狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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ある意味で、一番のご都合主義全開な話かもしれない。


第37話:崩れ落ちる翼と狂気、聖王の役目

「ッ!!!! ぐがぁああ!!!」

 

命を確実に刈り取る筈だったエネルギーブレードの一閃。

シグノリアの放った斬撃は最後の一滴を振り絞ってのヴィータの反応により僅かにずれが生じる。

だがそれでも、左肩に集束されたエネルギーの塊が直に突き刺さる痛みは並大抵の物ではなく、

吹き出す大量の紅い液体と共にヴィータは苦痛に叫びをあげながら、フラフラと墜落していく。

 

「おっとぉ~? あれで外れるなんてやっぱりおっそろしいもんだねえッッッ!! くふふふふふ……!!」

「限界を迎えてなおこちらの想定を上回りますか」

 

これまで鬼神の如き戦いぶりを見せていたヴィータが遂に落ちた。

それまでの戦いぶりを眺めていたベルリネッタやシグノリアにすら、そこに浮かぶのは感心や称賛といった感情。

興味深い実験体であり、自分たちの悲願の達成の邪魔をする敵でもあるが、そこに秘めた実力と気迫に純粋に惹かれる物があったのだと。

 

「ですがだからこそ、マスターの為に貴方にはここで――――」

「やらせないッッッ!!!!」

 

それでいて尚、確実にトドメを刺そうと追撃を行おうとしたシグノリアに横槍を入れる様に放たれる桜色の砲撃。

自分を庇って倒れていったヴィータを守ろうとしてのなのはの砲撃はシグノリアの殆ど至近距離から発射される。

CMFを起動する暇は無かったものの、素の機動力で十分に回避可能であり、横へと飛び退いて砲撃の軌道外へと移動していた。

 

「が―――ぐ……!!」

「くふはははは……!! 切り札使ったまま無茶するからだよぉ? ボロボロの貴方1人で何ができるのかなぁなのはちゃん?」

 

だが、直後になのはは表情を歪めて苦しそうに胸を押さえながらその場に蹲ってしまう。

止まることない狂笑と共にベルリネッタが指摘した通り、なのはにも限界が訪れてしまっていたのである。

ただでさえ多大な危険を伴うブラスターシステム、リミット3までの完全解放を行っての戦闘の連続。

聖王ヴィヴィオを止める為に、ヴィヴィオを操るクアットロを止める為に、駆動炉内での最終決戦に打ち勝つために。

決して油断を許さない激闘を経ていった結果、なのはの体は内側から確実に破壊されていっていたのだ。

 

「まだ……!! 諦めない……!! ヴィータちゃんやスバルやティアナ、シグナムさんやリインやアギト……たくさんのみんなの……想いを無駄にしない為にも私は……!!」

「くふふふふふ……!! 流石はレイジングハート、不屈の心の持ち主だァねえッッッ……!!」

「うんうん、クア姉が警戒していたのもわかる気がするよ」

「シグノリアがいてくれなかったら、私らだけじゃ絶対対処不可能だったっスからねー」

 

痛みに耐えながらもなのははレイジングハートを持つ両手にしっかりと力を入れ直し、倒すべき敵であるベルリネッタ達を真っ直ぐに見据える。

敵は3人、自分は1人、それも魔力も体力も殆ど使い果たして体中がボロボロと今までにないくらいに絶望的な状況。

敵を倒すことも元凶を止めることも倒れた仲間を助けに行くことも、そのどれもが今のなのは1人にとってどれだけ難しいことなのかはこの場の誰もが容易に想像できること。

それでもなのはは折れない、自分の心を決して曲げようとはしない。

ついさっきまで、はやてが倒された直後に抱いてしまった諦め、それを奮い立たせて自分を庇って倒れていったヴィータの姿。

自分1人だけが諦めて投げ捨てて、そんなことは許されないのだと、なのはもまた精神で身体を動かしているに等しい状態にあったのだ。

 

「……いいでしょう、ならば私もマスターの命令をより確実に実行するべく、それに相応しい手を打つとします」

「…………それは……!!?」

 

