狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第8話:鉄槌の騎士に襲い来る禿鷲

「!!――――ああっ!!」

「ティアッ!!」

 

アグスタ近くの防衛ポイントに響き渡るのは2人の少女の悲痛な叫び、周辺に舞い散るのは少量の紅。

間一髪ティアナはヴィータの声を受けて正体不明機の突撃を回避しようと試みたが完全な回避には至らず、

先端部分の刺突によってティアナの左腕の二の腕辺りが切り裂かれ傷を作り、加えて敵の突進の衝撃によって大きく吹き飛ばされてしまう。

数メートル程地面を滑る相棒の無残な姿を見てスバルはすぐに駆け出しヴィータもその後を追う。

 

「ティア!! 大丈夫、しっかりして!!」

「っ…………ぅうっ……」

 

スバルが抱きかかえたティアナの様子は普段とは大きく違い、ほぼ消耗しきっているという感じだ。

無茶な魔法の行使に正体不明機の急襲による想定外のダメージ、

何より、今のティアナが抱えている心理状態がそれらを更に加速させた結果が今だった。

 

「ヴヴゥゥゥウウウウ…………」

 

そんな3人の様子を正体不明機は少し離れた距離で浮遊しながら不気味に捉えている。

いきなりの出現に突如の攻撃、その時の様子からかけ離れた不気味なくらいの静止。

だがそれでも3人は直感的に感じていた、目の前にいるこの怪鳥のような謎の機体は今までのガジェットの大群などとは比較にならない相手なのだと。

 

「……コイツはあたしが片付ける、スバル、おめーはティアナを連れて下がってろ」

「え、でもヴィータ副隊長1人だけでは……」

 

その小さな体のどこにこれほどの覇気を宿しているのか、それほどまでにスバルにとってヴィータは大きな存在に見えている。

だがそうだとしても目の前に強力な正体不明の敵が襲い掛からんとしているというこの状況下で、

副隊長1人だけを残して下がっていいものなのかと戸惑いながらの言葉だったのだが、

 

「コイツはガジェット連中とはワケが違うし、何より今のティアナが一緒じゃ足手まといだ。だったらお前はすぐに下がってロングアーチに現状の報告とティアナの治療をしてやれ。それが最善だ」

「わ、わかりました!!」

 

それでも尚、ヴィータは自分の考えを曲げようとはしない。その意思を理解したスバルも負傷したティアナを連れて後方へと下がっていった。

そして後に残されるのはヴィータと正体不明機の1人と1機のみ。

 

「さてと、テメーは何者だ? 何の目的でここに現れたんだ?」

「ギュルルルルゥウウ…………」

「そっちに聞こえてるんなら答えろ、これもカティーナ・ベルリネッタとか言う奴の差し金か?」

「ゥ……ウウウウゥゥゥ………」

 

文字通り一触即発、どちらかが少しでも動きを見せればすぐにでも激戦が繰り広げられるだろう、

そんな空気の中でヴィータが行ったのはアイゼンの先端を眼前の正体不明機に付きつけての問いかけ。

いきなり有無を言わさずに牙を向けてくるような相手とまともな会話が成立するとは考え難かったが、

それでも管理局員として問わなくては、聞かなくてはいけないことは山のように存在している。

尤も、ヴィータも大方予想していたようにその言葉の数々に対する返答は無く、変わらず唸り声のような機械音を発しているのみ。

 

「……まあいい、答える気がねえってんならやることは1つだ」

 

アイゼンを自分の方へと引き戻して行うのは魔力の発露と魔法陣の展開。

話が通じても通じなくてもこの正体不明機が何もせずに素直に引き下がっていた筈も無い。

どっちにしたって部下2人を下がらせてヴィータがやるべきことは最初から1つだけだったのだから。

 

「管理局の一員として、何よりあたしの大切な仲間を傷つけた礼はたっぷりさせてもらうぜポンコツトリ野郎!!」

 

一跳びで敵へと肉薄し凄まじい破壊力の込められたハンマーの一撃が振り下ろされる。

その直前に上空に飛び上がって回避する正体不明機、地面にぶつけられたハンマーによって周辺を揺るがすほどの衝撃が起こる。

管理局員としての任もそうであるし、何よりも自分の部隊の大事な仲間が傷を負ったということがヴィータの力を更に引き上げている。

直前のミスショットの際に激昂していたのもスバルやティアナに対する愛のムチ故にのこと。

同朋たるシグナムに過保護とまで称されるほどに、機動六課の中でも仲間を思う気持ちが人一倍強いのがヴィータという名の騎士。

 

