南雲原の勇者御一行様   作:ペンギンとクマ

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今回の話は、雷門でも南雲原でもありません。どう展開させようか悩みました……。重い話になっています。


第22話 復讐者

 俺は生まれつき心臓が弱く長時間の運動はできない身体であった。動くことすらままならない日もあった。

 

「おはようシン、今日の調子はどう?」

 

「おはよう。ラウラ。今日は問題ない」

 

「本当? 無理しちゃダメだよ」

 

 だが、俺の側にはラウラがいた。ラウラは隣の家に住む1つ上の少女だ。こうして、毎日俺の家に様子を見に来る。俺の気が落ちないのは、ラウラのやはり存在が大きいだろう……。俺は小学校へ行く支度をする。

 

「ねぇ、シン」

 

「なんだ、ラウラ」

 

「私ね。うわっと」

 

 ラウラがこけそうになるところを俺が支える。

 

「大丈夫か?」

 

「うん。大丈夫。ありがとう」

 

「そうか、良かった。で、話というのは?」

 

「それがね。なんと私、雷門中からスカウトされました‼︎」

 

「おめでとう、ラウラ。雷門中……。少年サッカーの王者だな。俺も嬉しいよ」

 

 まさか雷門中にスカウトされるとは……。ラウラの努力が認められたのだ。これ以上嬉しいことはない。だが、ラウラの表情は嬉しさの中にどこか翳りがあった。

 

「でもね、シン。私、あなたのことをを1人にするの心配なんだ……」

 

「大丈夫だ、ラウラ。俺は俺だ。うまくやっていくよ。ラウラは安心して雷門に行くと良い。東京へ足を運ぶことはできないかもしれないが、ここから応援するよ」

 

 たとえ行くことが叶わなくともどこからでも応援はできる……。

 

「『君のことは俺が守る』」

 

「え?」

 

「ねぇ、憶えている? あの日のこと?」

 

「ああ、憶えているさ」

 

「そっか。私も1日足りたとも忘れていないよ」

 

 俺がその言葉をラウラに言った日……。それは、ラウラの父親が激昂し、包丁を持ってラウラを殺そうとしていた。俺はその光景を目にして、俺自身が病弱で動けないことも忘れてしまうような勢いでラウラを守るために、ラウラの父親を突き飛ばした。今にして思えば、あれは火事場の馬鹿力と言うものだったのだろう……。

 

「何があろうとも……、どこからでも……、俺は君を守るさ」

 

 たとえ、この身体が動かなかったとしても……。

 

 登校途中、近くの公園で泣いている少年を見かけた。ラウラはすかさず話しかけに行く。

 

「どうしたの? 迷子?」

 

 少年はこくりと頷く。

 

「良かったらお姉ちゃんたちについてこない? 大丈夫! みんな良い人たちだから……」

 

「立てるか?」

 

 俺は手を差し出す。少年は手を取って立ち上がる。

 

「1人で歩けるか?」

 

 少年は頷いた。

 

「そうか。偉いぞ」

 

 そう言って、俺は頭を撫でた。そして、俺たちは少年の行きたいところへ向かいつつ、登校する。

 

「君、名前は何て言うの?」

 

「…………サタヒコ」

 

 しばらく黙っていたが、ぽつりと呟いた。後から聞いた話だが、そのとき既に両親はおらず孤児院にいたが、その孤児院も火事で全焼してしまったそうだ……。

 

 その出会いがあってからサタヒコは俺たちに付いて回るようになった。

 

 

 

 

 ある日、俺とサタヒコはラウラの出場しているサッカーの試合をベンチから眺めていた。

 

「シンにも、試合に出て欲しかったのだが……」

 

 監督は残念そうに俺に話しかける。

 

「私は、激しい運動は難しいので……」

 

「いや、こちらこそすまない。君のその優れたサッカーの才能……。どれだけの名前を轟かせることになったのだろうかと思ってしまってね……」

 

 監督が言うには、俺にはサッカーの才能があるらしい。それもこのチームのエースストライカーに届き得るほどの……。正直言って、彼女がいるのだから、俺が出るまでのものではない。

 

 1つ歳が下の彼女はまさにサッカーモンスターと言っても過言ではない。サッカーを始めてそこまで経っていないというのに、他のチームを蹂躙している。だが、始めたばかりなので、現状はその圧倒的なセンスでゴリ押している。まだテクニックなどは身に付いていない。

 

「何浮かない顔してんのよ。シン」

 

「いや、俺は考え事をしていただけだ。お前のような者を見たことがなかったからな」

 

「そうでしょう。なんてたって、私はセカ」

 

 そう言って、自信満々に何か言おうしているが俺は言葉を挟む。

 

