狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き 作:LR-8717-FA
ミッドチルダ首都クラナガン、その南東地区に存在しているホテル・アグスタ。
機動六課の前線メンバーはそのホテル・アグスタに集結していた。
その日、アグスタでは取引許可の出たロスト・ロギアも含めた大規模な骨董品オークションが開催される。
ロスト・ロギアが複数集まるということでその反応をレリックと誤認したガジェットドローンの出現も予想されていた。
そこで、ガジェットとの戦闘経験も豊富な優秀な魔導師部隊である六課に周辺警備任務の依頼が舞い込んできたのである。
1日前から副隊長であるシグナム、ヴィータ2名を始めとした数人の隊員が既に現場に向かっており、
それに加えて新人4人とロングアーチスタッフであるシャマルやザフィーラ、リインフォースⅡも敬語に参加する。
ホテル内部ははやても含めた3人の隊長陣が待機する形となっているので布陣だけ見れば万全の守りと言えるだろう。
(それにしても今日は八神部隊長の守護騎士団も全員集合しているんだよね)
(確かに、そういえばあんたは結構詳しいわよねスバル、八神部隊長たちのこと)
(私も父さんやギン姉から聞いたことくらいしかわからないけど……)
その警護中の一幕、それぞれ離れた場所で周辺の警戒に当たっているスバルとティアナは念話でそんなことを話し合っている。
スバルの父親であるゲンヤ・ナカジマはミッド地上本部の108部隊を率いている人物であり、姉であるギンガもその一員。
はやては嘗てゲンヤの下で研修を行っていたことがあり、その関係でプライベートでの接触も多い。
実際、リニアレール事件後もはやてはゲンヤの下を訪れ、ギンガと共に六課との協力を依頼しにし行っていた程だ。
そういった繋がりからスバルは父や姉からはやてやその家族のことについての話を聞く機会も多かったのである。
(八神部隊長の使っているデバイスが「夜天の書」っていう魔導書型、副隊長たちとシャマル先生、ザフィーラにリイン曹長たちは部隊長個人が保有している特別戦力で、6人揃えば正に敵なしってこと)
(確かに、副隊長たちもそうだけど、シャマル先生やザフィーラも単体戦力で見ても相当に優秀だもんね)
(まあ、私も知ってるのはこれくらいで、部隊長たちの経歴や能力詳細は特秘事項になってるけど)
闇の書事件における最後のマスターにして事件を解決へと導いた八神はやてとその守護騎士たち。
管理局内ではその情報はトップシークレットであり、彼女の身内と親友含めた極々僅かな人物しかそのことを知らない。
が、そのような得体の知れない部分を抜きにしてもはやてたちの持つ戦力が管理局内でも最上位に匹敵する者であることもまた事実。
前線メンバーとして活躍するシグナムやヴィータは勿論、シャマルやザフィーラも魔力ランクは1つ劣れどサポート役、ガード役として相当な力の持ち主である。
そこにプラスして闇の書の管制人格、リインフォースの意志を継ぐ者にして六課でもはやての補佐に前線指揮官として活躍を見せるリインフォースⅡ。
個人でさえ一騎当千の実力の持ち主ばかりであるのに6人全員が一挙に集えば文字通り隙など存在しない最強クラスの戦力と化す。
(優秀な魔導師やレアスキル持ち、大抵の人がそんな感じよ)
(ティア、何か気になる事でもあるの?)
