狂気の科学者の妹は機械弄りが大好き   作:LR-8717-FA

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第9話:強さの理由、命の意味、弾丸を落とす星と

ホテル・アグスタでの機動六課の任務は特に大きな被害も無く無事に終了した。

ティアナを負傷させ、シグナムとヴィータが撃破した正体不明機については残骸を回収して詳しく検証する手筈となっている。

その後は新人含めて現場検証やら事後処理やらに追われ、ティアナについてもミスショットのことは上官であるなのはから指摘があり一先ずは解決。

ティアナはその後八つ当たり気味に突き放してしまったスバルにもきちんと謝罪をし特にわだかまりは残らなかった。

 

「強くなりたいって焦ることなんて若い魔導師にはよくあることだけどよ……それでもやっぱりティアナはちょっと度を越している」

 

が、そのアグスタでの任務終了の夕刻を境にまた新たに浮上した問題が1つ。

あのミス以来、ティアナは通常の訓練時間外でも自主練に励むことが多くなってきているということ。

六課赴任の時からティアナのそういった姿を見るのは別に珍しいことではなく、寧ろ真面目な努力家として好意的に映っていた程だったが、

それを踏まえても最近では目に見えて自主練の頻度が上がってきている。

今の所、通常の訓練や任務の際に支障も出ていないので表だって指摘もしてこなかったのだが、流石にこの状態がいつまでも続いたのではそれも怪しい。

そう踏んだヴィータの一声によって六課隊長メンバーたちが集まって話をしていた。

 

「ここに来る前何かあったのか? アイツがあそこまで強さにこだわる何かが」

 

目的も無く漠然と強さを求めるなんて人種もいないとは限らない。

が、ヴィータの目から見てティアナは、訓練の時やあのミスショットの時、そこに宿っていた気迫と自失は明らかに自分の中で譲れない何かを持った人間のソレだと感じていたのだ。

 

「うん……こういうことを軽々しく話しちゃいけないとは思っているんだけど、でも話しておかなくちゃいけないことだよね……それにヴィータちゃんたちにも関係していることだと思うし」

 

その理由を知り得ている人物の1人であるなのはは如何にも話しづらいという雰囲気の下で切り出す。

パネル操作の後に全員が見える位置に表示されたモニターに映し出されるのはある1人の男性魔導師のプロフィール。

種痘航空隊所属、ティーダ・ランスター一等空尉、ティアナの唯一の肉親だった人物だ。

 

「ティーダ一等空尉は執務官志望のエリートで、幼い時に両親を亡くされてからはずっと1人でティアナと一緒に過ごしてたの……」

「だけど、ティアナが10歳くらいの時に任務中……」

「……そうか」

 

言い淀むフェイトの顔を見ればシグナムとしてもそれだけで何があったのかを察することができる。

年端もいかない年齢の時に、親は愚か唯一一緒だった大切な家族すらも失ってしまう辛さはどれほどの物か。

この場にいる六課隊長各メンバーたちは程度や状況が違えどその辛さを知る者、そうなっていたかもしれない者が多いだけに、全員が悲痛な面持ちになる。

 

「ティーダ一等空尉が亡くなった時の任務……逃走中の違法魔導師を追っていった先に遭遇した敵部隊との交戦で殉職、違法魔導師は後続の部隊で取り押さえたんだけど」

「その時に戦っていたとされる敵、それが違法な質量兵器群だったんだけどそれが……」

 

フェイトの言葉を引き継ぎながらなのはのパネル操作によって更なる詳しい資料が表示されていく。

6年前の事件の詳細やら現場検証の様子やら、そして僅かに残されている敵データについての情報。

 

「ちょっと待てコイツは……」

 

と、その画像資料を目にした途端に目の色を変えながらヴィータが反応を示すのも無理は無いこと。

ただ1枚、かなり解像度も低くはっきりとはしないぼやけたものだがそこに映っているのは謎の鳥のような形をした違法兵器の姿。

そしてそれは、数日前のホテル・アグスタでの防衛任務でヴィータとシグナムが倒した正体不明機に非常に似通った物でもあった。

 

