狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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最終話B:変わる者達、壊れ眠る純粋

新暦78年10月、ミッドチルダ地上全体を揺るがした最悪の事件から早3年。

レリック事件、戦闘機人事件、JS事件、CB事件など様々な呼称の存在するその事件の終わり。

後続の武装隊がゆりかご駆動炉内で目撃したのはあまりにも壮絶な光景であった。

破壊された駆動炉と、瀕死の重傷を負って意識を失っていた八神はやて二佐初めとする計8名。

別動隊が総司令室内部でその身を確保したジェイル・スカリエッティも合わせてその全員の身柄を確保し緊急脱出。

聖王と駆動炉を失ったゆりかごは急速にその上昇速度を遅め、本局艦隊との時間差が大幅に縮まることになる。

結果、先に到着した艦隊の一斉砲撃によってゆりかごは撃沈、一連の事件が幕を閉じた。

その後に逮捕されたジェイル・スカリエッティと生き残りの戦闘機人の内、ウーノ、トーレ、クアットロは捜査協力を拒否。

それぞれが別の管理世界の軌道拘置所へと送られることになった。

尚、その際の彼らのコメントを簡潔に纏めると、以下のようになる。

 

――全てが終わった以上、私が行うことなど何も無い。

 

――ドクターに付き従うことが私の生きる全て。

 

――敗者には敗者の矜持がある……セッテを亡くしたことだけは今でも心残りだが。

 

――なんで私達が地上の人間なんぞに手を貸してやらなければいけないのか?

 

そして一連の事件のもう一人の元凶であるカティーナ・ベルリネッタと、戦闘機人の内、ナンバー2、6、11の計4人は3年経った今でも行方不明。

管理局本局の捜査官たちが全力を挙げて捜査を続けているが未だに手がかり一つ掴めていなかった。

戦闘機人と無人兵器、聖王のゆりかご、多大な悪意を管理局と地上世界に刻みつけた2人の狂気の科学者は恐怖の代名詞と化しており、

事件の終結をきっかけに管理局は、最前線で戦っていた機動六課のメンバーたちは、多くがその在り方を変えていくことになっていた。

 

 

 

*

 

 

 

ミッドチルダ地上のとある外れに存在する、地上本部直轄下の監獄。

その一室である特別面会室の椅子に座り、これまた特別に備え付けられているテレビの画面をジッと見つめている男が1人。

そこに映っているのは数日前に行われた、ある若い管理局員による演説の映像だった。

 

『――――現にあの事件以降、見直された戦力の数々によって地上、次元世界共にその検挙率を大きく高めています。その力の在り方を過剰な物と批判する声も少なくありません』

 

真剣そのものな表情で多くの参列者、各次元世界の重鎮や報道関係者に高らかに言葉を投げかけていく女性局員。

その姿は男にとって嘗ての自分の現身のようなものでもあり、憎み続けていた才能ある本局の若輩者の成長を感じさせるものでもあった。

 

『ですが!! 私や嘗ての機動六課の隊員のように個人に委ねられる魔法という戦力、これが絶対に正しいと言える物なのでしょうか!? 力は使う人間次第でどのようにも姿を変える物です! 我々はあの事件から学び、時空管理局が絶対視する魔法絶対主義を見つめ直し、地上と次元世界の安定の為に厳格なる意志の下で力の管理に努めていかなくてはいけないのです!!』

 

両手を広げて大袈裟なまでの高らかな宣言で自らの想いを真っ直ぐにぶつけていく局員の姿に、参列者の多くが惜しみない拍手を送っていた。

3年前の一連の事件の解決に大きく貢献した英雄でもあり、宣伝効果としても抜群の影響力がその局員にはあったのだから。

 

「お待たせして申し訳ありません……ご覧になっとったんですか、この間の演説……」

「……まだまだ青臭さが抜け切れていないがな、それでもたった3年でよくぞここまで磨き上げた物だと、一応は褒めておこう、小娘」

「……自分なんて、嘗ての貴方に比べたら、まだまだです……レジアスさん」

 

その段になって面会室へと現れた局員――今し方映像で演説を行っていた八神はやて一佐が姿を現す。

硬い表情で元からいた囚人の男――レジアス・ゲイズ元中将との相対はこれで何度目となるだろうかはやてにもわからない。

 

