Re:戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ   作:絆蛙

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第11話 喫茶店のマスター?

 

 

あれから……あのライブの惨劇から二ヶ月と少し経った。

何日も過ぎてるというのに未だにアルトと響は目覚めない。

それでも未来は通い続けるしかなかった。それしか出来ることがないからだ。

 

未来はいつも通り書類を提出して、受付の人と少し話した後に目的の場所へ歩く。

かなり歩くと、奥の方にある一人部屋の目の前に着いた。

扉の前で胸に手を当てながら一度深呼吸し、扉を潜る。

 

「また来たよ、アルくん」

 

以前とは違って、すっかり包帯の数も減り、今はもう左肩からかけて左腕まで包帯で覆われてるのと、右脚と額だけになってるアルトの姿がそこにある。

担当医曰く肉体は順調に回復してるらしく、意識だけが()()()()()ように目覚めないと言うことを未来は聞いていた。

それでもまだ安全とは言えず、危険なことに変わりがないとのことも。

そうだったとしても肉体だけでも治ってきてることに未来は少し安心していた。

 

そして彼女はこれもまたいつも通り、椅子をアルトの近くに置いて座り、アルトの手を握って話し始める。

 

「今日はね、響のこと聞いてきたんだ。それでね、響は順調に回復してるからもうすぐで目覚めるんじゃないかって言ってたよ。アルくんのお陰でもあるんだから……」

 

きゅっと優しくアルトの手を握りながら、未来は目を閉じたままの彼の姿を見つめる。

体温は感じられない。

死人のように冷たい。

力も入っていない。

もはや生きてるのかすら不安になって来るレベル。

だからこそ未来は自分の熱で少しでも分け与えられたら、と強く握った。

 

「アルくんも目を覚ましてね……? 二人が起きたら、また何処かに行ったり一緒に食べたり話したり……たくさんしたいことあるんだ。他にも、星を見たりとか。それにアルくんの世話、これからは私がするから……」

 

当然そんなこと言ったって何か返事が返ってくることはない。

それでも、何かは伝えたかった。

正直、今のアルトの姿を見てるだけで未来は胸が裂かれるほどに痛みを感じる。

それはきっと、気づいてなかった気持ちに気づいたからこそ、よりアルトの姿を見ると痛むのだろう、と推測していた。

 

未だに罪悪感もあるし、後悔だってたくさんしている。

申し訳なさで一杯だ。それでも、未来はその罪を受け入れて進むしか無かった。

いつかアルトの声が前みたいに聞けるように。

いつかまたアルトと共に過ごすために。

そのためなら未来はまだ頑張れるのだ。

 

何より未来は響とアルトが目覚めた時に謝りたいと願っていた。

仮に目覚めたとして、二人は未来のせいじゃないと言うだろう。

長年一緒に居た未来には分かる。

それでも謝りたいと思っているのだ。

自己満足だと言われようが思われようが、未来にとって二人はとっても大切で、かけがえのない存在だから。

だからそれまで――

 

「一人でも頑張るよ……私。アルくんが()()してくれたから。それに、()()()二人が言ってくれたから……戻ってくるまで頑張るね」

 

それだけ言うと、無言となって居続ける。

時間が無くなるまで傍に居続け、時間になると未来は名残惜しそうに手を離して椅子を元の場所に動かした。

 

「またね。アルくん……ずっと待ってる」

 

そして扉から出る前に一度だけ見つめ、すぐに帰り道を歩く。

閉まった扉の中。

アルトが目覚めることは、やはりない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてまた、二週間が経った。

 

「いらっしゃ――って未来ちゃん?」

「こんばんは。()()さん」

 

未来は前まで二人と一緒によく来ていたお店に通っていた。

特にアルトがこの店を贔屓にしており、アルトが家に居ない場合何処にいるかと言われると、だいたいこの店である。

今彼女が挨拶した人はこのお店のマスターで、本名は『石動(いするぎ)惣一(そういち)』という名前の()()()()男性だ。

来る度に話していた人というのもあり、客とマスターの割には仲は良いだろう。

なにより惣一がアルトのことを気に入っていて、アルトも何処か気に入ってるようには見えるくらいに二人の中には関係性が出来上がっていたのを傍から見て未来は知っていた。

 

「……今日もまだ?」

「はい……まだ、響とアルくんの意識は目覚めないらしいです……」

「……そうか。本当は俺も見に行きたいんだけど」

「あはは……仕方がないですよ」

 