たった1人になっても戦う意志を捨てようとしない、感情の力は時に予想外の結果を見せる。

この戦闘でもそれを十分に理解してきたシグノリアが敢行した手段。

なのはが驚愕を浮かべるのと同時に浮かび上がるのは、空間内に突如出現し浮かび上がる100を超えるかもしれない程の量のキューブ。

大小様々な大きさのキューブ1つ1つがたくさんのエネルギーを内包しており、それをなのはに向けている。

 

「……ゆりかごの防衛システム……それを貴方が……!!!」

「私もそちらの聖王と同じく王の印を持つ者、言ってしまえばこのゆりかご内で私はマスターや聖王に次ぐ権限を行使できるように調整されています。これくらいの芸当などどうということはないのです」

 

自身の周囲を取り囲む正体をすぐさま看破するなのはに、普段通りの平坦な機械音で答えるだけのシグノリア。

ヴィヴィオと同じくレリックを内包し、無限に近いエネルギーを持つ最高の無人兵器。

それだけに飽き足らずベルリネッタは最終決戦を前にシグノリア本体とゆりかごの一部に手を加えていた。

本来なら聖王でなければ直接の命令を下せないゆりかご内部の機能、その一部をシグノリア単独の判断で使用できるようにと。

 

「私が今まで単独で戦闘を行っていたのはマスターの命令が防衛だったからです。ですが、その命令は今は殺害へと変更されており、私とセインとウェンディでも未だに達成できていない。故に、貴方への警戒度を高めての確実性のある判断をしたまでです」

 

口調ではそんな風に言ってはいるも、この段階になってわざわざゆりかご内部の防衛機能を発動させずとも、

シグノリアからすれば死にかけのなのは1人倒すくらいなら何てことはない。

そう予測していながらも敢えて起動させていたというのは、それだけなのはの力を評価し、警戒していることの表れなのである。

 

「それでもってぇ……? 絶望はまだまだ終わらないんだよなのはちゃんッッ!! 準備の方は上々だよねえ兄さんッッッ!!」

『ああ……君たちが十分に時間を稼いでくれたおかげでバッチリさ』

「!!……ジェイル・スカリエッティ!? どうしてゆりかごに……!!」

『御機嫌よう、高町一等空尉。こうしてお話しするのは初めてということかね?』

「フェイトちゃんやシスター・シャッはが抑えにいった筈なのに……」

『その通り、現に私は彼女たちに敗北寸前まで追い込まれてしまったからね……尤も、間一髪愛しの妹が助け出してくれたのだが』

 

防衛用キューブの現出と共にベルリネッタのすぐ上に展開される巨大モニター。

映し出されているのは地上のアジトにいる筈のスカリエッティ。

意外すぎる人物の出現になのはの驚愕と動揺は終わることなく続いていく。

 

『まあ、私がどこで何をしていようが今は然程重要ではない……君が気にすべきなのは目の前のことなのだよ……!』

「それは一体どういう……!! あ、ああ……!!?」

「………………」

 

モニターを通して行われるスカリエッティとなのはの対話、視線を促した先になのはが見た光景。

変わることなく宙を漂うシグノリアに、邪悪な笑みを絶やすことないベルリネッタ。

そして……その背後に捕われていた、筈だったなのはが誰よりも助けたいと願っていた人物。

正八面体の障壁からいつの間にか解放されたヴィヴィオが、生気の全く宿らない瞳を携えてそこにいた。

 

「ヴィヴィ……オ…………ヴィヴィオッ!! ヴィヴィオッッ!! 返事をしてヴィヴィオッッッ!!!!」

「くひははは……くひゃはははははは!!!! 無駄だよなのはちゃんッッッ!! クアットロなんかとはレベル違う、新たな意志の下でその子は出てきたんだからねえッッッッ!!!!」

『そうとも……急ごしらえではあるがより強固で確実な命令プログラムの書き換え……戦うための兵器、真なる聖王としてヴィヴィオは生まれかわったのだから!!』

 

