Re:戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ 作:絆蛙
「ッ……?」
「えっ、なに……!?」
妙な感覚にアルトは無意識に舞の手を引き、その場から離れた。
その瞬間、アルトたちが居た場所が爆発する。
無惨にも取り残されたスイーツが炭になっており、アルトは咄嗟に犯人を睨みつけるように見つめた。
歩む。
影が歩み、煙の中から異形の姿が現れる。
ノイズではなく、それは人型。
洋風の銀色の甲冑を思わせる外見に青銅のマント。赤い瞳に白銀に煌めく剣を持った異形の存在。
その背後に、ほんのわずかだがチャックの付いた裂け目のようなものが見えた気がした。
「あれは……?」
アルトにとって初めて見る存在だった。
ノイズではない。
ならば一体何者なのか。攻撃してきたことから味方ではないというのはアルトでも分かるが、正体は全く掴めない。
「アルトっ! 逃げましょう! 早く、こっちに!」
「ああ」
異形を見つめるアルトと違い、舞は既に行動し、敵だと判断してアルトの手を引っ張っていく。
アルトは手を引かれながら。
『――――――』
全く異なる言語、それも外国語でもなんでもない言語が聞こえてますます分からなくなった。
だが異形はすぐに剣を向け、明確な殺意を込めて斬撃を飛ばす。
舞に手を引かれているお陰で当たらずに済み、アルトは後ろを気にしながら足を動かしていく。
「あれは一体……?」
「分からない。でも今は逃げることが先決!」
どうやら色々と詳しい舞も知らないらしく、アルトは異形が追ってくるのを見た。
舞の案内によって地の利はこちら側にあるが、森の中だというのに正確に追ってくる。
狙いはなんなのか。なぜここにあのような存在がいるのか。
アルトには分からないことだらけだが、ふと頭の中に考えが生まれた。
なぜ現れたのか。
もしかしたらあれは、自分を狙う存在なのでは、と。
舞の言葉は恐らく正しい。
ならば異なる世界に存在するアルトを排除すべく生み出された存在と考えれば唐突に襲ってきた理由も納得出来る。
もしくは、神の力を持つ舞を狙っているのか。
はたまた、両方なのか。
“仮に自分を狙ってきたならば、巻き込む訳にはいかない”と考え、どうにか親切にしてくれた女性を助けるべく思考に時間を費やす。
そこで考えたのがあの時の、ライブ会場で“変身”した力。
あの力は経験したアルトには分かる。
あれは途方もなく強い力。敵を打ち倒す力、と。
この状況を打開するにはアレしかない、と。
空いている手で胸に触れるが、あったはずのドライバーが何処にもない。
腰に巻かれているわけでもなく、あの場から動いてないということは元々この世界に墜ちて来た時から無いのだとアルトは気づいた。
少なくともこうやってわざわざ助けてくれる女性が隠すはずもない。
「こっち」
「! ありがとう」
「いや」
思考していたら光が見えたため、咄嗟に舞の手を逆に引っ張ると、先回りして放たれたであろう何かが通過した。
突き刺さったのは白銀の小刀。取り出したにしては隠せそうなものは何も無かった。
そこから考えられるのは生成したということ。
つまり異形の能力。
背後を見れば、既に目で見える範囲まで近づかれている。
このまま逃げることははっきり言って難しい。
――また、妙な感覚に襲われた。
それに従い、アルトは咄嗟に舞を押し退けて前に出た。
急な行動に舞は驚きながらよろめくと。
「アルト!?」
その瞬間。
突き刺さった小刀が煌めき、光がアルトの左肩を貫いた。
鮮血が舞う。
肩を貫き、背後にある木に直撃すると木が倒れていた。
あまりに高威力。
むしろ貫いてよかったというべきか。
「大丈夫、アルト!?」
左肩を抑えるが、光自体は小さかったお陰で切断されることはなかった。
出血はしているが、致命傷ではない。
その間にも次々と小刀が木々に突き刺さり、煌めく。
瞬時に小刀を位置を覚えたアルトは
「ま、えに……」
「……!」
それがどういう意味なのか伝わったのだろう。
舞はアルトの体を抱き上げると、すぐに走った。
抱えられながらアルトが後ろを見ると、さながらレンズを通すように光が屈折し、反射していく。
「み、ぎ……」