「ロングアーチの解析がまだ終わってないから確定的なことは言えないけど……それでもやっぱり、これは偶然なんかじゃないと思う」

「成る程な……私とヴィータが倒したアレとティーダ・ランスターと交戦したこの兵器が同じ製作者だとするのなら」

「………………」

 

ティアナにとってアレは肉親の仇にも等しい存在だった、口に出すことなく内心でそう思ったヴィータは拳を硬く握りしめる。

ミスショットの件も含め冷静さを欠いていたティアナがダメージを負ってしまったのは敵の性能を踏まえての本人の不注意によるところが大きい。

だが、現場の状況を最も詳しく知っているヴィータとしては、そんな理屈だけでは片付けられない感情的な何かでチクリと胸が痛み始めていた。

 

「そのこともそうなんだけど、その件について陸士部隊の上司のコメントで一時期ちょっと問題になったこともあったんだ……」

「上司のコメント……何言ったんだよソイツ?」

「…………単独で敵を追い詰めておきながらそれで死ぬなど、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態だとか……他にも、質量兵器如きに後れを取るなんて無能だとか……」

「……オイ、何だよそれは!」

「呆れ返るにも程がある、現場の意を全く汲み取れていない物言いだな」

 

多少の間を置いてから切り出したフェイトの語った内容を聞いてあからさまな怒りを見せるヴィータに肩を竦めてぽつりと呟くシグナム、他のメンバーもそのコメントに対する感想は大方同じものである。

6年前の時点ではその違法兵器の製作者が何者であったかというデータも不鮮明だったとはいえ、それでも易々と見過ごせるような物ではない、管理局員としてあまりにも節度に欠けたコメントだった。

 

「シグナムやヴィータが戦って感じたように、あの兵器を作っていたのがあのベルリネッタだとしたら、如何に航空隊のエリートだったとしても苦戦は免れない……」

「でもそんなこともわからなかっただろうし、何よりその時のティアナは10歳……たった1人の肉親の最期の任務をそんな風に言われて、きっと凄いショックだったんだと思う……」

 

なのはとフェイト両名によって語られていくティーダの殉死の原因とそれに連なるティアナの過去。

それは今のティアナの状態を説明するのに十分すぎるくらいの過酷で、それでいて悲しい物語。

 

「だからティアナは今でも追い続けてるんだと思う、お兄さんの……ティーダさんの魔法は役立たずなんかじゃない、違法な質量兵器相手だって負けない。それでお兄さんの夢だった執務官になるために……」

「………………」

 

全てを語り終えたなのはに続いて言葉を発することのできる者は誰もいない、その中でもヴィータは特に表情を俯かせてしまっている。

未だに確定事項ではないが、ガジェットドローンも数多の違法兵器もその全てはある1人の次元犯罪者、カティーナ・ベルリネッタによるものだと考えられている。

機動六課にとってその女科学者はジェイル・スカリエッティと並ぶレリック関連の事件の裏で糸を引いているとされる黒幕。

偶然か必然かはわからないが、その違法な質量兵器を生み出し続けている犯罪者を追うことを目的とした機動六課の一員となっているのがティアナだ。

彼女があそこまで必死になっているのは単に兄の無念を晴らす為だけでなく、ベルリネッタと違法兵器に対する感情もあってこそ。

 

「……アイツに、ちょっとキツく言い過ぎちまったかもしれねーな」

「アグスタでのミスのこと、でもヴィータちゃん、そのことは……」

「いや、無茶やって味方撃ちかけたことについては紛れもないアイツのミスだ、それを覆すつもりはねえ。ただ、それ以外のところでな……」

 

顔を俯かせたままヴィータはミスショットを間一髪で防いだこととそれに対するティアナへの叱責のことが鮮明に頭の中に浮かんでくる。

自分で言ったようにスバルに対するミスショットの件についてを覆すつもりは毛頭無い。

ただ、思い返してみれば内容はともかくとしてあの時のヴィータは少々感情的すぎた嫌いがあった故、不必要にティアナに怒鳴りすぎたとさえ思っていたくらいなのである。

その矢先に判明したのが今回のティアナを取り巻く過去の状況と、彼女が何のために強くなろうとしているのかというその原動力。

それはヴィータにとっても決して軽々しく無視できるようなものではないばかりか、

 