なのはの必死の呼びかけにも無反応、玉座の間で相対していた時以上の強烈な敵意とプレッシャー。

クアットロの精神操作も非常に高度な物ではあったが、本家本元とも言えるスカリエッティと比較すると精度は劣っていたということと、

その場の状況をより楽しむために、敢えて感情を残して憎しみを植え付けていたという点に隙があった。

だが、ベルリネッタに救出され、ゆりかご総司令室を通じてヴィヴィオの精神の書き換えを完了していたスカリエッティ。

それによって目覚めたヴィヴィオは本当の意味で精神の大半を消され、ゆりかごを動かすための主として、生きた兵器としての役割を与えらるだけの存在と化していた。

 

「くははははははは!!!! 未だ無傷のシグノリアに戦闘機人が2人、駆動炉内の防衛システムに、同じく最高戦力たる真の聖王!!! これだけの敵を前にしてもまだ貴方は吠えることができるのかななのはちゃんッッッッッ!!!!」

「そ……んな…………」

 

無理やり奮い起こしていた筈のなのはの意志、一瞬にして絶望へと反転するだけの現実がそこにはあった。

勝ち目のほとんど見えない戦いであることは先の強い詩の下での言葉の時でさえなのはにも十分にわかっていたこと。

それでも、目の前にいるのは自分が止めなくてはいけない明確な敵であり、多くの悲しみを振りまいている元凶だからこそ意志だけは強く保つことが出来ていた。

しかし、そこに加えて今まで捕らわれていたヴィヴィオが、何の感情も見せずに敵の1人として立ちはだかっているという現実。

それは不屈の心を持つなのはですら、絶望にその身を打ちひしがれるほどの衝撃。

玉座での戦いも操作を担うクアットロを止め、ヴィヴィオ自身の心を取り戻せたからこそ勝利の一歩手前まで漕ぎ着けていた。

そのヴィヴィオの心が今度はより強固な縛りの支配下にあるという、その一点だけでも何を意味するかは明白。

 

「さあッッッッ!! 呆けているエース・オブ・エースに挨拶代わりの一発と行きましょうかッッッ!!! 行きなさいヴィヴィオッッッ!!! 愛しのママを、家族ごっこで貴方を苦しませた元凶を自分の手で叩きのめすのよッッッッ!!!」

 

高揚する精神の下で狂気の命令をベルリネッタは下す。

それを受けたヴィヴィオは指示通りにゆらりと動きだし、完全に動けなくなってしまっているなのはに攻撃を、

 

 

 

ブツンッッ

 

 

 

「え―――は―――…………」

「マスターッッ!!!!」

「のわあああ!!!?」

「ぐはっ!!」

 

行う筈だった聖王――ヴィヴィオの行動に真っ先に反応したシグノリアが主を庇うようにして立つ。

直後に駆動炉空間内に飛び交うのは大量の虹色の魔力光球。

1発だけでも必殺の破壊力を秘めるそれらが瞬時に辺りに飛び交い、セインを、ウェンディを、大量の防衛用キューブを無力化していく。

 

「…………ヴィヴィ……オ……?」

「――――ちょっとちょっとちょっと、これはどういうことなのかな兄さん?」

『ふむ……私にもわからないね……書き換えは完璧に行った筈だったのだが……』

 

狂気の科学者たちにとっても流石にこれは予想外だったらしく、笑みが完全に消え失せて互いにやり取りをしている。

自分たちの命令の下で動くだけの最強の生体兵器、そうであった筈のヴィヴィオが明確に自分たちに牙を向けている。

なのはにとってもわけのわからないその展開に震える声で名前を漏らした次の瞬間。

 

「!!!――――血迷いましたか、聖王。貴方に下された命令は敵の排除です。それをまさか逆らい、挙げ句にマスターにまで手を出そうとは」

「……違う、敵はお前たち……!! 私はヴィヴィオ、なのはママの娘のヴィヴィオ……!! ママを苦しめているのは……お前たちだッッッ!!!!」

「グ…………!!」

 

S級のエースであるなのはですら追うことも叶わない、駆動炉内を縦横無尽に飛び交い互いに攻撃を撃ち付け合うヴィヴィオとシグノリア。

ベルリネッタの最高傑作であるシグノリアに比肩する、聖王として目覚めたヴィヴィオの実力。

その力を完全に自分の物としてコントロールしている今のヴィヴィオは、それまで絶対無敵であったシグノリアにすら互角以上の戦いを、

いや、徐々にヴィヴィオが押し始めている様相すら見せ始めていた。

 