光より早く狙いを伝えたアルトに舞は従い、右側に曲がる。
すると光が通り過ぎ、轟音だけが響いた。
もしあのまま走っていたら、と思えばゾッとする話だ。
しかし舞はそのことよりもアルトに驚いていた。
アルトはただの人間だ。
これでも舞にはそういった、文字通りの見る目がある。
だというのに、攻撃を読んでみせた。
何度も見たものではなく、たった一度受けただけで。
ほんの僅かに逃げ切れる希望が見えた。
「今の、また出来る!?」
「……いや。あれは予測した。次は、変わる。恐らく、出来ない。次の予測地点の、情報が足りない」
「……予測? あれが……!?」
現実は甘くなかった。
甘くはなかったが、予測と告げるアルトに舞は信じられないものを見たかのような表情を浮かべる。
予測と言っていたが、光より早く攻撃先を読むなど人間業ではない。
それこそ、それは舞の知る中でも出来る人物が限られている、
“予測”で収まる範疇をもはや超えている。
「いえ、今はそれより……」
一方でアルトはどうにかして囮になる方法を考えていた。
狙いはアルトなのか舞なのか分からないが、時間稼ぎならば可能だろう。
すると舞は抱えていたアルトをゆっくりと木の影に隠れさせるように座らせた。
「何を……」
「いい? アルト。ここから出てきちゃダメ。あいつは私が引きつけるから安全になるまでここに居て」
「ダメだ。それだとあんたは……」
「……その怪我じゃ、もう長く逃げることは出来ないでしょう?」
「…………」
そう、舞は気づいていた。
元々この世界に来た時からボロボロだったアルトはさっきの逃亡劇において傷が開いていた。
特に先程受けた左肩と包帯が巻かれている足に関しては真っ赤に染まっている。
さっきの光でダメージを受けた時、アルトは肩の痛みではなく足が限界になっていたから動けなかった。
「大丈夫。私を信じて、アルト」
「……あ」
そう言って舞は先と同じく、柔和な笑みを浮かべながらアルトの頭を撫で、足音が響く。
舞の笑みが消え、覚悟を決めたように表情が引き締まる。
そうしてアルトを置いて、異形に姿を見せた。
「こっちよ!」
気配が去っていく。
アルトの手は無意識に伸ばされて、届くことはなかった。
舞を追って異形がついて行く。
アルトは言われた通り、木の影に隠れたまま――
なんて、居るはずがない。
思い出す。
ここに来る前、あのライブ会場で目撃した多くの人の死。地獄の光景。救えなかった数々の命。散っていく魂。無惨にも呆気なく、廃棄するように次々と奪われていった生命。
生き延びてしまった。
何も無い自分が生きて、感情も家族も思い出も趣味も好きも、全部がある人たちが次々と死んで、何も無い自分は生き延びた。
目を覚ましてからアルトはずっと思っていた。
“なぜ、なぜ俺は生き延びたんだ……”と。
生きるべき人間はもっと居た。
響も奏も、アルトにとっては生きるべき人間だった。
――自分とは違って。
それは、今も変わらない。
背後の木に手を着き、支えにしながらアルトは立ち上がる。
足が震える。
恐怖ではなく、純粋に足にガタが来ている影響だ。
それでもアルトは、舞が逃げた先を見つめるとゆっくりと歩みを進めていた。
森を抜け、開けた場所に出た舞は必死に足を動かして逃げていた。
森の中から離れたのは森が燃えないようにすること、アルトにもしものことがないため。
相変わらず逃げ切ることは出来ないが、唯一の救いはアルトだけを狙っていたわけではなかったという点。
つまり狙いは両方か、もしくは舞ということになる。
それはそれでいい、と舞は思っていた。
狙いが自分だけだったなら、むしろ巻き込まずに済んでいいと。
だが今までずっと走ってきたのもあり、はっきり言って厳しくなってきたのも事実。
普通に走るならまだしも、相手の攻撃を見つつ当たらないように動かないといけないため、より負荷が掛かるのだ。
そうしてついに、真後ろで爆発が起きてしまい、舞の体は投げ出される。
うつ伏せに倒れ、足が疲労の影響か動かない。
いや。
「これは……まさか!?」
それは蔓。
いつの間にか足に絡みついたソレに酷く既視感を覚える。
だからといって、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
