可能に近くなる。

 

「敵はセインだけじゃないっスよ!!」

「なっ……こっちからも……!!」

 

それをすぐさま証明するかのように聞こえてくるのはスバルの8時方向後方に潜んでいた別の影。

固有武装であるライディングボードとその周辺に浮かび上がるいくつもの弾丸を操る者。

スバルがハッとそちらの方へと振り向いた時、ウェンディは練り上げた弾丸を一斉にスバルへ向けて発射する。

タイミングと速度を加味してほぼ直撃コース、防壁を張られても手傷を負わせることは十分に可能なタイミングでの攻撃。

 

「シューーーートッッ!!!」

「あ……!! ごめんティア、助かった!!」

「っと……お礼なんて後!! 今は1秒たりとも油断なんてできない戦いなんだから……!!」

「おっと、半人前のヘッポコガンナーにしてはやるッスねー……いや、ノーヴェやディードたちを倒してきたんだからそれは失礼だったっスか」

 

その確実な攻撃を更に別方向から撃ち落としたのがスバルに向かっての着弾点に正確に割り込むようにして現れた橙色の弾丸。

スバルが振り向いた先にいたのは息を荒げてクロスミラージュを両手にスバルのすぐ斜め後ろに着地したティアナの姿。

4対1の戦いで勝利し、休む間もなくゆりかご内へと突入、地上とは違う高濃度AMFに支配されている空間においても、

ティアナの集中力と射撃の正確性は衰えるどころか益々その鋭さを増しているようにさえ思えていた。

勿論ティアナの方は余裕綽々とは程遠く、普段以上の集中力を求められる現状下で一層空気を張り詰めていた。

対照的に攻撃を防がれたウェンディは落ち込むことも怒ることも無く、感心しているとも小馬鹿にしているとも言える快活な笑みを浮かべるだけ。

 

「……アンタたちは!! こんな所でまで戦いを求めるって言うの? ベルリネッタの言ってること、やってることに何も疑問は挟まないってわけ?」

「そんなの愚問に等しいっスよ。私らは戦闘機人、戦いの為に生きて自分の戦いと楽しみの為に生きてるだけなんっスからね!!」

 

続け様に両腕のクロスミラージュから発射される複数の直射弾と誘導弾、同時に行われるのはティアナからの問いかけ。

同じように戦いを強要され、それしか生きる術を知らないと最後まで叫び続けてきたノーヴェの姿を見てきたからこその物。

状況が依然向こうの有利とはいえ、それでも尚戦いを辞めようとしない、楽しんでいる節すらある目の前の戦闘機人の在り方。

ウェンディの姿にティアナは問わずにはいられなかったのである。

 

「アイツのやろうとしていることはただの破壊と殺戮でしかない!! それに加担するのがどういう意味かもわからないの!? その為に、地上で戦ってたアンタの仲間だって……!!」

「ノーヴェやディード、オットーたちが負けたのは私も残念っすけど、それはみんなが弱かったから、それだけの話っスよ。なら、生き残った私は私のしたいようにする、それが私の全てっスから」

 

直射弾をライディングボードで防ぎ、死角から迫る誘導弾を飛び上がって回避するウェンディ。

跳び退いた先の別の駆動炉内の床に難なく着地し、距離が離れた状態でティアナの問いに一切の迷いなく答えていく。

誕生当初から明るく素直で従順、仲間意識も比較的高い個体、されど生きる意味などには無頓着で、ただ主の命ずるままに戦えばそれで全て良し。

自らの考えに変化が生じたのはやはりもう1人の主とも言えるベルリネッタとの交流が大きかった。

己の欲望に忠実、純粋という開発コードネームの下、あらゆる事象を楽しみ、罪なき人間を蹂躙していく狂気の姿。

そんな彼女と行動を共にし、特別だとさえ言われたウェンディが見つけ出した新たな考え。

根幹の部分こそ変わらないが、戦いは自分の楽しめる戦いをして、ベルリネッタと同じく自分の中の快楽を満たせればそれでいい。

その為に何が犠牲になろうと、仲間の姉妹たちがどうなろうとどうでもいいとさえ思える様になっていた。

 

