チートを割と無駄にしながらも帰ろうとするお話   作:餃子

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 何度かトラブルを発生させながらも、ようやく人里に到着した。

 というか、落着した。途中で川が伏流水になったため見落とし、勘で歩いてたら細い崖を歩く羽目になって、で、落ちて、長ったらしい坂道をゴロゴロ転がっていった先は、たぶん、街の囲いの近く。

 どうにも体が止まらなくてバターになるくらい回転してた気がする。普通なら死んでるが、そこはチートスペック、少しの痛みもない。

 

 五メートルほどの高さの壁がずっと続いている。少し後ろに引いて見ると、城のような高い建物が見える。ひょっとしたら城下町的な存在なのかもしれない。

 回転を止めた地点からさらに十分程壁沿いに歩いていると、ようやく、人がちらほらと見え始めた。

 

 俺が転がっていた岩山のあたりは基本的に人が近寄らないところなのかもしれない。今、足元はまばらに雑草が生えていて、木もぽつぽつとある。

 

 俺の方を見た人たちは露骨に驚いたようなそぶりをすると逃げてしまう。慌てて自分の格好を確認するが、ローブには特に汚れもない──これもチート装備である──し、髪の毛なども撫でて落ち着かせている。

 多少派手かもしれないが、そんなに変でもないと思う。

 

 ……ごめん、変だわ。今の俺は、多分存在自体がアレだ。

 

 城門、ここは城下町だと思うからもう城門って呼ぶけど、そこが通用口だった。

 普通の格好をしている人、いかにもファンタジーな皮鎧の人、馬車を持ってきた商人さんなどが集まっては衛兵に通行手形的な何かを見せては通っていた。

 俺を見た衛兵が硬直する。やはり俺の身なりがアレなのだろう。けど、彼も仕事であるだろうし、俺を受け付ける義務だってあるはずだ。

 

 やっぱり動きを止める皆さん。近づくとえんがちょめいて避けていくものだから動きやすいね。

 泣いてない。

 

「こ、ここッ!」

 

 地面に槍を向けつつ、衛兵さんが止まるように指示してきたので、大人しく立ち止まることにした。

 

 衛兵さんはしばらくそのままの姿勢でいた。俺も何もできずに止まっていると、門の陰から年配の、それでいて壮健そうな、鎧を着込んだ男性がやってきた。

 衛兵さんがようやく槍を下ろしてくれたので、こちらも姿勢を崩すことができた。余裕があれば、初めて見た武器をじっくり鑑賞したかったものだが。

 

「……通行手形か、招待状が必要だ」

 

 代わりにやってきた男性はそう言った。

 

「初めて足を運んだ故、そのような類いは持ち合わせておらぬ。案内せよ」

 

 初めて来たので、そういうのは持っていません。どうすれば入れますか? って言ったつもりだったかこのザマである。

 元の世界に帰るのに時間がかかるなら、当たり障りのない口調を覚えたい。

 

 俺の無礼千万な物言いに露骨に顔を歪ませた男性は、それでも言葉を重ねた。

 

「現場責任者の私が認め、手数料を払えば通行手形を発行できる。ここに来た理由は何だ」

 

 人恋寂しいからです。

 じゃない。いや、そうでもあるが。

 

「叡智を。魔の深淵をこの手にするため」

 

 一番の目的は、帰還のための魔術を探すことだ。

 

「母なる天地へ還るため、不虞たる災禍に抗うために」

 

 なんか厨二なセリフになったから追加で言ってみたら、さらに酷いことになった。

 これもう、腰に付けてる剣を向けられるかも分からんね。

 

「……アルバコアに害を与えないという保証が欲しい」

「吾輩の目的は探求にこそある。民草を刈ることは無い」

 

 すげえ、この人、俺の会話に付いてきてる……キテル!

 アルバコアというのが、街の名前か。なんかお船の名前っぽい。

 

「歓迎したいところだが、その前に身分証明を取りたい。こればかりは私の一存では決めかねるうえ、状況によっては長時間の拘束にもなる恐れがある。もちろん、可能な限りのもてなしの努力をするので、了解してもらえないだろうか」

「是非もなし。善きに計らうがよい」

 

 懐の深い男性、これからはおじさまと呼ぼう、おじさまはポッと出の俺なんかに優しいことを言ってくれた。

 身寄りも足元もない俺に、こんなにありがたい話もない。場合によってはしばらく雨風をしのぐことができる、ということだ。

 むしろ門前払いも予想していたのだから、感動も一入だった。

 だが──

 

「だがな、吾輩は吾輩の吾輩たるを知らぬ故、貴様らにそれを知ることなどできようか」

 

 口調はアレだが、ぽつりと漏れた独り言は俺の心情を正しく表現していた。

 

***

 

 鈍感な俺ですら分かるような、無遠慮な魔力を感じた。

 声がかかる前に書類を畳み、急いで外へ出た。

 隊でも有数のお調子者であるサグが、震えながら槍を相手に向けている。その相手は、一言で言えば異常だった。

 女の中でも頭一つは高い身長、何かを隠しているのかと思ってしまう程に大きな胸部。

 かといって肥っているわけではない。ローブでから覗く首や手はむしろ華奢だ。

 顔に関しては、俺は美的センスに自信がないから詳しい評価をしないが、少なくとも人の基準を超えている。白いローブと対比するかのような長い黒髪は、煮詰めたように真っ黒だ。

多くの人間を見ているから分かるが、混じり物だ。それも、例を見ないほどの。

 

 彼女はその不遜な言動に反して、意外と従順だった。誘導のためにロープを首につけても嫌がらなかったし、今もこちらの動きを汲んで無駄なく付いてきてくれる。

 それにしても魔力が濃すぎる。目線の先に魔力が向いているようだが、それに悪感情が乗っていればそれだけで人が死ぬ。

 幸い、彼女は一貫して穏やかだったから良かったが……

 

「どうにかならないだろうか」

「主語を言え」

 

 聞こえないくらいの小声で呟いたところ、耳聡く反応された。振り返ってきた彼女はなぜか笑顔だった。

 

「……魔力を押さえてもらえないだろうか」

「異なことを」

 

 何が変なのか。

 そもそも、どれだけ魔力を持っていても、今の彼女のように垂れ流すことはあり得ない。

 まず、無駄だ。

 そして、魔力に敏感なものに感づかれる。

 さらに、魔力には感情が乗るから、行動が読まれやすくなる。

 熟練の魔術師であればあるほど、これらのデメリットを問題視するものだ。戦いにおいて魔力はこれ以上ないほど分かりやすい判断材料なのだから。戦いでなくとも、少なくとも腹の探り合いでは圧倒的な不利益をもたらす。

 まさか、魔力を出すことで敵意がないということを伝えたかったのか? だとすれば逆効果だ。これでは、いかに感情が穏やかでも、脅しにしかならない。

 

「要を感じぬ生であった」

 

 彼女はそう嘯いた。いや、もしかしたら本当かもしれないが、揺れない感情は真意を伝えてこない。

 

「だか、努めよう」

 

 やはり楽しそうな、まるで新しいことに挑戦するかのような子供を思わせる顔だった。




おれのひんこんなごいでは、かわったいいまわしはむつかしいのだー
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