「……ティアナのこと、これからどうするんだなのは?」

「伝えるべきことはあの時にきちんと伝えたつもりだし、こればっかりはティアナの気持ち次第によるところもあるから……もちろん、その前にもっと無茶しようとてたら止めるのが教官としての責務だけど」

「そうか…………」

 

カティーナ・ベルリネッタという存在と彼女の手中にある数々の違法兵器群。

それによってヴィータも直面し、心に大きな傷として残っている8年前の悲劇の光景。

言ってしまえばヴィータはティアナと同じ敵を追って、同じ思いを抱えているに等しい。

そのことを考えるとヴィータはティアナに対する今の自分の想いがもやもやとして更に掻き乱されるのを感じていた。

 

 

…………その言い知れぬ不安とでも表現できるヴィータの感情、それが少し先の未来でよりわかりやすい形で現実となってしまうことをこの場にいる誰もは知る由も無い……

 

 

 

*

 

 

 

「お疲れ様ー、いやートーレがいてくれて良かったよー、実験コンセプト的にテスト相手としては適任だったからさー」

「構わん、お前の命令ならこちらとしても逆らう理由は無し、私も最近は待機が多くて体を動かす機会もあまり無かったからな」

 

相変わらずの堅物さんなトーレだけど、それでも今回に限っては大いに参考になったのも事実だから素直な称賛を述べるだけ。

アジトの一画を改造して作った私専用の実戦テスト用スペース、そこで今日テストを行っていたのは私の新作とトーレの2機。

より高度な性能を持った作品を試すとなるとその相手となるのもやはり相応の実力者であることが望ましい。

その点で言えば、兄さんの作品の中で戦闘能力最強とされているトーレは正に打ってつけといったところだ。

本人が言っているようにここ数日は兄さんも自分の研究で大忙し、戦闘機人が表だってのミッションもめっきり減っているので

あっちとしても助かっているというところなんだな、うん。

 

「とはいえ少々本気を出しただけで追いきれたのだ、現状はともかく本気を出した連中に通じるかは微妙な所だな」

「そこなんだよねえ、ディヴィアヴォルのデータを参照してるからかなり向上は出来たんだけど、その辺踏まえるともっともっと改良が必要だろうねー」

 

結果から言ってしまえば今回のテストはまずまずの結果を残している。

戦闘開始からそこそこ善戦してはいたが、トーレがISを発動して速度を高めた途端にあっという間に翻弄されるという形に。

機動力実験に関しては必然的に私たちの中で最も素早いトーレが基準になるわけなんだけど、まだまだそれには至らないらしい。

全く、初期のナンバーズだというのにこうも強力な個体を生み出せるとは兄さんの優秀さには頭が下がるばかりである。

まあこっちとしても諦める気は更々無いし、レリックの発見もあって性能の向上については殆ど見通しが立っている。

後はテストも含めた実戦を重ねていってより確実な詳細データを取りながら開発に反映していくだけだということ。

 

「……結果を見ればお前の方の敗北だというのに随分と嬉しそうだな、カティ?」

「え、そう? 私そんなににやけちゃってる?」

「ああ、研究に没頭している時のドクターと同じくらいにな」

 

それって相当じゃないかと思ったりもするが、どこか冷めた視線のトーレを見るにその通りなんだろう。

でもしょうがないじゃない、私今心の底から楽しんでるんだもの。

強敵を倒すためにひたすら自分の作品を磨き上げ続ける、しかもそれは根拠のない無駄な努力とは違う。

いずれ味わうための蹂躙の快感に向けての確実な前進、そのことを思えばテストで作品が敗北したくらい寧ろ喜ばしいくらいだ。

その敗北が次なる作品たちの糧となりより大きな力を生み出すんだから、そのことを思えばこれを楽しい以外にどう感じろというね。

 