「ですが、それでも諦める気は今もこれからもありません……地上から託された意志、それを貫いていくのが今の私の責任と役目やと思っとりますから」

「ふん……それをよもや貴様が担うことになるとは、あの頃のワシには想像もつかなかったことだからな」

 

本局と地上、その対立の矢面に立つようにお互いを毛嫌いしていた筈の今のレジアスとはやての関係。

あの事件の際、ゼストによって自室を破壊されただけに留まったレジアスはその後駆けつけた地上局員によって保護された。

後、事件終結後に己の罪を洗いざらい全て自白して逮捕、現在はこの刑務所内で囚人の1人として過ごしている。

対称的に事件解決の功労者の1人として祭り上げられていたのは八神はやて。

本来ならそういった名声やら柵やらを嫌っていた筈のはやてはあろうことかその全てを受け入れた。

その功績によって一佐に昇進し、より大きな権力の下ではやてが推し進め始めたのが時空管理局の大規模な改革。

オーリスやベルリネッタに提示され、指摘された情報や言葉の数々に思うところがあったはやては、魔法絶対視の管理局の在り方と地上軽視の体質の改善に尽力。

魔導師個人に頼らない戦力の確保や、管理局にとっては禁忌とも言える質量兵器の解禁すらも話題に挙げている程だった。

英雄、八神はやての宣言の数々に管理局、各次元世界は荒れに荒れて今もその混乱は続いており、はやてはそれを収めるために毎日死に物狂いで各世界を駆け回っている。

伝説の三提督のバックアップも受けながら己の魔力と地位の下で改革を進めるはやての活動は徐々に実を結び始めており、

管理局全体で地上への戦力配分の見直しや、個人主義になりがちな魔法エネルギーの活用の見直しなどが議論されてきているのである。

だが当然、魔法絶対主義の考えに凝り固まった局員や権力者たちからの多大な反発も数多くあった。

そういった人間たちの手回しで、場所によってははやてのことを「力と権力に溺れた第2のレジアス・ゲイズ」などと悪評を下している人々も多くいるのも事実。

はやてはそういった肯定も否定も全部飲み込んで、自分が志した真の平和の為に活動を続けているのだが。

 

「……オーリスさんの容態の方は?」

「リハビリは順調だ。尤も、未だに声は戻らないがな……」

 

はやてが話題に挙げるのはオーリスのこと、それを尋ねられたレジアスも伏し目がちに答えるだけ。

瀕死の重傷を負い生死の境を彷徨っていたオーリスであったがどうにか一命は取り留めていた。

だが、予想以上に内部へのダメージが大きかったこと、何よりも精神的なショックが強かった影響でオーリスは言葉を発することが出来なくなってしまっていた。

レジアスの言うように、今は車椅子での日常生活はどうにかこなせるようにはなってきているが、

それでもその目に生気は宿っておらず、日がな一日ぼーっと空を見上げているばかりの日々を過ごしている。

 

「…………オーリスさんのことについては私にも責任があります、何度謝ったかはわかりませんが……」

「そしてワシが同じように貴様を宥めるのも何度目だろうな。全く、3年などという時間はあっという間に過ぎていくものよ」

「それでも、レジアスさんが積み重ねてきた40年の10分の1にも満たないことを想えば、私にとっては長すぎる時間です」

「言ってくれるな。だがそれもまた事実なのだろうな、今の貴様はそこそこだが貫録も出てきたように思えるからな」

 

お互いに僅かながらではあるが微笑を浮かべて会話に興ずるなど、嘗てのレジアスとはやてからは想像もできない光景であった。

だがはやてはあの日から唯1人真実を知った者として、レジアスやオーリス、ゼストといった地上の局員たちが背負ってきた闇を全部、これからは自分で背負っていくと決めていた。

その確かな決意と3年間の確かな功績を前に、レジアスも今まで現実を知らない青臭い小娘と見下していたはやてのことをこうやって認める様になっていったのである。

同じ闇を背負った者の先任者として、嘗ての自分と同じ過ちを犯さないように導くために。

 

「主はやて、そろそろ時間です」

「おっと、ありがとなシグナム……それじゃあレジアスさん。そろそろ」

「ああ……」

 

話し込んでいる内に面会時間はあっという間に過ぎていき、入り口から随伴していたシグナムが顔を覗かせていた。

それを受けてはやては席を立ち、ガラス越しのレジアスにぺこりと一礼してから背を向けて入口へと向かっていく。

 