「…………シグノリアを、私の最高傑作を押しているなんてね……」

『ククク……聖王としての確固たる精神が、私の支配すらも跳ね除けるとは……この私でさえ予想しえなかったことだよ』

 

言ってしまえば状況が一気にひっくり返された中でもスカリエッティは己の中の探求心を止めることなく興味深い笑みを浮かべて言葉を発するだけ。

そのすぐ下でヴィヴィオとシグノリアの激闘を目にするベルリネッタが静かに呟いている、そこには普段の狂笑は全く見られない。

狂気の科学者たちの頭脳すらも上回って、確固たる思いの下で戦っている聖王ヴィヴィオ。

聖王として目覚めた力の下、スカリエッティの眼すら誤魔化せるほどに自分の中で確固たる精神を、大切なママを苦しめてる奴を絶対に許さないという強い思いを構築し、その精神を消さずに保って見せていたのだ。

そんなヴィヴィオの進撃を止めることは最早誰にも、同じ最高傑作として最強の力を持っていた筈のシグノリアですらできはしない。

シグノリア自身が幾度も指摘した想いの力、そこから生まれる力が同等だったはずの両者に確かな差を生み出していた。

 

「……!! 成る程、ですが、マスターとドクターの夢の為、どうなろうとここで退くわけにはいかないのは私も同じなのです」

 

自分と同等だったはずの存在の反逆、最高傑作たる自分が押されているという状況。

それらを前にしてもシグノリアは決して冷静さを失わずにヴィヴィオとの戦いに興じていく。

エネルギーブレードで高速突撃してくるヴィヴィオの拳を跳ね除け、後方に下がって距離を取りつつ眼前にエネルギーを集束。

この戦闘の最中で収集し複製した技の中でも最大級の破壊力を持つそれを、僅か数秒のチャージの後に発射する。

 

『ラグナロク』

 

集束する白いエネルギーと共にヴィヴィオへと掃射される3条の膨大な閃光。

避ける暇すら与えずに飲み込んでいく光景を前にしながら、シグノリアは発射直後に飛び出しヴィヴィオの方へと向かっていく。

これだけの砲撃を与えた所でそれで易々と倒せる相手だとは思っていない、ラグナロクですら今の相手には時間稼ぎにしかならないだろう。

ならば、その僅かな隙を突いてでも自分の手で確実に無力化しなくてはいけない。瞬時に判断した上でのシグノリアの行動だった。

 

「……スターライト…………」

「…………馬鹿な……」

 

が、ラグナロクの砲撃に飛び込んでいった直後にシグノリアを拘束したのはいくつもの虹色の鎖。

自分を捕まえたくばこの20倍は用意しろと断言したなのはのチェーンバインドの20倍以上を軽く凌駕する魔力での拘束。

身動き1つ取れなくなったシグノリアの眼前に、ラグナロクの爆煙の晴れた先にいたのはシグノリアのほぼ眼前ゼロ距離で巨大な虹色の光球を形成するヴィヴィオ。

全力のなのはやシグノリアですら練り上げることは出来ないだろう、夥しさすら感じる莫大な魔力の塊。

 

「ブレイカーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

ドォオオオオオンッッッ!!!!

 

 

 

誰よりも好きだったママの、なのはの持つ最大の切り札、星々すらも打ち砕く閃光。

最大の破壊はバインドで拘束されたシグノリアのゼロ距離から、CMFも防壁も展開を許されない状況下で発射され。

駆動炉の天井を破壊しながら自身と同じだった最高傑作を、破壊を振りまく黒き白鳥を完全に消滅させていた。

 

「…………」

「ヴィヴィオ!!!」

「……ごめんねなのはママ、今まで心配かけて……でも私、強くなるって約束したから」

「ッ……!! ごめん……!! ごめん……ね……ッッ……!! こんな……頼りない……ママ……で……ッッ……!!」

 