(……別に、なんでもないわ)
(そっか、じゃあまた後でね)
念話を終えた後でティアナが考えるのは六課の戦力事情についてだがその表情にはどこか陰りがみられる。
部隊外でも幾度どなく耳にしてきたことだが、機動六課の総合的な保有戦力は異常を軽く通り越しているということはティアナも感じていること。
先までスバルと話していたはやてと守護騎士団だけでなく、なのはやフェイトといった他の隊長陣もそれに匹敵するS級戦力。
ロングアーチスタッフを始めとする後方担当の局員たちもいずれはエリートとして活躍することを約束されたキャリア組が殆ど。
そして、自分たち新人フォワード陣を見ていっても、温かい家族のバックアップの下で着実に力を付けていっている可能性の塊のスバル。
10歳という年齢ながらBランクの保有者と希少な竜召喚のスキルを持つ、フェイトの庇護下でその力の片鱗を十分に見せているエリオとキャロの2人。
(…………それに比べて、やっぱり凡人は私だけか)
新人も含めて自分の経歴にはこれといった目立つ者が無いことにティアナはチクリと胸が痛むのを感じる。
現状を見ても管理局の魔導師の多くはD~Cランクが精々で、Bランクへの昇格は一種のカベとさえ言われている。
そんな中、陸士訓練校を首席で卒業し、15という年齢でBランクを保有しているティアナも十分にエリートと言える存在ではある。
ただ、それ以上に自分の周りのメンバーたちが上を行く者ばかりであるという現実に歯痒さを感じ始めていたのだ。
『敵影確認、ガジェットドローン陸戦Ⅰ型、Ⅲ型が多数!』
とはいえ、今は作戦行動中、個人的な感傷に浸っている余裕など存在しない。
それを伝えるかのようにロングアーチからの通信から伝えられるのは大方の予想通りガジェット出現の報。
アグスタにそれが向かっているというのなら防衛の為に全力を尽くさなければならない。
『前線各員へシャマルより通達。状況は広域防御戦、ロングアーチ01の総合管制と合わせて私が現場指揮を行います』
『スターズ03、了解!!』
『ライトニングF了解!』
「……スターズ04、了解!」
スバルやエリオ、キャロ達も動き出している以上、自分がこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
すぐさま気持ちを切り替えたティアナはまず現場指揮官であるシャマルの下へと駆けていく。
ホテル外壁にクロスミラージュから放った魔力アンカーを伝って一気に屋上まで飛び上がりシャマルと合流。
「シャマル先生、私も状況を見たいんです、前線のモニターを頂けませんか!」
「了解、クラールヴィントからクロスミラージュにデータを送るわね」
新人フォワード陣の中では前線での指示も担当する立場柄である以上、ティアナのその容貌は即決で承認されデータが転送される。
それを確認したティアナはすぐにまた地上へと戻り、他のメンバーとの合流地点へと急いでいく。
(周りがどうだろうと関係ない……私は立ち止まるわけにはいかない、今までと同じで証明すればいい、ガジェットだって……未確認の違法兵器相手だって……!)
その胸に宿すのは確かな決意と少しの焦り。
自分をたった1人で守り育ててくれた、そして数年前に殉職を遂げた、大好きだった兄、ティーダ・ランスターの存在。
違法魔導師の追跡とその果てに遭遇した多数の違法兵器、その交戦の末に殺された。
それだけでもティアナにとっては悲劇だったというのに、追い打ちをかける様に待っていたのは一部の心無い魔導師による罵声。
「今時質量兵器程度に遅れを取る無能」、その言葉はティアナの耳にも届き、心に大きな傷として今も根強く残っている。
だから自分も魔導師を志した、兄の魔法は決して役立たずなんかではない、その証明の為に自分は戦っている。
自分にとってもガジェットやその他違法兵器、その製作者であるカティーナ・ベルリネッタは兄の死因を生み出している存在として許すことのできない相手なのである。
「私の弾丸は、どんな敵だって撃ち貫けるんだって!!」
自らの後ろ向きな想いを振り切るその宣言と共に、ティアナは他のフォワードメンバーと合流した。
*
「さーて、副隊長メンバーの戦闘を観戦するのは初となる訳なんだけどー……」
いつもと変わらずモニタールームで観戦を始めるのは機動六課の魔導師たちとガジェット群の戦いだ。
30分程前にラボの端末に入ってきた通信が伝えたのがホテル・アグスタへと向かっているガジェットについての情報。
