今日はサッカー部のフットボールフロンティア決勝大会進出の壮行会だ。校長先生や生徒会長の激励の言葉の他、サッカー部のスタメン、ベンチ入りメンバーの発表をする。聞いたところによると、南雲原中の全校生徒が応援に駆けつけることができるようにバスなどを手配するらしい。ということで、壮行会前の授業はHRになっている。
「これって結局何やってるの?」
来夏が4種類の資料を纏めて俺に渡す。
「フットボールフロンティアで応援に駆けつけるにしても莫大なお金が必要なんだ」
俺が封筒に入れて、我流に渡す。
「暁君の言う通り、うちのお金だけでは賄い切れないからね。南雲原・北陽のOB・OGに寄付のお願いをしているんだ」
我流が封を閉じ、パレットに入れる。
「にしても、すごい数だよね。私たちのところでも何百個ってあるし」
「流石、マンモス校だよな」
野球部が全国に出たときもやったが、この封筒に入れていく時間は少し楽しい。
「僕たちの遠征費諸々は協会が出してくれるというのはありがたいね」
「え? 何かあるの?」
「自由にヘリポートから行きたい場所に行ける許可が出ているんだけど、その移動費がとんでもなく高いんだ」
「あれは学校の予算じゃやっていられないよ。協会が出してくれるから、気兼ねなく南雲原に戻って練習することもできる」
「少年サッカーがそれだけ大きなお金が動くってのが良く分かるな」
「寄付ってさ、何口かやったら返礼品とかあるの?」
「寄付額ごとに校章と大会名の入ったサッカーボール、レプリカユニフォーム、タペストリーがあるよ」
「クラウドファンディングみたい。でもスタジアムで応援とかは無いんだ」
お金がいるからな、お礼もある。ちなみにOB・OGの寄付は任意だが、在校生徒の保護者は2口寄付を基本的にお願いしている。
「協会から学校にスタジアムのチケットが貰えるから、そこから全校生徒分を差し引いて、残った分を毎回現地先着順じゃなかったっけ、我流?」
現地先着順は、OB・OG以外にも、保護者やOB・OGの家族も参加可能だ。もちろん、サッカー部の保護者の枠は別で用意されている。
「概ねそれで合っているよ。何枚かは南雲原発OB・OG専用バスにも残すけどね」
色々話しているが、手は止まっておらず、作業は順調だ。
「今日、壇上に上がって紹介されるのも緊張するけどさ、やっぱり明日の方が心配じゃない?」
「確かにそうかもしれない。僕は何かと壇上に立つことも多いからね。今日の方はそこまでかな」
「驚いたね。まさか南雲原がイナコードの少年サッカー人気選手スタンプ第2弾に選ばれるとはな」
前回はスプリング杯からの人気選手が選ばれたが、今回はこのフットボールフロンティアから選ばれるらしい。昨日の練習終わりに聞かされた。明日デフォルメ化するけども、ポージングで、写真を撮影しに少年サッカー協会の人が来るのだ……。
「私たちって人気選手なの?」
それは絶対にまだ人気ではないと言える。俺たちの名は全国区には響いていない。無名だからな。
「先見の明というやつだろう。何せ前回のスプリング杯にいない学校で九州地区1位通過しているからな。これから人気が出ると見越していると思うよ」
「そっか。サッカー協会の人からも期待されているし、頑張らないとね!」
「そうだね。ある程度ポーズを指定されているとはいえ、悩むな」
「四川堂君は何だろうなぁ。あっ! 『即解散を命じる‼︎』じゃない?」
そうやって、来夏が片腕を前に突き出しポーズを取った。
「そのとき忍原さんいなかったよね。どうして知っているんだい?」
「雲明君が前に言っていたよ」
「あぁ、言ってたな。俺がどういった経緯でサッカー部を再建させたのか聞いた時に、事細かに教えてくれたよ」
「あまり『即解散を命じる‼︎』は合わないんじゃないかな?」
「おぉ‼︎生の『即解散を命じる‼︎』だ。初めて見た」
「ね‼︎」
「揶揄わないでくれ……」
「良いと思うけどな。話し合いで終わらせるときに使えるじゃないか」
「確かにそうかも」
「そ……そうか……前向きに検討するよ……」