「生まれた時からの付き合いだがつくづくお前の知能と思考には驚かされることが多い、本当にドクターの生き写しのようだとな」

「いやいやそんなご大層なもんじゃないって。実際兄さんの方が研究の腕前がよっぽど上なのはさっきのテストでもわかってることでしょトーレ?」

「そのことも事実なんだろうがそれでもだ。現にこの数年でお前の研究も飛躍的に発展している、いずれは私や妹たちをも超える作品も作れるのではないかと思っているのでな」

 

戦闘機人全員に共通している事項ではあるが、兄さんの妹ということだからか私に対してはやたら好意的だったりする。

いやまあ、無反応だったり罵倒されたりするくらいよりかは全然嬉しいからありがたいくらいなんだけどさ。

 

「それもまあ1つの目標ではあるよねー、でも相変わらずだよねえトーレは。付き合わせちゃってる方が言うのもおかしいけどもっと自分の感情に素直に生きるのもいいと思うけどなあ?」

「性分なのだ、元より私たちはドクターに生み出された戦闘兵器でしかない。あの方の命令に従い戦うのが私の全てだ」

 

つまるところ私に対する好意的な感情も刷り込まれたものでしかないと言っているような物だが、わかりきった事実だから別に不快に思ったりはしない。

トーレは私が生まれる5年位前から稼働を始めていて、その時からずっとドクターの傍らで戦いに明け暮れていたらしいし。

何せそれまでの上位の戦闘機人は秘書役のウーノに潜入専門のドゥーエの2人しかいなかったんだから、必然的に表立った荒事を担当することになったんだとか。

そういう過去も含めてトーレは色んな意味でサバサバした性格、自分を取り巻く環境その他諸々全てを割り切って行動しているだけ。

逆を言えば今回のテストに付き合ってくれたように小難しい理屈抜きで色々付き合ってくれちゃうってことでもあるからそれはそれで助かってるんだけどさ。

 

「んー、まあトーレにはわかんないと思うだろうけどさ、そうやってちゃんと生きる意味を与えられてるってだけでもそれはそれで幸福なことではあるのよ」

「本当にわからんことだなそれは。存在の理由を考えることに何か意味があるとでも言うのか?」

「もちのろんよ。世の中何の選択肢も与えられずにただ惰性的に生きて大して意味も無く死んでいくなんて人種は掃いて捨てる程いるんだもの、それを思えば戦闘機人っていう存在は救いに他ならないってね」

 

命は平等じゃないし生きる意味だの価値観だのっていうのは個々人によって大きく異なる物だ。

でもそういう括りで見ても確実に、生きるに値しない、存在する価値も無い、何の目的も無く生きているだけの命というのはあるものだとも思う。

そういった命を拾い集めて弄り、新しい意味を与えて再生させる。これってとっても素晴らしい事ではないのだろうかと。

そう思っているからこそ兄さんも戦闘機人の研究を嬉々として進めているのだし、実際に成果は挙がっている。

 

「潰すのも壊すのも人次第、誰がどうしようと流れは変わらない、だからやりたいようにやる、これ、再三言っていることだよねえ?」

「ああ全くその通りだ。そうやって言葉を重ねて煙に巻くはいいが、結局お前もドクターも本質は単純な物だということもな」

「大正解、トーレ、グーよグー」

 

言葉通りなのだから思わずガッツポーズでにっこり笑顔、でもトーレには明らかにウザがられている、ちょっとショック。

 

「ああそうそう、その話題で言えば例の機動六課にも貴方達のオリジナルとでも言うべき存在がいるものね」

「フェイト・テスタロッサ、ドクターが基礎を作り上げたプロジェクトFの生きた素体、だったか」

「うんうん、何の因果で管理局にいるかは知らないけどこういうのも巡り合わせってもんだよ」

 

兄さんにとっても現状の実験対象として最上位に位置しているだろう存在が機動六課の隊長の1人、フェイト・テスタロッサ。

運命、なんてこれまた高尚なお名前であるが、ある種トーレ達戦闘機人どころか私にとっても祖となる存在と言えなくもないし興味が無いと言えば嘘になる。

人造魔導師の先駆け、PT事件の首謀者の1人、優秀な戦力確保を優先する管理局の思惑等々、あの娘も云わばタブーの塊みたいなもんだ。

チェロクアタイプをなのはちゃんと共にリミッター付きで容易く破壊してみせたその実力も合わせて興味は尽きない。

 