因みにオートメーションプログラムを適当且つ雑にした影響もあって誤認も多い故、今回はレリックも無いのに他のロスト・ロギアに反応しているだけだった。
それだけなら別にわざわざ見に行く価値も無かったんだけど、アグスタで防衛を担当している部隊を見たら何とあの機動六課だというではないかと。
で、居ても立ってもいられずにモニタールームで彼女たちの奮戦ぶりをじっくり眺めさせてもらうことにしたのである。
『まとめて、ぶち抜けええええ!!』
モニター先からもうるさいくらいに響いてくる咆哮の主は六課の副隊長、闇の書の残した騎士の1人であるこじんまりとした少女のヴィータ。
だが、見た目に惑わされてはいけない、彼女の実力も他のメンバーに決して劣らない凄まじい物なのだから。
それを証明するように手にした鎚型のデバイス……グラーフアイゼンといったか、それで撃ち出される鉄球によってⅠ型の大半があっという間にスクラップの塊に。
仮にもAMFという魔力阻害機能があり、その上あっちはリミッターまで付いているというのに何という馬鹿力なのやら。
『レヴァンティン、叩き斬れ!!』
『Explosion!!』
別のモニターが表示しているのはホテル周辺の森林地帯から侵攻している複数のⅢ型とそれと相対する剣の騎士、シグナム。
彼女も彼女でカートリッジロードから繋がる斬撃の一閃、そのたった1回の行動でⅢ型を文字通り一刀両断して見せているのだからこれまたびっくり。
撃破されたとはいえ新人のBランク相手にそこそこ善戦していたⅢ型がこうも容易く破壊されるとはやはりその実力は侮れない。
『鋼の軛! でやああああああ!!』
更に別の岩壁地帯では大型の猛獣、盾の守護獣ザフィーラといったか。そいつの雄叫びと共に現れるのが複数の白い魔力の剣山。
その先端が迫ってきていたⅠ型の大群をやはり何の苦労も無く刺し貫いて爆散させていく。
「ん~……流石流石、本当に流石としか言いようがない展開だねえ、益々愛おしくなっちゃうよ、機動六課」
誰もいないモニタールームで1人ぱんぱんと両手を叩いてにっこり笑顔で称賛を送ってみたり、聞いてる相手がいないんだけど。
まあともあれガラクタの大群とはいえそこそこ戦力になりうるガジェットたちをそれぞれが単体で軽く捻り潰して見せているのが今なのだからお察しというヤツである。
隊長メンバーだけでなく、その補佐である副隊長その他の戦力も予想通り、いや予想以上の結果を叩き出している。
これはもう今後はガジェット程度ではゴミを量産するだけだろうし……何よりも前にも増してその強力な力を捻じ伏せてやりたいって欲望が渦巻くよ。
「ま、画面前でいつまでもきゃっきゃっ騒いでるわけにもいかないんだよねっと……あー、あー、御機嫌よう、聞こえてるかなお2人さん?」
『ごきげんよう、カティ』
『……何の用だ?』
でも今日はそんな風に興奮してばっかというわけにもいかず別の仕事もあるので、早速近くの通信端末に声をかける。
それに応えるように表示されるのがフードを被った小柄な少女とコート姿の屈強な1人の男。
少女の方はルーテシア、そしてその傍らにいるのは8年前の研究施設襲撃の際に部隊を率いていた局員の隊長格であるゼスト・グランガイツ。
ルーテシアと同じ人造魔導師の実験素体として兄さんが蘇生を果たし、私たちの協力者……という名の手駒として使わせてもらっている。
傍から見ればこの組み合わせ、親子にしか見えなかったりもするんだけどそれはまあ置いといて。
「2人の近くにあるアグスタなんだけどさ、ガジェット連中が群がっているのはもう知ってるよね? で、兄さんが言ってたんだけどレリックは無いけど実験材料として興味深い骨董があるって話で……」
丁度ドンパチやってるアグスタから少し離れた森林に潜んでいるのを確認したから依頼をしてほしいとの兄さんの言。
身も蓋も無い言い方すれば混乱に乗じてコソ泥という名の使いっ走りをさせてこいって感じの命令だったりする。
別にガジェットを手動にして取ってこさせるって手もありっちゃありなんだけど、今し方まで見ていた六課の活躍を考えるとそれは少々リスクが高い。
なので、それを造作も無くこなせる人材にお願いしようという形になったとそんな感じ。
「とまあここまで言えばわかるだろうけどそれを取ってきてほしいのよ、お願いできる?」
『断る。レリックが関わらない限り互いに不可侵を守るというのがお前の兄との取り決めだ。第一、それくらいならお前の作品でも十分にこなせるだろう』
「無茶言わんといてよゼスト、私の作品は目立つんだから窃盗、侵入紛いのミッションには向いてないんだっての」