「……小娘。いや、八神はやて……貴様の歩み出した道はまだまだ始まりにすぎん……そんな所で昔のワシの様に、道を踏み外すような真似だけはするなよ……」

「……肝に銘じておきます」

 

去り際にその小さな背中に向けて放たれた真剣そのものなレジアスからの忠告。

それに対してはやては顔だけを改めてレジアスの方に向けて、同じように真剣な声で返答していた。

 

 

 

*

 

 

 

ミッド地上本部からやや離れた場所に位置している集団墓地。

綺麗に整えられた草原に並ぶ墓石の数々の内の1つの前に立っていたのはたくさんの花束を抱えていた2つの人影。

 

「……お母さん、また来たよ。あの事件から3年……私もギン姉もあっという間だったよ」

 

手にしていた花束を1つずつ供えて合掌するのはスバルとギンガ、墓石に刻まれた名前は2人の母親であるクイント・ナカジマ。

スカリエッティの逮捕から連なる捜査の進行によって、原因不明だった母の死の真相についても判明。

それを知る前からも変わらずであったとはいえ、スバルとギンガはこうして定期的に大好きだった母の墓参りに訪れているのである。

 

「…………お母さんの……ギン姉の大切な形見は無くなったままだけど……でも、私もギン姉も何とか頑張れてるから」

「だから母さん、これからもずっとずっと……私たちのこと、見守っていてください……」

 

静かに目を閉じて姉妹は無き母親への言葉を静かに述べていく。

ゆりかごでの激闘、左手足を損失するという地上本部襲撃時以上の致命的なダメージを負ったスバルも、完全な回復まで2年近くを要していた。

それからリハビリに時間を費やすこと1年、漸く管理局員としての職務に立ち戻るメドが立ち始めていたのである。

激戦の最中で斬り落とされた左腕と共に無くしてしまったギンガのリボルバーナックルは結局発見できず、

意識を取り戻したスバルはそのことを何度も謝っていはいたが、ギンガにとっては妹がこうして生きていてくれているというだけでも、それが救いであった。

スカリエッティに捕われ妹と敵対させられ、挙げ句、死地に赴く妹のことを見送ることしかできなかったギンガとしては

あの時何もできなかった自分のことの方が何よりも恥じるべき物だったのだから。

事件終結後も新たなデバイスと共に一層訓練に励み続け、妹の現場復帰を心待ちにしている。

 

「じゃギン姉、この子たちにも」

「ええ…………」

 

母親の墓参りに続いてスバルとギンガが1つずつ花を供えていくのは横一列に並んだ計6つの真新しい墓石。

刻まれた名前はそれぞれチンク、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエチ、ディード。

事件終結後、その身柄を確保された戦闘機人の大半は、時は違えど突如として謎の変死を遂げるというあまりにも救われない結末を迎えていた。

その後の調査で判明したのが死亡した戦闘機人に共通して組み込まれていたあるプログラム。

恐らくは機密保持の為に用意された自壊機能のような物ということであった。

本来なら同じように捕われて改造されたギンガに、そういった類の物が植え付けられていてもおかしくはなかったのだが、

本局でのメンテナンス時にはそれに似た壊れた部品が散らばっていただけで、自壊命令を発せられるような機能は既に無かったとのことだった。

それだけにギンガは自分やスバルと同じく、戦闘の為だけに生み出されてその果てに作り主の都合で命を失ってしまった彼女たちに痛み入ることがあり、

たっての希望で母親の墓と同じ場所に彼女たちの墓も作ってもらっていたのである。

 

「……あれ、なのはさん!! どうしてここに」

「久しぶり、スバル、ギンガ。2人も来てたんだ」

「はい、今さっき……でもなのはさんは」

「私も同じ、お墓参りだよ。戦闘機人のみんなやクイントさんの」

 

と、花を供え終えた2人の下に姿を現していたのはなのはである。

意外な人物との再会にスバルとギンガは顔を綻ばせており、なのはも穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「その後の調子はどうですか? 回復にもだいぶ時間がかかったと聞いてましたが……」

「大丈夫だよ。スバルのケガに比べたら私なんて軽い方だったし、それに…………」

 