「自覚あるのか無いのかは知らないけどあの娘も結局は母親と同じことしてるんだしねー、それを突きつけたらどんな反応返してくれるか……くふふふ」

「また悪趣味なことを考えているのかお前は?」

 

トーレにまたしても呆れられちゃうけどこれも私の『性分』なんだから仕方ない。

資質があるなら年齢問わずして戦力に迎えられるなんてことは管理局では常識中の常識。

これについてあれこれ文句を言うような連中もいるらしいけど、ちゃんちゃらおかしいよねとも思う。

まあそれは置いておくにしてもフェイト・テスタロッサの場合は少々事情が異なる。

もう1人のFの遺児であるエリオ・モンディアルと里の追放者であるキャロ・ル・ルシエの保護者をやっているその理由。

私の想像通りに事が運べば行く行くはとても愉快で面白い物が見られるかもしれないと……ああ、考えるだけでゾクゾクしてくるわね……

 

「それに備えての戦力と最高傑作到達に必要な物でもあるしねこれも……というわけで改良したガラクタ合わせて近い内にまた前線に出してみましょうか」

 

とまあ、そんなこんなで色々と思考を巡らせながらとりあえずのスケジュールとして

テストルームに待機させている新作兵器――――白い人型のソレを視界に映しながら、次なるステップへ進むための工程を進めることにした。

 

 

 

*

 

 

 

六課隊長人たちによるティアナの過去と現在を取り巻く状況についての話し合いから更に数日。

結局、ティアナの過度な自主練については特に言及されることも無く、その後は彼女のことを気遣ったスバルもまた同じように自主練に付き合っていた。

そのことで危惧されていた通常の任務や訓練に対する支障も特に生じていなかった上、

スバルも自主練に参加するようになってからはなのはの目から見ても、ティアナの焦りの感情がだいぶ和らいでいたように見えたのでこれなら大乗初心だろうと判断していた。

ただ、対照的にというか本当に些細な変化ではあったが、逆にヴィータの様子が少々おかしかったこともあったが、

周りに気付かれないような些細なレベルでしかなかったのでそのことについても話題に挙がることはなく、

 

「それじゃあこれまでのまとめとして、2on1で模擬選をやろうか。まずはスターズから」

「「はい!!」」

 

いつもの通り廃墟の市街地を模した訓練空間においてなのはが切り出したこと。

定期的に行われる新人対隊長による訓練の総まとめとして行われる模擬戦開始の合図だった。

それを聞いたスバルとティアナはその顔に宿す決意を更に強い物へと変え、それを見てなのはもまた笑顔で頷いて答えて見せていた。

エリオとキャロがヴィータに連れられて見学スペースへと移動するのとほぼ同時にスバルとティアナがバリアジャケットの展開を完了させる。

 

「それじゃあ……やるわよ、スバル!!」

「うん!!」

 

アグスタでの屈辱から続けてきた、途中からは相棒も加わってくれた自分の訓練の集大成。

それを上官であるなのはに見せるチャンスが巡ってきたとなればティアナもスバルもいつも以上に気合が入って当然。

そんな2人の心意気を理解してなのか、なのはも普段よりもレイジングハートを握る手の力が自然と強まっていた。

 

「ごめん、遅くなっちゃって、模擬戦もう始まっちゃってる?」

「大丈夫、今はスターズの番だ」

 

と、模擬戦の開始とほぼ同時にフェイトが息を切らせながらヴィータ達のいる見学スペースへとやってくる。

フェイトは執務官としての仕事もある関係上、六課隊長陣の中では一際多忙故に訓練に参加する時間も必然的に少なくなってしまう。

だが、今日の模擬戦は自分の教え子たちの成長の度合いを測るための大切な日だったので何とか間に合わせてやってきたのである。

 

「本当はスターズの模擬戦も私が引き受けよう、なんて考えてたんだけどね」

「あまり無理すんなよフェイト、なのはもお前も仕事の密度がキツキツなのはそう変わらねえんだからな」

 