二つ返事でNOを突き付けられるわお前でやれと反撃されるわで相変わらず付き合いが悪いのがこの男である。
常識で考えれば自分と自分の部下たちを皆殺しにした相手に仲良くしろというのが土台無理な話でもあるっていう自覚はしているけどさ。
ここまでは想定の範囲内だし、ゼストがダメならもう片方にお願いすればいいだけのことだ。
「そういうわけでルーテシア、ゼストがけちんぼだから貴方にお願いしてもらってもいいかな?」
『うん、いいよ』
「うふふ、やっぱり優しいねえルーテシアは、また今度一緒にお茶でも飲もうか、美味しいお菓子付きでさ」
真逆というかなんというか、今度は今度で2つ変事でOKを出してくれる素直な女の子ルーテシアである。
人造魔導師として改造した時に色々弄った賜物とはいえ、こういう従順な子は私も大好きである、うん。
「というわけでアスクレピオスに兄さんが必要としている物資とその他諸々のデータを送らせてもらったよ、せっかくだし私も見学させて貰おうかなっ、ルーテシアの召喚魔法を見るのは久々だしね」
『うん、じゃあ始めるね』
フードを脱いでから両手を広げ両腕のデバイス、アスクレピオスに魔力を伝達させるのが見えるルーテシア。
ゼストもそうだが人造魔導師素体としては現状で最も完成度の高い素体が彼女なのだ。
その操る魔法も一級品、多数の召喚蟲を操り高度な転送魔法を繰出すルーテシアの戦いは私にとっても貴重なデータになりうるのだから見ない手は無い。
『吾は乞う……小さき者、はばたく者、言の葉に応え我が命を果たせ』
詠唱を行うルーテシアのその姿と叩き出される魔力数値はその見た目と年齢からは想像もつかないような膨大な物だ。
それと同時に召喚魔法陣から這い出るように出現するのは小刻みに羽ばたく二桁を軽く超える銀色の蟲、正式名称インゼクト。
その蟲たちに囲まれて指示を飛ばすルーテシアのその姿は正に女王蜂といった感じだろうか。
『行ってらっしゃい、気を付けてね』
ミッションをより確実なものとするためにまずルーテシアが行ったのはインゼクトツークの憑依によるガジェットの操作変更。
既に辺り一面に散らばっていたガジェットたちにその蟲が憑りついた途端、その動きが目に見える様に俊敏な物へと変わっていくのだ。
極小召喚蟲による無機物の多数同時操作、シュテーレ・ケネゲン。私からしても実に素晴らしく羨ましい能力。
基本オートで動かす関係で単一的な動作しかできないガジェット、それを手動で操ることもあるがやはりその最大数には限界がある。
それを遥かに上回る自動操作を高度なレベルで実行できるその能力、私や兄さんの目から見ても興味の対象となり得ている。
何より、この程度の芸当ですらルーテシアにとっては遊びレベル。彼女の真の力はもっと凄い物なのだから本当にもうね。
「さてまあ、この調子なら滞りなくコンプリート出来るだろうし、こっちの用事もそろそろ……」
如何にルーテシアが優秀な魔導師だろうとその点に関しては六課側も同じであることに変わりは無い。
ガジェットの違和感と召喚魔法の行使に気付くのもすぐのことだろう。
ルーテシア本体に狙いを定めて戦力配置を整える可能性もあるだろうが彼女たちならまあ大丈夫だろう、側にはゼストもいることだし。
操作の切り替わったガジェットも新人メンバーはともかくとしても、副隊長クラスにはすぐに対応されるだろうが足止めと撹乱の時間を稼ぐには十分すぎる。
そっちのデータをじっくり取るのもいいが、先程までのガラクタ相手の戦闘データで副隊長たちの戦力データは大体把握できている。
となれば、後は残りの新人メンバーたちの観戦ともう1つ、こっちのタイミングで送り込むべき私の新しい作品の準備をしておくことか。
「どれだけ足掻けるか見せてもらいましょうか、機動六課新人フォワードの皆さん……♪」
ルーテシアの遠隔召喚によって送り込まれたガジェットと戦闘を開始するフォワード部隊の光景を前にして
私はまた興奮が抑えきれなくなって口元が吊り上るのを感じていた。
*
機動六課新人フォワード陣は苦戦を強いられていた。
キャロのデバイス、ケリュケイオンが捉えた遠隔召喚の反応とその召喚魔法陣から突如として複数出現したガジェットドローンの大群。
その全てがロングアーチから報告があった正体不明の召喚士の手によるものであり、その動きも格段に違う。
「くっ……!!」
ティアナのクロスミラージュから多数発射される橙色の魔力弾も数分前までとは比較にならない俊敏な動きによって回避されてしまう。