心配そうに尋ねるギンガの言葉にもやはりなのははその優しげな笑みを崩さぬまま答えつつ、立ち並ぶ墓石の数々を寂しげな視線で見つめていた。

激闘の渦中で命をすり減らし、絶大なダメージを負っていたのはなのはも同じことだった。

ネロ・シグノリアやヴィヴィオとの激闘、ブラスターシステムの乱用による傷が尾を引く形となり、

事件から3年経った今でも大規模な魔力を行使すると痛みが生じる様になり、最大魔力値も20%近くダウンしてしまっていた。

それでも今ではどうにか現場復帰を果たし、2度も復活した奇跡のエースとして、元の戦技教導官として後進の育成に力を注いでいる。

 

「…………やっぱり、今でも作ってないんですね」

「当然だよ……無駄な想いかもしれないけど、でもやっぱり、私は生きているって信じてあげたいから……」

 

言い辛そうにしているスバルに背を向けたまま静かに答えるなのはの脳裏に浮かぶのは、自分に優しく微笑んでくれた大切な娘の最期の光景。

結局、あの後に自分たちが保護された時にも、その後の調査の際にもヴィヴィオの姿はどこにも見当たらなかった。

自分が守ると誓った筈のヴィヴィオの消失による精神的ダメージがなのはにとっては一番大きな物で、体のダメージ以上に復帰を遅らせた原因でもあった。

事情を知る多くの局員たちも、なのは自身にもヴィヴィオはあの最後の爆発の中に消えていってもういないということを理解していた。

だけどそれでも、管理局員として復帰したなのはは今でも心のどこかでヴィヴィオのことを割り切れておらず、故に彼女の墓も作られていない。

それだけなのはにとってヴィヴィオという存在は大きな物だったのである。

 

「…………永遠なんて存在しない、人も世界も変わっていく。それが、良い方向であれ悪い方向であれ……」

「だからこそ、私たちは少しでもいい方向に導けるように……頑張らないといけないんですよね……」

「そうねスバル……なのはさんや、変わってしまった他の人たちの為にも」

 

さあっと一陣の風が吹き抜けていく。

それを受けてなのは、スバル、ギンガの3人は晴天の空を高く高く見つめていた。

 

 

 

*

 

 

 

とある管理世界の最奥部、小高い丘の上に広がる緑豊かな草原とそこにぽつんと立つ白塗りの一軒屋。

その家の主である女性は窓から差し込む日差しの下、机の上で黙々、のんびりと読書に耽っていた。

 

「お茶が入りましたよ、フェイトさん」

「……うん、ありがとう……エリオ」

 

家の住人は女性以外にもう1人。ティーポットとカップを手にして部屋へと入る少年―――エリオの声に

伸びをしながらゆっくりと振り向いた女性―――フェイトが静かな声とにっこりとした笑顔で答えていた。

エリオから受け取ったカップの紅茶を匂いを楽しんでからそっと口を付けるその姿は実に様になっていると同時に、今までのフェイトの姿とはどこか違うもの。

愁いを帯びた瞳とまるで悟りでも開いたかのような穏やかすぎる微笑みを携えたその姿は、どこか普通の人間と違って覇気が感じられなかった。

 

「なのはさんやはやてさんからもまた連絡、ありましたよ? たまには顔を見せないかって」

「うん、ありがとうね……でもやっぱり……まだ整理には時間がかかると思うから……」

「わかりました、いつものようにお返事、出しておきます」

 

この3年近く、フェイトはエリオとキャロを除いて1度たりともなのはやはやて、家族であるリンディやクロノすらも含めた親しい知人と直接顔を会わしていない。

スカリエッティのアジトで、地上の廃棄都市群で、それぞれ重傷を負ったフェイトとエリオであったが、

何より心に一番大きなダメージを負っていたのがフェイトだった。

自分は所詮スカリエッティと同類でしかない、エリオやキャロのことも自分に都合の良い道具としてしか使っていない。

数々の指摘に反論できずに怒りに任せるしかなかった情けない自分を見つめ直し、追い詰められた先に決めたのが管理局員としての自分を捨てること。

事件の功労者の1人であり、活躍目覚ましい将来有望な執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの余りにも早すぎる管理局の退職。

なのはやはやてたち知人だけでなく、管理局中に広まる程の重大ニュースとなっていた程だった。

どんなに周りが必死に説得してもフェイトの心は変わらず、ある日を境にして忽然と姿を消してしまったのだった。

今では極一部の人間しか知らないこの丘の上の一軒屋で只管に書物を読み漁る毎日を過ごしている。

その書物の大半は生命操作技術、倫理学、人間の思想、精神論などに関わる難しい内容の物ばかり。

スカリエッティの行っていた研究を、自分の今までしてきたこと、その全てを見つめ直し、明確な答えを見出したいというのが今のフェイトにとっての全てであった。

 