残念そうな、それでいて悔しそうに複雑な表情で言う惣一に苦笑いしながら未来は答える。

店を任せる相手がいない以上、店を閉められない惣一には向かうことが出来ない。

 

ちなみにだが、ニュースになってるのもあるが惣一もアルトや響がライブの被害に遭ったということを知っている。

といっても、最初は情報が規制されていたのか一気には流れてなかったため、未来の心が晴れずに暗いままお店に来た時に事情説明しただけではあるが。

 

「それにしても、アルトくんが来ないと本当に誰が俺のコーヒーを飲んでくれるんだか……。響ちゃんの元気な姿にも結構助かってたんだけどなぁ」

 

はぁ、とため息を付きながら、惣一は作業をしていく。

確かに惣一のコーヒーを飲むのは常連含めアルトだけだ。

喫茶店というのもあって新規の人は飲むが、結局一度飲んだら二度と飲まなくなる。

だからこそ常連の人にとってはアルトはある種の名物みたいな存在になっていた。

主に、『あの子供あの激マズ珈琲を平気で飲んでるぞ……』『おいおい、お前あのお方を知らないのか? この店に来る客の中で、唯一マスターの珈琲をおかわりするどころか毎日飲む勇者様だぞ』『マジかよ、やべーな』という感じで。

 

「そう……ですね……」

 

作業をする惣一の姿を見ながら、未来は出してもらったオレンジジュースを頂く。

あれからかなり経つ。

それでも未だに未来の心の中は晴れない。晴れるはずがない。

ただそれだけでどれだけあの二人が未来にとって大切な存在だったのかと、分かるだろう。

大切な存在の大きさを、未来は中学生だというのに実感していた。

 

「……何かあった?」

「……え?」

 

そして惣一が未来の心を見透かしたかのように真剣な表情で向き合ってきた。

そのことに未来は驚く。

 

「いやさ、二人が居なくて暗くなってるのは分かるんだけど……最近は以前よりも酷くなってると言うか……ずっと思い詰めてるような、悩んでるような、そんな感じがするんだよ。まぁ、俺の気のせいって場合もあるけど」

「そんな分かりやすかった……ですかね……?」

 

学校や両親の前などでは無理矢理表情を取り繕ったりしてきた。

誰にも心配かけないように。

そうしなければならないから。

それが未だに戦っている二人に顔向けするための、せめてもの贖罪だったからだ。

しかしどうやら顔に出ていたらしい。

 

「お店をやってたら人の顔色を見るのは慣れるもんさ。何年もやってたら、この人疲れてるな、とか悩んでるな、とか分かるようになるからな」

「そうでしたか……」

「頼りないかもしれないけど、未来ちゃんよりかは大人だ。相談くらいには乗れるぜ?」

 

そう言って、何処か自分の子供でも見るように慈しみを含んだ優しい表情で惣一は見つめていた。

確かに子供の未来と違い、惣一はカフェのマスターだ。

毎日色んな人の顔を見る。

朝から昼、夜まで。

それどころかきっと店を持つまで、マスターになるまで色んな経験をしてきただろう。

 

――この人は、アルくんが物凄く信頼してて、正直妬けちゃうくらいの人。

多分私なんかよりも……よっぽど。

 

ほんの少し、場違いな嫉妬心が生まれたが、善意で言ってくれた惣一に未来は気がつけばポツポツと語り始めていた。

 

「……私、どうすればいいか分からないんです」

「…………」

 

話し始めると、惣一は無言で聞く。

それを見ながら、未来はやっぱり大人なんだと思った。

子供なら何か聞き返したり、意味分からなそうにするかもしれない。

続きを促すこともせず、自分のペースで話していい、とでも言ってるかのようだった。

それのお陰か、未来は不思議とすらすらと話していた。

 

「別にそんなことか、と思われそうですけど、二人が帰ってきたとして、私は二人に何かしてあげれるのかなって……考えないようにしてても考えちゃうんです。やりたいことはたくさんあっても、それは私がやりたいことだから……」

「そうか。うーん」

 

話終えると、惣一は何処か悩む素振りを見せる。

難しい内容だろう。

とてもじゃないが、中学生が考えることではない。

結局、未来が言ったことなんて本人にしか分からないことだ。

別人である惣一が解るはずもなく。

 

