チートを割と無駄にしながらも帰ろうとするお話   作:餃子

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よいしんねんをー


第6話

 

 別に、掃除を甘く見てる訳じゃない。

 俺は高校の頃から派遣とバイトをしまくっていて、その中で清掃の仕事もあった。

 それは汚いし思いの外重労働だったりするし、酷いと、道行く人から見下される。

 でも、そんな仕事をきっかけに、清掃は社会に欠かせないものだと強く思うようになった。ポイ捨てしない、落ちていたゴミは拾う、という人もいるかもしれないけど、大半が無関心なのだから、普通は汚れる一方。気が向いたときに掃除すれば、というわけにもいかない。汚れは汚れを生んで加速的にその場所を使いづらくする。

 彼ら清掃業がなければ、社会全体の生産力は大きく下がる事は確実だ。

 

 そんなわけで、俺は掃除の達人……いや、ここは心得あるくらいに抑えとこ。

 もう日が暮れているし、光源がランプとかに頼っているため、これからの掃除は困難だ。なので、もう一度全体を見回ることにした。

 

 約六畳で、灰白の石壁。床材は石灰と砂利が混ざったもろいコンクリートのようなもので、上には申し訳程度の厚さのカーペットが敷かれているものの、汚くてボロボロ。

 机とベッドは歴史を感じるもので、お金があれば買い換えたくなるようなものだった。

 布団は洗われているみたいだけど、ゴワゴワしていて体にはフィットしないだろう。

 

 全体的にかび臭いが、カビ自体は生えていないようだった。灰色の壁とかにこっそり混じってるのかもだけど、対処は他をやってからにしようかな。

 

『そうだ、換金しよ』

 

 基本方針が浮かんだので、散策がてら出ることにした。

 移動が制限されているとはいえ、城壁内はわりと自由とのことだった。お店も多く入っているから、きっと良いものもあるだろう。

 起きた場所は半ば廃墟になっていたお屋敷で、そこはほとんど風化していたけど、少しは残っていた。特に貴金属は問題ない状態で、存分にパクってきた。全部で日本円ならいくらだろう、証明書あればかなりの値段になりそうだ。

 

 部屋の前で控えていた衛兵さんとメイドさん──俺のために待機しているということだが、VIP待遇過ぎやしないか──に散策すると断りを入れて十分ほど適当に歩いたものの、それらしい店が見当たらなかった。

 ううむ、商人も出入りするって聞いていたから楽観視していたけど、意外と難航してしまっている。場所を二人に聞けば良かったかな。

 

 そんな時、一つの店が目に留まった。

 壁を削ったような窪みに所狭しと並べられた剣や槍、盾に鎧など。その中央に辛うじて机と呼べる、小さなカウンター。

 ファンタジーの王道、武具屋だ。カウンターには少年が「閑古鳥です」と言わんばかりに盛大に突っ伏している。

 

「少年」

 

 呼びかけるや否や飛び上がるようにして顔を上げ、そこにかかっていた剣の鞘に後頭部を痛打、奇声を上げながらこっちを見ると顔面蒼白という芸達者を披露した。

 なんかもうこういう反応にも飽きてきた──歩いているときにも同じような反応をされたけど、あえて無視していた──から、黙って手頃な貴金属、多分金の塊を取り出した。

 今の俺の拳の半分くらいの大きさしかないものの、やたらと重い。

 

「ご、ごめんなさ──」

 

 謎の謝罪をしつつ嘔吐するというリアクションに困る行動を呆けて眺める。彼の胃には何も入っていなかったのか固形物はないが、きつい酸の匂いが鼻につく。石畳が汚れてしまったが、今の俺にはどうしようもない。

 

「息を吸え。そうだ、吐け……吸え。吐け。吸え、吐け。吸え。吸え、吸え……」

 

 呼吸を促すと従ってくれたので誘導する。最後は勝手に勢いよく息を吐き出してしまったが、別にイジメじゃない。深呼吸は落ち着かせる効果があるのだ。

 

「これの買い取りを許す」

「ファッ!? ……こ、これですか……これは?」

「判断は貴様の裁量に任せる。価値も貴様が決めよ」

 

 俺じゃ分からないのでそこのあたりはよろしくお願いします(原文)。

 ……クソァ! 翻訳おかしいだろ!