「でもいいんだよ……エリオだけでも会ってきてくれれば私は……」

「同じこと、言わせないでくださいフェイトさん。僕は、ずっと付いていくって決めたんですから、フェイトさんに」

 

申し訳なさそうに視線を俯かせるフェイトの手にそっとエリオとの両手が置かれていた。

フェイトに続くようにエリオもまた管理局員としての自分を捨て、この遠く離れた辺境の世界で日々の小銭を稼ぎながらフェイトを支え続けている。

自暴自棄に近い状態になっていたフェイトはエリオとキャロの保護責任者としての立場すらも捨てようとしていたのだ。

今の自分には2人に会わせる顔が無い、こんな最低の自分なんかとは関わらなかった方が良かったのかもしれないと口にした程に。

そんなフェイトに対してエリオは初めて心の底から怒りを見せて、フェイトの頬を思いっきりひっ叩いていた程だった。

自分もキャロもフェイトさんにはたくさんの感謝をしている、自分たちにいっぱいの愛情をくれて育ててきてくれた。

それを間違いだというなら今の自分たちの存在自体が間違いになる。そんなことは認めない、今更投げ出す方がよっぽど最低だ。

たくさんの涙と共に必死に説得したエリオの言葉に僅からながらも傷ついたフェイトの心は揺れ動き。エリオだけは一緒にこの閉ざされた世界に連れてきていた。

同じく自分のことを慕ってくれているキャロに自分の居場所を伝えた上で、なのはたち友人たちにも連絡先だけは残して。

 

「それに今度、キャロもまた会いにくるって言ってましたから」

「うん……キャロも、ルーテシアも……メガーヌさんも元気にしてる……?」

「はい、今写真持ってきますね」

 

ティーポットとカップを机に置いてエリオはにこやかに笑いながら部屋を後にしていく。

エリオと違い管理局員として元の自然保護隊に復帰したキャロは、優秀な竜召喚士として力を発揮している。

自然保護、密猟者取締りといった主任務の傍ら、無人世界に隔離されたルーテシアとの交流を続けている。

同じ召喚士としてルーテシアとその母であり、保護後に無事に目を覚ましたメガーヌとの交流を続けている。

ずっと一緒にいるからという言葉の約束通り、同じ召喚士として今ではすっかり親友同士。

ルーテシアも魔力の大幅封印後、スカリエッティに施された処置の大半も治療が完了しており、

今は大好きな母親と大切な親友に囲まれて年相応の少女らしい笑顔を見せる様にもなっていた。

 

「お待たせしましたフェイトさん。ほら、こっちがこの間届いたばかりので……」

「うん……3人とも……本当に楽しそうだね……」

 

何枚かの写真を片手に戻ってくるエリオと共に、満面の笑みで写っているキャロ、ルーテシア、メガーヌのことをフェイトも楽しそうに見つめている。

心の傷は未だ深く、家族や友人とさえまともに会えない今のフェイトではあるが、

それでも尚、支えてくれるエリオとキャロの心遣いに感謝しながら、自分の答えを見つけるために毎日を過ごしている。

 

 

 

*

 

 

 

とある次元世界、複数人の次元犯罪者グループが潜伏していたという事件現場。

ターゲットであったその全員が無事に確保完了し、事後報告の為に多くの局員が駆け回っている。

そんな中で、今回の確保作戦の指揮を担っていた局員が敬礼をしていたのが小さな影とそれに付き従うもう1人。

 

「捜査協力ご苦労様でしたヴィータ一尉、ランスター三尉、此度の作戦が無事に完了したのもお2人の協力があったからこそです」

「気にすんな、これがあたしらの仕事なわけだからな。後のことはしっかり頼むぞ」

「はっ!!」

「じゃ、さっさと戻るぞティアナ」

「了解です、ヴィータさん」

 

変わることない紅色の騎士甲冑とグラーフアイゼンを片手に掲げるヴィータ、その傍らに立つのはクロスミラージュを両手に3年の間に相応の成長を遂げたティアナの姿。

純粋な尊敬を込めた局員からの敬礼を受けつつ、2人はその場を後にして移送用のヘリに乗り込んでいた。

 

