Re:戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ 作:絆蛙
テレビでニュースを見た未来はすぐに両親を説得し、両親も同じ気持ちだったのか叔母の要件を終えた後に車で戻ってきていた。
今は『
そして胸の中で高鳴る心臓の響きと同じくらいの速度で、早歩きで少しの間歩いていた。
すると手術室の目の前まで来ると、その近くには響の両親たちが居る。
その姿を確認した瞬間、未来は我慢できなくなった。
「響は、響は無事なんですか!?」
病院だと言うのに、思わず大きな声で聞く。
迷惑だとか非常識だとか考えてる余裕なんてあるわけがない。
「あ……未来ちゃん。それがまだ……」
未来の姿に気づいたようで、響の父親――洸が未来を気遣ってか、不安そうな表情を隠すように言っていた。
「そう、ですか……」
そのことに、未来は不安な気持ちが胸に広がる。
「……あれ?」
そして、
そこには何も無い。しかし何かが足りない気がして――すぐに気づく。
それはいつも無表情で無愛想にしてるが、本当は他人を気遣える優しい人物。
未来や響を何度も助けてくれた幼馴染で
「あ、あの――」
それに気づいた未来、自分自身よりも早くにこの場にいた響の両親に聞こうと口を開こうとした。
「ッ!?」
その時。
手術室のライトが消えたと思ったら少しして扉が開く。そこから一人の医者と思われる人が出てくる。
「ど、どうだったんですか!? 響は、響は無事なんですよね!?」
洸がこの場の誰よりも早く反応して近づき、遅れて未来たちも反応して医者の人を見た。
未来はアルトのことでさらに不安になりつつも開こうとした口を閉じ、今は響のことについて聞くことに集中することにしていた。
そして胸の鼓動がさらに五月蝿くなるのを感じ取っていた。
それは不安で仕方がないからだろう。
未来に出来るのは無事であることを祈るだけなのだから。
「焦る気持ちは分かりますが、落ち着いてください。まず、これだけは言っておきます。立花響さんの手術は無事終えました」
「本当ですか!? 良かった……」
その言葉を聞いた途端、不安だった気持ちが少し晴れ、この場の全員がほっと息を吐く。
思ったことも同じだったのか、先程の表情から一転して響の両親もほっとした表情となった。
この場の誰もが安心しただろう。
「もちろん、油断は許されない状況ではありますので、このまま経過を見ていきます」
「そうですか……。どうか、どうか響をよろしくお願いします……!」
その言葉に先程よりは安心出来たものの、表情がより引き締まる。
「はい。ですが、目覚めるのには時間を要すると思います」
「でも、命に別状はないんですよね?」
「えぇ」
洸が聞いた言葉に、医者の人が頷く。
「今はそれだけでも良いです。響ならきっと大丈夫ですから……」
それはきっと、響の父親だから言えた言葉なのかもしれない。
それでも未来もそう信じるしかない。
――いつも無茶をする響なのだからきっと、今回も私たちの元に、と。
「……そうですか。それと実はもう一つお話があります。それは立花響さんと一緒に運ばれてきた子なのですが……その子の方が不味い状況となっているんです」
「……え?」
その言葉に、未来は物凄く
なぜなら響と一緒に運ばれてきた子となれば、誰かなんて考えるまでもなく。
「彼のご両親は何処か分かりますか? 話さなければならないでしょう」
「それが……彼には両親は居ないんです……。なので俺でよければ聞きますが……」
「そうでしたか……。分かりました。なら代わりに話しておきます。こちらの方に――」
「ま、待ってください……!」
頭が真っ白になりそうになりながらも、未来は首を振って先々と進んでいく話を遮るように慌てて割って入っていた。
「貴女は……?」
「私は響の幼馴染で友達です……。恐らく、その子も……」
不安がまた広がる。
こんなこと考えるのはダメだと分かってても、叶うなら別の人であることを願ってしまう。
最低だと、未来は自己嫌悪した。
「そうでしたか……。でも、子供に聞かせる内容では……」
「お願いします。この子も同席させてあげてください」
医者が未来を見て悩む素振りを見せたが洸が頭を下げてお願いしていた。
最もだ。未来はまだ中学生で大人でもなければ親族でもない。
話せることでもなければ、気分がいい話ではないだろう。
「お願いします……! 私は平気ですから……!」
それでも気になる上、知らないより知りたいと未来は洸に習うように頭を下げてお願いしていた。
「……分かりました。ですが、覚悟はしておいて下さい」
「はい……それで、その子の名前って……アルくん、『アルト』って名前の男の子……ですか?」
ほんの少し悩んだ後にそう言われたため、頷いた未来は早速本題へと入る。
手が震えているのを未来は自覚する。
手だけじゃない。きっと顔にも出てるし口も震えている。
それでも。
「はい。彼を運んできた女性が『アルト』と名前を呼んでいたので、間違いないでしょう」
