野球部との決闘するという2日前……
僕は生徒会の定例報告会に参加していた……。
「忍びたちの報告では、忍原来夏がサッカー部に合流したようです。ですが、暁光は毎日裏山で1人でサッカーをしており、笹波雲明との接触は未だないようです。引き続き情報を集めていきます」
「忍原さんが……どういうことだ」
組んだ手を顔に近づけ、思案し始める。今朝校内のニュースで忍原さんがサッカー部に入ったと見たときは驚いた。
しかし、1番合流させてはいけない暁君は接触していないようだ……。彼はどうやら1年前サッカー部を申請したときに、生徒会が許可せずサッカー禁止を伝えたにも拘わらず、1年以上、学校の裏山でサッカーしているという。長崎出身ではないため、この学校がサッカー禁止だと知らなくて当然だ。忍原さんや柳生君ほどではないが、彼が東京から来たことや容姿端麗なこともあり人気がある。彼も加入すれば、サッカー部はよりイメージアップするだろう。
このとき、笹波君の言葉が頭をよぎる。
「そもそも『なぜ』サッカー部は暴力事件なんて起こしたんでしょうか。その理由を 四川堂先輩は知っているんですか?」
サッカー部の禁止は本当にただのよくある暴力事件なのか……。なぜサッカーが禁止なのかはっきりさせなければ……。思考の海に潜り始める……。
千乃会長からの笑い声が聞こえる。
「四川堂君」
潜りかけたところで、千乃会長から声をかけられ、顔をあげる。
「サッカー部の人気が一気に上がったことがそんなに悔しいの?」
悔しくはないと表情を変える。
「四川堂君?」
「会長!」
そう言って席を立つ。
「えっ」
驚いたようで千乃会長から声が漏れる。
「この四川堂我流、サッカー部の真実を解明する!」
「えっ えっ…… あ ちょっと」
高らかに宣言し、会長の困惑した声を背景に教室を出る。
そして、笹波君に「学校以外で話したい」とメッセージを送る。
────
朝はみんなにサッカー部に入ったこと色々聞かれて大変だったなぁ。
私はなんとか教室の席についた。隣の席の光君に声をかける。
「おはよ、光君」
「おはよう、来夏」
あれ? サッカー部に入ったことを聞いてこない?
「あれ? 光君は聞いてこないの?」
「聞くって何をだい?」
「私がサッカー部に入ったこと」
光君は驚いたようだ。本当に知らなかったみたい。
「それは初耳だ。知らなかったよ。でも、いいんじゃない、サッカー。ダンスで優勝してから浮かない顔してたし、サッカーでもう一回てっぺんとるのも。応援するよ」
そう言って微笑む。
「本当にSNSも見てないんだね、光君は。でもそっか、気付いていたんだね……」
「来夏がてっぺんに向かってワクワクしている姿の方が俺は見たいからな」
なんでこんなこと恥ずかしがること無く言えるんだろ……。嬉しいけど、こっちが恥ずかしくなる。でも、本当なのかな? 光君、東京に彼女いるの……。
──野球部との決闘当日──
どうやら今日やるみたいだと俺はクラスメイトから聞き、グラウンドで観戦し始める。
サッカー部の面々を見る。写真を見せてもらったけどたぶん、コートに入らず指揮している子が件の笹波君だろう。どうして、フィールドに立たずに指揮だけしているんだ? 鬼道さんや神童さんのようにゲームメーカーとして、フィールド内で指示を出してもいいのに……。
グレーのパーカーを着ている子とガタイのいい子は誰かわからないけど、元々決闘を申し込むときにいた桜咲君以外に忍原さんと四川堂君がいた。なるほど、やっぱりクラスでサッカー熱が高かったのは忍原さんのおかげか。
色々考えていると、サッカー部がどうやら柳生君に対して3人でマークしているようだ。柳生君や笹波君の声が聞こえる。
「笹波 お前…… 何が狙いだ」
「1人の人間が…… どれだけ無力かを思い知らす……」
「なに?」
「柳生先輩だってもう気づいているんじゃないですか?」
「っん‼︎」
「……無条件にチャンスをもらえる者が どれだけ有利か どれだけ実力以上の働きができるのか」
そうだ。ジュニアリーグ時代。みんなからのアシストで沢山点を決められた。俺1人だけでこなしていたらサッカーである必要性がない……。
「チャンスをもらえなければ 先輩だって無力なんです」
「んっ‼︎」
柳生君が何か思い出したようだ……。
「チャンスが1人に集中する状況において点を取るのは当たり前…… いえ点を取らなければならない」