異形が近づく。
距離はもうそれほどなく、数秒も掛からずと舞は剣のサビとなるだろう。
打開する手段が無くなってしまったが、諦めることはしない。
アルトの心配はあるものの、彼を帰すためにも無事を確かめるためにもまだ死ぬ訳には行かなかった。
手を伸ばして絡みついた蔓を外そうとする。
不可。
ならば、と力づくでちぎろうとするが、お世辞にも力があるとは言えない舞では千切ることも出来ない。
獲物が抵抗出来ないからかゆっくりと近づいた異形は、ついに剣を掲げる。
『――シャビリェフェンアコベリャファン』
「っ……!」
異形が発した言語に目の前の異形の存在が何なのか確信を持ち、目を見開いて驚く舞だが剣が振り下ろされるのが見え、次に来るであろう痛みに思わず顔を伏せる。
………………
…………………………
「…………?」
だが、いくら待っても痛みは来なかった。
それどころか何かがぶつかる音が聞こえたような気がして。
恐る恐る、目を開いて顔を挙げると視界の先に映ったのは、動きを止めている異形の姿だった。
“一体何が……”そう思ったとき、異形がゆっくりと振り向き、何かを掴んで持ち上げた。
「がっ……」
それはアルトだった。
首を片手で絞められて持ち上げられ、足をバタつかせている。
足が何度か当たってはいるが、些細な抵抗でしかなく全く効いている様子は無い。
邪魔者を排除するように、異形が舞の目の前でアルトを叩きつけると蹴り飛ばしていた。
衝撃で蔓が外れ、舞は異形に背を向けることになることすら気にせず駆け寄ると抱き起こす。
「アルト……!? しっかりして、アルト! どうして……! 待ってるように言ったのに!」
「……ち、がう……」
「え……?」
舞の手を掴み、掴む手を外すと地面に倒れるが、自力で立ち上がる。
脱力したようにぶらん、と両手がぶら下がっていて顔は俯かれている。
違う。
違うとは何が違うのか。
「ま、いは……生きる、べき……存在……。なぜ、お、れは……生きている……のか……わ、からない……」
「アルト……?」
――雰囲気が、空気が変わる。
「わ、からない……けど、ま、いを……死な、せるわけ……に、はいか、ない」
異形の存在も何か違和感を感じたのか警戒を顕にし、アルトは一歩、また一歩と歩む。
譫言のように何かを言いながら、ただ歩みを進めていた。
「きり、ぬけ……なきゃ……こ、ここを……ち、からが……いる……」
その背中を舞は見ることしか出来なかった。
何故か分からないが、止めることが出来なかった。
「……ち、から……よこせ。切り、抜ける……力を……た、戦う力を……よこせ――」
「
顔を挙げたアルトの目が、
その瞬間。
手元に青白い光が集まり、徐々に形を象っていくと、光が弾けた。
するとアルトの片手には黒い物体があった。
銀と赤の矢印型の装飾、右側に環状の黄色パーツが装飾されたひとつのベルト。
それはここに来る直前、初めて“変身”した時に使ったものと同じベルト。
アルトはそれを生成――いや
「アルト、それは――!?」
背後で息を呑む音が聞こえた。
酷く驚いたような声だ。
『ゼロワンドライバー!』
それを気にせず、アルトは迷いなくベルトを腰部に装着すると自動的にベルト帯が巻かれ、アルトの体型に調整される。
次に取り出したのは、ひとつのアイテムだった。
それはプログライズキーと呼ばれるもの。
ただしライブ会場で使用したのとはまた違い、あれよりもサイズは小さい。
アルトはプログライズキーを斜めに掲げながら起動ボタンであるライズスターターを押す。
『シャイニングジャンプ!』
プログライズキーから音声が鳴り響き、右側にあるベルトの認証装置に翳す。
『オーソライズ!』
それによりロック部分が解除されてキーコネクタを露出したキーモードへと流れるように親指でスライドするように腕を右下に振り下ろしながら展開すると、右腕を上空に向けて掲げた。
プログライズキーが発光し、円形のゲートが出現する。
施錠された南京錠を解錠するように手首を曲げると横から縦に鍵穴が動き、同時に模様が動いてロックが外されたかのようにゲートが開かれる。
残った中央に小さな光が縮小化し、次にバッタの模様が浮かび上がって大きくなっていく。
『――ミュファンフォシャジャカ。デェフィ……!』