「そう……ですか……」
――認めたくなかった。きっと彼なら、なんだかんだでひょっこりと現れる可能性もあったと思ってたから。
しかし洸の言葉で薄々とアルトだということは分かっていた未来もどこかにいた。
可能なら外れて欲しいと、ただ願ってたから。
それにアルトと響の両親は面識もある上、響の両親も何処かアルトを自分の子供ように歓迎していた。
アルトに両親が居ないのを知ってもなお、だ。
もしかしたら娘である響がいつも迷惑をかけていたのもあるかもしれないが。
「それで、彼の容態なのですが……」
その言葉に、来た、と未来は心の中で呟いて願う。
どうか、無事でありますように……と。
「……見てもらったほうが早いかも知れません。こちらに」
その言葉に思わず顔を見合わせたが、案内してくれる医者に未来たちはついて行く。
その間にも、あのライブの被災にあった人達なのか、治療されている姿やベッドに寝込んでいる姿も見える。
そして暫く歩いた後には、部屋の一番奥に付いた時に医者が立ち止まり、未来を見つめた。
「今からお見せしますが、大声を出すのは控えてください」
医者の言葉に、未来たちが頷いたのを確認したからかドアが開かれ、中に入る。
そこには――。
ベッドに仰向けに眠らされていて、見た感じではほとんど全身に包帯が巻かれているアルトくんの姿があった。
それこそ、髪と顔以外巻かれており、顔には湿布やら絆創膏などの最低限としか貼られていなくて、額にはぐるぐると包帯が巻かれている。
病衣のせいで中は分からないが、少なくとも足と腕には巻かれていて、さらに人工呼吸器や栄養剤を注入する物だと思われるチューブや血液パックなど様々な物や、首にはギブスが巻かれていたり、目を閉じているその姿は、まるで死人のようで――
「未来ちゃん……?」
その姿を見た未来は足元が真っ暗になったかのように錯覚して、座り込んでしまった。
「……まず、運ばれた時には彼の肉体は既に
何処か辛そうな面持ちで、医者がそう告げる。
目の前にいる医者もきっと多くの人を見てきたはずだろう。
とても新人が担当出来ることではないのは明白。
それでも何度見たって心を痛めてるのかもしれない。
「さらに過剰な出血をしていましたが、それよりも彼の肉体はそれこそ、『人間のリミッター』の解放……いえ、
「ということは……」
「えぇ。一番の問題はそこではありません。頭を何度か強くぶつけてしまったのが原因なのか、意識が回復する様子もなく、昏睡状態となっています。もしかしたら、このまま永遠と目覚めることも無く……植物状態のまま過ごすことになる可能性すら有り得ます」
「なっ……!? 彼が、助かる可能性は……?」
話の内容が頭に入ってくる度に、未来は頭の中が真っ白になって何も考えられなくなっていくのを感じていた。
ただ考えられるのはその不運について。
――なんで……なんでアルくんと響がそんな目に合わなくちゃ行けなかったの? 二人は何もしてない……ううん、それこそ何人も、何人もたくさんの人を助けて、たくさんの人を
いったい、二人が何をしたと言うの?なんでそんな目にあったの?どうしてこんなことになったの……?
……分かってる。本当は、原因は私。だって私がライブに誘わなければこんなことになることはなかった。いくらノイズが出るなんて予想出来なかったと言われても、結局それは可能性の話。結果として二人が危険な目に合ったのは私のせい……。
未来がそんな自己嫌悪と後悔に苛まれていても、状況は変わることは無い。
「私も一人の医者です。出来るなら助かって欲しいと願っていますが……可能性としては、とてつもなく低いと思います。それこそ、二、三割もあるかどうか……。それに、意識が戻ってきても何処かしら身体機能に異常を来たしてしまう可能性すら有り得るでしょう。もちろん最善を尽くしましたが、ここまでの治療となると現在の医療技術では不可能なんです……もし助かる可能性があるとすれば、それこそ
返ってきた言葉は、希望を塗り潰すかのような残酷な言葉。医者も辛そうに言っていたため、本当に最善を尽くしたのだろうと分かるだろう。
だが未来は聞こえてくる度に胸の中で絶望が広がっていく。
「そんな……どうにも出来ないということですか……?」
「残念ながら。眠ってる間に医療が発達すればまた違うと思いますが……あまり期待出来るものではありません。でも、これだけは言わせてください。私も聞いた話なのでどうかは分かりませんが……例えどの結果になろうが彼は……
「えっ? どういう、こと……ですか?」
「さっきも言いましたが、これは聞いた話です。なんでも彼は、最後の最後まで彼女、立花響さんを守ってたらしいんです。彼を連れてきた女性が言うには天井が崩れて瓦礫に閉じ込められていたのに、発見した時には彼女を抱きしめて瓦礫から守っていた……と」
「あ……」
その言葉を聞いて、未来は気づいた。
あの地獄とも言えたであろう場所でも彼は、アルトは自分たちの『
また、守ってくれたのだろうと。
「なら、響が無事だったのって……?」