「わ、分からないですよね? すみません……忘れてください」

 

未来は我ながら難しいことを聞いたと自覚があったので、そう言っていた。

自分で答えを見つける、というように。

 

「……いやさ、ちょっと知り合いの話になるんだけど……構わないか?」

「え? それは構いませんけど……」

 

しかし惣一から返ってきた言葉はそれで、返ってくると思ってなかったために未来は少し驚いた。

失礼な話になるが、意外だったのもある。

何よりその時の惣一の雰囲気が大きく変わって、慈しむような懐かしいような、嬉しいような、楽しそうな、そんな様子だったのが一番だろうか。

 

「じゃあ早速話すか……ある所に()()()()()()()が居た」

「記憶喪失の……?」

「ああ。ソイツはある男に拾われた。その男に拾われてから、ソイツは『自分の信じる正義のため』に()()()をすることにした。頭が良かったってのもあるのかもな……色々と悩むことは多かったし、ソイツは『科学者』だから発明にも時間を注いでいた』

 

記憶喪失。

まるでアルトと同じだ。

彼もまた頭は良く、科学者ではないが頭脳だけで言えば大人にも負けないだろう。

 

『それでもな、ソイツは自身の記憶などよりも『人助け』を優先するほど『お人好し』だったんだ。人助けなんてしても自分には何も得がないのに。だけど、ソイツはそんなこと分かっていたし見返りを期待せずにさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ってたよ」

 

その言葉を聞いて、未来の頭に浮かんだのは響とアルトだった。

しかしどちらかというと響よりもアルトの方がその男性と()()だと感じる。

何故かは分からない。

分からないが、不思議とそう思った。

 

「もちろん、その男性にも『帰る場所』があった。最初は一人の女性と一人の男性しか居なかったけど……それでも、『人助け』でソイツがどんなにボロボロになって帰って来た時も、二人が()()()()と。その一言だけでソイツは嬉しそうに笑顔になったんだ。そんな風にさ、待つ方も苦しいけど、その分戻ってきた人にとっては、その一言だけで『帰る場所』があると実感して救われた気持ちになるものさ……どれだけ地獄を見てもな。ま、今はソイツはたくさんの人に囲まれてるだろうけど」

 

何処か懐かしみを含む表情で、惣一は言う。

それはもう、会えない相手を思い出すように。

昔の記憶を思い返すように。

思い耽るように。

 

「その人は、もう一緒じゃないんですか……?」

「そうかもなぁ……。でも、なんつうか……未来ちゃんもさ、何もしてやらなくていいと思うんだよ」

「え? でも……」

「ただし! 何もやらなくていいとはいえ、帰ってきた時に笑顔で迎えてやることは大事だ。きっと、二人もそれだけで嬉しくなると思う……。そうだな、簡単に言えば未来ちゃんが『居場所』になってやればいいんだよ。あ、でもアルトくんは無表情だから嬉しいかは分かりにくいか」

 

場の空気を変えるためか、苦笑いして茶化すように言う惣一に不思議とくすっと笑えた。

それと同時に、未来は『例えた』時のことを思い出した。

陽だまりって言っていたことを。

帰る場所で、居場所だと言っていたことを。

 

「おっ! やっと笑ったじゃん! マジ良かったし!」

「ふふっ……なんですか、それ」

「店に来てた子が今日言っててな? 真似してみたんだ。なんだ、ギャルっつーの? なんか最近流行ってるらしいよ」

「そうだったんですね……なんか意外かも。主にそんな若い人たちがこの店に来ることが」

「おいおい、こんなイケてる大人がマスターやってる店だぞ? 来るに決まってるだろう?」

「ぷ、ふふ――なんですか、それ。でも、ありがとうございます。お陰で何処か吹っ切れました……二人が戻ってきたら、言われた通りにしてみますね」

「いや俺滅茶苦茶真面目なんだけど――まあ力になれたならいいか、そうするといい」

 

今の未来は自然と笑えていた。

無理をした笑顔でもなく、本当に心から。

自分でそう思えてしまうくらい、惣一の言葉は未来の胸の中にストンと入ってきたのだ。

未来は本当に相談して良かったと感じた。

忘れていたことを思い出せたから。

取り繕っていた笑顔すら、冗談を言って引き出してくれたから。

 

だからこそ未来は二人が戻ってきた時には絶対にそうしようと心の中で決意する。

 