そんなアルトに向かって斬撃が放たれるが、アルトは避けるという行動に入ることすらなく棒立ちしているだけ。
「あぶない!」
そうなると向かってきた斬撃は直撃――――する直前、開かれたゲートから召喚獣を召喚するかのように輝く大きなバッタのライダモデル『シャイニングホッパー』がオンブバッタのように小さな別のバッタのライダモデルを背に乗せて現れ、斬撃を踏み潰した。
ベルトから待機音が流れる中、現れたシャイニングホッパーはアルトの周りをぴょんぴょんと跳び、喜びの感情を表しているかのようだった。
「え……? ば、バッタ? 大きい……」
次にシャイニングホッパーは一跳びで舞の前に来ると彼女を見つめる。
「あ、えっと……こんばんは……?」
何故見つめられているのか分からずに困惑しながら舞が話しかけると言葉が通じているのか、シャイニングホッパーは頷いて再びアルトの元に戻る。
満足したらしい。
「変身」
それはそうとアルトは目にもくれず、次の動作に入った。
無意識に口に出した言葉と共に『シャイニングホッパープログライズキー』を空洞となっているベルトの右側のスロットのような場所へ挿入する。
すると保安機構と呼ばれるモノが動き、ベルトの中央に0の形が現れた。
『プログライズ!』
『The rider kick increases the power by adding to brightness』
それをアルトは右手で左から右に向けて振るうと自らシャイニングホッパーが飛び込み、データネットが二体のバッタを捕まえる。
そのネットにアルトの肉体が背後から包まれると筋肉質な真っ暗な素体の姿に変わった。
黒いスーツに赤いラインが走り、顔は機械の顔が透けて見えて機械人間という印象を抱かせる。
そして。
『シャイニングホッパー! 』
発せられた音声とともに、体に金色のラインが走り、胸部と両肩には蛍光イエローのバッタの脚を思わせる意匠が施され、目の部分にも同じような蛍光イエローの触角が脚のように折りたたまれて装甲のようにくっつく。
それにより、機械だった顔はバッタを思わせる姿へと変化を遂げ。
『When I shine,darkness fades.』
以前の深縹色が入っている装甲とは別で、金色のラインがあり、黒をメインに蛍光イエローが入っているシンプルな姿へと完全な変化を果たした。
其の姿こそ始まりの1号であり、新時代を背負う象徴の戦士。
――――仮面ライダーゼロワン。
シャイニングホッパー。
今ここに、別次元の別の惑星にて新たな姿として君臨した瞬間であった。
「アルト……貴方も仮面ライダーだったの……?」
だがそれを見届けた舞の表情は優れず、むしろ悲痛な面持ちを浮かべていた。
『仮面ライダーゼロワン……。それが俺の名らしい。ここは俺が何とかする。離れててくれ』
「……無理はしないで」
自分がいたら戦いの邪魔になってしまうと舞自身も理解しているのだろう。
せめてと一言だけアルトに告げると、巻き込まれないように離れていく。
それを見たゼロワンは異形に目を向け。
『シェイバリャ!』
『……!』
既に接近されていた。
振るわれる剣に対し、滑らかな動きで身を後ろに倒して避けたゼロワンは身を戻すのと同時にバックステップし、飛翔する。
背後を取り、振り向きながら拳を振るうゼロワンだが異形は反応。
剣を横に倒し、拳を防ぐ。
衝撃で僅かに距離が離れ、ゼロワンの瞳が赤く発光した。
その瞬間、無数のゼロワンの行動パターンが生み出された。
背後から空中から蹴りを加えようとする姿。跳躍している姿。横から飛び出している姿。駆け出している姿。拳を突き出そうとしている姿等など。
そしてゼロワンが消え、拳を突き出そうとしているゼロワンの行動パターンが赤く光ると実体となり、異形が剣で斬りつける。
その寸前。
逆予測による回避で先程のパターンとは別の、真横から足を突き出そうとしている姿の方が赤く光り、そこにゼロワン本体が現れると異形を蹴り飛ばした。
『アミャデェバリャエ!フォボリャグロン……!!』
大したダメージになってないのか踏鞴を踏む程度でしかなく、異形は白銀のエネルギーを纏う剣を空中に振るった。
光が上空に放たれ、そこから無数の小刀降り注いできた。
