第1話 南雲原に降り立つ
円堂守の伝説から24年。1人の少年が南雲原に降り立つ。
父さんの転勤でここに来たけど、いい雰囲気の町だなぁ……。船から降りて、あたりを見渡す。後で写真撮って、茉莉とナオに送ろう!
俺はNAGUMOHARAのオブジェを背景に写真を撮った。
さぁーて、南雲原ではどんなサッカーが待っているか、楽しみだなぁ。
「ひかるー、明日は入学式だし町を見るのはまた今度にして、家に行くぞー」
父さんから呼ばれる。
「わかったよ」
そう返事をして、父さんの元にかける。
明日早いし、早く寝るかぁ。
──翌日──
学校の麓までたどり着いた。山景台から学校まで結構距離あったなぁ。見上げるとそこには長い長い階段があった。
ここを上り下り繰り返すのは大変かもしれないけれど、いい特訓になりそうだ。
階段を登り終え、校門をくぐると大きなグラウンドがあった。ここがサッカーコートか。いよいよ始まるんだな……。俺の中学サッカー。期待を膨らませ校舎へと入っていく。
入学式が終わり教室に戻る。
「入学式お疲れ様でした。改めて1年A組担任の香澄崎栄子です。よろしくお願いしますね。HRを始める前に親睦を深めるために自己紹介しましょう。出席番号1番の暁君からお願いします」
担任の香澄崎先生から呼ばれた。
「わかりました」
返事をして、教卓に移動する。
「暁光です。昨日東京から引っ越しきたばかりで南雲原のこと全然知らないので、色々教えてほしいです。よろしくお願いします」
そう言って微笑み、席に着いた。
にしても、出席番号1番になるのは初めてだ。この苗字だからほぼほぼ1番だって小学校に入る前から思っていたけど、小学校は茉莉がいたからな……。ちょっとだけ嬉しい。
他の子の自己紹介を聞きながらそんなことを考えていた。
「これが今日配布する最後のプリントです。部活動一覧ですよ。このプリントや明日の放課後にある部活動紹介で気になる部があれば、是非体験に行ってみてください」
香澄崎先生がそう言ってプリントを配り始めたので、受け取り、残りは後ろに回してプリントを見始める。
サッカー部……サッカー部……。どこにあるんだぁ。当然運動部だからなぁ。えっと……野球にテニス、バスケ、水泳、ラグビー、相撲、いろいろあるなぁ。あれ? これで全部か……
「え⁉︎」
「どうかしましたか? 暁君?」
思わず、声に出てしまっていた。
「いえ、なんでもないです」
ない!? ない⁉︎サッカー部が……。嘘だろ⁉︎
混乱してしまう。すっかりあるもんだと思っていた。
「気になる部活がなければ、新しい部活を申請することもできますよ」
表情に出てたからだろうか、香澄崎先生が教えてくれた。
そうだ‼︎ないなら創ればいい‼︎ナオが何度も言ってたじゃないか。かつての円堂守もそうやって伝説が始まったって。さっそく申請しにいくぞ!!
「サッカー部は認められません」
HRが終わってすぐ香澄崎先生に申請方法を教わって、出しに行ったところ、生徒会長からそう告げられた。
「どうしてですか?」
とすぐに聞き返す。
「この学校では、以前サッカー部で暴力事件がありました。以来、サッカーは禁忌の存在なのです」
と返ってくる。
「すみません。これから明日の部活動紹介についての会議ですので、お引き取りください」
そう言って生徒会長は部屋から出たので、引き下がる他なかった。
どうしたものか。サッカー部がないうえに、学校じゃあ禁忌の存在だと? 学内だとサッカーできないな。
このままだと茉莉やナオと「またサッカーやろう!」ってした約束が果たせそうにない。本当にどうしよう……。
いや、学外でサッカーすることは問題じゃないはずだ。別にサッカー部に入って試合することだけが全てじゃない。ボールを蹴り合うだけでもいい。いくら禁忌だと言われても、サッカーはやめたくない。
気付けば、学校の裏山まで来ていた。ここは、人の気配もないし、特訓場所に良さそうだ。一昨日師匠から出された課題もこなせそうだ。カバンの中のボールを取り出し、木々を避けながらドリブルを始めた。
日が暮れて来たので、家に帰った。今日は雷門中も入学式だったことを思い出して、寝る前に茉莉に電話した。
「写真見たよ。良さそうな場所だね」
「でしょ。そっちはどうだい? 今日入学式だったんでしょ? 雷門サッカー部は?」