「雲明君、キャプテンなのに選ばれていなかったよね」
「まぁ雲明は試合に出ていないからな、サッカー協会的にも注目してないってことだろうね。でも、これって逆に雲明の脅威に気付いていないってことだから良いことでもあるよ」
そう、今回選ばれているのは我流、来夏、丈二、駿河、鞘先輩、ジーク、俺なのである。7人も選ばれるんだと驚いた。予選で得点を決めた選手とGKを選んだのだと思われる。ちなみに空宮征、品乃雅士、陣内伍兵など元北陽の面々は1回目に選ばれているのでいない。
何やかんやで作業が終わり、昼休憩を挟んで壮行会だ。俺たちは講堂の座席には座らず、舞台袖で立っている。
「緊張するぜ」
「僕もこういうの緊張します」
「1回ぐらい表彰されて壇上に上がってみたいなぁって思ってましたけど、こういう形もワクワクしますね」
「柳生、こういうの2回目やろ。なんかアドバイスないんか」
「堂々と立ってれば良い。俺らは別に喋る訳ではないからな。名前を呼ばれてお辞儀するだけだ。喋るのはキャプテンの雲明と香澄崎先生だけだしな」
確か前は駿河が野球部主将として宣誓していたな。駿河は緊張している様子もない。鞘先輩も表彰に慣れているからか凛々しく立っている。
「雲明、大丈夫か」
あがっていそうな雲明に声をかける。
「多分、大丈夫です」
噛みそうな気配がする。
「まだ、校長先生の激励の最中だからな。まだ時間はあるしリラックスだ」
「お気遣いありがとうございます。暁先輩」
「こうしてみるといよいよ全国って感じがしますね」
「ホムラのいた天照中でもあったのか、壮行会?」
「えぇ、ありましたよ。もう少し荘厳な雰囲気の中でやっていました」
まぁ、天照中だもんな。講堂が神聖な感じもするな。
「そっか」
「北陽ではこういったことはなかったな。初めてだ」
品乃雅士が会話に入る。
「ある学校とない学校があるんですね。雷門中はどうなんでしょうか」
「常勝雷門だからな。毎回あるって言ってたよ。もちろん優勝したときも報告会として開くってさ」
茉莉から聞いた話だ。ナオはもう慣れたらしい。茉莉はまだ緊張しているみたいだが。まぁ常勝っていうプレッシャーがあるもんな。強豪校には強豪校の悩みというものがある。
そうこう話しているうちに、千乃会長の話も応援団団長による応援方法のレクチャーも終わり、いよいよ俺たちが生徒の前に出る番が来た。俺たちは整列し直し、舞台に立つ。
舞台の幕が上がった。
「それでは、サッカー部監督香澄崎栄子先生による選手紹介です」
客席から拍手が聞こえてくる。ちなみに整列順はスタメン7人とキャプテンの雲明が前、雲明以外のベンチメンバー4人とFW3人、駿河が後ろだ。雲明が選手登録しているため、南雲原はベンチが実質的に4人である。選手兼マネージャーのホムラを含めると3人になる。それでも2人をベンチに入れないといけないほどの理由がある。雲明は実質的な監督であるからな。雲明的にはホムラは奥の手として考えていると思う。全16人のメンバーで試合に1度も出ていないのは雲明とホムラだからな。
「まず始めに、キャプテンの笹波雲明です」
雲明が少し前に出てお辞儀する。
「笹波君はフィールドに立つことはありませんが、優れた戦術眼で相手を分析して、試合を組み立てベンチからチーム全体に指示を出しています。指示は的確で南雲原イレブンにとって欠かせない存在です」
香澄崎先生の選手紹介は先生が考えているが、一部雲明が考えている。
「四川堂我流です。ポジションはGKです。四川堂君は反射神経が優れています。全国でも、それを活かして氷結の舞でセーブしていきます」
「古道飼亀雄です。ポジションはDFです。古道飼君は、体格が良く素早いDFとして相手のボールを奪っていきます。全国でも意表を突いたプレイをしてくれます」
次は俺の番だ。
「暁光です。ポジションはDFです。暁君も速いプレイが得意で、南雲原のスピードディフェンスの要になっています。また、リベロとしてこのチームの最多得点を決めています。全国でも間違いなく点を決めてくれる選手です」