「お疲れ様です。この後の案件についてですが例の違法兵器取引に関わっているグループの捜査についてと――――」

「いつもいつもすまねえなティアナ。片付けなくちゃいけない仕事は山程あるだけ、おめーがいてくれると何かと楽だ」

「気になさらないでください。これも私自身が夢を果たすためのステップアップに必要なことなんですから」

「六課の頃はピヨピヨだったお前も、一端の働きができるようになるなんて早いもんだ」

 

ヘリの座席に並んで腰かけて、それぞれに言葉を発するヴィータにもティアナにも自信に満ち溢れた笑顔が浮かんでいる。

あの事件の後に、真っ先に現場復帰を果たしていたのがヴィータだった。

多くの機動六課メンバー達が身体に、心に、それぞれ大きな傷を負っていた中で同じように、

いや、誰よりも多大な体の傷を負っていた筈のヴィータは、粗方の傷が治ると同時に無理を押して前線へと戻っていた。

他のメンバーも同じように回復を果たし、管理局の改革に着手し始めたはやてやその補佐をしている他の守護騎士とは異なり、

ヴィータは変わらずに単独で各地を飛び回って犯罪者の逮捕や各次元世界での捜査協力に尽力。

はやての指揮下の守護騎士という根本的な立場こそ変わっていない物の、基本的にヴィータは1人で行動していた。

そして3年の間に同じく回復を果たしたティアナが、そんなヴィータの補佐官としての立場に就いていた。

本来なら彼女が目指す執務官としての勉強の為に、フェイトの下で働く道なども提示されていたのだが、

そのフェイトが突如管理局を辞めて姿を消してしまったという事情などもある。

だがそれ以上に、ティアナは執務官となる自分の夢を叶える以上に、ヴィータと共にいたいという気持ちが同じくらいに強かったのだ。

 

「何より、ヴィータさんの下で学べることは、私にとっても大事なことですから」

「前衛型の私の下にいたって、射撃と幻影がメインのお前のためになんてなるのか?」

「執務官目指してますから、どんな状況下でも対応しなくちゃいけないって意味では決して無駄じゃありませんよ」

「そうか……あたしにできるのは前に出て犯罪者を、敵をぶっ倒すことくれーだからな。あたしはあたしのできることを、もう曲げるわけにはいかねーんだから……」

「それだけでも、十分に立派です……だからこそ、みんながヴィータさんのこと、慕ってくれているんですから。そんなヴィータさんの下で一緒に仕事ができるってだけでも、光栄なんですよ」

「…………へっ、生意気言ってら」

 

口ではぶっきらぼうに返しながらも、ヴィータの頬はどこか照れくさそうに赤みを帯びていた。

勿論、ヴィータにしたって精神に何のダメージも負っていない筈が無かった。

守ると誓った筈の仲間たちに大ケガをさせてしまったこと、何より救うと誓った筈のヴィヴィオを死なせてしまったこと。

そういった要因がヴィータの心を確実に苦しめ、大きな重圧として圧し掛かっていたのである。

ただ、幾度も弱さを曝け出してきたヴィータはそれを表に出さないだけで、ただ只管に管理局員としての職務に打ち込むことでそれを紛らわそうと必死なだけだったのである。

そんなヴィータの想いを、最終決戦の直前で不安に押し潰されそうになって自分の胸の中で泣きじゃくっていた姿を目にしていたからこそ、

ティアナはヴィータの心の中の傷と焦りをすぐに見抜き、同じように言葉にはせずともその傍らで支えることを決めていたのである。

ヴィータもヴィータでティアナのそういった心遣いと補佐としての能力に、心身共に大きく助けられているのだから。

 

「…………あたしはもう、絶対に折れねえって決めた。だから、自分の信じた道を我武者羅に進むだけだ……ティアナ、おめーも迷うことなく夢に向かって進めよ?」

「はい、ヴィータさん」

 

機動六課での出会いを通して、スターズ分隊のメンバーとして、より強固な絆で結ばれていたヴィータとティアナ。

お互いの信頼を確認し合うように、それぞれがコツンと拳をぶつけ合う。

いずれ目指していく道は違うものであっても、今はその為に必要なことを全力でやっていけばいい。

ヴィータもティアナも、あの事件での痛みを超えて、それぞれの夢や目的の為に、確固たる道を進んでいた。

 

 

 

*

 

 

 

時空管理局にさえ知られていない、未開の世界のある奥地。

人が訪れなくなり打ち捨てられた廃教会、その内部の祭壇の床下に続く地下への道。

暗い闇の底へと続く階段を只管に降り進んでいく1つの影があった。

 

