山賊は、大きく分けて二種類存在する。
一つは、交渉を前提にゆすりをかけてくるタイプだ。この類いは山賊の気質にもよるが、うまくいけば少ない被害で抑えられたり、場合によっては何らかのリターンも期待できる。
例えば、通行料と称して金を要求する山賊。
そこに人が通るということは、通るだけの利点があるということ。それは道中の安全性も含まれる。
元々良好な道を占領すればしばらくは利益もあるだろうが、それでは長期的にはデメリットが多い。また、顔を知られた場合には報復を受ける恐れが高まる。そのため、ある程度は被害者側にもメリットが出るような形にすることが多い。最も多いのは、道を整備して通りやすくするというものだ。
そこを通る者、特に商人はそんな彼らの働きを知っていて、山賊にはむしろ気前よく金を出したりする者もいる。
やり口は乱暴だが、誤解を恐れずに例えるなら、非公式の自警団のような存在だ。
そのため、国側もなかなか討伐に乗り出せない。こういった輩は意外と長く生きるのだ。
もう一方。これは交渉を視野に入れないタイプ。道行く者を問答無用で害し、根こそぎ奪い取っていく者。
その存在が前者と比べてどれだけ危険かは語るべくもないだろう。彼らは一定の場所に構えず、身を隠せそうな所を転々として過ごす。
人気の少ない場所に迷い込んだ不幸な人間を食い散らかす害獣である。
当然積極的に討伐されるため、それぞれの団体規模は小さいが、神出鬼没にして少数精鋭である彼らは、下手な魔獣より恐れられていた。
その後者である彼らは、今、二の足を踏んでいる。
彼らが狙うのは、弱者、足のつきにくそうな身分の低い相手が基本だが、倒したときの見返りが大きいと判断された場合は、果敢に襲撃を行う。
決定権を持つ、熟練の外道である頭は、かつて無いほど判断に困っていた。
金の刺繍が惜しげも無くあしらわれた白いローブに身を包んでいる人間が川向こうを歩いている。
黒い絹のような髪は人生の苦労のなさを物語っているようで、ゆったりとした服でも全く隠せていないその豊かな体は、美食にどれだけ贅を尽くしたのかと尋ねたくなる。
ローブで具体的な体格は測りづらいが、あくまで外見から判断した場合、山賊の格好の的だ。
しかし、彼の決定を躊躇わせている理由の一つが、相手が背嚢の類を持っていないということだ。このような森の奥地で手ぶらなど、道中で物を落としたのでも無い限りあり得ない。
周囲には従者の影なども見られないから、荷物を預けているという可能性もない。
何か、予想も付かないような隠し球を持っているのではと思わせるに十分な、不自然な人間だった。
──顔が、こちらを向いた。
柔和な表情ではあったが、その威圧感は竜を思わせるほどのそれ。
視線と同時に何らかの魔法を使ったのか、質量すら感じるほどの魔力が一団を襲った。
部下もそれに気付き身構えたが、頭はそれすらもできなかった。
力の差、魔力の質を理解する技術に誰よりも長けている彼は、腰を抜かしてしまっていたのだ。
頭はようやく気づいた。
目の前にいる人間は、魔に属する存在だと。
幸い今は膝をついて茂みに身を隠している状態のため部下にも察せられることもなかったが、それを心配するようなら余裕など、今の頭にはない。
高い能力を持つ魔術師は、武人十人以上に相当する力があるというが、目の前にいる人間は、魔術師としての物差しで測るのも馬鹿らしい。こちらの数は、少なくとも正面から勝てる相手ではないし、奇襲でも果たして有効打を与えられたかどうか。
その人間は、明らかにこちらへ気づき、向かってきている。
その魔力も恐ろしいが、物々しい身なりの彼らを見ても物怖じせず笑顔を向ける様が、不気味だ。
頭はたまらず、歯の隙間から息を短く吐き、し、という音を出した。仲間に停止を訴える暗号だ。
まともにやり合えば少なくとも被害は避けられない。認識されているような状況で、このまま逃げてもうまくいくかどうか。
頭が懊悩していると、その人間は小川を超えて、約十メートル手前で止まり、口を開いた。
「姿を見せることを許す」
福音めいて鳴ったその音を初めから言葉だと認識できたのは仲間の中でも誰もいないだろう。しばらくして言葉の意味に気づいた頭が立ち上がり相対する。だが、力の入らない足がそこで曲がり、騎士が王に頭を垂れるような姿勢になってしまった。
「何を畏まる、一つ聞くだけだ。この川は人里に通じるか?」
答えようとしたが、声どころか頭すら上げられない。
しばらく固まっていると、気配に不愉快の色が混ざり、それが直接的に死を思い浮かばせる。
そこで辛うじて、下がった頭をさらに下げることで返すことができた。
「ふむ……これはせめてもの餞別だ、受けよ」
人間はどこかから石のようなものを取り出すと、それを思いのほか優しく彼の目の前に置いた。
「さらばだ、精々務めに励むことだ」
そうして人間は去ってゆく。その気配が完全に遠のくまでそのままの姿勢でいたが、目の前の石が子供の拳程度の、価値の想像もつかなそうな立派なダイヤモンドであるということに気づいたのは、立ち上がれるようになった頃だった。
彼らは、亜人である。
人間から迫害を受け続けている彼らは、山賊に身をやつすことも少なくない。恨みが身にしみているため、人間を獲物としか見ないし、今までもそのように応じていた。
頭にとって、人間にあのように慮られたことは初めてだった。死を幻視したためか、その事実は強く彼の印象に残った。
強く美しく、獣人に優しい人間。
もしもっと昔に、あの人間──彼女と出会えていたら、違う生き方も選べたのだろうか。
そんな詮ないことを考えつつ、彼は立ち上がり、宝石の使い道を考え始めた。
奪うばかりの生活をしている彼らにとって、換金は非常に難しい仕事なのだ。
***
ありがたいと思うならなぜありがたいと言えぬッ!
というのが、さっき初めて見かけた現地住民とのやりとりの評価だった。
今の俺の言語能力はかつてのシャルシャックに準じているが、ここまでややこしいとは思わなかった。
まず、謝罪や感謝の言葉が出てこない。ちょっと用件あるので出てきてくれますか的な言葉を藪向こうで作業していたらしい人に問いかけたら「姿を見せることを許す」とかになった。
やはり、王とだけ言われるだけあり、生前はとんでもない高慢ちきだったようだ。
さっき話していた人は農作業に従事している獣人さんのようで、かなり汚い格好だった。対して、こっちは目が痛くなるようなローブ姿。地位を勘違いしたらしく平伏されてテンパってしまい、慌てて、出発地点から持ってきた宝石を出してしまった。
出発地点にはシャルシャックが残した財宝が割とあり、その中で金子になりそうなものをいくつか持ってきたんだけど、その中でもひときわ高そうなブツだ。
なんかもうちょっと適切なお礼ができなかったのか、と思うが、実際他に金目の物はないし、また会えるとも思えない。
これも巡り会い、偶然、ケセラセラ。と思い込むことにして気にせず進むことにしよう。
そう、うっかり崖から足を踏み外しながら思った。
この体、足元が滅法見にくいのよ。
思い切ってATOK買ってみたんだけど時折入力画面出てこな
くてウボァー
文字数少ないはずなのに見返すのもめんどくさい!