放課後、部室で集合するように連絡があった。次の相手は北陽みたいだ。パーフェクトサッカーと言われるように戦術の使い分けが上手く、個々の能力も高い。とりわけ、空宮征は雷門のスタメンの何人かより能力が高い……スプリング杯の映像見たときの印象はこうだ。なかなか厄介な相手だな。
突然部室内のスマホが鳴る。
「誰のやつだ?」
「すまない……俺のだ」
画面を見るとそこには『赤袖茉莉』と書かれている。
これ、出ないとまずそうなやつだな……。
「誰や思うたら、赤袖やないか。態々こんな時間にかけてくるんわ、なんかあるんやろ」
「赤袖?」
「おう、赤袖茉莉。雷門中のスタメンや。大方、西ノ宮の話は赤袖から聞いたんやろ? 光」
「いや、まぁそうだけど」
「なるほど……。では、その赤袖茉莉さんには直接感謝を伝えたいのだが、いいかい? 暁君」
「西ノ宮戦のとき確かに、我流は感謝を伝えたいと言っていたけど、何も直接伝えなくても良いんだぜ?」
「別にええやろ? 感謝なんか減るもんやないで。実際勝てたんやし」
俺たちがあれこれ言っている間もスマホは鳴り続け、他のメンバーは部室を出て、練習を始めたようだ。仕方ない、出るか……
スピーカーにして応答する。
「もしもし……いやなんでいきなりテレビ通話なの……?」
いきなり、画面越しに茉莉が出てくるから驚いた。
「もしもし、それは……」
「私もいるからだよっ‼︎」
「ナオもいたのか。2人してどうしたんだ?」
「さっきまで、南雲原と西ノ宮の試合見てたから、そのことでちょっとお・は・な・し、したいことがあって……でも、まずは勝利おめでとう」
「おめでとー‼︎」
やっぱりあのことじゃないか。微笑みながら言わないでほしい。余計に怖い……。
「ありがとう。その前に……」
そう言って俺は、我流を映す。
「どうも、南雲原中サッカー部ゴールキーパーの四川堂我流です。西ノ宮中戦、赤袖茉莉さんの情報提供いただいたおかげで、勝つことができました。ありがとうございます」
「いえいえそんなー」
「なんで、ナオが答えてんの……。南雲原にサッカー部がないと思っていた私が、良かれと思って光に教えただけなので、感謝されるほどのことではないです」
「その情報があったからこそ、事前に試合を組み立てて、冷静に対処できましたから」
「うちは負けたら廃部だったからな。雷門の2人がいるって分かってなかったら、負けてたよ……。だから、さ」
「え、負けたら廃部‼︎そんなときにハルくんいるのついてないね……」
「そういうことでしたら、受け取ります……四川堂さん」
「四川堂君‼︎じゃあ今度は、決勝大会でよろしくねー」
「はい。よろしくお願いします。では、暁君は赤袖さんからお話があるようですし、これから練習があるのでこれで失礼します」
そう言い残して、我流が部室から出た。
「ほんと、ナオの言う通り円堂ハルがいたのはついてなかったなぁ。でも、生で見れたし、シュートを受けられたのは良い刺激だったよ」
「ねぇねぇ、ハル君と戦ってみてさ、光君と比べてどっちが強いって思うの?」
「まぁ、実力的に円堂ハルの方が上だと思うな。前半の間、ずっと彼を見ていたけど、パワーとセンスが違うね、やっぱり……。跳躍力とスピードは勝ってると思うけどね」
「話……逸らさないでほしいんだけど……」
「ほぉ、ここがサッカー部の部室か……」
「そうみたいですね。入ってみますか……」
「あぁ。そうしよう」
外から知らない声が聞こえる……。
「ん?」
「どうしたの?」
「外から知らない声が聞こえる……」
「追い返した方がいいんじゃない……?」
「失礼しまぁーす。あ‼︎⁉︎」
入ってきたのは北陽学園サッカー部だった……。空宮征と品乃雅士だ。
「北陽学園……」
「君は‼︎」
「こんな堂々と偵察に来ることがあるか‼︎」
「暁光‼︎」
「え……北陽の人たちが来たの?」
「北陽は次の対戦相手だ……」
「逆にすごいですね……こんなに普通に偵察に来るの……」
「空宮、知り合いか?」