その背後に控える別のガジェットは追加兵装としてミサイルポッドをも装備しており、その弾頭を撃ち抜くのにも手間を取らせられる。
『Barret F』
その攻撃事態は単調な物でしか無く、ティアナにとっても容易に対処可能な物でしかなかったが、
眼前にいるのとは別の方向から更に迫ってくるガジェットの一群。
「ティアさん!!」
「!!―――――」
事前に察知したキャロの呼びかけのおかげで自分に迫っていたレーザーを飛び上がって回避することができたが、
着地際に放った弾丸は威力が足りずにAMFによって阻害され撃破には至らず。
上空のスバルや背後で支援を担当しているエリオやキャロも奮戦してはいるが敵の数はなかなか減らない。
このままではじり貧だとティアナは焦りを見せ始めていた。
『防衛ライン、もう少しだけ持ちこたえて! あと少しでヴィータ副隊長がそっちに戻ってくるから!』
と、そのタイミングで新人たちに入ってくるのは現場指揮を担当しているシャマルからの通信。
敵の猛攻に攻めあぐねていた新人たちにとって正に吉報であり、押され気味だった気持ちの方も前向きな物へと変わる。
だが、この報告に対して他のメンバーとは異なる反応を見せていた者が1人。
「ッ……!! このまま守ってばっかじゃ押し切られます! 私達だけでも全機対処して見せます!」
『ティアナ大丈夫? あまり無茶はしないで!』
「問題ありません、こういう時の為に隊長の皆さんに鍛えてもらっているんですから」
ロングアーチからの通信も構わずに強い口調で押し切るティアナ。
作戦前から僅かに生じていた自身の心の中での劣等感、前線で目覚ましい活躍をする副隊長たちの戦闘模様。
それらの要因が重なったことにより自分でも気づかない程に今のティアナは率直に言って焦っていた。
このまま副隊長の到着を待てば勝利は確実、でもそれに何の意味があるのか。
才能ある一流の魔導師にも負けないことを証明するために自分はこの戦場にいるのだからと。
「エリオとキャロは一旦センターに下がって! 私とスバルのツートップで迎撃する!」
「わ、わかりました!」
その焦りは態度にも現れており、いつもとどこか調子の違う様子にエリオとキャロも戸惑い気味だ。
しかし、前線での指揮はティアナが担当していることもあって素直に2人は後方へと下がっていった。
「クロスシフトA、行くわよスバル!!」
「おうとも!!」
後に残った相棒と共に開始するのは訓練の時にも何度も実行してきたコンビネーションの1つ。
気合十分に拳を掲げて答えて見せたスバルは魔力で構成された道であるウイングロードを縦横無尽に駆け回りながらガジェットの大群の注意を自分へと向けていく。
その間にティアナがクロスミラージュを構えカートリッジロード、その数は4発。
暴発的に高まる魔力によって多数の魔力弾がティアナの周りに展開され、クロスミラージュの魔力はスパークが発生する程に高まっている。
(証明するんだ……例えどんな敵が相手だろうと、私の……ランスターの弾丸は敵を撃ち抜けるんだって!!)
自分の中の確かな覚悟と共にティアナは魔力弾の意地と制御に集中していく。
その間にもカートリッジロードによって高まった魔力が全身を駆け巡り今にも暴走しそうな程だったがそれを必死に抑え込んでいる。
何よりスバルが自ら囮になって敵を引き付けてくれているのだ、相棒である自分がそれを無碍にするわけにはいかないと。
そうこうしている間にガジェットの大群が全て自分の射撃領域内に収められる。
「クロスファイヤー……シューーーーートッッッ!!!!」
瞬間、溜め込まれていた全ての魔力が一気に解放され、発射されるのは多数の魔力弾。
その一つ一つがスバルの引き付けたガジェットの大群に確実に命中し、AMFをも貫いて機体を破壊していく。
「だあああああああ!!!!」
それでもティアナは撃ち続ける、自身の強い思いと共に只管クロスミラージュから魔力弾を撃ち続ける。
連続で発射されていくそれらもまた残りのガジェットを次々と掃討していきあっという間に敵の殆どを撃破していく。
だが、やはり普段以上の魔力量とそして彼女の中で肥大化していた焦りが致命的なミスを生み出した。
「あっ――――!!」
ガジェットの最後の1体を逸れて上空へと飛んでいく1発の弾丸、その先にいるのは……敵の引き付け役をしていたスバル。
気付いた時のはもう遅い、振り向いたスバルの眼前にティアナのミスショット弾が迫ってきていた。
ドォオオオン!!!
