南雲原の勇者御一行様   作:ペンギンとクマ

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難産でした……。


第15話 不発

 朝、教室で我流とチェスをしていると、少し様子が変な来夏が隣の席に着く。

 

「光君、四川堂君おはよ」

 

「おはよう」

 

「おはよう、少し元気がないようだけどどうしたんだ?」

 

「ううん! 大丈夫! 元気、元気!」

 

 本人はそう言っているけど、空元気に見えるなぁ。笑顔もぎこちない……。本当に大丈夫だろうか……。

 

「元気ならいいけど、何かあったら気軽に言ってほしいな」

 

「僕たちは同じチームだからね。相談に乗るよ」

 

「分かった! ありがとう……。ところで何やってんの?」

 

「ノポンチェスだよ。暁君の誘いでやっているんだ」

 

「普通のチェスと違って、コマがノポンになっているんだ」

 

 俺はコマを持ち上げて来夏に見せる。

 

「あ、本当だ! カワイイねそれ、私もやって見ようかな」

 

「可愛い見た目だけど、やることは中々難しくてね……暁君に連敗中だよ……」

 

 我流相手に3連勝中だ。チェスと言うが、兵士を動かしながら商売で稼ぐゲームだ……。

 

「サッカーの盤面を考える上でも、自分の動き方相手の動き方を考えられるから結構いいんだよね」

 

「そっか、光君ボードゲーム好きなの?」

 

「あぁ、好きだよ。小さい頃からやっているんだ……」

 

 茉莉やナオともよくやっていた。

 

「今やるか? 交代するよ」

 

「え、いいの?」

 

 俺は来夏と交代して、来夏にコマの動かし方を教えながらチェスをやっているうちに予鈴が鳴った。

 

 

 放課後、サッカー部の練習が始まる。

 

「「ヴォルカニックストーム」」

 

 来夏と技の練習をしていたが、ゴールに辿り着く前に失速してしまう。

 

「もう1本行こうか」

 

「うん」

 

「「ヴォルカニックストーム」」

 

 やはりボールは失速する……。来夏も俺も打ち方は問題ないように見える。となると、メンタル的な話になってくるけど、やはり朝の来夏の様子が気になるな。それを気にしている俺のメンタルの問題かもしれないけど……。

 

「なぁ、昨日見たときより明らかに威力落ちてねぇか」

 

 丈二に指摘される。

 

「どうしてだろうかな……もっと打つ角度を変えた方がいいかもな」

 

 丈二は来夏の様子に気付いていなさそうなので、伝えないようにする。隠そうとしているのに指摘したら、却って良くない……。

 

「暁先輩、来てください」

 

 雲明から呼び出された。なんだ? 

 

 雲明に言われるがまま、部室に入る。

 

「どうしたんだ? 雲明。ヴォルカニックストームの不発の原因が分かったのかい?」

 

「まぁ、なんとなくは」

 

 なるほど。雲明は気付いているようだ……。

 

「先輩、昨日桃井さんに何を聞かれたんですか?」

 

 え? 昨日祥子に話したことが関係あるのか……。

 

「彼女がいるか聞かれたから、いるって言って答えただけだけどな……」

 

「忍原先輩の様子がおかしくなったのは、その話を聞いた後です」

 

 そうか……。あの話が聞こえて来た後か……。あの話がどう繋がるんだ……。

 

「選手のメンタルケアは監督である僕がやるべきことですが、今回の忍原先輩の不調は暁先輩がやってください。先輩が原因なので」

 

 俺が原因なんだ……。つまり、雲明からの話をまとめると、俺と茉莉が付き合っているということを聞いて、来夏の調子が悪くなった……ってことか? 

 

「先輩、今日は裏山の特訓は休養日ですよね。練習終わったら、忍原先輩を喫茶タンクにでも誘ってください。先輩って、人の恋愛の好意にはずっと目を背けて来てますよね? 1回先輩は忍原先輩に向き合うべきです」

 

 確かに茉莉と付き合っている、ということもあって人の好意は受け取るが、恋の好意はずっと目を逸らしていた。薄々分かってはいたが、気付かないようにしていた。特に誰かから彼女がいるか聞かれることも告白されることもなく、答えなかった。それが良くなかったのかもしれない。誰かを傷つけるのを恐れていた。しっかり向き合うべきだった……。チームメイトなんだから特に……。

 

「あぁ、分かったよ」

 

 

 ────

 

 うーん、やっぱり私のせいだよね……。ヴォルカニックストームが失敗したの。光君は自分の蹴る角度が……って言ってたけど、朝から私が凹んでいるの気付いていたからなぁ。これは私の気持ちの問題……。

 

 それとなくメニューをこなして気付けば、部活が終わっていた……。

 