「うおりゃああああ!!」

『Tödlichschlag!!』

 

ただ単に上に飛び上がっただけの単調な機動で振り切れる程ヴィータの攻撃は甘くは無い。

初撃をかわされても何ら焦ることなくヴィータはすぐにその後を追って追撃を加えようとする。

その一撃が正体不明機の機体を捉え胴体部分に勢いよく叩きつけられるかと思われたが、

 

「ギュゥゥゥァアア……」

「チィッ……思ってたよりもはえーな、これもかわすか」

 

横から振るわれるハンマーを正体不明機は逆方向へと光速に水平移動することによってまたしても回避。

その一瞬の加速力とスピード、ヴィータの目からしてもやはり相当な性能であると睨んでいる。

魔力リミッター付きで現在はAAランク相当とはいえ、それでも尚ガジェット程度の相手なら物の数ではない。

つまるところこの正体不明機はやはり最初に思ったお通りガジェットなど軽く上回る高性能な兵器なのだと。

 

「なら……次はコイツだ!!」

 

もちろんそれくらいで手の内が無くなるほどヴィータという魔導師も甘くは無い。

一旦正体不明機から距離を取った上で静止、自身の眼前に数個の鉄球を生み出しそれをアイゼンで打ち出す。

 

「ぶち抜けええええ!!」

 

ヴィータの魔力と同色である赤に包まれた鉄球が計8個、正体不明機めがけて一斉に襲い掛かる。

直截な打撃と同じくヴィータが得意とする誘導制御型魔力弾による攻撃、シュワルベフリーゲン。

威力、速度共にやはり並の魔導師のそれを大きく上回るもので、先程までのガジェットとの戦闘でもAMFの妨害を全く寄せ付けずに多くの敵をゲH気はして見せていた。

その魔力弾が今度はその全てが一斉に1つの敵、正体不明機に向かって放たれたのだが、

 

「………………ゥゥジュゥゥゥウウ」

 

上から下から左右から、それどころか全方向から何度も襲い来るその魔力弾の攻撃を正体不明機は全て避けていく。

両翼のシールドバインダーを大きく広げながら赤い弾丸の僅かな隙間を縫うようにして複雑な軌道を描き続ける。

その速度は先程よりも大きく上昇しており、凡人は愚か手練れの人間にも目で追うのが難しいほどのレベルになっている。

 

「そこだあああああ!!!」

 

尤も、ヴィータの実力はその手練れをも遥かに上回る一握りのエースクラス。

魔力弾の回避に集中している正体不明機に出来た少しの隙を見逃すようなことはしない。

下方から迫る魔力弾の回避の為に高度を上げた正体不明機の背後には今正にハンマーの一撃を与えんとして一気に降下してくるヴィータの姿。

距離もタイミングも初撃よりバッチリであり、今度こそ仕留めたとヴィータも確信していた。

 

「…………(キュゥウウウン)」

「なっ……! なに…………!!」

 

だがそれも束の間、これまで回避一辺倒だった正体不明機が見せた新たな行動がヴィータの確信を容易く覆す。

攻撃の当たる直前、今までとは違う澄み渡るような高音の機械音と共に両腕のシールドバインダーを縦に構えたと思いきや突如、そこを中心として発生したのが緑色の膜状のフィールド。

それは正体不明機の全身を包み込むように展開されており、そのフィールドによってヴィータの攻撃は火花を散らして拮抗しながら停止してしまう。

その想定外の行動に動きを止めてしまったヴィータをそのままにしておくほど正体不明機もまた甘くは無い。

 

「ッ!!」

 

直感的に危機を察知したヴィータが下がった直後、その場所に落とされるのは二振りの刃。

硬直するヴィータに向けて正体不明機はすぐさま正面に向き合う形になり、シールドバインダーの先端にプラズマブレードを構成、それを同時にヴィータに向けて振るっていた。

この攻撃もまたヴィータに命中することなく空を切り、互いに距離を取り合う形で再び両者の間に静寂が広がる。

 

(あたしの攻撃を簡単に回避する機動力に今やった結界みてーなフィールド機能、それにプラスしてあのエネルギー刃……やっぱコイツ、ガジェットなんかとは全然違う)

 