 

 彼は震える手でそれを持ち、重さに驚く。

 

「これは……」

 

 驚いた彼は懐からナイフを取り出すと、勢い良く推定金塊に突き込んだ。刺さりはしなかったが、やたらと強い、火花とはまた違う強い光を放ちつつ、ほんの少し削れた。

 

「……金……? あ」

 

 許可無く削ってしまったことに気づいた少年はまた吐きそうになったが、無問題とうなずき返すと、何とか落ちついてくれた。

 

「金、多分、金です」

「ふむ……ならば、価値は如何ほどか」

「大体、五十万くらい、でも、お、俺じゃ無理です」

「持たざるは金か、権利か」

「……どちらかっていうと金、です。親方に、言わないと、お金、そんな出せない。少しなら買えるけど」

 

 相場がわからんぞい。異世界なんだから金の価値も違うかもしれない。万単位ならウハウハだが、ジンバブエ的単位だったらおめめがうつろ待ったなしだ。

 と、商品に値札が付いていることに気づいた。

 何の変哲も無い剣が四千……シェル、という単位だろうか。もう少し確認すると、槍は三千五百。何に使うか分からない粉は、一包八十。シェルじゃなくてライという単位だけど、夢が見れるクスリでも無い限り下位互換だろう。

 

 ううむ。悩ましい。

 

「火急故、端金でも許そう。いくらなら可能か」

「に、二万……」

「良かろう」

 

 呆ける彼に重ねて「良かろうと言ったのだ」と偉そうに言う。

 普通の服が鎧の一万を超えることはないだろうし、とりあえずは十分だろう。

 

「吾輩は近く出立するが、明日も来る。質に不満があれば、その時にでも訴えて良い」

「い、いいんですか」

「許そう」

 

 相場の二十分の一で売るとか狂気の沙汰だけど、大金は今いらないし、まだあるし。

 

 その後、数回のやりとりの末、ようやく二万シェルをゲットできた。

 これでようやく掃除道具を買うことができる……前に、服買う。

 裸ローブは難易度高すぎる。このローブは重くて分厚いから滅多な事じゃばれないだろうけど、心労の半分はこいつのせい。

 

***

 

 次の日、彼女はまたやってきた。

 昨日とは違う、わりと普通の服だったけど、その分この人の綺麗さがよく分かった。

 とんでもない身分の人に話しかけられて、何か大変なことをしでかしたのかと緊張して吐いたり、慌てすぎて、預かり物に勝手に傷をつけたりしてしまった。

 そのくらいでは怒らない人みたいだったけど、それだけに死にたくなる。こんな美人の前で俺はなんて事したんだと。

 

 昨日買い取った金塊は、そのとき、親方には見せることができてなかった。昨日がちょうどその日だった入荷から五日はずっとここで売ることになってるからだ。

 そのことを伝えると、彼女は名乗ってから行ってしまった。

 

 それ以来、俺は彼女を見ていない。仕事もあったから砦の人にも聞いてない。旅人か何かだったんだろうか。

 

 工房に帰った俺は金塊を見せると、早速殴られた。かなり怒ってたけど、それでも歯がぐらついたりしないように手加減する親方は優しい人だ。

 

「で、坊主よ、これ、いくらで買った」

「……二万」

「……おい、ふざけてんのか」

「あの人が、それで良いって」

 

 親方は俺から金塊を取ると、「なんか赤いな」と言いながら鉋を取り出し、削った。

 

 昨日俺がナイフで叩いた時と同じように、ランプのような優しい光が出た。それを見た親方は石みたいに動きを止めた。

 

「坊主よ、売った奴はこれを何と言ってた」

「そりゃあ……あれ?」

 

 金だと思ってたけど、そういえばあの人は、これを『これ』としか言ってなかったはずだ。

 あの人の言葉はまだ耳に残ってるから間違いない。

 

「ヒヒイロカネって知っとるか」

「なにそれ」

「知らねえのかよクソ坊主。魔力をチョロッと流すだけで、堅さも形も自在に変わるっていう奴だ」

 

 言うとおり、親方は魔力を込めているみたいで、その表面がグニグニと動いてた。気持ち悪い。

 

「……珍しい?」

「いいや」

 

 親方はまだ汚れてない布を適当に見繕ってそれを包むと、やっと、強張った顔を歪ませた。

 見たことのない顔だ。

 

「見たことがねえ」

「ひょっ」

「叩くと光る、魔力からの反応、あと、色も。やっぱり今までこんなのは見たことがねえから、十中八九、話のアレだな」

 

 アレって何さ、と、目で聞いてみる。

 

「神話でしか出てこねえブツだよ。珍しいってもんじゃねえ──どうすんだこれ」

 

 多分、親方の今の顔は泣き笑いって奴だ。

 

「この事、絶対に言いふらすなよ。言ったらどうなるか分かったもんじゃねえ」

「え? 凄い奴なら別にいいんじゃ」

「単に盗まれるだけじゃ済まねえよ。お前、拷問されて、売ってきた奴のこと吐かされるくらいされるんじゃねえか」

「マジ?」

「俺ならそーする。とにかくコイツは封印だ。出してたらろくな事にならん……!」

「買い取らなかった方が良かった?」

「いいと思ってんのか──つっても、普通見破れねえだろうけどな」

 

 マジかよあの女酷いの売ってきやがった。

 拷問されたらソッコーでゲロっちゃえ。あの時みたいに。

 でも、後であの女にゲロいことされそう。何でか超恐えんだよな、あの女。




ここまでの話が伏線かどうかは蟹の味噌汁
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