「……ダメだよティア、もう私達がアイツを言葉で止めることはできないよ……だからさ――」

「言ってもわからない馬鹿相手なら……ぶん殴ってでも止めればいい!!」

 

ほんの僅かな望みでしかないのはティアナにも、それをそっと手を置いて声をかけたスバルにもわかりきっていたこと。

元よりこの舞台に逃げずに留まっているというだけで、相手には抵抗の、戦う意志しか無いと言っているような物なのだから。

ならば、ここに駆け付けた自分たちが出来る事もまた、多くの悲しみを止め、打ち払うための戦いをすることだけ。

弾かれる様にしてスバルとティアナは同時に動きだし、それぞれ挟み込むような形でウェンディへと向かっていく。

 

「うおりゃあああああああ!!!!」

「威勢だけは良くっても!!」

 

何の工夫も無い真正面からの突撃、余裕の笑みを見せながらウェンディはボードを前方にかまえてエネルギーを集束していく。

こちらの攻撃発射タイミングと相手の速度、そこから結果を割り出せば自分の方が早いという確信。

加えて、もう一つ予想しておくのが敵のそれが単なる馬鹿正直な攻撃ではないだろうということ。

 

「マッハキャリバー!!!」

「だと思ったっスよ!! 動きが見え見えっス!!」

 

振り上げた拳がウェンディに届かんと思われた直前に形成されたウイングロードがいきなり直角に等しい角度で急展開、

縦一直線に作り上げられた魔力の道で擬似的に視界が閉ざされるウェンディの頭上から拳を振り上げるスバル。

だがその行動もウェンディには十分に想定の範囲内であり、周囲の確認も無しに確信と共に構えていたボードと視界をそのまま上へとズラす。

状況は正にウェンディの予想通りであり、発射寸前にまで高められたボードのエネルギーが上方から迫っていたスバルに向けられる形に。

 

「エリアルキャノン!!!」

 

攻撃名を叫ぶウェンディの声と共に放出されるのは紅いエネルギーの奔流。

既に攻撃態勢に入っており防ぐこともかわすことも叶わなかったスバルはその奔流に全身を飲み込まれていき、

 

「……? 手応えが無さすぎる……まさか、フェイク―――!?」

「そこッッ!!」

 

砲撃が収まった筈のその先にはスバルの姿がどこにも見当たらない。

まさかエリアルキャノンの一撃だけで跡形も無く人1人が、それも同種である戦闘機人が消滅するなどあり得ない。

だとするならそれが意味することは……ウェンディが答えを導き出した時にはもう敵の術中にあった。

 

「残念、悪いけどそれは通さないよっと!!」

「おっとと、ナイスフォローっスよセイン」

 

ウェンディの背後から迫っていた橙色の魔力弾、振り向き直撃する寸前でそれを防いだのがウェンディの立つ床のすぐ右横の壁から飛び出してきたセインの援護。

右腕のクローの表面防御部分で魔力弾を受け止め、セインへの直撃を見事に止めて見せいていた。

 

「もういっちょおおおおおお!!!」

「ってのわあ!?」

 

しかし、ウェンディのすぐ近くの壁の中を潜航中だったことも、ウェンディが防ぐことのできない攻撃を止める為にセインが表に出てくることも事前にティアナが予測した通り。

こちらから攻撃を加えることのできない相手が姿を現した絶対のチャンスをスバルは逃さない。

別の場所でジャミングと幻影の形成に努めているティアナの援護を受けつつ、今度はスバル本人がセインの真横からウイングロードを伸ばしながら姿を現す。

時間に換算すれば僅か数秒、再びディープダイバーを発動して身を隠す暇も無くセインはその身を大きく弾き飛ばされる。

 

「セイン!! ……これは……!!」

「こっちの幻影をあんた達が解析してたのは9番と12番との戦いでわかってた……即席とはいえ上手く行ったみたいね」

 

咄嗟に叫んだウェンディが気付いた時には彼女の周囲にいくつもの橙色の魔力弾が形成されていた。

声のした方に視線を向けてみれば、そこにいるのは幻影を合わせて何人ものティアナがクロスミラージュを構えている。

地上本部戦でのデータをフィードバックされ、ティアナの幻影は戦闘機人には筒抜け、の筈だった。

それを理解したティアナが地上での戦闘終了後からここに至るまでの間に術式を組み替えており、それが勝負の決め手となった。

突貫作業に等しいとはいっても優秀な幻術使いであるティアナのソレを改めて見抜くことはウェンディにとっても容易なことではない。

 