「今日はガイダンスだけだった。練習は明日からだって。光とは今までチームメイトだったけど、これからはライバル。負けないように特訓する」
「ごめん……。茉莉……。約束果たせそうにないんだ」
「え?」
普段そんなに感情を出さない茉莉であったが、驚いた様子だった。
「南雲原にはサッカー部がなかった。早速創ろうとしたけど、申請通らなかった。南雲原じゃ、サッカーは禁忌なんだって」
「そんな……」
約束は破れない。だから、決意を茉莉に伝える。
「でも、サッカーを辞めるつもりはない。茉莉にもナオにも負けたくないから。今度会ったときは、KFCのころよりも遥かに強くなった姿を見せるよ! ま、雷門っていう頂上で待っていてよ。飛び越すから」
「簡単には飛び越えさせない。私も光を越える!」
「そうだ。私が南雲原にいないからって浮気しないでね。おやすみなさい、光」
「大事な彼女がいるのに、するわけじゃないか。おやすみ」
そういって電話を切り、眠りについた。
毎日毎日裏山で特訓して、1年が経った。
──
特訓はほとんど1人でだったが、たまに先輩が来るときもあった。たまに生徒会に監視されている気もするけど。
朝、教室に入るとクラスメイトに声をかけられた。
「昨日放課後見たか、光」
確かに昨日の放課後何か騒がしかった気がする。
「見たって、何をだい?」
「桜咲と1年坊がグラウンドで野球部にサッカーで決闘を申し込んだよ」
放課後すぐに裏門に向かうため、そりゃ見るはずもなかった。桜咲君といえば、素行が悪く学校内の評判は悪い。桜咲君と一緒にいた1年の子って言うのも気になるけどそれよりも……。
「サッカーで決闘?」
サッカーを選んだのはなぜか? サッカーがしたいからなのか? 気になることは沢山あるがそれは心の中にしまっておく。
「ああ。サッカーは禁忌だし、柳生含め何人かは昔サッカーやってたのによくやるよ」
一度ちらっとショーなるものを見たことがあるのでわかる。彼らのショーはサッカーをやっていないとできない動きであると。
「昨日学校のSNSでも話題になっていたのに、それも見てないのか?」
「学内SNSはあいにく使ってないからね。投稿するようなこともないんだ」
実際、1人でサッカーばかりやっているので投稿することはそれぐらいしかない。禁忌とされているのにわざわざサッカーの特訓内容を投稿しようとは思えなかった。
クラスメイトが写真を見せてくれた。
「本当に光は学校の情報追ってないんだな。まぁいいや。どっちが勝つと思う? 野球部が勝って終わりだろう」
普通に考えれば、サッカー経験者のいる野球部だろう。でも、学校の華型とも言える野球部に言っているからには、何かしら勝つ算段か、試合の勝ち負けではない別の目的を達成できると考えているのだろう。
「桜咲君と1年の子が勝つと思うよ」
「随分自信たっぷりだな」
「ああ、全財産かけてもいい」
そう言うとちょうど始業のチャイムがなった。
この学校でサッカーが動き出すかもしれない。南雲原に来てから先輩にしか見せなかったサッカーへの情熱がはち切れそうだ。
ワクワクしながら授業に臨んだ。
暁光
主人公。金髪翠眼である。稲妻町から南雲原に引っ越した。サッカー部があるもんだと思ったらなかった。どの部活にも所属していないため、柳生や忍原より知名度や人気は低い。クラスメイトからは「あいつ絶対東京に彼女いるよ」と噂されている。直接聞かれることはないため、暁は回答していない。
赤袖茉莉
噂の「東京の彼女」当人である。暁とは小学校1年からの仲である。星村ナオと暁光と共に稲妻KFCに所属していた。暁に恋心抱いていたが、引っ越しを伝えられたことをきっかけに告白した。入学式早々南雲原でモテていないかやきもきしている。
星村ナオ
赤袖とは幼少期からの仲である。小学校で暁と赤袖と喋っていたところに声をかけて、暁と知り合った。2人を稲妻KFCに誘った。暁が円堂守や松風天馬の話をよく知っているのは彼女から何度も聞いたからである。
師匠
暁がサッカーを始めたきっかけの人。
先輩
たまに暁の練習に付き合うらしい。
笹波雲明
後のサッカー部コーチ兼監督兼キャプテンである。
生徒会長
暁が入学した日の生徒会長のため、まだ千乃会長ではない。