「たっだいまー、食料品とあと花と、その他いろいろ買ってきたよー」

「ご苦労様っスよ、セイン」

「お疲れセイン、当たり前だけど管理局員とかその他の連中には見つかってないわよね?」

「当たり前だよドゥーエ姉、基本的にディープダイバー使ってるから問題は無いよ」

 

ビニール袋を机の上に置いたのはセイン、それに答えるのは元からその地下空間の一室にいたウェンディと、そしてドゥーエだった。

その一室は一般的な住宅のリビングと何ら変わらない様相の物であり、3人が着ているのも普段のボディスーツとは違う簡素な私服である。

戦闘機人としての3人の素性を知る者が見れば、あまりにも異質そのものな光景が広がっていた。

 

「あの戦いから3年っスか……長い様な短いような、そんな感じだったっス」

「結局、あれからカティも目を覚まさないし……私達が助かったのもよくわからないしね」

「それだけ貴方達2人のことをカティは気に入っていたっていことなのよきっと。それに感謝しておきなさい」

 

机に並べられた食糧やら消耗品やら、それに混じって置かれた1つの花束。それを見つめながら3人は思い思いの言葉を口にしていく。

あの時、駆動炉でのヴィヴィオが起こした爆発に巻き込まれた筈のセインとウェンディ、そしてベルリネッタ。

だが、セインとウェンディの2人が意識を取り戻した時には、既にこの地下空間に潜伏していたドゥーエから全ては終わったことを告げられていた。

率直に言えば自分たちの敗北。そしてドゥーエは、管理局にも存在を知られておらず、世界そのものを厳重に隠蔽された実験用の隔離世界に待機しており、最悪の事態に備えていたということだった。

セインとウェンディだけが助かった理由は正確にはわからないが、ドゥーエは混乱の最中でベルリネッタが長距離転送を行使したのだそう踏んでいた。

戦闘機人の中でも特にお気に入りだった2人と自分自身、3人を一度に遥か遠くのこの世界に飛ばしてそれで力尽きたのだと。

 

「ドクターの協力があればカティを目覚めさせることもすぐにできるかもしれないのに……」

「ドクターにその気が無いのだから、私達にはどうすることもできないわ」

 

ドゥーエが最後の備えとして後方待機していたのは、いざという時の為に捕縛されたメンバーの脱獄手引きをする為でもあった。

固有技能であるライアーズマスクを用いれば、あらゆる人間に化けることができる。

それを活かしてスカリエッティの捕らわれている拘置所に潜り込み、直接の相対まで果たしていたのだ。

だが、やってきたドゥーエに対してスカリエッティはいつもと変わらぬ笑みを浮かべたままその申し出を拒否していた。

今更表に出ても今の自分に出来ることなど何も無い。無責任なようだが、君は他の2人と共に静かに暮らしてくれればそれでいいと。

夢に破れ、全てを失い、無限の欲望が尽き果てたスカリエッティのその姿に最初こそドゥーエも動揺を浮かべた物の結局はその言葉を受諾。

事件後も変わらずにこの教会地下の空間を根城に、セインやウェンディと共に気ままな生活を送っているのである。

 

「私らには悲しいとかそういうのはわからないけど……なんかこう、胸にぽっかり穴が開いた気持ちは3年前から変わらないっスもんねえ……」

「私も……今の生活も悪くないけど、でもやっぱりドクターやカティには側にいてほしいもん」

「その点に関しては私も同じ……だからこそドクターの言葉通り、そして私たちだけの手でカティを目覚めさせて、新しい生活を送って行かなくちゃいけないんだと思うわ」

 