ヴィータは発生させたエネルギーフィールドを纏ったまま動きを見せない正体不明機への警戒度を更に強めていた。

元より強敵とは思っていたが、それでも自分単独で落とせない程ではないだろうし、さっきの攻撃で仕留めるか、そうはいかなくても致命傷を与えることはできると踏んでいたのだ。

しかし結果は今の状況の通り、自分もダメージは被っていないがそれは敵も同じ、敵の能力の一端を引き出せたことを考えれば少しは有利なのかもしれないが、

それでもヴィータと正体不明機の攻防は現状ではほぼ互角と言っていいだろう。

 

「……けど、何の目的があるかは知らねーが、こっちも引くつもりなんてねえ!!」

『Raketenform!!』

 

次なる攻勢へと出たヴィータは魔法陣を展開しアイゼンのフォルムチェンジを行う。

カートリッジロード共に変形するは後方に噴射口と先端に刺突部分が追加されたアイゼンのフォルムツヴァイ、ラケーテンフォルム。

そのまま上昇した魔力と共にヴィータはその場で高速回転をしながら勢いを強めていく。

 

「ラケーテン…………ハンマアアアアアアア!!!」

 

周囲を揺さぶらんばかりの咆哮と共にヴィータは口部推力の加速と共に圧倒的なスピードで正体不明機へと迫っていく。

その速度、威力は先程までのハンマーフォルム時を大きく凌駕しており、正体不明機のスペックにとっても想定外の一撃。

 

「ギョルゥゥゥウ……!!!」

 

遂にヴィータのその一撃が正体不明機の機体を、正確にはその周辺に展開していたエネルギーフィールドに激突する。

だが、フォルムチェンジによって爆発的に高まったその一撃でも敵の防御を貫くことは敵わずまたしても多量の火花が散りながら拮抗する。

それでもヴィータは下がることなく勢いに任せたままハンマーに篭める力を緩めようとはしない。

 

「そのまま……いっちまええええええ!!!」

 

ヴィータの更なる咆哮と共にハンマーは振り抜かれ、正体不明機はその一撃によってなんとフィールドごと吹き飛ばされる形となった。

フィールドの展開で姿勢制御もままならずに機体の下部から地面に激突する形で墜落していった。

 

「おっし、まずは一発」

 

アイゼンを肩に構え直しながらヴィータは正体不明機の激突した爆煙を見下ろしていた。

ラケーテンハンマーによる渾身の一撃、フィールドの貫通こそ成されなかったがその一撃による破壊力は自分自身がよく知っている。

今の墜落によって機能停止とまではいかなくとも相当なダメージは負った筈だと考えていた。

一切の油断も慢心もせず敵の次なる行動に備えて注視していたヴィータであったが、

 

「…………やっぱりか、どんだけ頑丈なんだよオメーは」

「ガゥウルルァアア…………!! アグガァアアア……!!」

 

爆煙を切り裂くようにして姿を現した正体不明機であったがその外観は大きく変質している。

今のヴィータの攻撃による墜落の激突によって機体の大半が変形し、内部機関にも多大なダメージを負っている。

テールユニットとシールドバインダーの片方が失われ、もう片方は先端から半分ほどの部分からぽっきり折れてしまっている。

口部先端が斜めに折れ曲がっており、何より顔面部分のカメラアイが露出しながらスパークを発している。

特徴的だった唸り声のような機械音も益々不気味な物へと変わっており、まるで地獄の悪鬼が叫ぶかのような迫力すら感じられる。

ヴィータが自分で引き起こしたことだがそのあまりの変わりように機械相手とはいえ少しだけ引き気味だった。

 

「グゥアァァァア……ガアアアアアア!!!!」

「なっ……ちぃ……!!」

 

その次の瞬間、ノイズ混じりの一際甲高い機械音共に正体不明機が突如として一直線に襲い掛かってくる。

まるで残された力を全部絞り出したかのようなその攻撃は今までのどれよりも速い物。

最後の悪足掻きとも言えるそれにヴィータはまたしても予想を外されながらも一旦回避しようと後方へと下がろうとして、

 

『Explosion!!』

 

その前に突如として正体不明機が縦に一刀両断されてヴィータに届くことなく爆散した。

その爆発の先にいたのはヴィータもよく知る騎士の姿と聞きなれたデバイスの声。

 

「……ったく、オイシイとこだけ持ってくなよシグナム」

「それはすまなかった、まさかお前がここまで手こずらされてるとは思わなかったのでな」

「うるせーよ」

 