痛む体を何とか引き摺って佇むヴィヴィオになのはは近づいていく。

振り向いたその先にあったのは、姿かたちが大きく変わってしまっても、自分が知っているいつもの無垢で優しいヴィヴィオの笑顔だった。

その笑顔を前に全てを確信したなのはは、ヴィヴィオが戻ってきてくれた嬉しさ、自分の不甲斐なさをヴィヴィオに押し付けてしまった情けなさ。

ありとあらゆる感情が綯交ぜになってぽろぽろと涙を零しながらヴィヴィオをきつく抱きしめる。

ヴィヴィオは穏やかな笑みを絶やさぬままされるがまま、そのまま自分もそっと優しくなのはのことを抱きしめ返していた。

 

「あ……くふは…………くふはははははは…………」

 

感動的な親子の再会、決して叶う筈なかった絶望的な脅威の排除、その果てに未だ健在なのは純粋な欲望。

なのはとヴィヴィオの姿を眼前にベルリネッタはいつものように狂気の笑みを取り戻して、

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」

 

否、その笑みは普段の物とも、精神が高揚しきった時の物とも全く違う種類の物。

まるで壊れた機械の様に笑う、笑う、ただとにかく自分の中の全てを吐き出すかのようにベルリネッタは笑い続ける。

 

「なにこれなにこれ!! ねえなにこれッッッ!!!! くははははははは!!!!! こんな、まさか最後はこんなことになるなんて誰が予想できたのッッッ!?!!? ねえねえねえッッッ!!!」

「ッ……大規模騒乱罪、殺人未遂、その他多くの罪状で……カティーナ・ベルリネッタ、貴方を逮捕します……!! もうすぐ武装隊の応援もこちらにやってくる……貴女にもスカリエッティにも、もう後は無い筈……」

 

駆動炉全体に響き続ける壊れ切った狂気の科学者の笑み。

ベルリネッタの悍ましさすら感じる姿を前にして、なのはは残されたわずかな力を振り絞りながらレイジングハートの先端を向けて宣告する。

自分にとっても予想外の事態だったとはいえ、それでも結果的に残りの戦闘機人も最後の無人兵器も戦闘不能。

ゆりかご内に残されているガジェットその他の兵器群は援軍として同じように内部進行中の他の魔導師たちで十分に対処可能だ。

倒れていった仲間の救出も合わせてなのはは一刻も早く残った2人の元凶の捕縛に移らなくてはいけなかったのだが、

 

「くはははははははは!!! やりたいなら好きにすればいいんじゃないッッッ!!? でもねえッッッ!!! そうするには時間がちょーっとばっかし足りなかったんだと思うんだよねえッッ!!?」

「!!…………まさか……!! しまった!? もうゆりかごが……!!」

『あの激戦の最中では気付けなくても仕方ないことだろうね。しかし結果はご覧の通り……本局艦隊は未だ到着せず、残り時間だけでも十分にこちらに有利を傾けるのは可能なことさ』

 

追い込まれたはずのスカリエッティとベルリネッタが確信していたこと、なのはが気付いた時点で全ては手遅れ同然。

そう、ゆりかごはとっくの昔にミッドチルダ上空を高く高く飛び上がり、目的ポイントである軌道上まであと僅かの所まで迫っていたのだ。

時間にして残り10分足らず、ロングアーチとの通信も繋がらない現状では本局艦隊の展開状況を知る事もできない。

しかもスカリエッティの物言いを見るに本局艦隊は軌道上周辺にはまだ到着していないのだろう。

このまま到達を許してしまえば今までの全部が無意味となる、ベルリネッタの指摘通り時間をかけすぎてしまったのだ。

 

「あはははははははははは悔しいだろうねえッッッッ!!! やっと勝ったと思ったら最後の最後にどんでん返しッッッッ!!!! その絶望に染まる表情は私にとって何より――――のぉッ……!!」

「………………」

「え、ヴィヴィオ……?」

 

だがその笑みを遮るようにして放たれたのは虹色の光球、既に精神が壊れていたベルリネッタはその攻撃を避ける事すら出来ずに同じように墜落して沈んでいく。

その原因を作り出していたヴィヴィオになのはは声をかけるも、ヴィヴィオは答えることなくゆっくりと駆動炉本体の方へと向かっていく。

 

『ふむ、君のしようとしていることはわかるともヴィヴィオ。君の命令で上昇を停止しようと言うのだろう? だが無駄なことさ。ゆりかご内の権限のほとんどは総司令室の私が掌握しているのだから。君がどう命じようと―――』