「思いやりにかける。流石はサッカーモンスターだ……」

 

「は?」

 

「ははっ」

 

 アデル監督が笑った。

 

「何よ。監督」

 

「これはシンの言う通りだと思ってね。君はサッカーが何であるかはずっと前から知っているけど、サッカーをすること自体は始めたばかりだ。今日の試合も、ワンマンプレイでセンスのゴリ押しだったろう。敗北を知らないということもあるけど、いつか足元を掬われてしまう。君の周りには同じチームの仲間がいる。もっと頼るということも覚える必要がある」

 

「そ、そう。そういえば、シンが私のことをサッカーモンスターと呼ぶけど東京にもいるそうじゃない、私と同い年のサッカーモンスター。誰だっけ、暁……?」

 

 彼女、最先ヒカリはそう言った。ヒカリのようなやつが東京にもいるのか……。ヒカリは小さな島の出身らしい。確かその島の名前はゴッド……エデンとか言ったか? 

 

「稲妻KFCの暁光君のことだろ? 4年生ながらもうエースストライカーを担う選手だ。ヒカリは間違いなく彼よりも才能もセンスもある。だけど、現状は彼の方が実力は上だろう。彼にはあって、ヒカリにはないものがあるからね」

 

「何よそれ」

 

「さっきも言ったがチームプレイだ。彼は積極的にパスを出して、1人では突破するには体力消耗が激しくなる難しいところは仲間に頼っている。ヒカリは無理矢理突破しようとしているところをね。今日も途中でガス欠になっているよ」

 

「善処するわ」

 

 ヒカリが他の存在を気にするのは意外である。

 

「ヒカリはあまりどうでも良さそうなことをどこで知ったんだ?」

 

「ラウラが雷門中にスカウトされただろう。そのときに雷門中の乙女監督が直々に僕のところに来てね。そのときにたまたまヒカリもいたからね。乙女監督はヒカリのことも見に来たみたいで、同じようにまだ4年生だが目を付けている選手に暁光君がいるという話をしたって訳さ」

 

 雷門中の監督がうちのチームに挨拶しに来た日、俺もラウラと歩いているときに雷門の監督に話しかけられた。

 

「要するに自分と同格と言われている存在がいることが気に食わないのか。世界が広いということも知らずに」

 

「ち、違うわよ」

 

「聞いたところによるとたまに暁光君は乙女監督にたまに練習を見てもらっているそうだ。4年生のころから手をかけるのだから、多分彼は雷門中に行くんだろうな。ヒカリも雷門中に来れば間違いなくダブルストライカーで黄金時代を築き上げることができると力説されたよ」

 

 小学生でもう雷門の監督に練習を見てもらっているとは将来有望なのだろう。ヒカリはどうやら雷門中の監督に不信感があるような感じが表情から見てとれる。

 

「ラウラには悪いけど、私にはあの監督胡散臭く見えたわよ。温厚そうだけど、何かの拍子に闇深くなりそうな感じ。私は悪いけど雷門には行かないわ」

 

「そうか。まぁ、行くも行かぬもヒカリ自身が選ぶことだからな。まだ2年ある。じっくり考えると良い」

 

 

 

 翌年、ラウラは雷門中に行くため稲妻町へ引っ越した。雷門中内の寮で生活すると聞いて安心した。都会はこの辺りよりは穏やかではない……。危険に晒されないか心配だった。俺はと言うと、容態が悪化している。ラウラが離れてしまったと言うことも大きいだろう。医者によると心臓移植すれば何とかなるかもしれないとのことだ。もうそこまで長くはないのかもしれない……。だが、ラウラを守ると決めたんだ。易々と倒れる訳にはいかない。

 ヒカリはと言うと地域のジュニアリーグで無双状態だ。うちのチームはお金が潤沢ではない。そのため、遠征で強いチームと戦うということがなく、ヒカリはつまんなさそうにサッカーをしている。同じような存在を求めているのか……。暁光という少年のような。

 

 

 そのまた翌年、俺は近所の白恋中に入学した。サッカー部には形だけだが入部した。見ているばかりになってしまうが、それでも近くでサッカーを眺めたいと思った。隣で監督の寒いギャグを聞かされ続けるのは難点だが、目を瞑れるほどの些末なことだ。ラウラは3年生が引退して、1年生の途中から雷門中のキャプテンになったそうだ。電話越しに喜びが漏れ出ている。嬉しさとともに王者雷門を背負うという重圧が感じられた。そして、ラウラはキャプテンとして雷門を率いて、スプリング杯、フットボールフロンティアともに優勝した。ラウラの築き上げるヒトノワは、大きな力を生み出す。選手の個々の能力とそれが、優勝の要因だろうか。