ヴィータの言う通りなのはもまた六課内ではかなり濃い密度で仕事を行っている。

基本的に空いている時間は全て新人たちの教育に時間を割いており、訓練外でもモニターと只管にらめっこして新人たちの成長度合いに合わせた訓練メニューを考えたりと大忙しなのだ。

当然、訓練中でも厳しいながらも的確な指示と細かい気配りを忘れない、そういった姿勢は見学中のエリオとキャロも慕っている部分。

もちろん、同じスターズ分隊でもあるヴィータはそういったなのはの頑張りやその根底にある新人たちへの思惑を理解しているし、それが新人たちが強く成長していくのに大切なことだと考えている。

実際なのはが嬉しそうに報告していたようにティアナもある日を境にして焦りを表に出さなくなっていたし、とりあえずは順調に全てが回っている筈なのだと。

 

「………………」

「ヴィータ副隊長、どうかしたんですか?」

「……いや、何でもねえ、気にするな」

 

だというのにヴィータは今日の訓練が始まってからどうにも言いようのない胸騒ぎが収まらずにいた。

この模擬戦が始まってから更に強まってきており、その変化をエリオに気付かれるほどになっている。

 

「クロスファイヤー……シューーートッ!!」

 

と、そんなヴィータの思惑とは関係無しになのは対スバル、ティアナのコンビによる模擬戦は激しさを増していく。

地上から上空に向かってティアナの放つ弾丸の嵐、そこからスバルが追撃するお得意のクロスシフト。

 

「……? 心なしかいつもよりキレが悪いような……コントロールはいつも通りだけど」

 

その光景を見てフェイトが疑問を挟むのは今し方発射されたティアナの魔力弾による攻撃への違和感。

まだ六課設立からそれほど日が経ってはいないが、それでも同じ場所でずっと共に訓練をしていたからこそ気付くこと。

ティアナの弾丸の一つ一つを細かくみるとどうにも普段よりも精度が僅かに劣っているようなそんな気がしてならない。

 

「…………!!」

 

当然、眼前でそれを受けているなのはがその違和感に気付かない筈も無い。

しかしそのことにばかり気を取られている余裕などない、後方から迫る魔力弾を振り切りながら思考するのは相手の次の一手。

なのはの読み通り、彼女の眼前にはスバルが展開したウイングロードによる道が伸びてきている。

そこを迎撃するためになのはは自身の周辺に誘導弾を展開、この軌道ならまず避けきれないだろうし回避を選択すると踏んでいた。

 

 

「いや……フェイクじゃない……!! まさかそのまま突っ込んでくる気?」

「うりゃああああああああ!!!!」

 

が、なのはの読みとは違い、スバルは防壁を展開しながらそのまま勢いよく突撃してくる。

なのはの放った誘導弾が数発掠めていきそのダメージに顔を歪めるも、止まることなくスバルはその拳をなのはに向けて叩きつける。

 

「くう……!! うわあああああああ!!」

 

なのはもなのはですぐさまプロテクションを発動、スバルの渾身の一撃を正面から防ぎ切る。

そのままスバルを跳ね飛ばして上空へと舞いあがらせるも寸での所でスバルはウイングロードの上で踏みとどまる。

 

「ダメだよスバル!! そんな危ない軌道で攻撃してきちゃ!!」

「す、すみません、でもちゃんと防ぎますから!!」

 

意表を突くという意味では有効な攻撃手段だったかもしれないが、それでも今のスバルの実力からすればリスクが高すぎる。

そういった意味を込めた上でなのははそこを指摘するも、スバルは今の攻撃には自信があったのだろうか。

普段とはどうも違うスバルの態度になのはも僅かばかり表情が不満で曇っていく。

だが模擬戦はまだまだ続いている、次いで飛んでくるティアナの誘導弾をかわしながら次の一手を撃とうとするが、

 

「……? 砲撃、ティアナがどうして?」

 

なのはが察知したのは自分がいる場所とはやや離れた場所のビルの屋上でクロスミラージュを構えているティアナの姿。

眼前に展開された魔法陣と収束されている魔力量とその質からすぐに砲撃魔法を放とうとしていることを察知する。

だが、自分が訓練で教えた限りではこんな場面で砲撃を撃つなんてことは想定していない、ティアナらしくないやり方だった。

先のスバルの行動も合わせてなのはの中での不満が更に蓄積されていく。

 

(クロスシフトC……特訓の成果、見せてやるわよスバル!!)