「……わかってる、だからこそ。これができるのは今の私しかいないから」

「ッッ……!!? ヴィヴィオ……!! ヴィヴィオ!!!!」

 

駆動炉本体にそっと手を触れた瞬間、ヴィヴィオの周囲に多量の魔力が噴出して周囲に暴風を撒き散らしていく。

スカリエッティの指摘もお構いなしに、ヴィヴィオの行動を前になのははその場の空中で落ちないように体勢を保つのがやっとの状態であり、

暴風に視界が遮られながらもどうにかしてヴィヴィオの姿を捉えようと必死であった。

 

「だから私が……駆動炉と一緒にいなくなればゆりかごの要は同時に消すことができる、そうすれば。ゆりかごの上昇は止まる」

「!!……だ、ダメッ!! ヴィヴィオ!!! そんなことしちゃいけないッッ!! きっと他に方法がある筈だからッッ!! だから……ッッ!!」

『クククク……最後の最後まで悲痛な決意を固めていた物だ……! だが、できるのかね? 君一人の意志で?』

「……これが、なのはママや、みんなを守れる唯一の方法だから」

 

ヴィヴィオの発する莫大な魔力に当てられて、今までの激戦ですら傷一つ負っていなかった駆動炉にヒビが入り始める。

暴走に等しい魔力の発露、こんなことを続けていけば発動者自身がどうなるかなど目に見えている。

やっと助けられた、その手で抱くことができた筈の娘を、大切なヴィヴィオが三度、それも今度こそは本当の別れになってしまう。

何としてもそれは防がなくてはとなのははヴィヴィオを止めようとするが、

膨大な魔力が巻き起こし続ける風となのは自身が今まで蓄積してきたダメージが原因で、まともに体が動いてくれなかった。

 

「……最後の最後まで、ワガママばっかり言ってごめんねなのはママ……でも大丈夫、なのはママもみんなも、私が助けることができるから」

「違う……!! 違うヴィヴィオッっ!! こんなのが、こんな方法が合ってるわけがないよッッ!!」

「ううん……ゆりかごを止めなくちゃいっぱいたくさんの人が悲しい想いをしちゃう……そんなことになったらヴィヴィオも悲しいから、それを止める力が私にはあるから」

「お願いやめてッッ!!! ヴィヴィオ1人だけがまた痛い想いをする必要なんてないッッ!! ない、のに……ッッ!!」

「ありがとう、なのはママ。なのはママは私の本当のママじゃなかったけど、でも、誰よりも温かくて優しくて……ヴィヴィオのことを大切にしてくれた、大好きなママだから。だから私、ママとママの守りたかった世界を守るね……」

「ヴィヴィオッッ!! そんなこと言わないヴィヴィオッッッ!!! 大好きだからッッ!! 私もヴィヴィオのことが本当に大好きだからッッッ!!! だからああッッッ!!!!」

 

涙は止まらない、言葉も溢れ続ける、目の前で見て居る事しかできない、大事な娘を止める為の力すら残っていない。

あまりにも無力でどうしようもない壮絶な現実がなのはの心をより苦しめていく。

そんななのはの気持ちを全部わかっていて、本当は今すぐに辞めて泣き叫ぶママの下へと飛びつきたい。

だがそれでもヴィヴィオは、聖王としての力を持つ自分だけができる最後の役目を果たすために只管に魔力を込め続けていく。

駆動炉のヒビ割れがより一層激しくなっていき、空間内部全体が魔力の暴走で揺れ出し始める中で、最後にヴィヴィオがなのはの方へとそっと振り向く。

 

「ありがとう、そしてさようなら、なのはママ……」

「ヴィヴィオォオオオオオッッッッッッ!!!!!」

 

その顔に浮かぶのは正に聖なる王と形容するに相応しい慈愛に満ちた微笑、その顔に零れ落ちる一滴。

動かない体を必死に震わせながらあらん限りの声で泣き叫ぶなのは。

そして次の瞬間、駆動炉内部はヴィヴィオと駆動炉本体を中心として膨大な光と爆発に包まれていくのだった。

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