皮肉交じりの笑みを浮かべられてぶっきらぼうに言葉を返すヴィータの前に現れたのはシグナム。

後退したスバルとティアナの報告を受けて一旦の指示を出した後にヴィータと正体不明機の交戦ポイントへと急行。

そして正体不明機の敵意がヴィータにのみ向けられているその隙を突いてレヴァンティンによる一撃で勝負を決めたのである。

云わば不意打ちに近い、正々堂々1対1の戦いを好む騎士的な考えの目立つシグナムにしては珍しい行動であったが、

それ以上に管理局員としての責務と仲間が苦戦を強いられているという現状を踏まえた上でそのような行動を取らせていた。

 

「ともかくこれで全機撃墜だなヴィータ、アレの解析はロングアーチに任せるとして私達も一旦下がるとしよう」

「ああ…………」

 

シグナムの言うようにバラバラに分解された正体不明機を最後にガジェットの反応も召喚士の反応も消失し、敵の姿は一切見られなかった。

とりあえずの任務完了を果たしたと判断し、その場を離れていった。

 

 

 

*

 

 

 

「AAランク相当の手練れ相手にそこそこの善戦っと……まあ、突貫工事の試作機にしては上出来な方だったかな?」

 

剣の騎士による機体の爆散を確認した時点で私の新たな作品、高機動特化機の新作であるディヴィアヴォルの大まかの性能と敵の実力の程は測定できた感じだ。

鉄槌の騎士相手に単調な攻撃を容易くかわし続けタイミングの合った攻撃も追加機能のエネルギーフィールドによって十分に防御可能だと立証。

流石に破壊力と突進力を飛躍的に高めたフォルムチェンジの攻撃には耐えられなかったようだが、まあそれでも今回の戦果には満足していた。

最後が別の騎士による一撃によるものだったというのは少々拍子抜けではあったが、データは十分収集てきているので良しとしておこう。

 

「にしても相変わらず凄いよねえ六課の隊長格達はさ……伊達に多くの不幸を振りまいてそれでも尚生きている闇の書の騎士ではないってところかな、くふふ」

 

なのはちゃんやテスタロッサもそうだが、今回実験として交戦させたヴィータと最後の一撃の際に現れたシグナムの両者にも魔力リミッターは設けられているらしい。

それでもやはりそんなこと微塵も感じさせない俊敏な動きと凄まじい破壊力の下、私のディヴィアヴォルを破壊して見せた。

最後の一撃以外はこちらもかわしてみせていたとはいえ相手はまだまだ本気ではない、本当に底の知れない……興味の尽きない実験体である。

 

「ともあれエネルギーフィールドの追加は功を奏したって感じだったかなー、後はやっぱり絶対的なスピードと、あと何かしら射撃兵装も欲しかったところだよねえ」

 

今回の実験データを纏めながらとにかく一心不乱にパネルを操作して詳細を確認していく。

機動六課という強敵の登場と共に現行のプランを一気に進めてその末で出来上がっていたのが今回のディヴィアヴォル。

少しでも多くの実戦データが欲しいという逸る気持ちを抑えきれずにかなりの急工程で完成させて送り込んだのだ。

それでも現状できることは全部詰め込んだし妥協は一切していない、機動力に関しても相当に高レベルまで上昇させている。

何より、機動特化型故の弱点である防御力をエネルギーフィールドで覆うことにより補正するという試みは確かな結果を残してくれた。

現に全力とはいかないがあの鉄槌の騎士の攻撃を一度完全に防ぎきって見せたのだからこっちとしても非常にありがたい。

この機能を更に煮詰めて根本的な機動力をもっともっと高めていく方向で研究を進めていけば、

いずれはリミッター解除状態の彼女たちをも振り切れる性能を持った作品を作り出すこともそう遠くない内に可能だろうということを確信していた。

精魂込めた私の作品を1つ壊されてしまったのはやっぱり悔しいけど……その為に次の作品たちが更に輝くことを考えれば喜びの方が大きいのだ、うふふ。

 

「そして後はこっちなんだけど……ま、不意打ちとはいえこんなもんだったかな、超天才の身内が超天才とは限らないしねえ。あの慌てふためいた顔には中々そそられるものがあったけど」

 