「こんのぉ!!」

 

宙を舞い身体の自由を失いながらも苦し紛れにセインは左腕のクローをスバルへと飛ばすが、直線的な軌道のそれはスバルに当たることは無い。

多数の幻影に混じって魔力弾を練り上げるティアナの姿を、ウェンディは必死に見つけ出そうとするがそちらも間に合わない。

 

「ディバイン…………!!!!」

「クロスファイア……!!!」

 

放り上げられ墜落を始めているセインにスバルは左拳で光球を形成し、セインに近づきながら必殺の一撃の為の前段階へと入る。

その眼下ではティアナが幻影も合わせて自分の周囲にも大量の魔力弾を形成していき、その狙いをウェンディへと定める。

千載一遇のチャンス、それぞれの敵に対して行われようとしている全力の一撃。

自分たちとは違うもう1体、最期の敵を抑えている隊長たちに少しでも早く加勢するために、今はこの戦闘機人たちを倒す。

決死の覚悟と共にスバルとティアナの一撃が放たれようとしていた。

 

「バス―――!!」

「シュー―――!!」

 

 

 

『ライドインパルス』

 

 

 

だが、スバルとティアナにとっての考え違い、大きすぎる誤算とも言えたのが残りの最後の1体、無人兵器のあまりにも規格外の力。

自分たちよりも遥か高みにいる絶対無敵のエースたち、部隊長であるはやても含めた機動六課の隊長陣。

それが3人も共に戦っているのなら大丈夫、自分たちの戦いの間に勝利とまではいかなくても負ける事なんて絶対にない。

2人の持つそれぞれの信念以上に揺るぐことが無い筈だった、憧れの魔導師たちへの絶対的な信頼。

そもそも、この空間に辿り着いた時のヴィータやシグナムの惨状を見た時点で疑うべきだったのかもしれないがそれも無理からぬこと。

だが、行き過ぎた信頼や憧れは、時に意外な形で致命的なナニカを生み出すこともあるのだ。

 

「タ――!! ……あ…………な……ぁ……?」

 

セインに対して今正にディバインバスターの一撃を右拳で打ち出そうとしていた正にその瞬間。

スバルの耳に聞こえてくる機械音と視界で捉える事も不可能な程の超速で横切って行った影。

何が起きたか理解した時にスバルの両瞳からは完全に光が消え失せていた。

意識を失いかけるその直前にスバルの視界に映っていたのは、信頼する隊長たちが抑えていてくれている筈の無人機械、その左腕と血に塗れるエネルギーブレード。

激痛を感じる暇も無くスバルは多量の鮮血を吹き出しながら、嫌に軽くなった身体の左側の感覚と共に駆動炉空間の闇の底へと消えていった。

 

「っとと……た、助かったよ、シグノリア」

「うわあ……でも、そこまでやるッスか?」

「……いえ、スピードの調整がまだまだ甘かったみたいです。心臓を斬り裂くつもりが左手足をもぎ取ることになるとは」

「え……ス、スバ……ル…………?」

 

クロスファイアシュートの発射体勢を完全に崩し、両腕をだらんと下げてしまうティアナ。

内心ではほっと一息しながらも眼前の光景を軽く引き気味で見ているウェンディの声も右から左だ。

スバルと共に任された敵である戦闘機人を倒すその一身に向けられていた思考は眼前の光景に対する理解を拒絶しているとすら言っていい程の混乱状態にあった。

自分がウェンディへの攻撃を行おうとしていたのとほぼ同時にスバルが放とうとしていたセインへの一撃。そこへ割り込んできた影一つ。

事がすべて終わった時にはセインは危なげなく近くの床へと着地し終えており、反対に墜落していくのは体が3つに分かれた相棒。

 

「あ……ああ…………!! あああぁぁあああああアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」

 