ゼロワンの瞳が再び輝き、25000通りの対処パターンを算出。
『ぐ、っ……』
高速で次々と避けるが、小刀の等身らしき部分からビームとも呼べる極小の光が放たれて25000通りの中にひとつも避けられる予測がなく、被弾するゼロワン。
その間に細かな光が集まっていき、極太のビームが放たれる。
咄嗟に空中へ跳び、高速で避けたゼロワンは両腕を立てた。剣が振るわれ、防御を突き破って異形がゼロワンを叩きつける。
あまりの威力に吹き飛び、バウンドするゼロワンは地面を足で蹴って空中で身を捩りながら着地すると敵を見つめた。
『……つよい……』
ここに来る前、戦ったノイズたちとは比べ物にならない強さ。
シャイニングホッパーと同等。否、肉体が少しずつ悲鳴を上げていることからそれ以上の強さ。
なぜならシャイニングホッパーには変身者の潜在能力を強制的に引き出す能力も備わっている。
相手が強いならば、それを上回らんとする力の前借りがある。
上回ることが出来ないということは、すなわちシャイニングホッパーが引き出せる出力を遥かに超えた、格上を意味する。
『おまえ……何者だ……?』
『――フォンウデェジョ? ミャウアコベリャフォファショ?』
『…………』
何を言っているのか全く分からない。
それはきっと、互いにそう思っただろう。
ならば会話など意味は無い。
脚に力を入れ、素早く懐に入ったゼロワンが下降から拳を振り上げる。
行動パターンが変化し、背後に出現したゼロワンが空中から片足を突き出していた。
不意をついた、間違いなく直撃するはずの一撃。
ゼロワンの蹴りが――空振った。
『……!』
予測が外れ、周囲を探ろうとしたゼロワンの背中が火花を散らす。
数歩前進し、すぐに背後へ足を突き出すもののやはり空振る。
左。
反応したゼロワンが拳を突き出し、剣と拳が衝突する。
押し負けたゼロワンの拳が降ろされ、剣が高速で振るわれる。
片腕で防御態勢を取るものの、腹から胸にかけて斬り上げられ、打ち上げられる。
空中で体勢を変えた瞬間にゼロワンの体を光が貫き、爆発した。
地面へ落ち、転がると先程までいた位置には剣が振り下ろされていた。
衝撃で吹き飛びながら行動パターンを出現させる。
真っ直ぐに拳を突き出すゼロワン。横から――――といったところで、剣を回して回転する異形がゼロワンの全てのパターンごと吹き飛ばし、ゼロワンは斬られて地面を転がって。
『アタッシュカリバー!』
『”Attache case opens to release the sharpest of blade“』
『BLADE RISE!』
黒がメインの蛍光イエロー型のアタッシュケースを生成し、剣に変化する。
勢いを殺さずに起き上がり、ゼロワンが高速で接近しながら剣を振るうと、互いの剣が正面から衝突して鍔迫り合いになる。
押し込もうとするゼロワンに対し、余裕綽々といった感じで受け止めている異形はゼロワンを大きく弾いた。
力の差によって足が地面から浮き、隙だらけとなるゼロワンの腹部に一閃。
水平に放たれた斬撃により、水面を切りながら別の陸まで吹き飛ばされたゼロワンは背中から地面に落ち、腹部を抑えながらすぐに跳躍。
『CHARGE RISE!』
剣モードからアタッシュモードへと戻すと武器から音声が鳴り響き、高速の飛び蹴りが異形に放たれる。
剣で薙ぎ払い。
狙いを変え、その刀身を踏み台に一気に跳躍。
本来持つ脚力を活かし、70m以上の高さまで跳んだゼロワンが再び剣モードにしてトリガーを押す。
『FULL CHARGE!』
『カバンストラッシュ!』
高速落下しながら蛍光イエローのエネルギーを纏う刀身が異形に振るわれ、轟音を立てながら土煙が舞う。
風が吹き、ゆっくりと土煙は風に流されていき――
全てが晴れた時、そこにはクレーターを作りつつも一切動いていない異形。
何処からともなく伸びてきた蔓によって四肢を拘束され、空中に静止するゼロワンがそこに居た。
アタッシュカリバーを振るおうにも手首が動かせないため、蔓を斬ることは出来ない。
『な、んだ……これ……』
両腕を振り下ろすように動かそうと、広げられた両足を動かそうとするがびくともしない。
さながら拘束された囚人のような状態。
植物にしてはあまりに頑丈で。