 一方、ジュニアリーグの方はというと、円堂ハルという名を少しずつ聞くようになっていった。ヒカリはというと、北海道のジュニアリーグ大会、決勝でチームメイトみんながボロボロになって、何とか辛勝したそうだ。その日を境にヒカリの姿を町で見かけることは無くなった。アデル監督に一度聞いてみたが、苦い顔をされた。

 

 

 俺は2年生に進級した。サタヒコが白恋中に入学してきた。白恋も強豪校なのだが、サタヒコは強固なディフェンスでレギュラーの座を掴んだ。初めて出会ったときは大人しいはずだったのだが、今ではよくナンパするようになっている。去年のジュニアリーグ大会……、本当に何があったのか……。映像に残されていないので知りようがない。

 サタヒコが入って来たということは、ヒカリや暁光も中学1年になったということだが、全く噂を聞かない。日に日に円堂ハルの話は大きくなっていくばかりだ。ラウラに一度いないのか聞いたが2人していないとのことだ。乙女監督のダブルストライカー計画は頓挫したということだ。

 俺はというと、入院生活を余儀なくされている。今年中に移植できなければ、もう死を待つのみだ。そんな中事件が起きた。フットボールフロンティアの予選大会で、ラウラが接触で怪我をしてしまったのだ。選手には怪我はつきものだ。だが、問題はその怪我でラウラが再起不能と診断されたのだ。久しぶりにラウラがこちらに帰って来た。病室での再会となったが、彼女の表情は暗い。が、俺には隠そうと無理に笑顔を作っている。

 

「怪我はどうなんだ?」

 

「大丈夫だよ、シン。歩けるようにはなっているから……シンの方こそ大丈夫なの? その……身体……」

 

「俺は大丈夫だ。少し崩しただけだ。直に良くなる」

 

「なら良かった。私ね、サッカーが2度とできないって言われた。でもね、悲しいわけじゃないの……。サッカーができなくなってもサッカーと関わり続けることはできるからね。それにシンと一緒にいることができる時間も増えるからね……」

 

 やはり、ラウラはどこか悔しそうである。

 

「今度、料理でも作ろう」

 

「やったー‼︎シンの料理は絶品だからね! 思い出、いっぱい創ろうね」

 

 そう言い残して、ラウラは帰って行った。

 

 その晩、俺の容体は急変し、俺は意識を落とした。俺が次に目を覚ましたとき、医者から告げられた。

 

「無事に心臓の移植手術が終わりました」

 

「そう……ですか」

 

 言葉に行き詰まる。俺が生を得た代わりに何か大切な存在を失った気がしてならない。

 

 翌日、喪服を来たアデル監督が俺の元に来た。

 

「どうだい? 調子は……」

 

「俺は特に問題ないです」

 

「シン。君に伝えなければいけないことと渡したいものがあるんだ」

 

 アデル監督が俺に? 

 

「ラウラが交通事故で亡くなった……」

 

「は?」

 

 思わず、口に出てしまった。嘘……だろ……? ラウラが交通事故で……。俺はラウラを守れなかったのか。守ると約束したというのに……。その時俺は何をしていた……。容体が悪化して意識がなかっただと‼︎何も思い出を創ることもできずに!! 俺は俺自身に何も果たせなかったことを怒る。

 

「シン。君は手術で心臓を移植した。今、君の中にある心臓は……」

 

 まさか……。俺の中で1つの可能性がよぎる。嘘だ……嘘だと言ってくれ……。その一言を俺に告げないでくれ……。

 

「ラウラの心臓だ……」

 

 ラウラを守ると誓ったというのに、俺が助けられてどうするというのだ……。

 

「これを渡しておくよ。ラウラからシンへの手紙が見つかった。中はもちろん見ていないよ」

 

 アデル監督が手紙を机に置いた……。しかし、俺には手紙が机に置かれたという事実が分からないほどに自暴自棄になっていた。

 

 

 それからというものの食事は喉を通ることは無かった。ラウラのいない世界で俺はこれからどうやって生きていけば良いのだろうか……。消えてしまいたい……、そう願ってしまうほどに……。そんなときにふと、机の上の手紙が目に入った。そういえば、アデル監督が置いていったな……。俺は手紙に手を伸ばして、封を開ける。そこには、俺への感謝や雷門でのサッカーについて、どういった練習をしていたのかなど、様々なことがつらつらと書かれていた。その中で気になる1文があった。

 