3人は立ち上がり部屋の扉の1つを開いて更に奥へと続く階段を下りていく。

セインもウェンディもこの閉ざされた原始的な世界の中、それぞれの戦闘機人としての力を振るいながら化け物狩りをしたりなんなりでそれなりに楽しんではいるものの、

3年前からずっと埋まることの無い理由のわからない喪失感に悩まされ続けている。

戦闘機人として生まれた2人には、それが悲しいだとか寂しいたどかいうそういった感情であることを理屈ではわかっても実感としては捉えきれていなかった。

ただそれでも、今までずっと一緒だった他の姉妹やスカリエッティ、それ以上にベルリネッタが一緒にいてくれないという現状こそが原因だった。

他の姉たちの様に捕まるのも、管理局に尻尾を振るというのも、ドゥーエも含めてあり得ない選択肢であり、

変わることないそれなりに楽しくて、でも満たされない生活を続けていくしかないんだろうなあと、2人は心のどこかで思い続けている。

そんな悩める2人の妹を支え、その喪失感の原因となっている科学者をいずれ蘇らせるのが自分の役割なのだろうとドゥーエはそう思っていた。

そして、3人が階段の先に辿り着き、扉を開いた先に広がっていたのはまた別の空間。

地下だというのに朝日が差し込んでいるかのように眩しく、草や花が咲き乱れている庭の様なその一室の奥に置いてあるモノ。

メッセージの刻まれた石碑に、培養液に満たされた生体ポッドとその中で揺蕩う1人の女性。

同じようにこの閉ざされた世界に飛んできたまま、今も尚目覚めることの無いベルリネッタだった。

 

「……世界は、私たちは確実に変わってきている。後は貴方が……ドクターと同じ貴方が目覚める。それだけが妹たちの望み」

「また一緒に遊べるのを楽しみにしてるから、カティ」

「何年先かはわからねーっスけど、それでもまたドクターやみんなと一緒にドカンと暴れたいっスね……」

 

石碑の前に華を添え、ドゥーエとセインとウェンディはそれぞれ言葉を投げかけていく。

 

 

 

 

時空管理局に、ミッドチルダ地上に災厄を振りまき続け、その精神を高ぶらせた先に自らの最高傑作を失い、

歯止めが効かずに暴走を続けた先に、完全に精神が壊れてしまった純粋な欲望、カティーナ・ベルリネッタ。

全てを諦め捕らわれた無限の兄とは違い、いずれ来るかもわからない目覚めを待ち望んで彼女は壊れた心を抱えたまま生き続けている。

 

――私たちの友にして家族、カティーナ・ベルリネッタ。

 

その一言が刻まれた石碑の下で……




以下、あとがきという名の制作秘話という名の……愚痴が満載。
そういうのいいからという人はブラウザバックか、カーソルを最下段まで下げることを推奨します。








































というわけでこれで『狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き』の、ノーマルルートは終焉となります。

実を言うと本作は

「外道なオリ主に好き放題やらせた上で、原作組にぶっ倒される」

「六課側の主軸はスターズ分隊(ヴィータ中心、時々ティアナ)」

「ラストははやてがレジアスの意志を継いで改革に励む」

この3つのコンセプト以外は何も決まっておらず、後は話が進むたびに肉付けしていったものだったりします。
あ、後オリ主が開発した無人兵器についてもある程度は設定が固まっていましたけど、
それでも実際に文章に起こす際に初期設定を色々弄繰り回して~なんてことが何度もありました。

なのでオリ主に関しても悪役としての愛着こそあれど、それ以上の思い入れは無かったんです。
故に、感想欄で「オリ主が外道でも人間らしくて可愛く見える」「六課がもっと負けると思ったのにガッカリ」みたいな感じに
オリ主側に強い思い入れを見せてくれる読者の方が思いの外多くて、それが嬉しい誤算であると同時に悩みでもありました。
何せ、読者の皆さんが望む展開と基本コンセプトの1つが真逆なわけですから(汗)

アンチ・ヘイトや残酷な描写といった警告タグも本当に警告の意味合いで付けた物でしか無く、
そういった展開を積極的に求めてきた読者のみなさんを裏切るような形になってしまったことは今でも申し訳なく思っています。

最高傑作との戦いも初期段階ではヴィヴィオの超パワーでなく、六課陣営が力を合わせて倒す予定でした。
結果的に最高傑作ことシグノリアのハードルを上げすぎた所為で、六課メンバーだけではとても対処しきれなくなり、
「チートにはチートか」ということでヴィヴィオを動かさざるを得なくなってしまいましたが……
この辺は自分の文章力と構成力の無さを嫌という程痛感させられた点でもあります。

最終的にかなり駆け足気味になってしまい、別個に用意したスカリエッティ陣営勝利エンドも無理やり気味な完結の仕方になってしまいましたが
それでもどうにか完結まで持っていけただけでも、一段落といった思いです。
これにどういう評価がつくかはやはり読者の皆さんの匙加減次第ではありますが
肯定も否定も含めて今後の参考にしていきたいと思っています。

それでは、長々となりましたが最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。
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