『メシャンジャフォエジェシンシェ……。 ファンションオミョエ!!』
仕返しと言わんばかりに光のエネルギーを纏った斬撃がゼロワンをX字に斬り裂いた。
拘束が解かれ、地面に落下するゼロワンは両膝から落ち、そのまま体が前のめりになって倒れ込む。
仮面を草に埋めながら動かなくなり、トドメを刺そうと異形は剣を振り上げた。
『……』
『シャビリェフェンデェミョエファン!』
『…………』
「アルト!!」
剣が振り下ろされる中、戦いを見守っていた舞が声を挙げた。
ピク、と手が動き、剣が迫っていく。
そのままゼロワンの体は。
『…………!』
剣に斬られる直前にアタッシュモードとなっていたアタッシュカリバーが剣を受け止めていた。
『…………!』
まだ生きていたのか、と言わんばかりに動きが鈍った異形にゼロワンは倒れたまま足を振り上げ、蹴りを頭部へ加えるとアタッシュカリバーを異形へぶん投げた。
剣によって弾かれてしまったが既にゼロワンの姿は何処にもなく。
『シャイニングインパクト!』
そんな音声が響いたかと思えば、弾かれたアタッシュカリバーから姿を現したゼロワンは足にライトゴールドの輝きを纏いながら突き出していた。
古くから受け継がれてきた“仮面ライダー”が持つ必殺技。
仮面ライダーの代名詞とも呼べるその技を、ライダーキックと呼ぶ。
『ヌゥウ……!』
死角からの一撃は異形も堪えたのかライダーキックが直撃し、ノックバックを受けて反り返っている。
だが倒すには至らない。
それどころか、必殺技を使用してようやくダメージらしいダメージを与えたのみ。
ゼロワンは着地せず、プログライズキーを強く押し込んだ。
『シャイニングインパクト!』
二発目。
先程と同じライトゴールドの輝きを纏ったライダーキックが異形へと向かっていく。
まだ体勢を整えておらず、このままいけば直撃になるだろう。
だが戦いを見守っていた舞だけが唯一気づけた。
「ダメ!! 避けて!」
舞の声が届く。
ゼロワンのライダーキックが迫る。
異形が体勢を戻す。
攻撃動作に入ってしまった以上、もう攻撃を中止することは出来ない。
何よりゼロワンの予測の中にある25000通りにはライダーキックが直撃する予測が既に出てしまっている。
然しながら忘れてはならない。
ゼロワンが予測した対象は異形で、
それはどういうことか、つまるところ。
『がっ……!』
――いくらゼロワンでも知らなければ予測することは不可能だということだ。
この場に似つかわしくないライフルのような銃撃音が木霊し、無防備だった背中に次々と突き刺さるとライダーキックの体勢から落とされてしまう。
輝きが失われ、倒れた姿勢からゼロワンが起き上がった時にはもう剣が目の前にあった。
反応するより早く右肩から斜めに斬られ、大量の火花が散る。
背後からは先程と同じライフルのような音が響いては数秒後には背中へ銃弾の嵐が襲いかかり、光のエネルギーを纏った剣の斬り返し。
下から打ち上げるように斬り上げられたゼロワンは斬撃と共に吹き飛ばされ、その体が一瞬光に染まる。
纏われていた装甲が失せ、元のアルトの姿に戻ってしまうと地面を転がっていってしまった。
「アルト!」
「あ……ぐ……」
ようやく体が停止すると、舞が急いで駆け寄ってくる。
ただでさえボロボロだった体がより傷ついている。
切り傷はもちろんのこと地面には血溜まりを作っていて、その状態で起き上がろうと両肘に力を入れるが、脱力したように地面に落ちる。
片目が血で見えなくなりながら、異形ではなく背中から攻撃してきたであろう敵の正体をアルトは見た。
――それはライオンだった。
ライオンを模した頭部。紫色のパイプのような鬣を持ち、複眼は突き出したライオンの牙や口を思わせるモノアイ形となっている。腰にはコート状のマントを身に付けており、左腕には大型のクローと
「あ、れは……」
――ダイナマイティングライオン。
マギア。
知らないはずの知識が頭に流れてきて、僅かに頭から痛みを感じる。
だからといって状況は変わらない。
異形は僅かにライオンマギアを見たが、味方だと判断したのか中立と判断したのか攻撃はせず、ゆっくりとアルトと舞の方に向かってくる。
アルトは起き上がろとする。