別のモニターの先に映っている動画は転送直後に特攻をかけてダメージを負わせたティアナ・ランスターの姿。

不意を突く形だったけどその前にワンテンポ入れてから突っ込ませてどうなるかな? って感じだったが結果的にはああなった。

もしこっちのシミュレートに狂いが無ければ同様の状態ならティーダ・ランスターは掠ることなく回避していただろう。

消耗状態で意識がこっちに向けられていなかったことを加味しても、あの一瞬でティアナ・ランスターの能力は大体把握した。

前線指揮能力と射撃精度の正確性、他の新人たちと同じくそれらは非常に光る物があり、正に貴重な原石の1つといった感じだ。

といっても飽くまでも原石、他の新人と同じく大成するにはもっと多くの時間を要するだろうと私は睨んでいる。

故に、六課隊長格の相手をすることを想定している現状の私の作品には単体では挑むの厳しいだろうなあと踏んでいたり。

 

「あそこでブッスーって行って、6年前の焼き直しになっててもそれはそれで面白かったんだけどさ」

 

別の結果を想定すると兄さんみたいな興奮状態の笑顔が止められなくなるからこれもまたたまらない。

そもそも今回出撃させたディヴィアヴォルは6年前にティーダ・ランスターを貫いた高機動試作機の直系機だったりもする。

アレの性能は大きく劣るとはいえ、あの時のティーダ・ランスターはタルーガ2機の相手で完全に消耗しきっていたし単純に比較するなんて不可能だ。

それでも、そういうの抜きにしてティアナ・ランスターの心情と私の心理を優先してディヴィアヴォルを差し向けたのには意味がある。

肉親を殺したのと同じ兵器でまた別の命を散らす……こんなのとても素敵で愉快で見てみたかったのよ、うん。

結果はああだけどそれなりのダメージは負わせられたからこの目的の1割くらいは達成できなかったって感じ。

 

「………………」

「おっ、到着したみたいだね、ご苦労様だよ」

 

なんていつもみたく悪趣味全開な思考を張り巡らせていた矢先に背後に気配を感じたので振り向いてみると、

その先にいたのは全身を漆黒の鎧に包み、長いマフラーを身に付けて四つの目を不気味に光らせる謎の二足歩行の生物。

 

「いやー、お前も元気にしてたかなガリュー? またルーテシアと一緒にのんびりティータイムとでも洒落込みたいねえ」

「…………」

 

自分の可能な限りのフレンドリーなリアクションで話しかけてみるも無反応。わかってはいたけどちょっと傷つくかも。

この異形の名前はガリュー、今回の仕事を手伝ってもらったルーテシアの駆る召喚蟲の1体で彼女の忠臣とでも言える存在。

コイツもまた並の手練れを遥かに凌駕する実力者で主であるルーテシアの矛となり盾となる。

おまけに単調な戦闘のみならず、時には今回の様に環境迷彩などを使用した潜入、工作といった行動も可能なのである。

で、兄さんお目当ての品を回収した後、ルーテシアの指示でそのままこちらに届けに来てくれたというところだ。

 

「にしても中身はなんだろうねコレ……兄さんが興味を示したんだからそこそこ良い感じの物なんだろうけどさ、ねえガリューは」

「…………」

「ってお前に聞いても答えられないよねえ、ごめんごめん」

 

ガリューから貰ったのは如何にも怪しげな小さな黒いケース。

自分で言ったように中身が気になるところだけどこれは兄さんが研究目的で取ってこさせた物なのだから勝手に弄繰り回すのはよそう。

そもそも機会研究専門の私が生体操作専門の兄さんの研究材料についてあれこれ想像してもしょうがないのだし。

 

「ほんじゃお疲れ様だよガリュー、ルーテシアにもよろしく言っておいてねえ」

「…………」

 

後から考えればそれ無理じゃん、って思ったけどまあ何も言わないで追い返すのも失礼だったしね?