拒絶が明確な現実の下に塗り潰され、吹き出すその感情は怒りか恐怖か。

どちらにせよ普段の冷静な思考、理性など一瞬にして遥か彼方へと消え去ったティアナは空間が割れんばかりの勢いで叫ぶと同時にクロスミラージュを振り上げる。

 

「うああああああァアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」

 

撃つ、撃つ、ただ只管に我武者羅に撃つ、残り少ない魔力のほんの一滴、枯渇した魔力の代わりに命を急速に削りながらありったけを撃っていく。

制御も誘導もへったくれもない感情的な攻撃の嵐、六課隊長格のソレにすら匹敵するだろうティアナの全てを振り絞っての膨大な攻撃。

休むことなく発射されていく魔力弾の爆煙で敵の姿が見えなくなってもティアナは撃つことを止めようとはしない。

 

『ランブルデトネイター』

「!!!!」

 

爆煙と魔力弾を掻き分けながらティアナと彼女の立つ床へと降り注ぐのは多量の機銃弾と直撃による爆発。

相手の状態など確認する思考すら放棄されていたティアナは、逆に今度は絶え間なく続いていく爆発の嵐に巻き込まれていくことになる。

ティアナの放つ魔力弾が途絶えるのと交代するかのように続いてく機銃弾の攻撃と連続しての爆発。

実行しているのは爆煙の先から姿を現す傷らしい傷など1つとして負っていない紅の機体、ネロ・シグノリア。

 

「やはり人間の感情とは非常に興味深い。特に怒り、その一点だけでああも魔力を跳ね上げるというのだから恐ろしい物です」

 

言葉とは裏腹に、いや、絶対的な強者だからこそ言える余裕の言葉の数々でもあるのか。

シグノリアが機銃を発射する右腕を下げた視界の先にいるのは、変形した地形と瓦礫と血の海の中に埋もれてうつぶせに倒れるティアナの姿。

どうにか原形を保てているのも魔導師としての肉体と、バリアジャケットによる致命傷を防ぐ防御があればこそ、何の力も無い一般人なら確実に挽肉になっていた。

といっても、今のティアナもまた瀕死の状態であることに変わりは無く内外共に出血と骨折、その他内傷でズタズタだったが。

 

「ですがこれもマスターの命令、許せなどとは言いませんがせめて安らかな――――」

「させっかよおおおおおおお!!!!」

 

放置していてもいずれは死ぬだろうという状態ですらシグノリアは容赦はしない。

言葉の上では慈悲を述べながら心の奥底では躊躇など一欠けらも無く、右腕にエネルギーブレードを形成してティアナにトドメを刺そうと動こうとする。

が、背後からあらん限りの怒声と共にヴィータが噴出口の推力の勢いと共に巨鎚を叩きつけるべく向かってくる。

 

「ぶち抜けアイゼンッッッッッ!!!!!」

『Zerstörungshammer!!』

 

巨大噴出口により高められた加速と、先端のドリルの回転による一点集中の破壊力。

ヴィータの持つ膨大な魔力と共に振り落される一撃は彼女の持つ中でも最大級の物。

外部の突破に続くドリルによる回転が内部機構までにもダメージを与えて敵対対象を破壊し尽くす一撃。

 

「これまでのダメージとユニゾンの解除、その状態でもここまでの攻撃を行えますか鉄槌の騎士、尊敬を通り越して恐ろしさすらも覚える執念です」

「うらああああああああああああ!!!!!」

 

その必殺の一撃でさえシグノリアが両腕に形成したエネルギーブレード2本を軽く振り上げただけで不気味なほどにビタリと止まってしまう。

咆哮と共にカートリッジを何度ロードしようが攻撃が前に進むことは無い。

膨大な火花と電撃を散らしながら両腕に込める力をこれでもかと高めるヴィータを前にして

嘲笑うかのようにシグノリアはエネルギーブレードを掲げたまま少しも動くことなく静止しているだけ。

 

「だがそれでも、そうだとしても、マスターの最高傑作たる私には敵わない。それが絶対的な現実なのです」

「ッッッ!!!」

 