(おうっ!!)

 

それでもティアナは止まることなく、相棒と共にずっと練習してきた新たな戦術を披露すべく行動を開始。

スバルが再びデバイスを唸らせ、ウイングロードを駆けながらなのはに向かって再度の突撃を敢行。

先程と同じように数発の魔力弾によってなのはが迎撃を行うも、直前の宣言通りスバルはそれを全てかわしきってみせる。

だがそれでも単純な直線軌道の攻撃にやられるほど高町なのはという相手は甘くは無い。

再びなのはの形成したプロテクションによってスバルの攻撃はいとも簡単に防がれることになる。

その間にもなのはは自分を狙っているであろうティアナへの警戒を少しも怠らなかったのだが。

 

(!!……消えた……幻影魔法!?)

 

見学しているヴィータ達も同じように驚愕した物、ビルの屋上で砲撃体勢に入っていたティアナの姿が一瞬にして掻き消えてしまう。

元よりティアナは幻影魔法の扱いに関しても一目置かれており、その技能を活かしてのフェイクなのだろう。

では本物のティアナは一体どこで何を狙っているというのか。

 

「あ、あそこっ!!」

 

その疑問に答える様に声を上げたキャロの視線の先にあった者、スバルの展開したウイングロードを駆け上がっていくティアナの姿。

その途中でクロスミラージュのカートリッジロードを行いがら先端に魔力によるダガーを形成。

 

「一撃必中、でりゃあああああああ!!!!」

 

貫通力を高めたダガーによるバリアをも破る後方からの一撃、これが決まれば自分たちの勝ち。

なのはのに狙いを定めて咆哮と共にティアナは一直線に降下していく。

 

 

 

「…………レイジングハート、モードリリース」

 

その瞬間なのはの中の何かが『キレた』

普段の姿からはまるで想像もできないような底冷えする声と共に行われたモードリリースによる爆発。

そしてその爆煙の晴れた先に広がっていた光景は、

 

「おかしいな……2人とも、どうしちゃったのかな……」

 

左腕でスバルのナックルを受け止め、鮮血の流れ落ちる右手でティアナの渾身の一撃だったダガーの刃部分を素手で受け止めているなのはの姿。

そこに纏う雰囲気は時には厳しく時には優しく教え子たちを導く教官とは程遠い、冷徹の一言以外に表現のしようが無いもの。

 

「練習の時だけ言うこと聞いてるフリで……本番ではこんな無茶をする……これじゃ練習の意味、無いじゃない」

「あ、あの……その……」

 

自分の教えてきたこととはかけ離れたリスクの高い手段の数々。

その行動の果てにキレてしまった今のなのはの姿はスバルにとっても恐怖でしかない。

未だにティアナのクロスミラージュのダガーを離さず血を流し続ける右手も合わせてスバルは怯え竦むばかりである。

 

「ねえ……私の言っていることや訓練……そんなに、間違ってるかな」

「ッ……!! 私はッッ!!」

 

ティアナはそんな恐怖を振り切るようになのはから距離を取る形で後方へと飛び下がり着地。

ウイングロードの上でクロスミラージュのカートリッジを更にロードして魔力を上昇。

 

「私はもう!! 誰も傷つけたくないから!! 無くしたくないから……!! だからッ!! 強くなりたいんですッッ!!」

 

悲痛としか表現の仕様の無い叫びと共に吐き出されるのはティアナの奥底にある感情の全て。

兄を亡くし、その死を侮蔑され、汚名を殺ぎ夢を叶えるためになった管理局員。

多くの才能ある上官や仲間たちと囲まれる中で任務や訓練に励んできた機動六課。

致命的なミスショットと叱責、兄の仇相手に何もできなかった屈辱、そこから始まる相棒との自主練の積み重ね。

その結果を示すための今日という日の今がこの有様、もうティアナに残されているのは自分を支える意地だけ。

今更引き下がる事なんてできない、どんなことをしたって前に進むしかない、そんなティアナの想いの全てが集約されていた。

 