「縷楠富理斗です。ポジションはDFです。縷楠君はチームのとっておきです。特に対戦校のシュートの威力軽減には、全国でも期待しています。彼も得点力があるので、点を取る機会があれば、取りに行ってもらいます」
「品乃雅士です。ポジションはMFです。品乃君はフィールドの3人の要のうちの1人です。MF陣の指揮を取っています。シナノフォームを用いて、攻撃的な体勢に移ることができます。戦術眼を活かしたプレイをしていきます」
「木曽路兵太です。ポジションはMFです。木曽路君はサポートが得意でDFからMF、MFからFWへと繋ぐ重要な役割を担っています。チームのムードメイカーとしても全体を盛り上げて繋ぎます」
「小太刀鞘です。ポジションはMFです。小太刀さんは強い踏み込みで相手を突破していきます。また、北陽学園戦では2得点を上げる活躍をしました。全国でも得点を上げる活躍を期待しています」
ここで、前後列を入れ替える。
「柳生駿河です。ポジションはMFです。柳生君は野球部でも主将を務めていたこともあり、南雲原イレブンでも纏め役をしています。前線に繋ぎながら、柳生君も攻撃に参加していきます」
「桜咲丈二です。ポジションはFWです。桜咲君はなんといってもその脚力です。強靭なバネを活かして、点を奪う頼れるストライカーです。剛の一閃、春雷で全国でも得点を決めます」
「忍原来夏です。ポジションはFWです。忍原さんはボールへの回転力が魅力です。チームの強力な必殺技、春雷やヴォルカニックストームの始動役として、重要な役割を担います」
「空宮征です。ポジションはFWです。空宮君は合併前北陽学園ではキャプテンを務めていました。暁君、品乃君と同じフィールドの要の1人です。FW陣を指揮します。全体を指揮する笹波君と3人を合わせて強力なチームサッカーを形成します。サンシャインブレードで得点を決めていきます。その能力は全国でもトップクラスです」
「陣内伍兵です。ポジションはGKです。陣内君は風圧領域を発生させてボールの勢いを減らしていきます。陣内君と四川堂君の2人で南雲原のゴールを守ります。相手の特徴に合わせて2人を起用していきます」
「重沢零由です。ポジションはMFです。重沢さんは重力を支配するようなプレイです。暁君と合わせて圧倒的な跳躍力で相手の届かない空中でDFラインから前線へ一気にボールを上げることができます」
「桃井祥子です。ポジションはMFです。桃井さんは相手を吹き飛ばすなどといったオフェンスが得意です。オフェンスを活かして全国でも必ず起用する機会があります」
「最先ホムラです。ポジションはDFです。チームのマネージャーも兼任しています。最先さんは相手をブロックして、すぐさま攻撃に転じることができます。パワーも申し分ないので、起用機会は必ずあります」
という訳で選手紹介が終わった。香澄崎先生が安堵の表情を浮かべる。舞台袖にいたときでも緊張しているのが伝わって来ていた。
もう一度前後の列を入れ替える。次はキャプテンである雲明の挨拶である。
「本日は私たちサッカー部のフットボールフロンティア決勝大会出場に向け、このような盛大な壮行会をかいしゃい」
あ、噛んだ。
「開催していただき誠にありがとうございます。私たちサッカー部は今年創部したばかりの部です。しかし、日々の弛まぬ練習を通じて全国への道を切り開くことができました。これはチームメイトと応援してくださる皆さんの力があったからこそです。そして……」
こうして、3分ほどの雲明の表明は終わった。
「サッカー部が退出します。皆さん、盛大な拍手でお送りください」
放送部のアナウンスを聞き、俺たちは舞台の階段を降りて講堂の客席の間を歩いていく。その間、拍手は鳴り止まない。これだけの期待があるのだ。応えなくては……。待っていろ全国。俺たちのヴィクトリーロードはちょうど中腹だ。
甲子園に出場したときにやっていた記憶を頼りに今回書きました。封筒作業や壮行会、あるときはすごく楽しかった思い出です。サッカーではあるかどうか知らないのですが、やってみました。