 光君とは、1年生から同じクラスで、隣の席になることが多かった。だから、話す機会も多くて色々助けてもらったり、おじいちゃんのこととかを相談したりしてた。サッカー部に入ってからも……。親身になってくれるし、いつだって自信満々なところに惹かれた。私の好意は、光君は友達としての好意として受け取っていたと思う。あの噂があっても、特に光君は答えないから、いないって私が勝手に信じていた……。だから、現状に甘えていたんだ……。クラスで隣の席にいて、同じサッカー部にいる現状に……。

 

「なぁ、来夏」

 

 光君が突然話しかけて来た。私のことを心配してくれているんだ……。私が光君に勝手に期待して、勝手に崩れただけなのに……。私は特に何もないように意識しながら、答える。

 

「どうしたの?」

 

「この後、喫茶タンクに行かないか?」

 

「え!?」

 

 どうして、突然誘って来たんだろ……。

 

「いっ、いいよ‼︎もちろん‼︎」

 

 慌てて驚きを隠して平然としたように答えた。

 

 

「いらっしゃっい‼︎おや、珍しい組み合わせだね」

 

 みどりさんが出迎えてくれる。珍しい組み合わせ?ということは光君も1回は来たってことだよね……。

 

「あれ、光君来たことあるんだ」

 

「2回ね。最初兵太に誘われたんだ」

 

 やっぱり木曽路からだったか。まぁ、サッカー部のみんなは木曽路からだよね。私も作戦会議で初めて行ったなぁ。私たちは空いている席に着いた。

 

「注文は?」

 

「私はカステラパフェで‼︎光君は?」

 

「俺はぴかぴかじゅーすでお願いします」

 

「あいよ」

 

 ぴかぴかじゅーすってどんなのだろう? 聞いたことないなぁ。

 

「ぴかぴかじゅーすってどんなの?」

 

「うーん、なんというかトロピカルで炭酸の効いている飲み物かな。小さい頃から好きで見かけたら買うんだ」

 

「そうなんだ……私も今度飲んでみようかな」

 

 今日は光君の好きなもの2つも知れたなぁ……。あんまりそういう話もしなかったから……。でも、彼女がいないって信じていた昨日までなら、もっと嬉しいって思ってただろうな……。その事実を再確認して、落ち込む。

 

「あぁ、美味しいよ。気に入ると思う」

 

 少し沈黙した時間が生じた……。

 

「あの」「ねぇ」

 

 あ、被っちゃった……。

 

「先どうぞ」

 

 光君がそう言うので、私から言う。

 

「あの、昨日聞いちゃったんだけど……光君って彼女いるんだよね……」

 

「あぁ、いるよ」

 

 やっぱりいた……。昨日とは違って私から事実を吐かせた……。その行為で自分で自分を突きつけたことに苦しくなる。

 

「そっか……私、好きだったんだ……光君のこと。光君はさ、私の好意を友達として受け取っていたかもだけど……」

 

「すまない……薄々、来夏の向ける好意が、友達としてじゃないってことは気付いていたんだ……。だけど、目を背けていた……。傷つけたくないって思ったんだ……。誰かが傷付く姿を見たくなかった……」

 

 傷付く姿を見たくなかった……か。光君はずっと私の目を見て話す。いつでも真っ直ぐな光君でも、恋愛は真っ直ぐじゃないんだ……。彼女さんには真っ直ぐなんだろうけど……。いや、違う……。そう言うことを考えたい訳じゃない……。自己嫌悪に陥る……。

 

「ううん、私がいないって勝手に期待していただけだから……気にしないでよ」

 

「いや、気にする!だから、来夏と一度しっかり向き合おうと思って!」

 

 私と向き合う……! その言葉にハッとした‼︎隣でいることに甘えていたけど、私もしっかり光君に向き合おう。

 

「ねぇ、光君に言いたいことがあるの!」

 

「なんだい?」

 

 光君はいつものように優しく微笑んだ。

 

「私、光君のことが好き……。いつも親身になって相談聞いてくれるし、自信満々にしているところも、でも現状に満足せずに上を目指して努力しているところも、ぜんぶっ‼︎好き! 私と付き合ってください!」

 

 私は告白した。結果は分かっているけど……。でも、私も現状から一歩前に進まなきゃ。

 

「すまない……。彼女がいるんだ東京に。だからその思いには答えられない……」

 

 やっぱりそうだよね。分かっていた。でも、さっきまでよりも気分が良い。なぁなぁにせずに、私に向き合ってくれるって言ってくれたから……。やっぱり光君には聞いておきたいことがある。予想はついているけど、光君の彼女が誰かだ。

 

「ねぇ、その彼女って赤袖さん?」

 

「え? あぁ、そうだけど」

 

やっぱり赤袖さんか……。稲妻KFCに一緒に所属していたみたいだし、北陽が合併前に視察に来たときの電話の相手がジーク曰く、赤袖さんみたいだったし。

 

「どんなところが好きなの? 赤袖さんのこと」

 

「明確に好きだって認識したのは、告白されてからかな。明るくないように見えるんだけど、しっかり心は熱いんだ。小学生のころはずっと一緒にいて、サッカーも一緒にやってた。俺に追いつくんだってね。ずっとひたむきだったよ。そんな彼女に惹かれたんだ。そういう子だから、安心して背中を預けられるって思ったしね。後、あんまり表情が動くことないけど、たまに驚いてすごく表情が動いているところが可愛いかな。それから……」

 

 

 

 3分近く赤袖さんの好きなところ喋ったよ、光君。本当に好きなんだろうな。赤袖さんには敵わないかもなぁ、でも…….