「…………少し、頭冷やそうか?」

 

だが、ティアナの叫びも虚しくなのはが次なる行動として取ったのは魔力弾の形成。

冷徹な表情の下で桜色の魔法陣が展開され、なのはの眼前で数個の魔力弾が回転していく。

 

「うわああああああ!! ファントムブレ――――」

「クロスファイア、シュート」

 

何の躊躇も無く敢えて見せつける様に放たれたティアナの得意とする、しかし威力も制度も桁違いのその魔法。

その魔力弾は残された意地と共に攻撃に移ろうとしていたティアナに全て直撃した。

 

「ティアッ―――!? バインド……!!」

「スバル……じっとして、よく見てなさい……」

「!!!――――待って!! なのはさんッッ!!!!」

 

その爆煙が晴れた先にいたのはあからさまに満身創痍、ボロボロになって虚ろな表情で立ち竦むティアナの姿だ。

たまらず駆け寄ろうとしたスバルを拘束するのはなのはによって行使されたバインド。

もうティアナに戦う余力なんて一欠片たりとも残されていないのは明白な中、なのはによって告げられる絶望的な宣告。

再びなのはの眼前で魔力弾が高速回転、スバルができることはただ叫ぶだけ、それでもなのはは止まらない。

 

 

 

ドォオオオオオン!!!!

 

 

 

「ティアアアアアアアア!!!!」

 

再び放たれるなのはの一撃、それが再びティアナへと向かって放たれ爆発。

その先に映っているだろう相棒の姿を想像してスバルは拘束されたままあらん限りの声で叫ぶ。

そしてその爆煙が再び晴れた先にいたのは

 

「………………」

「…………えっ……ヴィータ……副、隊長」

「なっ…………な、んで……ヴィータちゃん……?」

 

なのはにもスバルにも、意識を失いかけで喋る事すら敵わないティアナにも見えたその小さな背中。

騎士甲冑を纏い、アイゼンを片手にティアナを庇うように無言で立っているヴィータの姿だった。

眼前の光景に釘付けになっていたフェイト、エリオ、キャロの3人にもわからなかったほどの早業。

 

「……模擬戦は終了だ、スバル、ティアナを医務室に連れて行ってやれ」

「あ、あの……で、でも………」

「早くしろ……聞こえねーのか」

「ッ!?」

 

そしてヴィータの纏う空気も普段とはあまりにもかけ離れた物。

それはなのはにとっても久しく感じなかった圧倒的な威圧感と息苦しさ。

その戸惑いでバインド解除されていたことも、スバルが何も言わずにティアナを抱えて離脱していくのを止めることも出来ない程だった。

ヴィータはそんななのはの気持ちもお構いなしにゆっくりと近寄っていく。

 

「ヴィ、ヴィータちゃん……どうして、こんな」

 

 

 

パァン!!!!

 

 

 

ようやく声を振り絞ったなのはに対する返答は静寂に包まれた訓練スペース一面に響き渡るような音。

左頬に痛みを感じるなのはの目の前にいるのは怒りに満ちた表情で右手を掲げていたヴィータの姿。

 

「……あいつらがバカやったのは間違いねえ……けどな、あそこまでアイツらを追いこんじまったのはあたしらだろ……何が教官だ……教えるにしたって他にやり方があったろうが……!!」

 

そこから発せられるヴィータの声も、普段の快活な怒鳴り声でなく静かな怒りに打ち震えている。

左頬への平手打ちも合わせてなのはも、その様子を離れた場所で見守っているフェイト達も何も行動することができない。

 

「…………もうこれ以上……あたしの前であんなのを……見せないでくれよ……」

「ヴィータ……ちゃん……」

 

だがヴィータの怒りの声に混じっているのは嗚咽と頬を伝う一筋の涙。

自分の目の前で想いを吐露するヴィータになのはが何も言葉を返せないまま、スターズの模擬戦は終了したのだった。




書いてて切実に思った、主人公誰だっけと。
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