「くっ……! って、ヴィータ副隊長!?」
が、墜落も覚悟して目を瞑ったスバルにその弾丸は当たることなく地面へと激突する。
どうしたことかと目を開けば息を荒げてスバルの目の前に立っているヴィータの姿が。
彼女に直撃する寸前、その場に辿り着いたヴィータがグラーフアイゼンの一撃によって魔力弾を叩き落としたのだ。
「ティアナ、この大馬鹿野郎が!! 勝手に1人で突っ走った挙げ句に味方を誤射するなんてどういう了見だ!!!」
「あ…………」
眼下にいるティアナに対して怒鳴るヴィータの姿はこれまでスバルも見たことないような鬼気迫る迫力があった。
それに対してティアナは何も言い返すことが出来ずに呆然と立ち尽くすまま。
理解が追い付いた時には全てが終わっており、全てヴィータの言った通りの現実しか残っていない。
自分の実力を証明するはずが、残っていたのは相棒を撃ちかけたというミス唯1つ。
「ち、違うんですヴィータ副隊長! あれは、その……」
「想定通りだったとでも言いてえのか!! どう考えたって直撃コースだったよタコ!!」
どうにかして言葉を振り絞りティアナの擁護をしようとするスバルであったが、怒気を益々強めていく今のヴィータには何の効果も無い。
それだけヴィータにとってさっきまでのティアナがやろうとしたことは許し難い事であり、止まることなく言葉が溢れてくる。
「戦場で無茶やったってそれで敵を落とせるならそれでいい!! けどな、今のお前がやろうとしてたことはただの自己満足だ!! 守るべき相手や一緒に戦っている仲間を自分の手で傷つけるなんてのは一番しちゃいけないことなんだよ!!」
「……………」
「で、でもヴィータ副隊長、あれには私の方も……!」
「おめえもだスバル!! そうやって無茶やった仲間を庇ったって何にもならねえ!! 仲間が仲間を傷つけるってのがどういうことなのかわかってんのか!!」
ただ黙っていることしかできないティアナも、尚もティアナを庇おうとするスバルの言葉も全てお構いなし。
ヴィータにとって仲間が傷つくということは彼女の中で一番許せないことであり、それが更に味方の手によるものということでいつも以上の激昂を見せている。
少々感情任せの叫びになっている節もあったのだが、それでも吐き出せずにはいられなかったのだ。
8年前のあの日、目の前で大切な仲間に何も出来ずに傷つけてしまった自分の過去もあるからこそ。
「……もういい、後はあたしが片付ける、お前たち2人は――――」
『ま、待ってください! 新たな熱源を察知! 敵の解析不能です!』
が、ヴィータが一通り自分の言葉を吐き出し終えた直後に入ってくるロングアーチからの新たな報告。
ガジェットとはまた別の敵が自分たちの元へと近づいているという内容。
そして、その直後に現出するのは今まで見てきた物とはまた違う色の召喚魔法陣。
ギュルルルルルル……
「ちょっと待て、何なんだよアイツは……!」
今の今までスバルとティアナに失跡を飛ばしていたことすら忘れてしまいそうな程にヴィータの見たそれは異質。
口部の先端が異常に尖り、翼の部分に当たる2つのシールドバインダーとテールユニットを備え付けた、低く唸るような機械音を発する謎の鳥型兵器。
それはヴィータもスバルもティアナも今まで見たことが無い、異質そのものな怪鳥である。
「!!……ヤベエ、避けろティアナ!!」
「え――――」
その直後、未知の敵の反応を察知したヴィータが叫んだ時には既に行動を開始しており。
先程のスバルに向かっていったミスショットの焼き直しの如く、我に返ったティアナの眼前に迫っていたのは、
謎の兵器が超高速で口部先端で自分を刺突しようと突っ込んでくる姿だった。