『地区予選決勝で、試合前に乙女監督からスパイクを受け取ったんだ。シンからのプレゼントだって。私、シンからのプレゼントが嬉しかったから、すぐに履き替えたんだ。スパイクは選手の命とも言うけどね……。結局、そのときの接触で履けたのは1回だけだったけど……。スタッフさんに担架で運ばれたときにスパイクを回収されちゃって、残してほしいってお願いしたら、保管して置いてくれて、今は家に置いてあるんだ』

 

 俺はラウラが雷門中に行ってから電話でやり取りすることはあってもプレゼントを郵送で贈るということはなかった。スパイクを贈った記憶はない。

 

 この文が気になった俺はフットボールフロンティア地区予選決勝の試合を見た。ラウラの接触があった部分を見る。拡大して見てみると当たっていないのだ。つまり、スパイクを使ってラウラに何かしたのではないかと疑われる。そして、ラウラも書いているが、スパイクは選手の命。そう見ず知らずのスパイクを履き替えるということはない。だが、ラウラなら俺からのプレゼントということにすれば履き替えるに違いないと考えついた存在がいる……。俺が考える中でそのような人物は1人しかいない……。

 

 乙女仙次郎……。

 

 あの男は俺とラウラの関係について知っている……。3年前に出会っているからな。

 

 俺はあの男を倒すと誓った。ラウラの選手生命を絶ったあの男を……。サッカーの監督だ。ならばサッカーで倒そう。乙女仙次郎も、乙女仙次郎が育てた雷門の選手も潰す。

 

 

 俺はラウラから貰った命で動くことができるようになったこの身体でサッカーの練習をした。激しい運動もできるようになった。しかし、長時間動いくと動けなくなるときがある……。心臓の拒絶反応だ……。心のどこがでは、分かっていた。ラウラが復讐など望んではいないと……。やらなければならない。やると誓ったのだ……。引き返すことはできない。道は果てしなく続いている。この道を往けばいつかは辿り着ける。再びあの笑顔に会える日がくると、そう信じて……。

 

 

 3年に進級した。俺は蕗田監督に頼み事をしに監督室へ向かう。

 

「おう。シンか、どうした? 身体は大丈夫なのか?」

 

 監督は笑いながら応対してくれる。

 

「身体は大丈夫です。身勝手ながら、1つお願いしたいことがあります」

 

「シンからお願いごととは珍しいな。なんじゃ。言ってみぃ」

 

「俺を次のフットボールフロンティアで出してください」

 

 俺は頭を下げてお願いする。俺の表情を見て蕗田監督は笑うのを止めて真剣な眼差しで俺を見つめる。

 

「戻れぬのか?」

 

「俺の往く道はこの道です。交わることはない。だが、もし再び交わることがあるのなら、その時は……」

 

「そうか……分かった。だが、シン、お主を出すのは前半か後半、どちらか半分だけじゃ。良いな」

 

「分かりました」

 

 

 ────

 

 夢を見ていた……。あの時の夢だ。

 

「シン、起きて」

 

 朱鞠の声が耳元で聞こえる。俺は目を開ける。

 

「どうした朱鞠?」

 

「もう東京だよ。抽選会遅れるよ」

 

「そうか……」

 

「相変わらず、つれないなぁ。ねぇ、シン。シンはどのチームに混ざりたい?」

 

「混ざりたいチーム? 俺は特にないな」

 

「そっかぁ。私はねグモラーさんだね」

 

 グモラー? どこだそこは……。

 

「他のチームの雰囲気は今日の抽選会と会見で分かる」

 

 もうすぐだ乙女仙次郎……。もうすぐ果たすときが……。




井伊羅シン
白恋中のエースストライカー。ラウラの選手生命を絶った乙女仙次郎に復讐しようとしている。

霞ラウラ
雷門中の元キャプテン。月影蓮の前任。フットボールフロンティアの予選決勝で接触で怪我をしてしまう。再起不能と診断された。交通事故で亡くなる。ラウラの心臓がシンに移植された。

最先ヒカリ
シンがサッカーモンスターと評する人物。ある日を境に消息を絶つ。最先……?ゴッドエデン?セカ……?

アデル監督
ラウラやヒカリの所属していたジュニアチームの監督。人望が厚く慕われている。

蕗田監督
白恋中の監督。通称愉快なおじさん。寒いギャグをよく言うが、真面目なときは真剣である。

乙女仙次郎
推定ラウラの選手生命をスパイクを使って絶った人物。彼の掲げたダブルストライカー計画は、暁光も最先ヒカリも来ず頓挫。

掘須サタヒコ
白恋中DF。ナンパ癖があるキザな男。ディフェンダーとして、とても堅い。

朱鞠ほろか
白恋中キャプテン。他の気に入ったチームに混ざるという困った癖がある。
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