「えぇ、忘れもしませんよ。ジュニアカップで1回、東京から稲妻KFCが来たんです。そのときに、コイツと雷門の赤袖茉莉、星村ナオに手も足も出なかった……。6-0で負けました……。どうして、南雲原にいるんだ‼︎」
「こっちにも、こっちの事情があるからね……それに、悪いんだけど、今の話これで茉莉とナオに聞かれてるよ……」
スマホの画面を北陽の2人に向ける。
「どうも〜」
「なっ‼︎」
次の対戦相手だし……堂々と偵察しているし……少し挑発しておこうか……。
「まぁ、スプリング杯で茉莉とナオがいる雷門中にボコボコにされたみたいだし、今度は南雲原が君たちを倒す番だな……」
「そう……光はあのときのハルさんよりも点を取るから、北陽の皆さんは首を洗って待っていてください」
「ちょっと茉莉煽りすぎじゃない? 俺今ポジションFWじゃなくて、DFだよ。円堂ハルよりシュートする機会少ないから、流石に厳しい……」
あのスプリング杯の試合、6点中5点がハルの得点だ……。俺のワンマンプレイになればいけるかもしれないが、みんなで勝ちたいし、みんなで点取った方が正直気持ちいい……。
「くっ!!」
「ともかく、これ以上ここにいたって、何も得られるものはないよ……」
「絶対、暁光を倒して、君たち雷門中も倒す‼︎」
そう宣言して彼らは部室から出た。
「で、四川堂さんなり北陽なり、色々乱入があったけど本題に戻るよ」
「そうだった! それで、電話したの忘れてた‼︎」
「悪かったとは思ってるよ……」
「悪かったって、何が……」
「それは、もちろん南雲原にサッカー部ができたことだ……黙っていてすまなかった」
「どうして教えてくれなかったの?」
「それは全国大会までの秘密にして、2人を驚かせたかったんだ……」
「そう……まぁそっちの方が嬉しい意味で驚いただろうけど……」
「光君ついてないね、西ノ宮にハル君たち来てなかったらまだ隠せてたのに……」
「ねぇ、ナオ……あなたも私のこと良くない存在かなんかだと思ってない?」
「ないっ、ないっ! 思ってないよー」
ナオが茉莉から目を逸らした……。もう遅いよ……。
「本当にすまない。なんでもするよ……」
「あー‼︎今光君なんでもって言ったよ‼︎茉莉‼︎」
「うーん……じゃあ今度デートしよ。地区予選決勝が終わったら」
「分かった、そうしよう」
「長崎、案内してよ……」
「あぁ」
「そういえば、どうして南雲原のサッカー部ができたのを知ったんだ? 円堂ハル推しのナオが試合を見て、それで茉莉も知ったのか?」
「いや、違うよー。茉莉の方が先に知ったんだぁ」
逆か……。意外だな。
「ハルさんがベンチで南雲原って呟いていたのが聞こえてきたから、それで問いただした……」
「ハル君、笹波君って子しか印象に残らなかったみたいだよ。光君、ハル君のシュート止めた初めての人なのに……」
雲明だけかぁ。少し悔しいな……
「そっか……でも、印象に残らなかったってことは警戒されないってことだし、それでいいか」
「でも後半キャプテンを機能させなかったから、キャプテン警戒してるよ」
「あぁ、そうだった……」
じゃあ雷門にどの道警戒されるから意味ないか……。
「南雲原にサッカーができたのは嬉しい。ようやく光がフットボールフランティアの舞台に立つから……。絶対、決勝まで来てね、途中で負けたら許さないから……光を倒すのはハルさんじゃなくて私……」
「そっちも負けないで……」
言うべきかどうか悩む大事なことを思い出した。乙女監督のことだ。あの時の乙女監督言葉を思い出す……。アイルは円堂ハルを恨んでいたと……。まさかとは思うが、復讐しようとしていないか……。俺が長崎にいる以上、俺が乙女監督を止めることはできない……。
それから近況を報告しあって、電話を切り、グラウンドに向かった。
「サンシャインブレード」
空宮征のシュートが我流の横を通り過ぎる。
あれ、北陽とサッカーバトルをしてる。駿河以外の試合をしていない他のメンバーはあっちで練習している。でも、雲明が見当たらないな……。どうしたんだ?