その意図を知ってか知らずかはわからないけどガリューの方も小さく頭を下げてからモニタールームから姿を消していった。

そのこじんまりとした動作がちょっと可愛いとかどうでもいいことを思ってしまったりも。

 

「まあこれは後で兄さんに渡しておくとして……さてさて本題はこっちだよ」

 

モニターの方に向き直って作業にも戻る。今回の戦闘データを参照してやるべきことは腐るほどあるのだから一分一秒が惜しい。

ディヴィアヴォルの性能を以てしてもリミッター付きの隊長クラスを単機抑えるのが精々、ならばまだまだ基礎スペックの向上が足りない。

絶対的な限界値は機動力重視の機体も勿論、今はいったん手を休めている火力偏重型もまだまだ上げることができる。

だがそれ以上に、火力も機動力も防御力も高性能なオールラウンダー、コレの開発も本格化させていかなくてはいけない。

向こうはどの能力を見てもほとんど隙の無い相手ばかり、ならばこっちも穴の無い兵器を作り出す必要がある。

その為のプランもほとんど構築済み、試作機もいくつかアテがあり、何より今日の戦闘データのフィードバックで更に能力を上げられる。

 

「火力偏重型、機動力特化型に続く総合性能型メカ…アンジェロシリーズの完成が実に楽しみだよ……」

 

 

 

*

 

 

 

ホテルアグスタ裏口近辺、応急処置を終えたティアナとそれに付き添う形でスバルもそこにいた。

ロングアーチからの報告で先程の正体不明機含めた敵群の反応は全て消滅。

もうしばらくの間様子を見て現状待機という命令が下されていた。

 

「ティア……向こうの敵は副隊長たちが片付けてくれたみたいだよ」

「私はもう大丈夫だから……アンタは向こう行ってなさいよ」

「で、でも、ティアまだ怪我してるんだし……」

 

傷を負ったパートナーを何とか元気にさせたい一心でスバルは声をかけようとしていたが

背を向けたままのティアナの声に含まれているのはあからさまな拒絶の意思だ。

それをわかっているからこそ、スバルも言葉を重ねるのが困難なことを感じていた。

 

「ティ、ティアは何にも悪くないよ、あれは私がもっとちゃんとしてれば……」

「いいから行って……」

「それにあの敵だってヴィータ副隊長が言ってたように凄い強いのだったんだから、だ、だからティアが落ち込む必要なんて……」

「ッ……!! うるさいのよ!!! 気休めなんて必要ないわ!! さっさと行けって言ってんでしょ!!」

 

その果てにティアナから発せられたのはまるで八つ当たりにも等しいそんな言葉だった。

ティアナ自身も何年物付き合いのあるスバルにこんなことを言っても何にもならないという自覚はしている。

だがそれでも、今の惨めな自分を庇おうとするその言動が今のティアナには余計に辛いだけだったのだ。

 

「…………ごめんね、ティア。落ち着いたらまた後でゆっくり話そうね」

 

その一言を最後にスバルは駆けだすようにその場を離れていく。

精一杯、明るい声を振り絞っていたのだろうが今にも泣きそうな震えた声だったのはティアにもはっきりと聞き取れていた。

それを思うと自分のことが益々情けなく思えてきて……

 

「あいつは……あの敵はだって……間違いなく……!!」

 

壁に拳を叩きつけながら絞り出すような声を上げるティアナ。

脳裏に過るのは6年前に兄が殺された謎の事件とそれに関する僅かに残された資料に映されていた違法兵器の外観。

通常の兵器とは一切違う異形の、怪鳥のような姿のそれは紛れも無く今日自分が相対し、何もできないまま傷を負わされたそれと酷似していた物。

だとするならあの正体不明機は云わば兄の死の原因となった自分にとっても倒すべきだった因縁の相手。

それなのに直前のミスショットとヴィータからの叱責により冷静さを欠き、挙げ句に無様な姿を晒して後退するしかなかった。

しかもそんな自分を心から心配してくれるスバルにすら八つ当たりをし傷つけているのが今の自分の姿。

 

「あたしは……あたしは……っ……!!」

 

左腕に巻かれた包帯の下の傷がじくじくと痛みを増していく。

自分の醜態が許せなくて、兄の無念を晴らす機会をみすみす逃してしまったことがとても悔しくて。

壁に向かって拳を打ち付け顔を俯かせたままままティアナは嗚咽と共に大粒の涙を流し続けていた。




◆ディヴィアヴォル

機動性特化型試作兵器の直系機に当たる試作型兵器。
鳥のような外観はそのままに各種性能や武装が大幅に向上している。
両翼代わりのシールドバインダー先端部分から形成するプラズマブレードや、脚部のカギ爪や口部先端の刺突部分による高速機動からの攻撃も可能。
更にシールドには防御用のエネルギーフィールド発生装置も装備されており、回避不能な咄嗟の攻撃にも対応可能としている。
試作機ながら総合的に高水準な機体だが、射撃兵装は一切持たないので遠距離戦には弱い。
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