 

「そっか、じゃあ私も赤袖さんを真似して、いつか光君を惚れさせて、赤袖さんから奪って見せる」

 

「いや、別に真似しなくても……。来夏は今の来夏のままの方が魅力的だし、ありのままの姿を見ている方が好きだよ」

 

 本当にこういうところだ……。

 

「ねぇ、そう言う感じのこと、他の女の子に言うのやめたら? 友達としてしか言ってないのは分かってるけど、いつか刺されちゃうよ」

 

「あぁ、気をつけておくよ」

 

 赤袖さんが長崎にいない隙に……。惚れさせて見せるぞー!

 

 

 ────

 

 

 

 ハクシュン‼︎

 

 咳いてしまった。あんまりすることないんだけどな……。

 

「茉莉先輩、珍しいっすね。くしゃみなんて」

 

 梅雨咲さんからも言われてしまう。梅雨咲さんは私とナオ以外のベンチ入りしている女子メンバーということもあり仲良くしている。

 

「そうですね……。誰かが私のことを話しているのかもしれません……」

 

 光が私のこと話しているのかな……。そうであってほしい。光は無自覚のうちに女の子を落としていないか心配だ……。臆面もなく恥ずかしいことが言えるから。

 

 何はともあれもう海王学園戦だ。体調管理に気をつけよう……。光の試合とちょうど時間が被ってリアルタイムで見れないのが残念だなぁ。

 

 

 

 ────

 

 来夏が吹っ切れた(のか?)こともあって、無事にヴォルカニックストームも本来の威力を取り戻した。そして練習を重ねて、今は準決勝に挑むために、電車の中だ……。

 

「雲明、兵太から聞いたけど南雲原付近の町の情報は全部頭の中に入れているんだって」

 

「そうですね。それがどうしたんですか暁先輩?」

 

 俺は長崎に来てから基本学校の裏山で特訓していたから、本当に何も知らない。なので、デートプランを練るのに参考にしたい……。

 

「今度、知り合いがこっちに来るんだけど、案内というかなんというか……それで、良い場所知ってないかなってね」

 

「またまたぁ、案内じゃなくてデートでしょ、それ」

 

 いつの間にかこっちに来ていた来夏に指摘される。

 

「私がそのデートのプラン、一緒にリサーチって形で回ろうか!」

 

「なんだか、しれっとデートしようとしてない?」

 

「いや、まさかぁ」

 

 まさかな訳がない。目が泳いでいる。下手に一緒に回っていたことがバレたら、後が怖い。サッカーでブラフを張ること以外で嘘をついたり隠したりすることは苦手だ……。大体途中でバレてしまう。

 

 雲明から小声で耳打ちされる。

 

「僕、せいぜい忍原先輩を失恋から立ち直させるぐらいで良かったんですけど、なんでこんなことになってるんですか‼︎」

 

「俺も、雲明の言う通りだなと思ってしっかり向き合ってメンタルケアしようと思ったら、むしろ火を付けちゃった見たいなんだ」

 

 雲明が耳打ちをやめ1つ咳払いをして、来夏に宣言する。

 

「ともかく、人の恋愛事情にあまり突っ込みたくないですが暁先輩のデートプラン作成は僕が手伝います。今日の試合終わった後のラーメン1杯で手を打ちましょう」

 

「分かったよ。取引成立だ」

 

 俺たちは来夏が間に入る前に颯爽と契約成立させる。

 

「光君」

 

「なんだい?」

 

「もしかして忘れちゃったの?」

 

 忘れた? 何か約束していたっけ? 

 

「パニッシュメントレイを完成させたときに、私に今度頼むって言ってたこと」

 

 あ……。いや待て、あれサッカーでだよ。でも、あのとき『今度頼む』とだけしか言ってないじゃないか‼︎完全に言質取られてるじゃないか。

 

「それの埋め合わせはまた今度ってことで……」

 

「うん‼︎」




暁光
言質取られていた。雲明の言う通り、不調の来夏を立ち直させるべく、向き合うことにしたが、逆に火を付けてしまった人。ノポンチェスがぴかぴかじゅーすと並んで大好き。

赤袖茉莉
暁光が噂しているのかな。引越し前に予感していた浮気せずとも、女の子を落とすということは見事に的中している。

忍原来夏
言質を取っていた人。落ち込んでいたが、暁光が向き合うと言ってくれたので、告白することにした。立ち直るどころか、開き直る。

笹波雲明
試合前のメンタルによる不調はなんとか解決しておきたいと思っていた人。予想外の結果に驚いている。
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