駿河に声をかけた。
「雲明はどうしたんだ?」
「ああ、お袋さんが倒れたみたいでな……。病院に行ったよ」
それは急を要するな。心配だ……。
「そうか……無事だといいな……」
「で、なんで北陽と試合を?」
「北陽の奴らがスパイしに来てたんだよ。俺は注意しに行ったんだ。そうしたら、忍原が来てサッカーバトルやろうと言ったんだ。その前に雲明が桜咲と忍原のシュートはゴールを破れないって言うもんだから、本当か確かめるつもりだと。やけに北陽側も血気盛んだったから、やることになったんだ」
ん? やけに血気盛んだった……?
「すまない。北陽が乗り気なのは、さっき部室に入って来たときに、俺と雷門中の知り合いが追っ払うために煽ったからだ……」
「そうだったのか……まぁ結果は見ての通り、剛の一閃もぐるぐるシュートも止められたぜ。だが、サッカーバトルであいつらの動きが分かったのは大きいな」
試合が終了し、結果は0-1でこちらの負けだ。サンシャインブレード……。高い所からのシュートだったな。あれを封じる新必殺技でも考えるか……。
「公式試合の前に勝負は見えたみたいだね」
「くそっ!」
「全く手も足も出ないなんて……」
「復活した南雲原はやはりこの程度か」
「うちと並ぶ戦略サッカーで西ノ宮を破ったと聞いていたし、先程暁と赤袖に散々煽られたが眉唾だったようだな」
「クッ、雲明がいればもっと善戦できたのによ」
「確かに……雲明の作戦があれば……」
「言えてるな……」
「ボンはおらんし、ワイも別の場所で練習しとったさかいな……まだ分からんで空宮」
「今……なんて? ……ん? ジークいた?」
雲明のことが気になるみたいだ。ジークのことも知っているし、小学生のころの知り合いか……?
「うちのスーパー軍師、諸葛孔明こと笹波雲明がいれば、こうも一方的にやられなかっただろうって話」
「雲明……!? まさか……あの雲明? 笹波雲明?」
「ああ。知り合いか?」
「そうか! 雲明はサッカーに戻ってきたのか。でいつここに来るの?」
「それが……雲明は……」
「おーい! そろそろ時間だぞ〜」
友部仁が北陽メンバーを招集する。
「空宮、残念ながらお友達との再会は次の試合の時までお預けのようだな」
「ええーっ!」
そう言って北陽メンバーは去っていった……。
「なんとしてでも、春雷を完成させないとな……」
「そうだね……」
丈二と来夏の言葉に試合を見ていたみんながうなずく。春雷が何か分からないが、多分対北陽の必殺技なのだろう……。
「もうこんな時間だし、解散しようか」
雲明不在のため、我流が部の練習を終了させた。
「ねぇねぇ、雲明君のお母さん心配だし、みんなで様子見に行こうよ」
来夏が提案する。
「いや、待て。全員で押しかけたら迷惑だろ。ここは、俺1人で行く‼︎」
「1人で行くなら、丈二が適任かな。雲明の相棒枠って感じだし」
「そうだね。でも、桜咲絶対報告してよ‼︎」
「おう、任せろ‼︎」
丈二が病院に向かった……。
「柳生君、ジーク先輩、この後のこの場所に来てくれないか?」
我流は2人にスマホの地図を見せた。
「あぁ」
「おう‼︎分かったで‼︎」
キーパー特訓かな?
そうして、我流、駿河、ジークはどこかに向かっていった。
さぁて、俺も裏山に行くか……。
暁光
サプライズ失敗。総合的に見れば円堂ハルに劣っていると思っている。
赤袖茉莉
長崎デートで手を打った。光は恋人であり、ライバルでもある。円堂ハルよりも光の方が上だと思っている。
星村ナオ
久々に暁の姿を見た。ハル君推しなので、円堂ハルの方が実力があると思っている。
空宮征
東京にいるはずの暁の姿を見て驚愕。足がすくむほどの屈辱を味わったのは、暁・赤袖・ナオで1回目、円堂ハルが2回目。雲明とはよく試合していたので、当然ジークともよく試合している。