周りからの期待感、重圧、妬み…….全てが重くのしかかる……失敗すれば残念がられ、失望され、嘲られる。逃げられない……結果を出すしかない……。きっと苦しいはずだ。誰かに打ち明けたくなる。けど、柳生君はできなかったんだろう。周りは君じゃなく。父親を見ているのだから……。俺はどうだったかな? 俺自身は応えられたと思う。一緒にサッカーできなくなったけど……
「だから先輩は 結果を追い求めるしかなくなった チャンスは滅多に来ないからこそ嬉しいんです」
「常に目の前に出されるチャンスに応えて結果を出すしかない先輩は拷問のようなスポーツをさせられているんじゃないですか?」
たとえ拷問だったとしても、サッカーでも野球でも逃げずに応え続けた柳生君はとてもすごい……。
「偉大すぎる親の存在が 先輩にそうさせている……
……もう降りたらいいんじゃないですか? ガキ大将の役……」
「クッ──‼︎」
歯を噛み締めた柳生君から涙が溢れる。
「お前に…… 何が分かるんだ…… お前に……」
「僕には分かりません…… だけど…… 羨ましいです……」
「なに……?」
「僕にはチャンスどころかこんな風に普通にサッカーすることもできないから……でも神様はこんな僕にチャンスをくれた……ここにいる仲間たちとサッカーをやるチャンスを」
俺は笹波君の何か大事な何かを聞き逃してしまった。
「だから先輩には思い知ってもらいます 自分の無力さを!」
そうだ。1年以上ほぼ1人でしかサッカーやってなかったけど、チームスポーツなんだから1人じゃ何もできない……。
「笹波雲明……俺が無力かどうか…… やらせろ…… サッカーを……」
「いや! 誰がなんと言おうと 俺はやる!」
柳生君の中で何か変わったようだ。さっきよりも楽しそうにサッカーしている。笹波君……どうやら目的は勝つということじゃなく、柳生君のサッカーへの思いを湧き上がらせるためだったんだね……。そのための1人潰し、面白いことを考える。
試合はサッカー部の勝利で終わった。俺は、柳生君と話し終わった様子の笹波君に声をかける。
「君…… 笹波雲明君だよね?」
「はい。そうですけど……」
「どうしてフィールドに立たずに指示を出しているの? 君もサッカーすればいいのに……」
「それは……病気で激しい運動がダメなんです……」
彼はなぜできないかを色々教えてくれた。
サッカーができないのにサッカーに向いている……。
アイルを思い出す。彼の父親である乙女監督からは、怪我で2度とサッカーができなくて、どうにもならないショックで飛び出して亡くなったと……そう聞いた……
アイルの本心が本当にそうだったかは知りようがないけど……笹波君、君はどうにもならない現実に、サッカーに向き合うことができたんだね。
「それでも君はこうしてサッカーに向き合った……。サッカーへの灯火は消えなかった……。君は……すごく強いな。好きだよ、君のその目。じゃ……」
そう彼に伝えて、俺はグラウンドを去る。
「あいつ暁だよな……」
「雲明に何話しかけたんだ……」
俺たちを見つめていた柳生君と桜咲君の声は俺に届かなかった。
暁光
生徒会にとって笹波雲明と接触させてはいけない要注意人物。
笹波に流星ブレードを打ちそうな感じで帰っていった。
四川堂我流
暁の存在は要注意だと、最近特に忍びに貼らせていた。サッカー部問題が解決したので、笹波に暁のことを話そうかと思っている。
忍原来夏
サッカー部に加入。暁の隣の席の人。1年生から同じクラスで、よく困ったときに助けてもらった。
柳生駿河
笹波雲明の術中にはまった人。暁のことは知っているがクラスが違うことや暁が放課後颯爽と裏山に行くので話したことはない。
笹波雲明
サッカー部の始動に安心している中、よく分からないキザっぽい人に声をかけられた。全校生徒の名前はインプットしているので名前を知らないわけではないし、学校のSNSで暁の噂を見ていた。しかし、顔が分からないので雲明ネットワークの情報と一致できなかった。噂はもちろん「東京に彼女がいる」であり本人も校内SNSを使用していないので、サッカーとは関係ないことしか分からない。忍原来夏の名前があがった最初のリストアップから当然スルーする。
園崎アイル
どうやら暁と面識があるらしい天才少年サッカープレイヤー。
乙女曰くサッカーができなくなったショックで車に飛び出したらしい。