最中でガシャリと機械音を発しながら動き出すのはシグノリアの背後に備えていた大型のブースター、

前方へと構えられたブースターから飛び出すのは2つの巨大な砲塔、間髪入れずに放たれるのはヴィータを狙う2発の砲撃。

なのはやはやての、ルチフェロ・フィーネの駆るネロ・リネアの一撃すらも大きく上回る膨大な破壊を伴った一撃。

咄嗟に跳び退いたヴィータから外れた砲撃は空間内の壁の一部に激突して爆発と共に巨大な大穴を開けていた。

 

「……ふむ」

 

目まぐるしく入れ替わっていく戦火の中で次に起こった変化がシグノリアを拘束する幾重もの桜色の鎖。

そこから少し離れた場所で右腕を突きだして魔法陣を展開しているなのはが膨大な魔力の下で作り出したチェーンバインド。

 

「ヴィータちゃん!! 今の内にスバルとティアナを!!」

「わかってらッッ!!!!」

 

魔力も体力も尽きかけて、それでも声を振り絞って叫ぶなのはに言われるまでも無くヴィータは突き進む。

墜落して行ったスバルも、同じように生死の境を彷徨ったまま何の手当も受けていないティアナも共に放っておくことなどできはしない。

絶望的な敵を前にしてもヴィータは普段と何ら変わらない高速飛行をただ只管に強い精神の下で無理やり引き出していた。

 

「行かせるとお思いですか? 私を完全に捕らえたくば、この20倍は必要でしょうね」

「そん――な……!! あぐあっ!!」

「なのはッッ!!――――つうっ……!!」

 

しかし、ヴィータの折れることない信念とでも言える仲間への想いですらこの戦闘においては状況を悪化させるだけの物でしかない。

何重もの鎖の拘束を紙工作を引きちぎるかのように解除して見せたシグノリアはすぐさまなのはの眼前へと迫る。

慌てふためくなのはがどうにかプロテクションを展開しても、その上からエネルギーブレードを容赦なく振り抜き、プロテクションごと床へと叩きつける。

叫ぶヴィータにすらシグノリアは振り向くことなく背部ブースターの一部を展開し、大量のミサイルを放出。

自分にに向かっていくつも振ってくるミサイルの雨を避けるのにヴィータは軌道を完全にズラされていた。

 

「仲間を救うというその心境、それは確かに尊く美しい物なのでしょう。ですが――――」

「隙を見せる余裕が無いのはアンタも同じことなんやで!!」

 

ミサイルの発射を終えてシグノリアが意識を向けようとしたその先、遠く離れた位置で莫大な魔力を形成し終えていたはやて。

眼前の魔法陣にいくつもの巨大な白い光球が形成され、今か今かと発射を時待っているかの如く眩い光と共にその身を唸らせている。

本来ならばチャージに時間がかかるはやての魔法の数々、加えてリインやロングアーチのサポートが無ければサイティングもままらない。

余りにも規格外な目の前の敵に対してそれらの要因は致命的な隙を生み出すことに他ならない。

ならばとはやては、なのはやヴィータと同じように命を削る覚悟で自身の魔力を暴走に等しい形で引き出し、それらの隙を大きく縮めていた。

作り上げるのは最大級の一撃、如何に敵にカウンター能力があろうと、返せないだけの魔力の砲撃を、SSランクの全力を以てすればと、

半ば希望的観測すらも込められているかのようなはやての一撃がシグノリアへと発射される。

 

「ッ!! ラグナロクッッッッ!!!!」

 

激痛の走る全身の痛みに耐えながらはやてが叫ぶと同時、シグノリアの全長の何倍もの大きさの三条の閃光が迫りくる。

あらゆる物体を薙ぎ倒しながら貫通に特化させたはやての正真正銘、全力全開の魔力の奔流。

3つの射角からシグノリアを狙うそれらを避けるには間に合うはずがない、防御しようにもカウンターをしようにもそれらを掻き消して倒す。

 

「…………『CMF』」

「は―――な…………う、そや…………ろ――――!!!!?」

「ぅ……あ……!! はやてちゃんッッッ」

「はやてぇえええええええ!!!!!」

 