「あ、そうだ。時間あったらでいいんだけど、都合が合えば俺も一緒に行っていいかな?」

「え!? そ、それは二人も喜ぶと思いますけど……良いんですか?」

 

そんな決意を未来が独りでにしていると、突然言われたことに驚きながら首を傾げる。

他に雇っている様子がないこの店に誰かが店番出来るはずがなく。

 

「すぐに閉めることは出来ないけど、告知すりゃ問題ないだろ。アルトくんとは見知らぬ仲じゃねえしな、俺もお見舞いに行こうかなってな? っぱ心配だし直接見た方がいいかと思ってさ。話を聞くよりね」

 

その事に未来はなるほど、と納得する。

突然閉めたら心配されるかもしれないが、告知していたなら客も納得するだろう。

 

「じゃあ、都合が合えば一緒に行きますか? 教えてくださればこちらに来るので」

「そうだな、お願いしちゃおうかな」

「はい、なら行くときにまたここに来ますね」

「おう。あ、そうだ。未来ちゃんも今日はマスター特製ブレンド――」

「きょ、今日はお腹いっぱいなので……」

「つれねえなぁ……ま、アルトくんに起きた時に飲んでもらうかね」

 

――本当になんでアルくんは平気だったのだろう。

未来はそう思わずには居られなかった。

あれはコーヒーという名前をした別の液体、と。

これはこの店で珈琲を飲んだ、全員の評価だ。

なぜならその珈琲は、珈琲豆をそのまま食ってるんじゃないかと言うくらいににがく、何よりその珈琲はさながら()()()()()()()のように真っ黒なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は深夜帯。

アルトが入院している病院。

長期入院なのもあり、重傷であるために個室を用意されているアルトはそこで未だ眠り続けている。

既に消灯時間であり、病院の中は真っ暗だ。

巡回してる者は居るものの、比較的静か。

未だ目覚めることはなく、予兆すらない。

 

――そんなアルトの元に、影が射し込んだ。

巡回している人が居るにも関わらず、その影は誰にも気付かずに忍び込んでみせた。

病室の中も暗いものの、点いているモニターが微々たる程度に光を発生させていた。

影が近づくと、モニターの光で少し姿が見えてきた。

それは赤い異形の存在。

血のように赤いワインレッドのスーツ、いや宇宙服に近しいモノにコブラを模したバイザーと胸部の模様が特徴的な姿。

百人中百人が不審者と断定する異形の存在は眠るアルトに近づくと、煙が発生する。

煙が少しずつ晴れていき、イケている一人の男性の姿へと変わった。

茶色のジャケットにその中に模様が描かれた白いシャツ。群青色に白と青緑の線があるズボン。

 

「おいおい。警備が手薄だなァ……もうちっと厳しくして欲しいもんだが。俺のコーヒーを飲んでくれる客が死んだらどうしてくれんだ? ま、俺には無意味だがな」

 

その正体はなんと、喫茶店のマスターだった。

メガネがないためか印象はかなり変わってはいるが、病院ってのはまず簡単に侵入出来るような場所ではない。

警備員だっているし巡回する人だっている。

だというのに手薄とすら言うほどあっさり侵入してみせたこの男は、石動惣一とは何者なのか。

 

「こりゃかなりひでぇな……さて、俺の細胞を入れれば傷くらい簡単に治せるが……どうやらそれだけじゃないみたいだな」

 

アルトの容態を一度見ただけで怪我の具合を理解したらしく、アルトの頭に触れた。

やろうと思えばこの時点でアルトを殺すことは出来る。

特に生命維持に必要な装置を停止させればアルトは死ぬだけだろう。

この男が悪者であれば、この時点で彼の命はない。

だが、惣一はアルトの頭を潰す……わけではなく。

 

「意識を取り戻さない理由はこれか……全く。一体()()()()()()()のかねェ、アルト?」

 

意味深な発言をしながら惣一はアルトの頭を撫で、持ってきたコーヒーが入った水筒を傍に置いていた。

 

「ま、この程度で終わるようなヤワな存在じゃねぇか。――しっかりしてくれよ? 俺がこの地球を滅ぼすことにならないように。お前さんの“これから”に興味があるんだからな」

 

――後日。

アルトの病室に水筒だけが発見され、()()()()()にすら異形の姿や惣一の姿はなかったという。

 

 

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