「これ以上は無理よ……! これ以上戦えば貴方は死んでしまうわ……!」
それを舞が止めるが、アルトはそれでも起き上がろうとしていた。
感情がない。
大切なものがない。
生きたいという欲もない。
生きなければならないという魂に刻まれた使命感のようなものだけでやる気や活力も目標もなく惰性で生きていた。
なら何故立ち上がろうとしているのか。
簡単な話だ。
――何も無い。
何も無いのに生きてしまったから、その命を使って親切にしてくれた彼女に対して恩を返そうとしている。
何も無い自分より彼女こそが生きるべきだと。
ところが、アルトは知らなかった。
シャイニングホッパーは確かに変身者の能力を高める力が備わっている。
それはあくまで”力の前借り“。
前借りとはすなわち、本来ないものを先に貰うという意味だ。
この場合で言えば、アルトがいずれかの未来で肉体の強度を含め、諸々強くなっていく力を現時点の段階の器に強引に入れていること。
コップという器に水が溢れ出るほど注がれたとして、収まるかと言われれば否。
肉体が限界以上の力を引き出した結果。
「ごふ……」
「アルト……? アルト……! しっかり、アルト!!」
限界だったアルトの体は、もう限界を完全に超えてしまったということ。
穴という穴から血が出てきてしまい、再び地面に伏せることになると指の一本も動かなくなってしまった。
アルトがどんな状態なのか察したであろう舞が必死に声を掛けるものの、アルトは息をしてるだけで精一杯だ。
もう変身する力は無い。
そんな二人に異形は近づいていく。
『――アミョイロデェンゴミョフォダムデュオンエファン。ウグロンウフェロ』
『――黄金の果実!!』
(黄金の、果実……?)
「ッ……! ダメッ!!」
唯一聞こえた単語に引っ掛かりを覚えるアルトだが、時間は止まってくれない。
目の前に来た異形は両手で剣を持つと高く持ち上げる。
それを見た舞は咄嗟にアルトを守るように覆い被さる。
置いて逃げたら、自分は助かると言うのに。
舞はアルトを最後まで見捨てず、それどころか力のあるアルトを護ろうとした。
仮面ライダーであるアルトを助けようとしている。
(……ダメだ。力が、入らない。おれは、また……守れない………やはり、俺には……何も……)
ダメだと。
彼女だけでも生きるべきだと思ってもアルトの体は動いてくれなかった。
このままいけばアルトも舞も死ぬ。
果たしてそれでいいのか。
本当にいいのか。
(……結局。俺は、何もできなかった。また、まもることは……でき、なかった。俺は……何も――)
いいとは思ってなくても、何も出来ない。
振り下ろされる。
覆い被さられて僅かに見える隙間から剣が迫るのが見えた。
最後に生きる可能性を、と。
アルトは動かなかった手がブチブチ、と何かが切れたような音がしたが無視しながら動かして、シャイニングホッパープログライズキーを舞に――――
『――そんなことないさ。よく頑張ったな』
そんな、ささやかな抵抗が奇跡を呼んだのか。
頭の中で誰かの声が響いてきたかと思えば、太陽のような眩い光が降り注ぎ、一際強い球体のエネルギーが超高速で落ちてきた。
『ヌウウォオオ……!?』
あまりの衝撃波に異形が吹き飛び、オレンジ色の輝きが世界を照らす。
うつむくなよ。顔を上げろ。どこまででも、その意志を曲げることなく。
『オレンジアームズ!』
『花道・オンステージ!!』
バッタに近い外見を持つゼロワンとは全く異なる姿。
それはオレンジ。
兜の前立にあたるフロントブレード。
オレンジの断面図のような模様のゴーグル型の瞳。
鎖帷子のようなキルト状になった上半身。
両腕と両腿には翼の意匠が組み込まれ、腰部には帯刀された刀――無双セイバー。
藍色の強化スーツを纏い、その上に果実のオレンジのような東洋の戦士・『サムライ』、戦国武将を彷彿とさせる、重厚にして威厳ある和風の
否。
それは鎧武者。
平成ライダー15番目にして文字通り世界を変えて見せた
その名を――
「紘汰……!」
『待たせたな、舞。君もよく頑張ってくれた……後は俺に任せろ。ここからは――』
『俺のステージだ』
己の信じた道を貫き、戦いを終わらせるべくかつて乱世の世を勝ち抜いた、天下無双の勝者。
オレンジアームズ。
今ここに、伝説が交わる。