そうなった筈なのに、あんな馬鹿げた魔力を返すことなど絶対に出来ない筈だったのに。

はやても含めた機動六課の希望を瞬時に打ち砕くのは、変わることなく優雅な舞を見せつつ、ラグナロクの閃光を1つ残らずカウンターするシグノリアの姿。。

あまりに不条理、あまりに暴力的、故に最高傑作と呼ばれる作品だからこそ可能な絶技。

なのはとヴィータの悲痛な叫びも虚しく、目の前に迫るいくつもの閃光に飲み込まれてはやては闇の底へと消えていった。

 

「は、はやてちゃん!! はやてちゃ――――」

「呆けている暇などない、今し方貴方達の戦友が仰ったことですよ?」

 

仕留められたはずの一撃、絶対の一撃を返されて消えていったはやての姿を理解しきれずになのはは泣き叫んだいた。

そんな悲しみすらも踏みにじり尚も迫るのはエネルギーブレードを掲げたシグノリア。

先程とは違って完全な隙だらけの状態で迫るその一撃に今度こそなのはも同じように潰されるだけ。

 

「させねえって……言っただろうがあああああああ!!!!」

「…………」

 

その攻撃に割り込むのはまたしてもハンマーを構えたヴィータの一鎚によるもの。

回転と推力で瞬く間に高度を上げながら向かってくるヴィータにシグノリアも意識を向けざるを得ず、

振り下ろそうとしたエネルギーブレードをすぐさま振り向きざまに振るって背後から来るヴィータの攻撃を受け止める。

 

「おおりゃあああああああ!!!!」

「!!!!…………」

 

反撃体勢が不完全だったシグノリアに対して、この戦闘中は常に全力そのものなヴィータ。

両者の差から生じた要因がその実力差を埋め、遂にシグノリアは攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされる形になる。

だがそれもまた明確なダメージとはならず、その途中でブースターの炎を吹かしてすぐに踏みとどまって見せていたが。

 

「諦めんななのはッ!! 後ろ向きな考えは捨てろ!! あたしらが倒れたらみんな終わりなんだぞ!!」

「ヴィ、ヴィータちゃん……」

 

未だに立ち直れ切れていないなのはを庇うようにして立つヴィータが発する鼓舞の声。

スバルが、ティアナが、はやてが、仲間たちが次々に倒れていく中でもヴィータの意志も信念も折れることは無い。

仲間の危機を前に何も感じていないなど、誰よりも仲間のことを想い続けているヴィータに無い筈がない。

だからこそ折れることない意志の下、この場で倒れた仲間の救出すら阻害する敵に対して恐れることなどない。

どんなに絶望的な状況だろうと、自分たちの敗北は仲間だけでなく世界の全てを明け渡すに等しいことなのだから。

 

「どうにか攻撃を当てるタイミングは掴めたんだ、後は……!! ゴホッ!! ガホッ……!!」

「!!! ヴィータちゃんッッッ!!!!」

「ゲハッ!! グウゥッ……! こ、こんな程度で…………グ……ガハッ……!!」

 

だがなのはたちに対して無情な現実が更に牙をむいたのはその直後。声を張り上げる最中でヴィータは突如胸を押さえて激しく血を吐き出していた。

限界などとっくの昔に迎えており、それでも尚己の意思一つで戦い続けてきたその体が遂にいう事を聞かなくなってしまった。

涙を散らしてヴィータの体を支えるなのは、それでも構わずに体に力を込めて、連動するように血を吐き続けるヴィータ。

この戦場における機動六課の精神的な支えであったヴィータの真の限界、それが来たということはあらゆる物の崩壊を意味している。

 

「くはははははははははッッッッ!!!!! あはははははははははッッッッ!!!!! 死に損ないの体でよくもまあ頑張ったわねえッッッッ!!! だけどッッ!! それでもッッ!!? 私の最高傑作を倒すには至らないのよッッッッ!!!」

「その通り」

「あ……だ、ダメ……!! やめてええええええ!!!」

「グ……ハ……ァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

捕らわれているヴィヴィオと共に戦闘を静観していたベルリネッタの狂笑。

それに呼応するようにエネルギーブレードを振りかざすシグノリア、それを前に泣き叫ぶしかできないなのは、残された僅かな力を振り絞って動き出すヴィータ。

全ての想いが叫ぶ中で、シグノリアの攻撃がヴィータの眼前へと迫っていた。

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