洸が驚いたような、罪悪感のような感情が混じったような表情で聞いていた。
「彼が守ったからこそ、これ以上の悪化がなかったのだと思います。もしかしたらそれが無ければ手遅れになってたかもしれません。……彼は本当に、凄い人間だと私は一人の人間として言わせてもらいます」
「っ……あの……アルくんと二人っきりにして貰っても……いいですか?」
その言葉を聞いた未来は、堪えそうにない感情を必死に抑え込みながらこの場の人たちに頭を下げていた。
「未来ちゃん……」
「……今はそうした方がいいでしょう。それにちょうど話したいこともありますから。ですが、もし彼の容態が悪くなったりしたならば、すぐに呼んでください」
「……はい。ありがとう、ございます……」
未来の気持ちを含んでくれたのか、医者がそう言ってくれ、感謝の意味も込めて頭を下げたまま未来は全員を見送った。
そして扉が閉まると、この場に居るのは目を閉じたまま寝たっきりのアルトと未来のみだ。
「……アルくん」
未来はアルトに近づき、置いてあった椅子を近くに置いて座る。
「また、響を助けてくれたんだよね……? お陰で響、命に別状はないんだって。目覚めるって言ってたよ」
包帯で肌の見えない右手に未来はそっと触れる。
感じたのは柔らかい感触ではなく、ゴツゴツとした男の子の手。
未来自身や響とは違う、手。
「大丈夫……だよね? 戻ってきてくれるよね……?」
そんなことを言っても、当然何かが返ってくるわけでもなく、沈黙が訪れる。
「……っ」
――苦しい。
胸が締め付けられるように苦しくなる。現実を受け止めたくなくとも、受け止めないと行けない。
「……ごめんね。私のせいで……」
言っても、何も返ってくるわけじゃないと分かっていた。
それでも自然と口に出していた。
もし目覚めていたとしても、アルトは未来のせいじゃなくて、興味無さそうに自分のせいだと言うだろう。
その姿は未来にだって容易に思い浮かぶ。
だからか、考えたくないのに、最悪の展開さえ考えてしまう。
――もし、このまま目が覚めなかったら。もし、このまま彼がいなくなってしまったら、と。
今の胸の気持ちを素直に明かすなら、それはきっと――。
「会いたい……また、話したい」
そう口にした瞬間。
未来は自分自身の手に
「ぁ――」
思わず頬に触れてみると、それは
「止まっ……らない……」
何度拭いても、涙は流れてくる。
その度に未来の頭の中にはアルトの姿が浮かんできた。
アルトの無愛想な姿。他人を気遣う姿。自分では優しくないと言うが、本当は優しい姿。手伝ったり、助けてくれる姿。不器用でありなから誰かを笑顔にする姿。様々な姿が未来の胸の中を締める。
なにより。
未来の作った弁当を食べる姿や、未来たちのためにわざわざ行動してくれて、未来たちと話す姿。時々、とても優しい雰囲気や暖かい雰囲気を醸し出してたり、遊びに行ったり買い物に連れていこうとしたら行きたくないって言っても、なんだかんだで最後まで付き合ってくれる。
そんなアルトが、アルトの姿がどんなものよりも好きで、愛おしくて、今までの思い出が全部振り返してきていた。
その時、ようやく未来は自分の中にあった感情が理解出来たような気がした。
――ああ、そっか。
「そう、だったんだ……」
思えば、
――どうして今まで気づかなかったんだろう。どうして、今だったんだろう。なんで、今気づいちゃったんだろう……。なんで、喪いそうになってからなんだろう……。
大切なものは失ってから気づく。
ありたきりな言葉だけれど、こうして実感する日が来るなんて生きてて数十年、一度も思うことはなかった。
「わたしの…バカ」
いつも分かりにくくて、ぶっきらぼうだけど優しくて、無表情。普段は頭が良いのに、時々抜けてるところがある。
でも興味が無さそうにしていても、誰かを助ける時には自分のことを考えずに、数に入れてない行動で助ける……そんな部分だけは心配。だけど、私はそんな
そう、こんな時に。
不謹慎だと理解していても、未来は今更自分の気持ちに気づいてしまった。
それはもしかしたら、初めて会った時かもしれない。一目惚れだったかとしれない。
もしかしたら仲良くなってしばらくした時なのかもしれない。
もしかしたら、相談した時や出掛けたり、お泊まりした時なのかもしれない。
だが未来も、響もアルトが傍に居ることが当たり前の日常になっていて、このままずっと一緒に居るんだろう、とずっと思っていた。
普通はこんなことになるなんて、誰も想像出来ないのだから。
きっと高校生になってもアルトは未来たちが願ったらなんだかんだで一緒に来てくれるだろう、と。
――私のこの思いはきっと、いつかの
それでも、今気づいてしまった私には抑えれそうになくて――
「ぅ――ぁぁああああああああぁぁ……!!」
気がついたら未来は今日聞いた響とアルトのことを改めて実感してしまい、抑えていた感情を抑えれなくなり、アルトの傍で声を出しながら泣いていた。
それを慰める者は、彼女にとって宝物であった幼馴染たちは、もういない。